文の最後の方は文字がグチャグチャで読むことが出来なかった。他のページは見慣れない数式や記号で一杯だった

彼はそこでパタンと日記帳を閉じた

遠いと思っていたが先ほどのバス停から十五分ほどしか歩いてなかった
眼前には廃屋が不気味に佇んでいた。廃屋は卵を縦に切って寝かせたような、ドーム状の形をしていた
四方を高い塀に囲まれて正面にだけ唯一の門があった。その門は今開いていた

意を決して足を踏み入れる

門を潜ると広い庭に出た、門から廃墟の入り口までの距離は彼の歩幅で三十歩だった
入り口の扉は取り外されておりインターホンだけが無意味に壁にへばり付いていた
インターホンの隣にもう一つボタンが付いており、押してみると突然門の格子状になった鉄の扉が錆付いた音も立てながら動き出した
閉じ込められると思い慌ててもう一度ボタンを押すと門は再び開きだした。どうやらこのボタンで門の開閉を操作するらしい
まだこの建物には電気が通っていた
廃屋は一階建てのようで、学校の体育館ほどの広さと高い天井を持ち。見たことの無い機械が間隔をあけて並んでいた
その中のいくつかは理科室でも見たことがあった
どうやら研究室のようだ

壊れた機械と罅割れた棚と散乱した紙があるだけでそれ以外は何も無かった
彼はあのホームレスの老人のからかわれたのだと理解した
「信じるほうがどうかしてる・・・・」
老人の独特の雰囲気に騙されていた。だがまあそれなりに楽しめたと思い廃屋を出ようとする

「・・・・・ぃ・・・・・」

背後で声がした気がして振り返った
しかし何も無い。女の子のうめき声が聞こえるという噂を思い出し背筋がゾッとした
暗闇が作り出した幻聴だと自分に言い聞かせて今度こそ出ようと足を踏み出す

「・・・・で」

今度ははっきりと声がした。『行かないで』と言われたような気がした
声は床から響くように聞こえた。日記帳に書かれていたことを思い出す
「地下室?」
あの日記帳には地下室があるようなことをほのめかす文章があった
自分の勘を頼りに散らばる紙屑と工具を掃う
「あった・・・」
一箇所だけ四角く区切られており、取り外すことが出来た
取り外すと地下に続く階段が姿を現す。階段を降りて進むと途中で金網で仕切りが出来ており向こうへ行けなくなっていた

金網の向こうから声がした
「そこの南京錠があるせいでここから出られないの。でも金具が錆付いてるから人間の貴方なら壊せるはずよ」
指示通りに南京錠を力一杯引っ張るとパキリと音を立てて留め金の先が折れた
鍵が無くなったことで金網の一部を開くことができた

「ありがとう! これで私も元の生活に・・・って、ひはい、ひはい・・・」
彼は自身に飛びついてきたその声の主の頬を問答無用で抓った
「なんでゆっくりふらんがこんな上手に日本語喋ってるんだ?」
抓りから解放してやると、ゆっくりふらんは痛そうに頬を摩った
「失礼ね。確かに体はゆっくりだけど中身は人間なのよ、自分で言うのもなんだけど結構優秀よ」
「は?」

彼女は元々ここの研究所の助手でれっきとした人間だった
ゆっくりの脳波を操り思いのままに動かすことを目的に日夜実験に明け暮れていた
「まず特別な装置でゆっくりと私の脳波を同調・変換・相互させるてから自身の安全の確保を確認した後。意識を完全にジャックして・・・」
「すみません、分かるように話してくれませんか」
「まあ要するに今の私は『人間の魂がゆっくりに入り込んだ』のと同じ状態とでも思ってくれたらいいわ。ちゃんとした原理を説明していたら日が暮れるわ」
そしてその実験は見事に成功したという
「でも実験の途中であの馬鹿がいきなり機械を壊したのよ、まあ幸い体には何もされなかったけど」
「あの馬鹿?」
「ここのオーナーよ。お陰で私は元の体に戻れなくなってこの有様よ。ホント最悪」
腕を組み助手は悪態を吐いた。ちなみに彼女の体とその装置は地下の一番奥にあるとのこと
「そのオーナーって【人工で新種のゆっくりを創る】ことを目指していた人ですか?」
その言葉でふらんは目を細め、彼を訝し気な顔をする
「何故あなたがそれを知ってるの?」

