※登場人物が食べ物を粗末にします




ある野生のゆっくりまりさが一匹、越冬用の食料を求めて人里へとやって来た。
何故そのような行動に出たのか。
それはまりさが昨日、人里から生還したゆっくりから、人里には美味しい食べ物が一杯あり、畑という美味しい野菜が生える場所があると教えられたからだ。
どうせ食べるのならば美味しい方が良いという、ごく単純かつゆっくりらしい理由で、ゆっくりまりさは単身人里へとやって来た。


このゆっくりまりさは不幸である。人間に出会わずに生還したゆっくりからしか、人里の情報を聞くことが出来なかった。


人里に入るまでゆっくりにも人間にも誰にも会わず、人里に入ってからもしばらくは誰にも会わなかった。
まりさは既に人里に来ていると理解していたが、一体どこに行けば美味しい食べ物があるのかと迷っていた時だった。

「あれ? そこのまりさ、どうしたの?」

一人の人間に声をかけられた。

「ゆっ? ゆっくりしていってね!!!」

背後から声をかけられ、振り返ってゆっくり式の挨拶を返すまりさ。その相手は人間の女性だった。
女性はニコニコと微笑みながらまりさの前まで近づくと、まりさと視線を近づけるように屈んだ。

「ゆっくりしていってね。ねぇ、まりさ。貴方どうしてここに来たの?」

敵意も嫌悪感も全く感じさせない優しい口調で語りかける女性に、まりさはこの人間はゆっくりできる人だと判断した。

「まりさはもうすぐふゆがくるからごはんをさがしにきたんだよ!」
「あら、越冬用のエサを探しに来たの」
「ゆっ! そうだよ!」
「ならこれをあげるわ。ゆっくり食べてね」

女性はそう微笑むと、持っていた巾着袋から一個の饅頭を取り出し、まりさに差し出した。

「ゆゆっ! いいの、おねぇさん!」
「えぇ、もちろん。可愛いまりさにプレゼントよ」
「ゆゆ~♪ ありがとうおねぇさん、ゆっくりたべるね!」

まりさは喜んで饅頭を(口で)受け取ると、頭を揺らして被っていた帽子を落とした。
そして落ちた帽子の中に受け取った饅頭を入れると、帽子の端をくわえ、中の饅頭を落さぬように器用に頭に乗せた。
口でこのような芸当が出来るのかとも思われるが、片腕が不自由な人が他の人より片腕のみを扱うのが上手なように、口しか無いゆっくりは口を使った動作に関してはわりかし器用なのである。

女性はまりさのそんな可愛らしい行為に和んだのか口の端を緩めると、まりさに訊ねた。

「あら? 今食べないの?」
「ゆっ! ふゆのためのごはんだから、あとでゆっくりたべるんだよ!」

それもそうね、と女性は同意すると立ち上がりまりさに別れを告げた。
まりさはとっても優しいゆっくりできる女性に出会い、幸せ気分で更なる食料を求めて人里の中央へ向けて元気に跳ねだした。


このゆっくりまりさは不幸である。最初に出会った人間がゆっくり愛で派の人間であった。



ゆっくりまりさがしばらく跳ねて進んでいると、今度は二十歳前後の青年に出会った。
前方からすれ違うように出会った一人と一匹。まりさは出会い頭に「ゆっくりしていってね!!!」と挨拶したが、青年は露骨に嫌そうな顔をした。

「……ちっ、ゆっくりか。……ほら、これやるからとっとと森に帰れ」

付き纏われることを恐れたのか、青年はそう言うと荷物の中からおにぎりを一つ取り出し、まりさの目の前の地面にぞんざいに落とした。
まりさはそんな青年の感情表現に一切気付かず、嬉しそうに目を輝かせた。

「ゆゆ~♪ おにいさんありがとう! ゆっくりたべるよ!」

まりさがそう言いながらおにぎりを先ほどの饅頭と同じように帽子に入れている頃、青年は何も言わずまりさには目もくれずにどこかへ歩き出していた。
まりさは帽子におにぎりを仕舞った後、その場で跳ねて青年を見送りながら「ゆっくりしていってね!!!」とその背中に言った。


このゆっくりまりさは不幸である。出会った人間から立て続けに食べ物を貰ってしまった。



「ゆゆ~♪ 〝ひとざと〟はほんとうにゆっくりできるよ~♪」

調子外れな韻を踏みながら独り言を言うゆっくりまりさは、笑顔満点嬉しさ全開と言った様子で人里内を跳ねていた。
まりさは今日まで人間に出会った事が無かった。人間に関しては全て人里に会ったことのあるというゆっくりからの伝聞でしか知らなかった。
その全てが人間はゆっくりできる存在だと言った内容だった。
その話を聞いたまりさは、疑い半分ではあったものの人間と出会うのを楽しみにもしていた。

