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    <title>ヤザン−ユウ 101-110</title>
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    <description>
      **■第百一章 




俺とアルフと小隊長を務めるサカキ少尉の三人は、正面入口から侵入した第二分隊とともに行動していた。
１階の中央まで侵入した所で、第二分隊はジオン兵の猛烈な反撃を受けていた。
ここまで激烈な抵抗をするとなると、この秘密研究所には余程、重要なデータが眠っていると解釈するべきだろう。
…手間取らせやがる！

《糞！糞糞糞糞ォ！ジオンの豚どもが！死ねよ！俺は捕虜には為らんぞ！》
《おい、ライル！早くロケラン（携帯式歩兵用ロケットランチャー）撃て！建物が崩れても構わん！》
《第一分隊が貧乏くじを引いてくれた御蔭で、こちとら裏口は快適に射的中ってね！七面鳥撃ちより簡単だぜ！》
《Ａエリア、クリアー！こら、その死体に触るなよ!?良く見ろ！手榴弾握ってるだろ！ブービートラップの初歩だ！引っ掛かったらあの世に逝っても間抜け呼ばわりだぞ、ルーキー（新人）！次行くぞ次！悪い宇宙人狩りだ！》

俺のノーマルスーツのヘルメットに、各分隊からの悲鳴にも似た怒号が、引っ切り無しに入ってくる。
これだ！
この混沌こそが…陸戦の、白兵戦の醍醐味だ！
俺はバイザーを上げ、深呼吸する。
うっすらと匂う、陸戦隊の連中がばら撒いたＣＳガス（催涙ガス）の香りが俺の股座をいきり立たせる。
…最高だ！俺は今…戦っている！

「第一分隊の奴がママン助けてぇと泣き言言ってやがるぞ！第二分隊！１Ｆ制圧後は上階へ向かえ！」
「イエスマム！…って…姐サン！ユウ中尉が！」
「あッ…?!…そんな…中尉?!…危険ですから下が…!?」

ユウの身体は俺の元の身体と同じく、俊敏に動いてくれた。
遮蔽物が無い所に身体をワザと露出させ、敵の射撃を俺は誘う作戦に出た。
味方のバックアップなど期待して居ない。
敵が銃のトリガーを絞る前のタイミングで、速攻で殺る。
案の定、机や椅子を積み上げたバリケードから身を乗り出して来た粗忽者の顔を、俺は小銃弾で柘榴のように割る。
掠めて行く敵の小銃弾や拳銃弾の衝撃波による、身体を伝わる震動が、俺をさらに興奮させる。

「チマチマチマチマ殺ってんじゃ無いぞ貴様等！今こうしている間にも、貴重なデータが敵の手で消されているかも知れんし、第一分隊が全滅するかも知れんのだ！ガッツのある所をこの俺に見せてみろ、お嬢さんタチぃ！」

俺は目の端に次の敵を捉え、そいつに小銃をぶっ放しながら味方を振り向き、怒鳴った。
俺は直ぐに敵に向き直り、バリケードに向かって突進し、両腕に持った小銃だけ下に向けトリガーを引く。
反動で踊る小銃を上手く左右にリードするのがコツだ。
案の定、隠れていたジオンの奴等が『ギャン！』やら『あガッ！』やら、素敵な悲鳴を上げてくれる。

「出来ないと言うなら、俺に貴様等の持つ弾倉を寄越せ！その代わり俺は貴様等を臆病者だと地獄に堕ちても…」
「第二分隊！中尉に続け！名誉に懸けても貴様等を『お嬢さん』と中尉に呼ばせるな！アタシは良いがな！」
「イエスマム！恥は二度とかかせません！俺達だって、やるときゃやりますよ！Ａ班！上階に行くぞ！」

俺は小隊長に向かって親指を立ててやる。
おどけた敬礼をする小隊長は、困った、とばかりに眉をひそめてから、苦笑を返してくれた。
何時死ぬか、誰にも解らん。
だから、精一杯、自分の出来る範囲で愉しまねば…損をする。
焦げた匂いが辺りに漂う。
この匂いは…手榴弾の点火ヒューズの匂いだ！…死にミヤゲ、か…ジオン兵め！
俺が対爆姿勢を取って、伏せた途端に爆発し、当たりに散らばっていただろう弾薬類が誘爆を開始した。フン、甘いな！

「…中尉を陸戦隊にスカウトして構いませんか？アルフ大尉…？」
「…ＥＸＡＭパイロットの移籍金は、高いぞ少尉…？」

アルフ…お前、冗談も言えたんだな？
俺は身体を起こし、バリケード越しからそっと前を見る。
エレベーターの有った所が大穴に為っていた。
俺は前進し、大穴を覗いた。
…案の定、深く地下に続いていた。上の建物は…多分全てダミーだ。
二ムバス…俺は貴様を、追い詰める！





**■第百二章 



「俺とアルフにランドムーバーを貸せ。お前達は退却しろ。後は、俺の仕事だ…と言っても、聞かん顔だな？皆？」
「それは例え、中尉の命令でも承服出来かねます。…勿論、大尉の命令でも、ですが。なあ、お前達！」
「…此処まで来てそりゃあ無いでしょう、ユウ中尉？姐御と俺達に最後までお付き合いさせて下さいよ」

屋上から突入した第一分隊は、裏口から突入し上階に向かった第三分隊に支援されて、このエレベーターシャフトまで一部が辿り着いていた。
死者はトラップにするためにその場に仕掛けを施し残して来たと晴れやかに言う奴等に、プロの根性を俺は見た。
感傷に囚われず、生死を共にした仲間すら戦争の道具に仕立ててしまう。
立派で素敵な兵士達だ。

「…任務は自分の命より、誇りよりも重い、か。相手が一般市民では無い事が救いだな…」
「？」
「いや…お前達はどいつもこいつも…素敵で立派な軍人だよ！行くぞ！」

任務に忠実な奴等『理想的な軍人』が、コロニーにガスを撒き、そして暴徒鎮圧のために平気で普通のスペースノイドを巻き添えにした事実を知っている『俺：7年後のヤザン・ゲーブル』にとって、それは苦い思いと皮肉めいた可笑しさを想起させた。
自分の仲間には限り無く優しいが、敵には命令が有るまで容赦はしない。
軍人の修正不可能な習性でも有る。

「悪いが一番乗りは、俺が頂くぞ？お、ありがとよ。ついでに、手榴弾も有ると嬉しいんだがな？4個有ればいい」

俺は渡されたランドムーバーを装備すると、小銃とハンドグレネードを抱えて穴倉に飛び込んだ。
深い。この深さは…きっと地下にＭＳ格納庫か、ＭＳ機動の研究棟まで有るに違いない。
エレベーターの縦穴の内側から扉を数えて行く内に、少女の声が俺の頭の中に響いて来た。
今になって何故、話しかける？『マリオン』？

『停まって、ヤザンさん。アルフさんが…上から来る。でも…一人だけ…』
「なんだと！奴等はどうした！陸戦隊の奴等は！」
『交戦中なの。アルフさんを送り出してすぐ…』
「…急いでくれ、ヤザン。時間が無い。敵が上から来ている。ケイ少尉達は交戦中だ」

俺は無言で付近のエレベーターの内扉に小銃弾をぶち込み、それから開けに掛かる。
敵が待ち伏せていたならば、最初の射撃で蜂の巣状になって倒れているだろう分量をお見舞いしたので、手動で開けるのに少々時間が掛かった。
上の陸戦隊の奴等が全滅したら、敵は迷う事無くこのエレベーターシャフトに各種爆薬を投下するだろう。
俺はローストターキーには為りたくは無かった。
非常灯の赤い光が、通路を支配していた。
この建物の緊急発電能力は、まだ生きているらしい。

「マリオン！ここは何処だ！二ムバスは何処に居る！俺に教えろ！時間が無い！」
『…ヤザンさん達が居るのは地下8階のサイバネティクス研究棟。大尉は真直ぐ行って右の部屋。…ＭＳ戦技研究室』
「…ヤザン？どう云う事だ？誰と話している？マリオンは、いや、ブルーは地上に残し…」
「何時か話しただろう？…頭の中の天使サンとさ。あんまり突っ込むな。付いて来い、アルフ！」

そうか…人間の動作と、ＭＳ機動とを繋ぐ研究棟か。
ＥＸＡＭには相応しい命題と来たモンだ。
しかし何故、二ムバスは逃げない？
まるで俺を待っているかの様な行動を取るとは…罠か？
いや、ジオンの騎士と自称する奴が、卑怯な罠を張るものだろうか？
俺とアルフはＭＳ戦技研究室を目指す。
…アルフには来るな、と言ったのだが…。
二ムバス。狙うのはこの『俺』だけにしてくれよ！





**■第百三章 



ＭＳ戦議研究室のドアをアルフの持ってきた端末を接続してコードを解析して開かせると、俺はその中に持ってきた手榴弾全てをぶち込みドアをまた閉鎖させた。
…罠が張って有ると思われる所に正面から乗り込む程、俺はボケては居ない。
陸戦は、ＭＳ戦闘よりも人間の意志に左右される要素が大きい。
詐術、裏切り、欺瞞、錯誤。人間相手だからこそ、油断は出来ないのだ。

「…口を開いておけよ、アルフ…今！」

衝撃波が今の『俺』の身体、ユウ・カジマの身体を直撃していた。
壁越しにコレだから、中に伏兵が居たとしたら…正直、生きては居ないだろう。
流石は陸戦隊、対人用なんて甘っちょろい代物は持って来ては居ないな！最高だ！
アルフがドア開閉装置のコネクターからケーブルを引き抜いた。
…ドアの電装系が破壊されたのだ。繋いでいても、反応が無かったのだろう。
俺はアルフに表情と手振りで、ドアを手動で開ける意志を伝えた。
アルフはそのまま残り、俺は右に廻る。
そしてドアに手を掛け、両側から引き開けた。
…闇に支配された内部に、赤く染まった光条が徐々に太く、差し込んで行く。

「ビンゴ、か。…しかし…誰が誰だか解りゃあせんな…」
「…フン、ＭＳパイロットに比べればマシな死に様と云うべきだろう？ヤザン…」

伏兵が部屋の壁にパーツとなってへばり付いていた。
五体満足な奴は一人として居ない。
だが俺は羨望すら覚える。
奴等は死んだ後に死体を残せたのだ。
ＭＳパイロットはそうも行かん。
機体の推進剤に誘爆すれば骨も残らんだろうし、ビーム兵器に直撃されればチリ同然だ。
アルフも技術者のくせに胆が据わっている。
…多分死体の入った『ブルー』のコックピットユニットの解析で慣れているに違い無い。
突然、俺達の視界が白く染まる。しまった、照明がまだ…！

『久し振りだな、連邦の闘士よ…逢いたかった…程では無いがな？』

照明装置が、まだ生きていたのだ。
目が光に慣れて行くに従い、俺は状況を把握した。
二ムバスの声がするが、それは電気的に増幅された声で、上方から降ってくる。
正面の、一面に張ってある強化ガラスにヒビが入った向こうの部屋が多分戦技モニター室だ。
そこに一度だけ拝んだ面（ツラ）が得意げに微笑んでいる。
二ムバス・シュターゼン！スカした面ァ、しやがってヨォ！
その隣には各種コード類が接続された、ヘッドマウントと椅子のユニットが鎮座ましましていた。

「ようこそ諸君、と最初に言って置こう…。此処がＥＸＡＭ誕生の地だ。そして、私とマリオンがともに過ごした地でも有る」

隔壁ドアが両側に開き、二ムバスが戦技モニター室より俺達の部屋に出て来た。
その手には、三振りのフェンシングに使用する、サーベルが握られていた。
その中の一振りを俺に投げて寄越す。
俺は無視して、自分の小銃に銃剣を装着した。
…白兵戦で、相手の得意な武器でわざわざ勝負してやる義理は俺にはこれっぽっちも存在しない。
揺さぶりでもするか…。

「…ジオンの騎士と名乗る貴様が、こうも罠を張るなど、頂けないな？二ムバス？これが騎士の…」
「部下の希望を無下には出来んだろう？違うか？…そこの技術者、ＥＸＡＭのアーキテクチャはあの部屋の中だ。端末のパスワードは…Ｐｒｏｂｅ。古い地球の一地方、ドイツ語だ。私の気が変わらん内に、疾（と）く行くが良かろう」
「…試練…だな…意味は…解った。…そのＥＸＡＭの被験者の末路を、良ければ聞かせて呉れないか、大尉？」
「マリオンはサイド６、フラナガン機関の息の懸かった病院に収容された…。この戦争が終わったら…解析して、彼女を救ってやってくれないか？…死に臨まんとする私の、切なる願いだ。彼女は…希望なのだ！頼む！技術者よ！」

おいおい、何か俺がもの凄い悪役に思えて来たぞ？
仕方なく俺は、奴に付き合って小銃から弾倉を抜く。
それが、合図だった。
二ムバスが、双刀を構えたのだ。
足裁き、体重の掛け方を見た喧嘩屋の俺には解る。
相等遣えるぞ、コイツは！面白い！

「…解った。引き受けよう。但し…オレがこの戦争を生き延びる事が出来たらの話だが…」
「…感謝するぞ、技術者…では連邦の闘士よ！二ムバス・シュターゼン特務大尉、参る！」

ハン！後悔するなよジオンの騎士様！
テロ鎮圧で培った、俺の白兵戦技を舐めて貰っちゃア、困るんだよ！





**■第百四章 



二ムバスの右のサーベルが風を斬り、撓（しな）る。
俺はナイフを装備した小銃で、それを受けた。
強化プラスチックの機関部では無く、ナイフの部分でだ。
兵士に取って銃剣術は基本中の基本だ。
俺がＺのビームライフルから伸びたビームサーベルに驚いたのも、それが原因だった。
銃剣の付いた小銃ほど、怖いモノは無い。

「やるな？だが、これは避けられまい！」

二ムバスの左サーベルが俺の腹部を突いて来るが、俺は小銃のキャリングハンドルにそれを通し、思い切り捻った。
サーベルを構成する鋼の靭性の限界を超えたのか、妙に澄んだ音を立てて、サーベルは無残にも中間部で折れた。
ザマぁ見やがれってんだ！

「ハン！二刀流だか何だか知らんが、見切る自信は有るぞ！イカレ騎士が！」

ノーマルスーツのバイザー越しにも、奴の表情が怒りに歪む様が俺にも解った。
素早く右のサーベルが俺の頭が有った空間を薙（な）ぐ。
華麗に避けた俺は小銃を半身に構え、突きを入れる。が、回避される。
だが、それは予想の範囲内だ。
俺は小銃をさらに半回転させ、小銃の台尻を先にして突っ込み、下から奴の顎を目掛けて叩き込む。
…銃剣術の初歩の初歩だ。そして俺の打撃は…

「…やるな？だが！右腕は貰ったぞ！」

奴のヘルムの顎の部品を砕いたに過ぎなかった。
一瞬の隙を奴に見切られた俺は、サーベルの斬撃を避け切れず、ノーマルスーツの右肩を薄く薙がれた。
遅れて、俺のノーマルスーツの強化繊維が弾けた。
…馬鹿が！誰を相手にしていると思っている？ヤザン・ゲーブルだぞ？
そのまま俺はひるむ事無く二ムバスの左肩目掛けてナイフ部分で斬り付け、摺り足で下がる。

「…何故…そこで撃たぬ？連邦の闘士よ？」
「愉しみたいからさ。この生と死のギリギリの狭間を、少しでも長くな！」

そうだ。
俺の小銃の薬室（チェンバー）には、弾倉を抜いたとは言え、実は一発、残っている。
先程の銃剣・台尻・銃剣の三連撃に、最後に銃口を向け引金を引いて撃つのが、真の実戦技だった。

「…嘘だな、それは…。所詮貴様も私も…ロマンの残滓を求めているに過ぎん」
「…サーベル相手に、飛び道具を使う程腐っちゃ居ないって言えば…そうだな」

二ムバスと俺は、互いの武器を構えたまま、意地の悪い微笑みを浮かべ合う。
そうだ。俺達は人間なのだ。
殺し合いにただ効率のみを求める、機械どもとは違うのだ。

「連邦の闘士よ…続きは、ＭＳ戦で行ないたいと言えば…受けて呉れるか？」
「貴様に辿り着けたら、の話だろう？…その時は一対一で受けてくれよ？」

アルフが俺の背後に付く。データのコピーが終ったのだろう。
二ムバスは俺達に敬礼し、背を向けた。
俺は撃つ事も出来たが、そうしなかった。
…決着はまだだ。ＭＳ戦こそが、俺達のケリを着けるに相応しい
舞台で有る事を、当然の如く理解していたからだ。

「ではドネル…後は任せたぞ…」

二ムバスが呟くと同時に、俺達の足元が揺れ、床に大きなヒビが入る。
そのまま床を砕き、現れたのは…ＥＸＡＭが見せた『過去のヴィジョン』の中の、『ＭＳ−０５』、二ムバスの僚機の姿だった。





**■第百五章 



俺の目と、MS−０５のモノアイが合った。
戦技実験室が無駄に広いので、MS−０５の頭だけが出た格好となっていたのだが、どうやら頭を天井に支（つか）えたまま無理に回転させたらしく、部屋全体のフレームが軋む音がし始める。

「…脱出するぞ、ヤザン…」

アルフが俺に声を掛けているのは解る。
だが、それは酷く遠い所から響く様に俺には思えた。
何だ？何がこのMSに有ると言うのだ？
見ての通り、TYPE０６より一つ前の０５だ。何の変哲も無い、旧式に過ぎぬMSに過ぎん。
しかし…このMSには違和感を感じる。
言ってみればそう…不快感だ。
なにかこう…人の、乗り手、パイロットの意志をあまり感じさせないこの雰囲気…無機質で味気無い、殺意すら無いと言うのは…

「…ヤザン！来い！」

俺は業を煮やしたアルフが始動したランドムーバーの音で我に返った。
そのままアルフに引き摺られる様に、研究室を飛び出していた。
振り返れば、後ろで建物が轟音と共に潰れて行く。
やっとエレベーターシャフトの縦穴まで辿り着くと、俺もランドムーバーを始動させる。
…そう言えば…上のサカキ少尉達、陸戦隊の連中は無事なのだろうか？
下方を覗くと縦穴が見る見るうちに左右からひしゃげ、潰れて行く。
あの０５め、そのまま地上に出ると言うのか！どういうつもりか！

《『中尉』！生きていたか！命令違反のシミュレーター漬け、覚悟はしてる！済まないな！》
「中尉…済みません。ユウ中尉の部下に止むを得ず支援して頂き、研究所を制圧完了致しました」

縦穴から出た俺は、光の眩しさに眼を細める。
徐々に眼が慣れてくると、駐機したGMライトアーマーにホリゾントの青空が目に飛び込んできた。
研究所の地上建築部分が半壊していて、ライトアーマーの腕の上で陸戦隊の連中が笑顔で俺に手を振っている。
『曹長』め、完全に命令違反だな！だが…恩に着る！
しかし、奴をこれ以上調子付かせたくは無いので、俺は『曹長』を褒めない事にした。
軍隊では命令違反は重罪なのだ。
場合によっては銃殺すら有り得るのだからな！

「…済まないと思うのならその馬鹿な英雄気取りを即刻止めて、陸戦隊をランチに移動させろ！敵が来る！MSだ！」

アルフが俺に代わって怒鳴ってくれた。有り難い！
慌てて陸戦隊がライトアーマーの腕から駆け下り、ランチへと矢の様に走って行く。
俺は駐機させたブルーに向かい、ランドムーバーの出力を最大にまで上げ、移動させようとしたその時…

《こ、こいつは…！死んでる…！死んでる人間が何でMSを動かしてんだよォ！》

『曹長』が外部音声で妙な叫び声を上げ、脅えていた。
振り向くと戦技研究室で見た０５が地上部分に半身を乗り上げている所だった。
死人？『曹長』、一体何を言っているんだ？
俺は頭に浮かんだ疑問を振り払い、前方を向く。
バ、馬鹿な…！

「『ブルー』！何故、お前が動く！お前はただの機械の筈だろうが！」

俺の目の前でシステム、動力まで完全にシャットダウンして置いた筈のブルーが、駐機姿勢から立ち上がり、俺に正対をしようとしていた。
…何故動ける？そして、何故俺がお前の、ＭＳの力を欲している事まで解る？…
ついに立ち上がった『ブルー』は、俺を誘うが如くその胸のコックピットハッチを開けていた。
俺はコックピットの上空２mまで移動すると、ランドムーバーの出力を切り、自由落下する。
その間にランドムーバーを外し、背中をフリーにして置くのを忘れない。
俺がコックピットに座ると同時に、ハッチが閉じる。
外部の景色を写すモニターに点滅表示されていた《ready》表示が消える。
…俺はコネクターをヘルメットに差し込んで行く。
…さあ『ブルー』よ、ジオンの騎士様と殺り合うまでに前座どもを軽く一掃するぞ？
この俺、奴曰く『連邦の闘士』、ヤザン・ゲーブルとな！





**■第百六章 



　「こ、コイツは…」 

　ヘルムのジャックにピンを差し込んだ途端に、曹長のＧＭ・LAとＭＳ－０５をモニター越しに見ていた俺の視界が 
一瞬だけ、『文字情報』に支配される。瞬（まばた）きを繰り返すと、俺の眼には交互に映像情報と文字とが映る。 

　『敵ＭＳを破壊せよ』 
　『敵パイロットを殺害せよ』 
　 
　破壊、抹消、殺害、殲滅等、ネガティヴな単語が際限無く羅列される中に、俺は酷く小さく、そして妙にポジティヴな 
言葉を発見していた。俺の意識がその言葉に向くと、その言葉がネガティヴな単語を押し退けて、現実のモニターの 
映像と交互にシンクロナイズして行く。遂に、ネガティヴな単語が消え、文字情報はその言葉だけに為る。 

　『素晴しき、我が仲間、二ムバス・シュターゼンを、守る』 

　俺はモニター映像の中のＭＳ－０５の頭部をズームで見た。何かの冷却機構のスリットが数本、追加されていた。 
俺は反射的に喉の奥から笑いが滲み出るのを、殺せなかった。二ムバス…そうか、そうだったんだな？　甘いんだよ！ 

　《…中尉？、中尉！　駄目だ！　、コイツ旧型の癖に、撃っても駄目なんだよ！　ビームライフルで腕吹き飛ばしても、 
　退けぞらネェんだ！　どうすりゃいいんだ？　乗ってるのは死人だしヨォ!?　た、助けてくれ中尉、聞こえてるんだろ！　》　 

　俺の笑いを聞きとがめた『曹長』が、血相変えて助けを求めていた。このＭＳ－０５の『意志』、いや『遺志』をダイレクトに 
感じられるだろう奴の恐怖は、俺の想像可能な範囲の外だ。俺は努めて、明るくそして簡潔に、『曹長』に命令する。 

　「『曹長』、コックピットを狙い三連射だ。復唱は要らん。俺は『港』に向かう。そいつを潰したら追って来い。以上」 
　『ヤザンさんも…甘いわ』 

俺は『曹長』に命令を下達した後、通信回線をOＦＦにし『マリオン』に応えた。今の状況でEXAM発動を押さえ込んでいる 
事に敬意を表して、だ。普通の俺の状態ならば無視する言葉だ。俺は生き残るためならばどうにでも己を変えられる自信 
が有るし、現にそうやって生きて来た心算だ。善や悪など知ったことか！　生き残った奴が明日を迎える事が出来る！ 
　 
　「誇り高き騎士達の残骸を見るのは…耐えられんからな…」 
　 
　…MS-０５を動かしていた正体は、昔の二ムバスの『仲間』達から抽出された戦闘データだった。クルストの外道は、 
マリオンに施す前、既に実験を繰り返していたのだ。…そうでなければ、『貴重な仮想敵：NTのサンプル』をEXAMの母体 
になど撰ぶ筈が無い。実験を繰り返し、『イケる』と踏まなければ、学者連中は無茶はしない。…そう言う人種だ。 

　「二ムバスが此処を撰んだのは…仲間達を土に還して欲しかったのだろうさ。つくづく…」 

　ロマンチストだ。と、言いかけた俺は言葉を飲み込んだ。そのロマンチストに付き合う馬鹿は何と言うのだろうか？ 





**■第百七章 



　「出迎えご苦労！　しかし、もうサヨナラだな？　堕ちろ！　」 

　俺と『ブルー』を、死人が動かすMS－05改が２機、コロニー内部と『港』とを繋ぐ 
『通路』で待ち構えていた。二ムバスを守るためだけに動く、悲しき機械人形と 
化した戦友達だ。100mmマシンガンを２機に掃射するも、怯む事無くヒートホークで 
向かってくる。 

　「…灰は灰に、塵は塵に…死人は大人しく死んでいろ！　」 

　俺は迷うこと無く、頭部・胸部バルカン砲と腰部ミサイルを使った。ビーム兵器は 
正直、勿体無かった。この先の『港』にはザンジバル級２隻が待ち構えているのだ。 
こんな人形どもに消耗を促されてはあの『ジオンの騎士』がほくそ笑むだけだ。 

　「二ムバスのお仲間の残りはあと何機だ、マリオン？　」 
　『…人が…たくさん…死んでいく…隔壁の向こうで…こんなの…こんなのっ…！　』 
　「何を言っている？　『港』で何があった？　」 

　俺はブルーのマニピュレーターからビームライフルを一旦手離して、隔壁ハッチの 
ノブを開放側に回す。100mmに40mm砲弾、さらにはミサイルの破片まで食らったと言う 
のに、隔壁は若干の凹みで済んでいる。隔壁と言うだけあって流石に丈夫に出来ている。 

　「…手間が省けたと礼を言うべきか、それとも敵味方を識別出来ん失敗作と言う 
　　べきか…？　何にせよ俺の前に立ち塞がるのならば、残らず撃破しなければな！　」 

　隔壁を開いた俺が見た光景は、『港』に漂うザンジバルの残骸と、残りのMS－05改だった。 
二ムバスの昔のお仲間『だった』奴らだ。しかも今度は火器、マシンガンとバズーカ装備だ。 
２機の連携で、おそらく最新型であろう、14の高機動型が屠られて行く。…まあ推測すると、 
恐らくザンジバル級の奴らは、接近するMSの識別コードが無いため、『敵』と認識して攻撃を 
開始したのだろう。この二ムバスの『昔のおホモ達』は研究所の防衛システムも兼ねていた 
はずだ。そいつに『異物』として認識された者は…殲滅される。 

　「哀れだな…？　来いよ、死人ども？　もう一度俺が、あの世とやらに送り返してやる！　 
　　この蒼き死神とともに！　」 

　二ムバスめ…見下げ果てた奴だ。　自分の手で戦友を看取ってやる事くらいは出来るだろうに！ 
それを人任せとは少々、虫が良すぎるな？　代価は後で必ず払って貰う！　首を洗って待っていろ！ 





**■第百八章 



　ＭＳ－05改デュオの内の一機が、俺と、いや、ブルーと『眼』が合った。大方こちらの武装を認識して 
いるのだろう。ピンクのモノアイが小刻みに動いている。…フン、主兵装しか認識出来んだろうがな…。 

　「…マリオン。奴らに自由意志は？　」 
　『…二ムバス大尉を守る、と言う妄執だけ…』 
　「その他は撃破、か…。騎士の亡霊が…来るぞ！　」 

　マシンガンの砲口がワンアクションで向けられると同時に、俺はAMBACで機体を９０°縦に旋回させる。 
そうして見た下方には、ザクバズーカを構えたもう一機が、ロケット弾を射出していた所だった。今度も 
俺はAMBACで機体を横に向かせ、回避を試みる。『港』内は狭いが、『壁』が有る。回避にも気を使わねば 
『壁』を向いたまま砲撃を喰らう羽目になる。当然、俺の視界はリニアシート時代のコックピットのような 
全周囲モニターでは無い。それでも、この陸戦型ガンダム改、ブルーデスティニーの視界はＧＭよりも良好だ。 

　『ヤザンさん、このままじゃ…』 
　「楽しいなァ、こいつは！　」 
　 
　背後に廻り込ませないように戦うのがセオリーだ、と並みのパイロットならそう判断する。つい先程見た 
ＭＳ－１４高機動型のパイロットは、挟まれないように、挟まれないように回避し、その挙句に撃破された。 
クロスファイアにびびり、奔命に回避し、疲労の極致に追い込まれた結果だ。MSを扱うパイロットを苛む 
Gは、思考力・判断力の根源となる体力を奪っていく。だが、俺は回避を続けて行く。ある狙いとともに。 
数十パターンの末、その絶好の機会が訪れた。前後に挟まれる。それが俺の狙っていた瞬間だった。 

　「機械風情が！　全てが貴様等の思い通りに為るものかよ！　」 
　『…ッ!!　ア…！　』 

　前後に挟まれ、双方が射撃する瞬間。俺はそれを待っていたのだ。ロケット砲弾とマシンガンの弾速は、 
速い。しかし、メガ粒子砲程早くも無い。構えのモーションから、１呼吸。そのタイミングで回避すれば… 
この機体…ブルーデスティニーの速さならば、可能だ。俺はまた、機体を９０°縦、続いてまたそのまま 
の姿勢で前進させた。同時に放たれたマシンガンとバズーカは、バズーカの弾体のみを撃破し、バズーカ 
装備のＭＳ-０５改をザクマシンガン弾は穴だらけにし、推進剤に引火させ爆散させる。 
　 
　「残った奴はマシンガン装備のみ！　…勿体無いが一発御馳走だな？　ほらよッ！　」 

　バズーカ装備のＭＳ-０５改を撃ってしまい、首を左右に振って相方の反応を捜すもう一機のマシンガン 
装備の０５改に、俺はビームライフルを真上より放つ。頭から股間までメガ粒子の束はＭＳ-０５改を貫いた。 
この機体の命令系統が頭に有ろうがコックピットに有ろうが、これならば関係無いだろう。推進剤に引火、 
そしてまた…火球が音も無く生まれた。…俺には見飽きた光景だった。 

　「…もう一隻ザンジバルが残っているが…最早死に体だな？　」 

　各種砲台は無残に破壊され、所々電装系のスパークやら小爆発が起こっている。みるからに撃沈寸前だった。 
内火艇を積載しているのならば、即座に用意しなければならない所だ。…俺の狙いは飽くまで、残りのEXAM、 
ブルーデスティニー３号機の二ムバスだ。…俺に手出しさえしなければ、見逃す。が…砲台がこちらを向く。 
一対の砲身の内の１砲身が無傷だったのだ。迷わず俺はマシンガンで砲身を、ビームライフルでブリッジを潰す。 

　「フン、腐ってもジオンだな？　死ねよ！　」 
　『駄目ェェェ!!　　もう人を…!!　ああ…そんな…』 
　「殺らねば自分が殺られるんだ！　我慢しろ！　マリオン！　行くぞ！　」 

　己が生きていてこそ、生きていてこそ嘆き、悼む事が出来るのだ。感傷など二の次だ。俺は小爆発を続ける 
ザンジバルを残し、『港』を出る。…０９…後機動型の０６に１４…まだまだ居るじゃないか！　俺を愉しませろ！ 





**■第百九章 



　「何処だ…二ムバス…何処に居る！　」 

　採光ミラーが半壊したコロニーを背に、俺はBD３号機をモニターで捜す。散発的な敵の攻撃も有ったが、 
出会った奴から全て撃破済みだ。シールドの内側にホールドして置いた、100㎜マシンガンのマガジンも残り 
３本を数えるまでに為っていた。残弾が残り少なく為っているのに気付いた俺は、躊躇せずマグチェンジする。 

　『まだ…１０発も残っているのに…？　』 
　「ン…タクティカル・リロードだ。０６なら兎も角、装甲の厚い０９、動き回る１４相手には、な…」 
　『…まだ…殺し合いを続けるの…？　ヤザンさんは…』 

　マガジン交換時にビームライフルを一々手放さなくてはならないが、戦場が宇宙空間で有った事が幸いだった。 
何せ地面に落ちる事は無い。下手に力を加えれば、慣性の法則が働き際限無く飛んで行くので、素人には余り 
御勧め出来ない行為だ。ブルーの背部…人間の腰に当たる部分には、マウントが付いているのでそれを使えば 
良いのだが、バックパックのスラスターから受ける熱の影響が怖い。…この時代、携帯型ビーム兵器は貴重なのだ。 

　「二ムバスさえ出て来れば直ぐにでも…ハン！　ネズミがチョロチョロとぉ！　」 
　『…駄目！　逃げて！　貴方ではヤザンさんには勝てない！　』 

　マグチェンジの瞬間を狙って、０９が間抜けにも上方から急制動を駆け、正面から突っ込んでくる。…馬鹿が！ 

　「『ブルーデスティニー』にはな、固定武装が３つも有るんだ！　喰らえよ！　」 

　頭部バルカン砲、胸部バルカン砲、そして、腰部マイクロミサイル。強力な実体弾兵装を持つ、この『ブルー』の 
火力は正直、ジオンの並みのパイロットでは手に余るだろう。０９は案の定、俺の作り出した弾幕の中に突っ込み、 
腕や脚をもがれ、装甲を傷つけて行く。 

　「折角の重装甲だが、見通しが甘かったな！　」 

　弾幕を抜け出した先に待っているのは、ビームサーベルを持ったブルーだ。一撃でコックピットを貫き、バックパック 
のスラスターを吹かせて蹴ってやる。…マシンガンや、ビームライフルを漂わせた宙域から機体の位置にズレを生じ 
させないための処置だ。そしてまた、火球が生まれる。細かい破片がカンカン当たるが、マシンガンやビームライフルは 
無事だ。蹴りを入れるにも考えて入れないと破片でダメージを喰らう。…パイロットが低脳では、宇宙に死にに来るに 
等しいのだ。 

　『あの人…勝てるって…最後まで…信じてた…』 
　「…０９Rはいい機体だが、装甲を過信したのと『ブルー』の火力を見誤ったのが…』 
　《EXAM　SYSTEM　STANDBY》 
　『ヤザンさん！』 
　「来たか！　来たんだな！　奴が！　『ジオンの騎士』め！　待たせ過ぎだ！　」 

　その電子音声は、退屈しのぎに『マリオン』に応えていた俺にとって、体中の血液が沸騰しそうな興奮を与えてくれた。 
モニターが最大望遠でBD３号機を捉える。その両肩はカーマイン、血の色に染められていた。ツインアイも同じ色に 
光っている。一年戦争時代の機体とは思えないスピードだ。望遠倍率のカウンターが見る見るうちに少なくなって行く。 

　《待たせたな！　連邦の闘士よ！　共に酔い痴れようでは無いか！　》 

　ああ、そうだな？　互いに骨の髄まで愉しもうか！　EXAMマシンが与えてくれる、この実戦の、MS戦闘の快楽を！ 





**■第百十章 



　『ヤザンさん…わたしを…助けて！　』 

　目の前の白い機体から『マリオン』の声が聞こえて来る。糞、そう言う事か、クルストめ！　 
【EXAM】は『NT：マリオン・ウェルチ』の精神を取り込んで最終的に起動した『OS』なのだ。 
完全にそのアーキテクチャを理解している者、即ちクルスト・モーゼス本人の手ならば 
データ的に転送、アップグレードは可能と見て良い。…少なくとも３号機の『マリオン』は… 
俺の事を知っている…俺の知っている…『マリオン』のコピーだ。 

　《フハハハハ！　無駄だマリオン！　私からは逃れられん！　永遠に私とともに闘うのだ！》 
　『嫌、嫌、嫌ぁぁぁぁぁ！　』 

　３号機が頭部・胸部バルカン砲と腰部ミサイル、ビームライフルを放ちながらすり抜けて行く。 
クッ！　相対速度を合わせるのが遅かったか…！戦場では戦闘以外の事を考え過ぎた奴は 
死ぬ。しかし…ここは狂犬の様に、闇雲に噛み付けば良い戦闘では無い。唯のドッグファイトで 
終わらせては為らないＭＳ戦闘なのだ。片付けるだけなら簡単だ。…俺は、その上を目指さねば 
為らない。…俺はそうやって、今まで生きて来た。いつも昨日の自分を越えるために･･･！ 

　「戦場に女を駆り出すなんてのはっ…弱い男の証明なんだよ、二ムバスっ！　」 

　両腕と右足を『ブルー』に振らせ、AMBAC機動で背後を向かせる。残った左足で微調整を行う。 
一年戦争の連邦の量産型MSには、こんなマニューバは基本OSに組み込まれていない。ジオン 
のアドヴァンテージは正にこの部分に有るのだ。戦時ＭＳ運用は戦術面だけではない。個人の 
運用技術の蓄積も関係してくる。人型のもたらす利点を研究し尽くさないまま素人パイロットを 
ＭＳに乗せたならば…オモチャの兵隊そのもののギクシャクした不自然な動作を取ってしまう。 
　 
　「悪いがAMBACは貴様ら宇宙人だけの物じゃ無いんでね！　」 

　モニター上のロックオンマーカーがまだ激しくぶれているにも関わらず、俺は目視のままで100㎜ 
マシンガンを『ブルー』に斉射させる。流れる曳光弾が反転を開始した3号機に吸い込まれて行く。 
弾幕を張るのが主目的だ。まずは冷却機構を潰さねば！　リミッターを噛ませていないだろうからな！ 

　『ヤザンさんっ…まさか二ムバス大尉を…!?　」 
　「俺は…ヤザン・ゲーブルだ！　やってみせる！　」 

　さまざまな思考が俺の脳裏を怒涛の如く流れて行く。【EXAM】が敵の思考までダイレクトに 
伝達してしまうのはこれまでの経験上から理解していた。相手も【EXAM】を積んでいる。向こうの 
3号機の『コピーされたマリオン』にも俺とこの『ブルー』の『マリオン』の意志が伝わっている筈だ。 
…当然、パイロットの二ムバスにもだ。 

　『私に勝ち、さらに生け捕りにするだと?!　連邦の闘士め！　この･･･身の程知らずがぁぁぁぁ！　』 

　ハン！　身の程知らずは貴様の方だ二ムバス！　七年間のキャリアの違いを見せてやるよ、若僧！ 





**■第百十一章（頼むからページを追加してくれ） 



　星空と曳光弾のハーモニーが、絶える事無くモニターを流れて行く。…放たれた曳光弾の正体はBD3号機の 
頭部・胸部バルカン砲弾だ。BDの持つ機体武装の最も得意とする、中・近距離戦で俺は3号機に挑んでいた。 
　頭部・胸部の4門のバルカン砲に、腰部に1対のマイクロミサイルランチャー。ミサイルの携行弾数は、陸戦Ver． 
の時と比較しても上がっているだろう。宇宙では弾体を推進させる推進剤が少なくて済むからだ。 

　『この距離じゃあ、撃たざるを得んよなぁ？　なぁ、マヌケ騎士様』 
　『舐めるな、連邦の闘士ィィィィ！　』 

　二ムバスの憎悪に唸る声が脳内に飛び込んで来る。俺はそれを聞きながら、嘲笑のイメージを投射してやる。 
勿論、発射された全弾をロールで回避しながら、だ。何の理屈だか理由だか知らんが、EXAMは闘う俺達二人の 
パイロットの意志を、互いに筒抜けにさせていた。真直ぐで素直過ぎる二ムバスの意志に、俺は既視感を感じて 
いた。冷静さを持たん奴は、冷静な奴にそこを突かれて早死にする。常にアタマの何処かは冷めているべきだ。 

　『ヌ…！　馬鹿な…?!　』 
　 
　常に3号機が撃ちながら接近してきた、バルカン砲弾の奔流が唐突に止む。バカスカバカスカ撃ち放題に撃って 
来たツケを払う時が来たのだ。まあ、俺がワザと撃ち易い距離をキープし続けて来た為だ、と言う至極尤（もっと）も 
な理由があるのだが、な？　ロックオンしたからと言って直ぐトリガーを絞るのは素人に毛が生えた連中が良くやる 
事だ。貴様に限った事では無いさ！ 

　『タマ切れで撃ち止めってか？　もう少し骨が有ると思ったがな！　』 

　ここで俺は100㎜マシンガンをリロードし、3号機に向かって投げてやる。　浅ましく使うならジオンの騎士の看板を 
返上しちまえよ！ 





**■第百十二章（頼むからページを追加してくれ） 



　『甘いな！　連邦の…！　』 
　『馬鹿が！貰ったぞ！　』 

　慌てて左マニピュレーターを開き、100mmマシンガンに向けて伸ばす３号機の下腕部を 
俺は2号機の空いた右手に持たせたビームサーベルで切り飛ばす。リロードした時点で、 
俺は当然、『ブルー』の右手からビームライフルを離している。近距離戦仕様って奴だ。 

　『シールドなど要らん！　』 
　『この俺相手に大きく出たモンだな、騎士殿』 
　『抜かせ、下郎がぁぁぁぁぁ！』 
　 
　当然、３号機の左腕にマウントされていたシールドが外れる。３号機の武装はこれで、 
腰部ミサイル×２に、ビームライフルとビームサーベル×１だ。俺は漂う自分のビーム 
ライフルをキャッチし、二ムバスの３号機と距離を取る。その際、チカッ、と敵意が自分を 
刺すのを感じた。二ムバスでは無い、これは… 

　『そこだ！　』 

　『ブルー』のビームライフルが狙ったが如く、超遠距離でジャイアント・バズを構えた０９Rの 
コックピットを射抜き、火球が生まれる。コックピットを一撃で仕留められたのは、『EXAM』の 
影響だろう。俺は慌てて『自分の身体』に意識を集中する。視覚が、コックピット内の計器を 
やっと捉えた。これほどまでにMSとの一体感を味わえるEXAM　SYSTEMの量産は、戦争狂を 
大量生産するに等しい。 

　「リミッターは…残り４分１５秒だと?!　」 

　どれだけの速さで俺達は殺り合っていたと言うのか？　ふと、視界の端に桃色の光条を捉えた。 
二ムバスが遠距離戦に切り替えたのだ。頭を隠さず肉迫して来る。奴の射撃武器はあと… 

　「ミサイルだと？　ハンッ！　擦れ違い様にか？　そうそう当たる物じゃないなぁ！　」 
　『死ねィ、連邦の闘士ィィィィ！』 

　交差の瞬間に奴は２発発射するも、俺には当たらなかった。そしてまた、３号機はAMBACと 
スラスターを駆使して交差を伺おうとする。端から見れば、『ブルー』と３号機のスラスター光で、 
まるでDNAの様な２重螺旋を描いている事だろう。絡み合い、激突し、また離れ、絡み合う。 
廃棄コロニーの残骸で暗礁空域に近い状況なのだが、不思議と障害物には接触していない。 

　「フン！　ビームライフルは、こう…」 
　『ガンダムタイプ同士のDACTにしては…何故実弾を使っているんだ？　』 
　「何でこんな所にGMが居る！　退いてろ！　この！　邪魔だ！　これは実戦だぞ!?　」 
　『?!　一体全体どうして…』 
　「糞、間に合わん！　キチンと避けろよ」 

　俺はロックオン表示に目を疑う。何でこんなミラーの影にGMが隠れているんだよ！　…４ｔｈ Plt？ 
第四小隊だと？　何処の所属だ！　俺の思考に動作が追いつかず、ビームライフルは発射された。 
　 
　『ウ、ウワァァァ！』 
　「もう少し離れてろ！　巻き添え食って死にたくはなかろうが！　行けよ！」 
　『誰だか知らんが…俺の不死身の第四小隊はまだ解散させん！　』 
　「援護はいい！　ギャラリーは手を出すなよ！　これは俺の闘いだ！　」 

