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6 - (2008/07/08 (火) 02:22:57) のソース

少しばかり遡る。熊井が帰ってからの、有原と桃子である。 
残った2人は、料理を胃へ片づける傍ら密談めいたやりとりを交わしていた。 
「本当にいいのかな」と桃子が呟くや、有原は訝しげにその顔を覗いた。 
「なんだよ、熊井の写真を見たときは乗り気だったじゃないか」 
無機質とも思える眼差しとは裏腹の、躍動的な口調の有原に面食らいつつも、 
桃子は、苦し紛れの返答を、白ワインに力を借りながら捻り始めた。 
「そりゃ滅多にいないくらい綺麗な男の人だし、してみたいことは確かだけど。……」 
しかし有原の方も、不気味な程の流暢さに任せて、追及するを止める気配がない。 
「彼は男としての自信を失いかけているんだ。半年以上もしていないんだ。 
友人としてそんな彼を見過ごすわけには行かない、だからこそ君に頼んだんだよ? 
それとも君、今さら良心の呵責でも覚えてるの? らしくない」 
「わたしだって悪魔じゃないんだから、抵抗感じるに決まってるじゃない。 
他人の家庭を壊してしまうかもしれないんだよ?」 
「事態はむしろ逆だよ。桃子。この計画を成功に導くって事は、 
かえって家庭崩壊を防ぐチャンスに繋がるんだ。セックスレスは夫婦の絆をも蝕む」 
相手の意見を、最後は聞くだけ聞いてから、桃子は、しばらく黙った後、軽く頷いた。 
「なかなか手ごわいよ、彼」 
溜息混じりの、桃子の一絞りだった。 
「じゃあ食事を続けようか」こう述べてから、 
有原は赤ワインをグラスへ注いだ。満足げに目を細めながら。