『ゆっくり釣っていってね!!!』








「ゆっくり釣っていってね、か」

私の前にはそびえ立つドーム状の建物。
その入り口上方の大きな看板にはれいむとまりさが「ゆっくり釣っていってね!!!」と絵の中で叫んでいる。
ここは屋内式の釣堀、それもゆっくりを釣るための釣堀だ。
大きな建物の中には2mほどの深さ、面積は3m四方程度に掘られた穴の中にゆっくりが何匹も閉じ込められている。
そんな釣堀が建物の入り口から向こう側までズラリと並んでいる。

このゆっくり釣堀は数ヶ月前、『キャッチ&イート』の宣伝文句と共に開かれて大ヒットを博した。
使うのは釣竿と釣り糸、釣り針といった基本的な釣り道具。
後はゆっくりを釣る為の餌、さらにはこの釣堀にある様々な特徴を持つ釣堀に合わせたルアーである。
それらの道具は全て無料でレンタルできるので手軽にゆっくり釣りを体験できる。
そして釣ったゆっくりは宣伝文句の通りにその場で食べて良し、持ち帰っても良しである。

ただしその場で叩き潰したり、釣堀の中のゆっくりを殺すようなことをするのは他の客にも迷惑なので止めましょう。
というよりもそんなことしたらガチムチの店員さんに追い出されます。

まあ、ルールというかマナーを守れば在る程度自由が利く。
それがこの釣堀の人気に繋がったのだろう。
かくいう私もこの釣堀が気に入っており、今や常連である。
いつもは釣りを楽しむために来ているのだが、今日はうちで飼っているゆっくりの遊び相手を釣りに来た。
釣り道具を持参する私はまず受付で店員に会員カードを渡し、レンタル不要の旨を伝える。
後は店員から番号札を受け取りって会場へと入場した。




ゆっくり釣堀の建物に入るとまず聞こえるのはゆっくり達の悲鳴だ。

「あ"あ"あ"あ"あ"!!」
「ごっぢごないでー!!」
「い"や"あ"ぁ"ぁ"ぁ"! あがじゃんがえじでぇぇ!!!」
「ぼうしかえして! あああ!!! ぼうしたべちゃらめぇぇ!!!」

とまあこんな具合で建物全体に響いて一つのBGMとなっている。
私はその心地よいBGMに聞きほれながら目的の釣堀へと歩いていく。
複数ある釣堀には難易度が設定されていて、入り口から遠いものほど難易度は高い。
私が目的としているのは五本の指に入る難易度の釣堀の一つで、期間限定の釣り堀だ。
割と奥の方にあるのでそれなりに歩く必要はあるが、着くまでに他の釣堀の様子を眺めて楽しむこととしよう。


例えば入り口近くにある釣堀。
そこからはゆっくりの元気な声は聞こえない。
釣堀の中にいるゆっくりはどれも飢えさせられている。
そのためゆっくり用の餌を釣り針にセットしてぶら下げれば入れ食いである。
そんなわけで難易度は最低レベルだが釣り上げる楽しみを知るにはちょうどいいかも知れない。

しかし慣れた人なら釣る以外の楽しみ方が出来る。
ちょうど一人の男がやっているそれもその一つ。

「………」
「ゆあー……」

その男が垂らす餌の周りのゆっくりは皆一様に大口を開けて阿呆みたいに空を見上げている。
中には飢えて体力が少ないのに必死で跳ねるゆっくりもいる。
男は釣り針に付いた餌をゆっくりがギリギリ届かない高さに調整してゆっくり達の物欲しそうな顔を見て楽しんでいるのだ。
どんなに頑張っても届かない餌。
怒る元気もない飢えたゆっくり達はただ餌を見上げるぐらいしか出来ない。

ここで男は餌をほんの少しだけ降ろす。

「…ゅっ!!」
「ゆー!」

その微妙な動きに飢えたゆっくり達は敏感に反応し、もう少し降りてきたら食べてやるぞと言わんばかりに構えた。
餌はまだ届かない高さにある。
今飛び跳ねても無駄だと分かっているこの釣堀のゆっくり達はただ構えるのみ。
また餌がほんの少し下がった。