　幸い、光条はGMの隠れていたミラーの一部を粉砕しただけだった。…全く！　二ムバスに殺られるなよ？     </description>
    <dc:date>2006-07-31T18:24:19+09:00</dc:date>
    <utime>1154337859</utime>
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    <item rdf:about="https://w.atwiki.jp/yazan/pages/4.html">
    <title>ヤザン−ユウ 001-010</title>
    <link>https://w.atwiki.jp/yazan/pages/4.html</link>
    <description>
      **■第〇章　VS ゼータガンダム
 
「馬鹿な…？命中しているのに?!」

俺は自分の目を疑った。
ハンブラビのビームキャノンは確かに目の前のＺガンダムに命中している。
だが、当たった瞬間、メガ粒子の奔流が霞の様に消えて行く。
俺はスティックとフットペダルを引っ切り無しに動かし、Ｚの放つ閃光を回避した。
体を痛め付け続けるＧが、目の前の光景を現実だと否応無しに認識させてくれる。

「反則だぞ、Ｚぁ!!!」

俺は思わず叫んでいた。
こんな事がある筈が無い。
ビームを弾く装甲をエゥーゴ風情に開発出来る訳が無い。
潤沢な予算を持つティターンズだが、同じ効果を持つＩフィールドなんて代物は、ＺサイズのＭＳに搭載できる
程にコンパクト化されていない。
俺の目の前でＺが突然ビームサーベルを発動させた。

「接近戦か?!」

舌を噛みそうになりつつ、俺はＺにハンブラビを突進させた。
目の前の敵を撃墜する事が、頭の中を駆け巡っていた。
いつもの様な高揚感、生と死の狭間に見える何かが、今の俺には微塵も感じられなかった。
得体の知れぬ恐怖感だけが俺をＺに向かわせていた。
その時、Ｚのマニピュレーターに握られたサーベルが常軌を逸した輝きを放ちながら巨大化して行くのを俺の目は捉えていた。
それが振り下ろされる瞬間、俺は無意識のうちにハンブラビからコックピットを離脱させていた。
薄れ行く意識の中、俺は確かに少女の声を聞いた。


**■第一章　ヤザン・大地に立つ 


体が下に引っ張られるような懐かしい感じに目を開くと、信じられない物をモニターが映し出していた。
一年戦争の時に嫌になる程見てきたジオンのＴＹＰＥ06、『ザク』が肩のスパイクを使い、丁度タックルを敢行しようとしている所だった。

「舐めるなよ、旧型ぁ!!」

俺は激昂した。
Ｚ相手に不覚は取ったが、旧型の06風情に堕とされる程、落ちぶれてはいない。
俺は機体に装備されたビームサーベルを発動させ、腕に握らせた。
其処で俺は違和感に気付いた。
叫んだが、聞こえてきたのは俺の声じゃない。
別人の聞いた事も無い声だと言う事を。
しかし、今は目の前の06にこちらが戦意を失っては居ない事実を教育してやらねばならない。
舐められっぱなしでは、俺のプライドが許さない。

「接近戦でこの俺を仕留めようってのか？甘いんだよ！」

突っ込んできた06を考えられる最小の間合いで回避し、俺はすれ違い様に06の『首』をビームサーベルで刎ねた。
ＭＳの『首』の部分には大抵、各種センサー系が詰め込まれている。
06のパイロットは謂わば視覚を急に奪われた格好となった訳だ。

「自分の甘さを呪えぃ!!０６ぅッ!!」

ＭＳの腕だけを背後に廻し、俺は迷わずスティックのトリガーを、引いた。
思わず耳を覆いたくなるような聞きなれた砲声と衝撃が、俺の体を叩いた。
…うんざりする位に聞き慣れ、聞き飽きた、ＧＭ用の100㎜マシンガンの発射音だった。

「どうなってるんだ…？こいつは…？」

俺は狭苦しいコックピット内を見える範囲で確認した。
確か意識を失う前の俺は、Ｚとハンブラビで戦闘をしていた。
此処に比べればリビングルームの様に広々としたコックピットで、こんな尻が痔になりそうな硬いシートでは無く、まるでベッド並みにゆったりとしたリニアシートに身を預けて居た筈だった。

「…ＧＭのコックピットじゃねえか…」

そうだ、この計器の配置はＧＭ系のコックピットだ。
毎日毎日飽きるほど見てきた。
ＧＭ、ライトアーマー、クゥエル。
どれもいい機体だったが、反応が鈍すぎるのが、あの頃の俺の大きな不満だった。
素人に毛の生え始めた連中にはお似合いの機体だ。

「拷問だな…こいつは…」

俺は計器を見渡す中、見慣れぬ赤いボタンを発見した。
大仰に黄と黒の注意ストライプの枠と、おまけにプラスチックカバー付きだ。
俺は押してみたい衝動に駆られた。





**■第二章　俺はヤザン・ゲーブル… 



プラスチックのカバーを押し破ろうとしたその時、ノイズ交じりの通信が俺の耳に飛び込んできた。
男の、耳障りな、悲鳴にも似た叫び声だった。

「ユウ、ユウ！囲まれちまった！助けてくれ！サマナの奴が片脚やられて動けなくなっちまったんだ！GM１機じゃ、ドム5機相手は…」

俺は眉を顰めた。
俺はヤザン・ゲーブルだぞ、と喉元まで出かけた怒声を押し殺し、俺は男の声に応答した。
誰であれこの状況を知るためには、味方は、放って置けない。
まずは状況を把握しない事には、今後も糞も無かった。

「…聞こえてる！今すぐ行くから待ってろ！情け無え悲鳴を上げるんじゃねえ！テメエの女が聞いたら泣くぞ!?解ったら黙ってろ!!がたつくな!」

男からは応答が無かった。
俺は軽く舌打ちをすると、計器を確認した。
ミノフスキー粒子が戦闘濃度で散布されているのか、索敵用のインジケーターの敵味方表示が時々乱れる。
が、味方の２機を表わす表示が５機の敵に包囲されて居る事はかろうじて読み取れた。
此処から700mの距離だ。
俺はモニターに目を向けた。
岩山が見えた。
体を大地に引き付ける重力を感じる。
俺はMSに天を向かせた。
空の青さが、目に沁みた。…ここは地球だ。
心に湧き上がる不安を俺は無理矢理押さえ付け、MSのフットペダルを踏み込んだ。
戦場で、戦闘以外の余計な事を考え過ぎる奴は、死ぬ。
スラスターが爆発的な加速を生み出した時、俺は息を詰まらせた。
体に掛かるGが、予期していたGMの物と段違いだった。

「何なんだ!?…GMじゃ無いぞ、この加速は!?」

俺はフットペダルに掛けた力を弛め、エネルギーインジケーターの数値を確認すると…GMの倍近くの数値を誇っていた。
この機体がどうやら特別製らしい事に俺はようやく気が付いた。
俺はスティックを握る右腕を横目で見た。
白いノーマルスーツにそれは、包まれていた。
俺は、心の中の疑問を口に出した。

「…俺のノーマルスーツは、黒だった筈なんだがな…」

ドンッ！機体が激しく、揺れた。
モニターを確認すると、２機のMS、09がバズーカの砲口をこちらに向けていた。
迷いは一瞬で、消えた。

「…当たらなくて残念だったな、スカート付きのお嬢さん達ぃ！」

俺は更にフットペダルを踏み込み加速させると、左の09にマシンガンの弾を集中させた。
その09がのけぞるのを尻目に、右の奴の腹部にビームサーベルを叩き込んだ。
5機の中の2機を潰すと、前方に片膝を付いた見慣れないGMと、背中合わせに立ってマシンガンを撃つGMが目視出来た。

「生きてるか、タマ無しども!!もう少し我慢しろよ?!」
「…ユウ少尉…ですよね？タマ無しなんて…少尉のイメージじゃあ…」

面を見なくても性格が解るような、気弱な声が通信機越しに入って来た。
俺は面倒なので、返事をせずに、レーダーを覗き込んだ。
残りの3機が、三方に散っていた。
包囲殲滅にじっくり時間を掛けようとしたのが、そもそも間違いの元だ。

「…お前、頭でも打ったのか？ユウ・カジマさんよぉ？」
「フィリップ少尉、前にドムが！」

俺は溜息を吐きながら、立っている方のGMに突進する09にマシンガンの照準を合わせ、スティックのトリガーを引いた。
後、2機が残っていた。





**■第三章 



俺が残った2機の内の1機を始末に掛かる間に、サマナとか言う、脚をやられたGMの方のパイロットが09を仕留めていた。
…それなりの腕は有る様だ。
もう片方のGMのパイロット、フィリップも並みの腕じゃ無い。
俺が救援に来るまでの僅かな間に、機体のコンディションを保ちながら、09の猛攻を捌き続けたのだから。
俺は辺りに敵の姿が無い事を目視と計器で確認した後に、2機のGMの傍に自分のMSを駐機した。
2機のパイロットは機体を降り、脚をやられたGMの損傷程度を調べていた。
俺は自分のMSをハッチを開け、ワイヤーを使い大地に降りた。

「ユウ、無事だったか！心配したんだぞ？敵の隊長機を引き付けるのは構わんが、無茶しすぎだぜ」
「しかし御蔭で、敵も散発的な攻撃しか出来なくて、助かりました…。フィリップ少尉が悲鳴を上げた時のユウ少尉の説得、悪いですけれど笑っちゃいました」
「…ま、何だナァ、サマナ君…。『蒼い死神』は伊達じゃないってこったな？」

俺は二人がお気楽に話しかけてくるのに正直、戸惑っていた。
こいつらは俺の知っているあの頃の連邦パイロットと違っていた。
09を見ただけでブルッてしまう奴等と、目の輝き自体が違う。
飽きるほどMS戦闘を繰り返してきたのだろう。
普通のパイロットだったら機体ダメージの確認もせずに帰還する所だ。

「蒼い…死神…？」

俺はふと、やさぐれた感じのする男、フィリップの言葉に引っ掛かるモノを感じ後ろを振り向いた。
蒼いGMが、其処に居た。…いや、GMじゃない。
胸にはバルカンの発射口2門、その下にも恐らく小型ミサイル発射機だろう発射口が同じく2門分、装備されていた。
蒼いMSの特徴的なフェイスが、俺にGMと誤認させた原因だった。
ゴーグルタイプのメインカメラ、通称『GMフェイス』だ。

「ＧＭ…？いや…なんだ…？コイツは…？」

だが、他のGMと大きく異なるのは、その下に赤い『口』が付いている事だった。
その分だけ、他のGMよりもセンサー系かコンピューター系で勝っているだろう事が教導隊にも居た事もある俺の経験則から判断できた。
機体の外見を見てこれぐらいの事を推測出来なければ、MSパイロットとしてセンスが無いと言っていい。
教官時代の俺なら有無を言わさずぶん殴り、『原隊へ帰れ、能無し！』と格納庫の外を指さしてしまうだろう。
突然、回想に浸っている俺の耳に少女の声が飛び込んできた。

『乱暴な奴、消えてしまえ！』
「あァン?!何だとテメェ…!!!?」
声に釣られて蒼いMSのゴ-グルを俺は睨み上げた。
誰も乗っていない筈の無人のMSが、立ち上がり、100㎜マシンガンの銃口が俺を狙う。
蒼いＭＳの、紅い両眼がゴーグル越しに血の輝きを放っていた。





**■第四章 



無人である筈の蒼いMSにGMマシンガンを突きつけられながらも、俺の頭の中は冷静そのものだった。
何故か、MSの中の『誰か』が怯えているのが解ったのだ。
俺は蒼いMSの『眼』をじっと見据えた。
さぞかし困惑して居るのだろうと思うと、自然と笑みが漏れてきた。
さぞかし凄みのある表情になっている事だろう。

『殺れるものなら殺ってみろ。ただしその時はお前も道連れだ！』

俺が脳裏で呟いたその時、蒼いMSのゴーグルから紅い光が突然消え、また勝手に動き、駐機姿勢に戻った。
得体の知れないMSだ。
乗っていた時には気にもならなかったが、今は傍に居るだけで『嫌な感じ』がするのを押さえられなかった。

俺は蒼い機体を睨みつけると、後ろの二人を振り向いた。…二人はいち早く安全圏へと退避していた。
それも、駐機したフィリップ機の脚の陰に隠れて、首だけ出してこちらを覗いていた。
なかなか、味な真似をしてくれる連中だった。目端も利く。…いいパイロットだ。
俺は生き残るのに貪欲な奴は好きだ。

「…フィリップ、サマナ！テメエら汚ェぞ！俺を置いて逃げやがって！」
「…俺達は、MSで生還するのが任務だからな。実戦データ取ってたときの癖が出ちまったんだ。悪いな、ユウ。『モルモット隊』の仲間だろ？」
「それにしちゃあ、やけに冷てェじゃねえか、フィリップ、サマナよぉ？」
「ユウ少尉も、ユウ少尉ですよ。あんなMSのパイロットを引き受けるからこんな目に遭うんですよ…。今からでも遅くありません、辞めた方が…」

モルモット隊。
思い出した。俺が一年戦争時代に、撃墜数リストで常に俺の名前の上に居た奴が、配属されていた部隊の綽名だ。
それでユウと来たら間違いは無い。
『蒼い死神』で気付くべきだった。
…この体の真実の持ち主の素性を俺は、ある種の懐かしさと共に思い出した。
『ユウ・カジマ』。連邦軍屈指のエースだ。
俺は追い付けなかった謎が解けた事に、安堵していた。
たとえMS戦闘の腕が同じ程度だったとしても、あの頃の俺が乗っていたGMよりも余程反応の良い、
こんな優秀な機体に『奴』が乗っていれば、逆立ちしたって追いつけなかったろう。

「辞めるかよ！こんな面白い事をよぉ?!辞められねえぜ、おい！」

俺はGMの脚に隠れた二人に向かって叫んだ。
俺は何故か一年戦争時代の連邦軍の『モルモット隊』の『エース』パイロット、『ユウ・カジマ』になってしまった事を爆発的な歓喜と共に自覚した。
俺が奴より優秀だと示す方法はただ一つ。

この蒼いMSを操り、奴よりも撃墜スコアを伸ばすことだ。

俺は蒼いMSに向き直り、歯を剥いて笑った。
蒼いMSの中の『誰か』がたじろいだ様に、俺は『感じた』。
俺はMSに近づくとコックピットから伸びたワイヤーを掴み、乗り込むとハッチを閉めた。…やはりそうだ。
このMSには俺以外の『誰か』の存在を強く感じる。
俺はMSを起動させるためにコンソールに手を伸ばした。

「嫌な感じだ…。まるであの、シロッコのドゴス・ギア艦内の雰囲気を思い出させる」
『わたしに触らないで！乱暴な人は大嫌い！』

俺は恐怖に震えた少女の声を耳ではなく『心』で『聞いた』。
その声は、俺がZに撃墜された時、意識を失う前に聞いた物と同じ声だった。





**■第五章 



俺は少女の声を無視してコンソールを操作し、通信機の送信スイッチをOFFにした。
正直に言って、俺の怒りは頂点に達していた。
人をいきなり乱暴者と決め付けるこの怯えようは尋常ではない。
一度じっくりと話し合わねば、おちおちMSも降りられなくなる。
…俺はMS戦闘は好きだが、生身で殺り合いたい訳では無い。
俺は深呼吸し、『出て来い』と叫ぼうとした。

『聞こえているわ…ヤザン・ゲーブル大尉』
「何者だオマエは！俺に何か恨みでも有るのかよ！100㎜マシンガン何ぞ突き付けやがって！ふざけるな！」
『怒らないで！EXAMが…また発動してしまう…！心の中で念じて！私を感じることが出来るあなたなら…解り合える筈だから…お願い…ヤザン大尉…』
「ワケアリ、みたいだな…解った。じっくりと話し合おうじゃないか。まずはオマエの名前からだ。いつまでもオマエ呼ばわりじゃあ、気分が悪いだろうが？そうだろう？」
『…解らないの？』

俺の頭の中に聞こえてくる少女の声は、困惑していた。
心底不思議そうに聞いてくる少女に俺は、噴き出していた。

「解るワケが…」

俺は背筋に冷たい何かが走るのを感じた。
待て。俺は一度でも此処で名前を口に出して言ったか？…答えはNOだ。

『…言ったわ。心の中で。フィリップ少尉の通信に答える時、俺はヤザン・ゲーブルだって…』

俺は底知れぬ恐怖を声に感じた。
何もかも隠せぬ、恐怖を。
まるで、こちらの言わんとしていることを総て読まれてしまっている様な錯覚に囚われてしまった。

『私には、わかるの。それが認識力の拡大…』
「まさかオマエ…NTか？それとも幽霊か!!」
『駄目！恐怖や怒り、負の感情を強く持たないで！あなたには『因子』があるの！EXAMを、押さえきれなくなる！』

俺は深呼吸して、興奮した自分を無理矢理押さえ付けた。
今度は俺の出来る精一杯の優しい笑顔をイメージしながら、心の中で少女に呼びかけた。

『悪かったな、お嬢ちゃん、で、名前は？そのEXAMって何だ？どうして俺は此処に居る？他人の体だぞ？こんな事…』
『私はマリオン・ウェルチ…14歳…。EXAMは、NTを『裁く』ためにNTの私を取り込み、クルスト博士が創り上げたOS…。あなたは、EXAMと共振してしまったの…。NTとの戦闘に、『因子』を持つあなたが…』

少女はまだ声を恐怖に震わせていた。
仕方ない。
俺は火の付いた様に泣き喚く親戚の子供に笑いかけ、黙らせた事もある。
文字通り『泣く子も黙る』ヤザン・ゲーブル大尉だからだ。
…泣き止んだ子供が前より激しく泣いたのは言うまでも無いだろう。

『…そんな事が、あったんだ…』

俺は心の中を無遠慮に覗き込まれた事に不快感を禁じ得なかった。
しかし、少女の怯えを無くしただけでも良しとしなければ、な。
シロッコやサラ、Zや百式のパイロットに感じた不快感の正体は、これだったのか。
俺は心の中で苦笑のイメージを作った。

『ごめんなさい…許して…』
『良いんだ。勝手に聞こえるんだろうが。便利なようで、不便なんだな』

突然、フィリップ機からのコールが入った。
俺は密かな逢引を覗かれた間男のような気分を始めて味わった。
俺は他人のモノを盗むような卑怯な真似は死んでもしないが…。
俺は通信機の送信スイッチをONにして、喋った。
今度はマリオンからは拒否されなかった。
なかなか、聞き分けがいい娘じゃねえか。
俺はただの乱暴者じゃあ、無い。
それ相応の分別もある、『29歳』の『お兄さん』だ。

「どうしたフィリップ！何か用か！」
「おいユウ！聞こえてるのか!?サマナ機の左側に廻ってくれ！どうやら自力帰還は無理らしい！」
「解った！で、何回俺を呼んだ!?答えなかったろうが？」
「何言ってる？…今が初めてだ。…ユウ、お前本当に頭、大丈夫か？」

俺は苦笑するとフットペダルを踏み込み、サマナ機の左に廻ると腕を取り、支えた。
サマナ機が損傷した左膝を伸ばし、立ち上がった。
一息ついた俺は、この先何が起こるのか、俺自身が楽しみにしていることにふと気が付いた。
なかなか気分は、爽快だった。





**■第六章 



俺達は『モルモット隊』の宿営地に何事も無く辿り着いた。
あれからこの蒼いMSも勝手に動く事も無く、敵の襲撃も無かった。…いや、避けたと言うべきだろう。
…マリオンが引っ切り無しに敵の伏兵の存在を訴え続けたのだから。
それを同行する二人に説明しなければならない俺の苦労は並大抵の物じゃあ、無かった。
俺は『モルモット隊』は三機のミデアで編成されている事を、喋りだしたら止まらないフィリップの無駄口と、それを遠慮がちに嗜めるサマナの言葉から理解した。
ミデアが合流地点に先回りして、宿営地を設営し終えている所だと、フィリップは空腹を訴えながらぼやいていた。

俺は当然の事ながらそんな事情だとは知らない。
MSには鹵獲された場合を想定して、座標の入力をされてはいない。
パイロットなら合流地点を聞いているだろうが、生憎と俺は、ユウ・カジマじゃない。
フィリップやサマナが聞いているだろうが、俺が合流地点を知らない事を伝える訳にはいかん。
戦場で味方の士気を下げる馬鹿な軍人など、何処の部隊を探しても居ないだろう。
…俺が居た『ティターンズ』を除けば、だが。

だから俺はサマナに感謝していた。
この場合、隊長機が率先して合流地点を示してやる必要が無くなるからだ。
他のGMとは違う蒼いMSに乗っているユウ・カジマが、この小隊の隊長格であろう事は容易に推察出来る。
…俺はサマナのMSを支えながら、フィリップの行先に附いて行けば良い…筈だった。

マリオンさえ、俺の頭の中で黙っていてくれれば、の話だが。

『あそこに敵が居る！』『いや、怖い！』『怖い人たちが沢山…』

俺の蒼いMSの索敵レーダーを見ても、何も反応が無い。
特別な機体であるこのMSでもそうだから、フィリップ等が乗る改良型のGMのレーダーも、
反応が無いのは間違いは無いだろう。

…だが、俺のMSに乗り続けてからの『経験』と『勘』が、伏兵の潜んで居る事実を明確に告げていた。
それはマリオンが反応を示す場所と、不思議な位に一致していた。
…最も、MSをその場から移動させるためにマリオンを一々なだめなければならなかったが。
フィリップ達はマリオンが怯える度に俺がルート変更を求めるのを、

「敵なんぞ、居る訳無いだろうが…。ユウ、考えすぎだぜ？」
「喋り方がアレなのに、意外と臆病なんですね、ユウ少尉？」

と、散々茶化してくれやがった。帰ったら、今に見てやがれ…こいつら…。
二人とも包囲された時、泣きそうになってたのを整備やオペレーターの連中にバラしてやる。
…優秀なエリートを気取るパイロットには、いい薬になるだろう。
最後には俺も頭に来たので、
「るせェこのスットコドッコイどもが！こいつぁテメェらの量産型たァ、出来が違うんだよっ！」
と怒鳴り、
『お〜お〜、エースのユウ様はお怒りだ』
『ユウ少尉、それは無いですよ』
と、二人を怒らせてしまった。…一応、言い過ぎたと謝っては置いたが。

「なにィ?!」

ミデアがモニターの視界に入ったその時、急に俺のMSが停止した。
フットペダルを踏み込むが、ピクリともMSが動きはしない。
マリオンに呼び掛けて見るが、返事もしない。
俺は堪り兼ねてハッチを開けた。
MSの足元から陰気で、低い男の声が聞こえた様な気がして、俺はコックピットから身を乗り出した。

「無事だったか？オレのブルーは？」

眼鏡を着けた、『いかにも技術者でござい』と言う雰囲気を漂わせる神経質そうな痩せた男が、
強い突風の吹きすさぶ中で微動だにせず、『俺』ではなく、俺の乗った『蒼いMS』を見上げていた。





**■第七章 



『アルフ大尉！そこに居られると、こっちは困るんですよ！』

フィリップ機から嫌味たっぷりの声が響いた。
俺のMSの脚が止まったのが、この陰気な面をぶら下げた男のためだと誤解したらしい。
アルフと呼ばれた男はフィリップの言葉を意に介する事無く、先程の言葉を俺に向けて繰り返した。
風の鳴る音にも負けず、アルフの声は俺の耳にしっかりと届いた。

「…無事だったか？オレのブルーは？ユウ・カジマ少尉！」

俺は男の、その度胸に感動した。
踏み潰される事を恐れもせず接近し、パイロットに怒鳴られるかも知れない状況でも己の主張を決して曲げはしないこの男を俺は、一目で気に入ってしまった。
コイツがこのMSの整備主任だったとしたら手を抜く事は絶対に無いだろう。
俺ははるか眼下に見える男に叫んだ。

「おう、見りゃ解るだろうが！安心しろ！キズ一つ有りゃしねえぜ！さすが、オマエのブルーだ！」

男は頷くと、道を空けた。…案外、素直な奴だ。
俺がハッチを閉めシートに深く座った途端に、サマナからの通信が入った。
ミノフスキー粒子が薄いのか、豪華にも映像付きだ。
フィリップも回線を同じように開いた。

「…脅かしてやれば良かったんですよ…ユウ少尉…。誰も乗ってないのに勝手に動いたって…」
「パイロットが降りたら、オツムがいかれて勝手に殺そうとしてました、って言ってやれば、アイツはその場で這い上がってくるぞ？サマナ准尉殿？そうなるとオマエさんの帰還が益々、遅れる訳だがな？」

フィリップの言葉にサマナは心底嫌そうな顔を見せた。
俺は二人に声を掛けてからフットペダルを踏み込んだ。
今度は、問題なくMSの脚が動く。
俺は二人の冗談の様なやり取りを聞きながら、ゆっくり宿営地へと向かった。

サマナ機を整備スペースに駐機させると、俺は蒼いMS、『ブルー』を自分の駐機スペースへ向かわせた。
突然、オペレーターからの通信が入った。
…まだ子供と言って良い位の年の女だった。
俺が口を開く前に、オペレーターが俺に笑いかけてきた。

「お疲れ様でした、ユウ少尉。夕食は出来てますから、冷めないうちにどうぞ」
「…ああ、ありがとうよ、お嬢ちゃん。せいぜい、楽しみにしとくぜ」

夕食といっても、直ぐには取れないのがMS運用部隊の常だった。
報告、機体の整備状況の把握、スクランブルがかかった時の当直MSパイロットの分担…。
考えるとやらねばならない事は山積みだった。
ふと俺が我に帰りモニターを見ると、俺の台詞を聞きとがめたのか、女の眉が怪訝そうに顰められていた。

「…ユウ少尉…。………ユウ、どうしたの？」
「ん…？用がそれだけなら、回線切るぞ？」

女の心配そうな顔が俺を見詰めると、一方的に向こうから回線を切られてしまった。
俺は溜息を付き、伸びを一つすると、ハッチを開けコックピットを降りるためにワイヤーを下に垂らした。
俺が固定ベルトを外して、さあ降りようとしたその時に、目の前に男の面が現れた。
アルフ大尉とか言う奴が、ワイヤーを使って上がって来たのだ。

「おう、あんたか。このMS、なかなか優秀だぜ？勝手に動くんだからよ？」

優秀、と聞いてほころびかけたアルフの顔が、一瞬にして驚愕に変わった。
恐怖すらその表情から伺える程だった。





**■第八章 



「…EXAMを、発動させただと…!?」

アルフが俺の両肩を強く握って来た。
ノーマルスーツ越しにも関わらず、俺が思わず痛みを感じる程の力強さだった。
俺は痛みに耐え切れず、アルフの両腕を下から持ち上げ無理矢理肩から外した。

「この蒼いMSから降りると、コイツが勝手に動いて、俺を100㎜マシンガンで狙いやがったんだ！嘘だと思うんならな、後でガンカメラを調べてみろ！俺は殺されかけたんだぞ！」
「今、行う！…悪いが付き合ってくれるか…？事は一刻を争う…!!」

アルフの顔色は蒼白を通り越して最早土気色だった。
恐らく、奴にとって『EXAM』の発動と言うのは余程精神的負担が強い出来事らしい。
俺はシートに座り、ワイヤーを格納してからコックピットハッチを閉めた。
狭苦しい空間に、アルフの過呼吸気味の息遣いが耳障りに響いた。

「…ガンカメラの映像を、出してくれ」

俺は奴の言うまま、その部分を再生した。…俺は『俺』の顔を始めて見た。
…こりゃあオペレーターのお嬢ちゃんも面食らう訳だ。
優男。ユウ・カジマの俺の第一印象はこれに尽きた。
口惜しいが、俺の喋り方だとこの上品に取り澄ました色男の魅力が台無しって寸法だ。
映像を見ているうちに突然、画面の中のユウ・カジマがこちらを見上げた。
蒼いMSの起動に気付いた所だろう。
そして、見る者の背中が寒くなるような、凄みの有る笑いを浮かべた途端、カメラの映像が、突然乱れた。
俺は其処で画像の再生を停め、背中から覗き込むアルフに振り向き片眉を上げた。
アルフが深い溜息を吐いた。
人差し指で右のこめかみを揉みながら、奴は口を開いた。

「…オマエに、反応したようだな…ブルーは…。だが解らん…どうして、オマエは生きている？」
「…そんなに物騒なMSなのか？コイツは？EXAMは、そんなにヤバい代物なのかよ？」

確かに、『マリオン』の怯えっぷりは普通じゃあ無かった。
それに、アルフのさっきの反応もだ。

「…EXAMが発動して、生きて帰ってきたパイロットは、今の所、オマエ一人だ」
「…何だって？今、何つったテメェは？今、とんでもなく物騒な事をサラッと流したな!?」
「EXAMはオレにも解らない、云わばブラックボックスだ。オレに出来たのは、機体の制御からEXAMを可能な限り引き離し、この紅いスイッチで発動の制御を行うようにする事だけだった」

俺は自分が幸運の女神と不幸の女神の両方に魅入られた事をたった今、悟ってしまった。
この蒼いMSがただの高性能のMSでは無い、
パイロット泣かせ、いや殺しだと言う事を。
俺はアルフに微笑みかけ、口を開いた。…俺に今まで乗りこなせなかったMSは、無い。
ただ一つ、俺がこのMSを華麗に乗りこなして見せる前に確認しておかねばならない。

「で、そのEXAMってのは結局何なんだ？さっぱり話が見えねえんだが…？」





**■第九章 



俺がそう言った瞬間、アルフの奴は頬の辺りを引きつらせた。
目があからさまに俺を侮蔑していた。
どうやら馬鹿にされたらしい。…気に食わねえ。
俺は『マリオン』に聞いた事を思い切ってコイツにぶつけて、カマをかける事にした。

「…クルストって博士が作ったOSだとは聞いたが、OSが暴走しただけでパイロットがお釈迦になるワケがねェ。アルフさんよォ、隠し事はいけねえよ？」

アルフの頬が別の引きつり方をした。
痛い所を突かれたのか、奴の顔が苦渋に歪んだ。

「…そうだ。ジオンからの亡命者、クルスト・モーゼス博士が作った、『優秀すぎる』OSだ。博士はEXAMを完成させるために、連邦に亡命をした」
「オツムがジオン製じゃあ、連邦の機体じゃ合わねえワケだ…」

カムラは淡々と話し続けた。面倒臭いので俺的に要約すると、

・EXAMは、蓄積した敵の行動パターンを分析して、最適と見られる戦闘行動を選択する。
・その時、パイロットの意思を無視した行動を取ってしまうことがある。
・発動すると機体が機体最大性能で動いてしまうため、パイロットの身体と機体に過大なダメージを与えてしまう。
（そのためアルフはリミッターを機体とEXAMとの間に噛ませた）
・発動時に何故かパイロットが意味不明の言葉をつぶやいたり、恐慌状態になってしまう。
・今まで乗ったパイロットで精神も肉体も無事だったのは『ユウ・カジマ』ただ一人。
・EXAMを積んだ機体は博士の趣味で蒼く塗装されている。
・ジオンにもEXAM実験機が一台稼動している。

と、言う事だった。
俺は俯き加減に話すアルフの肩を右腕を廻して抱き、軽く叩いた。

「…オレを、殴らないのか？こんなMSに乗せた、オレを…許して、くれるのか？」
「要はコイツに乗ってる限り、俺は敵と戦えるんだろう？こんなに嬉しい事が他にあるかよ？」
「…そう言ってくれて、助かる。…死ぬなよ、ユウ少尉。オレのブルーを、頼む」
「おい、そう言やぁ、コイツの型番は何だ？最初コイツの『顔』見てGMだと思ったぜ？」
「前にも話したと思うが、ブルーは最初陸戦型GMをベースに造られたが、機体が持たなかった。そこで、陸軍管轄の陸戦型ガンダムを廻してもらい、カメラから上を交換した。GMフェイスは…」
「その名残ってワケだ。ゴーグルタイプの方が、周囲を確認しやすい。データ収拾にも役立つ」
「…そうだ。RX-79〔G〕BD-１、ブルーデスティニー。大切に、使ってくれ」

カムラは照れながら、自分でハッチを開け、ワイヤーを降ろしてコックピットを出て行った。
なんだ、イイ奴じゃねえか。ただ、人付き合いが下手なだけだ。奴は完全に信用できる。
俺一人がコックピットに残された格好になった訳だ。
これで、聞きたいことが『もう一人』に心置きなく聞ける訳だ。
俺は『マリオン』に心の中で呼びかけた。が、返事が無い。
どうやら『マリオン』はダンマリを決め込む腹らしい。
俺は唇を歪めて笑った。

『止めて、ヤザン大尉！それは…！』
「もう遅いぜ?!マリオォン！」

俺は黄と黒の注意ストライプに周囲を彩られた、紅いボタンのプラスチックカバーに拳を叩きつけた。





**■第十章 



俺の目は確かに、画面に表示された『EXAMSYSTEM』の紅い文字を読み取った。
俺の耳は確実に、虫の羽音の様な唸りと、『EXAMSYSTEMSTANDBY』と囁く機械的な声を聞いた。
その瞬間、俺の意識が…飛んだ。どこか自分の意識だけが抽出され、宙へ放り出されたかの様に感じた。

「何なんだ？何が起こったんだ！どうしてEXAMが発動している?!」

俺の足元で、アルフが叫んでいた。
足元、だと？
ふと自分の感覚を可笑しく思い、俺は自分の右腕を見た。
それは武骨な形をしたMSの腕で、蒼く塗装されていた。
強い風が、俺の体を吹き抜けてゆく。

『俺は…一体…どうなっちまったんだ…？』

頭の何処かで、少女の泣き叫ぶ声が聞こえた。
俺は少女の叫びに耳を澄ませた。怯えが、少女を支配していた。

『後ろから、怖い人達が来る！６人も！もう…嫌ぁァァァァ!!』

俺は振り向いた。３機の07と、３機の06が、『見えた』。
視覚では無い。例えるならば、皮膚感覚だ。
あのチリチリと焼けるような殺気が、俺を苛立たせた。

『解った！始末するから、泣くな！喚くな！怯えるな！…落ち着け、マリオン！その為に俺が居る！』

我ながら、ガラにも無い台詞だった。
童話の中の、姫君を守る騎士にでもなった様な気恥ずかしい言葉を吐いた俺は自分の精神が正気を保っているかどうかを一瞬疑ってしまった。

『…俺では無く、優男のユウ・カジマの顔なら、この台詞も案外似合うかもしれないな』

俺は苦笑すると、後ろを向き、殺気の元へと意識を集中させた。
体が飛ぶように軽く動く。
俺はこの感覚を非常に心地良い物として捉えていた。
それは、かつて感じたことの無い快感だった。
俺の意識がMSにダイレクトに伝わる。
MSが認識した物が自分の感覚の様に伝わる。
俺の乗ってきたどんなMSでも、こんな感覚を味わう事は無かった。

『一体どんな魔法だ…コイツは…』

…あの抜群に反応の良かった、『RX−139ハンブラビ』でさえも、このMSのもたらす一体感に比べれば、金属の鎧を何重にも着た鈍重な反応を返すMSと感じてしまう。
機体性能や機動性は比べ物にならないほどにハンブラビの方が高いだろう。
だが、そんなカタログスペックの問題ではない。
動かすのにスティックもフットペダルも必要としないこの快感は、とても口下手な俺には説明できない。

『来た来た来た来たァ!!カモが来やがったァ!!』

『俺』の視覚が、3機の07を捉えた。
俺はビームサーベルを両手に持ち、突進した。
07のパイロットの驚愕が、何故か俺には手に取る様に感じられた。

『うおおおおおおおおぉぉぉぉぉっ!!!死ねぇぇぇぇぇぇい!!!』

押さえきれない破壊衝動が、俺の脳裏を支配した。
真正面の07のヒートサーベルを持った右腕と、マシンガンが内蔵された左腕を一気に斬り落とす。
とどめに胸のバルカンの連射でコックピットを潰すと、07は呆気なく崩れ落ちた。

『まず一機っ！次はテメェだぁ！間抜け野郎がぁッ！』

俺は盾を構え、ヒートロッドを放とうとする右の07に『体』を向けた。
すぐさま腰部に装備されているミサイルを放ち、牽制した。07が無様にのけぞる。
俺は急接近してコックピットをビームサーベルで貫く。
今の俺には、このMSの事が総て『解って』いた。
装備している武器も、限界性能も、自分の体の様に『理解』していた。
俺は唐突に思った。
この感覚さえ『あの時に』有ったなら、『Z』に勝てたのでは無いかと。    </description>
    <dc:date>2006-07-18T03:14:17+09:00</dc:date>
    <utime>1153160057</utime>
  </item>
    <item rdf:about="https://w.atwiki.jp/yazan/pages/11.html">
    <title>ヤザン−ユウ 071-080</title>
    <link>https://w.atwiki.jp/yazan/pages/11.html</link>
    <description>
      **■第七十一章 



「悔しいのは俺も同じだけどよぉ…しっかしなあ…なんでそう怒るんだよ？たかがシミュレータで負けただけだろう…！」

ぼやく『曹長』の顎に向かって、俺の右腕が拳を作り、勝手に動いた。
俺には得体の知れぬ怒りの熱さが、ただ胎を焼く。
『ユウ』の怒りだった。
俺は『曹長』の発言に呆れ、後から『教育』を施す心算だったが、ユウの奴は人が優し過ぎるのだ。

「…たかがシミュレータだと？それが実戦を潜り抜けたお前の云う事か?!もっと恥じたらどうだ！このシミュレータは周囲の敵の存在など無い！実戦で体を苛むＧなど一つも無い！…純粋に自分の意志で戦場を『創る』事が出来る！」

殴られて吹き飛び、流れて行く『曹長』の襟髪を掴み、ＡＭＢＡＣ機動の要領で停め、自分の体をブルーの方向へと流す。
俺『達』は『元』宇宙戦闘機のパイロットだ。
この戦争で死んでいった奴等の中では宇宙で実戦を経験したパイロットとして『最古参』の部類に入る。
…ユウの奴は『曹長』の『危う過ぎる認識』に危機感を抱いたのだろう。
奴は心の底から泣いて感謝すべきだった。
修正が、この『一度きり』で済んでくれた事をだ。

とても『ヤザン・ゲーブル』の吐いて良い言葉とは到底、今の俺には思えなかった。
…俺なら追い討ちを駆けて膝をブチ込み、その後、許してくれと泣いて頼むまでＭＳ機動訓練を行わせる。
そうすれば、己の『甘さと鈍さ』を『曹長』も気付く事だろう。

「…カムラ大尉！プロジェクターの用意を！可能ならばシミュレータの映像を教育の一環として外部に出力したい！」
「…ヤザンでは無く、オマエ自身が『余興』を愉しむと云う訳か…良かろう。…オマエの腕前を診せて貰う…ユウ中尉…」

不貞腐れる『曹長』の前で、アルフの部下達が次々と機器を接続して行く。
口コミで話が広がって行ったのか、暇を持て余す奴等が集まって来る。
…連れて来た陸戦部隊の連中なんぞ、常に新しい娯楽に餓えている。
喧嘩騒ぎを軍艦で起こさないのは一重にヘンケン少佐の指導力の賜物だった。
…女性兵士の部屋に『お出かけ』をする以外ろくな『愉しみ』が無いとほざく奴等だ。
部隊にもこの艦にも女性兵士はゴマンと居るが…ほら、解るだろう？
ん？何がって？俺にこんな哀しい事を言わせるな…。
『大事な蒼い稲妻に付く悪い虫』を可能な限り、陰に陽に追い払い続ける、モーリン伍長の苦労は今も続いているのさ。

「ユウ中尉ぃー！目線くださぁい！あ！ヘルメット、まだ被っちゃヤですぅ！」
「退いて！アンタの薄汚い頭が入るのよっ！コックピットに座るエース…絵に為るわぁ…」
「ハイハイ！下がって下がって！そこ！ああ！触っちゃダメ！『私の』ユウはデリケートなんだからっ！」
「キタムラ伍長！五秒間ルールはまだ有効でしょう!?横暴よ！」

アルフの額に血管が膨れ上がる。
ブルーのコックピットの計器に女たちが触れる度に眼を剥いたりするが…当の群がる女性陣は
気付いても呉れなかったりするのが空しい。
コックピットハッチの強制閉鎖スイッチに手を伸ばすアルフを、俺は目配せで停める。

「知ってるかい？ブルーは曲がりなりにも軍機なんだがなぁ…オジョーサン達…？」
「フィリップ少尉！…殺されますよ？今の彼女達を止めると…？何せ対人戦の達人も居る事ですし…」

群がる若い女性兵士の嬌声に顔を顰める、何時に無く真面目なフィリップを、サマナが停めるのは珍しい。
逆なら解るのだが。

「俺は寝技なら負けん自身は有るぞ？ええ？サマナ君？」
「どんな寝技ですか！下品ですよ少尉！」
「サマナ君は小官を誤解しているなぁ？ジュードーの事だよ。…下品なのは君だよ、サマナくぅん？」
「…クッ…そう来ましたか…！そう…！」

騒ぎが一段落し、ユウがヘルメットを被るのを合図にコックピットハッチが閉鎖される。
一瞬、暗闇がコックピットを支配するが、
直ぐに人工の『星空』がモニターに瞬き出す。
さあ、魅せて貰おうか！ブルーの正規のパイロット、ユウ・カジマの戦闘を！
ただ…それがシミュレータなのは俺にとっては残念なのだが、な…。
『星空』に光が見えた。
…さあ、『ゲーム』の始まりだ！





**■第七十二章 



『光が見えた！解るか！』
「…当然！今回は黙って俺に任せて貰うぞ！」
『ほう…アレが解るのか…。満更でも無いな？』
「褒めて下さり、光栄！」

俺はユウの動体視力を軽視している訳では無い。
ただの確認だ。
スラスター光が判別出来るか出来ないかで、敵に対する初動が遅れてしまうのだ。
敵をやっと認識した頃に、初撃を喰らっている自称『ベテランパイロット』を俺は星の数程に知っていた。
その大半が…あの世逝きだ。
敵と、己の技量の底の浅さを、『舐めるから』だ！

「…直線的にッ！こちらもビーム持ちだ！舐めるなよ！白いの！」

急接近するRX-78-2に、ユウはビームライフルを撃つ。
しかし、計ったが如くガンダムは光条を紙一重で『避ける』。
『超反応』の仕業だ。
シミュレータはニュータイプの『動き』を再現する為に、操縦者のスティックとペダル、トリガーの操作を『読み取り』、回避動作を行う。
それが０コンマ下2桁、3桁以下で行われ、反映される。
これが先読みの正体だ。
そう…だから、突撃馬鹿では落とせん。
MS戦闘の戦術を『組み立てる』訓練には持って来いのシミュレータなのだ。

