ゆっくりはストレスが溜まっていた。
群の数は言われない人間からの暴力で半分にまで減らされた。
今日も人間が巣の広場に来ては無残に殺した死体を棒にくくりつけ掲げる。
土台に棒を挿し込むと二、三悪口を言い人間は去っていく。
その土台はゆっくり達の体当たりでどうにかなるものでもなく、
棒も深々とささっている為、簡単には倒れない。
死体を救い出そうとしても、ゆっくりが届かない程度の高さに縛ってあるからそれも叶わない。
死体は蟻が集り、中身が減り、縄が緩んで落ちてくるまで掲げられたままだ。
そんな横暴がもう二年も続いている。理由を聞いた者もいたが、そいつはその日のうちに家族もまとめて水の中に沈められた。
次は誰が殺されるとも知れない緊張はゆっくり達の神経をピリピリさせ、些細な事でも喧嘩になった。
「つぎは、まりさがころされてね!!」
「まりさはころされないもん!!」
しかし、ある日、あるゆっくりが人形を見つけてきた。
ちょうどゆっくりと同じぐらいの大きさの可愛い人形は綺麗なドレスを着て微笑んでいました。

ゆっくりにとってそれは良いストレス発散相手になった。
前に妖精に攻撃した時には吹雪を起こされて、数匹のゆっくりが逃げ遅れて死んでしまったが、
人形なら反撃なんてしてこない。ゆっくり達は何度も人形に体当たりや石投げ、悪口など、
ありとあらゆる攻撃をし、ストレスを発散させた。それも残念ながら今日までだが、


珍しくその日は人間達がやって来なかった。次の日もまた次の日も。
人間達はやって来なかった。ゆっくり達は大喜びした。やっとゆっくりできるのだ。
そう信じていた。そこへ金髪の少女が尋ねてきた。無邪気に笑う少女にゆっくり達はきっとゆっくりできる子だと感じた。
「その人形、酷く扱われているみたいだけれど。あなた達がやったの?」
「そうだよ。すごくすっきりできるんだよ!!」
そう言ってゆっくりまりさは石を人形に投げてみせる。石は人形のドレスに当たり、ドレスは少し破れてしまう。
「おねーさんも、やってみる?」
ゆっくりまりさは少女の足元に石を置いてあげた。しかし、少女は一度それを拾ったがすぐに落としてしまい。
「私はいいから、もう一度やってみて」と静かな声で言った。ゆっくりまりさは快諾し、少女が落とした石を銜える。

「いぐよぉおお・・・ゆぎぃ!!」
ゆっくりまりさは激しく痙攣したと思うとそれっきり動かなくなった。
心配になって他のゆっくり達が駆け寄ってくる。
「ちょっと、むきゅん!とおして!!」
駆けつけたのは群一番の物知りのゆっくりパチュリーだった。
ゆっくりパチュリーは身体を横に振る。「しんでいるわ・・・」みんなにそう告げた。
「この石を銜えたら死んじゃった」
少女は親切にそう教えてあげる。ゆっくりパチュリーは不思議そうにその石を覗き込んでいる。
そして、ペロッと舐める。無色無臭無味の猛毒、それも人間すら殺すほどの致死量。
元々、身体の弱いゆっくりパチュリーなど1秒と持たなかった。
「バカね。その石には毒が塗ってあるのに」
ゆっくり達はその言葉に逃げ惑う、兎に角巣の中に。
人間達の時はそうだった。巣の中に入り込んでしまえば諦めてしまう。
しかし、妖怪は人間ほど容赦があるわけではない。元々、人間が持ち合わしている程度の倫理観しか持たぬゆっくりには分からないだろうが、
目的のためには手段は選ばない。手段が自分が用いれる術の中にある場合、それは確実に選択され実行される。
目的、人形開放のために手段は選ばれた。


