ここはとあるゆっくりプレイス。辺りは草原に囲まれ、近くを川が流れています。
ここに数日前、ゆっくりれいむとゆっくりまりさのつがいが辿り着きました。

彼女達は朽ちかけた木の根の作った穴に暮らしていましたが、その木は腐っていて今にも崩れてしまいそうです。
また、穴自体とても小さく、れいむとまりさ二匹でぎゅうぎゅうでした。
最初はそれでも良かったのですが、今はそうは行きません。れいむの頭には、小さな芽が出ているのです。
そう、家族が増えるのです。

「ゆゆ~、このおうちも、もうながくすめないよ…」
「うん、そうだね…」
「まりさ、あしたからはがんばってね!」
「おっけー、まりさにまかせて!」

巣の中にはたくさんの食料が集めてあります。この数日、二人で頑張って集めたのです。
これで数日は、餌を集めなくても、あることに集中できるでしょう。

「まりさがおうちのつくりかたをしってるなんて、れいむすごいうれしいよ!」
「れいむとあかちゃんのために、せかいいちゆっくりできるおうちをつくるよ!!」



翌朝。まりさは河原から石を運んでいます。植物の蔓を石に巻きつけ、端をしっかり噛んで引きずっているのです。

「ゆーっくり!ゆーーっくり!!」

今運んでいるのはゆっくりの半分もありそうな大きな石。皆さんも、自分のお腹の大きさまである石を運ぶのは大変でしょう。
それを、まりさは新しいお家のためを思い、一生懸命運んでいるのです。

「ゆゆっ!?まりさ、がんばりすぎだよ!れいむもてつだうからね!!」

それを見たれいむはまりさをたすけようと、石の後ろに回りこみます。後ろから押してあげれば、まりさが楽になると思ったのです。

「だめだよっ!!!」
「ゆっ!?どぼじでぞんなごどい゛う゛の゛お゛お゛お゛!?」

しかし、まりさは喜ぶどころかれいむに怒り出します。れいむはまりさを助けたいだけだったのに、怒られてしまって涙を流しています。

「ゆっ、れいむ、よくかんがえてね!れいむはおかあさんなんだよ!!れいむだけのからだじゃないんだよ!!」
「ゆっ、ゆぅ…」
「もしれいむがけがをして、あかちゃんがしんじゃったらどうするの!あかちゃんがかなしむよ!まりさだってかなしいよ!」
「まりさ…ごめん…」
「それに、まりさはこんなのぜんぜんたいへんじゃないよ!れいむががんばれー!っていってくれたら、まりさはひゃくにんりきだよ!
だかられいむはゆっくりまりさをおうえんしててね!」
「ゆっ…わかったよ!れいむ、ゆっくりおうえんするよ!!」

それから、まりさは頑張って石を運びました。れいむはまりさを応援し、まりさの為に美味しい草や蟲を持っていってあげました。

「ゆふーーーっ!!んひーーーっ!!んふーーーっ!!」

夕方。まりさは頑張って石を運んだので、とっても疲れてしまいました。
汗まみれの身体で、白目を剥いて、舌を突き出し、激しく空気を吸い込んでいます。
それを見たれいむが慌てて近寄ります。

「ゆゆっ!!まりさ、ゆっくりしなさすぎだよ!!」
「ゆー、れいむの、ためなら、これくらい、あっと、いうまだよ!!」
「ちゃんとやすまないとだめだよっ!!まりさがたおれちゃったらどうするの!?あかちゃんたちがかわいそうだよ!
それに、れいむだってとってもかなしいよ!!」
「ゆ…!ご、ごめんね、れいむ!」
「ゆっ、はんせいしてるならいいよ!それにれいむもおひるにおこられたし、おあいこだよ!」
「ゆ…れいむぅ~!」

二匹は赤ちゃんのため、れいむのために、静かに、身体を大きく動かさないように頬ずりをしました。
れいむの頭の芽が少し大きくなっています。
その夜、二匹は狭い木のお家の中で、寄り添って眠りました。



「ゆーっくり!ゆーっくり!」

翌朝、朝ごはんを食べてすぐに、まりさは新しいお家を作りにきました。河原から拾ってきた大きな石を、円形に並べているのです。
大きな石は十分に集めたので、もうまりさが河原まで大きな石を探しに行くことはありません。
まりさはれいむのために、一生懸命働きました。
お昼になると、まりさが頑張っているおかげで、円の3/4ほどがすでに出来上がっています。高さは一メートルほどでしょうか。
一方、れいむはその様子を見守りながら、日向ぼっこをしています。頭の芽はまた少し伸び、蔓と呼んでも良いくらいです。