「ゅ…っ!!」
「……!!」

ゆっくり達の体がピクリと動く。

また餌が少し下がる。
ゆっくり達はまた体が反応してピクリと動く。

また餌が下がる。
またピクリと動く。

そして、とうとうゆっくり達の届く高さまで餌が下がった。

「ゆゆー!!」
「そのえさもらったー!!!」
「ゆぅー!!!」

気合満点に餌へと飛びつくゆっくり達。
大きく口を開けて餌へと食いつく――はずだった。

ゆっくりが餌に食いつく寸前に餌はスルスルとまた空へ昇っていった。
そして餌はゆっくり達の届かぬ高さで停止する。

「ゆぅぅぅぅ!!!」
「あどぢょっどだったのにぃぃぃ!!!」

悔し泣きするゆっくり達をその男はニヤニヤと眺めていた。
しかしこの男、いいフェイントテクを使う。
餌に食いつかれる寸前で引き上げる。これは言ってみれば簡単だが実際にやるのは難しい。
この釣堀にいるゆっくり達のスピードや動き出すタイミングを熟知していなければ出来ることではない。
恐ろしい男だ。そういえば一週間前からこの釣堀にずっといた気がする。
その中でこのテクニックを身に付けたのだろう。

今度は飢えたゆっくり達を煽って内輪揉めを始めさせたようだった。



他にはこんな釣堀もある。

「んぼぉぉぉぉ!! まりざああああ!!!」
「こっぢでずっぎり"じまじょっ!?」

こちらは発情ありすの釣堀だ。
ちょうど今一匹釣れたようで、まりさルアーに付いている針に刺さっている。
ここはゆっくりの姿をしたルアーを使えば簡単に釣れる。
発情したありすは他のゆっくりを犯したくてたまらないので、動かない人形のゆっくりルアーでも迷わず飛びつくのだ。
そしてすりすりしようとすると釣り針が突き刺さってフィッシュされるわけだ。
逆にそれ以外の物、例えば釣り餌なんかじゃ中々引っかかってこない。
ゆっくりルアーを使えば難易度は相当低い釣堀である。使わなくても中程度だ。

もちろんこの釣堀でも他の楽しみ方も出来る。
見てみるとちょうど釣る以外の楽しみ方をしている男がいた。

「い"や"あ"あ"あ"あ"!! やべでっ! おろざないでえええ!!!」
「おねーぢゃーん!!!」
「やめでぇぇぇ!! まりざのごどもをがえじでぇぇ!!」

他の釣堀で釣ったまりさなのだろう。
生きた子まりさは頭から釣り糸付きの楔を打ち込まれて宙に浮いている。
そして男の脇にある透明な箱にはその子まりさの家族が収まっていた。
まりさ家族は泣き叫びながら男にやめてと懇願していた。
ここがどんな釣堀で、降ろされたらどうなるか良く分かっているのだろう。
特に子まりさは顔を真っ青にして震えていた。

「まりざはやぐおりでぎでぇぇ!!」
「おねーざんどいっじょにずっきりじまじょうよ!!!」
「おとなにじであげるわよおぉ!!!」

子まりさの下では複数の発情ありすが子まりさの投下を待っていた。
人間で言えば主に黒光りする蟲で溢れるプールに飛び込むような、そんな嫌悪感を子まりさは抱いていた。
あんな小さい子供のまりさでも知っているのだ。
発情したありすに捕まったら何をされるか。その結果自分はどうなってしまうのかを。

「もうい"や"だよ"お"ぉ"ぉ"!! はやぐおろじでえぇぇ!!」
「おっけー」
「ぢがっ、ぢがうの"っ! おろざないでぇぇぇ!!!」

子まりさは安全な場所に降ろしてと言ったのだろうが、あの言い方じゃ仕方ない。
男は子まりさの発した言葉に従って行動に移す。釣竿を持つ手をちょっと傾けるだけだ。
それだけで子まりさはありす達へと近づく。
しかしまだありす達はジャンプしないと子まりさには届かない。