「フン…そう言う、事かっ！」

今の一瞬の攻防で、ユウはそのカラクリに気付いたらしい。
そのまま速度を落とさず通過するガンダムを、スラスターを使わず、AMBAC機動を使いブルーを振り向かせ、モニターの視界に捉える。
ガンダムが動き回っても、常に前面のモニターに捉え続ける技量は、戦い慣れた俺の眼から見ても感嘆の出来だ。
この時代のMSには、一部の例外を除いて『全周囲モニター』など搭載されて居ない。
どんなにパイロットが優秀でも、モニターの死角から攻撃されれば見えないまま攻撃を受ける羽目に為る。
常に標的を捉え続けるユウの凄さに、外のギャラリー達は気付いているだろうか？

「…無駄弾をッ！撃つなと！言っているッ！」

桃色の光条が4本、星空を貫く。
…ガンダムのビームライフルだ。
実は、ブルーとガンダムのジェネレーターの出力値は互角だ。
しかし、ブルーとガンダムには決定的な差異が存在する。
ジェネレータの『数』だ。
ブルーの排気口は、腹に一つ。
ガンダムの排気口は、胸に２つ。
…最低でも、それだけの冷却が必要と為る位の強力なジェネレーターを搭載しているか…
複数のジェネレーターを複数利用しているかと読み取らなくてはならない。
機体の性能を外観から推測し、判断するのも、パイロットの基本だ。
ユウは僅かに動き、ブルーの『上半身』を捻らせる。
…ガンダムの放ったメガ粒子の束が、正確に元のブルーの頭、左右の腕の有った位置を貫いて行く。
ユウはガンダムから最後に放たれた４撃目の光線を、急速回避する。

「もう少しだった！惜しいな！狙いが、解り易過ぎる！」

一撃、二撃、三撃目で敵を追い込み、最後の四撃目で必殺を期す。
並みのパイロットなら、一撃目を回避可能でも、二撃目はキツイ。
この時代のビームライフルは、ガンダム以外に連射可能なモノは先ず、無い。
ビームライフルの存在すら知らない
パイロットが下手をすると大半なのだ。
だから『曹長』は、落とされたと言っても過言では無い。
…奴が敵を、『舐めるからだ！』

「舐める舐めるとっ…機械如きに、俺とて舐められたくは無いッ！」

ユウが始めて、胸部バルカンと腰部ミサイルを放つ。
同時では無い。若干のタイムラグを創って、だ。
ガンダムは頭部バルカンとビームサーベルの『切り払い』で、ミサイルを回避する。
それがユウの狙いだった。
スラスターを全開に吹かし、前進するが…？

「先ずは腕だ！シールド獲った！『曹長』！見ているか！手強い敵は、先ずAMBACを封じるのが先決だ！」

簡単に『殺れた』筈のタイミングなのに、左腕を潰しただけだ。
なるほど…ユウは奴を『教育』する気らしい。
だがな…？そう巧く行かないのが世の常だ。
ガンダムを、いや、アムロ・レイの戦闘データを舐めると怖い。
…ガンダムは『喰らってから』が、怖いのだ。





**■第七十三章 



「速いっ！だが…負けんっ！」

ユウが唸った。左腕とシールドを持って行かれたガンダムの反応速度と射撃の正確さが、更に増したのだ。
そう、最初は小手調べなのだ。
シールドを破壊出来るか否かが、『次の段階』へのフラグだ。
機体に掠るか掠らないかのタイミングで、ユウが回避運動を続ける。
…巧い。だが、俺に言わせればこれが『シミュレータ』だからこそ可能な連続回避運動なのだ。
レッドアウト現象やブラックアウト現象を考慮に入れなくても済むのだから、パイロットにとって楽な事この上無いのだ。

「ここで…停まる！パターンを読め！相手は所詮、データだ！」

ユウがガンダムのビームライフル射撃を総て回避し（これには俺も驚いたが）、バルカンの連射を大型シールドで受けながら突撃し、機体ごとガンダムにブチ当てる。
ガンダムがそのチャージを受けたと見るや、自機のシールドにブルーのビームライフルの銃口を当て、そのまま撃った。
…その射撃はガンダムの右脚を破壊し、脱落させる。

「動き回る相手を狙い易くするには?!そう、動きを停めてやるのが先決だろう！」

…中々、やる。機動力を奪う作戦だ。
しかし…な？ガンダムの特性をまだ、解っちゃあ居ない。
…見て驚けよ、ユウ！

「…冗談も此処まで来れば、笑えんぞ…！連邦もカネに飽かせてっ！」

ガンダムの特性。
それは、Aパーツ・コアファイター・Bパーツの三部位で一機を構成すると云う事だ。
…なんとガンダムは、Bパーツを切り離し、さらに運動性を高めたのだった。
バックパックとコアファイターのバーニアを利用した圧倒的な推力は、ブルーの加速を僅かに上回っていた。
だが…ユウの狙いは正しかった。
左腕を先にもぎ取られたガンダムは、AMBAC運動を完全には行えない。
必然的に、その機動は単調な、予測可能な範囲に限定されてしまうのだ。

「…ここで！矛を奪う！」

ユウの口元が微かに綻んだ。
正確な射撃がガンダムの右腕を断ち切り、持っていたビームライフルを星空の彼方へと投げ出させる。
まだ見苦しく頭部バルカンで抵抗するガンダムを哀れむかの様に、ユウは伏目がちに腰部ミサイルで頭部を破壊する。
間髪入れずにガンダムのAパーツからコアブロックが離脱し、コアファイターに変形した所で…

「…悪いが、チェックメイトだ。…余興は終わりにしよう…御互いにな…」

ユウは静かにそう呟くと、ブルーの頭部バルカン、腰部ミサイル、ビームライフルで止めを刺した。
何もそこまで、と云う者も居るかも知れない。
だが、戦う者の、戦士のせめてもの礼なのだと俺は思った。
獅子、欺かざるの心だ。
…獲物は常に己の全力を尽くして狩らねば為らない。
何故か？
逆襲を…復讐を敵に許しては為らないのだ。
敵を生かして還してしまえばそれは負けに等しい。
自分の今の攻撃パターンを読まれて、さらに強力に為って還ってくるかも知れないのだ。





**■第七十四章 



「終わった…か？」
『待て！光が見えた！解るか!?…今度は俺の番、と云う訳か…俺と替われ、ユウ！』

ガンダムの撃墜でシミュレータが終了したと思ったユウがヘルメットを脱ぎかける。
しかし、『俺』はＭＳのスラスター光をモニターの端に捉えていた。
…シールドに『ALEX』と大書された…ガンダムタイプのＭＳが、こちらに接近して来たのだ。
アグレッサー（訓練時の敵役）を数多く引き受けた、教導隊出身の俺が見た事も無い機体だった。
その機体の力強いスラスター光とその数は、嫌でもその出力の高さと機動性能を俺達に思い知らさせる。
どうなっている？
ガンダムで、『余興』は終わりでは無かったのか？

「アルフ！どうなっている?!何があった!!この機体は何だ！」
「…俺にも解らん…。レーザー発信で手近な軍のアクセスポイントに接続すると…ＥＸＡＭが一瞬…起動しただけだ…」

アルフの台詞が終わると同時に、画面に機体名が表示された。
『ＰＬＡＮ：ＲＸ−78ＮＴ−１』。
ここまで表示されて、俺は戦時中の『噂』に思い至った。
連邦も『ニュータイプ専用機』を試作中だと言う噂だった。
ジオンのニュータイプ専用機の、『サイコミュ搭載機』は、軍上層部の情報統制にも関わらず、前線を戦う俺達の耳に入って来ていた。
兵士達の生存本能、生き残る為にあらゆるモノに貪欲と為る習性を上層部は『舐めていた』。
…当時の俺達は、対処法を待機中、皆で真剣に語り合ったものだった。
予測しない方向からビームが飛んでくるらしい、ソイツが居ると変な声がするから気を付けろ、など、半分冗談めいたモノも有ったが馬鹿にはしなかった。
…その当時の俺達には…総てが『真実（リアル）』だったのだ。

「アルフ…！コイツはガンダムの…ＮＴ専用機プランだ！ＥＸＡＭめ…味な真似をしてくれるっ！」
「…っ…外部音声・映像出力ダウンだと!?…復旧しろ！…オレは、オレのブルーの…戦闘を見届ける義務が有るッ！」

どうやら…『機械ども』は俺に対し、その全力を以て『潰し』に懸かって来るらしい。
余計な電力やコンピュータ処理すら、惜しいのだ。
…嫌われた物だ。いや、逆に言えば、好かれているのかも知れん。
総てに於いて『人間に対して無関心』と云う態度を崩さなかったコイツらが、俺一人のため『だけ』に此処まで『一年戦争の最高の舞台』を創り上げて呉れたのだ。

「フン！生意気な機械どもめッ！型遅れの最新型如きに、この俺を叩き堕とせると思うかよッ！」
『…ヤザンさん…気を付けてっ…『彼ら』は…ヤザンさんの『脳』の過負荷を狙っているのっ…』

俺は急に聴こえたマリオンの言葉に、ＥＸＡＭの特性を思い出す。
過大な戦闘情報をパイロットに送り込むシステムだ。
シミュレーターもその分、臨場感に溢れている。
機械どもが本気を出した＝リアルを再現＝もし俺が撃墜されれば…？

答えは、一つだ。

「安心しろ、マリオンっ！俺は負けんッ！何故なら…俺は…他のＮＴでも何でも無いっ…人間だからだッ！」
『ヤザンさん…』
「手助けは…要らんからな、マリオンっ…これは俺の力のみで解決する必要の…有る…問題なんだよッ！」

『体を借りている』ユウには悪いが、任せて貰おう。…これは俺に叩き付けられた挑戦状だ。受けて遣らねば男が廃る！





**■第七十五章 



ブルーのＥＸＡＭが、このＮＴ−１に反応し、発動した。
どうやら、そいつにＮＴが乗っていると設定したらしい。
…これで俺の持ち時間は5分。
随分と汚い遣り口だ。
どうしてもこの俺を『ＭＳ戦闘で負かして殺したい』らしい。
…御苦労な事だ。
唇に苦笑を浮かべたその時、何故か俺は強烈なＧを身体の前面に体感した。
俺は身構えて居なかったワケでは無いが、コイツは効いた。
よく言う『ヘビー級ボクサーの放つボディブロー並み』の奴だ。
…たかがシミュレータの癖に生意気な！

『ヤザンさん…！射出されたの！ブルーのＥＸＡＭが…本当に発動しているからっ！』
「…この宙域付近に、あの『中世気分の糞野郎』でも居るってのか、マリオン！」
『居ない…！居ないけれど…！もし暴走したら危険だって…艦長命令で…！』
「フン…！ガディの奴の判断か…。良い判断だよ！折角の新鋭艦を壊されては艦長気分も台無しだからな?!」
《…そう言う事にして置こうじゃ無いか、ユウ中尉。タップリ愉しんで呉れたま…敵襲だと?!ええい、こんな時に！》

ノイズの中、切れ切れに聞こえるガディの皮肉混じりの声の調子が一変した。
艦からのレーザー発信をブルーは、受け続けていた。
『機械ども』は艦のコンピュータの能力まで使って、シミュレータでこのＮＴ−１を動かしているのだ。
何故奴の声にノイズが混じって居るのか？
このミノフスキー粒子の濃度で、何故無線を使うハメに為っているのか？
それ位推測出来なければ、まあ、実戦ではまず使いモノには為らんだろう。
俺が特別に優秀だ、と言う訳では無い。

「フン！任せて置けよガディ！この死神、ブルーデスティニーの戦い振りを貴様に見せて置くのも悪くは無いな？そのジオンのお客サンは何機で来ている?…ただの哨戒小隊単位なら、ブルーの性能ならば何ら問題は無い!!」
《問題は無い、だと…！抜かせ！その暴走した機体で何が出来る！ＭＳ隊をただちにユウ中尉の回収に向か…》
《出すな！この艦を沈める危険性も充分に有るのだぞ！射出する前にビームライフルを外せとオレは言った…！》
「そう言う事だよ、ガディ！万事、俺に任せて置けば良い！心配なら、後は神様か何かに祈って居れば良い！アルフ！ブルーの初の宇宙戦だ！シャンパンを冷やして置いてくれ！後で連中と飲むからな！俺は！」

モニターの中のＮＴ−１がビームライフルを撃つ。
俺はシールドを構えながらギリギリで回避した。
これが実戦ならば、光線から漏れた重金属粒子がさぞやシールドに細かい凹凸を創り上げてくれる事だろう。
…流石は、宇宙戦闘機乗りの身体だ。
スラスター全開の後に逆噴射で急制動を掛けてＡＭＢＡＣ機動で方向転換しても、『俺』の元の身体同様に何ら問題は無い。
『Ｇ』に弱く三半規管が敏感なパイロットならば、一発で『天にも昇る様な気分で地獄行き』に為っている。





**■第七十六章 



「ユウ！ありがとよォ！身体を鍛えて置いてくれてなァ！」

間合いを取ろうとするＮＴ−１に俺がチャージを掛け、それを受けたＮＴ−１がまた間合いを取るため離れると云う機動が、繰り返される。
頭部と胸部バルカン砲を撃ちながらと云う所が肝腎だ。
リアルに造型して有るのならば放った砲弾の破片が機体の冷却機構を傷付け、少しは奴の強烈な出力を減殺してくれるかも知れんからだ。
…高機動仕様の14が穴だらけに為って流れて行った。
どうやら、ブルーは本当に砲弾を発射しているらしい。
『招かれざる客』もいよいよ到着したのだ。

「…手前等！邪魔だッ！遊びの邪魔なんだよっ！興を削ぐだろうがッ！折角追い詰めた所だと云うのにヨォ！」

悪いがゾクゾクする程、面白い。
実戦を遣りながら、俺自身はシミュレータ相手に遊んでいるのだから。
巻き添えを喰う奴らが間抜けなだけなのだ。
所詮は一度切りの人生なのだ。
最大限に状況を楽しまなければ、損以外の何物でも無い。

「明日など、要るかッ！今が有ればッ…！生きていると言う実感が無ければッ…死んでいるのと同じなんだよッ！」

ＥＸＡＭが発動した『ブルー』は、後の整備の事など御構い無しに出力全開で動いて呉れる。
それこそ全身全霊を以て、だ。
普通、ＭＳの消耗する部位はほぼ決まっている。
人間の体でも、普段は回復可能な領域までしか動かさないのと同じだ。
だが…ＥＸＡＭ発動時にはその消耗を想定された部位以外のパーツまでフルに作動させる。
後に回復し易い様に動く、などと生易しい事など全く考慮の外で、動く。
…俺がコイツを気に入った理由は此処に有る。
…正に『ブルー』は俺向きの機体なのだ。

「撃って来るかよ！そこでッ！」

ＮＴ−１が背を向けたまま、右腕だけ廻して、ビームライフルを三連射する。
ブルーのＥＸＡＭ発動後の出力でも、追い縋るだけでも辛い。
ここまで追い詰めたのが、回避する事により、また離される。
遠距離戦の撃ち合いでは圧倒的に相手に利が有るのだ。
だから、俺の採る戦術としては中・近距離戦のブルーの持つ火力を利用して圧倒するのがセオリーなのだが…!?

「な…ガトリングだとォ!?冗談抜かせ糞がァ！当たっちまう所だったぞ！」

静止したＮＴ−１に突進した俺の眼に見えたのは、右腕のカバーがパックリ開いて出現したガトリング砲だった。
それが火を放つ前に俺は辛うじてローリングし、回避する事に成功した。
ジオンの０９、スカート付きがすぐ前に迫る。
糞がッ！

「退け！死ね！手前等に構ってる暇など無い！俺とブルーにはっ…後…残り3分しか無いんだからなッ！」

非常に勿体無いのだが、そいつにビームライフルを御馳走してやる。
後々、機動の障害に為るとこの俺が困ってしまうのだ。
これで終わりならまだ良いが…今度は０６の高機動型だと?!
引っ込め旧型！
お色直しをしても結局は無駄無駄無駄無駄ァ！





**■第七十七章 



しかし高機動型の06は…何故か間合いの取り方が巧かった。
主兵装のマシンガンの特性を生かし、弾幕を張りつつ俺の『ブルー』と一定の距離を維持し続けている。
俺がそいつを追おうとすれば弾幕の中へ飛び込んでしまうだろう。
それを嫌う俺は『ブルー』を加速出来ない。
『いやらしい』戦い方をする奴だった。
…それ相応に、戦い慣れをした奴だ。

「退けぇ！奴が行っちまうだろぅがぁッ！」

業を煮やした俺がビームライフルをその高機動型の０６に向けた途端に、一筋のビームの黄色い光条が俺の眼前を横切った。
…シミュレータのＮＴ−１のものでは無い。
…視界の片隅に、妙なカラーリングの宇宙用０９、スカート付きが確認出来た。
その手の武装はジャイアント・バズでは無い。
…後期生産型の０９に装備された『ビーム・バズーカ』だ。

「…エースか！面白い！…構ってやるよ！お望み通りなァ！」

一年戦争時のジオンのビーム兵装は…ア・バオア・クーの学徒兵を除き優先的に『エース』に装備されてきた事を俺は教導隊時代の元ジオン軍関係者から嫌に為る程に聞かされて来た。
…連邦のＧＭの歯応えの無さに拍子抜けしたと言う屈辱的な揶揄の表現と共にだ。
物量の差をこうも言い換える嫌らしい根性に若かった俺はその都度、激怒したものだ。

「泣いて許して下さいと言っても許さんぞ！もう覚えたぞ、色付き！…っとぉ！」

下方からもう一機の高機動型の０６がヒートホークで斬りかかって来る。
俺は難無く斬撃は避けたが、流石にチャージは無理だった。
そいつにブルーの『脚』を組み付かれる。
糞がッ！ＮＴ−１が、あのシールドに書かれた『ＡＬＥＸ』が小さく…！

《カリ…ス…！…トー…！コイツは…エー…だッ！テスト機を…れて…退…しろっ！安心しろ…この…リィは…》

『お肌の触れ合い会話』で、通信の内容が切れ切れに聞こえて来る。
どうやら１４のテストのため、何処かの精鋭部隊が狩り出されたらしい。
見れば遠方の０６の肩の盾には『３０２』と部隊ナンバーらしきものが誇らしげにマーキングされていた。

「…３０２？ソロモンの哨戒中隊…！面白い！あのコロニー落としの外道どもか！死んだぞ貴様等ッ！」

俺は『アル・ギザ』にも居たのだ。
アルファ、ベルナルド、チャップ…！
あいつ等からデラーズ紛争の真相を聞いていた。
奴らの事、いや奴らの中の特定単数は連邦の新兵の教本にも記載されている。
俺は教本からそいつの名を削除する機会を与えられたのだ。
試験に悩む新兵達のためにもここは一つ、ただの宇宙の塵にしてやるに越した事は無いだろう。
…悪夢に為る前に、この俺と『蒼い死神』が悪夢を祓ってやる！…『ソロモンの悪夢』こと、『アナベル・ガトー』とやらを！




**■第七十八章 



俺と『ブルー』から距離を取った、ＮＴ−１がビームライフルを放つ。
…脚に０６を組み付かせたままではＡＭＢＡＣすらまともに使えない。
俺は撃墜する機体に優先順位を付ける。
…『ブルー』のリミッターが発動し、停止するまで…後…！
マシンガンを持つ、もう一機の０６高機動型に躊躇いが見えた。
…甘い！甘すぎる！付け込まれるぞ?!狡猾な敵に！
先ずは奴からだ！
折角僚機が俺の、ブルーの足止めに成功したと言うのに、射撃に躊躇してどうするかよ！馬鹿が！

「敵の前で、しかも、俺の目の前でッ！そんな迂闊な真似をッ！」

ブルーのスラスター推力は強力だった。
バックパックだけの噴射で、コマンドの付かない素のＧＭ並みの速度を得られた。
俺は脚に０６をへばり付かせたまま、その激甘ちゃんに吶喊する。
ようやく我に返ったマシンガン持ち06の、パイロットがブルーに砲口を向けたその時、俺はブルーの脚を下げ、その射線上に組み付いた06を露出させる。
…撃つか？撃つのか?!

「…決断が遅いッ！撃ったのは褒めてやる！ほら、持って行け！俺からのご褒美だッ！」

脚にへばり付いた06が着弾の衝撃で離れ、奇妙なダンスを踊った。
衝撃がブルーに一瞬伝わり、コックピットの俺の身体に心地良い刺激と為る。
残念だが、決断が遅かった。
それ相応の速度で、06同士が衝突する。
…兵士に為り切れん甘ちゃんが！
ＭＳ戦闘時に迷いは禁物だ！一瞬の判断が生死を分ける！
スティックとペダルを常に意識しておけ！これで２機は黙らせた！
さあどうする？『ソロモンの悪夢』？
眼前に『蒼い死神』の無慈悲さを見てブルッたのか？
このまま仲間を見捨てて逃げ…？

「来たなッ！やはり戦友は見捨てて置けんか?!色付き！…フン！『ＡＬＥＸ』、そいつと仲良く連携か！ビームでは俺は無理と判断か！だがなッ！この俺はなッ…お前らが想像する、データサンプルのッ、初心者どもでは無いんだよッ！」

09が青白く発光するヒート剣を抜き、ブルーに向かって来ると見せかけて、モニターの上端に移動する。…上方からの奇襲だ。
だが、そんな正直な行動は欠伸が出る程に読める。
…舐めているのか？連邦のＭＳ乗りを？…ここは一つ、教育せねばな！
俺はＡＭＢＡＣで即、上方を向き腰部ミサイルを2連射する。
…これくらい切り払えよ？簡単に出来るだろう？…あぁん？

「く、喰らうかよそれを！それも大事な大事な虎の子のっ、ビームバズーカを盾にして…情け無いッ！…拍子抜けだ！」

俺はもう、相手をする気を無くした。
どんなに喰い応えが有るか期待したが…この程度とは！ビームライフルでヒート剣を持った右腕を吹き飛ばす。
もういい。俺の相手はもう、ＮＴ−１だけだ。
俺は即座に、『ブルー』の左脚からビームサーベルを抜き、慣性を殺し切れずに突進する『色付きの09』の両足を膝から綺麗にスッパリ斬り落としてやる。
達磨にしてやれば邪魔も出来まい！止めに頭部バルカンでモノアイまで潰してやる。
…仲良くオネンネしていなよ？この『ブルー』、『蒼い死神』に狩られる『悪夢』でも見ながらな？
…胴体だけに為った０９の機体が接触する。
さあ、最大限に屈辱的な、イカす台詞でも聞かせてやるとするか！

「情け無いッ！鎧袖一触とはこの事か！この見かけ倒しの張子の虎がッ！」
《…蒼いＧＭ…二度と忘れんッ…！》
「ほう…？まだやる気かお前さんは？暢気に次が有ると思ってるのか？死にたいのか？アナベルちゃん？」
《!!…我が名を何故…!?》

俺がその暢気な台詞に思わずビームサーベルで止めを刺そうとしたその時、本当の俺の『敵』がビームを６発撃って来るのが見えた。
俺はすかさず『ブルー』をロールさせ、全弾『華麗に』回避する。
…悪いな？あんまり遅いんでお前を忘れていたよ、『ＡＬＥＸ』っ！！





**■第七十九章 



待っていたその時がやっと訪れた。
『ＡＬＥＸ』が俺にバックパックを向けたのだ。
そこから放たれる各バーニアの光の束が収束し、ＭＳ腕部、脚部各スラスターから延びる光条の数も数本になる。
それを目の当たりにした俺は唇の端に引き攣った笑みを隠せなかった。
『ＡＬＥＸ』を操る相手が素人ならば、俺は迷わずトリガーを引き絞っていただろう。

「ここで、俺にビームライフルを撃たせ…また回避する…！そして、またドッグファイトを誘う…だがなぁ！」

…他の『実戦経験のある』パイロットならば、尚更の事だ。
しかし…奴等、『機械ども』は『ＡＬＥＸ』にＮＴを、現段階では『１５歳か１６歳のアムロ・レイ曹長のデータを乗せている』筈なのだ。
さらに、奴等、『機械ども』のみの『力』だけでは、この『俺・7年後のヤザン・ゲーブル大尉』の例の様に、『未来から』人格・記憶を引っ張っては来れまい。

「この、俺を…生き残った、兵士を…こうも…舐めるなっ！餓鬼がぁ！」

Ｇに苛まれ、脳味噌が余り働かないのだと俗に言われている『パイロットの7割アタマ』でも、俺の思考速度や読みはＭＳを降りても変わらない。
…単純なのか、Ｇに強いだけなのか、身体が丈夫なだけなのか…それでも俺は、冷静さはともかく、明晰な思考と戦術の選択とを失わなかった。
ここで撃っては、相手の思うツボなのだ。
…『ブルー』の性能ではビームライフルのエナジーチャージ速度は『ＡＬＥＸ』にはとても敵わないだろう。
…相手は『ガンダム』の後継機なのだ。

「ヒャッハァ！捕まえたぞ！気分はどうだ？『ＡＬＥＸ』！怖いか？そうだろう！」

…俺はチャージ、体当たりを選択した。
興奮に頭を煮えたぎらせ、沸き返らせながらも、俺の身体は的確にスティックとべダルを操り、『ブルー』の左腕、右脚を『ＡＬＥＸ』の機体に背後から組み付かせて行く。
相手は実態が無いと言うのに、俺の体の感覚は『衝撃』を伝えて来る。
…『ＥＸＡＭ』の為せる業だ。
暴れ、もがき、必死に逃げようとする『ＡＬＥＸ』の動揺が手に取る様に今の俺には『解る』。
鼻歌でも出そうな気分で、俺はブルーの右脚部からビームサーベルを出し、右手に持たせる。

「…スラスターやバーニアを幾ら吹かせようとも！遅いんだよ！俺を殺せまい！幻影が！堕ちろ！」

頭では、この『ＡＬＥＸ』が機械ども、コンピュータどもが必死に為って創り出した幻影であり、支配下に無い俺への実体の無い刺客で有る事は理解していた。
しかし…この身体に伝わる衝撃、『ＥＸＡＭ』を通して伝わる動揺は…俺に『実体の有る敵』の存在を痛い程に伝達していた。
脅威は、プレッシャーは…潰して置かなければ！
ビームサーベルから光の刃が伸びる。
見慣れない…『蒼い』光条だ。
…何かが、おかしい。
頭の片隅でそう思いつつも、俺は『ＡＬＥＸ』のコックピットと思われる『胸部』にビームサーベルを突き立てようとする。
…胸部？何故だ？奴のコックピットは機体を見る限り腹部に…しかし『敵意』は胸部から…？
その時、俺の脳裏に強いイメージが飛び込んで来た。
目から大粒の涙を流し続ける…白い羽の生えた…裸の…少女の…だと…？

『…ヤザンさんっ、駄目っ!!止めてぇぇぇぇぇぇぇぇっ！』    </description>
    <dc:date>2006-07-18T03:09:49+09:00</dc:date>
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    <title>ＭＥＮＵ</title>
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      ＭＥＮＵ
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ＳＬＯＧ
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-[[ヤザン−ユウ 091-100]]
-[[ヤザン−ユウ 101-105]]

…続く    </description>
    <dc:date>2006-01-08T02:43:38+09:00</dc:date>
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    <title>ヤザン−ユウ 091-100</title>
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      **■第九十一章 



『ユウ…起きてる…？起きてるんでしょう？』

遠慮がちなノックと声が、閉じた頭上のコックピットハッチから聞こえて来る。
…モーリン・キタムラ伍長の声だ。
思えばこの所、『ユウ・カジマ』の俺が『仕事』以外でキタムラ伍長と話す機会は全くと言って良い程、無かった。

『ねえ…ユウ…返事をして…』

寝る時もブルーのコックピット。
起きている時はＭＳ関係でアルフ、戦闘行動ではフィリップ、サマナ、『曹長』と付きっ切り。
ヘンケン少佐と、宇宙に上がってからは艦長のガディも含めて作戦行動についてのＭＳ戦隊長としての意見具申。
食事は何時も戦闘食のハンバーガーをパクつき５分で終了。
トイレは水分補給を控え一日２回で計１０分。
ハッキリ言ってまともに仕事以外で『女』と話しているとすれば…寝る時に『マリオン』とだけだ。
シャトルの打ち上げの前に、自分の不安を誤魔化すためだろうか、サマナが冗談めかして言うには…

『ユウと僕はデキてるって陸戦隊の女の子の評判ですよ？ユウ・カジマの『受け』疑惑、って話も…ぶべら！』

まあ、俺は皆まで言わせなかったが。
ユウの秀麗なマスク、ストイックな態度が『女嫌い』を思わせるのだろう。
第一、下らん女などに関わっている暇が有れば、戦闘準備に全力を傾けている。
俺の高尚な趣味であるＭＳ戦闘に費やす時間の方が、俺にとっては至高の快楽なのだ。
まだ見ぬ未知の強敵のために、己の持てる全ての『力』を示すために！
そのためならば、俺は男の本能を、遺伝子の呪縛を断ち切る事など簡単に出来る。
その下賎な獣欲すら俺はＭＳ戦闘のため、攻撃衝動として利用するだろう。
…俺は誰にも、負けたくは無い！

『ユウ…？』

ユウとの約束が有った。
彼女にはユウ・カジマとして接してくれ、と。
しかし…本当に接したければ本人がやれば良い。
シャイだか気取ってるんだか知らんが、ここまで付きまとわれると正直、ウンザリしてくる。
毎回『マリオン』を宥めるのはこの他ならぬ『俺』、ヤザン・ゲーブルなのだ。
二ムバスからの『メッセージ』を受け取ってから、改マゼラン級『艦番８３』は丸一日最大船速で行動している。
俺の計算なら、もう半日で目的宙域に着くだろう。
これが最後かも、知れんしな…

「アルフに激怒されんうちにコックピットハッチから降りるんだな、キタムラ伍長！第一、お前が乗っていたらハッチを開けようにも開けられん！宇宙だから転がり落ちる心配は無いが、お前に怪我をされては…」

俺はユウにどう言い訳をすればいい？と言いかけて俺は口をつぐんだ。
感情のままに怒鳴れば、俺の正体がバレてしまう。
…マリオンの見せる『夢』が、俺の健全な精神状態を阻害しているのだろう。
熟睡が出来ないと人間は、得体の知れぬ焦燥感を抱き易い。
俺は深呼吸をし、心の中で自分に冷静に為る事を言い聞かせる。
…よし！俺は『ユウ』だ！

「…困るんだよ、モーリン。…今、ハッチを開けるから…」
『ごめんね…ユウ…』

トン、とモーリンがハッチを軽く蹴る音が聞こえた。
俺はハッチを開ける前に笑顔を作ってみる。
モニター映像を消して、パネルに顔を写して見るが…駄目だ！どうしても…哀しい位、『ヤザン・ゲーブル』の笑みだ。
獲物を前に舌舐めずりをする、荒々しく凄みの有る印象を与える、例えて言うなら、ハイエナの様な…狡猾な肉食獣の微笑だ。
…ええい！ままよ！
自棄になった俺はハッチを開放した。
…眼前に漂うモーリンの、俺を、ユウを見て綻び掛けた笑顔が、引き攣っていた。

「…どうした？モーリン…？」

まさか!?内心の動揺を押し隠して、俺はユウらしく尋ねた。
俺は正直…女は苦手だ。
何を考えているか、など…解らん。
だから、ＭＳを降りれば、女性には出来得る限り優しく、紳士的にして来た。
避けていたツケは…さぞかし高くつく事だろう。

「ユウ…！」

引き攣った笑顔から、キタムラ伍長はポロポロと、涙の玉を生み出していた。
なあユウ、俺は…これからどうすれば良い？





**■第九十二章 



「ど、どうした？いきなり怒鳴ったのは悪かった。だから泣くのは勘弁してくれ、キ…いや、モーリン？」
「『ブルー』に、貴方を獲られたような気がしてたから…やっと、振り向いてくれたって…！嬉しいのに…」

…う〜む。嬉し泣き、なのか？そんなに冷たく接してた…な。
出撃前、戦闘中、帰還後のオペレートでも徹頭徹尾、俺は仕事以上の会話はしなかった。
彼女を呼ぶのも『キタムラ伍長』で終わりだ。
モーリン、と俺、ヤザン・ゲーブルが呼び掛けるのは気が引けたからだ。
何処の世界に、他人の思う女性を気安く呼ぶ紳士が居ると言うのだろうか？
それも、当人の見ているだろう前で、だ。
ユウは俺のすぐ傍に居た。
地上でも、宇宙でも、だ。俺は卑劣漢では無い。

「こうして話せる時間が嬉しいのに…涙が…止まらないの…。どうして…こんなに…」
「…切ない、と云うのさ。そんな時は…」
「えっ？」

俺は若い頃に見た、ヴィデオディスクや本の知識を脳味噌の記憶領域をフル回転させて思い出す。
この脳味噌は現実にはユウ・カジマの所有物なのだが、何故か俺は求める記憶を拾い上げる事が出来た。
…男はタフで無ければ生きて行けない。
だが…『優しく無くては、生きている資格が無い』！
口数の多い男は俺の性には合わんが、この際仕方が無い。
俺がユウ・カジマで無い事がこの時点でキタムラ伍長にバレたりしたら…今度こそ撃たれるに違いない！

「これで、最後かも知れないと、キ…君が…心の何処かで思っているからだろう…」
「そんなこと…！私、信じてる！ユウは、私の『蒼い稲妻』は…エースだもの！きっと…！」
「きっと還ってくる、か？違うな。必ず、還って来ると云う保証は誰も出来ない。それが、戦争の真実だ」

人間の、他人の思い込み風情で必ず生還出来るのならば、戦場で戦死する兵士など誰も居なくなるに違いない。
皮肉では無い。誰だって、死にたくは無い。
やりたい事だって有るだろう。
ただ、それは戦う本人の生存欲求に直結をしない限り…強い思いなぞ糞の役にも立たんシロモノなのだ。
戦う本人の思いからして邪魔に為る場合だってある。
増してや他人の思いなんぞは…だ。
こんな事を思う俺は多分…人でなし、と罵られる類の人間だろう。





**■第九十三章 



「ユウ…」

しまった。完璧に…泣かした。
キタムラ伍長は、不安だったのだ。
だから、縋（すが）るモノが欲しかったに違いない。
相手がまだ子供に毛が生えたばかりの年頃なのをすっかり忘れていた俺の…ミスだ！しかし、まだだ！まだ…！

「しかし、俺は誓う。きっと、還って来る。君の、ために。泣き顔なんて、何時も笑ってくれていた、君には似合わない。俺が包囲されていた時も、機体を失いかけて途方に暮れて居た時も…何時も君は俺を明るく励まし続けてくれた…」

大嘘だ。
俺はそんな事は１㎜だって思っちゃあ居ない。
それにキタムラ伍長は切ない思いを『ユウ・カジマ』に向けて、必死にオペレートし続けていたのだ。
それを俺本人に向けられている、と誤解する程…俺は馬鹿では無い。
むしろ俺が本当に感謝しているのは…！

『ヤザンさん…今だけは…私の事は忘れて…。今は…モーリンさんのユウ・カジマで居てあげて…ね？』

優しいな、『マリオン』…。
ああ、解ったよ。済まない。
こうして客観的に見るとだ、お前の方が遙かに大人なんだと俺は思うぞ？
少なくともお前は目に見えて、俺に付き纏ったりはしないし、寂しいから、不安だからと俺を一々煩わせない。

『…それは、違う…！ヤザンさん、だから今は…』
「俺は、君にどう想われているか解らない。俺は…自分のベストをこれまで通り、尽くす。それで、君の元へ還って来られるならば…そうしよう。だが、それじゃあ、味気無い。やっぱり、笑顔で迎えてくれる女の子が居てくれる方がいい。君の笑顔を見るために、還って来るよ…モーリン…」
「ユウ…ユウッ！」
『ヤザンさんっ…私…私…そんな風に…想われてっ…』

辺りは乙女の涙で凄い事に為っている。
俺の今の言葉の、最後の名前だけは完全に異なると、解って欲しい相手に確実に伝わってくれた事が救いだった。
俺がキタムラ伍長に約束した事を守れるのは、多分今の肉体に関してだけだ。
ユウ・カジマが無事に還って来るためには…ＥＸＡＭＳＹＳＴＥＭをこの世から消滅させねば為らない。
それは多分、俺の、『７年後のヤザン・ゲーブル』の消滅を意味する事なのだ。
それと同時に…『マリオン』とも…

「!!敵襲?!こんな時に…！」
「モーリン、最後に為るかも知れない。オペレートを笑顔で、な？さよなら、モーリン…」

けたたましく警報の鳴る中、俺はキタムラ伍長をキャットウォークへと流し、その反動でコックピットへと戻りシートに座る。
名残惜しげな表情を見せ、ブルーを向いたまま、キタムラ伍長は遠ざかって行き、コックピットの俺からは見えなく為る。
俺はコックピットハッチを閉じ、深い溜息を吐いた。
今の今まで、忘れていた。
俺がＥＸＡＭを壊したら…俺はどうなるのか？

「フン！元より拾った命だ！好きに殺るまでだ！俺は不死身だ！殺されたって、死ぬものか！なあ、『マリオン』！」

少女のすすり泣く声が、聞こえる。
天使が静かに、ポロポロとただ涙を流すヴィジョンが『観える』。
…泣くな、『マリオン』。
逢うは別れの始めなり。人生離別無くんば、誰ぞ仁愛の重きを知らん？
俺がどうなろうとも…お前だけは、守って見せるさ…。




**■第九十四章 



《モビルスーツ隊、出られるか!?》

『ブルー』のコックピットに居る俺の耳に、聞き慣れたものとは若干違う声が響く。
…《ヤザン隊、出られるか!?》
出撃可能な状態を確認しているくせに、生真面目な奴はことさら俺に良くこうして回線を開き、語り掛けてきたものだ。

「ああ、ガディ！何時でも行ける！ＢＤ、ユウ・カジマ…」
《ＭＳ隊の把握をしろ！貴様は優れたパイロットなのは認めるが、聴力に問題があるようだな？自分は…》

ガディ・キンゼー。軍人だな？哀しい位に…。
だがな、この艦を堕とされる危険を最小限にするには、まだまだ、だ。
ＭＳ隊を一気に出すよりも、まず囮（デコイ）として単機を出撃させ、自艦に加えられる打撃を分散させると言う思考が出来んと、艦長としては失格だろう？
ＭＳを抱いて撃沈される恐れを無くしたいのも理解出来るが…年季が足りん。

《構わん！ユウ中尉、出ろ！本職、ヘンケン・ベッケナーが全責任を取る！少しでも、敵の注意を逸らすんだ！》
《ベッケナー少佐！艦長は自分です！…ブルーデスティニ—は軍機。軽々しく出す訳には行きません！》

ほう…。そいつがネックだったって訳だ、ガディ？気配りが行き届いているな？
しかし…遅いな？『奴』は何を…？
ブルーの背後のスペースに複数の機体が集った事が、接触回線や震動でコックピットの俺に伝わる。
通信回線が、開く。

『マギーの宇宙の処女を奪うのは僕ちゃん！さあ、行きますかユウ中尉どの！』
『フィリップ少尉…ですから純然たる軍の機材を私物化しないで下さい！遅くなりました、艦長！』
「あの馬鹿はどうした？ライトアーマーの姿が…!!」

カタパルトがゆっくりと射出位置に前進して行く音がする。
若干、それが長過ぎる様に俺には感じられた。最初からＭＳを乗せているらしい。
駐機位置で待つ俺達のＭＳのメインカメラに、その機体が映った。
調子外れの、フィリップの口笛が甲高く響く。
…それは確かに、俺達の知っている『曹長』のＧＭ・ＬＡだった。背中のＸ状の文字に組まれたユニットを除けば。





**■第九十五章 



『眉無しぃ〜？カムラ大尉にケツでも差し出したか？何だその…背中のスペシャルなバッテンは？』
『…カスタムメイド機のカスタムですか？それ、セイバーフィッシュのスラスターですよね？』
『ハッハァ！これで機動力だけでも『中尉』の『ブルー』にも負けネェって寸法ヨォ！先輩方ァ、どうよ?!』

フレーム上のスラスターをヒョィヒョィ動かして、自慢げにアピールしている『奴』に、俺は苦笑を禁じ得なかった。
案外、フィリップの言う事も冗談では無い様な気がしてくる。
この自由度の高いスラスターは、ＬＡの機動性をさらに高める事に為るだろう。
問題は…スラスターを背後に全て廻した時の全力加速にパイロットの身体が保つかどうかなのだが…。

『『中尉』ィ！お先に失礼！機動テストは実戦でやらせて貰う！ヤザン・ゲーブル、ＧＭＬＡ…何たら…出る！』

発進ランプがＧＯサインを表示したと同時に、カタパルトがＬＡを射出した。
ブルーの加速にも劣らない速度で、射出後の『奴』の機体のスラスター光が小さく為って行く。
…やれやれ、アルフ？駄々っ子に恰好の玩具を与えたお前の罪は重いぞ？
と、思った途端。通信回線がまた開く。
噂をすれば何とやら、だな？…オイ…何でお前がノーマルスーツを着ている？

《…ＨＭＣ…ハイ・マニューバ・カスタムだ。彼は高機動型も言えない位に興奮している。しっかり手綱を引くのだな…》
「アルフ！…俺を誰だと思っているんだ？馬鹿とハサミは、うまく使ってみせる！俺はヤ…ユウ、カジマ…だぞ？」
《…護衛を、頼む。オレはあの廃棄コロニーに、陸戦隊と乗り込む心算でいる。オレはＥＸＡＭの…アーキテクチャーを知らねばならん…解析するにしろ…破壊するにせよ…乗りかかったフネだ。見届ける義務が…オレには有る…》
《…ユウ・カジマ中尉。発進準備、願います…》

キタムラ伍長の哀しみの残滓を湛えた声が、俺が今はユウだと言う事実を認識させてくれた。
カタパルトにブルーの両足を乗せる。
…全てに決着が、付く時が迫っている。俺は唇だけで哂った。
さあ、俺を極上の技で愉しませてくれ、ジオンの兵士達よ！
発進ランプが点灯し、その瞬間、強烈だが、俺にとってはどんな感触よりも最高な圧力、Ｇが俺を包む。
これだ！この瞬間が心地良い！息詰まる衝撃！踏ん張る四肢！
そうだ！俺は、俺は闘いに往くのだ！
俺の力を、ただ誇示するためだけに！

《ユウ！必ず、還って来て！私の元へ！》

射出される瞬間、俺はキタムラ伍長の感極まった声を聞いてしまった。
…約束する。ユウ・カジマは必ず、アンタの元に返すさ。

この『俺』、ティターンズの精鋭の、ヤザン・ゲーブルの名に懸けて。





**■第九十六章 



《ユ…アルフた…と陸…を乗せ…ンチが発艦…コロニーに…援…！》

出撃した『ブルー』のコックピットに、ミノフスキー粒子が戦闘濃度で散布されている中にも関わらず、キタムラ伍長からの通信が切れ切れに届いた。
ここは想像力で補うとするならば…アルフの奴が発艦したのだろう。
それも、機動力の乏しいランチでだ。
陸戦隊の連中も支援のために乗り込んでいるのだろう。
俺の大切な『仲間』が、『戦友』が乗っているのだ。
…伝わるかどうか解らんが…！

「了解、モーリン！曹長、傍受が出来たならば、露払いを頼む！俺はランチの護衛に専念する。フィリップ、サマナは『艦番８３』を頼む！…俺達の還るべき場所を守ってくれ！聞こえたか?!」