「ゆ、まりさ!もうおひるだよ!すこしきゅうけいしようね!」
「わかったよ、ゆっくりやすむよ!!」

まりさはれいむの傍に寄り添いました。ずっとお日様に当たっていたれいむはポカポカ暖かく、まるでお日様のような匂いがします。

「ゆゆっ!?れいむ、あたまのつるがすこしふとくなってるよ!」
「ほっ、ほんとう!?」
「ほんとうだよ!こぶみたいになってるよ!」

まりさの言うとおり、れいむの頭の蔓には数箇所のふくらみが出来ています。ここのふくらみが大きくなり、やがて赤ちゃんになることを二匹は知っていました。
嬉しそうなれいむを見て、まりさもやる気が沸いてきました。

「れいむとあかちゃんのために、りっぱなおうちをつくるよ!!」

その日の夕方、石垣で作られた円はほぼ完成。大人ゆっくり一匹が通れるくらいの隙間を残していました。
ここは、れいむやまりさの玄関となるのです。
まりさは石の上によじ登り、慎重に石の隙間に木の枝や木の葉を渡していきます。そして、両端の上から石を置いて固定しました。
その上にいくつか石を置いてみましたが、崩れることはありません。これで玄関の完成です。

「ゆゆーーー!!すごいよまりさ!ひとりでここまでつくっちゃうなんて!!」

家の中ではれいむが大喜びしています。まだ屋根もなく、石は隙間だらけですが、それはこれから埋めるだけ。
家の広さはれいむとまりさ、たくさんの赤ちゃんが入ってもさらに余裕がありそうです。

「まっててね、れいむ!あとはかべとやねをつくるだけだよ!!」
「ゆゆ~!まりさといっしょになって、ほんとうによかったよ!!」

今日の作業はここまでにして、二匹は木の根元の家に戻ります。しかし、頭の中は新しいお家のことで一杯でした。
れいむの頭の蔓には、小さな実がプツプツと出来始めていました。



次の日も、朝からまりさはお家作りに励みます。昨日作った石の壁の隙間に、小石や砂、枯れ草を詰めていきます。
今日はれいむもお手伝い。お家の外で泥と藁を噛み砕き、唾液を混ぜて吐き出しています。
ゆっくりの中身は甘い餡子。その唾液は水あめのような成分が含まれています。
この成分と泥を混ぜ合わせ、藁をつなぎに使うことで、泥は乾くと強固な壁となるのです。

「くっちゃくっちゃ…ゆぺっ!」
「れいむもおてつだいできるよ!くっちゃくっちゃ…」
「ゆぺっ!!」

その頃、まりさは石で出来たの隙間に藁や草を詰めていました。口を使って器用に石の隙間に押し込んでいきます。

「ゆっ!ゆっ!ここまできたらあとすこしだよ!ゆっくりがんばるよ!」

しばらくして、石の隙間は全て埋まりました。後は泥で固めていくだけです。ここでれいむの声が聞こえました。

「まりさ!いわれたとおりにまぜおわったよ!」
「ゆっ!もうできたんだね!あとはそれをかべにぬりぬりすればおわりだよ!」
「ほんとう!?じゃあはやくおわらせておうちにはいろうね!あかちゃんももうすぐうまれそうだし、はじめてのゆっくりはおうちのなかでさせてあげたいよ!」
「ゆ、ゆゆっ?」

ふと、まりさの餡子の中を子供の頃の記憶がよぎります。
物知りなお母さんぱちゅりー、働き者のお父さんまりさがお家を作っていたときは、くっちゃくっちゃした泥を、藁や草で隙間を完全に塞いだ壁に塗っていました。それも一日ではなく、数日に分けてちょっとずつです。
確かお母さんぱちゅりーは、泥を少し塗って、乾いたらまた少し塗って、と言っていたような…