彼は一冊の日記帳を取り出して、ことの顛末を説明した

「なるほど、それであなたがここに?」
「はい。だから正直わからないことだらけです。第一あの爺さんは誰なんですか?」
「さあ? あの馬鹿の知り合いじゃないかしら? もしかしたら私にも面識があるかも」
二人は一旦地下を出て、研究室の中の椅子に腰を下ろしていた
元助手もといふらんは小さな手で器用に日記帳を回して手遊びしていた
「あいつが実験で相当参ってるとは薄々わかってたけどまさかここまでとは・・・」
彼はふらんをまじまじと見ていた。その視線に気づき彼女も目を合わせた
「何かしら?」
「いや・・・元に戻れるのかな、と思って」
「戻れるわ。向こうにあるブレーカーを弄って地下にも電気が流れるようにして機械を復旧させれば簡単にね。手伝ってくれる?」
「まあ、それくらいなら」

立ち上がり彼女の指定するブレーカーのある場所まで行き、地下に流れるスイッチを入れる
「ご苦労様。後は地下の最深部まで行って私の体を起こすだけね。多分大丈夫だとは思うけど、あそこは何が起きるか予測がつかないから護衛として一緒に」
「では俺はコレで・・・」
「え、ちょ、ちょっと?」
手を挙げてから踵を返すがすぐにふらんに服の裾を掴みもの凄い剣幕で怒鳴られる
「なんで帰るのよ!? 何が嫌なの! 言ってみなさい!!」
「全部です! 誰が好き好んでそんなマッドサイエンスな空間に行かないといけないんですかっ!」
「あなた非日常がお望みなんじゃないの!?」
「非日常にも限度があるでしょう!? 俺はジャブ程度のちょっとした刺激が欲しかったんです! 何でブーメランフック食らわなきゃいけないんですか!?」
「ごちゃごちゃ煩い!! 色々面白いもの見せてあげるから来なさいよ!」

丁々発止で言い合い、お互いにぜーぜーと息を整える

「・・・と言うわけで帰らせてもらいます。そもそも無関係ですし」
すると彼女は不敵に笑った
「あら、あなたは一体どうやって自宅のドアを開けるつもりかしら?」
したり顔で笑うその手には鍵が握られていた
「あれ、家の鍵・・・」
ポケットを探ると家の合鍵が無くなっていた
「何時の間に盗んですか?」
「人聞きが悪いわね。落ちてたから拾ってあげたのよ」
(絶対嘘だ)
しかし、圧倒的に優位にたったはずの彼女は急に済まなさそうな顔をした
「本当について来てくれるだけいいの・・・・お願い力を貸して」
言って90度頭を下げた
その姿を見て彼も自分が言い過ぎたと反省した
「その・・・・俺で良ければいくらでも協力します」
「ぃ良し! 吐いた唾飲むんじゃないわよ!!」
顔を上げたふらんの顔は満面の笑みでガッツポーズを取った
(科学者ってみんなこうなのか?)


再び地下に続く階段を降りる。二人分の靴音が反響する
「ところで人間の方は大丈夫なんですか、戻ったら死んでるとか無いですよね?」
「問題無いわ。休眠させて代謝をギリギリまで抑えた状態で点滴を繋いであるから。そもそも私が死んでたら誰がこのふらんを動かしてるのよ」
「人間に戻ったら、そのふらんはどうなるんですか?」
「体の主導権がこの子に戻るだけよ、チップ自体無害だし。私はあいつと違って『少ない犠牲で最高の成果を』が座右の名よ」
言いながら先ほどのフェンスを潜る
地下道はトンネルのように先がずっと続いていた
この地下道は古くなり破棄された下水道を多額の報酬を業者に払い秘密裏に実験用スペースに改装したものだった
非常灯に照らされたその通路に彼は小さな恐怖心を植えつける
「お兄ちゃん怖いよぅ・・・・・・・・萌えた?」
「萌えません」
「じゃあ勃起った?」
「何言ってんですかあなたは」
ふらんは彼の腕を抱える様に組み付いた
「これでも、興奮しない? ゆっくりとはいえ、女の子にこんなことされて思春期の男の子が嬉しくないわけないでしょう」
「女の子? 三十路を過ぎて?」
日記の内容から彼女の年齢を逆算した
「きいいいいいいいいいいいいい」
ヒステリックな声が反響した



