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みずきSS 02 - (2010/01/09 (土) 18:30:32) のソース

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「やっと……やっと追い詰めたよ……月曜日クン」 

 みずきは廊下の端で壁を背にした俺に向かい、一歩一歩ゆっくりと歩を進める。 
 彼女の両手にはテレビで見る物よりやや小型のチェーンソーが握られている。 

「や…やめ……助けてくれよ……」 
「うん、これから助けてあげるんだよ。稔クンを月曜日から解放してあげるね」 

 そう言った直後、みずきの持つチェーンソーの刃が急速に回転を始める。 
 深夜の校内に満ちた俺とみずきの息づかいが、無機質な音によってかき消される。 

「ち、ちがうんだっ! 頼む、俺の話を聞いてくれ! 
 げ、月曜日は避けるものじゃないんだよ!」 

 俺が言うと、みずきの動きがぴたっ、と停止した。 

「避ける? 避けるものじゃないだって!?」 

 みずきの瞳に、憎悪の炎に似た黒い感情が灯る。 


「――だまれだまれだまれだまれだまれだまれだまれだまれだまれええええっ!」 


 怒り狂ったように叫びながらも、反対に表情は笑みの形に整えられていく。 
 そしてゆっくりとチェーンソーを、真上に振り上げた。 

「ひ……いっ…」 
「これでさんびゃくろくじゅうご日休日だぁあああああああぁっ!」 

 俺はその瞬間、恐怖に屈服した。 
 命乞いも、みずきの説得も、自分の命を守ろうとする意思も、すべて放棄した。 
 何もできない代わりに、映像がコマ送りで流れていく。 


「――とおおおおおおおおおうっ!」 


 突然、誰かの叫ぶ声がした。 
 俺の悲鳴だったのかもしれない。 
 コマ送りが解除されて、みずきの持つチェーンソーが振り下ろされた。 
 それが、俺の――横の壁に命中した。 
 火花が散って、チェーンソーの刃がはじき返された。 

「……え?」 

 コンクリートの壁を叩いた反動か、みずきの小さな体がよろめいた。 
 そのまま床に倒れこんだ。 

「藤宮くん! 早く逃げたまえっ!」 

 呆然と立ち尽くす俺の目の前には、ググレカスの姿が―― 
 その右手には消火器が握られていた。 
 俺はようやく何が起きたのか理解した。 
 ググレカスが消火器でみずきを殴って俺を助けてくれたのだ。 

「グ、ググレカスっ!? なんでこんな時間に……」 
「明日君達の授業で使うプリントを製作していたのだよっ! 
 それと私は検索サービスの使用を推薦する今風の言葉ではない!」 

 そう言いながら、ググレカスは床に倒れたみずきに視線を移す。 
 みずきがぶつぶつと何かをつぶやいて起き上がろうとしていた。 

「話は後だ! ここは私にまかせて逃げるんだ! そして警察を呼びたまえっ!」 
「で、でもそれじゃググ……センセイが殺されるかもしれない!」 
「私は大丈夫だ。だが貴様のような生徒でも死なれては 
 せっかく作ったプリントの意味がなくなってしまう!」 
「げつようびだ……げつようびだ……げつようびだ……!」 

 みずきの声が次第に大きくなっていき、はっきりと聞き取れるようになる。 
 そして笑いながら、ゆらゆらと不気味に起き上がった。 
 再びチェーンソーの刃を回転させ、凶暴な音を立てる。 
 ググレカスはそんなみずきと対峙し、逆さに持った消火器を胸の高さに構えなおした。 

「早く行きたまえっ! 善は急げだ、稔君! 
 今の君に必要なのは速やかな行動だっ!」 

 距離をとって二人から離れた俺に、叱責が飛ぶ。 

「わかったよ……九暮センセイ」 

 ふと思った。 
 こいつはいけ好かない教師だ。それも特別にだ。 
 俺だけじゃない、同学年の生徒ならほとんどがそういう印象を抱えているだろう。 
 だが――いくら教え子を守るためだとはいえ、 
 凶器を持った相手にたった一人でこうも堂々と立ち向かっていける人間はそうはいない! 

「今日だけはあんたを敬うし、言うことはちゃんと聞く。だから――」 

 俺はメガネをかけたこの気に食わない教師の背中に向けて言った。 

「死ぬなよっ! 九暮先生!」 
「ああ、もちろんだ!」 

 稔が走り去った直後の廊下に狂気と理性が満ち、それが交錯する! 

「お前も月曜日だな! 月曜日はいつもそうだ! 
 あたしたちの心を遥か崖の下、ドン底に叩き落してしまうっ!」 

 みずきの叫び声が廊下に響く。 
 その表情には狂気の怒りと確定的な殺意が浮かんでいる。 

「ふん、月曜日だと?」 

 だが九暮はそれに怯むことなく鼻で笑う。 

「………………」 

 みずきの顔から感情が抜け落ちた。 
 そんな様子の変化に構わず、九暮はさらに言葉を続ける。 

「貴様ら生徒はいつもそうだ。 
 我々教師が授ける知識と心を進んで理解しようとしない!」 

「――うああああああああああああああああああ!」 

 その言葉をかき消そうとするかのようにみずきは咆えた。 
 チェーンソーを構えて九暮に突進していく。 
 九暮は右の手で壁を、壁に掛けられたボードを叩いた。 
 バァンッ! と大きな音が鳴って、みずきの足がぴたりと止まる。 

「――いいかよく聞けっ!」 

 咆えた。 

「休日とは日々の生活で蓄積した精神と肉体の疲れを癒すためのものだ! 
 それ以上でもそれ以下でもない! 
 そして月曜日とはそうして新たに学習と労働を行い 
 社会の維持と発展を続けるためのもっとも貴い一日でもあるのだ! 
 月曜日の存在しない休日など言語道断っ! 
 もしもそれを否定するというのならば……如月君っ!」 

 人差し指を突きつけ、言った。 


「――私を倒してからにしたまえっ!」 


 こうして――九暮とみずきの対決が始まった。 


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