そして実際に人間に出会ったまりさは、『人間はゆっくりできる』という認識を確かなものにしていた。
人間はゆっくりが可愛いので、その可愛さにメロメロになってご飯をくれる者なのだと、このゆっくりまりさは思った。

そのため、三番目に出会った人間に対し、出会い頭にこう言ってしまった。

「ゆゆっ! おにぃさん、ゆっくりしていってね!! そしてかわいいまりさにごはんをちょうだいね!」



このゆっくりまりさは不幸である。話しかけた相手が虐待趣味の青年、通称虐待お兄さんであった。



前触れも宣告も何も無く、まりさは突然蹴り飛ばされた。
青年のつま先がまりさの顔面にめり込み、思いっきり振り切られた足はまりさを後方に吹っ飛ばした。

「ゆぎぃ!?」

遅れてくる激痛に顔をゆがめるまりさ。これまでの生涯で感じたことも無い激痛に泣き出しそうになるが、

「ゆぶべっ!」

後頭部から地面に落ちたことによる激痛が、それすらも忘れさせた。
二連続で感じる理不尽な激痛に、まりさは目に涙を滲ませつつ起き上がる。
そして思慮の足らない餡子脳ながらも青年が自分を蹴り飛ばしたという事は理解し、抗議の声を上げる。

「ぷんぷん! いきなりなにするの! ゆっくりおこるよ!」

空気を口に溜め頬をふくらませ威嚇行動を示す。自分は怒ってるから、謝るならば今のうちだと示している。
もちろんそのような威嚇行為は警戒心の高い野生動物は、もしくは臆病な同族にしか意味をなさない。
青年は無言でまりさに近寄ると、とても自然な動作でまりさの帽子を奪った。

「ゆっ!? おにぃさんなにするの! まりさのおぼうし、ゆっくりかえし──ゆぶっ!」

突然奪われた自分の命並に大事な帽子を取り戻そうとその場で跳ねる予備動作をしたまりさだったが、口を青年に踏み潰されて跳ねることが出来なかった。
地面と足、上下からの圧迫による激痛に涙を流しふさがれた口から「う゛っー!」の呻き声を上げる。

青年はそんなまりさの様子に一切構わず、帽子を奪った手と逆の手で、まりさの頭の上に乗ってる饅頭とおにぎりに手を伸ばした。
「う゛っー! う゛ぅぅぅぅぅ!!!」と抗議の意を示すまりさをよそに、あっさりと青年は饅頭とおにぎりを手に取った。
両手にまりさのかつての所有物を持った青年は、まりさの上から足をどける。
その瞬間に「ゆっ!! それはまりさのごはんだよ! ゆっくりかえしてね!」と言おうとしていたまりさの口に足をねじ込むように青年はまりさを蹴り飛ばした。

「ゆぐぶっ!?」

今度は体の内側にも走る痛みに悶絶しそうになるまりさ。ごろごろと地面を転がっていく。
回転が止まった後、「ゆぐっ、ゆぐっ」と涙を堪えながら立ち上がると自分の帽子と食料を奪った青年が歩き去っていくのを見つけた。

「ゆゆ~! ま゛りざのおぼうじがえぢでぇぇぇ!!」

これまで我慢していたが遂にまりさは泣き出してしまった。
まりさは自分の大事なものを奪い、理不尽に暴力を振るった青年の後を全力で追い始める。
だがゆっくりの全力など、青年がのんびり歩いてやっと同じ速度だ。普通に青年が歩いたらゆっくりは青年を見失うが、わざと跡をつけさせるように青年はゆっくりと歩いた。

まりさは何がなんだか分からなかった。人間は可愛いまりさにご飯をくれる存在のはず。
それがどうして痛いことをして帽子を取っていくイジワルまでするのか、まるで理解が出来なかった。
そしてゆっくりの餡子脳は、それ以上の思考を放棄しなんで自分がそんなことをされるのかという理由追求をしなかった。

「ゆぐっ、ゆぐっ! どばっでよ゛ぉぉぉ!! ばりざのだいぢなおぼうじがえぢでぇぇぇぇ!!」

涙を撒き散らしながらぽよん、ぽよんと跳ねるまりさ。
まりさの悲痛の叫びも青年には届かない。いや、届いていてはいるだろうが青年がまりさの希望に応える可能性はゼロだろう。
ゆっくりのんびり歩く青年と必死に走るまりさの距離は縮まらない。しかしまりさにとっては全力疾走だ。
やがて一定の距離を保ったまま、青年は自分の家に辿り着いた。
いくら青年が遅く歩いているとはいえ、よくもここまでついてこれたものだ。まりさはここまで全て全力疾走。
五十メートル走の走りでハーフマラソンを走りきったようなものである。ゆっくりまりさの帽子への執念は凄まじいものだった。


