久々の休日だったので、趣味のゆっくり殺しにやってきた。
場所は近所の森。

足場の悪さに苦戦しながらも、俺はターゲットを追っていた。

「ごらぁああ!!逃げてんじゃねーぞぉぉお!!」
「ゆ゙ー!!や゙べでぇえええ!!!」

逃げているのは成体のゆっくり霊夢。
ウジの如く湧いて出てくる、代わりなんていくらでもいる存在だ。

「ゆゆゆゆううぅう!!べいぶなにもわるいごどじでないのにぃぃい!!!」

れいむはゆっくりの割にはすばしっこく、ぴょんぴょんと木々をくぐっていく。
俺も負けじとスピードを上げると、開けた場所に出た。

「おぉ」

目の前にはさびれた神社があった。
ボロボロと崩れ落ちている壁を光が通り抜けている。
石畳の隙間から草がジャンジャカ生え、その辺の地面と大して変わらない。

「ああ、湯栗神社か」

ゴドン。

何やら変な音がしたのでそちらを見る。

「ゆゅっ!?!?」

拝殿に侵入しようとしていたらしい。
俺の視線に気がつくと、あっという間にれいむは拝殿へと入って行った。
いくら古い神社とは言え、大きな穴もないだろう。
自ら逃げ道をふさぐとは実にアホな生き物だ。

「神社で殺傷はまずいかね」

この神社はすでに無人だ。
徳川綱吉だかツナマヨだかが将軍だったころに建築された、300年くらいの歴史のある神社なのに。
太平洋戦争が終わったあたりから、急速にさびれたらしい。
今では地元の人しかその存在を知らない。
子供のころは友人たちと秘密基地にしたりして遊んだものだ。

一応、パンパンと手をはたいてから拝殿へと入った。

「れいむちゃーん、出ーておーいでー」

拝殿には何も置かれていない。
神主が持って行ったのか、それとも最初から何もないのか、俺には分からない。
そもそも拝殿と本殿の違いすら分からない。
本殿には御神体があるそうだが、子供の頃から何もないのでどこなのかサッパリだ。

「ゆ゙ぅぅゔうゔっ!!たずげでぇえ゙え゙!!」

なので、お目当てのれいむは一発で見つかった。
大方、何か隠れるものでもあると思って中に入ったんだろう。
残念でした。

「さ、れいむちゃん。おいでおいで。たっぷり可愛がってあげるからね。はぁはぁ・・・」

ゆっくりと、俺はれいむに近づいた。
隅に追いやられたれいむは逃げようとする。
俺はすかさず大きく腕を開き、逃げ道にプレッシャーをかけた。

「逃げられないよ。おとなしくお兄さんとゆっくりしようねぇ・・・!」
「ゆぅ!い゙やだよぉお!!おに゙いざんとはゆっぐりできな゙いぃいぃ!!」

耐えかねたれいむが、大きく跳ねて逃げだした。

「逃げすか!」

と、足に力を込めたのがいけなかった。

「ぬぉおおっ!?」

バキバキと、音を立てて拝殿の床が抜けた。
気がつけば、胸のあたりまですっぽりとハマっていた。

「ゆ!ゆっくりにげるよっ!かみさまありがとう!ゆっくりしていってね!」

中途半端に割れた床が引っ掛かり、俺は動くことができない。
その隙にれいむはものすごい勢いで逃げて行った。
もう、追いつけないだろう。

「くそ・・・!あの野郎逃げやがって!・・・つか、あいつら神様とか知ってるのか」

ゆっくりにも宗教観とかあるんだろうか。
      • どうでもいいか。

しかし、まさか床が抜けるとは。
神社というものは、何十年かごとに修復したり建て直したりしてるらしいし、老朽化が原因なんだろう。
子供の俺はともかく、成人の俺は支えきれなかったらしい。

「神社で殺傷はダメということか・・・っと?」

ふと、足元に何かあることに気がついた。
なんだか四角い、箱のようなもの。
蹴ってみると、そこそこ重い。
体がハマっているので、眼で見ることはできないが、何かが入ってそうな雰囲気。

「・・・まさか」

御神体だったら寝起きが悪い。

「とりあえず、出なきゃ・・・」

ゆっくりを虐待し始めてから、独り言が癖になっていた。
『ゆっくりごはんたべるよよ!』などと、あいつらは誰に言うでもなく宣言するが、それが見事にうつってしまったのだ。