「ゆー、でもまりさはいそぐんだよ!あかちゃんがうまれるまえにおうちをつくりたいんだよ…」

まりさは誰とも無しに呟きます。そこに、れいむが入り口から顔を覗かせました。

「まりさ、ゆっくりしすぎだよ!あかちゃんもはやくおうちをみたがってるよ!」

みると、れいむの頭の蔓には目や口、リボンや帽子もしっかり出来た赤ちゃんゆっくりが実っています。
先端の一匹などは自分の力で動いていて、今にも蔓から離れることが出来そうです。地面に落ちて元気な産声を上げるときも近いでしょう。
そんな赤ちゃんを見て、まりさの懸念は吹き飛びました。

「ゆっくりりかいしたよ!まっててね、もうすぐできるからね!」

「うん、まりさがんばってね!」

そうと決まれば作業再開です。まりさは泥を口に含み、壁に吹き付けた後ほっぺですりすりしていきます。れいむは塗り込む泥が乾かないよう、口内で充分くっちゃくっちゃしたあとまりさに渡します。
内壁が終わったら今度は外壁です。

「おうちのかべには『れいむとまりさのおうち』ってかこうね!」
「きれいないしもかざりたいよ!きっとすごくゆっくりできるよ!」
「れいむのおかあさんといもうとたちをしょうたいしてあげたいよ!」

れいむはすっかりご機嫌です。そのせいか、赤ちゃんの小さな顔もとても嬉しそうです。それを見るだけでまりさの疲れは吹き飛ぶのでした。
ようやく、外壁が泥で埋め尽くされます。さあ、ここからが仕上げ。お家に屋根を取り付けるのです。

「ゆっしょ、ゆっしょ…」

まりさは持てるだけの枝や葉、藁を持って外壁を登ります。

「ゆっ!ゆっ!」

そして口を器用に使い、穴に木の枝を渡していきます。木の枝の両端は泥で外壁に埋め込みます。縦横十本も渡すと、しっかりと格子が出来ました。そこに葉っぱ、藁を被せたあと、ゆっくり泥を乗せていきます。一カ所に重みが集中しないよう、薄く、満遍なく。
その上にもう一度木の枝で格子を作り、さらに泥を被せ、葉っぱ、藁を乗せます。この葉っぱと藁はよく水を弾くので、屋根に最適なのです。
あたらしいお家も完成まで後一歩。大きな円柱型をした、泥の塊が出来上がりました。
まりさが屋根から下を見ると、れいむがどきどきしながら見守っています。それを見ながらまりさはゆっくりと屋根の上に乗っかりました。屋根が崩れてこないかのテストです。ゆっくりが乗った程度で崩れる屋根では、いずれ屋根が壊れて潰れてしまうでしょう。

「そろーり、そろーり…」

まりさはゆっくりと屋根の上を這います。れいむの見守る中、半分…残り少し…と距離を伸ばし…やがて、反対側の壁に足が着きました。

「ゆっ……ゆーーー!!!できたよ、れいむ!まりさたちのおうちだよ!!」

大喜びで壁を駆け下り、れいむの元に跳ね寄るまりさ。れいむは頭に赤ちゃんが居るので飛び跳ねたりして体で喜びを表現する事は出来ません。でも、その頬は感動の涙で光っています。

「ゆうぅ…ん!こんなすてきなおうちにすめるのはまりさのおかげだよ…!」
「なにいってるの!れいむのためだからがんばれたんだよ!」
「ま、まりさ…!ずうっとれいむとゆっくりしてねぇ…!」



れいむは頭の蔓をぶつけないよう、細心の注意を払ってお家に入りました。
一方まりさは古いお家に残った食べ物を全て新しいお家に運び込みます。れいむの作った苔のベッド、木の枝で作った椅子もです。
二匹の宝物、まりさがれいむにプレゼントした押し花や、二匹で見つけた綺麗に光る小石、赤ちゃんの為に作った綿の布団も持ち込みました。
全てを運び終えたときには、辺りは真っ暗になっていました。

「ゆゆ、まりさはばんごはんはすこしでいいよ。のこりはれいむがたべてね!」
「ゆっ!?だめだよ、ゆっくりするならまりさもいっしょだよ!?」
「そうじゃないよ、れいむがごはんをたべると、くきにえいようがいくんだよ!それはあかちゃんのさいしょのごはんになるんだよ!あかちゃんのためにたくさんごはんをたべてね!」
「ゆゆ!まりさすごい!ぱちゅりーみたいだよ!」
「ゆっへん!まりさのおかあさんぱちゅりーがおしえてくれたんだよ!」

