カトリアは中央棟のエレベータに乗って最上階を目指していた。
夕刻過ぎ学園へと戻って生徒たちと別れた後、部屋のある女子寮へと戻っていたが、夜も更け始めた頃、突然学園長室へ呼び出された。最上階を示すランプが灯り、エレベータがゆっくりと停止する。廊下に出て学園長室の方向を見ると、扉の前に見覚えのある女子生徒が立っているのが見えた。
夕刻過ぎ学園へと戻って生徒たちと別れた後、部屋のある女子寮へと戻っていたが、夜も更け始めた頃、突然学園長室へ呼び出された。最上階を示すランプが灯り、エレベータがゆっくりと停止する。廊下に出て学園長室の方向を見ると、扉の前に見覚えのある女子生徒が立っているのが見えた。
「あれ?ロッテちゃん?」
「あ、カトリア先輩。もしかして先輩も呼ばれたんですか?」
「あ、カトリア先輩。もしかして先輩も呼ばれたんですか?」
声をかけられ振り返った少女はやはりリーゼロッテだった。綺麗になびくブロンドの長髪、鮮やかな碧い瞳に整った顔立ち、背も高めでプロポーションも抜群ときている。おまけに魔術の秀才で去年の二期からは高等部の生徒会長も務めている。カトリアも高等部時代は生徒会に属し、リーゼロッテとは先輩後輩の関係に当たる。
「? 先輩?」
「あ…う、うん。ちょっと学園長室にね。ロッテちゃんは?生徒会の関係?」
「いえ、なんだかよくわからないんです。突然呼び出されて…多分トモカさんの件じゃないかなとは思ってます。」
「あ…う、うん。ちょっと学園長室にね。ロッテちゃんは?生徒会の関係?」
「いえ、なんだかよくわからないんです。突然呼び出されて…多分トモカさんの件じゃないかなとは思ってます。」
ちょっと見とれていたらしい… 怪訝そうな顔で見ているリーゼロッテにカトリアは苦笑いして誤魔化した。
どうやら彼女も学園長室へと呼び出されたようだ。二人に共通する理由といえば確かにトモカちゃんの件ぐらいしか考えられないけど…。
カトリアは扉横のインターホンを押し、マイクへ声をかける。
どうやら彼女も学園長室へと呼び出されたようだ。二人に共通する理由といえば確かにトモカちゃんの件ぐらいしか考えられないけど…。
カトリアは扉横のインターホンを押し、マイクへ声をかける。
「失礼します。カトリア・ウィードとリーゼロッテ・ランセです。」
「きたか、入ってくれ。」
「きたか、入ってくれ。」
応答と同時に、重々しい音を立てながら大扉が左右に開いていく。カトリアとリーゼロッテが中に入ると再び重苦しい音を立てながら扉が閉まっていった。カトリアは部屋を見回すと見知った顔と目が合う。
「よっ、カトリ!それにロッテも!久しぶりだな。」
「ルー兄ぃ!?」「ループレヒト先生!?」
「ルー兄ぃ!?」「ループレヒト先生!?」
陽気に語りかける学園長のデスク脇に立っている長身の男性は、魔術解析学助教授でレーベレヒトの兄でもあるループレヒト・レーヴェその人だった。ループレヒトが言うとおり、すごく久しぶりに会った気がする。高等部では見かけないのも当然なのだが、最近は研究室でも姿を見かけないし彼の講義もなかった。どこかに出向していたのだろうか?