ゆっくりれいむの巣は特製だった。
土を掘って作った手製の一品で、巣の入り口から棒を突っ込まれても、
巣全体が大きく曲がっているので、攻撃する事はできない。

「ゆ、なんだかあまいによいがちゅる」
「ほんとだ。おかしのによいだ」
「おかーしゃん、おかしちゃべたい」
入り口の方からする甘い匂い。前に人間が使った罠だ。
甘い匂いでゆっくりを誘って、外に出てきた所を捕まえるのだ。
「これはにんげんのわなだよ。ゆっくりりかいしてね!」
「わにゃ?」「なにそれー」「おちえてー」
「あまいにおいにさそわれてでていくと、にんげんがまってて、つかまっちゃうんだよ」
「どうなるにょ?」「こわいよー」「おちえてー」
「ゆっくりできなくなっちゃうんだよ」
「「「いやだ!!」」」
「だから、がまんしてね」
「うん、ゆっくりがまんするね」「れいみゅはできるこだよ」「ゆっくりしようね」
子ども達はしっかりと母れいむにそう言った。
しかし、この毒は狭い巣の中のゆっくりを殺すための毒であり、その対象は子どもではなくむしろ大人のゆっくりだった。
走野老を使った甘い毒は母れいむを次第に蝕み、ある一定を超えるとその効果が現れる。

「ゆー!!ゆっくりしないよー!!!」

狭い巣の中で跳ね回り何度も頭をぶつけながらも飛び跳ね回る。
「おかーしゃん?!」
心配して声を上げた子の上に母れいむは着地する。
「ゆゆ?!」「おかーしゃん、どうちたの?!」
「ゆー!!ゆぎゅー!!」
壊れたように。いや、壊れて跳ね回る母れいむには子ども達の声など聞こえはしない。
子ども達にできる事は二つ、巣の中にいて母れいむに踏み潰されるか、巣の外に出てにんげんに捕まるか、
おろおろしている内にまた1匹は踏み潰されてしまった。そして、この母れいむは自分が自分の子を殺した事にすら気付かず死ぬ。
もう苦しそうに餡子を吐き出している。何度も天井に頭をぶつけていればそうなるに決まっている。


キャハハフフフアハハハと少女が笑う。
中がどうなっているか想像は簡単だ。何故なら少女の毒によって得られる結果はシンプルだからだ。
死、シンプルで笑いさえこぼれてしまう。彼女の毒は死に直結している。
それも酷く効率が悪く。さながら鋸で首を切り落とすようなものだ。
何度も引かなければ首を切り落とす事はできない。つまり苦しみが長引く、
ああ、少し間違っていた。彼女の毒は死に直結してはいない。何故なら恐怖を経由している。


「ゆぎゅ!!ゆぎゅ!!」
「やめちぇ、おかーしゃん」
子れいむは逃げ回る。優しく賢かったお母さんは変貌してしまった。
頭をぶつけているのに飛び跳ね。話す事もできなくなり、姉妹を二人も殺した母。
「おまえにゃんか、もうおかーしゃんじゃないよ!!」
何を言おうと、母れいむは跳ね回るだけだ。そして、自分はこの状況をどうにもできず逃げ回るだけだ。
外に出れば捕まる。まだ優しく賢かったお母さんの助言は子れいむを巣の中に留めさせた。
それが良い結果だったかどうか、子れいむにも分からない。どうせ死ぬのだから、
ほどなくして母れいむに子れいむは踏み潰され死んだ。母れいむもしばらく跳ね続けて、大量の餡子を吐き出して死んだ。
巣の中には毒とは違う甘い匂いが充満した。