数瞬のホワイトノイズの後、応答が有った。
ミノフスキー粒子の悪戯に、俺は結構泣かされたものだ。

《了解だユウ！フィリップ機、艦の右舷に付く！サマナ君は左舷！簡単に沈ませますかってんだ！なあ、サマナ君？ほら、姿勢制御が遅いぞ！ＭＳは丁寧に、やさーしく、扱わんとなぁ？》
《…女の子を扱うように、でしょう！言いたい事はそれだけですか？安心してくださいよ、ユウ中尉！》

フィリップ機とサマナ機は『ブルー』からさほど離れて居なかったのだろう。
比較的通信の感度、明度ともに良好だった。
問題は素っ飛んで行った『曹長』だ。
俺はモニターを望遠モードに切り替え、索敵を開始した。
程無く、ちょこまかと良く動くスラスター光と、数瞬後に浮かび上がる火球が視認出来た。
多分あれが…!?
立て続けに火球を3個生産したＧＭＬＡ・ＨＭＣが急速接近して来た。
一年戦争時の量産機体からは想像も出来ん速度を、背中のＸ字状のユニットが叩き出していた。
俺は通常モードにモニターを切り替える。

「早い…！アレがＧＭの加速か…!?あれではパイロットが保つものか！アルフめ…玩具を与え過ぎだ！」
《中尉、何だって？戦闘中で良く聞こえなかった！もう一回、頼む！》

Ｘ字状ユニットの各先端に装備していた全可動スラスターを機体の前面に向け、ＧＭＬＡ・ＨＭＣは俺の目の前で急制動を懸けていた。
スラスターユニット自体が独立して、機体のマニューバの支援に動く。
プログラムを組んだ奴を褒めてやりたいくらいだ。
少なくとも素人には、曹長には逆立ちしたって無理な話だろう。

「…アルフが倒れたら、お前の責任だな？『曹長』？御機嫌な機体に仕上がったのは、認める。通信には耳を澄ませて置けよ？連携が出来んと、お前一人が突出して、周囲から包囲されて死ぬ！一度しか言わんから良く聞け。アルフがあの廃棄コロニーにランチで陸戦隊とともに突入する。俺はランチの護衛をやる。お前は…」
《露払い、だろ？やっぱりアンタに怒鳴られないと、調子が出なくてね！了解！》

Ｘ字の先端、一部のスラスターが炎を噴いた。
ＧＭＬＡが急速反転し、ビームライフルを撃つ。
反転したその先には、０６高機動型が居た。
腹部に命中し、新たな火球が、生まれた。
速い！ＡＭＢＡＣを使わず、その速さで反転とは！

《中尉〜？油断してただろ？ここは…》
「戦場だ、ルーキー！あんまり派手に遣ると、優先的に狙われるぞ？周囲に意識を向けろ！ＭＳの装甲越しに殺気を感じろ！ご機嫌な玩具を壊されたくは無かろう！行け！行って連邦のＭＳ乗りの技量を示せ！」
《了解！待ってろよ宇宙人どもがぁ！こんな奴等、中尉の手を煩わせる必要など無くしてやる！先行開始！》

俺はブルーのビームライフルを装備していた右腕を背後に廻し、射撃した。
敵の１４が曹長を狙って、ブルーの背後から接近をしていたのだ。
一呼吸置いて、１４が音も無く、爆散する。
…接近する１４に、曹長は気付いて居たのだろうか？
…それとも、曹長を『試した』俺に華を持たせただけなのだろうか？
まあ、どうでも良い事だ。
俺はランチを右方に視認し、ブルーを接近させ、随伴を開始した。
曹長、忘れるな。
足りたと思えば、進歩はそこで止まるのだ。常に餓えていろ！





**■第九十七章 



俺はランチにブルーの右マニピュレーターに装備したビームライフルを接触させた。
シールドは左腕にマウントさせ、マニピュレーターには１００㎜マシンガンを装備させている。
チャージ時間と、消費エナジーを考慮するならば…この一年戦争時代は実体弾兵装の方が遙かに有効だ。

「ジェネレーター換装の御蔭か…？ＬＡのビームライフルのチャージ時間が短いな…」
『…火力と手数を上げんと、機動力の意味が無い。そう、テストパイロットに怒鳴られた…』

先行する『曹長』の機体のちょこまか動くスラスター光を確認しつつ、俺はアルフに接触回線で話しかけた。
まさか奴も、このままトリガーを引くとは思わないだろう。
何せＥＸＡＭ機だが、俺が乗っている事を知っているのだから。

「『曹長』に頼まれたのか？良い出来じゃあ無いか、アルフ」
《…覚えているか？技術者を庇って、最前線送りに為った時の事を？》
「突然何だ？それがどうかしたのか？」
《…覚えているかとオレは聞いている》
「昔の事だから、な。それ以後にも色々やらかした覚えも有る。一々…」

チクチクと俺の、いや、ユウの即頭部が痛む。
ＥＸＡＭの影響なのか、といぶかしむ俺の脳裏に、過去の情景が唐突にフラッシュバックする。
そうだ、俺は当時テストパイロットで…！先行量産機の開発を…！
最前線送りに為る切っ掛け！
確か量産機の開発を断りそうな技術屋の口を塞いで！
そして、若かりし俺の台詞…！技術屋の名前…！
フン、ＥＸＡＭよ！味な真似をするじゃないか！

『「引継ぎを喜んでやらせて頂きます」、と、カムラ大尉は言っておられます…。が、安心するのはまだ早い！違うぞ！アンタ達のためじゃあ無いぞ！コイツは前線の兵士のために引き受けるんだ！ザクと体を張って旧式兵器で渡り合う命懸けの連中のためになぁ！アンタ達みたいなモグラの頼みでコイツが動くものかよ！腐れ禿に頭の狂った出世魚のためになんか、動く奴じゃない！』

別れる時…そうだ…俺は…！
陸軍高官とアルフとの、密約を聞いて…！
確かガンダムの再設計プラン…！
奴はテム・レイと組んで連邦ＭＳを開発していて…！
そうだ！俺は何故…忘れていた?!こんなにも熱い…

『アンタがコピー品を作るのを引き受けたあの時、ルウムの敗戦隠しで貰いたくもない勲章の叙勲待ちで、俺は次の間に控えてたんだ。…全部聞いてた。…アンタの創ったＭＳに乗れるまで、なあに、俺は生き残って見せるさ！俺の腕前、知ってるだろう？…じゃあな…アンタの心意気に、俺は惚れたよ。…また何処かで、
逢おうや』

鼻の奥がツン、と来る。
涙なんぞ、いい歳をした男が、それもこの『俺』が、涙など簡単に流せるものかよ！

「…覚えていたよ、カムラ大尉。アンタの創ったＭＳに、俺は…いや、俺達は、乗っている…。あの時の、『曹長』が何故か『ブルー』のハッチのパスワードを知って乗り込んでいたのは…奴がユウに教えて貰ったのでは無く…」
《…オレが、教えた。何せＲＸ-79の、最初で最後、空前絶後のテストパイロット様だからな…。オマエや奴には、その資格が有る。そうだろう？『命知らず』？》
「…ああ！ああ！そうさ！その通りだ！良くやったぞ！『ヘボメカニック』！コイツは…最高の仕事だ！」

傍で聞いている陸戦隊の奴等や、ランチのパイロットには、金輪際、何の事を言っているのか解らないだろう。
だが、俺達には…あの情熱を共有した者には…解り過ぎる程だった。
偏見と蔑視を跳ね返すため、前線にＭＳを届けるため、俺達は乏しい予算と膨大な束縛の中、ベストを尽くしたのだ。
…一目見て、相手を理解してしまうＮＴには絶対に、この俺の感慨など理解出来ないだろう。
…しんみりしてしまった俺の眼に、目指すコロニーが大きく飛び込んで来た。

終焉は、近い。





**■第九十八章 



コロニーに接近した俺達２機のＭＳとランチ１機は、港に入港しているザンジバル級２隻を視認した。
『曹長』のＧＭ・LAが、『ブルー』の右肩を掴む。
接触回線で会話しなければ、通信を傍受される危険が有る。
搭載していたMSは大半が出撃中かも知れないが…常に最悪の状況を想定し、それを回避するために最善の行動を採るのが『真の軍人』たる証だ。

《『中尉』…港からは無理だ。どうやって内部に侵入する？どうせ廃棄コロニーなんだ。外壁を吹き飛ばして…》
「そいつは三流以下の回答だ、『曹長』。もう少しアタマを使って考えて見るんだな」
《オマエは馬鹿か？敵に発見されたらどうなるか、解って言っているのか？》
「アルフ…教育中だ。スマン。…曹長！北米に居た時、俺がお前をブルーに始めて乗せた時、俺はお前に何を読ませたか覚えて居るか？覚えていたらそんな台詞は出てこん筈だがな！それとも早くも忘れたか？ン？」

数瞬の沈黙が辺りを支配した。
与圧され、空気の充填されたコックピット内の各種ファンが廻リ続ける音だけが聞こえる。
もう、７年も聞き慣れた音だ。
…俺の居た『ティターンズ』は、ジオンの残党狩りに組織された。
当然、想定される戦場は、宇宙だ。
そして奴等の潜伏する恰好の隠れ家と為るのは…そう、各種コロニーだ。
当然、侵入方法は俺にとってはお手のものだ。
だが、この場合、『俺』が模範解答を示してやる訳には行かない。
『曹長』に施した教育の成果を確認して置かなければならないのだ。
…この戦闘が終わり、EXAMを全て破壊してしまえば、俺は…

《…このタイプのコロニーの、資料だ…。そうだ…港とは別に存在する点検坑！位置は確かコロニーの各所…！》
「そうだ曹長。その一つだ。作業用ポッドで開けられるノブ付きの、な。覚えて置け。侵入経路は一つだけじゃあ無い」

『曹長』の喜色溢れる歓声の回答は、俺の展開する陰鬱たる思考を破ってくれた。
そうだ。
今は、悩んでいる時では無いのだ。
戦場では、戦闘以外の無駄な事を考える奴の方が早死にする。
これは真理だ。
俺は…今、何を考えていたのだ？
俺がどうなろうとも、俺はここに生きて居るのだ。
生きている限り、為さねば為らぬ事を全力で行わなければならん。

「俺のブルーのマニピュレーターは見ての通り、両方とも武器で塞がって居る。一機で開けると、その中に潜む敵MSからの奇襲を受ける危険性が高い。MSでのコロニー侵入はだから三機編成がベストだ。しっかり覚えて置けよ、『曹長』！」
《三機編成の内容は何だ、ヤ…ユウ》
「一機が開け、一機が中の敵に対応。そしてもう一機が…」

最大望遠にしていた後部確認モニターに、俺はスラスター光を捕らえていた。
ビームライフルの有効射程距離、ギリギリにだ。
幸い発見された様子は無いが…侵入を発見されてはまだ、困るのだ。
あの光の拡散具合から…06の高機動型だ。
装甲は薄い。
コックピットを直撃させれば…時間は稼げる筈だ。
他に展開している敵MSの配置は、ビームライフルの射線光源を追跡可能な角度では無い。
そうなると俺の回答は、一つしか、無い。

「後方を監視、さ」

俺はビームライフルを持った『ブルー』の右腕を背後に廻し、撃った。
一呼吸後に火球が生まれる。
『曹長』の息を呑む、声に為らない声未満の呻きが、接触回線で聞こえた。
この調子では、きっとモニターでの後方監視を怠っていたに違いない。
調子に乗っていた、Gディフェンサーに乗っていた馬鹿なパイロットといい勝負だ。
素人に毛の生えた連中が良くやるミスだ。

「急ぐぞ。今のを発見された恐れが有る！」
《掴み難いんだよ…糞！よし、開いた！》
《…今のノブ解放モーションデータを、帰ったらマニピュレータの基本モーションプログラムに追加して置く…》

点検坑の隔壁が、開いて行く。コロニーの内部には何が、待っているのか？…二ムバス…何処だ？何処に居る？





**■第九十九章 



慣性の法則。
それは、今だ律儀にもこの廃棄コロニー内に重力の残滓を留めるに到っていた。
コロニー内に太陽光線を導くミラーが数枚破壊されて居るとは言え、自転を止めるには衝撃が足りなかったのだろう。
点検抗よりメンテナンス通路に侵入した俺達は『マリオン』の指示に従い、目指す建造物に『導かれて』いた。
無論、敵の存在をも知らされてはいたが。

『ヤザンさん…気をつけて…あの人が…居る』
「…俺に奴をどうして欲しいんだ、マリオン？」

『マリオン』は、俺にある『ビジョン』を見せていた。
優しかった、『理想的な軍人：二ムバス・シュターゼン』との記憶だった。
勿論、NTであるマリオンは奴の内包するコンプレックス、野心、プライド等、鬱屈する澱んだ感情が見えていた筈だろう。
しかし、ジオンの騎士と自称する奴は…クルスト曰く『少女の形をした戦闘能力の化物』に対し、飽くまで一人の普通の人間、いや、少女として接していたのだ。
少女をあからさまに差別する、クルストへの直言もあった。

『年端も行かぬこんな少女を戦わせて何に為ると言うのだ！私の様な優秀なパイロットが居れば事足りる！』

EXAMシステムに『取り込まれた』マリオンに最初に気付いたのも…奴…二ムバスだった。
最初は、奴も『マリオン』を解放するために戦っていたのだが、MS戦闘での破壊の魅力、システムの産み出すMSとの一体感に、当初の志を失いつつあった。
EXAM発動を完璧に制御可能に為った現在では、最早、奴の、『マリオン』の知っていた優しい大尉の面影は皆無に等しいに違い無い。
この『俺：ヤザン・ゲーブル』ですら、システムがもたらす闘争の快感に我を忘れて酔ってしまった程だ。

『二ムバス大尉を…助けて…』
「殺すな、と云う事か？難しいな！第一、俺は手抜きなんざ性に合わん男でな！強い相手ならば尚更の事だ」

俺の脳裏に、味方MSを斬撃で無慈悲に葬った蒼いＭＳの姿が浮かぶ。
血塗られた赤い肩をした、２刀を操るそのモーションは一分の隙も無く…美しかった。
堪えようも無く、ただ俺に『戦いたい』とだけ思わせた、あの無慈悲さ、華麗さ。
思い出せば口中に唾が溢れて来る。
思わず舌舐めずりをしてしまった俺は、『マリオン』の沈黙に気付いた。
…嫌われたな。しかし俺は…

『戦う事がどうして…そんなに楽しめるの？何も産み出さない事なのに…ただ、命を奪うだけの行為なのに…』
「…解らんだろうよ。戦う事を止めてしまったお前にはな…」

生き残る快感は、それを味わった事の無い人間にどれだけ言葉を尽くして語ったとしても、理解されない類のもので有る事は、俺はジャーナリストと名乗るだけの似非ブンヤどもとの付き合いで、嫌に為る位に実感していた。
…ジャーナリストと言えば…あの細目のセンスの悪い、白のスーツを着た若僧の事を思い出す。
奴だけは…口下手な俺の語る内容を、解ってくれた気がする。
ただ、頷き、『解るよ』と一言だけ呟いた奴の陰鬱で沈鬱な表情を浮かべた顔は…確かに戦闘を経験した兵士の顔だった。

『あの建物よ…あの建物に…』

モニターが一瞬、光度調整に因るハレーションを起こす。
メンテナンス通路を抜け、廃棄コロニーの内部に漸く抜けたのだ。
まだ、植物が枯れずにいる。
外の荒れ様が嘘の様に内部は傷んでは居なかった。
此処が、戦場で有る事を忘れてしまう程に。

《…到着したようだな…。この分だと、空気も水も有りそうだ》
《敵サンもな！『中尉』！あれか?!あれなんだな！目的地は！》

俺達は全ての始まり、ジオンサイド５秘密研究所を視認する。
連邦軍である俺達はついにEXAM発祥に地に辿り着いたのだった。





**■第百章 



「ハリハリハリハリハァリィ！早く降りんと背中から撃っちまうぞ、このクソッタレどもが！監視を怠るなよ！伍長！」
「陸戦隊突入班！ここが見せ場だぞ！しっかりユウ中尉にいいトコ見せんとな？俺達を連れて来て良かった、と言わせなければオトコが廃るってモンよ！なぁ、兄弟?!う…お先にどうぞ…レディファーストっす、中隊長…」
「アンタねぇ…オンナのアタシを捕まえて、兄弟は無いでしょう?!タマナシ！びびってんじゃないの！降・り・る・の！」

ランチから、第１１独立機械化混成部隊に残った、陸戦隊の連中がノーマルスーツを着て、小銃等の武器を持って降りて来た。
降りた者から、班毎に隊伍を組んで研究所の外壁に取り付く。
ランドムーバーを用意した者は屋上へ飛び、屋上の入口を確保する。
かく言う俺は、ブルーを降り、システム自体を落として、膝を付かせて駐機姿勢を取らせていた。
やはり、『仲間』だけに危険を伴う『作業』をさせる事は、俺の性に合わなかった。
『曹長』には機材監視、言ってしまえばＭＳ内にて待機を命じてある。
『俺だけ居残りかよ！』としっかり言ってくれたが、最重要任務だ、と睨み据えて云うとビビって黙ってしまう所がまだ…小物臭を感じさせてしまう。
まあ、場数を踏んだ分だけ、新兵よりはマシだが。

「…オマエも行くのか、ヤ…ユウ中尉…？」
「ああ、見せて貰うのさ。陸戦隊の実力をな？」

隊長格の兵士に、目配せする。…若い女だった。
確か…ケイだったか？名前は…？
そうだ。俺がブルーを地球の北米、キャリフォルニアベース近辺のミサイル基地で乗り潰した時に、ヴァネッサと云う同僚相手に『公私混同だよ？』と通信でたしなめていた事を俺は思い出した。
マズかったか…？
いや、ユウの甘いマスクで流し目は…完璧にマズイ選択だった…。

「アンタたち！ユウ中尉の前でアタシに恥かかせたら、どうなるか解ってるんでしょうね！」
《糞兵隊サン艦内マラソン３周か、女子更衣室で裸踊りか、三食抜きであります、マム！》
「生きてても死んでてもしっかりさせるからね！あと！アタシより先に死ぬんじゃ無いよ！解ったかい？」
《イエスマム！カワイイカワイイ部下達は全員、隊長殿の突入命令待ちであります！突入命令を！》
「了解！犬の様にお座りしてな！…陸戦隊突入班、ケイ・サカキ少尉以下３２名は、中尉の命令を以って突入を開始します」

眼前で繰り広げられた、下品な陸軍のノリを忘れたかの様に少尉は艶やかに微笑んでくれた。
…これだから、女って奴は怖い。
俺は上位者であるアルフ『大尉』を見遣る。
ノート型の携帯端末をしっかり抱え、奴は頷いた。
…上出来だ。恐怖に震えていない。

「アルフ・カムラ大尉の許可が出た。…では、第１１独立機械化混成部隊陸戦隊！突入！」
「突入命令受領！第一分隊、第二分隊、第三分隊！同時に屋上と正面、裏口の扉を爆破後、速やかに内部を制圧せよ！」
《イエスマム！３…２…１…爆破！》

轟音と共に入口ガラス扉が粉々に吹き飛んだと同時に、銃声が辺りに響き渡る。
ジオン兵が先に潜入して、待ち伏せていたのだ。
小銃が、俺の腕の中を目掛けて飛んできた。
どうやら屋上から投げてきたらしい。
間髪入れずに通信が入る。低い男の、声だった。

《姐さんを頼みますぜ？色男でエースのダンナ？タマナシじゃあなかったらの話ですが、ね？》

云ったものだ。
俺が昔、陸戦でライトアーマーを擱座(カクザ）させた時、敵中を拳銃一丁で突破した腕である事を知ったならば、そんな無礼な台詞は出て来ないだろう。
…もっとも、奴が傍に居たならば、俺はすぐさま小銃の台尻で脇腹を思い切り突いてやる心算でいたが…運の良い奴だ。

「私の傍を離れないで下さい、御二人とも！行きますよ！」
『ヤザンさん…気をつけて…中には…』

ああ、解っている。多分、居る筈だ。
俺を恋焦がれたかの様に待っている奴が居る事を。
…二ムバス！俺は来たぞ！    </description>
    <dc:date>2006-01-08T02:32:42+09:00</dc:date>
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    <title>ヤザン−ユウ 081-090</title>
    <link>https://w.atwiki.jp/yazan/pages/12.html</link>
    <description>
      **■第八十一章 



『何だ…此処は…？』

俺は、ブルーのコックピットに居た筈だ。
…星空。
妙に『蒼い』宇宙（ソラ）の中に、俺はシートに座った格好のまま、漂っていた。
俺は自分の身体を意識し、胸を見た。はだけた胸に懐かしい、ブルータートルのタトｩのシールがある。
着ているのは特注の、イエローのティターンズ仕様の軍服。
…間違い無く、『俺：ヤザン・ゲーブル』の身体だった。

『戦いだけが…ヤザンさんの出来る事じゃ無いのに…！』
『マリオ…ン…なのか？』

ヴィジョンで垣間見た、少年にも似たその姿態。
まだ『女』の特徴を備えて居ない、胸。
繁みの蔭りがまだ薄い、陰部。
俺と同じ人間のモノなのかと一瞬、疑わせる透き通る様な、きめ細かで、白い肌。
その背には…純白の翼が有った。

『罠を噛み破ったつもりでいないで！本当のＥＸＡＭの狙いは、違うの！』
『殺らなければ殺られる！それが闘争だ！違うか、マリオン!?俺はそうして、生き残って来た！』
『相手に実体が無いのを気付いているのに、どうしてヤザンさんはビームサーベルを発動させたの?!』
『チャンスなんだよ！奴を…ＡＬＥＸを墜とす、唯一の機会をパイロットとして逃せるか！』

俺は顔中を口にして、唾が飛び散るのも構わずマリオンに向かって怒鳴った。
マリオンの眉が悲しげに顰められた瞬間、俺はある事実に思い当たった。
待てよ…。俺はＡＬＥＸのコックピットが腹部に有る事を見抜いた筈だったが…!?

『…気付いて…くれた？…ヤザンさん…？』
『俺の『兵士』としての、『戦士』としての本能を機械どもは利用したと言う事か…たかがゲームに熱く、成り過ぎたようだ』
『此処は…何処だと思う？ヤザンさん？』
『さあな。俺にとってのパラダイスでは無い事は確かだ。…天使は居るが、敵が居ない』
『人は…解かり合える存在…そして…繋がる事の出来る存在…』
『俺は…俺は解かられたくは無い！理解される事は、負ける事だ！俺は嫌だ！理解されれば、俺は複製可能な、誰にでも替わりが勤まる存在に為ってしまう！本当の『消耗品』に為ってしまう！俺は御免だ！解られて堪るか！』

閃光と共に、宇宙（ソラ）の景色が収束して行く。
俺が最後に観た物は…マリオンの哀しげな表情だった。
喉の渇きが、俺を苛む。
ひり付く喉が水分を欲しがっているのだ。
…ビームサーベルの光の刃が見える。
もう少しで、俺は自分をコレで焼き殺し、宇宙のチリへと変えていたのだ。
タイマーのカウンターは何故か、俺が覚えていた時間のままだった。

「何だったんだ…アレは…？」

俺がビームサーベルを収束させると同時に、モニター、計器類の光が一斉に消えた。
タイムアップだ。ゲームオーヴァー。
しかし、俺は生きている。
…機械どもに、俺は勝利したのだ。
兵士に取って、生き残り、また次戦を戦う事こそが勝利なのだ。

「残念だったなＥＸＡＭ！俺は…俺は生きているぞ！生きて此処に居るぞ！ハッハハハハ！」

暗闇の中、俺は一人で笑い続けていた。
別にトチ狂った訳では無い。
ささやかな、機械どもに対する勝利宣言と言った所だ。





**■第八十二章 



俺が笑い狂っている最中に、突然、コックピットが揺れた。
どうやら、外部からの接触らしい。
敵だろうか？味方か？
俺は笑いながら計器を確認するが…完全に機能を停止したブルーのモニターやセンサーは、何も答えてはくれなかった。

『…中尉？どうしたんだ？何か可笑しい事でもあったのか？それとも…』

どうやらアルフの奴が気を利かせて、『曹長』のＧＭ・ライトアーマーを機能停止したブルーの回収に寄越したらしい。
接触回線（お肌の触れ合い会話）だ。
『曹長』、『若い俺：ヤザン・ゲーブル』の声が暗闇の中に響く。
それとも、の後は馬鹿でも想像出来る。
狂ったのか、と聞く気だ。
阿呆が、この位でこのヤザン・ゲーブルの精神が参ってしまうものかよ！

「ハン？至（いた）って快調だぞ？ルーキー？見たか？俺とユウのＭＳ戦闘を！シミュレーターでヒィヒィ言ってる餓鬼には、刺激が強すぎたか？ン？ところでジオンのお馬鹿さん小隊どもはもう撤退したのか？俺は確認出来んのだ。計器ぐらい、読めんとは言わさんぞ若僧？さあ、俺にその足りん脳味噌で教えろ。可及的速やかにだ！」
『言いたい放題言いやがって…。自信満々だよな、いつも…。俺は本当にアンタに為れるのか、イマイチ自信がなくなって来たぜ…。目の前にダルマになった09が居るが、どうする？止めを刺すか？スコアは当然、俺のモノになるだろ？』

アナベル・ガトーの09の成れの果てだ。
幻影のＡＬＥＸとの戦闘の巻き添えを食った、哀れで間抜けなな連中の一人だ。
後のデラーズ紛争の芽を摘むのには、『曹長』に『撃て』と一声、命令すればそれで終わりだ。
しかし…それでは困る。
ティターンズが成立しなくなるのだ。
83年代からの唯一の連邦軍実戦部隊、ティターンズが無くなれば…『曹長』の経験を積む場所が無くなってしまう。
実戦で得られる『緊張感』は、訓練では絶対、再現出来ない類のものだ。
俺の目的は…！

「…放って置け。残飯漁りに興味が有るなら無理は言わん。浅ましく俺のお零（こぼ）れを頂戴しろ」
『けッ！そこまで言われて、『ハイそうですか』と頂く俺、ヤザン・ゲーブルだとアンタは思うのかよ!?』
「違うのか？フン、成長したなルーキー。勿体無いが、褒めてやろう。だが、実戦は違う。敵は殺さねば、な」
『…アンタってイマイチ、矛盾してるよな…。あ、ああ、撃たないよ！…怒ってるのが解るってのも嫌な気分だぜ…』

未来のコイツにＺを撃墜させる事だ。
そのためならば、何人死のうが犠牲が出ようが知った事では無い。
個人的な良心、連邦軍人としての良心は痛むが、それだけだ。
ここで09を落とせば、極端な話、Ｚは居なく為ったも同然だ。
エゥーゴも過激な行動を取らなくなるだろう。
そしてヤザン・ゲーブルは…！
飽くまで仮定の話だ。
俺は戦士で居たい。
死ぬまで。いや、死んでも、戦士でいたい。
戦い続け、そのスリルに身を置いていたいのだ。
それこそが…俺を俺で居させてくれる。

「シャンパンは冷やして有るだろうな！ブルーの宇宙戦の初勝利だ！後でデータ、見せてやるからな、『曹長』！」
『へーへー『中尉』、精々楽しみにしときます…っと、フィリップ少尉、サマナ准尉、そおっと頼みますぜ！」

俺はその『曹長』の言葉に興味を抱き、コックピットハッチを開放した。
格納庫で、フィリップとサマナのＧＭに丁度、ブルーが抱きかかえられて支えられる所だった。
…俺は、生きて還って来たのだ。
ブルーとともに。そう、仲間たちのところへ。





**■第八十三章 



祝勝会はごく簡単な、パックの配布で終わった。
…宇宙空間で、それもＭＳデッキで瓶詰めのシャンパンなんぞ開けた日には、清掃だけでかなりの労力を割かれてしまう。
ましてや『ブルー』の整備に『命』を懸けるアルフはそんな『暴挙』を金輪際、許可するワケが無い。
奴は『ブルー』をオーヴァーヒートさせたとネチネチ小一時間嫌味を案の定…垂れ続けてくれた。
それを見るに見かねたキタムラ伍長の援護射撃は逆にアルフの逆襲を喰らい…彼女は泣いて出て行ってしまった。

「…アルフ…ブルーの緊急停止は俺の責任じゃあ…」
「…皆まで言うな。頭が痛くなる…。オカルトだな…。それより、軍医のメディカルチェックは済んだのか？」
「あのセンセイ、苦手なんだよ…丸っきり俺を珍獣か実験動物か何かだと思ってる」
「それか狂人扱い、かもな…。無理も無い。幻覚を見たとしか、事情を知っているオレにも思えんからな」

俺は咥（くわ）えていたスパークリングワインのパックのストローを口から離し、思い切りむせた。
やはり、コイツに話したのが間違いだった。
ガンカメラを再生中に、『どう見ても、ＥＸＡＭのオーヴァーヒートでは無い様だが』とアルフが言うので渋々、マリオンに『遭遇』した話をしたのだ。
その途端、アルフの奴…コックピットの中のメディカルパックの無痛注射器の中身を確認したのだった。
…オイオイ…俺はジャンキーではないし、第一、クスリに頼る程、軟弱でも無い。

「…アタマがメルヘン風味にイカれた訳では無いさ。だが、俺は見たんだ！白い翼を生やした少…」
「ここに居たのかねユウ・カジマ君！捜したよ！」
「…ハサン軍医…彼の脳にＥＸＡＭのもたらす、悪影響は出ているのか…？」
「糞、アルフ！俺を売ったな！ＭＳを降りてまで、モルモット扱いは御免だぞ！」

ＥＸＡＭは大量の『情報』を俺の五感に送り込む。
俺の、いや、ユウの脳が耐え切れる方が事実、不思議な程なのだ。
メディカルスタッフなど何時、乗せたのかとアルフに怒鳴った俺は当然…医者嫌いでも有る。
強化人間を連想するのだ。
ギャプランに乗っていた時もそうだった。
当時、強化人間よりも優秀な成績を叩き出す俺に興味を持ったのだろうか、
オーガスタ研から来た白衣の奴等が血液やら髄液やらバイタルサインやら、俺の全てをモニターして行ったのだ。

「待ちたまえユウ君！何処へ行く気だね！」
「あばよハサン先生！コックピットに用事が有るんだ！済まないな！」
「ヤザン！まだブルーは整備中だ！…後五分くれ！」
「？ゲーブル曹長は就寝中の筈だが？カムラ大尉？」
「…軍医…オレに栄養剤を下さい…。どうやら疲れているようだ」

…マリオン。お前は人間…だよな？俺はまだ、人間で居たいんだ。
俺は人間以上の者には為りたくは無いんだ。
何故、翼など生やす？何故、自分自身で有ろうとしない？
…俺はそれを伝えるために、『ブルー』のコックピットを目指し、整備デッキ内の無重量空間を真直ぐに流れて行く。
遙か下からハサン軍医の大声が聞こえて来る。

「このままシステムに依存し続けると、君の脳に重大なダメージが残る事になるのだぞ！」

…その前に、決着は付ける事が可能だろう。
俺の眼前で『ブルー』の両眼が赤く輝いた。
奴が、二ムバスが…居る。





**■第八十四章 



その瞬間、俺を誘（いざな）うが如く、ブルーの胸にあるコックピットハッチが勝手に跳ね上がる。
俺に今すぐに乗れ、と云わんばかりにだ。
…ヘルメットに装着する各種ケーブルが漂っていた。
何故かそれは俺と『ブルー』とを繋ぐ鎖に見えた。

「…お前の方から、俺を呼ぶとはな、ＥＸＡＭ…」

俺が数本のケーブルの中から最初に撰んだのは、『赤』のケーブルだった。
ヘルメット後部に有る『ジャック』にコネクターを差し込むと…ある光景が『観えた』。
補給艦、『コロンブス』の艦隊だ。
護衛は数十機の『セイバーフィッシュ』。
ＭＳも数機、居る。
先行量産型ＧＭの宇宙用、通称『Ｅ型』だ。
まあ、補給部隊だからな？二線級の兵力で護衛していても不思議では無い。

「何故…こんなモノを見せる…？」

訝（いぶか）り、怪訝に思いながらも俺は次のケーブルをヘルメットに接続すると…聞き覚えの有る声が聴こえて来た。
それは二ムバスの、声だった。
しかし、それは俺が知っている、いかにも大仰で憎憎しげで高慢ちきな喋り方とは違っていた。

『隊長！ここであの部隊を見過せば…！味方の後背が危機に晒されます！我が部隊の戦力を全て傾注すれば…！』
『二ムバス中尉！隊長は私だぞ！部隊を、キシリア様より預かったこのＭＳを、無駄に損耗する事は許されんのだ！』
『…味方が、危機に陥るのです、隊長！同じ理想を掲げる。我がジオン公国の同胞が…』
『くどい！…あの部隊の先に展開しているのはドズル中将隷下の部隊！我々には関わりの無い事、予定通り撤退する！』

これは多分…『奴』の…二ムバスの…記憶だ。
そうに違いない。
確かあの時、ＢＤ-３強奪時には、クルスト博士は奴に『大尉』と呼びかけて居た筈だった。
見ている光景は宇宙。
そして周囲に居る０６は高機動ＴＹＰＥでは無い０６Ⅱに、旧型の０６も混じっている。

『貴様の様な屑が居るから、戦争は終わらぬのだ！消えろ！』
『…よせ！二ムバァァァァァァス！な、お、お前達まで…や、止め…うわああああああああああ！』

オイオイ…部隊の皆で隊長を撃っちまうのかよ…それも隠密の偵察行動中に…？
軽率過ぎるんじゃ無いのか？これじゃあ…

『クルト…?!オネーギン…！サイラス！ドネルまで…！何故…何故お前達まで撃ったのだ！』
『ずっと俺達は一緒にやって来ただろう？なあ、『騎士の中の騎士』殿？これで隊長はお前だ。さあ、どうする？…決まってるよな？』
『…済まない…。では、行くぞ！『薔薇騎士団（ローゼンリッター）』、全機突撃！目標は敵、輸送船団！』

何て絵に為る光景だ！
まるで宣伝映画でも見ている気分に俺はさせられた。
ここまで仲間に恵まれた奴がどうしてああもイカレた雰囲気を漂わせるのか？
…まあ０６の５機編成なら、腕のイイ奴ならば殲滅には梃子摺らんだろうな…ってオイ、コロンブスから出て来るのは…！
ＧＭじゃ無いか！それも新型、現行機種のＲＧＭ−７９だ！
…墓穴を掘ったな、お前ら？殺された隊長こそ、幸せだったかも知れんな？

『理想も理念も無い連邦の雑兵どもに、俺達、『ジオンの騎士』が遅れを取るものかよ！なあ、二ムバス！』
『ああ、我等こそがジオンの理想を体現する、『撰ばれし者達』なのだ！こんな雑魚如きに、我々が…！』
『ドネル…ドネルッ！糞！奴等！１機に５機がかりで！待ってろ、今…!?』
『クルト、危ないッ！』

助け合いながらも、０６はまた１機、また１機と撃墜されていった。
二ムバスが最後の補給艦を撃沈した時、辺りは残骸が漂うのみに為っていた。
…ジオンのアナクロニズムに被れた奴等のくせに、中々、やる。
俺は真剣にそう思った。
物量を質で凌駕する奴等は、俺は個人的に嫌いでは無い。

『はは…やったぞクルト…？クルト…どうした？』
『…悪いが、一発喰らっちまった…。俺の機体は持つが、生憎俺の身体は持たんみたいだな…？』
『何を言う、クルト！私が艦まで連れて帰る！待っていろ！そんな物、かすり傷だ！』

突然、目の前のビジョンが消えた。
訪れた暗闇に戸惑う俺に、声のみが響く。
…現在の、ブチ切れ感タップリの『奴』の声だった。
…二ムバスだ。

「…連邦の闘士よ…！私はサイド５、××バンチの廃棄コロニー付近の宙域で貴様を待っている！勝つのはジオンの騎士たるこの私だ！」

…ああ、解ったよ騎士様。
このビジョンの続きはきっと、戦闘中に『ＥＸＡＭ』が見せてくれる事だろう！
しかし勝つのは俺なんだよ！悪いな！





**■第八十五章 



「カムラ大尉、『中尉』は眠ったか？」
「ああ…。コックピットで眠っているだろう。しかし、彼が完全にオレの事を忘れているとは思わなかったが…」
「７年前の出来事なんてなぁ、思い出す方が難しいさ。『中尉』は歴戦のパイロットだぜ？『中尉』が覚えているのは、どっかの誰かさんだか知らんが『技術者を庇って激戦区へ異動命令を喰らった』事だったがね…」

『ブルー』を見上げるアルフ・カムラは、若干眩しげに目を細めた。
ＲＸ−７９、そして、ＲＧＭ−７９の隠れた開発功労者である『テスト・パイロット』が現れたのだ。
アルフは男に向き直る。
…そう、若き『ヤザン・ゲーブル曹長』に。

「…久し振りだな？『命知らず』…。ジオンの『ザク』を超えるＭＳは約束通り、完成させたぞ？」
「フン、『パイロット殺し』がよく言うな？一緒に無能な奴等を叩きのめした事を、俺はまだ、忘れてないぜ？」

陸戦型ガンダム。
ＲＸ−79が短期間で開発されたのには理由が有った。
ＲＸ-78の候補は一機では無かった。
宇宙軍主導、空軍主導、海軍主導、海兵隊主導、そして陸軍主導で、開発が行われていた。
結局、宇宙軍の強くプッシュするタイプが『ＲＸ−78』のナンバーを与えられ、現在はその開発者の息子が大戦果を上げている。

「失われた…機体の…つもりだったが…偶然とは怖ろしいものだ。レイ大尉が行方不明に為り…廃案となったオレの…プランが見直されるとはあの時…夢にも…思わなかった…。それは今…こうして『ブルー』となって…」

遠い目でアルフはまた、『ブルー』を見上げる。
まだ艶やかな装甲が、マット塗装をしているにも関わらず照明を鈍く反射していた。
鮮やかな『蒼』がアルフの目を射す。
陰鬱な表情が常の、アルフの口元に珍しく、微笑みが浮かぶ。

「コンペティションの悲劇、アレが無けりゃア決定的だったさ。アンタの候補作とレイ大尉のプロトタイプ。アンタの奴に乗ってた奴が、間抜けにも外に出なくて、そしてプロトタイプの故障による『コアファイターの脱出』と云う、恰好のデモンストレーションさえ、無ければな…。そして、あの間抜けがプロトタイプの爆発に巻き込まれて…」
「死んで居なければ、か。全ては仮定に過ぎん…。ともかく、能力と腕を疑われていた当時、進んでオレのＲＸ-79に乗ってくれたただ一人の『まともな』テストパイロットが、オマエだよ…『曹長』。今でも、感謝の言葉も無い」

『ブルー』を見上げたままのアルフから視線をそらした『曹長』は、ニヤリと笑って駐機したままの宇宙戦闘機を見る。
ＭＳ格納庫兼、宇宙戦闘機格納庫。
多分使われないままであろう『セイバーフィッシュ』が2機、員数合わせのために配備されている。
…独立部隊の体裁をでっち上げるための『書類的処置』だろう。
贅沢な事だと『曹長』は思った。
一言で言えば『無駄』そのものだ。
しかし、今回はそれが生きるのだ。
『曹長』はもう少し、思い出話を続ける事にした。





**■第八十六章 



「レイ大尉が居なくなった途端、お偉いサンは掌を返したように『量産型を君に頼みたい』だからな？断ろうとしたオマエの口を塞いだこの俺に感謝すべき所を、なんと嬉しい事にまぁた最前線送りにして…戦闘機乗りにした…」
「フン、オマエが高官の事をモグラやらハゲ頭などと云うからだ。最前線を戦う兵士のために開発をしているんだ、と云うオマエの主張は間違いでは無いが、お役人に染まりきった軍高官には面白くは無いだろうよ、『曹長』…。そんな話を持ち出して、一体このオレに何をさせたい？それは『ライトアーマー』の整備よりも大事な事なのか？」

アルフは『曹長』を睨み据えた。
『曹長』も睨み返す。
数瞬の沈黙の後、どちらとも無く笑い出す。
ＲＸ−79のテストの際には、この後には必ず罵声の応酬、そして拳と脚蹴りを交えた会話が始まったものだった。
『反応が鈍い』と言えば、『オマエの操作が繊細さに欠ける』、『装甲を削りたい』と言えば『機体の剛性を下げる気か低脳』と、それはもう、日常茶飯事であった。
…別れの日が、テストパイロットの任を解かれた『曹長』の即時異動が発令されるまでは。

「ライトアーマーの、機動性を上げたい。出来れば…『ブルー』を超える『速さ』を手に入れたいんだ…。今の俺で、『中尉』に勝てるとは思えん、だが、せめて、機体性能だけでも追いつきたいんだ！…頼む、カムラ大尉！」
「…プランは？考えて居ないオマエでは無いだろう？『アレ』を使うのだな？それに、修理用のこの戦艦のフレーム…。出来ない事では無いが…大丈夫なのか？オマエの主張する『信頼性』に著しく欠けるのだがな？」
「俺は宇宙戦闘機乗りだ！想定されるGはかなりのモンだが、構うものかよ！推進系の計算ならやってある！」
「…見せてみろ、オマエのプランを。話はそれからだ」

『曹長』は無言で紙資料をアルフに手渡した。
下手糞な図が目に飛び込んでくる。
×字上に組まれた戦艦のフレームの一部と、『セイバーフィッシュ』から取り外したスラスターが組まれた姿がそこに描かれていた。
『曹長』はこの装置をライトアーマーのバックパックに連動させる気らしい。
ソフト解析も可能なBDチームを乗せ、工作機械も揃っている戦艦ならば…

「半日だ。半日呉れ。悪いが、テストは実戦に為るかも知れんがな、『下手糞』。それで良いか？」
「頼んだぜ、『ヘボメカニック』！信じてるからな！」
「ヘボは余計だ、この馬鹿が…」

『中尉』が指示した目的宙域への到着までには間に合うだろう。
これは絶対、徹夜仕事になる。
アルフは喜び勇んで走り去る『曹長』の背に静かに微笑みかけた。
恩は返すぞ、と遠ざかる姿にそっと、囁くように呟いて。





**■第八十七章 



…これは、俺の夢だ。
見て直ぐに解る。俺は眠っている。
そうだ、夢だ。
…いや、過去の記憶だ。

『よくもお兄ちゃんを…！覚えてなさい！いつか必ず…殺してやるから！ティターンズの犬！』
『俺は犬では無いぞ、お嬢ちゃん？ヤザン・ゲーブル中尉だ。敵の名前ぐらい、キチンと覚えて置け！』

００８５、サイド１、３０バンチ。
当時既にティターンズに入っていた俺はガス注入には参加をしなかったが、胸糞の悪い作戦だった。
コロニー内で決起した暴徒に『無力化ガス』を注入する名目で、かなりの部隊が動いていた。
俺はと言えば、その効果確認を命じられ、2人の部下と共にハイザックで潜入していたのだ。
潜入する際、味方が運んでいたボンベを視認した。
表示用の塗装を剥がされてはいたが、その形状は俺の頭の中に叩き込まれていた物と同じだった。
『Ｇ−３』。