「積もる話もあるが、それはまた今度じっくり聞かせてやるさ。まずはオーベル学園長の話を聞いてくれ、二人も。」
「は、はい。」
「は、はい。」
今度は学園長のほうへと視線を向ける。…何言われるんだろう、すごく緊張してきた…。ちらりとリーゼロッテに目をやると彼女のほうはわりと落ち着いて見える。すごいなあ…、慣れてるんだロッテちゃん。
そんなカトリアの緊張した様子を見てにやりとするオーベル。
そんなカトリアの緊張した様子を見てにやりとするオーベル。
「ははは、まあそう緊張すんな。別に取って食いやしないし、裸にひん剥くとかするわけじゃねえからさ。あ―…、でもある意味裸にはなるのか。なあループレヒト?」
「まあ、ある意味ではそうですね。」
「は?」
「いや、こっちの話だ。」
「それセクハラ発言ですよ、学園長!」
「まあ、ある意味ではそうですね。」
「は?」
「いや、こっちの話だ。」
「それセクハラ発言ですよ、学園長!」
ロッテちゃんのツッコミも当然…というかそれセクハラどころか犯罪です、学園長…。心の中でツッコミを入れる。
ケラケラと笑いながらオーベルは続ける。
ケラケラと笑いながらオーベルは続ける。
「悪い悪い、冗談だ。さて本題だがな、お前たちも予想しちゃいると思うがトモカ・アマガミの件についてだ。あんな場所で口走っちまった俺にも責任があるんだが、聞いてしまった以上はお前たちにも協力してもらうことになった。」
「協力…ですか? でもわたし、警備部みたいなことは何もできませんよ?」
「協力…ですか? でもわたし、警備部みたいなことは何もできませんよ?」
なんだか話がよく見えない。協力?トモカちゃんの警備とか?でもライリさんたち警備部がそれを担当しているはずだし…それにわたしたち二人だけに? 他の子たちは?
困惑する二人を余所にオーベルは更に続ける。
困惑する二人を余所にオーベルは更に続ける。
「何、小難しいことをやれってわけじゃない。ただ俺たちが裏で動きやすいようにお前たち二人には表で派手にやってもらうだけだ。さっき警備部から連絡があってな、病院の裏手にある山で動きがあったとのことだ。警備部のライリ・ヒサカが一人で調査に向かったがその後の連絡が途絶えている。そこで警備部が山を封鎖している間、二人には山へ向かってもらっていぶり出しをしてもらう。ま、要は犯人みつけて派手に暴れてくれりゃあいい。無理に捕まえる必要はない、相手が諦めて逃げ出してくれれば完璧だな。」
「ちょ、ちょっと待ってください学園長! そんな危険なところにあたし達だけで!?」
「ちょ、ちょっと待ってください学園長! そんな危険なところにあたし達だけで!?」
なんだか話の雲行きが怪しくなってきた。リーゼロッテが突っかかるがオーベルはニヤリと笑うだけだった。
そういうとループレヒトは置いてあったスーツケースを開き、なにやら取り出し始めた。
普通魔術具はイヤリングやブレスレット、指輪などの小型装飾品に類似させたものが多い。しかしループレヒトが取り出し始めた物は既存の物とは明らかに違っている。カトリアの目にはどうみても…やたら趣味的なデザインをした…服に見えた。
普通魔術具はイヤリングやブレスレット、指輪などの小型装飾品に類似させたものが多い。しかしループレヒトが取り出し始めた物は既存の物とは明らかに違っている。カトリアの目にはどうみても…やたら趣味的なデザインをした…服に見えた。
「さて、待たせたね二人とも。こいつは見た目はただの服だがエーテルを表面に張り巡らすことで物理的な衝撃や熱などをある程度遮断することができる最新型だ。ハンドガンぐらいの口径なら痛いぐらいで済むよ。本来は軍用モデルで山城インダストリーが開発に関わっていたんだが、アイツーとのトライアルで敗北してお蔵入りしていたものを、俺の研究室監修の下で性能の調整とリデザインし、先日ようやく試作品2着が完成したんだ。これはその試験も兼ねている。」
「ま、待ってくださいループレヒト先生、そもそもなんでわたし達二人なんです!? 警備部の誰かに任せればいいんじゃ…!」
「ま、待ってくださいループレヒト先生、そもそもなんでわたし達二人なんです!? 警備部の誰かに任せればいいんじゃ…!」
ライリさんやトモカちゃんのことは心配だし、手伝いができるなら喜んで協力するのだが、あの服を着るのだけは…お断りしたい…。
今度はオーベルが口を開く。
今度はオーベルが口を開く。
「あー、それがな。今警備部にこいつを装備できる人員がおらんのだ。なに、お前たち二人は魔術の成績も優秀だし大丈夫、やれるさ。」