こんな会話のあと、れいむは運んだ食料を食べ尽くしました。もちろん、赤ちゃんの為を思ってです。

「む~しゃむ~しゃ、しあわせ~♪れいむのあかちゃんもよろこんでるよ!」

そんなれいむを見つめる内に、今日の疲れが出たのかまりさは眠ってしまいました。






「ゆゆゆ!まりさ!まりさおきて!」
「ゆ…ゆゆっ?」

悲鳴のような声でまりさは目を覚ましました。れいむの身に何かあったのでしょうか?いえ、この状況でれいむが大声を出すとしたら理由は一つしかありません。

「れいむ!うまれそうなの!?」
「そうだよ!ふたりのあかちゃんだよ!!」

見ると、子供達は全員体を振り子のように揺らし、蔓から離れようとしています。

「ゆっ!あかちゃんがんばってね!いっしょにゆっくりしようね!」

れいむが声をかけると、赤ちゃんのうち一匹が一際大きく体を揺らしました。その反動で体が蔓から離れ、地面に落ちます。
両親の見守る中、しばらくもがいたあと、赤ちゃんは自分の足で立ち上がり…

「ゆっくいしていってね!!」

舌足らずな産声を上げました。とても元気なれいむです。

「ゆうーっ!すごくゆっくりしたあかちゃんだよ…!」
「すごいよ!れいむそっくりのびじんになるよ!!」

感動の涙を流す二匹。それに連動するように、次々赤ちゃん達が蔓から離れ、

「ゆっくいしちぇいっちぇね!」
「ゆっきゅりー!」
「ゆゆーん!」

思い思いの産声を上げます。れいむが四匹、まりさが三匹のかわいい赤ちゃん達です。

「あかちゃんたち!れいむがおかあさんだよ!ゆっくりしていってね!!」
「ゆっ、おかあしゃんだ!」
「おかあしゃん、うんでくれてありがとうね!」

お母さんになったれいむとお父さんになったまりさは、赤ちゃん達と頬をすりすりします。頬擦りはゆっくり達の愛情表現。それを繰り返すことで、家族の絆を深めるのです。

「おかあしゃん、れーみゅおにゃかがすいたよ!」
「ゆみゅっ!まりしゃもおなかしゅいてきちゃよ!」
「「「ゆっくいごはんちょーだい!!」」」

ひとしきりの頬擦りが終わると、赤ちゃん達は空腹を訴えます。すると、丁度良くお母さんれいむの頭から蔓が抜け落ちました。

「それがあかちゃんたちのごはんだよ!ゆっくりたべてね!」

お父さんまりさが言うと、赤ちゃん達は蔓に群がり小さな口でかじりつきます。

「ゅー!とてもゆっくいしたごはんだにぇ!」
「うっみぇ、めっちゃうみぇ!」
「「「「「むーちゃむーちゃ、しあわしぇ~♪」」」」」

瞬く間に蔓は食べ尽くされました。みんなお腹一杯そうにしています…が、おや?赤ちゃんまりさ三匹は物足りないような顔でお父さんまりさに跳ね寄ります。

「おとうしゃん!まりしゃ、まだおなかいっぱいにならないよ…」
「もっとごはんたべさせてね!」
「おとうしゃん、おねがい!」

どうやら赤ちゃんまりさ達はお腹一杯にならなかったようです。お家の中の食べ物は昨日、お母さんれいむが全て食べてしまいました。

「ゆっ、わかったよ!おそとにくささんをとりにいくから、ゆっくりまっててね!れいむ、あかちゃんをちゃんとみててね!」
「わかったよ、まりさ!はやくかえってきてね!あかちゃんたちとたくさんおはなししようね!」

お父さんまりさはお家の入り口から飛び出しました。
赤ちゃん達にはなにを食べさせてあげよう?野いちごは赤ちゃんにはまだ酸っぱいかもしれません。でも、ただの草ではおいしさに欠けるというものです。

「そうだ!おはなをあつめるよ!あかちゃんはまだちいさいから、おはなのみつでもあまあま~♪だよ!こんないいことおもいつくなんて、やっぱりまりさはかしこいよ!だって、ぱちゅりーからうまれたんだもん!」

自分の思いつきに顔を緩めながら、お父さんまりさはお家の近くのお花を片っ端から摘み始めました。
一方、お家の中ではお母さんれいむが赤ちゃんたちにお歌を歌っています。入り口からお父さんまりさの姿が見えるたび、お母さんれいむと赤ちゃん達はお父さんまりさに声援を送ります。
しかし、お歌が好きな赤ちゃんれいむに比べて元気一杯な赤ちゃんまりさ達はお歌ではもの足りず、お父さんまりさの持ち込んだ綺麗な石や、お母さんれいむの作った椅子に興味津々。早くもお母さんれいむの側を離れ、お家の中を跳ね回っています。