『…鎮圧だと？…これでは唯の虐殺だろうが！ダンケル！ラムサス！…解って居るな？俺達は軍人だ！』
『ハイ！ヤザン隊長！急ぎましょう！通信を傍受したら、ガスの注入準備は終わったそうです！』
『速やかに民間人を逃がす！了解しましたよ！ゲリラの巻き添えにはしたく有りませんからね！』

あの当時のティターンズ…少なくとも、30バンチが始まる前のティターンズ主流派には、真っ当な理念が有った。
スペースノイドとて連邦市民であり、最小限の犠牲で済ます。
それを忘れては居なかった。
…この事件で、強硬派が実権を握ってしまった時から…ティターンズの理念は地に堕ちたに等しかった。
…規格外れの俺が言うのも、難だが。

『ベイトの奴に連絡しろ！港の一部を空けて置けってな！マスコミに漏れるのを恐れて、目撃者と為った民間人を奴等は皆殺しにする筈だ！Ｇ−３を撒く奴等に軍人の良識など期待するなと言って置け！俺は少しでも多くを…』
『隊長！何を…』
『コロニーに穴を空けて、ガスを逃がすんだよラムサス！ダンケル！お前はベイト達と共に港を抑えろ！行け！』

俺はハイザックの全武装をコロニーの『窓』に向けて発射した。
…コロニー公社が緊急警報を流すのを期待しての事だ。
期待通り『窓』は割れ、一切合財を外の『宇宙』に吸い出される『穴』が出来上がる。
…これで少しは時間が稼げる筈だ。
俺の目の前のモニターに、少女が流れて行くのが見える。
14歳位の、髪の長い娘だ。
俺はマニピュレータで娘を捕まえ、保護する。
…今にして思えば、ただの気まぐれだったのかどうか、解らない。
どの道、あの世の贖罪など期待しては居ない。
俺は軍人だからだ。
人を飽きる程、殺して来た。沢山、殺した。
１人の罪の無い人間を救ったからと言って…許しなど期待はしない。
俺に出来る事は…少しでも『無駄な』犠牲を少なくする事だけだった。
…殺しに慣れている奴の方が、巧くやれる。

『…頭を打ってはいない様だな…。運の良い娘だ…」

被っているベレー帽と巻き上がるチェックのロングスカートを必死に押さえていた御蔭だろう。
丁度ジュードーの『受身』の体勢でハイザックのマニピュレータに『ぶつかった』のが功を奏した。
俺は止せばいいのにハッチを開き、怯える少女を抱えコックピットに連れ込み、リニアシートに座りハッチを閉じる。
…俺が、救ってしまったのだ。毒喰わば皿までの心境だ。

『なんて事すんのよ！ティターンズ！コロニーに穴を開けるなんて…！』
『お前の名前は！お前の家族が危ない！今、このコロニーにガスが注入されているんだ！黙って補助シートに座れ！』
『!!…ルー・ルカ…』

気の強そうな目付きで俺に突っかかって来た娘は、俺の剣幕に押され、黙った。
…当然だ。俺は子供だろうが餓鬼だろうが女だろうが、スペースノイドだろうがアースノイドだろうが容赦はしない。
そいつらは俺と同じ人間で、赤い血が流れているからだ。

『隊長…！アレを…！』
『糞…！間に合わなかったか…！』

…それは悪夢だった。
元気そうに歩いていた子供達が、喉を掻き毟り、首から血を流して倒れて行く。
ベンチで愛を語らっていただろう若い男女が、嘔吐を繰り返し、白目を剥いてのたうち回る。
生物と云う生物の命が、俺の目前で風前の灯火の如く、揺らめき、そして消えて行く。
…全天周囲モニターは残酷だ。その全てを映し出す。
補助シートに座った少女は、肩を震わせ、泣いていた。
静かに…すすり泣くでも無く、ただ、涙を流して…。
それを俺は、美しいと思った。怒りからの涙と、悟ったが故に。





**■第八十八章 



『…そん…な…』

少女が、やっと言葉を発した。
遙か眼下に見える、のたうち、痙攣する少年に見覚えが有るのだろう。
口に手を当て、信じられない、と言った蒼白な顔をしている。
…元より大理石の如く白い肌をしているのだが。

『知り合いか？…済まんがもう、手遅れだ…』
『助けて！お兄ちゃんを…助けて！』

俺は懇願する少女に首を左右に振った。
Ｇガス散布下の大気中だ。
ノーマルスーツを着用している俺はともかく、この少女は酸素マスクすら持っては居ないのだ。
少量のガスに、皮膚が触れるだけで死に至る。
Ｇガスが旧世紀のＶＸガスよりも更に凶悪な性質を持っている事を教導団時代に俺は、叩き込まれていた。

『…俺に出来る事は、早く楽にしてやる事しか無いんだよ…』

俺はハイザックにビームサーベルを握らせた。
俺のハイザックは、マシンガン装備だ。ジェネレーターの出力の関係上、ビームライフルとの併用は当時は不可能だった。
…近接武器が強力な方が、俺の性に合う。
俺はスティックを操り、ゆっくりとビームサーベルを少年に近づける。
俺の意図する行為に気付いた少女が俺の右腕に縋って必死にスティックから引き剥がそうとする。
…俺は、無言で少女を振りほどき、全天周囲モニターを構成する壁面に叩き付けた。
そして迷わず、苦しむ少年をビームサーベルで炭化させ、塵にした。
少女はその一瞬の光景を…細大漏らさず目にしていた。
少女の秀麗な顔は、怒りに歪んでも…綺麗だった。

『よくもお兄ちゃんを…！覚えてなさい！いつか必ず…殺してやるから！ティターンズの犬！』
『俺は犬では無いぞ、お嬢ちゃん？ヤザン・ゲーブル中尉だ。敵の名前ぐらい、キチンと覚えて置け！』

俺は敢えて、少女に名乗った。
これから少女は、天涯孤独の身と為るだろう。支えと為る物が必要となる。
当時の俺が家族を殺された恨みを晴らすために軍に入り、生き残る術を身に付けた様に、この少女にも…怒りを向ける対象が必要な筈なのだ。
…だが、この少女、ルー・ルカはガスを散布したティターンズ兵の顔を知らない。
ティターンズは少女の華奢で優美な細い腕で倒せる程…情け無い軍事組織では無いのだ。

『俺がティターンズに入ったのはなぁ！ジオンが俺の家族を皆殺しにしたからだ！借りを返しただけだ！』
『…だからって…だからって…！何で…何でなのヨォッ！』

俺を憎む事で、生きる支えが出来るのならば、俺は喜んで憎まれよう。
それが俺に出来る、精一杯の事だ。
俺を殺そうとする目的のためならば、どんなに辛い事でも耐えられる。
そしてその経験は…お前の血肉と為り、生き延びる力と為るのだ。
少女は泣きながら俺に縋り付き、拳を、膝蹴りを、打撃を…俺の身体に浴びせ続けた。

『離れろ！この反応は…敵か！』
『エゥーゴが…！来てくれた…！アンタもこれまでね！ヤザン・ゲーブル！』

俺は補助シート目掛けて少女を振り払った。
ポスン、と少女は呆気無くシートに落ちる。
俺は少女に向かって歯を剥いて、憎憎しげに哂ってやる。
…悪役を演じるのも、悪くは無い気分だ。道化を演じるのも、久し振りだった。





**■第八十九章 



『06の高機動型が３機…？情報は本当だったのか…おい！交戦の意志は当方には無い！住民の…３０バンチ市民の生き残りを…民間人を保護した！スペースノイドの大義を標榜する団体に任せたい！』
『た、隊長…?!それは利敵行為そのものです！』
『ラムサス！お前も港に向かえ！これは命令だ！いいな！』
『…了解！ヤザン隊長、ご無事で！』

俺は掟破りの、接触を試みる。
…俺一人ならば何の問題も無いが、民間人を乗せている。
むしろこいつ等に保護して貰った方が、少女にとって幸せだろうと判断したのがその理由だった。
少女は信じられない、と云った顔で俺を見つめていた。
…それはそうだろう。とても『俺はティターンズだ』、と見栄を切った男の台詞では無い。
ビームサーベルを収納し、マシンガンまで置いて見せた俺のハイザックに…高機動型06は発砲を開始した。

『…う、嘘…！何で撃つわけ?!』
『フン！信用せんのは当たり前と言う事か！ティターンズは貴様等よりもまともな軍事組織なのだがな！』
『二重の意味で困るのだよ！３０バンチは墓標と為らねばならんのだ！ティターンズは飽くまで虐殺者で居て貰わねばならん！我等スペースノイドの大義のためならば、多少の民間人如きの犠牲は止むを得…』

コイツは本物の『ジオンの亡霊』だ。
デラーズ紛争を引き起こしたテロリストどもの正統後継者だ。
それならば生かして置く必要は…これっぽっちも存在しない。
俺は置いたマシンガンのストックをハイザックの足で踏んで起こし、マニピュレーターに装備させ、正面の06に向けて発砲する。
命中確認！…この、アマチュアがぁ！

『…子供のお前にも解り易く解説してやろう！お前は頭の悪いこいつ等にとっては、かなり邪魔な存在なのさ！お前がティターンズの俺に助けられた事実もそうなんだが、エゥーゴが実は事前にＧガス攻撃を察知していて、それを看過していたと言う事実を知ってしまったからなぁ！しかし馬鹿な奴等だな！高度な政治と云う物を、全く、理解して居ない！』

左右同時に掛かってきた06を、俺は右腕に装備させたマシンガンと、左腕に装備して、即座に発動させたビームサーベルを交差させ、仕留める。
…何処かで見ているだろう、エゥーゴのプロパガンダ部隊は、歯噛みしている事だろう。
何せ、今のは、映像栄えがするＭＳ戦闘だからな！
…俺の今の戦闘は『魅せるため』の教導団の技術だ。

『どういう…こと？』
『ン…、お前みたいな綺麗な娘に、涙ながらにマスコミの前で『ティターンズの非道』を語らせれば、即、俺達は外道認定をされる。…俺はこの民間人にも累を及ぼした、大量殺戮行為を許せん。だからお前を譲ろうとしたのだが…奴等は千載一遇の好機を逃がしたって寸法だ。…自分の高価値が理解できたか？ルー・ルカ？』
『…顔に似合わず…アンタって頭良いのね？』
『…ティターンズは一応、エリート軍人の集団だ。最も、軍人思考しかやれん連中がこんな事をしてくれたがな？』

これからどうするの？と云う顔で少女が俺を見る。
…俺の解説は少女の好奇心を刺激したらしい。
…先程まで、哀しみと怒りを抱いていたのが嘘の様だ。
…ん？背後にもう一機か！フン！偵察型風情が俺に敵うモノ…!?

『…隊長！ヤザン隊長！お見事でした！でも…俺はそんなに力不足ですか？』
『命令違反だな、ラムサス・ハサ？…港はどうなっている？押さえたか？』
『アル・ギザが後２０分で入港するそうです！ヤザン隊長には『障害排除』を願いたい、との事です！』
『障害排除って…？ティターンズがティターンズを敵にするのッ?!』
『大人の世界は複雑なんだよ、お嬢ちゃん！舌噛むなよ！』

無茶な事を言うものだ、あの艦長も…。
最も、一度死んだ事に為っているだろうから、怖い者など何も無いに違いない。
さらにこれを引き起こした『脳味噌筋肉野郎』のバスク派には恨み百倍の口だからな！
やって見せるさ！味方殺しをな！





**■第九十章 



その後俺達は、港に着いた『アル・ギザ』とともに脱出し、艦長の伝手で少女を『ラビアンローズ』に預ける事にした。
脱出の際、少女を乗せて派手に暴れた俺は、どうやら少女の進路を決定する事に寄与したらしいと風の噂に聞いた。

『きっとアンタより腕のイイＭＳパイロットに為って、必ず殺しに来るから！ティターンズのヤザン・ゲーブル！』
『期待しないで待ってるぞ？お嬢ちゃん？最も腕試しの途中で、俺以外の誰かに堕とされるかもしれんがな？』
『アンタがそれまで生きてるって、保証も無いけどね！…ぁりがとぅ…』
『はん？何か言ったか？じゃあな！頑張れよ、エゥーゴのルー・ルカ！』

『ラビアンローズ』で別れてから、不幸なのかツイているだけなのか…それから一度も少女とは遭遇しては居ない。
しかし何故俺は久し振りに、『夢』を見ているのだろうか？
何時も、何も見えなかった筈なのに…。
疲れて、いるのか？

『…生き延びる意味を…探しているのね…？ヤザンさん…。待ってる人が居るって…信じたいから…』

映像が消え、暗闇だけの視界に、『マリオン』の声が響く。
俺は目覚めているのか、眠っているのか、解らない気分に為った。
苦笑のイメージを作ると、暗闇だった視界が宇宙（そら）を写す。
妙にその宇宙は蒼く、星々は光り輝いている。

『命を奪う事は罪だろう。しかし…俺にはそんな生き方しか、出来ない。他の誰かの犠牲でしか、生を実感出来んのさ』
『それを罪だと解るヤザンさんにしか…出来ない事だって有ると…思うの…』
『気休めは良いよ、マリオン…。もう、静かに眠らせてくれないか？何度見ても、気分の悪い夢なんだ、アレは』
『それは嘘。私には…わかるもの』

天使が背中を向けて拗ねているのが見える。
俺のアタマはもう、何処かの回路がイカレているのかも知れん、と真剣に思った。
妄想にしてはクリアで、俺は正気を保っている。
第一、本当にイカレて居る奴は自分の精神の正常さを疑ったりはしないだろう。
俺は…俺だ。俺は自分の体を意識する…って、何で『俺自身』の、ヤザン・ゲーブルの身体なんだ?!

『私は、ヤザンさんに目覚めて欲しい…。そして…私と同じ物を見ていて欲しいの…。こんなに綺麗な…生命の…』
『止めろォォォォォォォ!!』

俺は叫ぶと同時に完全に覚醒した。
見えるのは何時もの、狭苦しい『ブルー』のコックピットだ。…全く…こうなると、あのハサン軍医の戯言も信じたく為って来る。
俺の、いや、『ユウ・カジマ』の脳の限界が近づいているかも、知れない。
その証拠に、今は全く、ユウの意識の発動が感じられない。
…『ブルー』、『マリオン』、俺にお前達は何を見せたい？    </description>
    <dc:date>2006-01-08T02:10:45+09:00</dc:date>
    <utime>1136653845</utime>
  </item>
    <item rdf:about="https://w.atwiki.jp/yazan/pages/10.html">
    <title>ヤザン−ユウ 061-070</title>
    <link>https://w.atwiki.jp/yazan/pages/10.html</link>
    <description>
      **■第六十一章 



ＭＳの互換性への挑戦。
アルフ・カムラ大尉は俺に軽く微笑み、そう言った。
２号機のコックピットの内装は完全に『お釈迦』になり、脚全体のジョイントも馬鹿に為っていた。
宇宙用の半分お飾りみたいな脚で地上戦を戦ったのだから仕方が無いと言えば聞こえは良いが、メカニックの苦労を思うと鬱に為る。

「…何！溶接する？馬鹿かオマエは！完全に交換だ！手間を惜しむな！弛んでいるぞ！…オレのブルーだぞ!?…手抜きなどユウ中尉が許しても、このオレが許さんからな!!」

３号機で逃げた二ムバスの奴も今頃、同じ思いをしているに違い無い。
３号機の左のマニピュレータを洗うジオンのメカニックに同情する。
血が乾いたら、取れにくい事この上無いからだ。
俺達は『クルスト博士』だった肉塊を直ぐに回収し現地部隊に引き渡した。
現地部隊の指揮官がやけに嬉しそうだったのが引っ掛かったが…まあ、戦争だ。
仕方無い。いちいち良心など期待しては戦えん。

「…何だコレは…！…地上用と宇宙用のフレーム構造の差異などオレは付けて居なかったのだがな…！やり直しだ！オレが作業の監修をする…！…ブルーは美しくなければ…！」

アルフが部下に怒鳴って居る。
『諸般の事情』で、手抜きが有ったらしい。
納期に間に合わせる為に、連邦軍の組織全体が後に良くやるように為る、『裏金づくり』の構図の一幕だ。
俺にとっては珍しくも何とも無い出来事だ。
…３号機はクルスト博士がＥＸＡＭのために仕上げた機体だ。
こんなあからさまな手抜きなど無かったと信じたい。
飽くまで俺は、二ムバスの３号機と『同じ条件』で殺り合いたいのだ。

「ジェネレーター？…３号機は新型を使った?!糞！…こちらも同じ奴を乗せろ！型番幾つだ！機体データは残って居るのか!?…見せろ！オレのブルーは全てに措いて完璧で無ければっ…！」

日頃は無口なアルフが、人の変わった様に饒舌に他人と喋っている。
フィリップやサマナも、あれには驚いていた。
『あの何分の一の情熱を、俺のＧＭにも注いで欲しいね…』
『ブルーは特別ですから…』
と格納庫中のキャットウォークに設置された落下防止柵に凭れながら、２人は呆れている。
その２人のＧＭは、今は無い。
…近々始まる『ソロモン攻略戦』に向け『宇宙用』に改修される予定だった。
その機体が無事２人の元に還って来る保障は無い。
別の兵士が使用するかも知れないのだ。
…丁度その下では『曹長』がうろたえる事務屋に、とても聞くに堪えない悪罵の限りを尽している。

「ライトアーマーは俺のモンだ！一度廃棄扱いにしてんだろうが?!違うかコラァ?!」

と結局『曹長』は、ゴネ得を勝ち得た。
書類関係で一度廃棄扱いにされたのが思わぬ功を奏したのだ。
宇宙・地上両用に設計、開発されたコイツが手元に残るだけで、俺が『曹長』のためにどんなに安堵したかは表現する言葉も無いほどだ。
勿論、装甲、ジェネレータもアルフが責任を持って『監修』するそうだ。
機動性能とビームライフルの発射速度が上がるのは、『曹長』にとっては朗報だろう。
俺はまだ、動けない。
『ブルー』が再び立ち上がるまで。
『ブルー』の『ゴーグルアイ』をふと見上げると、その奥のツインアイが瞬いた気がした。
…俺の胸が急に切なさに痛み出す。
誰かに恋焦がれるかの様に、だ。
…『マリオン』の声を無性に聞きたかった。
俺は、まだお前と共に戦える『兵士』でいるかどうかと。





**■第六十二章 



『不安なのか？ヤザン…？大丈夫だ。あの子はきっと、応えてくれる』

完成した『ブルーデスティニー』のコックピットに座った俺は、起動手順を何時まで経っても行わないままに、コンソールに手を伸ばしたまま、固まっていた。
起動したとして…もしも『マリオン』が応えてくれなかったら？
その想像が俺の心を支配していた。
何時から…俺はあの少女に心を奪われてしまっていたのだろうか？
共に戦う同志としてか？
守るべき存在としてか？
信頼する仲間の一人としてか？
それとも…無意識下で、失ってしまった家族の温もりを求めての事なのか？
…俺は知らず知らずのうちに『人間』に戻っていたらしい。
ユウが声を掛けて来たのも仕方無い。
俺は苦笑いを殺し切れなかった。

『野獣も牙を失えば…ただの獣に過ぎなくなる、か…。俺も弱くなった物だ…』
『…まだ、己の弱さを知っている。畏れを知っているパイロットは…強い。…違うか？ヤザン？』

俺はユウに応えず一気に起動プロセスを開始した。
各スイッチ類を呼称しつつ計器に灯を入れ、操作卓（コンソール）を確認する。
機体状況が表示される。
…アルフの監修の元、１号機と２号機を組み合わせ完成為った『ブルーデスティニー』だ。
…俺はコイツの『ＧＭヘッド』が実は大のお気に入りだ。
量産機の匂いが残った、兵士の『在野根性』や『雑草魂』のエキスが濃縮されている様で、何故か嬉しいのだ。
『羊の皮を被った蒼き狼』とハズカシイ事を『曹長』は真顔で言ってくれた時は…流石の俺も爆笑したが。
少女の声が、聞こえた気がした。
俺はすぐに意識を集中させる。
声に力が入ってくる。
間違い無い。
俺の一番待ち望んだ者が…俺の一番の『理解者』が還って来たのだ！
…ユウには悪いが奴は二番手で我慢だ。

『おかえり…ヤザンさん…。わたし…待たせた…のかな？』
「…マリオン？それは俺の台詞だぞ？…また逢えたな？さあ、行くぞ相棒！奴は何処だ！」
『占領した連邦軍基地でシャトルを接収して…宇宙へ行くの…。行先は…』
「ＥＸＡＭ発祥の地、サイド５こと…ユウと俺の嘗ての戦場…ルウムだな？」

ニュータイプ部隊が連邦にも存在すると触れ回る、連邦軍首脳に踊らされたジオンは、対抗手段としてのＥＸＡＭが喉から手が出る程に欲しいはずだ。
何せ、自軍がニュータイプ部隊の実力と『恐怖』を肌で実感しているのだから。
クルスト博士から聞いた事を思い出す。
ジオンのニュータイプ研究機関である、『フラナガン機関』はＮＴの資質を白鳥の部位に例えていたと言う。
…『マリオン』は最高ランクに近い翼…こと『羽』だ。
その白い羽を紅に染めさせる片棒を担いだ俺は…きっと地獄が有ればそこへ堕ちるだろう。

「…この基地が接収した『06』二機と俺が鹵獲した『07』に一働きして貰うか…。新生『ブルー』のテストも兼ねて、だ。捕まえられりゃあ御の字で、駄目で元々だ。…『曹長』は多分、ゴネるがな…」

奇襲。
俺の脳裏にはこの二文字が明滅していた。
フィリップとサマナは『06』を扱わせてもイケるのだ。





**■第六十三章 



ジオン製の機体は有っても、その基地の『敵味方識別コード』を入手出来なければ奇襲の意味は無くなる。
情報部の連中は『半日くれ』と言って来ていた。
その間にシャトルが打ち上げられる危険も有るのだが、と俺が意地悪く聞けば、もう整備の人間を潜入させていると言う。
…諜報の分野は奇麗事では動かないのだ。
俺はここまで聞いてその女の頬を平手で張ってやった。
衝撃で女の眼鏡が吹き飛んだが、出血はしていない。
…頬を押さえ俺を睨む女に、俺は心持ち表情を険しくして、渋く言ってやった。
…美男だからな、ユウは…。

「貴女には罪は無い。だが、貴女に踊らされる人間の事を忘れるんじゃ無い。…俺も『例のミサイル基地』のダブデの存在を知らされずに突入させられた。今の平手は…俺の分と今回の作戦で動く奴等の怒りだ。名も無き兵士たちは貴女の命令だけでは動かない。…一刻も早くこの戦争を終わらせたいから動く！」

俺は思った事を忠実に実行するタイプだ。
あの時俺は情報部の人間を一発殴ると誓った。
…『マリオン』は俺のこの行動を褒めてくれるかも知れない。
…現実は俺の剣幕に引いた人間と、拍手する人間がいただけだったのだが…敢えて俺は女に謝罪し、始末書も書いた。
軍は体面を重視する組織だ。
相手の立場を理解してやらねばいけない時も存在するのだ。
この先、彼女が情報部で働き続けるには、誰かに舐められたままでは部下の前で毅然として命令が下せなくなる。
…俺はそこまで彼女を苛めるつもりは無い。
…相手が気に入らなければこんなフォローは入れない。
今、俺の、いやユウの右頬には平手打ちの痕跡がまだ薄く残っている。
…殴り返す根性の有る女は、俺は嫌いでは無い。
はっきり言ってしまえば『食べたく』なる程に好みだった。
で、今はミデアのユウの私室だ。

『…で、ヤザンさん、どうするの？この女の人…』
『…お前も見てるしユウも見てるしモーリン伍長は部屋の外。俺は残念だが、紳士に為るしか道は無い。それともマリオン、俺がオネガイしたなら、見ない振りでもしてくれるのか？』
『…もう…しらないっ！』
『…ヤザン、俺のための配慮、感謝する』

まあ、思いっ切り辛さを吐き出させ、満足させた、と言って置こう。
組織の中で性別を感じさせず己を演じるには…何時の時代でも女が辛い事には変わり無い。
ユウの胸で女が泣いている最中に『わかりやすく』飲み物を差し入れに来るモーリン伍長に、俺は心行くまで心の中で『大爆笑』させて頂いた事を正直にここに告白して置く。
女が化粧を整え、頬の辺りを紅に染めながら俺に礼を言って出て行った後、今度は『曹長』が遠慮がちに来た。

「…みんなが…ああ、あの子供達がな…死んだ男の子の…お別れ会をな…？だから…」
「フィリップとサマナには俺から話を通して置く。07の習熟訓練には少し遅れるのだな？『曹長』？」
「行って…いいのか!?『中尉』!本当に、いいんだな?!」
「俺とアルフも出席する。…子供達と面識のあるのはお前だけでは無い。知らせてくれて感謝するぞ、曹長」

作戦開始まで後20時間。
俺達は人間と兵士の狭間で揺れながら、もう二度と還らないだろう『今』を過ごしている。





**■第六十四章 



ＮＴ研究所の前の植え込みにひっそりと置かれた、大き目の石。
それが、此処に少年の居た証だ。

「…人は、繋がることができる…。ねえ、おじさんには、信じられる？」
「ああ、信じられるさ…。失った者とは…直接には語れんと言う違いは有るがな…」
「おじさんは…それでも、人殺しを…!?ごめんなさい…！」
「…お前達に、させたくないからさ。こんな嫌な思いを、な？それが大人の義務だ」

しんみりとした状況を想像していた俺は、少女の言葉を聞いた途端にその明るさが理解できた。
子供達は、死者を『感じる』事が出来るのだ。
オカルトの分野だと、研究者連中は笑うかも知れん。
だが、俺達も自然に出来ている事なのだ。
彼女達の『それ』が…リアルタイムだとしたら、俺達の物は『プレイバック』だ。
己に蓄積された死者との思い出や、記憶。
俺達はそれらの断片を元にして、死者の言いそうな事を想像する。
だが…同じ死者を悼む行為に…何が違うと云うのだろうか？

「…欲しかったセイバーフィッシュの模型、埋めといたからな！…他の欲しかったら、言えよ？俺が…買って…置い…糞ぉぉぉぉぉぉっ！何が研究だ！死んでもまだ実験動物扱いかよ！そんなのって有りかよ！墓さえ作んないのかよ！…間違ってる！間違ってるぞ！」
「…それが、組織だ。敵に勝利を収めるには…どうしても非人道的に為る。いい加減に理解しろ」
「…『中尉』…アンタはっ！」
「…殴るならオレの方だ。…ヤザン曹長。現にオレも『中尉』をモルモットにしているのだからな」

少年の遺体は、還って来なかった。
ＮＴの貴重な、『人道に配慮せず解剖可能な』サンプルなのだ。
研究者達の喜々とした様子に反吐を吐きたく為ったのを俺に我慢させたのは…俺より自制心の無い奴が居てくれた御蔭だった。
一々、俺が言わなくても解るだろう。
…取り押さえられるまで、重軽傷者が両手では効かん程出た。
…俺の右ストレートと左ボディーブローの、コンビネーションを『曹長』が喰らうまで、だが。アルフと俺がワザと早急に停めなかったのは…被害者には悪いが当然の事だ。
軍人として許せても、人間として許せん事が有る。
俺達大人の、せめてもの、死者への手向けだ。

「…あの子にはまた、逢えるから…。ね？ヤザンのヤザンおじさん？」
「…クソっ、眼にゴミが入りやがった…！こら、お兄ちゃん、だろうが!?」
「老け顔なんだよ。お前は？年を取れば、自然と周りから若く見られるさ」
「…己に対しても容赦せんのだな？ヤザン？それが戦士の心得か？」
『…お兄ちゃん達、きてくれて、ありがとう』

俺達が祈りを捧げ、立ち去ろうとする時、誰も居ない筈の背後から誰かに呼ばれた気が、した。
それは俺達の幻聴だったのだろうか？
…亡くなった少年の声が俺達の耳に届いた気がしたのだ。
人は、繋がっている。
信じよう。俺も誰かと、繋がっている。
この素晴しい、過去の人間達と。
元に居た、未来で共に戦った、戦友や部下達と。
そして、死んだ家族達と…『マリオン』とも。





**■第六十五章 



06の２機を左右両脇で『ブルー』の腕を抱えさせ、07に両足を持たせる。
そして『ブルー』はスタンバイの状態で待機させる。
…メインスイッチを切って置くのが最上だが、この『お芝居』が露見した場合が怖かった。
作戦名『コン・ゲーム』。
平たく言えば『詐欺』だ。
…もう一機『ブルー』を鹵獲したとジオン軍に思わせ、シャトル打ち上げ基地の懐深く潜り込み、シャトルを推進不可能にさせ、３号機を再奪取する。
それが目的だ。
不可能な場合は…当然、シャトルごと破壊だ。
…事前に入ってきた情報に因れば、シャトル整備員に偽装した工作員は処刑されたと言う。
シャトル打ち上げは事実上、この作戦が失敗すれば完全に阻止不可能と為る。
…俺は、こう言う失敗出来ない一発勝負の焦燥感と緊張感が堪らなく、好きだ。

『♪ポッポッポぉ〜宇宙人〜っ、『ブルー』が欲しいかやらネェぞぉ〜♪欲しけりゃ自分で獲りに来い〜っ♪と来たもんだな？どうだねサマナ准尉クン？小官の朗々たる美声は？』
『フィリップ少尉…もう少し真面目に出来ませんか？そろそろ通信傍受可能区域に到達します！』
『あのな、オッサン…？ジオンの奴ら、もう『ブルー』の３号機盗ってっちまったんだがな…？』
『下手な突っ込みアリガトサン！…眉無しィ〜？のぼせ上がって台詞、トチるんじゃ無いぞ〜？』

『曹長』があからさまな煽りに釣られる前に、俺は早めに停めねば為るまい。
…何処まで打ち上げ基地に接近ができるかが、この阻止作戦の成否を分かつのだ。
…ジオンの守備隊を何処まで騙せるかが、鍵だ。
俺は07に乗る『曹長』に熱心に演技指導を施した。
ジオン訛りから無線交信パターン、階級制度から奴らの軍制度、慣習に至るまで、多岐に渡ってだ。
07に乗る奴は小隊長役を務めねば為らない。
怪しまれたら最後、そこから即、守備隊相手の実戦が始まるのだ。
…念入りにも為る。
未来から呼ばれた俺は、教導隊時代に仕事で付き合った、ジオン軍関係者からの情報がたんまり有る。
俺本人が担当するならば、騙し通せる自信は有る。

『『曹長』、フィリップ、そろそろ御出迎えの時間だ。さあ、本番スタート！アクション！』
『了解！ユウ、多分…奴らは引っ掛からんと俺は思うがな？それにしてもお前さん、ジオン訛りなんぞ、いったい何処で覚えたんだ？宇宙人どもの通常無線交信の通話パターンもだ？』
『…男ってモンはな、謎が多いとミステリアスかつセクシーに見えるモノだよ、フィリップ？』
『へ〜へ〜、黙ってるお前さんはモーション掛けなくてもゴマンと女が寄ってきますよっ、と。りょーかい、一部マニアにしか『受けない』サミシ〜いボクちゃんは黙ります黙りますっと！』

フィリップが黙った、と云う事は…索敵レーダーに何らかの反応が有ったと言う事だ。
フィリップはふざけて居る様だが、実は筋金入りの連邦軍人だ。
…普段の態度は『新人』達の力を抜いてやるために演じているに過ぎん…と断言したい所だが…案外アレが地かも知れん、と最近になって俺も解ってきた。
俺自身もそういう風に演じた経験が有るので、奴もそうだ、とてっきり思い込んで居たのだが…。
まあ、『仕事』に関しては優秀なので、俺に文句は無い。
軍隊と云う組織は、『結果』が全てなのだ。





**■第六十六章 



「どうやら巧く行きそうだな…？」

俺はフィリップが敵と行う交信を傍受しながら、底意地悪く哂って見せた。
敵の守備隊である、09が主体の、打ち上げ基地攻略部隊が俺達を発見して、接触して来たのだ。
交信パターンを熟知し、情報部から当日の識別コードを入手した俺達を、疑う道理など、奴等には毛ほどの筋も無いだろう。
後はこの間抜けどもの誘導に従って、潜入を行えば完璧だった。

「フィリップの奴…巧すぎるぜ…。渋めに、それも真面目に演れるじゃないか…？あの路線ならモテるのになぁ？」
『…ヤザンさんの方が…わたしはいいな…？』
「フン、俺の本当の顔見て…言ってるか…そりゃお前の目には何かのフィルターが何重にも掛かってる御蔭だろう？」
『あのね？ヤザンさん…？わたしはモビルスー…そんな…大尉っ！」
「どうした、マリオンっ!?エグザム発動だとっ?!…やってくれたな…二ムバァァァァァス！」

俺がマリオンと戯言を交わしている時に、突然EXAMが発動した。
…ブルーのメインスイッチを切って置かなかったのは、不可抗力だ。
守備隊から報告を何らかの形で聞いたシャトル内の二ムバスが不信感を抱き、ワザと自分の機体、3号機のEXAMを発動させたのだろう。
…奴はEXAMを制する事が出来る。
その上での『この行為』なのだ。
何も起こらなければ良し、起こったら…！
俺の視界が、ブルーのそれと重なる。
…マリオンの阻止が追いつかず…俺はEXAMに呑み込まれたのだ。

『フィリップ！サマナ！俺を置いて逃げろ！支援はいい！出来るだけブルーから離れろ！EXAMが、発動した！』

俺は残った理性を総動員して、通信回線をONにしてコックピット内で叫んだ。
湧き上がる破壊衝動が俺を、殺戮へと駆り立てる。
06二機が最大加速で遠ざかって行くのを背後の気配から察する。
今の俺はそれを装甲越しでは無く、体感していた。
NTにはNTを。
それが不可能ならば認識力の拡大させた『人間』をぶつける。
NTがコレを日常的に感じているならば、普通の『人間』は逆立ちしても敵わないだろう。
しかし、『EXAM』はそのハンディキャップを埋めてくれる理想的なシステムなのだ。

「悪いが０９、後ろからでも、今の俺には『解る』んだよッ！残念だったな！そうそう、殺られんッ！」

慌ててヒート剣で突き掛かって来る０９を、首だけ振り向き、頭部バルカンで牽制してから左にかわし、そのまま背後にビームサーベルを突き刺す。
EXAMが次に撃破する近くの敵の存在を示すが、俺は無視してジャイアント・バズを放とうとする奴を100㎜マシンガンで潰す。

「戦うのは人間だっ！命を張るのはこの『俺』だっ！たかが機械風情がこの俺に、指図などぉッ！」

…哀しむべき事は、それがMS本体に限定されると云う事だけだ。
どんなものにも、『限界』が存在する。
EXAMの送り込む戦闘情報が人間の情報処理能力の限界を超えているのは承知の通りだ。
だからEXAMは、人間の意向を無視し始める。
それが『強制力の発動』だ。
自らの意に従わぬパイロットの操作を『エラー』として処理し始め…やがてMS本体がその２つの異なる命令に反応しきれずに誤動作を起こす。
それが積み重なり、最終的には暴走を引き起こすのでは無いか、と俺は今までの経験とアルフとの会話で認識していた。

『大尉を宇宙（そら）へと上げるのだ！白い悪魔と戦い、無念に散った同胞の為に戦う、大尉とその乗機を！』

…俺の思念に飛び込んで来る声が有った。俺は確かに『聴いた』。
コックピットを破壊され崩れ行く09の、死ぬ間際のパイロットの『声』を。





**■第六十七章 



『ＥＸＡＭ』は執拗に、『ブルー』を狙う総ての敵の『思念』を俺の脳裏に送り込んで来た。

家族を想い、残った勇気を振り絞り立ち向かう、06のパイロットの切ない思念。
原隊をオデッサのガンダムに潰され、ただ復讐の念に駆られ突撃してくる09乗りの無念。
ジャブロー攻防戦で恋人を失い、捕虜に為り、連邦軍の非道をその身で体験した女兵士。
己の身を捨て、二ムバスの3号機に己と国の運命を託し、爽やかに笑って死んでいくＭＳ中隊長。

俺は『ＥＸＡＭ』に試されていた。
『完全に戦う相手を理解して、それでもお前は人間を殺せるのか？』と。
俺は…合格だった。
相手には何かしらの『守るべきもの』や『信ずるべきもの』が有った。
だが、奴等と戦う今の俺の心には…『何も無かった』。
戦士の義務は戦う事だ。
武器を取り向かって来る以上、どのような理由が存在にするにしろ、相手は俺に取ってはただの『敵』で、『喰い応え』が有るならば『美味しい敵』だ。
俺がＭＳを降りたならば、彼らを悼む事も出来るだろう。
同情も可能だ。
しかし揺るがせぬ大前提が有る。

俺とブルーがこの戦闘を生き残らなければ、意味が無い。
生きて居ればこそ、それは出来る事なのだ。

「だから何だ?!この俺が躊躇すると思ったか?!わざわざ殺られてやる義理など無いッ！」

回避。相手の09の、必殺の一撃と信じたヒート剣の斬撃を紙一重でかわす。
敵の驚愕する思念に、俺は歯を剥いて哂う。
心地良い。
敵の裏を読み、その狙い通りに行動してやり…そして…裏を掻き、隙を突く。
通常では解らぬ、相手の思念までをも嫌味なまでに忠実に伝えてくれる『ＥＸＡＭ』は、今の俺には堪らない快感を与えてくれる『素敵なデヴァイス』だった。
信念やら恨みやら、面倒でお堅いモノを抱えている連中を楽にしてやる『救世主』にでも為ったような爽快な気分を感じさせてくれる。

「さあ、楽に為りたい奴は向かって来い！すぐに娑婆から退場させてやる！俺とこの、『蒼い死神』がな！」

敵の抵抗を排除しながら、俺とブルーはシャトルの存在を確認した。
『奴』が、居る。
真摯な顔で、『済まぬ…兵よ』と薄暗い３号機のコックピットで呟く二ムバスの姿が俺の脳裏に飛び込んで来る。
…吐き気がした。完全に偽善だ。
多数の犠牲を悼むならば、何故自らの手で俺を止めに来ない？
己の体面や使命とやらがそんなに大事なのか？

『…私は『ジオンの騎士』なのだ！果すべき使命が、有る！名誉が何だ！幾多の同胞を屠った『白い悪魔』を倒すには…同じ悪魔の力、いや、それ以上の力が必要なのだ！使命の為に私情を殺す！それが騎士たる者の心得！ただ戦闘を愉しむだけの貴様には死んでも理解出来ぬ事だろうよ、連邦の闘士よ！』
「ニムバァァァァァァァス！」

二ムバスの思念を受け取った俺は、純粋な怒りを覚えた。
自分の事を遠く高い棚に放り投げ上げて、良く言った！
スラスターの出力をミリタリーパワーからさらに限界の『テスト領域』まで引き上げ、俺と『ブルー』は突進を開始する。
…俺は二ムバスに嫉妬していた。
根っからの『兵士』である俺が金輪際持てぬ、揺るがぬ信念を持つ、ジオンの騎士を。

「…俺は俺の存在に懸けて貴様を許さんッ！貴様の存在をッ！戦場に己のロマンを持ち込む愚劣さをッ！」

群がる敵を薙ぎ倒す中、シャトルが徐々に視界の中で拡大して行く。
宇宙には行かせない！行かせるものかよッ！





**■第六十八章 



前方に接近し続ける総ての事物を破壊しながら、最短距離で俺と『ブルー』は、ロケットノズルから冷却剤の蒸発して行く白煙を上げ始めたシャトルに向かう。
機体表面塗装が傷付くのも構わず、木々をひたすら薙ぎ倒し、立ち塞がるジオンのＭＳ群を両手に持たせたビームサーベルで切り刻む。
100㎜マシンガンの予備マガジンは既に切れ、俺は廃棄していた。
ニ刀で戦闘を続けると機体のエナジー消費が激しいが、仕方が無い。
作戦目的は飽くまで『シャトル発進阻止』なのだ。
軍人たるもの如何なる犠牲を払おうとも、作戦目的を達成する事がその存在意義だ。
…言うまでも無く俺は失格なのだが、な。

「あの07…？!!…曹長かッ！よくもこうも生きていたッ！偉いぞ！」

各部の装甲が傷付き、返り血ならぬ、オイル塗れになった07が、俺の真逆の方向からシャトルに接近していた。
俺はフィリップとサマナには撤退命令を出してはいたが…頭の中から『曹長』の存在を綺麗サッパリ忘れていたらしい。
そして命令を出されなかった『曹長』は…当初の作戦に忠実に行動していたのだった。
シャトルの、破壊の為だけに！

「糞、間に合わんか！…届けェい！」

俺と『ブルー』の眼前で、発射台のタワーが離れ、ノズルから炎が噴き出し、シャトルが浮き上って行く。
胸部バルカンに、腰部ミサイル、頭部バルカンを一斉発射するが…哀しい事にまだ有効射程外だった。
…あと、たった50ｍの距離が遠い！

『ぬぉぉぉぉぉぉぉぉ！黙って行かせて堪るかヨォっ!!』

外部音声が俺の耳を焼く。
07がその場で回転する。
陸上競技の『ハンマー投げ』の要領でだ。
右手一本で赤熱させたヒート剣を保持し、一回転、ニ回転、三回転とスピードを上げて行く。
07の機動性重視の構造上、機体の強度はそう持たない。
だが奴は、恐らくコックピット中で鳴り響く各種警告アラームを無視して回転を続けているのだろう。
自らの体の限界まで。

『これでも喰らえィ！宇宙人がぁぁぁぁぁぁ！』

遂に07が、ヒート剣を手放した。
赤く光る矢が、ようやく大地からの呪縛を解き放とうとするシャトルを目掛けて飛んで行く。
ロケットエンジンが本格的に起動し、炎が一瞬だけ大きく為った、まさにその瞬間…！
ヒート剣はシャトルの翼に突き刺さった。
そして、余熱でヒート剣はそのままシャトルの右翼を切り裂き、地に堕ちて行く。
…しかし、シャトルはそのまま、天へと白煙をなびかせ昇って行く。
『作戦、失敗』。
すぐさま俺の脳裏にその四文字が浮かび上がる。
決着は、宇宙に持ち越されたのだ。

『曹長！まだ余力が有るな?!作戦目標変更！当打ち上げ基地を占拠するの敵ＭＳ部隊の殲滅！動けるか！』
『正直カンベン…と言いたい所なんだが…他ならぬ中尉殿の命令だ。やって見るさ！』
『無理はするな？まだまだお前には生きていて貰わねば困るのだからな？まだまだ宇宙（そら）で鍛えなければならん』
『なら…死ね無いな…そいつは…楽しみだっと！』

生き残れてさえいれば、挽回のチャンスは幾らでも転がっている。
二ムバスめ！せいぜい頸を洗って待っているがいいさ！
俺が貴様を裁いてやる！
戦闘とは、戦う兵士の義務とはどう言う物なのか、この俺自らがそのイカレたオツムに教育してやる！





**■第六十九章 



「第１１独立機械化混成部隊は、本日午前０時を持って解散、再編成される！残る者、去る者も居るだろうが…しかし、我々はいつまでも共に戦った『戦友』である！部隊員諸官よ、貴官等の未来に幸有らん事を願う！」

