まだ、隣部屋の梨沙子と舞が眠ってもいない時分、父母は男女のまぐわいを行使するに至った。 性欲に効能があるらしい白檀も今宵は出番の機会無く、信楽焼の香炉で彼等の所業を静観している。 女にしては逞しい体躯の茉麻を組み敷く様にして、熊井は仰向けに寝かせてから、 彼女の寝間着を下の方から徐々に脱がせに入った。 身に着けたあらゆる物を剥がされあるがまま赤裸々となった茉麻。 指や掌で表皮を愛撫しながら蜘蛛蛇蠍の如く這い寄って来る夫に捕食を許すべく妻は四肢を絡めた。 夫婦は互いの唇に齧り付くと同時に舌で取っ組み合ったり泡や唾液を押し付け合ったりした。 交わり合う鼻腔と口腔の僅かな隙間に呼気と吸気とが渦を巻いて酸味を含んだ熱感を帯びてゆく。 茉麻が夫のうなじや耳の裏を丁寧に舐れば熊井は妻の鬱蒼とした腋毛の茂みの奥を舌先で突く。 熊井が妻の唇を歯で柔らかく痛めつけては悦ぶと茉麻は瞳を潤ませて夫の耳朶を甘噛みしてみる。 妻が右の手を熊井の下着へ忍ばせ陰嚢を弄んでみれば、彼は茉麻の乳房を粘土宜しく揉みほぐす。 夫は体勢を移動し妻に顔を太股で挟ませる。妻は必然夫の陰嚢を顔に頂きそれを口の中で転がす。 娘達の気づく懼れ、……声だけは漏らさないように、……息の詰まる解放感に妻と夫は更に逆上せた。 が、茉麻が異変を察したのはその直後であった。 「んん、ねえ、ねえパパ、ねえ、あっ、ん、ねえ、きいて」 夫が秘所をせめる事に夢中だったので、茉麻は彼の陰嚢を軽く叩いて声を報せた。 応答は「わかっている」とだけ。 いくら触っても、なぶっても、扱いても、舐めたところで、彼の、熊井の陰茎は萎え、力尽きていた。 それでも、熊井は、せめて妻の肉体だけでも満足させようと思い、あらゆる手を尽くそうと考えていた。 好奇心旺盛で、独創的に性の技を編み出す上に、特に妻の弱点にも通暁している夫の手練手管は、 確かに茉麻の性的鬱憤を晴らす事に非力ではなかった。壁の向こうの娘にも憚らず、茉麻は啼いた。 しかしながら、一時の忘我も、一体となれぬ欠乏と、夫を勃起させられぬ我が身の不徳が、妻を苛んだ。 [[←前のページ>7]] [[次のページ→>9]]