「ゆっ、ゆぐっ、ゆっ…」
「おかあさん、ゆっくりがんばってね!」
「わたしたちもてつだうからね!」

土を口に含んでは別の場所へ吐き、口に含んでは別の場所に吐き…。
ゆっくりれいむの一家は、穴を掘っていた。
手が無いゆっくり達にとって穴を掘ることは容易ではない。
口の中は土だらけになり、口の周りを汚しても掘り続けるゆっくり達。
子供達のため、ゆっくりするため。
おかあさんを手伝うため。
れいむの一家は全員、力をあわせて土を欠き出す作業を延々と繰り返していた。

どのくらいの時間が経過しただろうか。

「ゆっくりできるおうちがかんせいしたよ!」
「これでゆっくりできるね!」
「しあわせー!!」

ついにれいむ達の穴、いや家が完成した。
家といっても、ちょっと掘り進んだところに部屋が一室あるだけの粗末なものである。
それでも、自分たちの力で家を作ったことが、そしてこれで外敵を気にせずにゆっくりできることが嬉しかった。

「これできょうもあしたもずっとゆっくりできるね」
「ずっとゆっくりしようね」


翌日。

「それじゃあゆっくりごはんをとりにいこうね!」

家の中で安心できる一夜を過ごしたれいむ達は、早い時間から家を出た。
きょうもあそこにたくさんやさいがあるといいな。
そう考えてれいむ達が向かった先は畑であった。
そもそも、新しい家を作ろうとしたきっかけはこの畑なのである。
この一家は昨日、畑で野菜を食べていた。もちろん無断である。
子れいむ達がむしゃむしゃ食べている中、遠くから男がやってくるのを一早く発見した母れいむ。
人間の怖さを知っていた母れいむは、一家でどうにか逃げ切ることが出来た。
奇跡にも近い所業である。
そして母れいむは考えた。
あそこのちかくにいえをつくれば、だれもいないときにごはんがたべられる。
そして穴を掘り、今に至るれいむ達。


畑に差し掛かったあたりで、昨日は無かったものを発見した。
そこには「ゆっくりたちのごはんです、ゆっくりいえでたべてね!」と書かれた看板。
丁寧なことに、高さをゆっくりが読める位置まで下げてある。
そして、中にそれらしきものが詰まった風呂敷であった。

「ゆっ? ここにゆっくりたちのごはんがあるよ?」
「ゆっくりもってかえろうね!」
「はやくおうちでたべようね!!」

れいむ達は何の警戒もなしにその風呂敷を持って帰った。
風呂敷をみんなで頭の上に置いて、非常に仲睦まじそうに運んだ。
家からこの風呂敷を見つけるまで約3分。
既に、昨日野菜を食べた畑のことは忘れていた。

「ゆっくりただいま」
「ゆっくりおかえり」
「きょうもゆっくりできるね」
「ゆっくりごはんをたべようね!」

家に帰ってきてただいまを言う者、なぜかおかえりと言う者。
みんなウキウキと家に帰ってきたが、興味はやはり拾った風呂敷。
開けてみると、そこには一口サイズの、丸い饅頭のようなものがたくさん入っていた。
もっとも、ゆっくり達にとって、人間の一口サイズは少々大きいものであったが。

「おいちそうだね! ゆっくりいただちます!!」

そう言って真っ先に喰らいついたのは赤ちゃんれいむ。
昨日の疲れが残っていたせいもあるのだろう、それをきっかけに妹れいむ・姉れいむ・母れいむと次々に食べていった。

「うっめ、めちゃうっめ」
「はふっ、はふっ」
「あまくておいちー!!」

次々と平らげていくれいむの一家。
見る見る数を減らしていき、10分後には何も残っていなかった。

「「「「しあわせー!!」」」」
「ちあわ…うっ…」

みんなで食後の幸せを噛み締める掛け声。
だがその中で、子れいむの様子がおかしかった。

「うっ…うっ、う゛ぼぅ゛え゛え゛っぇ゛ぇぇ゛ぇぇ゛ぇ」

まず一匹。
口から餡子を吐いた。
口を閉じようとしても止まらない。
助けを求めて母や姉のほうを見ても、事態を飲み込めていない。
致死量どころか全身の餡子といっていいほどの餡子の量を吐き出した子れいむは、皮だけのぺらぺらな状態になり絶命した。

「どうなっでる゛のぉぉぉ゛ごれ゛えっぇぇぇっ」
「どぼぉぅぢでえぇ゛ぇぇ゛ぇぇぇぇ゛ぇぇ」
「ごれじゃ゛あゆ゛っぐり゛でぎな゛い゛よ゛ぉお゛ぉぉぉぉぉっ」

ゆっくりした家での食事から一転、完全にパニックに陥ったれいむ達。
そうして慌て驚き恐怖に慄いている間にも、

「ゆぐっ…ゆっ…ゆ゛ぐヴヴぉ゛え゛えぇ゛ぇぇ゛ぇ!!」
「げヴ゛ぉぉぉお゛ぇえぇ゛ぇっう゛゛ぇえ゛ぇ!!!」
「ぐぉ゛れじゃぅ゛ぁ゛ゆ゛っぐり゛でぎなぐぉぇぇっぇぇぇ!!」
「ゆっぐりう゛ざぁ゛ぜぇでぇ゛ぇぇ゛ぇぇえぇぇぇ!!」

次々と餡子を口から外へ排出していた。
自分の中から命とも言える餡子が消失していく感覚。
ほんの少し前までの家の光景はどこにもなかった。
幸せそうな顔もどこにもなかった。

「どぅぼぉぉぉぉじぃでぇぇー! どぅぼぉぉじぃでぇぇごん゛なごどずる゛の゛ー!! ゆ゛ぐっぐりぢだぃよ゛お゛ぉ゛ぉおぉ」

餡子まみれになった家の中で最後まで残った母れいむ。
しかしその叫びは誰にも届かない。
家族全員の亡骸を見ながら母れいむもまた、同じ運命を辿った。




「お、なくなってる。ってことはちゃんと効いたのか?」

男がそのことをチェックしたのは、昼過ぎのことであった。

「昨日はあいつらにしてやられたからな…餡子の匂いがする」

男はその匂いをたどっていった。
そして1つの穴を発見した。

「あいつら、こんな近くに巣なんて作りやがって。どれどれ、効果の程は…っと、おおすげぇ」

スコップで少し掘ってみれば、そこには大量の餡子とたくさんの皮が残されているのみであった。
それも、全員苦悶の表情を浮かべている。

「なんでもかんでも喰うからそうなるんだよ…ざまあみろってんだ」

そういうと男は皮を回収し、棒で突き刺した。仲良く一家全員である。
畑の一角にそれを立てると、男は農作業へと戻っていった。

「カラスの死骸をつるすって話は聞いたことあるが、ゆっくりの死骸は聞くのかなぁ。あいつらバカだし」




ゆっくりコロリ

人間が食べても害が無い(むしろ甘くておいしい)が、ゆっくり種が食べると短時間で毒が周り、餡子を吐き出し死亡する毒餌。
このとき、非常に苦しみに満ちた表情で死亡するのが特徴である。
原料は不明だが普通に食べることが出来るため、常備しておく家もあるとか。
ゆっくりへの看板セット付き。

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最終更新:2022年04月14日 23:05