重々しい声が響く。れいむが目を開けると、ナイフを持つ男の手はピタリと止まっていた。
そして人間達の中を割って、別の人間の一団がやって来る。中心にいる男と、その側近のようだ。
今の声は、中心にいる男が発したらしい。男はダークブルーのローブを着込み、白んで来た夜空に溶け込んでいた。
ただし、そのあちこちはゆっくりの餡子やチョコによって斑状に染まっている。別の場所でゆっくりを狩ってきたらしい。

「リ、リーダー……」
「あちらは済みました。その子達で最後ですか?」
「はい、隅々までくまなく探しましたが、こいつら以外には見つかりません」
「よろしい。最後は私が引き受けましょう」

気付くと、周囲の人間の表情はどこかしら緊張感を帯びていた。
この男がカリスマ、この集団の長なのであろう。
その長髪と上品に生え揃った髭は男に貫禄を与え、細い目の奥には優しそうな瞳が覗いている。
この人がれいむ達を助けてくれたんだ。少なくとも他の人間よりは遥かに優しそうだ。
服に餡子がついているのは気になるが、れいむはひとまず安堵し、口から空気を抜いて緊張を解いた。

「お、おにいさん!れいむたちをたすけてくれてありがとう!!」
「いや、なに。その子達は君の妹かい?」

ローブの男はれいむの前にしゃがみ込むと、柔和な笑顔を浮かべて話し出した。
何の脈絡もなく生み出された、朗らかな雰囲気。赤ちゃん達もそれに飲まれ、次第にゆっくりし始めた。

「ゆっ、そうだよ!とってもかわいいでしょ!」
「「「「きゃわいいでしょ!!」」」」
「ああ、可愛いね。私にも弟と妹がいてね、幼い時分にはよく一緒に遊んだものだ。
 弟は身体が弱く、よく虐めっ子達にからかわれていた。さっきの君を見て、虐めっ子達から弟を庇った時の事を思い出したよ」
「ゆぅ〜〜、おにいさんはれいむとおんなじだね!」

れいむは男にますます親近感を抱いた。人間とゆっくり、種族は違うが、同じ体験を共有したもの同士。
きっと仲良くなれるに違いない、とすられいむは思い始めていた。
彼が自分達の家族友人を虐殺した集団のリーダーであるという認識など全く持っていなかった。

「ゆっくりできるおにいさんがいてよかったよ!」
「ハハ、良い笑顔だね。それで良いんだ。笑う門には……そう、ゆっくり来たるってね」
「ゆゆ〜〜!ぱちゅりーもおなじこといってたよ!おにいさんはゆっくりできるいいひとだね!!」

それを聞いて、周りの人間達がクスクス笑い始める。
「あの人がゆっくりにとって良い人なら、俺は聖人君子だぜ」等と冗談を飛ばしあっている。
それに気付いたれいむは、自分が今恐ろしい人間達の中にいることを思い出した。
しかしもう大丈夫だ。目の前の優しい人間に頼めば、きっとこの人たちを追い払ってくれるはず。

「お、おにいさん!このにんげんさんたちは、れいむたちにひどいことするんだよ!
 ゆっくりやめさせてね!!あかちゃんたちをころさせないでね!!」
「「「「やめさせちぇね!!」」」」
「ほう。赤ちゃん達を人間に殺されたくない?」
「ころされたくないよ!!にんげんさんたちをかえらせてね!!」
「どうしてもかい?」
「どうしてもだよ!!」
「そうか。じゃあ君が殺しなさい」
「ゆっ?」

れいむは聞き間違いかな?と思った。ゆっくり出来る人間がそんなことを言う筈がないからだ。
笑顔のまま首を傾げてみせるれいむに、男も朗らかな表情を変えずに、もう一度同じ事を言った。