胸の周囲の割れた床を手で折り、スペースを作る。
そして気合いをこめて体を持ち上げた。

「ふひー」

ようやく床に戻ったときには、あたりに木片が散乱していた。
あとで、ちゃんと掃除をしておこう。

「どーれどれ」

穴を覗くと何やら木箱が見える。
壁に空いた小さな穴から光が入るが、ここは少し薄暗くて見えにくい。

俺は再び穴に下り、その木箱を取ることにした。

「んー、あー、むー、読めん・・・」

木箱は長方形。
長い方の辺が、俺が両手を広げたくらいある。深さも同じくらい。かなりの大型だ。
一枚紙が貼ってあり、ほとんどボロボロだが何か字が書かれている。
だが、もちろん読めない。
暗いのもあるが、ミミズがダンスしているような文字なので読めない。
昔の日本人は何語を喋っていたのだろうか。
蓋は紐で結ばれていた

御神体といったら、剣やら鏡、宝玉などが多いと思う。
実際はどうかは知らないが、20数年生きてきた俺のイメージではそうだ。
だが、この木箱はそれを入れるのには大きすぎる。
鏡などだったら、もっと薄っぺらな木箱で済むと思う。
玉ならもっと小さい木箱になるはずだ。

「開けてみるか」

貴重なものだったら、神主か誰かがちゃんと持っていくだろう。
なので俺は知的好奇心を満たすことにした。
レアモノが出てきたら繁盛してる神社の神主に判断を仰ぐか、役場に持ってくかすればいい。

「ふふ・・・」

紐を解く。
予想以上に固かった。

そして、蓋を取り除いた。

「こ・・・!これは・・!」

大きな木箱には、成体サイズ、バスケットボールほどのゆっくり霊夢が入っていた。
木箱にはスペースが余りまくっている。

「ゆ、ゆっくり霊夢!?」

しかも1匹だけではなく、子ゆっくりと思われる小さなゆっくりが5体も。

どれもこれも、皮がシワだらけだった。
目は潰され、底部は真っ黒に焦げている。
口も見当たらなかった。

「お、これは・・・」

蓋の裏に、また文字が書いてあった。
これは短いものだったので、簡単に解読できる。

「元禄二年・・・って、西暦何年だ?」

書かれていたのは、おそらく江戸時代あたりの元号。

「ま、まさか・・・!」

俺は、ある虐待を思い出していた。

それは、ゆっくりを餓死させるというものだ。
何もない部屋でゆっくりを放し飼いにしていたら、成体はほぼ1か月で死んだ。
腹減ったとうるさい割に、餓死には意外と強かったのだ。
空腹で体がペラペラになるまで、そのゆっくりはご飯をくれと叫び続けていた。
その後、俺はゆっくりの底部を焼き、まったく動けない状態にして同様の虐待をした。
連日空腹を訴え続け、結局、半年もの間何も食べずに生きていた。
ただ、赤ちゃんゆっくりに関しては、ほとんど虐待開始一日目のうちに死んだ。
体力に回す餡子が少ないからだろう。

成体のゆっくりはかなりのエコ体質なのだ。

「・・・江戸時代のゆっくり?」

俺は一つの仮説を立てた。
それは、このゆっくりが江戸時代に生まれたというもの。

目もなく、口もなく、動けないゆっくり。
ゆっくりの餡子消費を極限まで抑えた、この状態。
おそらく、相当エネルギーをカットできるのではないだろうか。

箱の大きさも気になる。
俺も入ってしまうような箱だ。
それに収まっていたのは、普通の成体ゆっくり。
どうみても、スペースが無駄だ。

「縮んだのか・・・?」

江戸時代だとすれば、何百年経過したのかはわからない。
当初、このゆっくりはかなりの大型だったのかもしれない。
エネルギー消費が少ないうえに、大型であったならば・・・。

「とりあえず、取るか」

まず、一番大きな成体サイズのゆっくり霊夢を手に取った。

「かるっ!」

見かけよりも、随分と軽かった。
肌は渇水した大地のようにヒビが入り、カサカサしている。
さすがに死んでいるだろう、そう思ったときだ。

ぶるっ・・・

「おおぉぉおっ!!?」

ぶるっ・・・

ぶるるっ・・・

「生きてんのか!?」

それに答えるように、小さく頬がぶるぶると揺れた。

「こ、これが本当に江戸時代のゆっくりだったら、どえらいことだ・・・」

" 江戸時代の食べ物が、まだ原型を保っている " 程度に思っていた俺は、心臓が跳ねあがるほど驚いた。
まさか、まだ生きているなんて。

光を失い、声を奪われ、自由を亡くしたゆっくり霊夢は、一体何を思ってその長い年月を過ごしてきたのだろう。
なおもぶるぶるし続けるれいむを床に上げ、俺は残りの子ゆっくり(成体ゆっくりが縮んで子ゆっくりサイズになっているだけかもしれない)を掴んだ。