「もうぢょっとおりできてねぇぇ!!」
「そうしたらまりさのはじめでうばってあげゆうぅぅ!!!」
「ああああ! もうがまんできないぃぃぃ!!!」

「ゆひっ!? ぎもぢわるいよぉぉ!!!」

我慢できないありす達はジャンプして子まりさにぺろりと舌を這わせる。
ジャンプしないと届かないのでスリスリは出来ないが、舐めるぐらいなら十分出来る。
涎を塗りつけるように舐めてくるので子まりさは下半身を中心に涎まみれになってしまった。
気持ち悪い舌の感触、不快な涎の臭いが子まりさの気力を削いでいく。

「きもぢわるいよ"…もうやだよ……」

体を塗らす液体はもはや子まりさの涙なのかありすの涎なのか判別が付かない。
このままずっと続けていたら皮がふやけて破れそうな勢いだった。

「おにーざん! もういいでじょ! まりざのごどもをだずげでね"!!」
「まりさおねーさんをゆっくりさせてあげてよぉぉ!!」
「おっけー」

男は子まりさの家族の言葉を聞き、子まりさを地面すれすれまで降ろした。
確かにこれなら永遠にゆっくり出来る。それまでが苦しいのだけど。
早速ありす達はスリスリできる高さまで下がった子まりさに襲い掛かった。
集団レイプである。

「まりざまりざまりざぁぁ!!!」
「たくざんすっぎりじまじょうねー!!」
「ありすいろにそめであげるぅぅぅぅ!!!」

「ゆぎぃぃぃぃ!! はなれでっ!! ぎもぢわるいよ"!! はなれでえええええ!!!!」

吊るされた上にありすに360度きっちり押さえ込まれたまりさの唯一できる抵抗は言葉だけ。
しかしそれも発情したありすからすれば喘ぎ声にしか聞こえない。
ありすは粘液の分泌量を増しながら子まりさへのスリスリを激しくしていく。

「やめでぇぇぇ!! ありずやめでよおおお!!!!」
「まりさのごどもがらはなれでよぉぉぉ!!!」

子まりさの家族の必死な叫びもありすからすればBGM、もしくは声援である。

「んほぉっ、みられてるともえるわー!!」
「まりさのかんじてるかおをおかーさんにみせてあげましょうねえぇぇ!!!」
「ゆ"う"ぅ"ぅ"!! みないでっ、みないでぇぇぇ!!!」

しかし発情ありすはいつみても気持ちが悪い。
普段のありす種は理知的だというのに発情するとこうも変わるものなのか。

「はぁはぁ、まりさ"ー! ありずすっきりしぢゃいそうよぉぉお!!!」
「ありすのあいをうげどっでねぇぇぇ!!」
「んほおっ! もういっぢゃう!!」
「いっしょにすっぎりじましょうねぇぇ!!!」

ありす達はそろそろすっきりするようだ。
子まりさの方はもう四方からありすが押し寄せてくるので苦しそうだ。少なくともすっきりとは程遠い。

「んほおぉぉぉぉ!!! すっきりー!!!」

ありす四匹は同時にすっきりし、子まりさに子種を植えつける。
後はもう四本の茎に栄養を吸われて死ぬのみ。

「あ"あ"あ"あ"あ"!! なんでずっぎりじぢゃうのぉぉぉぉ!!!」
「ありずがおねーぢゃんをごろじだぁぁ!!!」
「よーし次は赤ちゃんまりさをすっきりさせてあげようか」
「あがぢゃんだげはやべでぇぇぇ!!!」
「ゅ? あそんでくれゆの??」

男は何が起きているのか分かってない赤ちゃんまりさを掴む。
あの男はいつもああやって家族を次々とありすの釣堀に吊るして犯させている。
きっと何かそういう特殊な性癖の持ち主なのだろう。



目的の釣堀に行く前にちょっとレア種でも見てこようと、レア種を集めた釣堀に向かう。
そこではかなこ、てるよふ、もこう、おりきゃら…などなど、
そこいらでは中々見ることの出来ないゆっくりを釣ることが出来る。
ただし――

