小ねたっぽいゆっくりいじめ


 季節は巡り、幻想郷は今厳しい冬を乗り越え春を迎えようとしていた。
人里近い森の中を1匹のゆっくりまりさが飛び跳ねている。寒さも和らぎ、
冬篭りを終えたことでとても嬉しそうな顔だ。 
 突然、ゆっくりまりさの体がふわりと宙に浮く。
「ゆゆ?おじさん、まりさになにかごよう?」
 ゆっくりまりさを持ち上げたのは1人の男だった。
「んー、特になにもないけど、君とゆっくりしたくてね。」
「ゆっ!じゃあ、まりさといっしょにゆっくりしようね!」
 ゆっくりという言葉に反応して上機嫌になるゆっくりまりさ。
「ところでおじさん、なにかおしいものもってない?まりさおなかすいちゃったー。」
 長い冬篭りのせいでろくに食事をできていなかったのか空腹を訴えるゆっくりまりさ。
「んー、おいしいかは分からないけど、お花の種なら持ってるよ?」
 男は両手で持っていたゆっくりまりさを片手で抱えなおすと、腰に下げた小袋か花の種を
取り出しゆっくりまりさに見せる。
「ぽ~り、ぽ~り、む~しゃ、む~しゃ。」
 花の種を見るや否やすぐさまかぶりつくゆっくりまりさ。よっぽど腹がすいていたのだろうか。
「ゆゆっ!おじさんこれはあまりおいしくないよ!もっとおいしいものをちょうだいね!」
 あれだけがっついておいて更に食事を要求するゆっくり。
「そんなこと言われても、今はこれしか持ってないしなー。」
 そういって、ぱらぱらと花の種をゆっくりに振り掛ける男。
「やめてよおじさん!もう、おはなさんのたねはいらないよ!!」
「おーい!春告精はおらんかー!!!」
 ゆっくりの抗議の声を無視し、大声で叫ぶ男。その声に驚きビクッとするゆっくり。
「はいはーい、ここですよー。」
 男の声に反応して、声が返ってくる。その声は男の上から聞こえてきた。
「ゆ?おねえさんはだれ?ゆっくりできるひと?」
 上空からの突然の来訪者に疑問の声をあげるゆっくり。
 男の上空から現れたのは、白い三角帽子に白い服を纏った妖精の少女だった。幻想郷に春が来たことを
告げる妖精、リリーホワイトである。
「お兄さん、私に何か御用ですか?」
男に何用かと尋ねるリリー。すると男は、
「ああ、あるとも。ここに丁度花の種がある、これに春を与えてはくれんかね?」
 そういってゆっくりまりさをリリーの前に突き出す。ゆっくりまりさは男が何をいっているのか分からず
顔をしかめる。
「はーい、お安い御用ですよー。」
まかせろ!というように即答するリリー。
「それじゃいきますよー。・・・・・・・・春ですよー!!」
 リリーは息を整えた後、元気一杯に叫んで万歳をするような格好をとる。全身からはこうなんというか、ぽわ
ぽわしたピンク色のオーラがあふれ出していた。

・・・ぴょこ。

その春オーラにあてられた花の種が芽を出した。
ぴょこ、ぴょこ、とゆっくりまりさの周りにあった花の種が次々と芽をだしていく。
「ゆー!ゆー!」
妖精の起こす奇跡に目を輝かせるゆっくりまりさ。しかし、異変はすぐに起きる。
ぷっ、ぷつ、と何か小さな穴が開くような音。その音に反応してゆっくりまりさは周りを見渡す。しかし、自分の
周りにはそのような音を出すものは見受けられない。突然、激しい空腹感に苛まれるゆっくりまりさ。
「わー!キレイに咲きましたね!それでは、私はこれで!」
「おーう、ありがとさん!」
 満足げな顔で立ち去るリリーに笑顔で謝礼と別れの挨拶をする男。
「おじ・・・さん・・・、なに・・・いってるの・・・・?」
 あまりの空腹に言葉がたどたどしいゆっくりまりさ。
「何って・・・ああ、そうか、お前は見えてないものな。ほら。」
 ゆっくりまりさの顔を近くの小川の水面に写してやる男。
「???!!!」
 そこにあったのはまりさの顔だった。しかし、その顔は先ほどまで小憎たらしいほどに丸々した饅頭顔とはちがって、
まるで干しぶどうの様に皺くちゃだった。しかも、その周りにはまるでまりさを彩るようにたくさんの花が咲いていた。
 そう、先ほどのリリーの春オーラによって、まりさの食べた花の種や、男が振りまいた種が土を求めてまりさの中へと
根を伸ばしたのだ。先ほどまりさが聞いた音は、花の茎がまりさの皮を突き破る音と、根が皮を突き破る音だったのだ。
「ゆ゛・・・・・・・っ!」
 その衝撃の事実に悲鳴を上げそうになるが一段と強まった空腹感に思わず黙り込むゆっくりまりさ。
「ふむ、少し種が多すぎたか。一気に吸われて餓死寸前じゃないか。」
 男はそう分析しながら品定めをするようにゆっくりを見回す。
「このまま死なれても実験の意味が無い。念のために持ってきてよかった。」
 そういって男は少量のオレンジジュースをゆっくりに与える。
「どう・・・じで・・・?どうじで・・・こんなごとずるの・・・?」
 オレンジジュースによって少し活力を取り戻したゆっくりは息もたえたえに男に怨嗟の声をぶつける。
「そりゃ、俺だっておまんまに食いつきたいからな。」
 とりあえずゆっくりの命に別状が無いことがわかると男はゆっくりを抱えたまま里のほうへ向かった。
「よろこべゆっくり。今日からお前はそのお花さんとこれからずっと一緒に暮らせるんだぞ。食べ物は俺が用意してやるから
 安心しろ。」
 その男の言葉をきいてゆっくりまりさは、これでずっとゆっくりできるね・・・。とか、お花さんきれいだね・・・。とか、
思っていたが拭いきれない空腹感を忘れるため静かに眠ることにした。


 数ヵ月後、加工所から新製品が発売された。
 それは、「初心者でもできる!ガーデニング用ゆっくりプランター」というものだった。
 あらかじめ発芽した状態のゆっくりでガーデニングを楽しめるというものだった。やることは一日一回の水の入れ替えと、
初心者でも分かるように親切なフラワーガイドブックがついていたことから、ガーデニングに興味のあった奥様方から子供の
夏休み宿題用と、幅広い人々の支持を得て一躍人気商品となった。




ゆっくり春ですよー。 完

書いた人:名も無き作者

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最終更新:2022年04月13日 23:13