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百合×凜々『調教編』 - (2008/09/26 (金) 19:44:52) のソース

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**百合×凜々『調教編』

「ねぇ、りぃちゃん。そんなに私に許してもらいたい?」
 夕陽は沈み、冷たい冬の夜空が明かりのない教室の中へと滑り込んでくる。
 オレンジ色で染め上げられていたはずの世界は、膝をついて謝り続ける凛々にとって、痛々しいまでに冷たく昏い色へと変わり果てていた。
 冷気をそのまま音にしたような声音で、百合は言った。
「答えて。私、りぃちゃんの答え方次第では、許してあげてもいいんだよ?」
 その言葉に、凜々は泣き腫らしていた顔を上げた。
「ほ、ほんとに……?」
 親を見失った迷子のような、いつもの気丈な彼女から推し量ることも出来ない不安げな瞳で、凜々は闇の中の百合を見上げた。
「ええ、本当よ」
 長い前髪が陰になって、百合がどんな表情をしているかは分からない。だが、声だけは、とても、とても愉しそうだった。
「今までみたいにずぅーっと親友でいてあげる。
 家庭科の時間に焼いたクッキーだって藤宮君の次にあげるし、藤宮君の次で良ければ一緒に帰ってあげてもいい。
 そうね。私が面白いジョークを思いついたら、藤宮君の次に聞かせてあげるのもいいね」
「それでいいっ。それでいいからっ!」
 切羽詰った声で凜々は泣いた。
「藤宮の、次でいいから……私のこと……嫌わないで……お願い……お願いよ……百合ぃ……」
 泣きすぎて横隔膜が引きつっているのだろう。
 投げ出された百合の脚にすがる凜々の哀願は、調子の合わないスタッカートのように途切れ途切れだった。
 だが百合は、そんな凛々の姿を鼻で笑うだけだった。
「……お願いの仕方がおかしいんじゃないのかなあ?」
 くすくすと漏れる忍び笑いには、明らかに嘲弄を含んでいた。

「りぃちゃんは、頼み事の一つも出来ないのかなぁ? そんな頼み方じゃ、私の心には響かないよ。
 りぃちゃんに壊されてひび割れた私の心には響かないよ。ほらほら、あの時りぃちゃん教えてくれたじゃない。
 心からお願いしたい時は、どんな風にすればいいのかってさぁ!」
 ヒッ、と凜々が息を呑む。
 百合に振り払われ、彼女はなすすべなく尻餅をついた。
「それとも……お願いの仕方、忘れちゃったのかな? 私は覚えてるよ。一字一句、何度も何度も言わされたからね。
 なんなら暗唱してあげようか。あの時のりぃちゃんが言ったみたいに――」
 百合は軽く咳払いし、
「真っ当な人間様の汚れた御足を舐めて綺麗にするだけが取り得の卑しい私めから、分不相応なお願い事がございます。
 どうか、その御足の垢を穢れた犬のように舐め取る代わりに、私めのお願いを聞いていただけないでしょうか?」
 さらりと、表情すら変えずに言ってみせた。
「ほら、思い出した? 思い出せたかな? 懐かしいよね。りぃちゃんは覚えてないのかなぁ……忘れてるならひどいな。
 私、お願いするときはいつもクラスのみんなの上履きを舐めさせられたよね。
 トイレから帰ってきたばかりの男子の靴の裏を舐めさせられたときは、正直――吐きそうだったよ」
「…………」
 凜々は何も答えなかった。
 忘れるわけがない。この罪を、白水凜々は一日だって忘れたことはなかった。
 あの時、一番愛しいと思っていた百合を追い詰め、壊したのは自分の幼稚さだったのだから。
「……ごめんなさい」
 慙愧に塗れたつぶやきは夜闇に沈んだ教室に響かなかった。
「うぐっ……真っ当な……
 人間様の、黒川百合様の、汚れた御足を舐めて綺麗にするだけが取り得の卑しい私、白水凜々から分不相応なお願い事が……ございます。
 どうか……その御足の垢を……うぅっ……穢れた犬のように……舐め取る代わりに……私めのお願いを……聞いて……聞いてください…………」
 凛々はうなだれたまま、愚かな小学生が考えた人の尊厳を踏みにじる言葉を間違うことなく諳んじた。
 自然と涙がこぼれてくる。屈辱的な台詞を言わされたのが悔しいのではない。
 この台詞を考えた、小学生だった自分に対する憎悪と悔恨の涙だった。

「ふふふ……よく出来ました」
 出来の悪い生徒を蔑む教師のような表情で、百合は唇を笑みの形に吊り上げた。
「ほら……お願いしたら、きちんと実行しないとダメだよ、りぃちゃん」
 百合は上履きを脱いで、ナイロン地のニーソックスをゆっくりと下ろし始めた。
「さぁ、綺麗にしてくれるんでしょう?」
 百合は机に腰掛けたまま、素足になった右足をぷらぷらと揺すった。
 百合の白い肌が、外から差し込む星明りを受けて、闇の中にほんのりと浮かび上がる。
 それはまるで、彼女の名のように百合の花弁を思わせるほど美しくありながら、甘美で抗いがたい毒香を漂わせていた。
 百合の形をした、食虫植物。月のない夜に咲く歪み狂った徒花だった。
 歪み狂っているにもかかわらず、誰もがこの花に触れたいと思うだろう。
 もとより百合を愛していた凛々ならばなおさらだった。
 凜々は百合の踵を、まるで割れ物を扱うかのように両手でそっと包み、おずおずと細く白い爪先へ顔を近づけ、舌を伸ばしてゆく。
 綺麗に磨かれた爪を舌の腹で洗い、汗に湿った指の間へと舌先を差し込んでゆく。
「んっ……そう……そこだよ……そこをちゃんと綺麗にしてね、りぃちゃん……」
「ふぁい……」
 指を一本ずつ丁寧に口に含み、溜めた唾液で濡らしてゆく。
 口の中に広がる塩気と酸い味も、愛しい百合のものならば甘露も同然だった。
 犬のようにむしゃぶりつく凜々を見下ろしながら、満足そうに百合は笑った。
「これから足を綺麗にするのは、親友のりぃちゃんだけにさせてあげる。
 だから、もう泣かないで。私たち、ずぅーっと、ずぅーっとトモダチだよ。ふふふふ……」


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