「ゆっくりいじめてね!!」
「てんこをつりあげてね!!」

レア種の釣堀に放たれた大量のドMてんこを釣らずに突破出来たらの話である。
ドMてんこは痛めつけられること、苦しめられることが大好きな変り種のゆっくりだ。
なので釣り針なんて見ようものなら涎を垂らして釣られに来る。
そんな訳でレア種狙いなら難易度は最高レベル。逆にてんこ狙いならゆっくりでも釣れるレベルだ。

「くそーっ、またてんこかよ!! 俺はもっこもこもこたんが欲しいんだよぉーっ!!」
「もっといって! もっといって!!」
「あーもう! 何度でも言ってやんよ!
 てめーなんていらねぇんだよ!! 死ねよ糞てんこ!!」
「いい…!! もっとばとうしてね!!」
「畜生…! もこたんINしてくれよ…」

とまあレア種を狙うのであればてんこのウザさに耐え抜く強さが必要である。
ちなみにもこうに熱を上げるこの男は三日連続チャレンジして、すでに釣ったてんこの数は百を越えた。
それだけ釣ってもてんこが釣堀から消えないのは店員がレア種を取られぬように逐次てんこを追加しているそうだ。

「うおぉぉー! だが俺は諦めんぞぉ!!!」

大した奴だ。知らない人だが心の中で応援しておく。




さて、寄り道をしてしまったが私もそろそろ釣りを始めるとしよう。
目的としていた釣堀へ着いた私はまず最初に中のゆっくり達の様子を見る。

ここは元気なゆっくりが集められている釣堀で、数日前に森で捕まえたゆっくりの群れが放し飼いにされている。
ただ単純に放し飼いにされているならば知識が無いので釣るのは簡単。
しかしここのゆっくり達は事前に危険な物を教えてもらっているので釣り餌や魅力的なルアーに引っかかることはほとんどない。
なのでここのゆっくりを釣り上げるには釣り針を直接ゆっくりに突き立てる必要がある。
自由に動き、小回りの利くゆっくりに釣り糸の先に垂らした釣り針やルアーを直接ぶつけるのは難しい。
ぶつけるにはゆっくりの動きを上回る釣竿捌きが必要になるのだ。

まあ粘っていればいずれ釣れるのでゆっくりの動き回る様子を眺めつつ適当に釣りをするならここが一番いい。
私の場合は元気なゆっくりを持ち帰りたいと思ってここに来たわけなので、とりあえず狙うゆっくりを決めるとしよう。

釣堀の中のゆっくり達はれいむ種とまりさ種のみで形成される群れだった。
親子や恋人同士のゆっくりもいるし、大人から赤ちゃんまでのゆっくりが揃っている。
ただし赤ちゃんはこの釣堀が開いてからの数日で釣り針に体を千切られたり、逃げ惑う仲間に潰されたりでほとんどいない。
なので狙うなら最低でもバレーボールサイズ程度の子ゆっくりサイズ以上になる。

ざっと見回して目についたのがれいむ種の親子だった。
お互いに身を寄せ合ってじっとしている。
きっと狙われてないうちは体力温存のために動かないでいるのだろう。
その証拠に二匹は背中を釣り堀の内壁に付け、お互いの死角をカバーするように辺りを見回していた。
中々出来るゆっくりのようだ。
あいつらにしよう。そう決めた私は持参した釣りセットを袋から取り出して準備を始める。

「ゆぅぅぅぅぅぅ!!!」
「まりさぁぁぁ!!!」

準備しているうちに他の客がゆっくりを釣り上げたようだ。
これはうかうかしてられない。



準備の整った私は釣竿を構えて狙いをつける。
狙いはれいむ親子、まずは子れいむからだ。
子れいむはすでに私が狙っていることに気が付いていたらしく、こちらを見て身構えていた。
それなら真っ向勝負だ。
釣竿をしならせ、ルアーを子れいむに向けて放つ。