通路の薄暗さにようやく目が慣れてきて、奥へと進みながら彼は尋ねた
「いつからその姿でここに居るんですか?」
「そうねぇ・・・短くても半年、下手したら一年はここで暮らしてるわ」
「今までどうやって生き延びてたんですか? いや、そもそもこの地下は何のために?」
ふらんが足を止めたので彼も足を止めた。先の道が2通りに分かれていた、今まで通路を歩いてきて初めての別れ道だった
「本当は左に行きたいんだけど・・・いいわ、目的地に行く前にその二つの問いに答えてあげる」
右の道に進んだので彼もその後に続いた
歩きながら彼女は先ほどの質問に答えた
「実験の度にゆっくりを買ったり、捕まえに行くのは面倒でしょ? ここは人が手を加えないでもゆっくりが飼育できる場所なの」
彼女は突然しゃがみこんで地面に爪を立てた。掴んだものを彼に見せる
「この地下道には、近くを流れる下水からろ過された水が流れ込むように設計してあるわ。その水で藻やコケが生えてくるの、それをここのゆっくりが食べる」
光の届かない地下で植物が育つことは無いが、たいして光を必要としないコケの類等は例外だった
「で、その繁殖したゆっくりを私を含めた捕食種がおいしく頂く。どう? 立派な生態系でしょ?」
再び分かれ道が現れ、そこを曲がって進むとようやくトンネルが終わり開けた場所に出た
「ようこそ、ゆっくりのビオトープへ・・・と言っても昔のろ過施設を弄っただけなんだけど」
そこは地上の建物と同じドーム状の形で広さも大体同じくらいだった
「こんな感じの地下ドームがいくつもあって通路や排水溝で繋がってるわ。蜘蛛の巣のようになってるわ」
部屋の四つの壁にそれぞれの一つずつ通路や小さな穴があった
「すごいですね」
無造作に土管と藁が転がっており、土管の中を覗き込むと丸い体のゆっくりぱちゅりーと目が合い慌てて逸らした

「ゆゆっ! ふらんがいるよ!! みんなにげるよっ!!」
土管の外にいたれいむが叫んだ
その言葉を皮切りにあるものは別の部屋に逃げ出し、あるものは土管の中へ隠れた
れいむのりぼんの赤、ありすの髪の金、ちぇんの帽子の緑、ぱちゅりーの紫が押し合いへし合って、モザイク模様を作り出す
その様子を騒ぎの張本人である二人は涼しげに眺めていた
「この部屋だけでもすごい数ですね」
「一度はあの馬鹿のせいで全滅寸前まで減ったのよ。ここ半年近くでだいぶ数が戻ってきたけれど、お陰で生き残った捕食種は私を入れて3匹だけ」
「たった3匹?」
先ほどまでの喧騒が嘘のように部屋は静まり返る。その場には数匹のゆっくりしか残ってしなかった
「随分と嫌われてますね」
「いいのよ。人間に戻れば私に言い寄ってくる男なんて掃いて捨てるほど・・・って何よその憐れんだ目は!? 言いたいことがあるなら言いなさい!!」
「いえ、その・・・・すみません」
なぜかは知らないがとりあえず謝った
「うがあああああああああああああああああああああああああああああああ。あーーやーーまーーるーーなーー!! まだギリギリ華の30代だぁーー!!」
背伸びして両手で彼をポカポカと叩く
絶叫するふらんを無視して彼は一足先に部屋の奥に進んだ
「むきゅん。さんぜんひゃくよんじゅうなな」
「 ? 」
積み上げられた土管の上からぱちゅりー種らしき声が聞こえた
「面白いでしょう?」
ふらんもその土管の前までやってくる
「むきゅん。さんぜんひゃくよんじゅうはち」
通り過ぎると再びぱちゅりーが喋った
「あいつが【ゆっくりはいくつまで数えられるのか】を試してみたいて言って。ゆっくりで一番賢いぱちゅりーを改造したの
自分の目の前に通るものを延々とカウントするようにね。こいつはその生き残り。近くに餌を運んでくるのを使命にする仲間が居るはずよ」
周囲を窺いながら少し待つと緑色のコケを咥えたまりさがこちらに近づいてきた、ぱちゅりーの前にそれを置くと何処かへ行ってしまった
「さて、次の部屋に行くわよ」


次の部屋に入ると大きな緑色の物体が部屋の真ん中で蠢いていた
「なんですか、あれ?」
「私がこの地下で“二番目”に遭いたくない奴よ」
ふらんは大きなため息をついた
緑色の物体は両手でゆっくりれいむを持ち齧っていた
「う~♪ うまいどぉ~~♪ おいし~どぉ~♪ ・・・・・・う?」
緑の物体が二人に気付き振り向く
「れみりゃ・・ザウルス? 初めて見た」
れみりゃ種でも希少中の希少。恐竜を模した着ぐるみを装着したれみりゃ
「あれが3匹居る捕食の内の一匹よ」
「強いんですか?」
「弱いわ、激弱よ。でもそれ以上に・・・」