「君が、妹達を殺しなさい」
「・・・・ゆ?な、なななんでぞんなごどいうのおぉぉぉぉぉ!!!」

れいむは再び恐慌状態に陥る。赤ちゃん達は男がゆっくり出来る人間だと信じ込んでいるので、
男が何を言ったのか理解できず、取り敢えず「ゆっくちちてね?」などと言いながら困惑している。
大仰に身振りを加えながら、男はれいむの疑問に答えてみせる。

「君達を生かしておいてはいけないんだよ。何せゆっくりは、悪魔の使いだからね。
 悪魔はこの世から駆逐されなければならない。そうだろう?」
「なにいっでるの!!ゆっぐりはあくまじゃないよおぉぉぉおぉ!!」
「悪魔じゃないか? 人間を模し、人間の言葉を使うが、決して人間ではない。
 即ち、人間を惑わす悪魔そのものだと思うが」
「ちがうもん!!れいぶだぢはあぐまじゃないよ!!おかーさんは“てんしみたいなこ”っていってぐれだよ!!」
「ふふ、君のお母さんはまさに悪魔じゃないか。だって悪魔は嘘をつくものだから。
 そういえば、君も嘘をついているよね。自分は悪魔じゃないって」
「なにいっでるのおぉぉぉおぉ!!さっぎまでゆっぐりじでだのにぃぃぃぃ!!」

突如豹変した男。いや、豹変したのではない。れいむが「いいひと」だと誤解していただけだ。
そもそも「悪魔狩り」と称してカルト集団を率い、今回のゆっくり虐殺を企てたのがこの男なのだから。

「ところで」

そう言って男は、どこからか小さな黒い帽子を取り出す。

「これに見覚えはあるかな?」
「ゆっ!そ・・・それって・・・・」

見間違えようはずもない。
餡子に汚れ死臭を放つそれは、間違いなく親友のまりさの帽子だった。

「ま、まりざのおぼうじぃぃぃぃぃ!!なんでぇぇぇぇぇ!!」
「彼女を殺したのも私なのだが、死に際に助けを求めていた『れいむ』とは君の事だったのかな?
 自分より一回りも小さな相手に助けを求めるなんて、まったく悪魔の考える事は解らないね」
「ゆ゛あああぁぁぁぁあ!!よぐも!!!よぐもばりざをぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

友人面をして近づいてきた親友の仇に激昂し、彼我の実力差も忘れて男に突っ込んでいくれいむ。
しかし男はそんなれいむの体当たりを受け止めることもせず、横から手を回してひょいとれいむを掴み上げた。
空中でゆさゆさと身体を揺するれいむに、男は顔を近づける。その瞬間、れいむの呼吸が止まる。

「もう一度だけ言おう。君が妹達を殺しなさい。
 悪魔とはあらゆる反倫理の象徴だ。姉妹殺しぐらい喜んで出来るだろう?」
「ゆっ・・・ゆっ・・・」

自分を掴む手から伝わる殺気に身をすくみあがらせ、数秒前まで持っていた憤りはなりを潜めて、
れいむはただ震えて泣くだけの存在になっていた。
男はまりさの帽子に手を突っ込み、中から何かを取り出すと、帽子を投げ捨てた。

「これが何だか解るかい?」
「ゆっ・・・」

先の尖った木の棒。それはまりさの「けん」だ。
まりさはいつもそれを帽子に収め、狩りの時に大きな虫にとどめを刺すのに使ったり、
帽子を浮かべて川を渡る時のオールとして用いたり、自分の手足のように上手に操っていた。
野犬を追い払った時も、この剣が犬の目をちくりと刺したのが決定打になったのだ。
色や形もまりさのお気に入りで、まりさは暇な時はこの剣を取り出してゆっくりと頬ずりしていた。
そんなまりさの大切な形見を、男はれいむの口にそっと咥えさせた。

「そう、お友達の大切な武器だね。これを君にあげよう。
 これを使って妹達を殺すといい」
「ゆ゛っ・・・!?」

まりさは赤ちゃん達のヒーロー、尊敬の対象だった。そんなまりさの強さの象徴がこの剣だ。
これを赤ちゃん達に突き立てることはまさに、れいむ達の持つ家族や友人との絆を、ズタズタに引き裂く行為。
男は優しくにっこりと笑い、れいむにその行為を強要した。