「ゆっ!? れいむあぶないよ!!」
「ゆっくりよけるよ!!」

言った割には素早い動きでその場から離れる子れいむ。
子れいむがさっきまでいた場所の少し右の壁にルアーが当たった。
軽く回避されたがそうでなくてはつまらない。
釣竿に微妙な加減で力を加えて釣り糸の先にあるルアーを操って逃げる子れいむを追う。

私の持つルアー"すりすりちようね!"は赤ちゃんれいむを模したルアーだ。
大きく目立つ釣り針が二つ取りつけてあるので疑似餌にはならないが、大きな釣り針は逃げる相手を引っかけるのには向いている。
ちなみにリモコン操作で『すりすりちようね!!』と音声を発する。だが目立つ釣り針のせいで効果の薄い無駄機能だったりする。

「ゆっくりしてね! おいかけないでね!!」

そんな事を言いながら逃げる子れいむはジグザグに逃げるので狙いが定まらない。
だが追うことがまずは大事なのだ。
残念ながら相手が動き回れるうちに捕まえられるほど私は上手くない。
しかし無理することは無い。子れいむが疲れて動きが鈍くなるまで追い続ければいいだけのこと。

逃げる子れいむを私の赤ちゃんルアーが追いかける。
大きい釣り針をぶら下げて、可愛い笑顔で子れいむに抱きつこうとする。
人間だったら大きなハサミを持った子供に追いかけられるような感じかな。
少なくとも追いかけられる側からすればたまったもんじゃないだろう。



あっちこっちに逃げる子れいむと、それを何とか助けようとする母れいむをボーっと眺めながら釣竿を操る。
もうかれこれ30分は経っただろうか。
子れいむはさすがに疲労困憊といった様子で動きは随分と鈍くなっていた。

「ゆ、ゆぅ…っ、ゆぅ…! どうじで、れいむばっかりねらうのぉ!?」

でも一応叫ぶ程度の元気はあるようだ。
30分も走ってまだ喋れるのは実は結構すごい。だからどうだってこともないけど。

「にんげんさん! れいむをねらうなられいむをねらってね!!」

母れいむは私に向って何か叫んでる。
どっちもれいむ種だと個別に呼ぶとき大変だろうなぁ。大家族だと「れいむ」と呼べば全れいむが一斉に返事しそうだ。
なんて漠然とどうでもいいこと考えていると子れいむが床にへたっていた。
これはチャンスだ。
そしてせっかくなのでリモコン操作で赤ちゃんルアーを鳴かせてみる。

『すりすりちようね!』

実際に録音したというほのぼのした音声とは裏腹に凶器を付けた赤ゆルアーが子れいむに襲いかかる。
だがそれも、子れいむを守ろうとする母によって阻まれた。

「ゆっくりごめんね!!」
「ゆ"っ!?」

母れいむは娘に体当たりして身代わりになることを選んだ。
赤ゆルアーの釣り針二本が母れいむの右頬に突き刺さる。
さすがは母性のれいむ種と言われるだけあって大した親子愛だ。
釣り上げられた母に気付いた子れいむは悲しげに叫ぶ。

「ゆぅ"ぅ"ーん"っ!! おがーざん!!!」
「れいむっ…れいむ…っ!! ゆっくりしてね!! ゆっくりしていってね!!!」

泣きながら母を、娘を呼び続けるゆっくり達。
なんだろう。私が悪者みたいな気分だ。
でもお金払って釣りをしてるわけだし悪くないよね。
今生の別れみたいに叫んでるけど、すぐに子れいむも釣ってまたすぐに一緒になれるさ。

「おがぁざん、ゆっぐい"じでい"っでね"ぇ"…ゆっぐりぃぃ……」

子れいむは大泣きしている今ならそれも簡単だろう。
母れいむを持参したバスケットの中に詰め込む。
するとバスケットの中から母れいむが話しかけてきた。

「に、にんげんさん! おねがいだかられいむはゆっくりしてあげてね!!」
「んあー?」
「れいむはたべてもいいかられいむはたすけてあげてね!!」

どうも勘違いしているようだった。
私は少なくとも今日釣ったゆっくりを食べるつもりも、殺すつもりすらない。
あくまで家で飼ってるゆっくりの遊び相手になってもらうのが目的なのだから。