「ゆゆっ?かべからくさしゃんがはえてりゅよ?」

一匹の赤ちゃんまりさが、泥の壁から一本、ぴょこんと出ている藁に気付きました。
この藁、お父さんまりさが石の隙間を埋めるために使ったものです。完全に泥に塗りこめていなかったのでしょう。

「しゅごい!おうちのなかに、くさしゃんがはえてりゅよ!」
「これならおしょとにいかにゃくても、ごはんがたべられりゅね!」

赤ちゃんまりさ達は大はしゃぎ。さっそく一匹が飛びつきます。しかしその草は壁から抜けず、噛みついた赤ちゃんまりさは壁から宙ぶらりん状態になりました。口だけで体重を支えている状態です。

「おねえちゃんしゅごい!おしょらをとんでりゅみたい!」
「はやくくさしゃんをとってね!まりしゃたちでたべようね!」

お姉さんの赤ちゃんまりさも一生懸命体を振って、なんとか壁から草を引き抜こうとします。少しずつ動いてはいますが、なかなか引っこ抜けません。

「まりしゃたちもてちゅだうよ!」
「ゆゆー!」

見かねた妹まりさたちも抜けかけの藁に飛びつきます。一匹より三匹で引っ張れば抜けると思ったのです。
二匹分の重量が加わった瞬間、赤ちゃんまりさ達の体が大きく動きました。確かに藁は抜けました。しかし、一緒に泥の壁まで剥がれ落ちてきたのです。



お父さんまりさは自分のお母さんのやり方と違い、一度に沢山の泥を塗りつけました。その結果、壁の表面は乾いても内側はゆっくりの唾液や泥をこねるのに使った川の水でじっとり湿っていたのです。
もしもお父さんまりさがぱちゅりーと同じように泥を乾かしながら作業をしていれば、ここまで壁が大破することは無かったかもしれません。
湿った泥は互いにくっつきあい、壁から剥がれ落ちる面積を広げてしまいました。

「ゆみ゛ゅ゛っ゛!」
「びゅげぇ゛っ!」
「ぎゅ゛びっ!」

背中から床に倒れ込んだ赤ちゃんまりさ三姉妹。その上からは剥がれ落ちた壁が落下してきます。まだ体の柔らかい赤ちゃんがその衝撃に耐えられるはずもなく、小さなまりさ達は生まれてわずか十数分で潰れて死んでしまいました。
さらにその衝撃で、剥き出しになった石が崩れ落ちます。一カ所が崩れた途端、付近の支えを失った石の重量は脆い壁にかかります。その衝撃で再び内壁が剥げ落ち、さらに壁の石が崩れ、崩壊を広げます。
天井の縁を固定していた部分が壊れた途端、泥でできた重さたっぷりの天井が抜け、れいむ達の頭上に降りかかりました。赤ちゃんまりさが壁を壊してしまってから、おそらく三秒もかからなかったでしょう。



「これだけあつめればあかちゃんもよろこぶよ!」

一方こちらはお父さんまりさ。お口の中にはお花が一杯です。このお花はそのまま食べることもできますが、茎を千切ると甘い蜜が溢れてくるのです。お父さんまりさの頭の中は、愛しい伴侶とかわいい赤ちゃんに囲まれてゆっくりすることで一杯でした。
お家の方を向くと、入り口から赤ちゃんまりさ達が壁にぶら下がって遊んでいるのが見えます。
が、次の瞬間。

「ゆ?…ゆ゛あああああぁあ!!!?」

お父さんまりさは絶叫しました。せっかく作った自慢のお家が瓦礫の山に変わってしまいました。しかもその中には大切な奥さんと赤ちゃん達がいるのです。
お父さんまりさはお花を放り出し、急いでお家だったものに駆け寄りました。

「いやああああああ!!まりさのおうちがあああああ!!!れいむがああああ!!!」

お父さんまりさ、本日二度目の絶叫です。それもそのはず、大切な奥さんは瓦礫に埋もれて今にも潰れてしまいそうなのですから。お父さんまりさは必死にお母さんれいむに話しかけます。