「そ、そんなことできないよ・・・あかちゃんたちはまりさがだいすきだったんだよ・・・」
「ならちょうど良いじゃないか。大好きな相手の武器で殺されるなら本望だろう?
 それにね、さっき私は、ゆっくりは皆殺しにしなければならない、と言ったろう。
 だが君が私の言うことを聞いてくれるなら、君だけは生かしておいてあげても良いと思っている」
「ゆっ!?」

れいむの頭の中に、「ぜったいにいきのびてね」という親れいむの声が反響する。
しかし、れいむはそれをすぐに振り払う。その為に妹達を殺すだなんて……

「・・・いうことをきかなかったらどうするの?」
「その時は仕方がない、私が君も含めて全員殺してあげよう。最大限の苦しみを与えてね」
「っ・・・」
「でも君が妹達を殺すなら、殺し方は君の裁量でやって構わない。
 更に自分は生き残ることが出来る。素晴らしい話だとは思わないかい?」

男が笑みを深める。
れいむは強張らせていた身体を弛緩させ、だらりと垂れて男の手にぶら下がる。

「・・・ゆっくりわかったよ」

「ゆっ!おねーちゃん!!」
「おにーしゃんににゃにをしゃれたの?ゆっくちちてね!!」

赤ちゃん達には男とれいむの会話は聞こえなかったらしく、不穏な空気に気付く様子も無い。
地面に降ろされて力なく這いずってくるれいむを、ぴょこぴょこと跳ねて出迎える。
れいむの口には、夕食会でまりさお姉ちゃんが自慢していた剣が咥えられている。

「ゆゆっ!それまりしゃおねーちゃんのけんだよ!!」
「どうちておねーちゃんがもっちぇるにょ?」
「おねーちゃん、それをちゅかってにんげんしゃんをやっちゅけてね!!」

赤ちゃん達もまりさの強さを剣から感じ取ったのか、元気付けられた様子だ。
それを見て決心が揺らぐれいむの脳裏に、「ぜったいにいきのびてね!」の声が何度も何度も再生される。
そう、生き延びなければ。生き延びてゆっくりするためには、これしか方法が無いのだ。
赤ちゃん達も苦しくないように殺してあげよう。それが家族の為、お母さん達の為。そう思い込まなければならない。

「ゆっ!」

ぴっ、と剣を振るうれいむ。ぴょんぴょん跳ねていた一番すばしっこい赤まりさの底部に、一筋の傷が付く。
すぐには痛みを感じないのか、「ゆ?」と首を傾げる赤まりさ。すぐに自分がもう跳ねられないことに気付くだろう。
続けざまに、一番近くにいた赤れいむに対して剣を突き立てる。
無造作に放った突きは吸い込まれるように、赤れいむのきらきらとした右目を貫いていた。
赤ちゃん達はぽかんと口を開け、姉の無言の凶行を見つめていた。

「ゆっ・・・?おねーちゃん、なにやっちぇるにょ・・・?」
「れいみゅおねーちゃんが、まりしゃおねーちゃんのけんを、いもうちょに・・・」
「ゆ゛・・・ゆ゛げぇ・・・いだいよおおぉぉぉぉぉ・・・」
「ゆゆ・・・・ゆわぁぁぁぁぁぁぁ!!」

躊躇いがちに踏み込んだ剣は、中枢餡子まで達しなかったらしい。
一旦剣を抜き、もう一度ぷすりと刺し込むが、赤れいむが動いた為にまた狙いを逸らしてしまった。
まりさの剣は細い針状の形をしているため、ゆっくりに一撃でとどめを刺すには不向きな武器なのだ。
早く楽にしてやる為、れいむは突っ込んだ剣を中でかき回す。
一つ動かす度に赤れいむは「ゆげっ、ゆげっ」と呻きながら痙攣を起こし、餡子を吐き出していた。