青年は玄関から家に入らず、庭の方へと向かった。まりさも青年の跡を追い、庭へと向かう。
庭に辿り着いたまりさが見たのは、まりさの帽子を風鈴のように縁側に吊るす青年の姿だった。

「やべでよ゛ぉぉぉ!! ばりざのおぼうじ、ゆっぐぢがえぢでねっ!」

まりさは再び涙を辺りに撒き散らしながら縁側へと向かっていく。その間に青年は草履を脱ぎ、縁側へと上がっていた。
そして縁側でくつろぐようにあぐらをかいた。

まりさはそんな様子を気に留める余裕は無い。必死に帽子を取り戻そうと跳ねていた。
口を上にして地面から帽子に向けて跳びはねるも、あと少しギリギリというところで届かない。
「ゆぐっ、えぐっ」と嗚咽を漏らしながら悲痛の表情で跳ねるまりさ。
どんなに頑張っても届かないと分かると、一度縁側に乗ってから取ろうと、跳ねて縁側に着地した。

その瞬間、蹴り飛ばされた。
青年の足の裏が沈み込むように放たれた蹴りは、まりさの餡子にまで響く激痛と衝撃を与えつつ、まりさを庭の中央まで飛ばした。

「ゆびぃ!!」

漏れでた叫びを尾にひくように吹っ飛んだまりさは、ごろごろと庭を転がり土まみれになっていった。
それでもまりさは再び立ち上がった。顔に砂や土をつけ、目から涙をボロボロと流しつつも。
度重なる攻撃による激痛と、ここまで来るのに消費した体力で跳ねることも出来なくなったまりさは、ずりずりと這うように縁側へと向かう。

自分の大事な帽子の姿を見ようと視線を上にあげると、まりさは信じたくないものを見た。
それはまりさから奪った饅頭を青年が食べているところだった。

「ゆっぐぢぃ!? やべでっ! ぞれはばりざのごはんっ! ゆっぐりだべないでね!」
まりさは這いずりながらも必死で止めようとするが、青年はまったくの無反応で構わずに饅頭を食していく。

「ゆあぁ……ゆあぁ……」

まりさが悲痛な声を漏らす頃には、既に青年は饅頭を食い終えていた。
饅頭を食い終えた青年は、今度はまりさから奪ったおにぎりを手に取った。流石に土がついているため青年も食べることはしない。
しかし、まりさに食べさせるはずもなかった。

青年はおにぎりと手に取り立ち上がると、草履を履きつつ縁側から降りる。
そしてゆったりとした足取りで見るも無惨な状況のまりさに近寄る。

「ゆぐっ、ばりざのごはんがえぢでぐれるの……?」

青年はまりさの問いには答えず、おにぎりをまりさの目の前に落とした。
まりさは途端に目を輝かせ、また取られないように即座に食べようと口を開けた。

ブチャッ

だが、青年が目の前でそのおにぎりを踏み潰しそれを阻止した。
おにぎりとすりつぶす様に足をぐりぐり動かすと、まりさが再び青年にくってかかった。

「やべでっ! ぞれはばりざのごはん! ぐりぐり、っでじないでよ゛ぉぉ!! ゆっぐぢやべでぇ!!」

足元にまとわり着くまりさを蹴り飛ばし、構わず青年はおにぎりと踏み潰していく。
やがて青年が足を上げると、そこは完全にすり潰され土砂と混じり合って食べるものでは無くなったかつてのおにぎりの姿がそこにあった。

「ゆぐっ……どぼぢでごんなごどずるの……?」

お兄さんは人間でしょう? なんで可愛いまりさにご飯もくれずにこんな酷いことするの?
そんなまりさの疑問には青年は一切答えない。


このゆっくりまりさは不幸である。ただただ無言で虐待されているため、何で自分がこんな目に会うのか全く理解できなかった。


本来なら自分が食べられるはずだったおにぎりの残骸を前に、まりさは口惜しいのか完全に土と一体化しているそれに舌をはわせはじめた。
ぺーろぺーろとおにぎりだったものを舐めるその姿に嗜虐心をそそられたのか、怒りを覚えたのかは知らないが、青年は乱暴な手つきでまりさの髪をにぎった。