ヘンケン少佐の肉声が、ＭＳ格納庫に集合した全部隊員の耳に届いた。
…二ムバスを『取り逃がした』俺達を待っていたのは、当然の如く、『即時追撃命令』だった。
しかし、俺達の所属部隊は機械化歩兵部隊等の『陸戦兵力』も抱えていた。
宇宙には当然それは必要が無い筈だが…俺だけは知っていた。
今回、どうしてもその『陸戦兵力』が必要な事を。

「ヘンケン少佐、お偉いサンに直接回線を開けるか？２、３分で構わんのだが…」
「…中尉、中尉、言葉遣い、言葉遣い！俺に五月蠅く云うクセに、自分は良いのかよ自分は！」
「構わんよ、中尉。端末と認識コードを貸す。訊かれたならば私から借りたと云えば良い」

二ムバスの、いや、ジオンの特殊任務部隊の行き先がルウムの廃棄されたコロニー内に有る、秘密研究所に有る事を俺はマリオンから『訊いて』いた。
陸戦兵力、いや、歩兵支援さえ有れば、先に占拠されているかも知れん研究所の制圧も可能だ。
熟練歩兵をここで切り離されたら…最悪、探索者に死人が出る。
俺の『仲間や部下』をこんな『下らん事』なぞで戦死させるのは御免だ。
…例え何年か経って、『嘗ての戦友が敵味方に別れ、戦う事に為ったとしても』、だ。

『ユウ中尉…と言ったな？用件は何かね？私は忙しいのだが？』
「ヘリやミデアのパイロットや軍用車のドライバーは仕方無いが、第十一独立機械化混成部隊を『そのまま』宇宙（ソラ）に上げろ。でなければＮＴ研究所で行われている事を洗いざらい総てマスコミにぶちまける。非人道ネタはさぞや奴等にとって美味しい事だろうな？」
『やってみたまえ。こちらは痛くも痒くもな･･･』
「アンタのその発言、ＲＥＣしたぞ？さらに美味しいネタ一つだ。アンタ等上層部がサイド２のＧガス攻撃を察知していた事実。世論作りに黙殺し、利用した。証拠だって用意可能だ。アンタ方『上』は、軍隊の横の繋がりを、舐めてるだろう？同期や先輩後輩の絆ってのは、階級差を超越する！さあ、どうする？ああ、俺を消せば、当然の如く総て暴露だぞ？マスコミを操作可能なのは連邦軍人なら誰でも知ってはいるさ。だが、絶対民主主義下では、『公然』と言ってはイカンよなぁ？」

ユウの出世の道を断った心算は無い。
逆に異様な程にその後の昇進は早く為る筈だ。
…ティターンズで同じ手でジャミトフに掛け合った俺が保証する。
…俺の場合は『アル・ギザ』で一緒に為ったパイロット仲間の『愚痴』だ。
内容は『デラーズフリート』の一件の裏話だった。
後は推測、資料蒐集…そして『想像力と交渉術』だ。
…俺はそれで『ティターンズで好き勝手をやる自由』を手に入れた。

「さあ、どうする？俺は黙る事にやぶさかでは無いがね？条件は先に提示した！簡単だろう？命令を一つ書き換えるだけだ」
『…解った。後、何が欲しい？金か？名誉か？い、言いたまえ！君！どうにかして見せようではないか！』
「フン！前線の兵士がそんな物が必要だと思う時点でアンタ等の腐りの程度が知れるってモンだな！ＭＳ搭載可能戦艦の一つでも廻してくれるとでも言うのかよ！まあ、ソロモン要塞を落とす兵力は死んでも割けんだろうがな！用件はそれだけだ！切るぞ！」

数時間後、解散命令は撤回され、数十名の移動命令が新たに発令された。
ヘンケン少佐はニヤリと笑い、俺に親指を立てたのは言うまでも無い。
…２日後、宇宙に上がった俺達は『連邦軍の腐れ度合い』を舐めていた事に気付かされた。
宇宙に上がった俺達のシャトルを待っていたのは…！
『ＭＳ搭載可能のマゼラン改』と『ＧＭ２機』だった。
…艦長は一挙に『何故か』あの『ガディ』だったりするのが俺にとっての『ご愛嬌』だった。





**■第七十章 



「この度、当艦の艦長を拝命した、ガディ・キンゼー大佐で有ります！戦時だとは言え、私のような若輩者が大佐などと…ユウ中尉、笑わないで頂きたいモノだな？この私とて戸惑っているのだ！」
「いやあ失敬！反則だぞガディ？丁寧な口調で喋り始めるからつい、笑ってしまったのさ…。いや、済まん。謝罪する。どうぞ話を続け為さって下さい、大佐殿！…ああ…悪い…他意は無いんだ、許せよ？ガディ…？」
「貴官にファーストネームで呼ばれる程、親しい間柄では無い！以後、言動を謹んで貰おう！カジマ中尉！」

おっかなびっくりな顔で俺を叱責するガディのその表情が、俺の笑いのツボをまた正確に突いて来る。
例の紋切り口調で、さらに何時も自信たっぷりで指揮する姿を知っている俺、『７年後のヤザン・』に取って見れば…今の姿とのギャップが悪い冗談以外の何物でも無かった。

「いやぁスマン、ガディ。で、要はこの艦の艦長を仰せつかったのは、他に適当な人材を廻せなかった訳では無いのだろう？何せこの艦のタイプは最新型で、艦名もまだ、艦番８３以外の何も付いていない状況だしな？」
「…ヘンケン少佐！早急に部下の言動を指導して頂きたいものですな！このままでは貴官の指導力を…」
「貴官も北米戦の噂を聞かなかった訳では無いだろう、大佐？それに格納庫で見たな？…あの『蒼い死神』を…」
「!!では…あれが…軍機指定の…！ブルーデスティニー…！そしてそのパイロットが…貴様だと?!」
「これからの指導力を問われるのはお前さんだよ、ガディ？ま、精々頑張るんだな？期待しているぞ？ン？」

血の気の引いたガディの狼狽振りをひとくさり愉しんだ後、俺はブリッジを出て行った。
当然行き先は…ＭＳ格納庫だ。
面白い『余興』が有る、とアルフから聞いていた。
この艦に搭載されたＧＭが見えてくる。
どこか見覚えの有る、ＧＭだ。

「逢いたかったよ、マギー！お帰りぐらい言ったらどうだ？俺はお前のご主人サマだぞ？」
「フィリップ少尉、軍のＭＳに適当に名前を付けないで下さい！私物じゃないんですから！」

二人のコックピット前の漫才を聞きながら、俺は粋な計らいをした軍の補給・輸送担当官に酒の一杯ぐらい奢っても惜しくは無い、いい気分に為る。
アルフに依ると…更なる『余興』はブルーのコックピット内に有るらしい。
コックピット。
ああ、『アレ』の事だ。
今、思い出した。誰が最速で『アレ』を堕とせるかが、教導隊で一時期、流行ったものだった。
俺の目の前でブルーのコックピットハッチが開く。
黄色いノーマルスーツがヘルメットを脱ぎ、振り回す。
…『曹長』だ。

「たぁー！反則だぞありゃあ！コッチが一発撃つ間に四発も撃って来やがる！ガンダムだろ？コイツも！」
「…テムの創ったモノに負けん性能は持っているのだがな？後はパイロットの腕の問題だ」
「何だよ…俺の腕ががヘボだって云うのか！」
「その通りだ！パターンすら読めんのか？お前のＭＳ宇宙戦の訓練が足りんのは言い訳に為らんからな！」
「ゲ…中尉…嫌だな…聞いてたのかよ…」」
「…真打登場だな？さあ、やってくれヤザン。相手は若干１５歳のパイロット、そして…ガンダムの開発者テム・レイの息子、アムロ・レイ曹長だ。戦時任官で、元々軍人でも無かった。そんなデータに、負けたのが貴様だ。『曹長』…」
「俺は餓鬼に負けたってか?!それも戦時任官の軍人未満に?!」

俺だけは知っている。
相手が『ニュータイプ』の片鱗を見せ始める以前の『アムロ・レイ』で有る事をだ。
この『模擬戦闘シミュレーター』には、カラクリが有る。
…あるパスワードを入力すると…多分…『ニュータイプ』の能力を発揮した全開のガンダム』と対戦可能な筈なのだ。
ガンダムの戦闘データは最優先で常に訓練機関と開発機関で同期を取っている。
俺は、この場でその事をアルフと曹長に話すつもりだ。
この俺が相手にしたいのは『餓鬼』じゃ無い。…『ニュータイプ』だ。    </description>
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    <title>ヤザン−ユウ 051-060</title>
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      **■第五十一章 



「味方を殺っているのか…？あの…MSは…？パイロットは…正気なのか…？」
『二ムバス…あの人も…哀しい人…。だけど…違う！わたしは望んでいない！』

そのMSの持つヒートサーベルは、『サーベル』と言う響きに似合わぬ重厚さを俺とブルーの前に見せ付けた。
まるで騎士の持つ、『大剣』の遣い方だ。
斬る。叩き斬る。撫で斬る。
06が、07が、09が、瞬く間に餌食と為って行く。
凄まじい遣い手だった。
片方の剣で受け、もう片方で斬る。
射撃されると、剣の幅で最小限の部分を防御し、接近して、剣で突き、仕留める。
そのMSの見せる優美な舞を舞う様な美しさに俺は、100㎜マシンガンの砲口を向けるのも忘れて、見入っていた。
戦いたい。
俺は純粋にそう願った。
コイツと、一対一で誰にも邪魔されず、殺り合いたいと。
しかし、ブルーの『EXAM』の稼働時間カウンターが、無情にも漸減して行く。
俺は、もう待てなかった。

「邪魔だ貴様等！消えろ！そいつは俺の獲物だァ！」

俺は蒼いMSに斬り掛かろうとする07改の腕を精密照準で吹き飛ばした。
体ごと蒼いMSが反転し、即座に07改の上半身と下半身とをヒート剣で分断した。
俺の目に写った、蒼いMSのモノアイの残光が消える間も無い間だった。
立っているジオンのMSがその『蒼いMS』以外に無くなった時…。
俺は外部音声出力をONにした。
さあ、総てを出して魅せて見ろ！
俺を、愉しませろ！
その極上の技で！その技量で！
その無慈悲さを以て！
俺の飢えを癒して見せろ！『敵』！

「邪魔者は、消えたな？さあ、始めようか…。自称ジオンの騎士、二ムバス・シュターゼンとやら！」
「随分と無作法だな…？まあ良い…騎士の名誉に懸けて貴様を倒す！連邦のEXAMパイロット！」

まさか外部音声で応えて来るとは夢にも思わなかった。
…御目出度い奴だ。
だが、面白い！根拠の無い自信に満ち溢れたその言や良し！
…もしかして俺も移っちまったか？
と思う間も無く、『蒼いMS』の両脚のミサイルポッドから有線ミサイルが放たれた。
さあ、愉しもうじゃないか。
心行くまでこの戦闘を。
残り3分の、ゲームセットまで。
俺は胸部バルカンを一斉射し、ミサイルを破壊してから廃墟の影に隠れる。
すかさず背後の廃墟が両断される。
なるほど、牽制を見抜く目は有るか。
しかしまだ、ゲームは始まったばかりだ。
焦る事は無い。人でなしの快楽を互いに味わおう。存分にな！





**■第五十一章 



「奴の…懐に入れんのがっ…痛いなッ！」

ブルーの装備する胸部・頭部バルカン砲の連射で廃墟を薙ぎ倒しながら、俺は蒼いMS…そうだ、確かユウがイフリート改とか言ったMSから距離を取りつつあった。
中・近距離戦のあの圧倒的な破壊力は、正直言ってブルーにとって分が悪い。
相手の得意分野でわざわざ勝負してやる義理は、俺には無い。
しかし、100㎜マシンガンの砲弾にしても無限では無い。
このまま逃げ回り続けるのは、俺の流儀に反する。
『EXAM』の時間切れでゲームオーバーだ。
…リミッターさえ無ければ…。

「フハハハハハハハハッ!!恐れを生したか連邦のEXAMパイロット！このジオンの騎士を愚弄した自らの愚かさと粗忽さを、地獄の底とやらで後悔するが良い！死ねェい！下郎！」

また、有線ミサイルだ。
…ナントカの一つ覚えだ。回避されるの解ってて撃つか？も少し接近して撃てよ？
俺はすぐさまブルーを振り向かせ、胸部バルカンで破壊しようとした。
…破片が、ブルーの機体にさぞや細かい傷を付ける事だろう。
閃光とともに消し飛んだミサイルの発射元が…
居ない?!囮か！奴は何処に消え…

「甘い！甘いぞ連邦のEXAMパイロットォ！囮を囮と見抜けぬ駄馬にも劣る畜生よ、堕ちろ！この私に立ち向かう事自体が、無謀と知れ！喰らえぃ！」

奴は左に廻り込んでいた。
有線ミサイルの、ワイヤーは誘導の為に有る。
そのワイヤーは有る程度ミサイルが推進すれば、切り離される。
奴が何故、わざわざ有線ミサイルをワイヤーの届く範囲内で使っていたか？
この一瞬を創り出すためだったか…。
有線ミサイルが、ワイヤーを引き摺りながらブルーに向かってくるのを、コックピットの中の俺の眼はその光景をスローモーションの如く、捉えて居た。
奴に乗せられた俺が、迂闊だった。
…だが！俺に勝ったと思うのはまだ早いんだよ！

「ゴチャゴチャぎゃあぎゃあと…舌噛まねェのかよ、この時代錯誤野郎がァっ！」

俺はビームサーベルをブルーの左手に握らせ、ミサイルを斬り払うと、直ぐに装備しているシールドで頭部をガードし、イフリート改にブーストを掛けて突っ込んだ。
避けられるのは最初から解り切った事だ。
狙いは相手の火力の漸減。
何だかんだ言っても、『飛び道具』は封じて置かねば為らない。
左脚部のミサイルポッドを、俺は斬る事に成功した。
…フン、舐めるなよ、ジオン公国の勘違い騎士！
俺が下郎や駄馬なら、テメェは旧世紀の物語の人物の『ドン・キホーテ』そっくりだ！

「…連邦の闘士よ、名は何と言う…？貴様の墓碑に私が刻んでやらんでも無い」
「うるせえよ『ドン・キホーテ』！能書きは良いから掛かって来いコラァ！びびってんじゃ無ェ」
「命は要らんと言う事か…良かろう、疾く、散れィ！」

背後のイフリート改のヒート剣が赤味を帯びる。
冷静さを失った奴が負けるんだよ、闘争って奴はな！





**■第五十二章 



背後で飴の様に切り裂かれてゆく廃墟ビル群に、ブルーの胸部バルカンで薙ぎ倒される前方のビル達。
…俺が必要最小限を破壊して行くのに、奴と来たらヒート剣の触れた物は根こそぎ切り刻む。
執拗に追ってくる奴に、俺は苛立ちを隠せ無かった。
間合いが、取れないのだ。
足止めを画策し、廃墟の影に隠れ、やり過ごそうとすればたちまち発見され、瓦礫を作って足止めをすれば、機動力を生かしすぐに乗り越えて背後に迫って来る。

「偏執狂め！いい加減に諦めて疲れろ！…くおっ！」
『ヤザンさん?!』

グレネードを避け切れず、遂に一発喰らってしまった。
炸薬の量が多かったのか、機体にダメージが発生したとの表示が浮かび上がる。
運が悪い事に、それも推進系だった。

「この私に勝負を挑む事自体が、貴様の大きな間違いで有り、不幸なのだ！」
「…遺言がまだ有ったら、聞いてやる。…テメェは今、俺を本気で怒らせた！」
『ヤザンさん、駄目、逃げて！殺される…』
「マリオン！そのような下種に憑いて居るとはな…私こそがお前を守る騎士！お前を縛る者はこの私のみ！さあ、私の元へ戻るのだ、マリオンッ！」
「テメェの相手はこの、俺だ！命の遣り取りをしている最中に、トチ狂うな！」

俺は『ブルー』に機体ごと振り向かせ、100㎜マシンガンを残弾が無くなるまで奴に向け、撃ち尽くすと同時に、左手のビームサーベルを発動させ、斬り掛かった。
間抜けな騎士殿は片方のヒート剣を右腕ごと失った。
…『ブルー』も無傷では済まなかった。瞬時に奴の反撃を喰らい、右肘から下を斬り落とされた。
次で、勝負が決まる。
俺と『ブルー』に残された時間は残り時間１分を切っていた。
リミッターが作動するまで後、５０秒弱。
『マリオン』頼みの『奇跡』は期待出来ない。
恐らく『ＥＸＡＭ』の強制力から俺を守るのに精一杯と言う所だ。
俺は溜息を吐き、外部音声出力をＯＦＦにした。
息も絶え絶えな少女の声が俺の胸を打つ。
予想通りだ。
『マリオン』も、もう限界に近いのだ。

『ヤザンさん…あのＭＳの』
「解っている…頭が蟹の様に平べったくデカイのは、アレがＥＸＡＭ搭載機だからだろう。奴の頭を破壊出来れば、俺達の勝ちだ。しかし…」
『それを二ムバスも、狙っている…』
「…俺は、お前を…失いたくは無い！俺の総てを曝け出せた相手を…こんな所でっ…！」
『有難う…ヤザンさん…わたしはその言葉だけで…もう…充分…』
「マリオンっ?!止せ、止めろォッ！俺は…俺は…お前をッ…」

紅い表示が、再びモニター画面に明滅した。
『ＥＸＡＭＳＹＳＴＥＭＳＴＡＮＤ-ＢＹ』。
『ブルー』が、いや、『マリオン』がゆっくりとイフリート改に向き直る。
…俺のペダルやスティック操作を待たずにだ。
ありったけの勇気を搾り出し、少女が戦う意志を見せたのだ。
イフリート改は、余裕を見せ付けるかの様に、左腕のヒート剣を持ち上げ、突きの体勢を取る。
この一撃が、全ての決着を付けるのだ。
俺は覚悟を決めた。
情け無い姿を、もう見せられ無い。

「良いだろうマリオン！飽くまでこの私を拒否すると言うのか！このマリオンと同じく！」
「機体の管制を俺に渡せ。…俺に任せろ。死ぬ時は、俺も一緒だ。本当は、怖いんだろう？」
『…勝って…！ヤザンさん…勝って…わたしと…』
「二ムバス・シュターゼン、参る！」

イフリート改が、動く。
俺は体の力を抜き、ただ見ていた。
奴の赤熱するヒート剣の『剣先』が、迫る。





**■第五十三章 



ブルーの残った左腕を、俺はイフリート改の腕に当てる様にして、剣先を逸らす。
そう、ボクシングで言うクロスカウンターの要領だ。
突き出したブルーの左手には、ビームサーベルが発動していた。
見事にイフリート改のモノアイを貫いたその一瞬を俺はコックピットの中に巻き起こった電装系のスパークの中、確認していた。

「…さすがに無傷と言う訳には、行かんな…？機械風情が余計な真似を…！」

ブルーは、いや『EXAM』は、密かに俺に抵抗していたのだ。
スティックとペダルの俺からの反応（レスポンス）が途絶えたと判断し、自らを、頭部を守るため『勝手に』行動し…その結果、イフリート改のヒート剣の剣先を…コックピットに誘導しようと、
スラスターを吹かした。
俺のスティックとペダルの操作を確認し、慌てて従った結果が『コックピットすぐ脇への』ヒート剣の直撃だった。
衝撃で吹き飛んだ部品の直撃で、俺のノーマルスーツのヘルメットのバイザーにヒビが入っている。
胸部バルカン砲の弾薬やスラスター推進剤を遣い切る寸前まで暴れ回ったのが、俺の生死を分けた一因だ。

「フューエルカット確認、胸部バルカン残弾強制排出確認！誘爆危険性無し、周囲に他の敵影見られず！ユウ・カジマ中尉、これより脱出する！」

機体保護の手順を緊急時のマニュアルに従い、呼称しながら手順を進めた後、俺は脱出のため、ハッチを爆破しようと手動ハンドルを握った途端、不意に何かが頭の中にするっと入り込む感触が俺を襲った。
…頭痛などと言う、不快な感じとは違う。
まるで失われた何かが戻った様な、そう、懐かしい…？

「二ムバス！出て来い！今回は俺の勝ちだ！…敗北を味わう気分はどうだ！」
「いつぞやの雑兵だな…腕を上げたのか？いや…私はその蒼い機体に負けたのだ！貴様などに遅れを取った訳ではない！…マリオンめ…どこまでも小癪な真似をする…」

俺が意識しないのに、口が勝手に動き、喋った。間違い無い。
この体の持主の意志が…『ユウ・カジマ』が喋っているのだ。
俺はこの場をユウに任せ、マリオンの存在を探った。
…弱ってはいるが…俺に笑って見せてくれた。
俺も微笑み返す。
ちゃんと『俺の顔』で。

『…あと…『EXAM』の残りは…２つ…これと…３号機…』
『何だって？３号機は完成して居ないはずだろうが？まだリミッターも噛ませて居ないはずだ。普通のパイロットでは使い物にならんとアルフが俺に…？』

拳銃の発射音が俺達の逢瀬を断ち切った。
ユウとニムバスが脱出のために、牽制し合っているのだ。
機体の自爆スイッチに手を触れようとするユウに、俺は抵抗した。

『…アルフが待機している。回収を依頼した方が早い。胸部バルカンの残弾や推進剤の引火の危険性は…今の所無い。これで終わりじゃあ無い。クルストが…まだ何かを…』
「…解った、ヤザン。従おう。…ユウ・カジマ中尉、機体大破に付き、脱出する！」
『了解。ただちに回収に向かいます。…ユウ、もう少し待っていて！生きていて！』

回線を開き、ユウはモーリンに伝える。
俺は底知れぬ不安と不信感を博士に感じていた。
奴は最初から２号機を引き渡すつもりで…ニムバスを此処へ呼んだのでは無いか、と。





**■第五十四章 



『ブルー』から、大地に降り立った『俺』とユウは、辺りを見渡した。
…ニムバスの姿が、消えていた。
荒れ果てたビル街の中、２体の巨人の残骸が互いに交差する姿が戦闘後の『俺』の心の空しさを助長した。
俺は確かに勝った。
敵にも、『EXAM』にもだ。しかし、得られた物は…？
無きに等しい。
生死を共にした『ブルーデスティニー』を失ったのだ。
大事に乗って来たつもりだった。
型番からして、予備パーツの存在の少なさを覚悟し、為るべく損耗しない様に動かして来た…。
北アメリカ大陸の大半を稲妻の如く蹂躙しつつ、幾多の戦場を閃光の如く駆け抜けた、この蒼い機体は…ここにその力の総てを出し切り、斃れたのだ。

「…ブルーの２号機の体は、無事回収に成功している。子供達の大型エレカもだ。そして、１号機の頭部もまだ『生きて』いる。当然、1号機のメインコンピュータもだ。…ヤザン、俺の考えている事が解るな？」
「…アルフとその仲間達に期待するしか無い。ベースが共通とは云え、移植が成功するとは限らんからな？頭を乗せ換えるだけなら、ハード的には可能だろう。RX−79ベースだからな？ただ、問題が…」
「『マリオン』か…。彼女は『EXAM』では無いと、お前は俺に言った。信じるんだ。それが大きな力に為る」

性質の悪い一人芝居の様に思えて、俺は喉の奥で笑った。
『本物』のユウなら絶対に演らない、笑い方だ。

「…どうした？ヤザン？…可笑しい事じゃない。誰にだって…その…少年の日に、純粋なあの頃に、戻りたく為る時が必ず有る。顔が良いとか悪いなど関係無く、頭の天辺まで敵の血に染まった男でも…」
「…これが哂わずに居られるか？味方に野獣とさえ言われた男が、数え切れない程、敵を堕として来た男が、たった一人の女に、心を砕いているんだぞ？戦場に女が居るのが気に食わないと言っていた、この俺が！」

ただの偽善に過ぎん、と発しようとした俺は、ユウの体に遮られた。
…俺の話を最後まで聞いてくれ。頼む。

「…まだ、幸せさ。心が、有る。機械じゃ無い。言いたくは無かったが…今の俺はお前の総てが『解る』。お前は…大量殺戮には…手を染めなかった。自分のために指揮官とブリッジ要員を謀殺したが、結果的には、駒として、兵士として死んで行く者達のために無能な奴を排除した。…己自身を恥じる生き様を、ヤザン、お前はして来たのか？…お前と同じ兵士に過ぎん俺は、とてもそうとは思えない…」
「…艦船は堕としたがな？…解っている。ああ、ユウ、混ぜ返すつもりは俺には無い。兵士として戦場に存在する人間は、殺し合う覚悟が出来ていると俺は認識していたよ。その覚悟も無く、生の、娑婆の感情を剥き出しで戦う人間を…俺は赦せなかった。最も俺の居た戦場は…そんな奴ばかりだったがな」

辺りに響く轟音に、慌てて俺達が空を見上げると、徐々に一機のミデアが接近しつつあるのを視認出来た。
難航する回収作業の中、俺とユウはクルストとニムバスの捜索の提案をしたが、アルフに、即座に却下された。
『オレの『ブルー』の再生が最優先だ！』と額に青筋を走らせ、目を充血させた、物凄い怒りの形相で怒鳴られた俺達は頷くしか術が無かった。ふと背後を振り向くと、モーリン伍長が、瞳を潤ませて立っていた。
感極まって、俺に、いやユウに抱き付いて来る。
『おかえり…ユウ』と。…不粋な真似は止めにするか。
俺はしばらく、眠る事にした。
『ブルー』が再び、俺の前に立ち上がるまでの短い休暇を愉しむとしよう…。





**■第五十五章 



しかし俺の休息は、残念ながら許されなかった。
宙に浮いていた体を、無理矢理引き戻された様な感覚が、『俺の意識』を引き戻したのだ。
何が、起こった？
俺は、まず情況を確認した。
…ミデアの格納庫内だ。
俺は、いや、ユウは何をしようとしていたのだ？
ノーマルスーツを着用して？
目の前に首の無い『BD-2』が立っていた。
その隣には『BD-１』が各種パーツを剥ぎ取られて整備用ベッドに寝かされている。
まだ、作業も終わっていないのに…？

『ヤザンさん…！三号機が…！急いで…！あの子達が…！』
「此処は何処だマリオン！あの基地なのか？何が起こって…？」
『…ニムバス大尉が三号機を奪取したのっ！クルスト博士の手引きでっ…！フィリップ少尉にサマナ准尉、『曹長』さんが喰い止めているけれどっ…嫌！触らないでっ！こんな事っ…わたしは…わたしは望んでなんかっ！』
「頑張れ…！今俺が行く！耐えろよ、マリオォォォォンッ！」

事情は切迫していたのだ。動悸と息切れを俺は認識する。
俺が呼ばれた時間は多分、三号機の計器にニムバスの手で『灯』が入れられた瞬間なのだろう。
三号機にはリミッターが噛まされては居ない。云わば『クルスト純正EXAMマシン』だ。
適性の有るあの『ドン・キホーテ』が操るのならば…答えは一つしか無い。
『最悪の事態』だ。基地の戦力を総動員しても、止められん。
警報が五月蠅く鳴り響く中、俺は二号機のコックピットに入り、機体を始動させた。足元が揺れる。
ミデアが離陸を始めたのだろう。

「何をする気だ、アルフっ！戻れ！奴等を、仲間を見捨てて逃げるのか!?俺はやるぞ！」
『…ブルーを失う訳にはいかん。…我慢しろ…と言いたい所だが…オマエは聞かんだろうな…。良いか、それは今と為ってはオレの手に残った最後の『ブルー』だ。壊すな。そして…必ず帰って来い。それがオレの命令だ。最も、その機体にはEXAMを未だ搭載しては居ないがな…』
「ユウ・カジマ、ブルーデスティニー２号機、出すぞ！格納庫ハッチ、早く開けろ！」

宇宙用機体に調整された二号機の脚部が自重を支えるだけの『飾り』同然で無い事を祈りながら、俺は星の瞬く夜空に躍り出た。
無謀極まりない行為だ。
…俺はノーマルスーツを着ているとは言え機体のコックピットハッチを『開けたまま』で搭乗して居るのだから。
風の渦巻く音と響く砲声をBGMに、俺は舞い降りた。
戦場と成り果ててしまった基地と研究施設の真っ只中に。
着地の衝撃に二号機の脚部は耐え切った。
流石だよアルフ。
コイツは…上出来のマシンだ。ああ、お前の誇りだ。
通信が即座に入る。
フィリップにサマナ…お前達も立派だよ。
よく…生き延びていてくれたっ！

「…随分待たせたなぁ！真打登場って奴だよ、お前等！そら、拍手拍手ｩ！」
『バカヤロウ…逃げろって言ったろうが、ユウ！でもな…信じてたよ』
『ユウさん、ユウさんッ…！ううッ…！グっ…な、泣いてなんかぁ！』
「基地守備隊は全滅か？そう言えば、あの馬鹿はどうした?!まさか…殺られたのか？」
『研究所から三号機を引き離すんだって、只今交戦中だ！俺達も支援ちゅ…おっとぉ！』
『曹長、現在ライトアーマーの機動性で囮を引き受けていますけれど…曹長ぉ！』
『来たか『中尉』っ！機体の推進剤の残量がヤバイ！早く…ぬおっ！』

その交信の直後、一条の光線が闇夜に閃いたのを俺は視認した。
…選りに選ってビームライフルを装備か…！クルスト博士め、やってくれる…！
そんなにNTが怖いのか？理解出来ないのは解る。
しかし、相手はまだ…非戦闘員なんだぞ？
俺は二号機を疾走させた。
光線の源流、三号機の元へと。





**■第五十六章 



大気中では、ビームライフル内で加速され撃ち出された粒子の速度が減殺され、その威力を失う。
これは動かせない大原則だ。
しかしビームコーティング技術など未発達な『この時代』に措いて、ビーム兵装は脅威以外の何者でも無い。
正確に『BD−２』の頭のあった場所を奔って行った光線に、俺は恐怖する所か、興奮した。
太い射線より漏れ出た重金属粒子が、ハッチの開きっ放しのコックピット内のそこら中に拳大の穴を開けて行くが…機体状態表示の端末モニターは…無事だった。
…俺が穴だらけに為る確率は高くなるのだが、撃たれた瞬間に仰け反ったのが功を奏したのだろう。
踏ん張れず、機体は斃れ付す。
早く起こさねば、良い的に為る。
…幸運なのが、ミサイルやバルカン
のまだ射程外と言う事実だ。
星空が…いつに無く、綺麗だった。

「…俺は不死身だ！殺されたって死ぬものか！」

俺の、いやユウの体は奇跡的に無傷で済んだ。
今度は、こっちの番だ。
機体を起こしながら兵装を確認すると…最悪だ。
マニピュレータに何も装備してはいないのは知っていたが…内臓兵装の弾薬が…何と総て訓練弾にペイント弾だった。
腰部ミサイルも、胸部バルカンも…MSを破壊すると言う用途には哀しい位に無力だった。

「…あの腐れ外道がァっ！読んでやがったのかっ！最初からこのつもりでッ！」

俺の頭の中の感情的な部分が瞬時に沸騰した。
クルストは俺が２号機を止める事を見越していたのだ。
あの時の２号機のマニピュレータの武装だけは、実弾入りだったのだろう。
エレカ一台にマシンガンを構えること自体に、あの時の俺は違和感を抱くべきだった。
使える兵装は…ビームサーベルのみか！

『ユウ、無事か!?やられたのか?!ユウ！』
『ユウさんっ！ユウさんッ！』
『中尉、殺られた…？…糞ォっ！あのビームライフルさえ無ければッ！』

強風の唸る中、立ち止まった『BD-２』を気遣ってか、回避運動を取りつつも三人が通信を入れて来た。
直ぐにでも応えたかったが、俺の頭の中はある事で一杯だった。
次の発射まで…５、４、３、２、１…！
来た！何で俺を狙うんだよ、あのアナクロニズムの塊がっ！
まあ、残念ながら華麗に避けたがなッ！

「フィリップ！サマナ！曹長！…俺に命を預けられるか?!素敵な無鉄砲三人衆！」
『お前さんには負けるがな、ユウ！軍人だろ、俺達は？メーレーには従いますよっと！』
『…なんですかその素敵な無鉄砲って…モルモット仲間じゃないですか、僕たちは！』
『何か良い手が有るのかよ？中…このッ！ミサイルを俺にだとっ!?舐めるな！…了解！』

揃いも揃って、感動モノの良い答えだ。
軍人はこうで無くてはいかん。
『個人の命など消耗品に過ぎん』
この心構えが『生粋の連邦軍人』の有難さだ。
戦闘もそいつ等に掛かれば気の効いたゲームと同じなのだ。
俺は唇だけで微笑み、囁く様に呟いた。
『確かに預かった。行くぞ、フォーメーションYだ。掛かれ』と。





**■第五十七章 



フォーメーション『Y』。
文字通りの、３機のMSでの、三方向からの同時吶喊だ。
数え切れぬ実戦の中で磨き上げ、奴等に仕込んで来た、俺の戦闘の記憶の中に有る数多くの連携の中でも、地上戦では
かなりの難度を誇る。宇宙用には立体化バージョンが存在するが…正直付いて来られるか解らない。
NT研究所からはそう離れてはいないが…この際、躊躇はしていられない。殺らなければ殺られるのだ。

『待たせたな！ユウ！フィリップ機到着！あとは合図待ちだ！』
『っとお！…曹長に負けたら僕の立場が…サマナ機、準備よし！』
『…酷ェ言い草だなぁ、准尉…！中尉ィ！取ったァっ！行けるッ！』
「偉いぞ『曹長』！BD−２…位置に…付いた！…もう少し…３…２…１…今！全機突入！」

フォーメーションが完成するまで、俺は各機の通信を聞きながら、三号機の眼前で陽動に徹していた。
目的は一つ。ビームライフルを封じるためだ。
この戦闘中、俺は三号機の持つビームライフルの斉射後のチャージに掛かる時間を計測していた。
あのドン・キホーテのビームライフルを撃つタイミングを読んで掛からないと、フォーメーションを組む三機の内の誰かが餌食と為るのはこの『俺』には簡単に想像出来た。
３号機の兵装は、頭部バルカン、胸部バルカン、腰部ミサイル、ビームサーベル×２、ビームライフルの５種。
その上シールドを装備の完全武装だ。
右のマニピュレータはビームライフルで塞がり、左は空だ。
俺がビームライフルを奴に使わせれば、別方向への急遽対応可能な兵装は…バルカンとミサイルだ。
しかも胸部バルカンと腰部ミサイルは３号機の構造上…同じ方向を向く。
そして今、ジオンの騎士サマはまんまと引っ掛かり、ビームライフルを『俺』に斉射したのだった。
その２種の攻撃が集中するクジ運の悪い奴には災難だが、これは『並みの腕』のパイロットには事実上回避不能な、必殺の、罠だ。

「さあ、二ムバス！避けて見せろ！俺がポンコツの06で出来た事が貴様に出来ん筈は無いぞ…」

…俺の教導隊時代に、最新鋭MSを型落ちのMSで仕留める際に使った戦術だ。
練度の高いパイロットが揃わないと各個撃破されてしまう脆さももちろん内包してはいるが…。
俺は奴等を信じていた。が、実は避け方が２通り、有る。
その内の一つを、必ず奴は選択する。俺はそう読んでいた。
戦闘は常に二手三手先を読んで罠を仕掛けて置く物だ。
即座にBD-２の外気に剥き出しの計器が、鳴り響く風切音に負けずにロックオンアラームを奏で出す。
そうだ。３号機が取り得る回避手段は『跳ぶ』か、『前に出る』の２種だ。
そして奴の機体は『ガンダムタイプ』であって、圧倒的な推力を誇る『ガンダム』では無い。
答えは一つだ。

「さあ来いニムバス！この俺が後腐れ無く、ビームサーベルでぶった切ってやる！覚悟しろ！」

３号機はそのツインアイを真紅に染めたまま、真直ぐ俺に向かって、スラスター全開で突進を開始した。
３号機のバルカンとミサイルのフルコースが、BD−２の剥き出しのコックピットに乗った『俺』を、襲う。
俺はBD−２の両腕にビームサーベルを発動させた。
迫り来る砲弾とミサイルを、俺は何故か一つ一つ認識出来た。
『看える』。
何故だ？何故、『看える』のだ？
俺は頭の何処かで引っ掛かるものを感じながらも、本能の命ずるままにBD−２を操り、回避に掛かった。
一発当たるだけで肉片と為り兼ねないバルカン砲弾を、機体姿勢を変化させる事で潜り抜け、迫り来る腰部ミサイルの弾頭をビームサーベルで『正確に』斬り離した。





**■第五十八章 



巻き起こる土煙の中、３号機は止めとばかりに、体勢を崩した俺のBD−２にシールドを前面に構えチャージを敢行して来た。
何故かビームサーベルを持たずに、だ。
俺はその時、あの羽音の様な唸りを頭の中で『聴いた』。
『EXAM』が俺を…いや、助けを求める『マリオン』が俺を呼んでいたのだ。
コード類、コネクター類は接続などしてはいない。
しかし、俺は『マリオン』を除けば、『EXAM』に最も近しい精神だった。
云いたくは無かったが、俺は『EXAM』に撰ばれ、遙か７年後より招かれた存在だ。
『EXAM』発動中の３号機中の『マリオン』と…信じたくは無いが『共感』作用が働いたのだろう。
その時、俺の推測を裏付けるかの様な、増幅された二ムバスの声が３号機から響いて来た。

「EXAMに撰ばれたこの私よりも…あの連邦の闘士をお前は撰ぶと言うのか、マリォォォォォンッ！」

遂に俺のBD-２と３号機が石を投げれば届く距離で対峙した。
３号機の、ニムバスの兵装が火を放つ様子は見られない。
『EXAM』の強制した稼動が、機体の持つ稼動限界を越えたのか？
それとも『マリオン』が抵抗しているのか？
どちらにせよ絶好の好機だ。
俺は迷う事無く３号機の頭にビームサーベルを叩き込もうとした。

『駄目！いけない！クルスト博士は…あの子達を人質に…！お願いヤザンさん…！博士を停めて！』
「どういう事だマリオンっ！残りは１号機とこの３号機だけだ！これでお前を解放出来…」
『…即刻、この戦闘を中止するのだ、ユウ・カジマ中尉！ミュータントどもの命が惜しければの話、だが』

汎用通信の周波数に通信が入った。
聞き覚えの有る、クルストの声だ。
何処に居た？とっくに逃げた筈では無かったのか？
連邦軍に捕獲される危険を冒してまで俺達の戦闘を見ていたと言うのか？
俺はこの急転直下の展開に解せぬものを感じながら、紅く光る３号機の『目』を睨み付けた。
この俺は、ガンダムになど負けん！
何よりも先ずは、事態の掌握だ。
俺のBD-２には『頭』が無い。
これではズームで確認など出来はしない。
研究所に一番近いのは…ようやく部品が揃い修理完了したばかりの『曹長』の愛機、GM・ライトアーマーだった。

「『曹長』！メインカメラ最大望遠で確認しろ！NT研究所の方角に何が見える？俺からは確認出来ん！」
『あのオッサン正気か…！子供の頭を拳銃で狙ってやがる！しかもニヤニヤ笑いながらだと…？ッ!!』

曹長が息を呑んだ理由は、俺の耳にも伝わった。
…それは…銃声だった。
３号機の『目』が、さらに紅さの度を増した様に俺は思えた。
恐怖…怒り…哀しみが…解る。
『EXAM』が、いや、『マリオン』が感じているだろうそれを、俺は感じていたのだ。
…今、罪も無い子供が一人、死んだ。
『苦いクスリを飲まされるんだ』と嫌がっていた、
男の子だった。
俺の心はまだ冷えてはいたが…胎の中は沸騰していた。
クルスト・モーゼス…！
俺の心の中の処刑リストのトップにランクアップだ。
一番はZのパイロットだったが、たった今、変わった。





**■第五十九章 



俺が歯軋りを漏らす中、耳障りな上に俺のカンに障るクルストの声が続く。
此方を小馬鹿にする高慢さが言葉の節々に見え隠れしている喋り方だ。
己が賢いと信じ切っている者特有の、鼻に付く『匂い』だ。
言うまでも無く、この俺は、そんな奴がジャマイカンを筆頭に挙げるまでも無く、大嫌いだ。
金を払ってでも殺してやりたくなる。

『ビームサーベルを仕舞い給え、中尉。このままだと攻撃の意志ありと看做すが？』
「貴様の交換条件は何だ！クルスト・モーゼス！」
『まず戦闘を中止して、３号機をこちらに廻して貰おうか。…まだまだ改良せねば、『EXAM』は使い物にならん』
「…貴様が次の犠牲者を出さんと言う補償は何処にも無いッ！断るっ！俺の答えは、断じて否だっ！」
『…連邦の闘士に告ぐ、これ以上の犠牲はジオンの騎士、二ムバス・シュターゼンがその名誉に懸けて出させん。行かせてくれ。…騎士にとって…兵士では無い、守るべき無辜の民草が殺されるのは…耐え難い苦痛ッ！』

俺は博士の言葉を信用出来ないまま、ビームサーベルの出力を絞った。
肉眼では確認出来ない程に光の刃は短くなる。
自らジオンの『騎士』と名乗るコイツのアナクロニズムとロマンに賭けるのは典型的な馬鹿の見本だが…。
俺は、ニムバスの言葉を信じた。
同じ『マリオン』を知り、感じる者としてだ。
しかし…個人的感情と職業意識は別だ。

「フィリップ！サマナ！３号機に照準を合わせろ！３号機が下手な真似をしたら指示を待たず即座に撃て！『曹長』はそのまま監視！次に子供を撃ったら遠慮無くビームライフルで全員焼き殺せ！これは命令だ！俺は３号機の傍に付き同行する！子供達の安否の確認の為だ！聞こえたな、クルスト！」
『クルスト…次に同じ真似をするならば…私は容赦せん…！お前は聴こえるのか？私の『マリオン』が…泣いているのだぞ？悲痛な声で…！貴様はそれだけで万死に値する事を忘れるな…！』

俺はこの緊張感の中、二ムバスの台詞が醸し出した妙な可笑しさに引っ掛かり、思わず笑い出しそうになった。
俺と、同じだ。
コイツも『マリオン』と『自分の欲求』のまま、己に正直に生きている。…嫌いな奴では無い。

「…俺の声が聞こえているか？ニムバス？」
『何の用だ？連邦の闘士よ？』
「その…な…？…『マリオン』に伝えてくれ。俺は、博士のこのやり方を許さん、とな…」
『…奇遇だな？私も『マリオン』にそう言おうと思っていた…。貴様は解るのだな？『マリオン』が？』

２号機の右手に持たせたビームサーベルを３号機のコックピットに突き付けながら、俺達は傍から聴けば奇妙極まりない会話を続けていた。
戦闘中での『マリオン』の反応、『EXAM』の融通の利かなさ…。
この邂逅は戦場と言う場所に似合わない程、弾んだ。
俺が確信を持って云える事が一つ有る。
『俺達の性根は、実は兵士向きでは無い』と言う事だ。
何処の世界に、戦闘の只中で、己の扱う兵器について、敵兵に共感を持って愚痴を垂れあう兵士達が居るだろうか？
そんな奴はこの俺と目の前の騎士サマしか、居ないだろう。
NT研究所までの道程が、俺が短く感じる程、会話は続いた。