「安心しなよ。別にお前さんを食べるつもりはないよ。
 娘さんと一緒に助けてやるのさ」
「…ゆ? にんげんさん れいむたちをたすけてくれるの!?」
「ああ、でも私の家に来てもらうよ? うちのゆっくりの遊び相手になってほしいんだ」
「ゆっくりわかったよ! にんげんさんたすけてくれてありがとう!!」
「いいんだよ。本当、気にしないで」

助けると言ってもゆっくり出来るわけでも楽になれるわけでもないんだけどね。
でもまあギャーギャー騒がれるのも嫌なので信頼させておくとする。
感謝の言葉を並べて結局喧しい母れいむを無視しつつも再び釣竿を奮ってルアーを放り投げた。
標的は変わらず泣きじゃくる子れいむだ。

子れいむは泣いてばかりで赤ゆルアーの接近に気付いていなかった。
このまま隠密フィッシングもいいけどせっかくなのでリモコンをポチッとな。

『すりすりちようね!』

きっと単純なゆっくりはこの可愛らしい声に振り向くこと間違いなし。
子れいむもやっぱり振り向き、その瞬間を狙って赤ゆルアーをぶつけて釣り上げる。

「ゆ"う"い"ぃ"ぃ"ぃ"ぃ"っ!?」

子供サイズには大きすぎる釣り針が刺さって相当痛いようだ。
しかしゆっくりは刺し傷に強いから大丈夫。きっとね。

「やだよ! ゆっぐりでぎないよ"!! ゆっぐりざぜでぇ"っ!!」

この世の終わりのような声を出す子れいむは何とか逃げ出そうと足掻いているが、
ぶら下げられた状態で、それも首だけの生物が何をしたところで抜け出せはしない。
私の元に来る子れいむは恐怖で見開いた目で私を見ていた。

すぐにゆっくり出来るさ。
私は子れいむに刺さった釣り針を抜くと、母の待つバスケットの中に詰め込んだ。

「ゆぅーん"っ!! だじでー!! ゆっぐりじだいよ"ぉ"!!」

なんて泣き叫ぶ声が聞こえたが、すぐにお母さんの存在に気付いたらしい。
感動の再会で親子揃って泣きはじめた。正直うるさい。
だが邪魔するのも野暮というもの。
目的は果たしたわけだしこの二匹は放っておいて釣り道具の片づけでもするとしよう。



「よし、そろそろ行くかぁ」

片付けの終わった私はれいむ達の入ったバスケットを持って受付へ行く。
そして番号札を渡して規定の料金を払ってゆっくり釣り堀を後にした。
家までの帰り道はバスケットの中で楽しげなれいむ達の会話を聞いていた。
しかし途中で音痴な歌を歌いだしたり、狂ったように「へぶんじょうたい!!!」を連呼しだした時は流石にぶん投げようかと。

だが可愛いペットのためにそれは我慢した。
うちのペットは元気なゆっくりと遊ばせてやりたいのだ。





ゆっくり釣り堀から歩きで一時間。
バスケットの中で騒いでいたれいむ達も疲れたようで今は静かにしていた。
家へと入り、廊下を抜け、ペットのための部屋へと入る。

「うー! うー!」

部屋に入ると体無しのれみりゃが笑顔で出迎えてきた。
私の頭の周りをグルグルと飛び回る。
しばらくすると私の頭の上に乗っかった。
適度な重さと温かみが心地よい。

「ただいまれみりゃ」
「うー!」
「今からお前の遊び相手を出してやるからな。
 いきなり手を出しちゃだめだぞ」
「う~!」

れみりゃが羽を寝かせて待ちの状態になったのを確認した私はバスケットの蓋を開ける。
中のれいむ達は薄目でほとんど寝た状態だったので声をかけて起こしてやった。

「着いたぞ。今日からここがお前たちのゆっくりプレイスだ」

そう言ってれいむ達をバスケットから取り出して部屋の絨毯の上に置いてあげた。
れいむ達は物珍しそうにキョロキョロと辺りを見回し、そしてれみりゃと目が合った。

(さあ怯えて逃げ回るといい)