「ゆ゛っ? おにいざんなにず──」

るの? という問いは発せられなかった。
気付いたらまりさは上空高く放り投げられていた。

『ゆゆ~♪ おそらをとんでるみた~い♪』

と呑気に思ったが、家屋の屋根よりも高く飛ばされたまりさは次第に恐怖を覚えた。
こんな高さから落ちて地面に叩きつけられたら。その結果どんな痛みがやってくるかを想像してまりさは青ざめた。
空中でガタガタと震え始め、涙を空中から撒き散らす。

「ゆ゛ぅぅぅぅぅ!!! や゛だぁぁぁぁ!! ばりざおぢだぐない゛ぃぃぃぃ!!」

まりさの必死の叫びにも構わず、万有引力の法則に従いまりさの体は落下を始める。
浮遊感からの感じる落下の感覚に、まりさの恐怖は肥大化していってまりさを飲み込む。奪われた自分の帽子のことも忘れるほどの恐怖体験の後、

「ゆびっ!?」

急激に髪と頭皮が引っ張られる痛みをともに、下へと移動から横への急激な移動の衝撃を受けた。
ミチミチ、と髪が頭皮から抜けるのではないかという感覚が終え、何かに吊られてプラプラする状態となる。
まりさが何事かと視線を地面から横に向けると、まりさの髪を握っている青年の姿が見えた。
どうやら落下している最中のまりさの髪を横合いから掴んで落下を止めたようだ。

「ゆぅ……おにいさん、ありが──」

放り投げた当人に礼を言うという餡子脳らしい行動をしようとした瞬間、再び上空に放り投げられた。

「ゆ゛っぐぅ゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛!!!」

もう二度と体験したくのない再びの恐怖体験にまりさは半狂乱に陥る。
嫌だ。落ちたくない。痛いの嫌だ。死にたくない、と。
今度は顔面が下にくるという最悪な落下を果たすまりさは、しかし

「ゆぐびぃ!!」

再び青年に髪を掴まれて地面への激突を免れる。頭皮が剥がれるかのような痛みと共に安心感を覚えたまりさだったが、安堵の溜息をつくまもなく再び上空に放り投げられる。
そしてまた髪を掴まれる。

投げる。落ちる。掴まれる。
投げる。落ちる。掴まれる。

そして放り投げられても、どうせ青年が助けてくれるから大丈夫だろうと僅かな安心が生まれた時だった。
過去掴まれた地点まで落ちても髪が掴まれる感覚が無いと思った次の瞬間、まりさは今度こそ地面に叩きつけられた。

「────ゅ゛!!」

叫び声すら上げられぬ激痛。人間と違って折れる骨もなく、激痛がダイレクトに全身に伝わったゆっくりまりさは、白目を向いて口の端から泡を吹いた。

度重なる虐待に加えてのこの激痛。まりさはピクピクとして動かなくなった。
意識はまだある。死んでもいないし狂ってもいない。ただあまりにも痛すぎて動くことさえも出来ないのだ。

青年はそんなまりさに容赦しない。
地面に伏して痙攣しているまりさの髪を掴むと、頭の上まで持ち上げる。

「────ゆぐっ!? い゛だい゛っ! やべでっ、ゆっぐぢやべで!」

痛みで正気を取り戻したまりさが必死に呼びかけるも、無視。
青年は持ち上げたまりさを、髪を掴んだまま地面に振り下ろし、叩き付けた。

「ゆべっ!」

体が潰れるような衝撃と苦痛を浴びたまりさは、意志とは関係のない呻き声をもらす。
再び髪を持たれて持ち上げられ、ゆぐぐっ、と目から垂れた涙が地面に落ちて水滴の跡を作る。
その直後、涙が落ちたところにまりさが振り下ろされた。脳天から落下し頭が割れるかのような激痛を感じたその一秒後、再び地面と激突する。

バチン、バチン! と涙を跡を消したいかのように執拗に同じ場所に振り下ろされるまりさ。
その度に振り回される体。ミチミチと音をたてる頭皮。全身を襲う痛み。辺りに飛び散る涙。
ようやくそれが終わった時、まりさは「ゆふぅ……ゆひゅ……」と虫の息だった。

青年はもはや生死の境界をさまよっている状態のまりさを庭に残すと、縁側に吊っておいた帽子に取りに戻った。
釣り針に引っ掛けるように吊り下げていた帽子を引っ張る。ビリィ! と音をたてて破れた帽子を持っていき、まりさの前に落とした。
まりさは目の前に落ちた帽子の存在に気付き、少し目の輝きを取り戻す。そして帽子を取り戻そうとズリズリと這って帽子に近づこうとした。

