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第二十五章 中 - (2009/08/02 (日) 23:10:58) の1つ前との変更点

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翌朝。 僕は久方ぶりに、ヒナタやカエデのポケモンたちと共に穏やかな時間を過ごすことができた。 淡雪が降り出しそうな寒天の下、マフラーを首に巻かれたワニノコとピッピが追いかけっこしている。 庭に設えられた人工池では、ヒトデマンから進化したスターミーとパウワウが半身を浸している。 そして僕の隣では、それなりに立派な体躯のハクリュウが、時折僕をチラ見しながらトレーニングに勤しんでいる。 僕たちは初対面のはずなのに、なぜ意識されているのか解せなかった。 「ピィ」 吐いた息は白く凍り、立ち上っては消えていく。 「ぴぃっぴぃ~」 ピッピが僕の背中に駆け込んでくる。 すぐにワニノコがやってきて、僕の顔色を窺いながら、 「がうがう!」 卑怯だぞ、と言いたいのだろう。 なるほど、背後のピッピは可愛らしい舌をちろちろと見せてワニノコをからかっている。 ハナダシティのショッピングモールにいた時とは、形勢が少々逆転しているようだ。 「ピィカー」 ほら、遊んでおいで。 背中を押し出してやると、ピッピは元気よく駆けだした。 「がうっ!」 ワニノコがすぐさまそのあとを追う。 逃げて、追いかけて、捕まえて――その終わりのない反復に飽きは来ないようだ。 微笑ましい光景に目を細めていると、 「ぱうぱうー」 パウワウが僕を呼んだ。 隣のスターミーも僕に向けてコアを点滅させている。 お誘いはありがたいが、水、氷タイプ以外のポケモンがこの時期に水浴びするのは自殺行為に等しい。 「チュウ」 遠慮させてもらうよ。 そう伝えると、パウワウは残念そうに「ぱうー……」と鳴いて、尾ひれでぱしゃぱしゃと水面を撫でた。 ぴり、と近くの空気が震えた。 わずかに身を逸らす。間髪いれず、僕の体左半分があったところに、群青色の尻尾が打ち下ろされた。 見上げれば、爛々と目を光らせたハクリューが、鼻息荒く僕を睨み付けていた。 「ピィカ、ピィカチュ」 危ないな。 トレーニングをするのは君の勝手だが、 他のポケモンを巻き込んだり、エリカの綺麗な庭を荒らしたりしてはいけないよ。 僕の意図が伝わらなかったのだろうか、二撃、三撃と、ハクリューは攻撃をやめない。 「チュ」 僕は窘めるのを諦めた。 何が気にいらなくて暴れているのか知らないが、若気の至り、というやつだろう。 雰囲気を察知したらしいワニノコがこちらに駆け寄ってきて、ハクリューの尾にしがみつく。 「がうっ、がうがうっ!」 ハクリューは「邪魔だ」と言わんばかりにワニノコを打ち払った。転がったワニノコに、ピッピが駆け寄る。 まったく、どうして若いドラゴンタイプのポケモンはこうも驕慢なんだろうね。 君はドラゴンタイプのポケモン以外は全て矮小で貧弱だと思っているんだろうが、 いい機会だ、必ずしもそれが正しくないということを教えてあげるよ。 「ウォフッ」 物理攻撃が当たらないことに痺れを切らしたハクリューが、口の端に青い炎をちらつかせる。 "龍の怒り"、か。 僕が躱すべく軸足に力を込めた、その時だった。 「ピカチュウー? どこにいるのー?」 縁側から近づくヒナタとカエデの姿を見て、急遽、予定を変更する。 荒療治になるが仕方がない。 僕はハクリュウの顔面の真正面に飛び込み、上顎に肘と、下顎に膝を叩き込んだ。 強制的に閉じられた口の中で、ぼん、と"龍の怒り"が爆発する。 小さな爆風に煽られ、宙で一回転して着地、波打った毛並みを整えてから、僕は主に駆け寄った。 二人の位置からは、ちょうど茂みが邪魔をして、ぷすぷすと黒煙を吐いて目を回すハクリューを見ることができない。 「ここでみんなと一緒に遊んでたのね」 ヒナタの微笑からは、昨日まで失われていた瑞々しい活力を感じることができた。 昨夜は久方ぶりに、ぐっすりと眠ることができたのだろう。 カエデが胸を張って言った。 「ほら、あたしの言った通り、庭にいたじゃない」 「勝ち誇ることじゃないでしょ。あのね、ピカチュウ。  今からちょっと聞きたいことがあるんだけどいい?」 ヒナタの表情に、うっすらと不安の影が落ちる。 僕は訝しみながらも、 「ピッカァ」 ヒナタの肩に飛び移った。 いつか、ピッピを虐めていたワニノコの監督を任せたように、 「チュー」 目を醒ましてからも暴れるようなら再教育してあげて欲しい、とスターミーに依頼しておく。 人工池の片隅で、彼女は眠そうにぴこぴことコアを点滅させた。 部屋に着くと、片目に傷を負った白猫がヒナタの浴衣にくるまって眠っていた。 「あの、ペルシアンさん?」 ヒナタが怖々尋ねる。ニャースは細く目を開けると、偉そうに首を擡げて言った。 「待ちくたびれたニャ。  大事な要件があると言って呼び出した割には予定時刻を大幅にオーバーしてるのニャ」 「ごめんなさい」 しゅん、と項垂れるヒナタ。 僕は過保護であると自覚しつつも、 「ピィカ、チュウ」 責めるならヒナタに見つかりにくい庭にいた僕を責めるんだな。 あと彼女に敬語を使わせるのはやめろ。 彼女はポケモンに対する礼儀を忘れたりはしない。 「わ、分かったニャ。ヒナタちゃん、ミャーのことは呼び捨てでいいニャ。あと敬語もやめるニャ」 「あ、えっと、はい……じゃなくて……分かったわ」 「でも、ひとつだけお願いがあるんだニャ」 「?」 「ヒナタちゃんには、これから何があっても、ミャーのことを"ペルシアン"と呼んでほしいんだニャ。  間違っても"ニャース"とは呼ばないでほしいのニャ」 ヒナタは困惑した表情で言った。 「え、だってペルシアンはペルシアンでしょ?」 「ヒナタちゃんはいい子なのニャ~」 ニャースは感涙した。 その様子から察するに、ニャースを昔から知っている人間のほとんどは、 彼がペルシアンに進化した今になっても変わらずに「ニャース」という呼称を使っているのだろう。エリカが良い例だ。

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