**279(ID:jwkMo+6r0) 「なあ、自分。そろそろメシ食ったほうがええんとちゃう?」 「…………」 この不思議なポケモンを預かって、しばらく経つ。 だが彼は、まるで馴染もうとしなかった。 ぼうっとした目で空を見つめ、食事もろくにとろうとしない。 と思えば、夜には魘されたようにふらふらと徘徊する。 一体このポケモンのトレーナーは、どんな風に関わってきたのだろうか。 (どないしたらええかなあ……) ため息をつきながら、マサキは自分の食事を食べ始めようとした。 ---- **288(ID:jwkMo+6r0) >279続き が。 「……ッ!?」 箸に伸ばした手が、動かない。 動かないのは手だけではない。腕も、足も、座ったままの体も、目さえも。 まるで何かに固められたかのようだった。 おそらく、肺も動いていないのだろう。 無意識にしている呼吸すら止められ、目の前が段々暗くなっていくように感じた。 「貴様に、何が分かる」 冷徹な声が、脳内に響く。 「主は私を手放した。主の中から、私は外れてしまった」 ぎぃ、ぎし、と、フローリングの軋む音。 あいつが、こっちに近づいてくる。 「貴様如きには分からぬだろう。主がどれだけ素晴らしいお方か。あのお方に見捨てられるということが、どういう事か」 足音が、止まった。 目は動かせないが、すぐ後ろに、気配を感じる。 「最早私には生きている価値もない。だが私は、自分を殺せない。主が言ったのだ、殺す事だけはやめろと」 今、自分が死にそうなんですけど。と突っ込む空気ですらなかった。 ---- **291(ID:jwkMo+6r0) >288続き 「故に、私は自分を殺せない。貴様を殺す事もできない。なら、静かに死なせてくれ」 頼む、と小さなテレパシーが弾けたと同時に、体の自由が利くようになった。 「……………………」 とんでもないものを預かってしまったらしい。 というか、預かってるだけで、別に捨てられたわけでもないと思うんだが。 だが実際、そんなトレーナーが多い事も確かなのは確かで…… 数日後、そのトレーナーが迎えに来た。 近くを通りかかったから、直接迎えに来たという。 まるで今までの人形のような状態が嘘のように、ポケモンはトレーナーの元に帰っていった。 「すいません、うちのミュウツーがご迷惑をおかけしませんでしたか?」 トレーナーはポケモンをボールに戻しながら、そう言った。 マサキは辺りを見回し、そっとトレーナーに言った。 「アンタ……気ぃつけや」 精神が病んでて絶対危ない、精神科にでも連れて行け――とまでは、流石に言えなかった。 だがトレーナーも、はい、と静かに頷いた。 どうやら、悟ったらしい。 トレーナーを見送ると、マサキはぺたりとその場に座り込んだ。 屋根に開いた穴から入り込んだポッポが、その茶髪を軽く啄ばんだ。 ----