**■第六十章 



NT研究所の建物の屋上に、拳銃を持った博士と、子供達の一団が居た。
…小さな血溜りの中にうつ伏せになった男児の死体も視認出来た。
クルスト博士は左腕に一人の『女児』を抱き抱え、その頭に拳銃の銃口を突きつけつつ、３号機の顔と２号機のコックピットの俺を眩しそうに、笑みさえ浮かべながら見上げている。
俺は奴の顔に今すぐにでもヘルメットのバイザーを上げ、唾と罵声でも吐いてやりたい衝動に駆られた。

「良くぞ来たニムバス大尉！君こそが人類の希望！さあ、私を連れて逃げるのだ！私が居れば連邦も迂闊に手は出せまい！私は人類の未来の為に、研究を続けなければならん！例えあらゆる非難を浴びようとも！」

ニムバスの３号機が、盾を装備した左腕を博士に向けて差し出した。
喜々として博士は『女児』と共にその手に乗る。
女児の髪の色は…青緑色をしていた。
その時見せた、何故か女児の物哀しげな表情が…俺の『人間』の部分を苛んだ。

「クルストォ！その子を離せ！貴様の目的は達成したろう！この場の誰もお前を撃てん！だから離せ！」
『…クルストよ。解放だ。騎士たる私の名誉をこれ以上傷付ける行為は…最早、容認出来ん。人質を解放せよ』

クルストはニムバスの言葉に従い女児を解放した。が、背を向けて走りだす女児のの背に、即座に拳銃を向け発射する。俺が２号機のマニピュレーターで阻止しなければ…銃弾は女児の小さな体を容赦無く貫いていただろう。博士のその行為は、俺には理解出来た。飽くまで子供達は博士にとって『人類の敵』だ。その『敵』が『子供の形』をしているに過ぎないのだ。

『…連邦の闘士よ…感謝する。悪いが行かせて貰う。だが…その代償は払う。このジオンの騎士、二ムバス・シュターゼンの名と名誉に懸けて、支払う。通話回線を、黙って開いて置くが良い。後でこの私が、面白く、痛快な物を聞かせてやろう』
「さっさと行け、騎士様…。俺がその手の中のオッサンに胸部バルカンの真っ赤なペイント弾をぶちかましたくなる前にな？」

俺が２号機のビームサーベルを収納させると、３号機はそのまま背を向け、スラスターを吹かせて、脱兎の如く奔り去る。
そして、俺達の装備したGMマシンガンやビームライフルの射程外まで到達すると、こちらを向いて高々と左腕を掲げた。

『騎士の名誉を汚し、華麗なる闘争の興を削いだ貴様の罪、万死に値する！その命を以て、償うが良い、クルストォ！』
『や、止めろニムバ…』

プチッ、かグシャリ、か、音が聞こえた様な気がした。
先程の女児は…このクルスト博士の結末を『知っていた』のだろう。
そしてこの事件の御蔭で…３号機の顔、『白いガンダムの顔』は間違い無くNTの子供達に、『悪の象徴』として記憶された筈だ。
後の強化人間としての彼らの『刷り込み』はさぞ容易な事だろう。
そしてEXAMは…もう生産される事は無い。残りは２つだ。
１号機のEXAMと、３号機のEXAM。
２号機と１号機の寄せ集めと、完全な３号機。
俺にとってそれは僥倖なのか不幸なのかは…
未だ知る由も無かった。    </description>
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    <title>ヤザン−ユウ 041-050</title>
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    <description>
      **■第四十一章 



エマージェンシー・アラームがけたたましくミデア内に鳴り響く。
俺は直ぐに私室から走り出す。
『奴』がその俺の前を必死な表情をして走り過ぎて行く。
過呼吸気味の真っ赤な顔だ。
俺は『奴』に数秒で追い付き、ロッカールームに同時に入る。
ノーマルスーツに着替えるのは、俺の方が早かった。
乗機を失った奴は、結局俺のミデアに乗る事になった。
俺は『奴』を鍛える為に日常生活まで介入した。
食事の食べ方から軍服のアイロンプレスの掛け方、ＭＳ戦術論から強い酒の飲み方、女の洒落た口説き方に至るまで、多種多様の教育を『奴』に詰め込んだ。
『奴』が消化不良を起こす事無く、熱意を持って取り組み、砂漠に水を撒くが如く知識を吸収、体得していくのは、俺の『教官』冥利に尽きるものだった。
今回の『競争』も『教育』の一環である。
いかに非常時に素早く対応出来るかを覚えさせるためだ。
宇宙ではノーマルスーツの着用の遅れが、生死を分かつのだ。
…その他にも理由がある。

「残念だったな、『曹長』！俺に勝ってブルーに乗れたのは２回だけだな？ズルを抜くと？」
「…また俺が居残りかよ！実戦させろよ、実戦！アンタも俺に経験を積ませたいんだろうが！」

そう、俺はスクランブルの発動後、早くノーマルスーツを着て、ブルーのコックピットに座った方が出撃出来ると言うルールを作ったのだ。
奴はこれまでに２回、２サイズ上の軍服の下にノーマルスーツを着ていたと言うズルと、最初からノーマルスーツでブルーのコックピットに座っていたと言う茶番を４回もやらかしていた。
あとの６回は俺の完全勝利だ。
年季は俺の方が遥かに積んでいる。
俺にとっては至極妥当な結果だ。

「七年同じ事をやってる俺に『２回も』勝てたんだぞ、『曹長』！少しは自信と自覚を持て！」
「しかし…シミュレータではアンタに１０回に１回位しか未だに勝ちが取れんのは…正直辛いぞ…」

背後から声がする。
黄色いノーマルスーツに包まれた腕が見える。
まだ『奴』は勝ちを諦めていないのだ。
俺は自然と唇に微笑が浮かぶのを抑えられなかった。
コイツはまだまだ伸びる。
厳しく鍛えれば鍛えるほど。
格納庫までのデッドヒートを繰り広げる俺達の眼前に、格納庫から伸びる、白っぽい照明が眩しく煌いた。
キャットウォークを走り抜ける俺達の形相を見て、アルフを始めとするブルー専属スタッフが爆笑していた。
慌てて飛びのくメカニックの置いた工具箱を飛び越え、ぶつかりそうになるＳＥ（システム・エンジニア）の女の子を抱き止め、優しく脇に退けた。
丁度そこに間髪入れずに鬼の様な顔をした『奴』が迫る。俺の背後で絹を裂く様な悲鳴が上がった。
どよめきが上がる。
奴が何かしたらしい。
ブルーのコックピットハッチに手を掛けた俺が振り向いた時、見たのは、しゃがみ掛けたＳＥの女の子を、奴は前方宙返りでかわした瞬間だった。

「やるな、『曹長』！だが、俺の勝ちだ！ミデアの銃座からの的確な援護射撃を、期待しているぞ！俺に負けて悔しいからと言って、俺に当てるなよ？これで俺の７勝２敗だ！ＢＤ−１、ユウ・カジマ、準備良し！モーリン、聞こえるか？…パイロットは…ユウ…カジマ…『中尉』だ…」
『聞こえてるわ、ユウ！また勝ったの？曹長、銃座についてくださいね？』
「そりゃないぜモーリンちゃぁん…！疲れてるんだよ俺は…！次は負けんぞ『中尉』ィ！」
『…おはよう『優しい』ヤザンさん…。また、一緒で…わたし…嬉しいな…』

終わりの無い生と死の隣り合わせの時間の中、俺達の皆はこの『一瞬』を最大限に活用し、かつ、愉しんでいた。
いつか、この笑いに満ちた日々が、終わりを迎える時が来るのを、心のどこかで切なく感じながら。





**■第四十二章 



幾多のジオン軍の妨害を退け、俺達『第11独立機械化混成部隊』は、『GM・ライトアーマー』１機の損害のみで連邦軍の勢力下にある研究施設へと辿り着いた。
その間、『奴』に俺の持てる限りのMS戦の技術を詰め込んだのは言うまでも無い事実だ。
相変わらず『馬鹿』は直らないが…最後まで根を上げなかった事は充分、評価に値する。

「おいおい、そりゃあ無いだろうがよぉ…？ちゃんとアンタから５回に１回は勝てるようになったろうが！」
「マシンガンやバルカン砲弾の掃射の中、機体ダメージ無視で突っ込む奴は他に何と謂うんだ？『曹長』？」
「確かに『馬鹿』以外の何者でも無い…。このオレの基準でもやはり『馬鹿』だな…？ヤザン『曹長』…」
「アンタら血も涙も無いのかよ…。俺より『ブルー』がそんなに可愛いのか？あ、そうか、『中尉』は…」

俺達三人は研究施設がある基地内を散策していた。
俺とアルフと『奴』の三人は、徒歩で移動しながら、辺りを観察していた。
研究施設…。
目立つ建物は直ぐに解る。
背が高い建物はMS格納庫だ。
先程から『嫌な感じ』を放つ窓の無い建造物は…あの何もかも見透かされる様な得体の知れない雰囲気がする建物は…俺の直感だが…多分…。

「なあ『中尉』…？さっきから、変だぜ？あの宿舎に何かあるのかよ？もしかして気に入ったとか？」
「『曹長』、貴様はあの建物から何か『感じ』ないのか？何かこう、不愉快な感覚を感じないのか？」
「…ジオンからの亡命者が…この基地で研究を続けていると言う話をオレの同期から聞いた…。ヤザン、オマエの話してくれた…『フラナガン機関』からの亡命者だそうだ…。オレがその名を出した途端、同期の奴は絶句した…。この時点では最高機密らしいが…。NT研究所と言うゲテモノが、本当存在していたとは驚きだな…」
「!!…『中尉』…？子供の泣き叫ぶ声が…聞こえて来ないか？あの窓の無い殺風景な建物から…？」

『奴』は俺よりも具体的な『感覚』でその違和感を感じ取ったらしい。
『奴』は即、建物に向かって駆け出した。
俺とアルフはその後を追う。
自動小銃を持った衛兵が８人、２人１組に為って、その建物の周りを警備している。
なんと基地の最中枢に位置しているにも関わらず、建物周辺には対空銃座や塹壕、鉄条網さえも設営されていた。
『奴』はそれらが目に入らぬかの様に、構わず敷地内へ入ろうとする。
案の定、すぐに『奴』は衛兵に制止された。

「…アルフ、話をつけてくれ。『EXAM』関係者だと言えば、案外スンナリと中に…」
「…そうも巧く行かん様だな…？あの『曹長』に搦め手を期待する方が可笑しい…」
「糞！やってくれたっ！馬鹿！停まれ！衛兵に撃たれるぞ！死ぬ気か『曹長』っ！」

押し問答の末、衛兵に脇腹を自動小銃で小突かれた『奴』は激昂したのか、制止した衛兵を２人とも殴り飛ばし、そのまま施設の敷地に駆け込んだのだ。
走る『奴』の足元のアスファルト舗装に小銃弾で小さな穴が穿たれ続ける。
『奴』は躊躇する事無く施設の入口を目指し、疾走を続けた。
辿り着くと、軍服の上着を脱いで、右拳を包むと、入口の強化ガラスを殴り付けた。
中に封入された金網で補強されていたガラス窓が、『奴』の打撃に降服したのはものの３回の右ストレートだった。
俺の目は内線電話を掛ける衛兵を捉えていた。
俺は走り寄り、フックを押さえ切った。
非常用に足首にいつも携帯している、９㎜口径の護身用の小型自動拳銃で。
俺の好奇心も、刺激されていた。





**■第四十三章 



結局『奴』と俺の実力行使は、重罪に問われる事は無かった。
アルフの『現状で、ものの２人しか確認出来ない、貴重なEXAMパイロットを殺す気か！』と言う、謂わば『盗人猛々しい理屈』と、『EXAM関係者』である一事が、俺達を建物の中に入り、自由に見学・行動可能な許可を得させる原動力と為った。

「…おっと！お嬢ちゃん！前見てろよな？お兄ちゃん、ビックリしたじゃないか？なっ？」

研究所内に入った俺達三人が、監視の人間付きで見学している最中、通路の角で、前も見ずに走って来た幼女と、『曹長』が衝突した。
７〜８歳位の彼女は、『曹長』の脚に突っ込み、派手に転倒したのだった。
『奴』は直ぐにしゃがみ込み、怯えながら立ち上がろうとする幼女に、微笑みながら右手を差し出した。
驚いた事に幼女はその手を握り、立ち上がった。
…信じられなかった。
この俺は『笑った子も泣かせる』、ヤザン・ゲーブルであると言うのに、だ。
普通の子供なら、『奴』が微笑んだ時点で火の付いた如く泣く。

「嫌なことする人たちが…来るの…。わたしを…守って…！ヤザンおじさん…」

『奴』は『おじさん』と幼女に云われて傷付いたのか、僅かに眉を顰めた。
俺とアルフは、それとは別の事実で、眉を顰めた。
何故、彼女は『奴』の名を知っている？
俺は監視の人間の顔色を伺った。観るまでも無く、予想した通り、蒼白だった。
俺とアルフは悟った。
間違い無く此処は、極秘の連邦軍NT研究所だと。
『奴』はニッコリ笑い、怯える幼女を抱き上げ、自分の肩に乗せ、肩車をした。
…優しい奴だ。残酷な程に。

「よし！あいつ等だな！観てろよ、『お兄ちゃん』の強さを！子供は明日の宝物ってなぁ！」

追手の白衣を身に纏った男達を一目見た奴は、幼い頃、俺が母親から聞いた受け売りを口にし、向かって行く。
アルフが俺を見た。
俺はあらぬ所を見上げ、呟いた。
『言い訳、頼む』と。
拳と脚蹴りの炸裂音が、静かな研究所内に、数十度、響いた。
子供を肩車したまま、奴は７人の研究者を叩きのめしていた。
女も男も容赦無く、だ。
幼女の無邪気な笑い声と、奴の、『もう大丈夫だぜ？お嬢ちゃん』と得意げに語りかける口調が、俺の頭痛を誘う。
監視者の無言の非難を含む視線が、俺の横顔を痛い程貫いて居た。
『部下の管理が、全く成って居ない』と。

「ヤザンおじさん、みんなにあわせてあげるね！嫌なことする人たちから、わたしをたすけてくれたって！」

横目で俺が見ると、ぶわっと、監視者の顔から冷や汗が噴き出していた。俺は独り言を言うように静かに言った。

「無かった事にじゃないか？その方がお互い、幸せになれる。そうだな？監視カメラを停めて、盗聴も止めて来所記録も抹消して、各所掌の人間に緘口令敷いて、あと、お偉いさんには報告無しだ。ついでにアンタもここから離れれば、免責可能だぞ？所員を介抱している内に、三人が勝手に自由行動した、とな？」
「…オレが全ての責任を取る。君は所員を介抱し給え、軍曹…それも早急にだ。感謝して呉れるだろうな…」

アルフの言葉に救われた様に、監視者は駆け出して行った。
奴はこれから、各所の辻褄合わせに忙しく動かねばならないのだから。
俺達は顔を見合わせ微笑むと、楽しげな幼女を肩車して、足取りも軽く進む『奴』の後を追った。





**■第四十四章 



『奴』がその部屋のナンバーロックを幼女の指示に従って解除し、開けた途端に、十数人にも上る子供達の突進を受けた。
怖い物知らずで鳴らす、流石の『奴』も面食らったのか、助けを求めるように俺達の方を向いた。
歓声を上げる子供達にすぐに囲まれた『奴』は、子供達に軍服のズボンを引っ張られ、尻を押されるままに部屋の中へと入っていった。
…懐かれ振りが普通では無かった。

「ヤザンおじさんありがとー！あのダイクってひと、にがいおクスリばかりのませるんだー！」
「あー！ずるぅいー！つぎ、ぼくー！ヤザンおじさん、かたぐるまー！」
「ないちゃだめってわたしにいつもいう、ナミカーっておんなのひと、なかせてくれてありがとう…」

俺達が部屋を覗いた時、最早奴の体の上は子供達で占領されていた。
肩車をしていた女の子はそのままの位置をキープし、『奴』は座り込んで胡坐を掻いていた。
十数対の穢れ無き、純粋な瞳が、俺を射抜いた。
俺は何故か無遠慮に心の中を覗かれる不快感を覚えた。
何かこう、値踏みされているのとは違う、そう、見せたく無い何かまで、無理矢理白日の下へ引きずり出されるような…遠慮の無さだ。
俺は不快感に耐え切れず、思わず両腕で自らの体を抱き締め、叫んだ。

「止めろ！俺の心を無遠慮に覗きに…入るな！お前達のような子供が見て良い物など一つも無い！」
「…急に…どうしたんだ？オレは特に何も、感じないのだがな…？」
「へんなの〜！あのひともヤザンおじさんなのにね〜？」
「ね〜！」

無邪気に笑い合う子供達と対照的に、俺達３人の顔から笑顔が消えた。
奴にもやっと理解出来たのだ。…鈍い奴め。
どうあっても、隠し事など出来ない恐怖が、俺達を凍り付かせた。
どうなっているんだ？
どうしてこんな能力を持つ？
見た目は子供だと言うのに？

「…ふつうのひとは、ちがうの？わからないの？」
「…ああ。始めて出遭った人間の名前なんぞ、普通の人間は、知らんよ」
「だからマリオンおねえちゃん、気をつけてねって言ってたんだよぉ…」
「…知ってるのか？『マリオン』を？ここに『体』は…存在するのか？」

凍り付いた『奴』の肩から、ぴょん、と幼女が跳ね降りた。珍しい髪の色だ。
ブルーグリーンと言えば良いのだろうか？
染めて居なければ、天然で居る存在では無いのだが…。
俺の隣に居たアルフが、背を屈め、口を開いた。
言葉を発しようとした矢先に、幼女が呟く。
俺は同じ様に腰を屈め、幼女の目線に合わせた。
子供とは言え、対等の、人格を持った人間だ。

「…『EXAM』は、マリオンおねえちゃんじゃないよ…？あれは…ちがう『もの』なの…」
「どういう事なんだ？もっと俺に解る様に言ってくれないか？俺はまだ、お前達とは『違う』んだ」
「…おじさんが、もどりたいなら…おねえちゃんを助けたいなら…『EXAM』を、こわすの」
「有難う。気を悪くするなよ？俺は慣れているが、『奴』は『初めて』だったんだ…」

妙に老成した笑顔を、幼女は見せた。
他人の嫌悪感の対応に、慣れているのだろう。
悪意を持った人間を、見慣れ過ぎた、乾いた笑いだった。
子供には、して欲しくない表情だった。
少なくとも俺は、させたくは無かった。
後ろで唇を噛んでいる『奴』も同じ思いだろう。

「いいの。…おどろかれるのは、いつもだから…。でも、おじさんたちは、いやじゃないよ？」
「ありがとよ。おチビちゃん…。また来て、いいか？今度は美味いもの、たくさん持ってきてやるから！」
「うん！ヤザンおじさん、約束だよ！約束！ぼく、あまいのがいい！」

不安そうに俺達を見詰めていた他の子供達に、再び笑顔が甦って行く。
俺達はこの戦争の『早期終結』を心に誓った。
…たとえ俺が『戻れなく』なる事態が勃発したとしても。
『俺』の命がこの時代で尽きようとも。
…知ってしまったのだから。
戦争の道具に、生きた兵器に、『調教』されつつある、少しばかり神様に悪戯をされた、可哀相な子供達の存在を。





**■第四十五章 



連邦軍NT研究所から出た俺達は、峻厳な顔付きをした、眉毛の太い初老の男に出迎えられた。
アルフがその男を俺に紹介しようとするが、俺はそれを停めた。
すぐに俺は右手に拳を作ると、薄い唇を開き、何かを言おうとした男を問答無用でブン殴った。
…奴には俺にそうされる理由が充分に存在する。
俺はその男の顔も、名も、その為した事も、既に『見知って』いた。

「クルストォ！ほんの少し、俺達と違うからと言ってっ…！年端も行かん少女になぁ、己の抱いた妄想のためだけに、あんな辛い事を押し付けるのか?!マリオンは…あんたを、信じていたんだ！心から慕っていたんだ！それを何故、利用する様な真似などっ！」
「…そうか…お前はバケモノの為り損ないなのだな…。嘆かわしい…。私の創った『EXAM』に狩られなかったと言う事は、まだ完全に『発現』していないワケだな…急がねばならん…」
「カムラ大尉、あのオッサン、誰だ？『中尉』の態度がさっきから尋常じゃあないが…？」
「…彼は『EXAMSYSTEM』の産みの親であり、ジオン公国からの貴重な亡命者で情報源でもある。…『クルスト・モーゼス』博士だ。何故かNTを…蛇蝎の如く、忌み嫌っている…」

切れた唇を拭おうともせずに、クルスト博士は俺を睨み付けていた。
狂気に取り付かれたその瞳は、俺の中に存在する『何か』を見据え、激しく憎悪している様だった。
どうやら奴は、この俺が『マリオン』に懐柔されたと判断したらしい。
直ぐに『曹長』の方の腕を取り、引っ張る様にして自分の乗って来たエレカの後席に押し込んだ。
…有無を言わさぬ、鬼気迫る表情だった。

「まだだ…まだ、君が居るッ！君とあと一人が…旧人類の…いや…人類に残された希望だ！非常に惜しい事だが、ユウ中尉はもう使い物にならんっ！私と一緒に戦うのだ、若者！」
「お、オッサン、な、何だってんだよ、おい、おいったら！俺は逃げやしねェよ！痛ェなぁ…」

呆気に取られる俺達を無視して、博士はエレカの運転席に乗り込み、基地内の制限速度を無視したスピードを出して、新型MS格納庫と思われる建物に向かって行ってしまった。
俺は自分の右拳に痛みを感じ、腕を上げると、クルストの歯で切ったのか、ザックリと拳が切れて出血していた。
無事な左手で軍服の総てのポケットを探ったが、生憎止血に使える様な物は無かった。
アルフが溜息を吐きながら、自分のハンカチーフを差し出す。
俺が礼を言う暇も無く、直ぐにアルフは手当てしてくれた。

「…済まん…どう言えば良いのか…その…奴が…クルストが…な？優しすぎる『マリオン』の…」
「…あの格納庫にはな…ガンダムフェイスの『ブルー』が存在する。新品の…『ブルー』の二号機だ。まだ例の『蒼色』に塗られてはいないが…予備パーツ用に、既に三号機も組み上げられている…。…ヤザン、オマエの今までに叩き出した驚異的な戦闘データの総てを叩き込んだ…新型MSだぞ…？オレは、オマエにこそ…最初に乗って欲しかった…。オレとオマエの２人で育てた…『ブルー』にな…」
「…アルフ、そいつ等については、お前、完全に部外者だろ？そんなMSに『ブルー』を名乗らせて良いのか？俺とお前とマリオンの一号機こそが、本物の『ブルーデスティニー』ってモンだよ、アルフ。違うか？」
「ヤザン…オマエが考えて居る事は解るつもりだがな…？二号機と三号機は宇宙戦仕様に換装済みだ。今更…」
「俺と『曹長』のどちらが強いか、解らせてやるだけさ。…あの『自分の妄想で眼が曇った』博士にな？」

俺はEXAM搭載マシン同士の対戦を、クルスト博士に申し込む事を婉曲にアルフに告げた。
『マリオン』を救うには、『EXAM』を全て葬り去る必要がある。
これは危険かつ無謀な『賭け』だ。
『EXAM』マシン同士は、惹き合う。
そして、互いに暴走し、潰し合う。
承知の上での決断だ。
もし『EXAM』が基地で発動したならば、NT研究所の子供達が危険だ。
人類の可能性を、こんな『機械ごとき』にこの俺が潰させやしない。
人類の行末は、未来の人類自身が決めるのだ。
だが気になる事が一つ、あった。
『Zのパイロット』や『マリオン』が発した『力』について、クルスト博士の見解を俺は聞きたかったのだ。
NTに敵意を持つ『奴』ならば…対処法を心得ているかも知れないのだ。
俺は呆れるアルフと共に、格納庫に足を向けた。
脚が重い。俺は先ず、あのクルスト・モーゼス博士に、殴った詫びを入れねばならないのだから。





**■四十六章 



俺は自分の感情に整理を付けられなかった。
NT研究所の子供達を、『兵器』にさせないためには、この戦争の早期終結が必要だ。
『EXAM』搭載マシンが量産可能になれば、連邦は戦力的にも充実する。
しかし、『EXAM』は不安定だ。
俺が『ビジョン』で観た限り、アレはNTと『対等に戦う』為にだけ創られたシステムだ。
安全性など最初から度外視している。
あんな物に乗らされた『普通の奴』は…システムが強制する破壊衝動に先ず耐えられない。
…多分あの『ヤザン・ゲーブル曹長』もだ。
正直に言うと、俺は迷っていたのだ。
子供達の成れの果ては…俺も一緒に戦った事も在る、強化人間だ。
歴史は、変えられないのならば、多分あの中には、『ロザミア・バダム』も居る事だろう。
子供達を救えないのか？
救えるのか？
結局目の前に居る子供達を救う事は、出来はしないのでは？
だとしたら…俺は何をするべきなのか？
『未来』を知る者として？
様々な想念が、浮かんでは消える。

「…結局の所、俺は目の前の敵を倒したいだけかも知れん。敵が居ないと、余計な事を考え過ぎて困る。戦争は善悪を直ぐに見分けられるほど、単純では無い。俺の感性のままに動くまでだな…」

俺の直感は『EXAM』を危険で胡散臭い物だと訴えている。
俺は、気に入らなかった。
人間を戦闘機械にするシステムだ。
人間は、自らの意志で行動する生物だ。
この俺を操ろうとした時点で、システムはこの俺、『ヤザン・ゲーブル』を敵に廻したも同然だ。
気に入らなければ、殺せば良い。…簡単な事だ。

「オマエの今回の敵は…災難だな？己のフラストレーションの、解消の為に模擬戦を考えたのか？」
「ストレス発散、と言って欲しいな。欲求不満じゃあ、子供扱いされた様で、格好がつかんだろう？」

俺の独白を聞いたアルフが、珍しく冗談で俺を揶揄した。
クルスト博士は意外とあっさり、『ユウ・カジマ』の『俺』を許してくれた。
『正しい道に戻ってくれると信じていた』と、大真面目に言ってのけた博士は、直後に満面の笑みを浮かべ、俺の肩をポンポン叩きながら格納庫の中を案内してくれた。
…気味が悪い程、親切に。

「あの思い上がった新人類に、人類の実力を思い知らせてやらねばいかんのだ！EXAMに相応しい人間は、やはり君しか居ない！戦闘記録を参照したが…君の部下は、残念ながらまだ…未熟だったようだな？」

そうだ。
『奴』、『曹長』は、未だ『EXAM』発動時のブルーを体験して居ない。
ただ、ブルーに乗っただけだ。
残念ながらクルスト博士の御眼鏡に適わなかったのだろう。
俺は薄笑いを浮かべ、横目で『曹長』を捜した。

「折角バケモノ屋敷から一匹借りて来て、シミュレータで『EXAM』発動を体験させようとしたのだが…」
「…なんだと？俺の部下は何処に居る！博士！『奴』は、ヤザンは無事なのか?!」
「情け無くも拒否したのだ。『子供を殺れる程、俺は外道じゃネェぞ、オッサン』と、一緒にバケモノ屋敷へ戻った。彼と、ミュータントが一匹乗った、私のエレカと擦れ違わなかったか？」

俺は胸を撫で下ろした。
こんな事で『奴』を潰されては『俺』が困るのだ。
博士がキーコードを入力すると、馬鹿に大きい耐爆扉が開いて行く。
俺とアルフは促されるままに、中に入った。
『ガンダム』が２体、居た。
蒼く塗装された『ガンダム』と、白いままの、『ガンダム』だ。
『ブルー』の一号機と同じく、左肩にそれぞれ『02』、『03』と数字で大きくマーキングされていた。
『02』は白で、『03』は黒で描かれていた。

「ＭＫ−Ⅱなのか…？あの白い奴は…？」
「アルフ君は関わっては居ないが、『ブルー』の2号機と3号機だ。マークⅡと言うなら、二号機の方だよ、ユウ中尉」
「…オレに機体データを見せて貰えませんか、クルスト博士…。オレにはその権限が与えられているはずだが…」
「アルフ君、私は君にも期待しているのだよ…。私がもし、志半ばで斃れたら…その時は…遺志を継いで貰いたい！」

俺はクルストの台詞を最後まで聞く事が出来なかった。
…急に俺の頭の中に、『マリオン』の悲痛な声が響いて来たのだ。
『どうしてなの…？三号機が…この時点で完成している訳が無いのに…！』と。
俺は『マリオン』に心の中で問いかけたが、応えは、無かった。
俺は一抹の不安を抱きつつ、二号機の足元へと歩み寄るクルスト博士とアルフの後を追った。





**■第四十七章 



俺は結局、アルフを残し、NT研究所へ『奴』を迎えに行くことにした。
余り子供達に、『深入り』するなと釘を刺して置くためだ。
入口は許可命令が下ったのか、今度はスルーパスだった。
中に入ると…頬を腫らせた
女研究者が、俺に泣いて縋って来た。
『何とかして下さい』と。
俺が彼女に微笑むだけで、目元を紅く染め、黙る。
色男は、得だ。
奴はあの部屋の子供達と一緒に、『遊んでいる』と言う。
案の定、思った通りの展開だ。
もう夜間だが、此処には窓が無い。
大方時間を忘れて夢中で構ってやっているのだろう。
…その逆かも知れんが。

「…任せてください。奴を連れ戻す為に、私が来たのですから…貴女も…辛いでのしょうに…」

女研究者の両肩に優しく手を置き、労わりに溢れた真摯な声で言ってやると、感極まったのかまた泣き出し、抱きついて来た。
俺は女が泣き止むまでそのまま突っ立っていた。
勿論、この女に同情の余地など一つも無い。
人体を、此処の子供達を良い様に弄繰り回し、結局『次の』戦争の道具に『仕立て上げた』人間の一人なのだ。
恥を知っている人間ならば…己のしている事の善悪を考えて…とっくに行動しているだろう。
…『奴』の様に。

「…居るんだろう？俺だ。ロックを解除しろ、『曹長』」
「…『曹長』は眠った。ドアは開いている。彼に話が有るのなら、俺は引っ込むが？」

『ユウ』が代わりに、応えてくれる。
…そう云えば、子供達は『ユウ』の存在に気付いていたのだろうか？
窓が一つも無い、異様な部屋の中の真中に、胡坐を掻いた『奴』を中心にして子供達が寄り添って眠っていた。
『奴』の膝に凭れて眠る者も居る。
これでは強面の『奴』も動けないだろう。
俺は『ユウ』に苦笑を見せた。
『ユウ』も静かに笑う。
…心に染み入る様なその優しい笑みは、金輪際、俺には真似出来無いだろう。

「…ジオンの『EXAM』マシンが来る。『ヤザンおじさんの中のユウお兄ちゃんは、元の体に戻れるよ』と、この娘が教えて呉れた。右腿に頭を乗せて眠っている子だ。名を…」
「ロザミア・バダム…面影が有る。７年後には『立派な』強化人間にされる…娘さ。俺と一緒に出撃したよ」
「…残酷だな。未来を知っていると云うのは…？人殺しをさせるために、俺達は戦って来た訳では無い…」
「ユウ…もう少し…体を…貸して呉れないか？この件に、ケリが付くまでで良い…頼む！」
「…戻れるだけさ。『でも、今と変わらないよ？』と…左腿のこの娘がな。名前は…教えてくれなかった」

俺は、頷いた。
…昼間のブルーグリーンの、髪の子だ。
ユウはその髪を優しく、撫でる。
俺は真向いに座った。

「ジオンの『EXAM』マシンについて、知っている事は？」
「…パイロットは二ムバス・シュターゼン。自称『ジオンの騎士』だ。先行量産GMコマンドのテストの際、遭遇した…。気を付けろ…奴は普通じゃ無い。イカれて居る。…オーヴァーヒートで動けなくなった、俺の機体のコックピットからわざわざ俺を出させ、ヒートサーベルで焼き殺そうとした。『騎士の機体に傷を付けた事を褒めてやる。この私のイフリート改にな』とな…。『ブルー』の性能ならば、まず勝てると思うが…」

俺はユウの腕に恐怖した。
あの『EXAM』を積んだマシンと、生身で互角に渡り合ったのだ。
…しかし、相手がヘボだったと言う可能性も捨て切れんが。
ジオンのMSの性能を、連邦のMSは曲がりなりにも凌駕しているのだか…待て。
GMコマンドがオーヴァーヒートだと?!
その逆なら容易に考えられるが、『EXAM』が、暴走しなかったのか?!

「…奴は完璧に…『EXAM』を制していた。ヤザン、お前は…まだ、の様だな…？」
「ああ、まだだ…しかし、俺は負けん！誰にも、負けん！『EXAM』にも、自称・ジオンの騎士にもな！」
「…その割には…体が震えているようだがな…？…それとも俺の遠い先祖の言葉にある『武者震い』か？」

俺は背中の辺りがゾクゾク疼くのを感じた。俺と互角か、それ以上の相手と戦えるだろう、その期待感に。





**■第四十八章 



『奴』は、子供達に『懐かれて』いた。
次の日、基地のPX（売店・かなり広い）のジャンクフードの棚が全部、空に為る位に買占め、段ボール箱を満載したエレカで研究所に乗りつけ、衛兵の白い眼も気にせず所内に持ち込み、『ヤザンおじさん』を『ヤザンお兄ちゃん』と呼ぶように頼み込んでいた。
…『奴』の真意を知っている子供達は、当然面白がって『おじさん』と呼ぶのを止めなかったが。
PXの係員に、『玩具』を調達しろとねじ込んだと、偶然居合わせたフィリップから聞いた時は腹を抱えて笑った。
『EXAM』のシミュレータを弄るのにもいい加減飽きてきた三日目の朝、唐突に変化が訪れた。
『ブルーデスティニー』2号機が、綺麗さっぱり格納庫から無くなっていたのだ。
アルフも寝耳に水を喰らったのか、茫然としていた。
俺は手近なクルスト博士の部下の一人を捕まえ、聞いた。

「中尉の部下のあのヤザン曹長を連れて、2号機の運動モーメントのテストに行きましたよ？気付かなかったんですか？」
「…あの早朝出てったトレーラーか！スクラップを搬出するだけだとオレに伝えておいて…！…しかし何故この主任メカニックであるオレに無断で…？」
「ああ、そういえば曹長、博士に条件付けてましたよ？子供達に『ガンダム』を見せてやりたいから、後で連れて来てくれと。博士、にこやかに快諾してましたね。普段バケモノ扱いしていても、あの人はやっぱり子供好き…」

俺はその男を突き飛ばし、乗ってきたエレカで研究所に向かった。
…間に合えば、ここで何事も無く、終わる。
俺の切実な思いも知らず、研究所の事務職員は『もうとっくに子供達は出発した』と俺に素っ気無く、告げた。
…クルストの狙いは読め過ぎる程、読めた。
博士にして見れば『２号機』や『曹長』の『最終テスト』なのだ。
俺は無言で研究所を出て、エレカに乗り込んだ。
途中で走って来たアルフを拾い、制限速度無視で、ミデアに向かう。
息を切らせて喘ぐアルフに、俺は案件のみをしっかり大声で伝える。
粗相が在っては今後何かと差し支えるのだ。

「三日前、提出済みの『ブルー』の模擬戦の嘆願書に、今日の日付を入れておいてくれ。ヘンケン少佐には既に話は通してある。場所は演習場だ。ミデアの使用許可も内々に取ってある。…あの子供達の前で『２号機』を『曹長』が起動させた瞬間…悲劇が起こるだろう。阻止するにはこの方法しか無い…『EXAM』には『EXAM』だ！」
「…固定兵装は実弾が装填したままなんだがな…100㎜マシンガンも実弾の方が良いのか？ヤザン？」
「俺と『マリオン』を信じてくれ！『EXAM』は『EXAM』か、それと同様の『モノ』に魅かれても発動する！あの子供達はNTだ！だから…！同じモノに魅かれるならば、『EXAM』の方が、より強い敵意を…！」

ミデアの格納庫に設えてあるスロープの、地面との段差で俺は舌を噛みそうになり、黙る。
スピンターンの要領でエレカを停めると、俺はキャットウォークを駆け上り、ブルーのコックピットに滑り込んだ。
アルフが内線で操縦室に離陸を促すのを肉眼で確認し、俺はハッチを閉め、『ブルー』起動させた。
テストの為にノーマルスーツを着込んで置いた事は僥倖だった。
ケーブル類をヘルメットのジャックに差込む。俺の焦りに気圧されたのか、『マリオン』は語り掛けて来ない。
…俺は『EXAM』には呑まれはしない。
そう心で念じながら、体は機械的に計器チェックをこなして行く。
間に合え。
間に合わなければ俺は一生、後悔するだろう。
あらゆる者を見捨てる卑怯者の生き方は、俺にはまだ似合わない。





**■第四十九章 



ミデアが離陸して10分も経過しただろうか？『マリオン』の息を呑む『声に為らない声』を俺は『感じた』。

「稼動して居るのだな…？『EXAM』が既に…」
『あれは…違う！わたしじゃない！わたしとは…違うの！わからないの…！』
「ハッチ開け！ユウ・カジマ、出る！」

突然、例の唸りと、モニターの表示がシステム発動を告げた。
俺は急いで通信回線を、外部スピーカーまでオープンにして叫んだ。
放置すれば、外に出るためだけにミデアの格納庫ごと破壊してしまう恐れが充分に在る。
隔壁が開くと、長方形に切り取られた空が、蒼く、眩しく、闇に慣れた俺の眼を焼いた。
ミデアが失速気味に高度を落としたのか、視界が激しく揺れた。
直ぐに『ブルー』の各部ロックが解除され、俺と『ブルー』は中空に躍り出る。
数秒もしない内に激しい震動が、俺をダイス（サイコロ）の様に弄んでくれた。
『ブルー』のショックアブソーバが特別製でも、こればかりは完全に防げない。
低空飛行を敢行しつつ、演習場内の建造物を曲芸飛行張りに鮮やかに回避して行く、目の前のミデアのパイロットの腕に俺は感謝した。
『ブルー』の着地地点には、廃墟と化したコンクリートビルディングが立ち並んでいる。
嘗て栄華を誇った、戦争前の遺物達だ。
誰も居ない都市。
死の街。
気象の激変で、人が街を捨てたのだ。
捨てる事の出来る棲家が無くなった時…果たして人間は次に何処へ行くのだろうか？

『ヤザンさん、前！』
「２号機かっ?!何処だ！」
『あの子たちが…居るッ！早く遠ざけて！今のあの子たちには…見せたくない！』
「解った…ミデアに回収を依頼…ッ！」

すぐ近くに大型のエレカを視認した途端に、途轍も無い破壊衝動が襲い、俺の意志を阻止しようとする。
モニター表示は…完全に敵表示だ。
しかも最優先破壊コードまで御丁寧に付与されている。
俺の思考が未だ
正常に働くのは、『マリオン』が『EXAM』に対して必死に抵抗し続けて居る証だった。
俺も機体に堪えなければならない。
『マリオン』の信頼に応えるためにも、だ。
俺は叫んだ。格好悪いが、他に方法が無い。

「俺は俺だ！俺に従え『EXAM』ッ！俺の敵はもっと喰い応えの有る奴だ！捜せ、『EXAM』！」
『…ヤザンさん…』
「幻滅しただろう？だが、これが俺の本性だ。どの道、敵が居なければ、満足せん男だからな…？ただの兵士が一番性に合ってるのさ。正義の味方を気取って見たって、人殺しに大した違いは無い」
『でも…人の命の重さは…知っている…。だからMS同士の戦闘に拘り続ける…。哀しい人…』

『ブルー』が、機体ごと背後を向いた。
見つけたのだ。俺の『喰うに値する』敵を。
…『蒼いガンダム』がその両眼を血走らせながら、立っていた。
その様子から残念だが、『曹長』の自由意志は無いと見るべきだろう。
俺では無く、俺の背後のエレカを、その右腕に保持した『100㎜マシンガン』でロックオンしていたのだから。





**■第五十章 



俺は無性に腹立たしい気分を抑え切れなかった。
この俺が機械に、『EXAM』に舐められたのだ。
武器を持たない、子供達の怯えや敵意の方が、この俺、『兵士』であるヤザン・ゲーブルよりも脅威だ、とされたことにだ。
２重の意味で腹立たしかった。
目の前の、過去の俺以上である『奴』も、NTの子供達よりも危険度が低いと、この『ブルー』の『EXAM』が判断したのだから。

「舐めるなよ、機械風情が！」

俺はブーストを掛け、『蒼いガンダム』こと『BD-２』に体当たりを掛ける。
２号機は何故か回避せず、大地に地響きを立て俺の『ブルー』と共に倒れ伏した。
…様子が変だ。
『EXAM』発動中の『ブルー』は、恐るべき存在だった。
正常、と呼ぶべきなのか解らんが、この状態の『ブルー』はまるで敵の行動を予測しているかの様な回避行動を取る筈だった。
『お肌の触れ合い会話』こと、接触回線に俺は耳を澄ますと…『奴』が何と…啼いていた。

『どうしちまったんだよ…『マリオン』…何にも出来ない餓鬼どもを殺せってのかよォ…！まだ子供なんだぞ…どうしてだよ…！まだあいつら、世界の何にも見てないんだぞ…！汚い物も綺麗な物も…！敵だなんて言うなよ…！俺は撃ちたくなんか…無ェ！』
「『曹長』！『曹長』！俺の声が聞こえるか！曹長！」
『ちゅ…中尉…か？変なんだよ…この『マリオン』…。此処で起動させた途端、やたら怯えて…挙句の果てに、あの子達のエレカ見たら…『破壊する』って…』
「体が自由ならばヘルメットを取れ！そして対衝撃行動！早くしろ！一刻も早くだ！」
『と、とったぞっ！中尉、次は何を…』

俺は『ブルー』の頭部バルカンを発射した。
２号機の『頭部』が原型を留めなく為るまで。
今の今まで頭部バルカンを使用しなかった理由は一つ。
『EXAM』システムが搭載されている部所が、『頭部』だからだ。
『EXAM』はその性質上、センサー系と密接な関連性が有る。
敵の行動予測一つにしても、メインカメラが撮った映像を判断し、敵の型番、武装等を読み取らなければ始まらない。
通常のMSは大抵コックピット周りに存在するメインコンピューターに情報を送るが…『EXAM』は頭部に設置する事により処理時間を短縮していると、アルフから
以前に聞いていた。
しかしBDシリーズは『EXAM』が基本OSだ。
全てのシステムを統括するだろう『EXAM』の宿る頭部を破壊した時、MSは後に行動不能に為る事は間違い無い。
俺は回線を前もって設定して置いた秘匿通話回線にして、ミデアで待機しているアルフに怒鳴った。