「う~~~~~~♪ ふりゃんだどぉ♪ やっとあえたどぉ♪ きょうこそれみりゃのおよめさんになってもらうどぉ!」
両手を挙げてバランスを取りながらよたりよたりとこちらに向かってくる
「モテモテですね(笑)」
「うるさい!!」
突っ込んでくるれみりゃに向かいふらんは一歩踏み出す
れみりゃの腹に前蹴りを入れて、そのまま顔面への拳を打ち込む。だがその拳は届かなかった
着ぐるみの恐竜の口が貝のように閉じて、れみりゃの顔を守っていた
恐竜の口が開くと満面の笑みを覗かせた
「う~~♪ か~ゆいど~♪」
お腹をぽりぽりと掻いた。前蹴りも全く効いてなかったようだった
「ザウルスにこんな機能あったんですか!?」
「改造されてるのよ」
「きょーこそふりゃんとすっきりして、えれがんとなかていをつくるんだど~♪」
ドシンドシンと鈍い動きで再びふらんに近づいてくる
「・・・・」
しかしふらんは逃げようとはしなかった。あっさりとれみりゃに捕る
体格は着ぐるみがある分れみりゃの方が大きい。力比べならふらんに分は無いとわかっていたが彼女は冷静だった
「私がこいつを抑えてるから。あなたは後から頭を掴んで思いっきり引っ張って」
「 ? 」
ふらんの両手を掴みダンスするように体を動かすれみりゃの背後に回り、言われた通りに行動する
「うあああああああああ!!」
簡単にれみりゃはバランスを崩し後ろ向きに倒れた
「うーーーー!! 立てないどーー!! だれかーーーだれかーーー!!」
自力で起き上がれないのか、亀のように手足をバタつかせる
「さっさと行きましょう。またそのうち起き上がってくるわ」

二人はさっさとその場を離れ次の部屋に移動することにした

その部屋の左側半分には池のような大きな水溜りが出来ていた
部屋にいたゆっくりみょんとめーりんの群れはその水をおいしそうに飲んでいた
「あの子たちは適応してるから平気だけど、水辺には変な菌がウヨウヨいるから近づかないほうがいいわ」
めーりんの一匹がふらんに気付いた
「JAOOOOOOOOOOOOOOOO!!」
叫び、懸命に跳ねながらゆっくりふらん近づいてきた、そのまま胸に飛び込んでくる
彼女はそれを受け止めて抱きかかえた。どうやら両者の関係は他のゆっくりと違い良好なようだ
「この子とは暇つぶしで良く遊ぶのよ」
そう言って赤い髪を撫でた
「珍しいですね。めーりん種も生息してるんですか」
「ここには捕食種以外のゆっくりならほとんど揃っているわ」
彼もめーりんの頭を撫でた
「ゆっくりのこと好きなの?」
「いいえ、基本は嫌いです。でもめーりんみたいな害獣じゃない種は好きですよ」
「害獣?」
その言葉に思うところがあるのか、ふらんは下膨れの顔をしかめた
睨むように彼を見る
「害が有るか無いかなんて人間の勝手な都合、エゴよ、どんなモノにも生存権はあるわ。人間にとっては害にしかならなくても他の動物にとって必要不可欠な種も存在してることも忘れないで
益虫・益獣だってそう、人間にとって都合が良いから勝手に持て囃されているだけ。『獣害』って言葉は別に使って良いけど『害獣』なんて言葉は自然界に存在しないわ」
「・・・すみません」
自分が叱られていることに気付き彼は謝罪した
「分かれば良いわ」
めーりんを床に降ろすと、一鳴きして仲間の下へ戻っていった
「他の場所にも行きましょうか? それとも帰りたくなった? 私はどっちでも良いわ。この体でいるのも僅かだから見納めておこうって気もあるし」
「ええ、と、その・・・もう少し見てみたいです」
「ウム探究心があってよろしい」