「だいじょうぶれいむ!?いまたすけてあげるからね!」
「ゆ゛っ…まってまりさ…さきにあかちゃんをたすけてあげてね…!」

言われてまりさは赤ちゃんのことを思いだし、急いで瓦礫の中をのぞき込みます。
瓦礫の奥底で三つ並んだ黒帽子、それにこびりついた餡子と皮…赤ちゃんまりさは全滅でしょう。
瓦礫の隙間には二匹の赤ちゃんれいむが挟まれています。その隙間も一センチ程しかなく、赤ちゃんたちはピクリともしません。
もう一匹の赤ちゃんれいむは後頭部から顔面にかけて、木の枝が貫通していました。どう見ても手遅れです。
お父さんまりさが三度目の悲鳴を上げかけたそのとき、微かなうめき声が聞こえました。見ると、まだ小さな赤ちゃんれいむが瓦礫の隙間でがたがた震えています。
奇跡的に瓦礫に押しつぶされずにすんだのでしょうか、けれど頭上の壁の残骸は今にも崩れそうです。

「ゆゆっ!!あかちゃん、そこはあぶないからはやくおとうさんのところにきてね!」

急いで呼びかけるお父さんまりさ。しかし、赤ちゃんは白目を剥いたままガクガクと震えるばかり。それは恐怖から来る震えではなく、瀕死の痙攣でした。

「もっちょ…ゆっくい…ちたかっ…」

赤ちゃんれいむは断末魔を残し、うつ伏せに倒れ込みます。石にぶつかったのでしょうか、その後頭部は半分近くが失われていました。今度こそお父さんまりさの三度目の絶叫が響きました。



「まりさ、どうしたの!?はやくあかちゃんをたすけてね!」

瓦礫の下から声を上げるお母さんれいむ。彼女は瓦礫に押さえつけられ、周りを見ることができません。赤ちゃん達の惨状が目に入らないのです。
しかし、隠すわけにもいきません。お父さんまりさは苦い顔をしながら告げました。

「れいむ、あかちゃんはたすからなかったよ」
「ゆ゛っ!?まりさ、わらえないじょうだんはやめてね!ゆっくりできないよ!」
「ほんとうだよ!ぜんぶしんじゃったよ、ゆっくりりかいしてね!」
「どぼじでぞん゛な゛ごどい゛う゛の゛お゛お゛ぉ゛お゛!!!?」

お母さんれいむにとってはお腹を(頭を?)痛めて産んだ赤ちゃんです。お父さんまりさと違って死んだものは死んだと割り切ることなどできません。
逆にお父さんまりさは死んだ赤ちゃん達にあっさりと見切りをつけていました。ゆっくりは死に易い生き物。事故で命を落とすことは日常茶飯事です。
ならばこそ、死んだ赤ちゃん達の分までゆっくりしなくてはと考えました。

「しんだものはしかたないよ…とにかくれいむのことをたすけるから、ゆっくりまっててね!」
「どに゛がぐじゃ゛な゛いでしょお゛お゛ぉ゛お!!?」

どうやらお母さんれいむはお父さんまりさの言い方が気に障ったようです。
お父さんまりさもお父さんまりさで、死んでしまった赤ちゃんにこだわり続けるお母さんれいむに少しむっとしました。

「このままだとれいむまでしんじゃうよ!いまはれいむをたすけるのがせんけつだよ!」
「だがら゛さぎに゛あ゛がぢゃん゛をだずげでっでい゛っでる゛でしょ!!?ばかな゛の゛!?じぬ゛の!!?」
「だから!あかちゃんはみんなしんじゃったよ!ゆっくりりかいしてね!」
「うぞだあ゛あ゛あ゛ぁ゛あ゛あ゛!!」

何を言ってもヒステリックに叫び続けるお母さんれいむ。次第にお父さんまりさのイライラも募ります。

「だいたい、れいむがちゃんとあかちゃんをみてなかったからだよ!まりさはれいむに、あかちゃんをみててね!っていったのに!」
「なにいってるの!?そもそも、まりさがこんなぼろいおうちをつくったせいだよ!!あかちゃんがひっぱっただけでこわれるおうちなんてきいたことないよ!!」
「ゆっ!!?ちがうよ、れいむがまりさをいそがせたからだよ!!もっとじかんをかければがんじょうないえになったんだよ!!」
「れいむのせいにしないでね、このくず!!!こんなごみみたいなおうちならつくらないほうがましだよ!!」
「ゆゆっ!!?」