「そ、そういう問題じゃなくって! そうだ、ライリさんとか警備部の部長さんだって女性じゃないですか!」
「おいおい、ライリは今おらんし、いいトシこいた部長にあんなもん着せる気か? じゃあ俺たちは部屋の外でてるからさっさと着替えてくれ。あんまり時間はないぞ、急げよ!」
「ちょっ、ルー兄!?がくえんちょ…!」
「そ、そういう問題じゃなくって! そうだ、ライリさんとか警備部の部長さんだって女性じゃないですか!」
「おいおい、ライリは今おらんし、いいトシこいた部長にあんなもん着せる気か? じゃあ俺たちは部屋の外でてるからさっさと着替えてくれ。あんまり時間はないぞ、急げよ!」
「ちょっ、ルー兄!?がくえんちょ…!」
そういうと席をたち扉を開ける学園長。
「しかし…君もなかなかいい趣味をしているなループレヒト。」
「どうも。でも学園長だってノリノリだったじゃないですか。」
「どうも。でも学園長だってノリノリだったじゃないですか。」
何やらぼそぼそ言いながらループレヒトとオーベルは外に出て行ってしまった。
部屋に残されたのは二人と…魔術具だという…服。
部屋に残されたのは二人と…魔術具だという…服。
「「え…?え――――っ!?」」
カトリアとリーゼロッテの叫びが同時にこだました。
「ヤマダあああああぁぁっ!」
叫ぶと同時にティオの端末に着信を知らせるコールが鳴り響く。
「こんなタイミングで一体誰よ!! …っ!?」
いらついた感情むき出しのまま、端末を取り出し相手を確認したティオの表情が固まった。ディスプレイにファーレンハイト・ヤマダと表示されていたからだ。ティオの脳裏にこの前の記憶が蘇る。端末の応答ボタンを押すのを一瞬躊躇するが、事の次第を本人に問いただすチャンスだと思い直し、感情にまかせて応答ボタンを押す。
「…もしもし!」
「やぁティオちゃん。夜遅くにごめんよ、元気かい?」
「やぁティオちゃん。夜遅くにごめんよ、元気かい?」
相変わらず寒気のするこの喋り方と声…だめ!こいつのペースに乗せられちゃ!
一呼吸し、ティオは単刀直入に切り出す。
一呼吸し、ティオは単刀直入に切り出す。
「うすら寒い挨拶はどうでもいい! 貴方、自分が何をしているのかわかってやっているの!?」
「いきなり何の話かわからないけど、僕はイッポンマツグループ全体の利益を考えて活動しているつもりだよ?」
「ぅ…だ、だからってジオメトリックと一緒になってアイツーにあんなことをしておいて…!」
「いきなり何の話かわからないけど、僕はイッポンマツグループ全体の利益を考えて活動しているつもりだよ?」
「ぅ…だ、だからってジオメトリックと一緒になってアイツーにあんなことをしておいて…!」
あっさりと返され、攻めあぐねたティオを尻目にヤマダが続ける。
「そんなことより今日はティオちゃんに少し面白い話を聞かせたくてね。」
ティオに再びこの前の記憶がフラッシュバックする。
こいつの言う面白い話は絶対にもう乗らないんだから…!
こいつの言う面白い話は絶対にもう乗らないんだから…!
「っ…結構よ!貴方の話に乗るとろくなことがないもの!」
「フフ、そうかい? それが先日君が見かけたモノについての話でも?」
「ど、どうしてそのことを!?」
「フフ、そうかい? それが先日君が見かけたモノについての話でも?」
「ど、どうしてそのことを!?」
薄ら笑いがいちいち癇に障る…!それになんでこいつがあのレールガンのことを!?
ヤマダから情報を聞くというのは気に食わないけど、今は少しでも情報が欲しい…
ヤマダから情報を聞くというのは気に食わないけど、今は少しでも情報が欲しい…
少し冷静さを取り戻したティオはヤマダの話を聞いてみることに決めた。
「…いいわ、聞いてあげようじゃない。」
「アハハ、やっぱり興味津々じゃないか。ティオちゃん今日病院にいたでしょう?実はね…」
「アハハ、やっぱり興味津々じゃないか。ティオちゃん今日病院にいたでしょう?実はね…」
ヤマダがもたらした情報にティオは驚愕を隠せなかった。
ティオは端末を切り、くるっとクジョウの方を向き直る。
ティオは端末を切り、くるっとクジョウの方を向き直る。
「行くわよクジョウ!」
「は? お、お嬢様!?」
「は?じゃなくて! すぐにヘリをまわしなさい!!」
「に゛ゃっ!?」
「は? お、お嬢様!?」
「は?じゃなくて! すぐにヘリをまわしなさい!!」
「に゛ゃっ!?」
言い放つなり、修復されたばかりのネコを掴むとティオは駆け出した。