あらゆる毒が巣の中に蔓延していく。
「ありす!!ありす、すっきり!すっきりしよぉお!!」
「やめで、まりざぁあああ!!んほぉおおおお!!やめでぇー!!」
ゆっくりまりさはまだ幼いゆっくりありすを犯していく。
そんな事をすれば、どうなるか誰もが知っていた。
しかし、毒は記憶など軽く崩壊させる。今のゆっくりまりさはただの色情魔だ。
ゆっくりありすは黒ずんで死んでしまう。ゆっくりまりさは次の獲物を探す。
「ぱちゅりー、すっきり、すっきりしよ。すっきり!!」
「やめて、まりさ、どうしちゃったの?ゆっくりできないわ」
「ゆっくりなんてどうでもいいよ。はやくすっきりしようね!!」
動きの遅いゆっくりパチュリーはすぐに捕まってしまう。
そして頬をこすり付けられ絶頂を迎える。
「すっきりぃぃぃぃ!!!」
「ま、まりさ・・・」
それまで一緒に仲良く暮らしてきたゆっくりまりさの裏切り、
目の前でゆっくりありすの子とすっきりするのを止められなかった無力感、
だんだんとゆっくりパチュリーは嫌気がさしてきた。そして、毒に飲み込まれる。
「まりさ、すっきり、パチュリーもすっきりしたい!!」
「パチュリー、すっきりしよ。すっきり!!」
狂ったように頬をこすり合わせる二匹、後は死ぬのを待つだけだった。
最初に朽ち果てたのはゆっくりパチュリーだった。
「もっとすっきりしたかった」そう喚いて死んでいった。
ゆっくりまりさは一匹だけになると洞窟の岩肌に頬擦りを始める。
がりがりと頬の皮が傷ついていくが、今のゆっくりまりさにとっては些細な事だった
「すっきり、んほぉぉおお、すっきり!!」
ついに皮が破れ中身の餡子が漏れ出す、それでもまりさは頬擦りを止めない。
目には痛いのか一杯の涙を浮かべている。それでも思考は毒に影響されたままなのだ。
「すっきり、んんほおおおおお、すっきりー。すっきりしたいすっきりしたい」
最後は致死量の餡子が流れて死んでいった。最期の言葉はこちらも同じく「もっとすっきりしたかった」だった。


別の巣の中ではゆっくり達はある事に怯えていた。
「ゆぐっ!!」
ゆっくりまりさは一度痙攣を起こす。皆はそれをとても悲しい目で見つめる。
「いやだ。いやだよ。もっとゆっくりしたいよ!もっとゆっくりした、ゆぐっ!!」
それっきり動かなくなった。
二回痙攣を起こし死ぬ。この巣の中に注がれたのはそういう毒だった。
しかし、ゆっくりの解釈は違っていた。二回痙攣を起こしたら死ぬなののだ。
ゆっくり達は必死に痙攣をしないよう無駄な努力をしていた。
飛び跳ねる者、歌う者、ゆっくりする者、ただ恐怖に狼狽する者
痙攣を止める方法など知らないし、元より無い。

「ゆぐっ!!」
また一匹、痙攣をしてしまったゆっくりれいむが出た。
「お、おかーしゃん?」
「だ、だいじょうぶだからね。おかーさんはゆっくりしてるからね。おかーさんはかわいいこどもをみすてた、ゆぐっ!!」
「おかーゆきゅ!!・・・いやだよ!!もっとゆっきゅりちたい、おかーしゃんのぶんまでゆっきゅりちたゆきゅ!!」
親子の死にゆっくり達は深い悲しみに包まれる。そして、同時にどうしようもない恐怖に襲われる。

「ゆぐっ!!」
「まりさ!だいじょうぶ?いたくない?ゆっくりできる?」
「うん、ありす、まりさはありすのことだいすきだからね」
「ゆ?う、うん」
「まりさはありすのことがだいすきで、だいすきで、ずっといっしょにいたくて、だいすきだよ。ほんとうにだいす、ゆぐっ!!」
「まりさ?まりさ!!まりさ!!まり、ゆぐっ!!」
ゆっくりありすはポロポロと涙を流し、ゆっくりまりさの死体に語りかける。
「まりさ、ありす、すぐにいくからね。いつもおいかけっこじゃまけてたけど、かならずおいつくから、ゆぐっ!!」

この光景を見れば、どれほど少女が喜んだのだろうか、
本当の子どものようにくるくると表情を変えて喜んだだろうか
コンパロー、コンパロー。
毒を注ぎ込む言葉が森の中でひっそりと唱えられていた。










「あら、これ・・・ああ、メディスンね」
人形の傍らに置かれていたのは『直してあげて』という短い手紙と鈴蘭の花だった。
「ボロボロじゃない。でも、あの子も私を頼ってくれるようになったんだ」
アリス・マーガトロイドは嬉しそうにその人形の修理を始める。




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最終更新:2022年04月14日 23:45