「生きてるかー?」

ぶる・・・

「生きてるかー?」


「生きてるかー?」

      • ぶるっ

「生きてるかー?」


「生きてるかー?」



5匹のうち、反応があったのは2匹だけだった。
微かに震える小ゆっくり。
何かに脅えているのか、それとも喜んでいるのか。
俺にはわからない。

「お?」

小ゆっくりの下に、また紙が置いてあった。
枚数はそれなりに多い。
読めないので放置する。

「とりあえず、動物病院にでも連れてくか・・・」

俺は6匹のゆっくりを抱え、神社を後にした。




数日後、俺は新聞の一面を飾ることになった。

『300年前のゆっくり霊夢発見!』

新聞もテレビも、この話題で持ち切りだ。
あのゆっくり霊夢は、やはり江戸時代に生まれたものだったのだ。
木箱の詳しい年代測定はまだされていないが、ほぼ確実と言っていい。

当時の侍が、近隣の村を襲う巨れいむを退治したときに、湯栗神社に運んできたという。
神主はゆっくりにエコ処置をしたのち、神社内に安置したのだ。
なぜか。
それは一緒に入っていた古文書で明らかになった。

『同封されていた文には、巨れいむを譲り受けた神主の、好きな食べ物とそれに対する思いが切々と書きつづられていました。
 長年寝かせたゆっくりはこの上なく美味しい、と。
 彼は巨れいむの凝縮した、いうなればビンテージゆっくりを楽しみたかったのでしょう。
 残念ながら、神主は何かしらの理由で食べられなかったようですが、それが今回の発見につながったのです』

なんたら大学の教授が、そんなことをテレビで解説している。

『まぁ、わたくし共にとってはゆっくり達から、江戸時代の生き証人の話を聞けるというのが一番の甘味ですね』

ビンテージゆっくり達は、すぐに再生手術が行われたらしい。
目やら何やらは、すべて同体型のゆっくりから移植したとか。
ただ、テレビに映っているビンテージゆっくりの底部は黒い。
逃亡防止のため、治療されなかったのだろう。


「それにしても、ビンテージゆっくりとは。うーん、食べてみたいねえ」

長期にわたって熟成されることで、コクと甘みが凝縮され、ゆっくり特有のうまみが前面に出るとか。
俺はあの日逃げた、普通のゆっくり霊夢の頬にフォークを刺しながら、深く息を吐いた。




同時刻。日本のどこか。

「やめてね!まりさにひどいことしないでね!」
「うるせー!お前らビンテージな!」

少年の手に握られたライターが、火を吹く。

「ゆぅぅぅう!!びんでえじはいやだぁあああ!!ゆっぐりできないぃいぃ!!!」
「やめぢぇええええ!!ゆっきゅりちゃちぇてえぇええ!!」
「びんちぇーじはゆっくちできにゃいょおおお!!」

ビンテージという言葉は、ゆっくりにとって最もゆっくりできない言葉となっていた。

火は親まりさの底部を焼き、眼を潰し、口内を真っ黒に染めた。
もう動けない。
しかし痛みや、苦しいことは分かる。

「ゆきぃ゙ぃい゙い!!!」

子ゆっくり、そしてパートナーの親れいむも同様の処置をされている。

仲間がビンテージにされる姿を見ていた親まりさは、頬が震えるほど恐怖していた。
死ぬ事もできない。
真っ暗で、空腹で、狭い世界。

親まりさは泣きだしたかった。
叫びたかった。
助けに行きたかった。

しかし、何もできなかった。
もう自分たちはビンテージになるしかないのだ。


「じゃあ、さっさとタイムカプセルにいれよーぜ!」
「おお!もうすぐできるから待っててー」
「子供のゆっくりはともかく赤ちゃんのはどうせ死ぬから、いらないよね」
「そうだね、ここで殺しちゃえ」

「やめちぇね!まりしゃ」

言い終わる前に、赤まりさの頭上に少年の足が落ちてきた。
誰も、ビンテージでない普通のゆっくりなど興味がないのだ。

「二十歳になったら、みんなでカプセル掘ろうな!すげービンテージになってるぞ!」
「同窓会とかの帰りに掘ろうね!」
「うぉー!超楽しみー!!」


ぶるっ・・・

ぶるっ・・・

ぶるるっ・・・


今、日本は空前のビンテージゆっくりブームである。




終わり。

作:ユユー

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最終更新:2022年04月17日 00:12