次にやってきた部屋ではありす種だけが犇(ひしめ)いていた
「この部屋はありす以外のゆっくりがいませんね」
眺めていると、あるありすが自分よりも小さな仲間のなりすに襲い掛かっていた
「え・・・?」
別の所を見ると、ありす同士で体を擦り合わせて交尾を行なっていた
「ここの集団は変わってて、仲間内で共食いしながら繁殖するの。おまけに喋り方を知らないみたいで、他の種が交流を持ちかけてきても問答無用で襲い掛かってくるのよ」
彼女曰く、過去に声帯の研究を行う過程で破棄された声帯無しのありす種の生き残りが繁殖して出来た群れらしい
無言で仲間同士食らい合い繁殖する姿は、まるで昆虫の集まりを見ているようで不快感がこみ上げて来た
「見ていてあまり気持ちのいいものじゃないわね。行きましょうか」


通路を抜けた次の部屋は先ほどと違い様々な種のゆっくりが交じり合い生活していた
しかしそこに居るゆっくりのほとんどに形の異常がみられた
「奇形ですか?」
「ここは奇形のせいで生まれてすぐに群れから迫害を受けた子が寄り添いあってるの。容姿がおかしい以外はまともな子とかも結構いるからその子たちが餌を集めてきて暮らしが成り立っているわ」
中には普通の姿をしているゆっくりもいた
「まれに奇形同士で交配してまともな子が生まれたりするんだけどそういった子は群れを出て行こうとしないで親や仲間の奇形の介護をしたりするの」
先ほどとは違い、何処か心が温かくなるのを感じた
「さて、これ以上あの子たちを警戒させてもあれだわ」

この後の部屋が最も奇異だった
体に異常が有るわけでも、奇形というわけでもない
まりさの帽子をかぶったありす。らんの尾を背負ったちぇん。髪の白いれいむ。蝙蝠のような羽の生えためーりん
本来なら存在しないはずのゆっくりが楽しそうに飛び跳ねていた
「日記帳にあったでしょ。ゆっくりを切り貼りするのが楽しいみたいな文章が、ここのは全部あいつが作ったゆっくりよ」
その中には見たかんじ四匹以上のゆっくりが合わさったものも居たが、それはゆっくりの原型を失っていた
「そろそろ戻りましょうか。これ以上奥に進むと“アレ”に遭遇しかねないわ」
「アレ?」
「気にしなくていいわ」

二人は来た道を引き返すことにした


途中
「あら・・・」
「どうしたんですか?」
「な、なんでもないわっ」
ふらんはポケットの中を探る。そこに入れたはずの彼の自宅の合鍵がなかった
(マズイわ、どこに落としたのかしら・・・)
嫌な汗(正確には砂糖水)が彼女の首筋をなぞった

その頃、ようやく起き上がりったれみりゃは二人を探して徘徊していた
「う?」
足元に光るものを見つけた
「うっう~~♪ きらきらしてきれいだどぉ~~~~♪ れみりゃのたからものにするどぉ~~~♪」」
金属片を拾い、嬉しそうに掲げた






二人は先ほどれみりゃザウルスと遭遇した部屋の近くまで戻ってきた。ここに戻るころには結構な時間が経っていた
「いい? 私があいつを羽交い絞めにするから、その隙にあなたが正拳突きを叩き込んで仕留めましょう」
入念な打ち合わせをして突入する
だが入ってみるとそこにれみりゃの姿は無かった

「なんで居ないのよ。せっかくボコれると思ったのに」

悪態をつきながら最初に来た数をカウントするぱちゅりーの所までやってきた。相変わらず他のゆっくりの姿は見られない
「むきゅん。さんぜんひゃくごじゅう」
「むきゅん。さんぜんひゃくごじゅういち」
ぱちゅりーは通り過ぎる二人をカウントした
ふらんは鍵を亡くしたことで小さな焦燥感に駆られて苛ついていた
「ねえヤニ持ってない?」
「煙草は持ってないですね、てか吸うんですか?」
「何で持ってないのよ、夜中に出歩くくらいの不良ならニコチンくらい持ってなさいよ」
「八つ当たりしないでくださいよ」
「じゃあポコチンでいいわ、出しなさい。そして吸わせなさい」
「さらりとセクハラ言わないでください」
「この口で舐められたら気っ持ちいいわよ」
口を指差して舌を艶かしく出し入れする
「そんなことばっかり言ってるから婚期逃してれみりゃしか言い寄ってこないんですよ」
「なんですっ「むきゅん。さんぜんひゃくごじゅうに」
ぱちゅりーが新たに数をカウントする声がふらんの言葉に覆いかぶさった
「「ッ!!?」」
慌てて二人は振り返る

「なんだよ・・・・コイツ・・・」

そこには彼が今まで見たことも無いゆっくりがいた



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最終更新:2022年05月03日 22:25