だんだんお母さんれいむの口調がヒートアップしてきました。どうやらお母さんれいむ、ゲスの素質があったようです。

「まりさのおかあさんのほうほうなんてためさなければよかったよ!ふつうにつちをほればよかったよ!!どうせまりさのおやも、ごみみたいなおうちをつくってごみみたいにつぶれたんでしょ!!」
「ゆ゛っ!!?ちがうよ、まりさのおとうさんとおかあさんは、ふらんにたちむかっていったんだよ!」
「うそだよ!まりさはおやがごみみたいにつぶれたのがはずかしいからうそをついてるんだよ!どうせくずみたいなおやなんでしょ、まりさをみてればわかるよ!!」
「ばかなこといわないでね!さすがのまりさもおこるよ!!」
「ごみみたいなおやからうまれたくずまりさがなにえらそうにしてるの!?くずはさっさとれいむをたすけたらじさつして、くずしかうめないごみおやにあいにいけばいいんだよ!!」
「ゆ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!だま゛れ゛え゛え゛え゛え゛!!!!!」

お父さんまりさの両親がふらんに殺されたというのは本当のことでした。まりさが子供の頃、体付きのふらん三匹が一家を襲ったのです。
まりさのお父さんのまりさは怖じ気付くことなく、勇敢にふらんに立ち向かいました。
お母さんのぱちゅりーは知略を駆使してまりさを逃がし、自らは囮となりました。
まりさは両親のお陰で体付きのふらん、しかも三匹から逃げおおせたのです。お父さんとお母さん、姉妹達は死んでしまいましたが、まりさはそんな両親を尊敬していました。その両親が目の前のゲスれいむに貶められている…お父さんまりさの視界が真っ赤に染まりました。

「ゆっくりしないでしねええええええ!!!!!!」

手近にあった、屋根の柱に使った枝。お父さんまりさはそれをくわえ、瓦礫の隙間からお母さんれいむの体に突き刺します。

「い゛や゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!ま゛り゛ざの゛ゆ゛っぐり゛ごろ゛しい゛い゛い゛!!!」
「しね!!しね!!まりさのおとうさんとおかあさんをばかにするれいむはいますぐしねぇぇえ!!!」
「だれ゛があ゛あ゛あ゛あ゛!!たずげでえ゛え゛え゛!!くずま゛り゛ざに゛ごろ゛ざれ゛る゛う゛う゛う゛!!!」

お父さんまりさの枝が、お母さんれいむの体を何回も突き刺していきます。その度にお母さんれいむの悲鳴があがりますが、それもだんだん小さくなり、やがてピクリとも動かなくなりました。





「きゃははははははははは!」
平原に高笑いが響きました。声を上げたのはお父さんまりさ。以前のお家が壊れた近くで新しく石を積み直しているようです。

「れーむもあかちゃんも、みーんながゆっくりできるおうちをつくるよ!きゃははははははハははハハ!!」

とても楽しそうに笑いながら、石を積み上げていくお父さんまりさ。その傍らには大事な家族が勢ぞろいしています。
なくなった両目の代わりに綺麗な石をはめ込んでいるお母さんれいむ。
後頭部をごっそり失った赤ちゃんれいむ。
前から後ろに木の枝が貫通している赤ちゃんれいむ。
ぺたんこになっている二匹の赤ちゃんれいむ。
皮の切れ端だけの赤ちゃんまりさ達。
風が吹くたびにゆらゆらと揺れ、みんながお家の完成を心待ちにしています。

「おっけー、まりサにまカせて!!きャはははははハハははは!!!」

尖った石で体が傷つこうとも、そのせいで致死量に近い餡子が流れ出そうとも、お父さんまりさは勢いを緩めません。
ひょっとしたら、そのことにも気づいていないのかもしれません。
お父さんまりさは餡子を失い過ぎて命を落とすまで、石を積み上げ続けました。

/****
子供の頃は、蟻の巣を水攻めとか爆竹で爆破とか殺虫剤攻めとかしたもんです。
ゆっくりの巣でやったらどうなるんだろう…

by 町長

/****今までに書いたもの
fuku2120 電車.txt
fuku2152 大岡裁き.txt
fuku2447 ゆっくりセラピー.txt
fuku2539 頭.txt

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最終更新:2022年05月18日 21:20