「ブルーの頭部が破壊された場合のフェイルセーフ機能はどうなっている?!メインコンピューターの、通常基本OSでリブート（再起動）可能なのか!?それともメインの方は取り外されているか?!用心深いお前ならば、当の昔に調べてあるはずだがな?!」
『…安心しろ。その方法で良い…。オレの子飼いの部下が、クルスト博士の指示を無視して搭載した。人脈は、こう言う時に生きる物なのだな…？安心してリブートさせろ。もう暴走の危険は無い』
「聞いたな『曹長』！即実行だ！そしてリブートしたらあのエレカを抱えて、後はアルフの指示に従うんだ！俺の『ブルー』から、出来るだけ遠くに退去！復唱は要らん！さっさとやれ！」

俺は『感じて』いた。
圧倒的な敵意と、闘争への期待感を持った相手が迫りつつある『プレッシャー』を。
『Z』のパイロットに何処か似た、あのざらつく不快感を。
俺は『ブルー』の体を起こし、カメラを最大望遠にして索敵した。
土煙の上がる中、かすかに光るモノアイ達が見える。
掛け値無しに間違い無く、ジオンのMS部隊だ。
俺は『観た』。
その中に肩を紅に彩り、二本のヒートサーベルを携えた一つ目の『蒼い』MSが存在する事実を。    </description>
    <dc:date>2006-01-07T22:53:32+09:00</dc:date>
    <utime>1136642012</utime>
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    <item rdf:about="https://w.atwiki.jp/yazan/pages/7.html">
    <title>ヤザン−ユウ 031-040</title>
    <link>https://w.atwiki.jp/yazan/pages/7.html</link>
    <description>
      **■第三十一章 



俺とブルーがその場に停止している間、生き残ったジオンの歩兵達はブルーを狙い執拗に攻撃していた。
小銃弾や拳銃弾等の実体弾が命中する、高く澄んだ音が装甲を伝わり俺の耳に届く。
…再起動は不可能だ。
俺の操縦でガタが来たのと、『マリオン』が擬似的にノーダメージの状態で『EXAM』を発動させたため、
OS関係のソフト面は正常に作動しても、駆動系や関節系のハード面、下手をすればフレーム系も一部損傷をしているかもしれない。
蒼き死神、ブルーは今や『燃え尽きた』状態にあるのだ。
俺は苦笑した。

「パイロット失格だな…。これじゃアルフに笑われるな…。いや、号泣してくれるか…？」
『ヤザンさん、上！』
「な…！あの…馬鹿野郎っ！ミデアで来るか?!戦場の只中に?!引き返せ、アルフ！危険だ！」
「…悪いがお断りだ…。オレのブルーとオマエを…見捨てはしない…！…機械化歩兵部隊を投下する。…付近の掃討は彼等の任務だ…。…ヤザン…礼を言うぞ…ブルーの頭部をよく無傷で…こんな状態になっても…。…しばらくそのまま待機してくれ…。…時間は取らせん。オレも降りるからな…」

空を舞うミデアから、次々と落下傘を装備した車両が投下されて行く。
俺はようやく思い出していた。
この部隊が『第11独立機械化部隊』では無く、『第11独立機械化『混成』部隊』である事を。
各種兵科が一通り揃っている部隊なのだ。
…俺は無意識の内に、MSにこだわり過ぎていたのだ。…俺には仲間がいた。
通信が、入る。音声のみだが、味方の名も知らぬ奴等からだった。
俺は回線をフルオープンにした。

「我が部隊の看板エースに傷を付けちゃあ、第11独立機械化混成部隊の名が泣きますからね！少ぉし待ってて下さいや、ユウ中尉殿！すぐに足元のジオンの奴等なんぞ、追っ払ってやりますから！」
「汚ェぞ！ライル！中尉にポーカーの借りが有るのは、手前ェだけじゃ無ぇんだ！このぉ！」
「待ってて下さいね、中尉…。アルフ大尉を乗せて、この私が優雅に空から舞い降りますから…」
「…アンタ、それ、公私混同だよ？ヴァネッサ？変な自己主張しないの！あ、アタシはケイね？」

ブルーのコックピットに続々と通信が入ってくる。
皆、俺の事を、いや、ユウ・カジマの事を思って語りかけて来てくれるのだ。
俺は言いようの無い嫉妬に駆られた。
…俺の一年戦争時代に居た部隊は、こんなに暖かくは無かった。
同じ最前線に配置された部隊でも、天と地ほどの差が有る。
…俺は見捨てられたのに。

『…ヤザンさん…そんな事が…?!酷いっ…！味方なのに…そんな事を…するなんて…！』
「…半分は俺の蒔いた種だ。一人で戦争を戦っているのだと勘違いした、俺の…な…」

ミサイル基地が完全に掃討され、俺とブルーが回収されたのは、アルフの通信よりきっかり２時間後だった。
コックピットの惨状を一目見たアルフは、黙って俺を抱き締め、言った。
『…オマエの…せいではない…』と。
アルフの奴はようやく信じる気になったのだ。
『マリオン』と言う、NTに覚醒『してしまった』少女の存在を。





**■第三十二章 



本隊と合流し、俺達は移動命令に従って、転戦しつつある連邦軍基地の研究施設へと向かっていた。
俺は連邦のこの時期のMSの殆どが、パーツ類の統一規格化を進めていた事実に始めて心から感謝した。
回収されたブルーは、首から下だけが塗装が剥げ、銀と蒼の虎縞模様状に傷ついていた。弾痕の水玉模様も痛々しい。
しかし、外観を見た限りでは、ブルーの装甲板に致命的なダメージは見当たらない。

「…見て見るか？…ブルーのアクチュエーターに各部ショックアブソーバーの損傷具合を？」

何時の間にか俺の背後に立ったアルフは、厭味ったらしく手に持った紙資料を渡して言ったものだ。
見ると、丸々一機分を調達出来る程のパーツリストが羅列してあったのだ。
内部のダメージが深刻らしい。

「…パーツの手持ちのストックが危うい。…逆に言えば、一回の補給でここまで良く持たせたものだ…」
「テスト機体は大事に扱え、といつも上の方から言われていたのでな？陸戦型ガンダムのパーツなど本当は無いんだろう？パーツ交換する毎に微妙に反応が鈍くなって来ているのだがな？アルフ？」
「…東南アジア方面で大攻勢が始まるらしく、必要数が確保出来なかった…。オマエは、騙せんな…？」
「量産試験機の陸戦型GMの物だろう？フィットさせるオマエの腕を今回も信じているよ、アルフ…」
「!!…知っていたのか?!人が悪いな…ヤザン…。…コックピットはもう修理した。入っても構わん」

俺はアルフに軽く頷き、再塗装前のブルーのコックピットに歩き出す。
…何故かハッチが、開いていた。

「よお？『モルモット隊』のトップエースさんか？先にお邪魔してるぜ？…いい機体だなぁ、おい？この俺様が惚れ惚れしちまうってのは、そうザラに無いな。ま、いずれは俺のモノに…」

自分の特徴と欠点を思い切り醜悪にして、目の前に戯画（カリカチュア）化されて、これがお前自身だ、とこれ見よがしに突き付けられた者が、どんなやりきれない気分になるか、他に誰か理解できるだろうか？
…俺はそいつに皆まで言わせる程、忍耐力は無かった。
大事な『娘』を他の男の手で汚された『父親』のような怒りが、今の『俺』を俺自身で殴り倒させる原動力となった。
…この『ヤザン・ゲーブル曹長』を。

「…転属してきたヤザン・ゲーブル『曹長』だな？相も変わらず、口の聞き方を知らん奴だ…」
「…ふん、俺の知ってるユウ・カジマとは少々勝手が違うようだなぁ？『声』の言う通りだな…」

切れた唇を拭いながら、奴は言った。意外だった。
この当時の『俺』ならば、殴られたならば100倍どころか1000倍以上にして『その場で』返す、単純明快な奴だった筈だ。
決定的な『あの事件』が無かったならば。
睨み据える『上官』の『俺』に、奴は立ち上がり、唇に不敵な嘲笑すら浮かべながら堂々と言った。

「いいか、ユウ・カジマさんヨォ？テメェの中身なんざこの俺様にとっちゃあ、どうでもいい事だが、これだけは言って置く！俺が来たからには、もうデカイ面はさせネェ！俺がのし上がる踏み台位がテメェには丁度お似合いなんだよ！今に撃墜数でも追い抜いてやる！わかったか『中尉殿』…?!」

ギャンギャン吠えるだけの犬は、今までジェリドの馬鹿だけだと思い込んでいた俺の都合の良さを、俺は心から恥じ入り、ジェリドに心の中で謝罪した。
下には下がちゃんと居るものだ。
俺は『俺』の胸倉を掴み思う存分、１時間後にやっと気付いたフィリップとサマナに静止される瞬間まで、満足するまで『修正』を『ヤザン・ゲーブル曹長』に施してやった。
…奴の反撃などかすらせもしないままに。
これが俺達らしい『初対面』の儀式だろう。
俺は心の何処かに引っ掛かるものを感じながら、倒れ伏し、顔を痣だらけにして気絶し、弛緩し切った奴を見下ろし、思う存分笑ってやった。
…敗者の無様な醜態を。





**■第三十三章 



「…奴に、酷い事をされなかったか？『マリオン』…？変な事、言われなかったか?!」

ようやくコックピットに入り、ハッチを閉めた俺が放った第一声が、間抜けにもこの一言だった。
あの汚い手でスティックを無遠慮に撫で回した拍子に触られたか、内装を舐め回さん勢いでジロジロ見ている最中に偶然イメージを感じ取られ、目を付けられた等の心配が『奴』には充分有り得たのだ。

『自分を悪く言うのは…何か可笑しいな…。ヤザンさん？同じ『存在』なのに…』
「腐っても『俺』だぞ？性格の悪さと素行の悪さはこの俺が保証書を付けてやっても良い位だ！」
『でも、行為に明確な悪意が無いもの…。あのヤザンさんには。まるで子供の様にはしゃいでた…』

『マリオン』の声が弾んでいた。
子供に子供と言われる『奴』に何故か、微笑ましさを俺は感じた。
俺のそのイメージを読んだ『マリオン』が遂に笑い出す。
俺もそれに釣られて、笑い出してしまった。
そうだ。新米の頃の俺は、MSと言う大きな機械人形を、自分の新しい玩具か何かの様に思っていた。

「子供のまま、大きくなったモンだからな…アイツは…。周りを取り巻く悪意に気付くまで…」
『…悪意に気付かなければ…幸せなまま生きて行けたのに…解ってしまった…。わたしと…同じ…』
「…人間は誰でも何時かは、大人に為る。アイツは遅すぎて、お前は早すぎた。…それだけの差さ」

あの頃の俺はMSと言う機械人形の戦闘能力に夢中になると同時に、のめり込んだ。
MSの戦闘能力を自分の実力だと思い込み、周囲の人間や状況を見ることをすっかり忘れ、傲慢に振舞い過ぎたのだった。
パイロットの鉄則とも言える『整備屋とは喧嘩をするな』と言う不文律さえも、何処吹く風とばかりに暴れ回り、気に入らなければ口論を吹っかけ、喧嘩を売らせては殴り付け、悦に入っていた莫迦だった。

『…卑怯だよ…その人は…。そんなやり方を…恥ずかしいとは思わなかったの？手抜きだなんて…』
「メカニックを甘く見た高いツケを払っただけさ。…恨むなら機体の点検をしなかった俺自身だよ。…生き延びた今は、そうも言えるが…。あの時は…目の前が真っ暗だった。俺は死ぬんだってな？」

或る日、それは起こった。
敵の目前で、俺の自慢のGM・ライトアーマーの右膝に突然、動作不良が発生したのだ。
…起こる筈の無い、整備不良からのアクチュエーターの焼き付きだった。
擱座（カクザ）した俺は、敵のいい的となる運命を免れ得無かった。
…残った僚機は脱出した俺を回収する事無く退却した。
俺は敵の制圧下を命辛々逃げ延び、やっとの事で生を拾ったのだった。
…誰も俺を捜そうと言う奴は、居なかった。
ただの一人も、居なかった。
俺はその時、悟ったのだ。
俺一人では、何も出来ない事に。

『…生きていてくれて…有難う…。ヤザンさん…。生きていたから…わたしは貴方に逢えたの…』
「それが、昨日に奴に起こった出来事の筈なんだが…？馬鹿なままなのは…何故だ？」
『…どうしてあの人が、コックピットに入れたの？…わたしは、多くを…伝え…られ…』
「…マリオン？どうした？おい？何故答えない?!マリォォォォォォンッ！!」

俺は消えていく『マリオン』の気配を、名を呼ぶ事で繋ぎ留めようとでもするかの様に叫んでいた。
そう言えば奴は『コックピット』に『入っていた』。
アルフと、ブルーのパイロットしか知らないコードを入力して。
人見知りをするアルフが、『奴』に教える訳が無い。
消去法を繰り返せば、残る可能性は…!!
…ブルーデスティニーのパイロットにして、『蒼い死神』の異名を持つ…『ユウ・カジマ』ただ一人だった。





**■第三十四章 



俺は整備ベッドに横たわるブルーのコックピットから、ハッチを開けると同時に転げ出た。…『俺』を捜すためだ。
付近で若い女性メカニックとイイ雰囲気で観談中のサマナを捕まえる。
血相を変えた俺が『奴』の居所を聞くと、サマナは震える声で『フィリップ少尉が頭に水をバケツで掛けて覚醒させたら、微笑んで『有難う』と言って居住区に行った』と答えた。
『女の前でビビるなよ、サマナ？格好悪いな？』と俺が言ってやると、『そこが准尉のカワイイ所なんです！』とお姉ちゃんに詰め寄られたのは俺の予想外だったが。
…その年で早くも女の尻に敷かれるとは…苦労するぞ…サマナ。

「『有難う』か…。あの俺の調子だと、目覚めた途端、水を掛けた奴を殴るぞ…？やはり奴は…？？モーリン？」

俺の、いや、ユウ・カジマの私室の前で、モーリン・キタムラ伍長がドアに後ろ手に持たれつつ、俯きながら待っていた。
俺が声をかけると、体をドアから離しゆっくりと顔を上げる。
…幼さを幾分残したその顔からは、何故か生気が消えていた。
細く、華奢な、ペンより重い物を持った事が無いだろうその両手には、鈍く光を反射するゴツイ軍用拳銃が握られていた。
俺の胸へと真直ぐ、銃身を震えさせる事無くその照準はしっかりと保持されていた。
花弁にも似た可憐な唇が、静かに開く。

「…ユウの声で…私の名前を呼ばないでよ…。ヤザン・ゲーブルっ！ユウから出て行って！ユウを返してっ！」
「…何の事だ？…君は疲れて居るんだよ、モーリン…。俺があの下品なヤザンなワケが無いだろう？さあ、銃を…」
「ユウの声で喋らないで！ユウは私に優しかった！ユウは私だけを気遣ってくれた！貴方みたいな人は違うっ！…貴方は出撃の前に言ったっ！『ヤザン・ゲーブル』ってっ！…私のユウを返して…！今すぐ返してよぉっ…」

…だから女は苦手なのだ。情念ですぐ行動する。
俺を撃ったら自分がどうなるかなど、頭から綺麗サッパリ消えているに違いない。
トリガーに指が掛かって、必要以上に緊張している。
この状態で俺が喋ったら、何かの拍子に引いてしまうかも知れない。
…四の五の考えても仕方が無い。
行動有るのみだと俺が意を決したその時、モーリンの背後に『奴』が現れた。

「？ユウ…？ユウなの…？!?違う…!?でも…雰囲気が確かに…！」
「…済まないな…モーリン…。冷えるだろうが、暫く此処で眠っていてくれ」

奴はモーリンの延髄に手刀で軽く一撃を加えると、失神させる。
崩折れる彼女の体を抱き止め、ご丁寧にも壁に持たれ掛けさせた。
『俺』ならば、こんな気の効いた事は絶対しないだろう。
…何よりも放つ雰囲気が別人だった。
ギラギラした俺の物とは違う。
例えるならば、静かな水面、そう、『水鏡』と言えばしっくり来る。
荒れる事無く、ただ物事を『有るがまま』に受け止める。
自らが動く事無く、状況が変わったならば柔軟かつ冷静に対応する。
俺が『剛』なら、奴は差し詰め『柔』だ。
ただ、気に入らないのは、その雰囲気が『俺』の顔では違和感が有り過ぎて、俺自身が気持ち悪くなって来た事だけだろう。

「…お互いに『始めまして』…と言うべきなのか解らんが…。…『ユウ・カジマ』…だな？俺のオマエは？」
「…ルウムで命を粗末にするなと俺を殴った事をもう忘れたのか？都合のいい頭だな、『ヤザン・ゲーブル』…いや、俺はやはり『始めまして』と言うべきだろうな…。今のお前は此処に確かに居る。『ヤザン・ゲーブル』の体にな」

ルウム戦役の激戦の中、幾つもの宇宙戦闘機隊が全滅した。
そんな部隊の中でもただ一人、幸運にも生き延びる奴等が居た。
俺もそうだが、コイツもそうだ。
仇を討つと息巻いたコイツを殴り飛ばし、医務室で監禁してルナツーまで連れ帰った日を、今の今まで記憶の外に追いやっていた事を。
『今は耐えろ。生きて居ればこそ出来る復讐がある』と、悔恨に悩む男に説いた事を。
『連邦にMSを造る！それが俺達の出来る復讐だ』と。
俺は意地の悪い微笑を唇の端に浮かべ、言った。

「もしかして、あの時の『死にたがりのお莫迦さん』か？大人になったモンだな…？お互いに…。…何が可笑しい？」
「…戦争は人を変える。良い方にも、悪い方にもな…。今のお前は確かにこのお前よりも大人だな？猫を被っている様だ…」

奴は俺には真似の出来無い、静かで綺麗な微笑みを浮かべた。
お互いにさぞ気分の悪い事だろう。自分の顔をした他人を見るのは。





**■第三十五章 



俺達は俺の、いや『ユウ・カジマ』の私室に入り、ドアをロックした。
まずは目の前の『俺』の状況の確認が最優先事項だった。
俺が椅子に座り、『ユウ』がベッドに座る。…『俺』がこの部隊に入ってから一度も使っていないユウ・カジマの本人のベッドだ。
ユウが言うには、『無茶を止めるのは辛かった』の一言に尽きた。
俺の体に入った『ユウ』は、余りにもこの馬鹿の自我が強すぎたのか、直接体をこうして動かせたのは初めてだと言う。
その間、声のみでこの阿呆をここまで導いてきたのだから、その忍耐力と指導力には敬服してもまだ釣銭が来る。

「こう言うのも難だが…。『俺』が馬鹿でスマン…。よく生かして連れて来てくれた。…貴官に捧げる謝罪と感謝の言葉も無い」
「…目的を遂げる間に、その手段が楽しくなって、道を見失ってしまったのだろう…。半分は、俺の責任でもある…。気にするな」

『MSを造ってくれ。テストパイロットとして計画をぶち上げろ。必要な時間は、必ず俺が創ってやる。だから生きろ！』と。
その場の雰囲気に酔った、熱くてノリ易い若かりし俺はユウに言ったのだ。
…今は恥ずかしくて良く言えた台詞では無いが。
俺はトリアーエズやTINコッド、セイバーフィッシュで一年戦争初期の戦場を駆け抜けた。
宇宙で、地球上で、ジオンのモノアイどもや体を痛め付けるGと果てしなき格闘を繰り広げた。
宇宙空間では無敵のMSだが、HLV内やガウから降下する一瞬の間は無力になる。
その瞬間を狙って、俺達、戦闘機隊は突撃する。
それを逃せば、待っているのは己の死だ。
神経の何処かが麻痺して、生きているうちに好きな事をやりたがる刹那的な性格にも為る、とユウは言った。

「そうして創った時間で、上層部はMS不要論を振りかざした…。俺達は何も出来なかった…」
「まあ、俺の壊れているのは元々だからな？お前の責任じゃあ無い事は俺が保証するよ、ユウ」

俺はジャブローのモグラどもに向けた殺意を押し殺し、わざと明るくユウに言った。
奴を落ち込ませるのが目的では無い。
飽くまで『俺』の情報が俺は欲しいのだ。
ユウ曰く、『操縦技術は凄いが、MSのハードやソフトについての理解が足りない』『機体の事前点検やちょっとした修理に随分とフォローが必要だった』、『周囲が見えていない』との事だ。
流石の俺でも本人の目前で『その絶好の機会をお前がご丁寧にも潰してくれたんだ』との暴言は恐れ多くて、吐けなかった。

「…俺はブルーに乗り、EXAMを拒否して…こうなった。良く我慢しているな…？あんな胡散臭いMSに乗せられて…」
「胡散臭いは無いな？ブルーは優秀なMSで、アルフはイイ奴だ！マリオンは素直だが、ただEXAMが曲者なだけだ！」
「マリオン？…ブルーに初めて乗った時…俺は女の…少女の声を聞いた…。あれが、EXAMの正体なのか？」

俺は思わず『俺』の、ユウの胸倉を掴んでいた。
右腕を振り上げ、拳を作る。瞬時に俺の腸が煮えくり返っていた。
『マリオン』とEXAMを同列に語ったユウを、俺は何故か、許せなかった。
ブルーに乗ってお前は何を感じたんだよと、無性に問い詰めたかった。
…俺は怒っていた。
同じブルーデスティニーのパイロットとしての共感を俺はユウに無意識のうちに求めていたのだろう。
戦闘を強制されている『マリオン』の哀しみを知っているのかと俺は腹の中で叫び、ユウを放した。

「違う！『マリオン』は、『マリオン』なんだ！『EXAM』じゃあ無い！二度と俺の前で一緒にするな！次は許さんぞ！」
「…どうやらお前は何か知っているようだな…？…良ければ話してくれないか？…急に怒りだす位だ。その理由が知りたい」

俺はユウに慌てて謝罪した。
俺が見た『ビジョン』を奴も見ていたとは限らなかったのだ。
俺の狼狽ぶりにユウの奴は苦笑していた。
『まるで自分の母親か恋人が淫売呼ばわりされたような怒り方だ』と。
俺は少し頭に来たが、構わずに残らず話してやった。
MS戦闘中に俺の体験した一体感や『ビジョン』の内容の全てを。
一時間かけて話したが今の『俺』が目覚める気配は少しも無い。
俺が更に話を続けようと口を開いた時、ドアがノックされた。
腰を浮かせかけたユウを手振りで制止し、モニターを覗くと、失神し続けるモーリンを横抱きに抱えた、アルフがそこに立っていた。
俺はロックを開けアルフと眠ったままのモーリンを招じ入れると、夜の明けるまでEXAMとマリオンの差違について議論を繰り広げた。
俺の戦うためだけに浪費されてしまった青春を再び我が手に取り戻すかのように、熱く、長々と語り続けた。
時の過ぎ行くのも忘れて。





**■第三十六章 



『そう…EXAMが全ての元凶…。ユウはEXAMのもたらす殺戮の快楽を受け入れず…ＥＸＡＭは自らに相応しいパイロットをわたしに撰ぶ様に…強制した…。『NTに憎しみを持つ強い魂』を捜す事を…。それが七年後のヤザンさん…』
「俺にこそEXAMが相応しい、か。そうかも知れん…。失うモノなどもうあの時の俺には何も無かったからな…』

出撃待機中のブルーのコックピット内で俺は『マリオン』に一昨日の議論の結果を暇潰し代わりに話していた。
『EXAM』が限り無く臭い、と言う事実をだ。
『マリオン』が今俺に語った事で、その推論は確信へと変わった。
『マリオン』が何か暗い雰囲気を漂わせ始めたのを俺はすぐに『感じた』。
何が気に障ったのか聞こうとする俺を『マリオン』は察し、口籠もりながらも俺に理解し易い様に『言葉』にして伝えて来た。

『酷い…でしょう？ヤザンさんをこんな目に遇わせて…。わたしを…嫌いに…なった？』
「…マリオン…。返って来る答えを知ってて聞くのは、相手の男に自分を嫌な女だと思わせてしまう原因の一つだ。…俺からの忠告だ。もし良ければ覚えて置け。将来、立派な男を捕まえられるイイ女になりたいのならな？」
『わたしは言葉として…聞きたいの…。ヤザンさんの口から…。ねえ、ヤザンさん…わたしは我儘…かな？』
「俺はEXAMに礼を言いたい位だ。偶然でも、オマエに逢わせてくれた。…これ以上はな…俺が照れくさくてな？」
『ヤザン・ゲーブル、GM・ライトアーマー、出るぞコラァ！行くぜェ！ジェロォォニィモォォォォッッ！』

馬鹿が雄叫びを上げてまだ高度も高いと言うのにミデア格納庫から飛び降りた。
空挺作戦か何かと勘違いしている奴に、俺はやり切れなさに硬く目を閉じ、首を左右に振った。
やはり危機を『体験』させなければ『奴』は変わらない。
俺はミデア格納庫の発進作業員の合図を確認する。
OKサインが出た。
…機体への過度の負担は思わぬ事故を呼ぶ元だ。

「…ユウ・カジマ…。BD-1…。出る…」
『ユウ、敵は少ないけれど、気を付けて』
「…有難う…。モーリン…。必ず帰るよ…。君のために…」

俺は議論のついでにユウから徹底的にモーリンへの接し方を『仕込まれた』。
自分の帰るべき身体を傷つけられてはたまらない、とその時奴は俺に大真面目に言ってのけた。
『もしかして気が有るのか？』と俺が聞くと、例の微笑みで巧くかわされてしまったので、十中八九、狙っているに違いないだろう。
…誰の御蔭で俺がいらん苦労をする羽目になったと思っているんだ奴は？
お前は良いかも知れんが、俺が『マリオン』を宥めるのに、どれだけ神経を遣うのかお前は経験した事が無いだろう？
俺の居るコックピットにモーリンが入って来た時なんぞ、危うくビームサーベルで二人まとめて焼き殺される所だったんだぞ？
俺にどう行動しろって言うんだ奴は？
何考えてやがるあのムッツリ…

『あの人が邪魔なら、排除を何時でも出来るわ。『EXAM』の発動の責任にしてしまえばいいもの。簡単よ？』
「…っ…あのなぁ『マリオン』！俺から『悪いコト』を学習するな！それは女の子の言っていい事じゃない！」
『…若い方のヤザンさんは『正直だな』って喜んでくれそうだけど。ヤザンさんのその困惑した顔、好きだな…？』

敵の09の３機小隊に、ライトアーマーが果敢に接近戦を挑んでいた。
飛び廻るライトアーマーの姿に俺は意地の悪い微笑を浮かべた。
ユウとの打ち合わせ通り、事は進んでいる。
…細工は流々で、後は仕上げを御覧ぜよと来たモンだ。
機体を事前点検せずに荒っぽい使い方を平気の平左でする罰当たりの末路は、この俺には痛いほど解り切っているのだ。

『酷い事するなぁ、ヤザンさん…。わざわざ細工してまで同じ目に遭わせるなんて…。同じ『自分』なのに？』
「その甘さが、戦場では命取りになるんだ。ここで修正して置かんと…必ず奴はZと殺り合う前に死ぬだろうな」

ライトアーマーの左膝から煙が上がり、脚部が脱落した。
俺は笑いをこらえながら、100㎜マシンガンを奴の機体の周辺に着弾させる。
…何かと格好を付けたがる『奴』の事だ。
見栄を張ってノーマルスーツの下に『オムツ』をしては居ないだろう。
今頃小便を漏らしているに違い無い『奴』の醜態を想像した俺は、久し振りに愉快な気分を味わった。





**■第三十七章 



俺はワザとブルーを擱座(カクザ)したライトアーマーに接近させず、100㎜マシンガンでの遠距離戦闘で09を牽制し続けた。
さらに俺は『奴』を置き去りにして後退するフリまで実施した。
敵小隊の一機の09がジャイアント・バズを『奴』の乗ったままの
コックピットに突き付け0距離発射をしそうになった時、流石の俺でも焦って腰部ミサイルを3連射して撃破したが、それ以外の攻撃は09が跋扈するままに任せてやった。
しかし、『奴』のライトアーマーの武器を持っているはずのマニピュレータはビームライフルを保持したまま、何時まで経っても動くそぶりも見せない。
恐らく、完璧に自らを襲う死の恐怖に呑まれているのだろう。

「若造！脚をやられたからと言って、攻撃出来んワケが無いだろう！ガッツの有る所をこの俺に見せてみろ！キン○マ縮み上がらせて『ママン、僕怖いの』と何時まで震え上がる心算だ！このクズが！それでも男か！」

俺は舌打ちをした後に、回線をフルオープンにして奴に言った。
味方の誰もが俺と奴の遣り取りが聞こえる様にだ。
すぐにライトアーマーの持つビームライフルが散発的にビームを射出し始める。
…俺の意図に気が付いたのだろう。
此処で泣き言を言えば、奴はもうへタレのまま生きて行くしか無くなるのだ。
それは『あの頃の俺』にとって死も同然なのだ。
臆病者に無能者の２枚看板を背負って生きていくには、まだ『奴』は若過ぎるのだ。
奴は泣いているだろう。
間違い無く出撃前に自分の目で機体のコンディションを確認しなかった己の『甘さ』と『迂闊さ』を悔いている。

『…堕ちろ…堕ちろよ…堕ちろぉぉぉぉぉぉぉッ!!俺はまだ、死にたくネェ、死ねネェんだヨォっ!!糞ォッ！』
『ヤザンさん…もう…あのヤザンさんを助けてあげて…！大きな恐怖が…あの人の思念が…もう少しでっ…！』
「…『EXAM』が発動するのか?!解ったマリオン、もう少しソイツを抑えて置いてくれ。…すぐに片付ける！」

通信回線を通じて聞こえる『奴』の絶叫に笑いが止まらなかった俺は、『マリオン』の告げようとする内容に慄然とした。
…奴の恐怖に、『EXAM』が共鳴し始めているのだ。
『マリオン』が俺を救った時に言った、『生きたEXAM』と例えた言葉が、俺の若い頃の顔と二重写しの様に俺には重なって見えた。
俺が09を仕留めようと100㎜マシンガンを構えたその時、突然耳にあの虫の羽音の様な唸りが聞こえた。
コンソールと前面モニターの両方に紅い表示が明滅する。

「何ィ！『マリオン』っ！どうなっているんだっ！『EXAM』が、動くぞ?!こんな事は聞いていないぞっ！」
『魅かれているのッ！若い方のヤザンさんの過大で純粋な恐怖にっ！もう…駄目ェェェェ！怖いのは嫌ぁッ！」

『EXAMSYSTEMSTANDBY』とシステム音声が無情に告げた。
俺の意識が宙に飛び、ブルーの高い視点に引き上げられ固定される。
09のヒートサーベルで焼かれた風の匂いが俺の鼻をくすぐり、大気を震わせるジャイアント・バズの轟音が俺を不快に苛立たせる。
何よりも強い破壊への欲求が俺の心を蝕んで行く。
背後からかすかに、『止めて』と哀願する少女の声が聞こえて来るが…俺は、あえて無視を決め込んだ。
自分の浅ましい衝動が目の前の奴等で満たされる事を思うと笑みまでこぼれて来る。
堪らなく、いい気分だ。
俺を制止し続ける少女の悲痛な叫びさえも、今の『俺』にはただの破壊への心地よいプレリュード（前奏曲）に聞こえた。
殺せ、壊せ、命を奪え。
お前の餓えを満たす物はそれのみだ、と。
俺は100㎜マシンガンのトリガーを爆発的な歓喜とともに絞った。
迫り来る後続の09小隊と、哀れっぽく叫び、不快な『感じ』を垂れ流し続ける、『味方である』GM・ライトアーマーに照準を向けて。





**■第三十八章 



俺は射撃時に出る反動を利用して、左から右にかけて100㎜マシンガンの射線を真横に流して行った。
通常弾の中に、5発に1発の割合で射線確認のため装填されている曳光弾が、オレンジの光の尾を曳いて、09の群れの中に踊り込んで行く。
その砲弾は09のコックピット付近に狙った様に吸い込まれ、命中する。
擱座(カクザ)してちょうどその高さに存在したライトアーマーの頭も、射線の終点に位置していたため、巻き添えを食って吹き飛ばされた。
…『俺』に伝わる恐怖が、５割増しになって更に不快感を倍増させる。
…泣き叫ぶのに疲れたのだろうか？
…『マリオン』の声が今の俺の耳には最前から聞こえて来なかった。

「情け無い奴！それでもヤザン・ゲーブルかっ！たかがメインカメラが吹き飛んだ位で…！」
『…どんなに愚かでも…。情け無くても…。誰も自分で自分を辞める事は出来無い…！』

『マリオン』の鋭い声が狂気にはやり立つ俺の耳を雷鳴の如く打ちすえた。
09がヒートサーベルを抜き、ホヴァーを利かせて左右から俺を挟み撃ちにしようと突き掛かる。
…危うく胴体を串刺しにされる所だった。

「…どう云う事だっ！何が言いたいんだ！俺に何を求めている、『マリオン』ッ!!」
『今のヤザンさんはあのヤザンさんとは違うっ！同じだけど違うのっ！今のヤザンさんには簡単な事でも、あのヤザンさんには難しい事だってあるのっ！確かに格好悪いかも知れないけれどっ…』

バックパックのスラスターを吹かし、急発進して回避した俺は、急制動できずにお互いを貫いてしまった09のパイロット達の断末魔を『聴いた』。
『間抜けどもが』と俺は腹の中で一言毒づき、次の獲物を探す。
飛ぶように加速し続ける爽快感が、『マリオン』の言葉から生まれた疑念を、俺の心の中より洗い流して行く。

「…そらそらそらそらァ！そんな勢いだけの下手糞を構うよりっ！この俺と踊れィ、09！」

動かないライトアーマーを鹵獲しようとする09を、俺は疾走しながら胸部バルカンと腰部ミサイルで追い散らす。
09の、のけぞる様が糸の切れたマリオネットを思わせ、俺をニヤリとさせる。
あのダルマは踊る事を最早出来まい。
俺に要らぬ手間を取らせるライトアーマーの『奴』の存在が不快感の源なのだ、としきりに頭の中の誰かが囁く。

「…ああ、そうだな…。こんな泣き叫ぶしか能の無い奴が…俺であるはずが無い…。消してしまえば…俺は…」

動く物が最早俺しか居なくなった戦場に残る唯一つの不快感の塊が、この半壊したGM・ライトアーマーだった。
俺は片膝を付いたままのライトアーマーのバックパックに、ビームサーベルのビーム発振部分を強く押し当てた。
ここでビームを発振させれば、推進剤に火を付け、コックピットをそのまま貫いて、『奴』を完全に抹殺できる。

『…誰もが最初から上手な人は居ないっ！完璧な存在でも無いっ！憎まないでっ!!無力な自分をっ!!』

俺は『マリオン』の叫びと同時に、瞬時に覚醒した自分に気が付いた。
薄ら笑いを浮かべ、抵抗出来ない自分を焼き殺そうとした俺に。
強張る指を、俺は握り締めたままのスティックから一本一本、無理矢理に引き剥がした。
指の力加減を間違えたら最後…『奴』は生を此処で終えることになるのだ。
それは俺の目的とする処では…無い。
『EXAMSYSTEM』の紅い文字表示が、恨めしそうに前面モニターとコンソールに２、３度瞬くと、あっさり消えた。

「…忘れていたよ…『マリオン』…。過去の自分を認めなければ…今の自分は無い。全部ひっくるめての…俺だ」
『…わたしはきっと…ヤザンさんなら気付いてくれると…信じていたから…呼び続けたの…でも…自信が…』
「ああ、聞こえていた…。もう、『EXAM』には呑まれん。…済まなかった…有難う…『マリオン』…」

ライトアーマーの開いたコックピットから、涙と鼻水で顔をグシャグシャにした『俺』が、不安そうにブルーを見上げているのに気付いた俺は、ゆっくりとブルーの左手を差し伸べた。
しっかり『教育』を施してやるために。





**■第三十九章 



俺は『奴』を連れ帰り、ブルーをアルフに任せると、すぐに『奴』を人目に付かない様にシャワールームに押し込んだ。
『奴』の下着と軍服を用意して、俺は『奴』に声を掛ける事無く立ち去ろうとすると、意外にも『奴』に呼び止められた。
かすかに漂うアンモニア臭が、俺の『奴は小便を漏らしているだろう』と言う予想を、確実に裏付けていた。

「何故…オマエは俺を庇う？誤射で俺を殺しても、文句が出ない状況だったし、オマエに…その…憎まれているつもりだった…。今の情け無い俺をワザと人目に晒す事だってオマエは出来たはずだ。…俺にそんなに恩を着せたいのか？」
「…礼は期待しては居ない。オマエがこの出来事で学んでくれた事があったら、今の俺は嬉しい。…それだけだよ、曹長」
「…信じられんが…『声』が、言っていた…。…笑うなよ？オマエは…本当に…俺…『ヤザン・ゲーブル』なのか？」
「軍に志願する際に、周りの人間に同情されるのが嫌で、ニューヤーク出身って書いて、そのまま通っているはずだな？どっかでテストパイロットやった時、技術者を庇って上の馬鹿どもに爆弾発言かまして最前線送りになった世渡り下手、そして何時も撃墜数リストで自分の上に有る奴の名前を見て悔しがってたな…。家族構成は祖父、父母、弟。実家は…オーストラリア、シドニーだ。小さな頃、ハンティングが趣味の祖父と一緒に北アメリカに旅行してニューヤークに土地勘があった。出身地の偽証や土地の訛りや地名や地区の様子は全部祖父からの知識の受け売りだ…。違うか？曹長？」

俺がここまで語り終えた時、急に奴はシャワーブースの扉を引き開けた。
蒸気と共に現れた『奴』の、見たくの無い所まで、しっかりと観賞する羽目になり、驚愕する『奴』を尻目に、俺は苦笑いを隠せなかった。
俺は奴にバスタオルを投げ渡した。

「…隠せ。男相手に自慢するモノでも無かろう？オマエの『俺』…ヤザン・ゲーブル曹長…？」
「本当に…俺…か？アンタは…その…？正真正銘…ユウ…カジマにしか…見えないンだがな…」
「まずはそれで体を拭け。俺は報告書が、オマエは始末書と各所掌への謝罪周りが待っている。この俺も付き合ってやる。大人しく、俺のやり方を見ていろ。それが終わったら全て話してやる。…オマエに何が起こるか、俺に何が有ったかを」
「…済まんが、もう少し、待ってくれ。ノーマルスーツを…その…な？素人じゃないから…解るだろう？」
「…待ってやる。ちゃんと熱湯でやるんだぞ！匂いが残ってるとすぐバレる。…しっかり洗えよ？」

あわただしく身支度を終え、ノーマルスーツを乾燥室へぶち込んで息を切らせている『奴』を引き連れ、俺は索敵班を始めとする部隊各所掌へ頭を下げに行く『巡礼』に出かけた。
『ウチの新人が迷惑を掛けた』と、ＭＳ戦隊長である俺が真っ先に謝罪すれば、後から出てくる各部署からの不平不満は最小限で済む。
勿論俺が『奴』のリーゼントを掴んで下げさせたのは言うまでも無いだろう。
この場合、積もり積もった奴のこれまでの『悪行』の御蔭で、俺の『誠意』だけでは足りなかったのだった。

「これで解ったろう？オマエ一人で戦争をやってる訳では無い事をな…」

俺が報告書を書き終え、奴の私室を訪ねると、奴は早速、手にＧＭの整備に関するファイルを拡げ、端末の前に座っていた。
目覚めた『奴』の学習能力の高さに、俺は満足して頷いた。
『奴』がベッドに座る様、俺に勧めた。俺は遠慮無く座る。
俺は『まず聞け』と釘を刺し、俺の体験を『奴』に話し始めると、『奴』はメモを取る許可を求めた。
俺は言ってやった。
『お前はそんなに馬鹿だったか？』
それから二度と『奴』は無駄口を叩かなかった。
俺が話し終える頃『奴』は俺に言った。

「…俺は『アンタ』に勝ちたい。だから言う事を聞く。これから指示にも従う。だが忘れてもらっちゃあ困る事が一つ…」
「『ヤザン・ゲーブル』を舐めるな、だろう？誰にモノを言っている？『ルーキー』？…根を上げるなよ？若僧？」

俺達はガッチリ握手を交わした。奴は『今の俺』を超えるために。
そして俺は『過去のＺ』を『奴』に超えさせるために。





**■第四十章 



俺は着陸したミデアからブルーが勢い良く飛び出てくるのをホバートラックから眺める。
『奴』の本来の乗機「ＧＭ・ライトアーマー」は、結局、『奴』が乗るブルーが回収する事になった。
コックピットとマニピュレータと片足は無事なので、「何かのパーツ取りに使える」と俺が判断しての決定である。
正直、『奴』にブルーを、いや、『マリオン』を預けるのは、今の俺に取って、大変に勇気の要る行為だった。
『奴』はＥＸＡＭを発動させているのだ。
…『奴』が未だに『大人に為り切れない、子供染みた純粋な感情』を持つが故にだ。
俺は苦り切った顔で、忍び笑いを見せるモーリンからヘッドセットを受け取り、耳を済ませた。

『ヒャッホウ〜！こいつぁ凄ェ！ちょっとペダル踏んだだけでビンビン動くぅ！』
「…遊ぶな糞野郎！ブルーは俺のＭＳだ！とっととライトアーマーを回収しろ！」
『もう少しイイだろ？な？お…じゃなかった、ユウ中尉…？あと十分！頼む！』
「命令を読んだな？作業完了時刻は何分だ？遅れた時間×10回の、プッシュアップ(腕立て伏せ)決定だ。俺は容赦せんぞ？早くしろ！ヤザン・ゲーブル『曹長』！」

奴が息を呑む様が大きく俺の耳に響く。
『マリオン』の、『本当に嫌そうな顔をしている』との報告が、俺の心に届く。
間髪入れず、『五月蠅い、余計な事言うな！』と『奴』が慌てて『マリオン』に口止めしているのがまた、微笑ましい。
『奴』はどうやら、急速に『何か』に目覚めつつ有るらしい。
『俺の存在が、トリガーになった』と『マリオン』は言ったものだ。

『生命の危機と、プレッシャー…。ヤザンさんは、あの『曹長さん』に『ＥＸＡＭ』で増幅された『それ』を感じさせてしまった…。秘められた『因子』が、動き出したの…』
「…そうなると、俺は、どうなるんだ？『マリオン』？…俺は、『俺』では…」
『無くならないわ。どういう風に、いつ発現するかは…わたしにも…解らないから…』

俺の短い回想を、けたたましい音と震動が瞬時に破ってのけた。
『奴』がＧＭ・ライトアーマを取り落としたのだろう。
上がった土煙がホバートラックを覆い、風で舞い上がった土砂が装甲板を叩く甲高い音が俺を苛立たせた。
頭の中で毒づいた俺の言葉を、多分『マリオン』は細大漏らさず伝えている事だろう。
現にもう、『うへぇ〜…勘弁してくれよぉ〜…』と『奴』が零していた。

「『曹長』！丁寧にやれと言ったろうがっ！俺に勝つまでシミュレータ漬け、決定だ！」
『…せめて、ダメージ半分まで減らせたら、で…。前回、瞬殺されたばかりなんだぜ…俺…』

盗み聞きしているモーリンが、額を押さえる俺の傍で、大っぴらにコンソールを叩いて笑い転げていた。
『奴』相手に漫才をするつもりは無かったが、どうも他人に言わせると『そのもの』らしい。
俺はこの時間を思い出さない時は無いだろう。
『若かりし俺』を鍛えた、笑いが絶えなかった日々を。    </description>
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