れいむやまりさの天敵と言えばれみりゃだ。
赤ちゃんゆっくりですられみりゃを見れば怯える。
しかし…この親子はどうしたことだろう。

「うー! うー!」
「ゆっくりしていってね!!!」
「れいむとれいむはおやこだよ! ゆっくりしようね!!」

なん…だと?
怯えるどころか親しげに挨拶をしてるではないか。
今までの遊び相手はどのゆっくりもれみりゃを見ただけで逃げようとした。
中にはトラウマでもあったのか餡子を吐き出して死ぬものすらいた。
それなのにこのれいむ達は何でこんなに無警戒にれみりゃに話しかけられるんだ?
そんな私の疑問もよそに、れいむ達はれみりゃに名前を聞いていた。

「ゆっ! おなまえはなんていうの?」
「ゆっくりおしえてね!!」
「れみりゃ、うー!!」

れみりゃであることも知らなかったらしい。
普通は赤ちゃんゆっくりでも知ってるというのに…
釣り堀の説明では森から捕まえてきたとあったが、いったいどこの平和な森で捕まえてきたんだろう。
疑問は尽きないが、れみりゃというゆっくりをこれから良く知ることになるのだからどっちでもいいか。




「それじゃ、れみりゃの遊び相手になってくれ」
「ゆっくりわかったよ!!」
「ゆっ、でもおにーさんはどこにいくの? いっしょにゆっくりしたいよ!!」
「いっしょにゆっくりあそぼうよ!!」
「ま、食事の時にまた来るよ」

私は部屋を出て扉の鍵を閉めた。

いつもすぐにお友達を壊すれみりゃだが、今回のお友達は元気がいいから幾分持つだろう。
それにれみりゃも最近は加減を覚えたようだしね。
後は勝手に遊んでくれるようだから食事時まで昼寝でもしようかね。



夕食時になって目を覚ました私は、れみりゃ達の餌を持って部屋へ入った。

「うー!」
「……ゅ」
「ゆっぐ…ゆっくい"」

出迎えたのはれみりゃの元気な姿と扉の前で瀕死のれいむ親子だった。
久しぶりの生きた玩具にれみりゃも張り切っちゃったのかな。もう少し放っておいたら死んでたかもしれない。
でもこの程度なら餡子を食わせてジュースをかけておればじきに復活するはずだ。

「うー! うー!」
「おおそうか。楽しかったかれみりゃ」
「う~!!」

れみりゃはご機嫌だった。
お友達が出来たのが嬉しいようだ。

「ゆっ、ゆゆっ…」
「やめてね。ゆっくりさせてね…」

そのお友達は意識を取り戻したようで部屋の隅で怯えきっていた。
そんなれいむ達に私は歩み寄る。
ビクッと身を震わせる二匹。

「明日からもれみりゃと遊んでくれよ」

そんな二匹にそれだけ伝える。
れいむ達は返事も出来ずに震えあがっていた。








それから二か月

母れいむが死んだ。
今までのお友達は一週間と持たなかったというのに随分と長く生きたものだ。
最後の一週間は外部からの刺激にほとんど反応しなくなって子れいむがひどく心配していたが。

残った子れいむはそれまでそこそこ元気にやっていたが、母が死んでからというもの日に日に元気が無くなっていった。
肉体的には私が治しているから問題ない。
だが精神的支えのいなくなった子れいむが死ぬのも時間の問題だった。
まるでただの饅頭のような子れいむにれみりゃもつまらなさそうにしている。
そろそろ次のお友達を連れてくるとしようかな。

私は釣り道具を用意する。
ゆっくり釣り堀へ出かける前にれみりゃの部屋へ行き、

「もう食べていいぞ」

と、そう伝えた。
今度はどんなゆっくりをお友達として釣ってこようかな。
私は今、それだけを考えていた。







by 赤福(ゆっくりしたい人)

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最終更新:2022年05月18日 21:20