そんなまりさの目の前で、青年は帽子を踏みつけた。
足を持ち上げ、また踏みつける。踏みつける。踏みつける。踏みつける。踏みつける。踏みつける。踏みつける。
土まみれのボロボロになった帽子に、ペッと唾を吐きつけた。

まりさは青年のその行動を、涙交じりの瞳でただ見ていることしか出来なかった。
最早反抗できる体力も精神も持ち合わせていないのだ。
まりさは緩慢な動作で帽子をくわえて被ると、ずりずりと青年から逃げるように地面を這い始めた。青年はそんなまりさの背中を蹴り飛ばす。

吹っ飛び、ゴロゴロと転がっていくまりさ。回転が止まった後しばらくその場で泣いてうずくまっていたが、青年がジャッと足音をわざと立てると、慌てた様子で這い始めた。
青年はそこまでやってようやく満足したのか、おにぎりの残骸を片付けて家の中に入っていった。


このゆっくりまりさは不幸である。生かされたため地獄のような苦痛を味わい続けることとなった。





「ゆぐっ……えぐっ……ゆっぐぢでぎない゛ぃ……」

青年から必死に這って逃げるまりさは自分の巣へと帰ろうとしていた。
一刻も早く自分の巣でゆっくりしたい。人里は全然ゆっくりできる所ではない。
人間は食べ物をくれる者だという認識は、先の一件で既に覆っている。

散々な暴力を振るわれ体力も無く全身に走る激痛をこらえながら、必死に人里から、あの青年から離れようとする。
頬はいつの間にか切れており、僅かずつながらボロボロと餡子がこぼれまりさの生命力を奪っていく。

ボロボロではあるが生きている。汚れてはいるが帽子も取り戻した。
ならば御の字。もう二度と人里には近づかない。そして返ったら皆に人里はゆっくり出来ないと教えよう。そうしよう。
まりさはそう決意して、力の入らない体に鞭打って地面を這う。

「っ! やろてめぇ、ゆっくり! またきやがったか!」


このゆっくりまりさは不幸である。畑の側を通ってしまった。


「ゆっ?」と声のした方向に顔を向けた瞬間、まりさは顔面を棍棒で殴られた。
ブリュッ、と顔にめり込む棍棒。勢いよく棍棒は振りぬかれ、のけぞるまりさの体。
鈍痛とは違う再び感じる激痛に、まりさは悲鳴を上げた。

「ゆっぎぃぃぃ!! いぢゃい゛ぃぃぃぃ!!」

まりさを棍棒でなぐりつけた農夫はそんなまりさの悲鳴にも構わず再び棍棒でまりさを殴りつける。
横から。上から。正面から。

「このっ! クズっ! 饅頭! めっ!」
「ゆぐっ! ゆびっ! ゆべっ! ゆ゛っ!」
「また! 野菜を! 盗むか!」
「ゆ゛ぼっ! ばっ! ばりざは!」

言いかけて、蹴り飛ばされる。
もはや痛み以外の感覚が無くなってきているまりさは、涙をボロボロと流して必死に農夫に訴えかけた。

「じでないよ゛ぉ! ばりざおやざいなんでぬずんでな゛────」

聞く耳持たず。
ゆっくりの意志など完全に無視した棍棒の一撃で、まりさは潰れ餡子を辺りに撒き散らせ、ようやく苦しみと痛みだけの生を終えた。



このゆっくりまりさは不幸である。人間の恐ろしさを仲間に伝えることが出来なかった。














「ゆっ、れいむは〝ひとざと〟でおいしいごはんをたべてきたよっ!」
「ゆゆっ! ほんとうれいむ? もっとおしえて!」

そして、また新たに不幸なゆっくりが生まれようとしている。




おわり



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これまでに書いたもの

ゆっくり合戦
ゆッカー
ゆっくり求聞史紀
ゆっくり腹話術(前)
ゆっくり腹話術(後)
ゆっくりの飼い方 私の場合
虐待お兄さんVSゆっくりんピース
普通に虐待
普通に虐待2~以下無限ループ~
二つの計画
ある復讐の結末(前)
ある復讐の結末(中)
ある復讐の結末(後-1)
ある復讐の結末(後-2)
ある復讐の結末(後-3)
ゆっくりに育てられた子
ゆっくりに心囚われた男
晒し首
チャリンコ
コシアンルーレット前編
コシアンルーレット後編
いろいろと小ネタ ごった煮
庇護
庇護─選択の結果─

byキノコ馬


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最終更新:2022年05月03日 20:19