「おねーちゃんがおかちくなっちゃっだよおぉぉぉぉぉぉ!!」
「やだよ!まりしゃはころしゃれたくにゃいよ!!ゆっくちにげゆよ!!」
「いだいよぉ!にゃんでまりしゃのあんようごいてくれにゃいのぉぉぉぉ!?」

一番速い赤まりさの動きは初手で封じてある。残る二匹のゆっくりとした動きには充分ついていける。
れいむは息も絶え絶えの赤れいむに剣を刺したまま、小さな歩幅で必死に逃げようとしている赤まりさに追いつく。
そして帽子を奪い、元いた場所に向かって放り投げる。

「ゆあっ!?まりしゃのかわいいおぼうちがあぁぁぁぁ!!」

帽子を追って、赤まりさはせっかく逃げてきた道を全力で引き返していく。
れいむはその隙に、赤まりさよりも更にゆっくりした歩みで逃げていたもう一匹の赤れいむにあっという間に追いつく。
そして上からのしかかり、体重をかける。れいむもまだ身体が小さく、赤ちゃんを一撃で押しつぶす衝撃は与えられない。
ぐりぐりと底部を動かし、ゆっくりと体重をかけることで押し潰していく。

「ゆげ・・・おねーちゃん、どいちぇね・・・れいみゅちゅぶれゆ・・・」
「ごべんね・・・ごべんねあがぢゃん・・・!!」
「いだい・・・いだいよぉ・・・ぐるちいよぉ・・・ゆぶぢゅ!」

親を奪われ、尊敬する相手を失い、ゆっくり出来そうだと思った人間には即座に裏切られ、
そんな世界の中でもで唯一信頼出来る相手だった、れいむお姉ちゃん。
その姉にのしかかられ、心も身体も苦しみぬいて、赤れいむは死んだ。
だらだらと流れ出るれいむの涙が、足元の赤れいむの死体に染みていった。

「おねーちゃんがいもうちょをころちちゃったあぁぁぁぁぁ!!」
「にゃんでぇぇぇぇ!?にんげんしゃんをやっちゅけてっていっちゃのにぃぃぃぃ!!」
「ゆぐ・・・ゆげ・・・・・」

残された赤ちゃん達も姉妹の死を前にして、理解したくなかった状況を完全に理解してしまった。
お姉ちゃんが、自分たちを守ると言っていたお姉ちゃんが、人間の代わりに自分たちを殺そうとしている……。
赤ちゃん達はローブの男にアイコンタクトを送るれいむを見て、姉と自分達が異質な存在になってしまったと感じる。

「ハハハ、れいむ。良くやったね」
「・・・・・・」
「れいむ? 何で泣いているんだい?」
「だって・・・だっで・・・かわいいいもうとがしんじゃった・・・」
「おかしいなぁ、そこは泣く場面じゃないだろう。笑う場面さ。
 君達は悪魔なんだから、妹殺しなどという残酷極まることをすれば、楽しくて笑いをこらえられないはずだ」
「わらえるはずないでじょおおおぉぉ・・・れいぶはかなじんでるんだよ・・・・!」
「そうかな? でも悲しくて悲しくて、それが楽しくてたまらないんじゃないか?
 ほら、いつものように笑ってごらん」
「うるざいよ!!でいぶがかなじぐでないてるのをじゃまじないでね!!!」
「れいむ、笑うんだ」
「ゆっ・・・」

有無を言わさぬ男の強い口調に、れいむは怯む。
言うことを聞かなければ、残った妹達も恐ろしい虐待を受けてしまう……
自分は男の言いなりになるしかないのだ。れいむの心は完全に屈服していた。
必死に涙をこらえ、言われた通りに笑顔を作ろうとする。

「ゆ・・・ゆふ・・・」
「ダメダメ、顔が硬いよ? もっと心から、腹の底から笑わなくっちゃあ。
 ほら、わっはっはっはっはっは!!」

れいむが苦々しく笑おうとしていると、男が手本を見せるように大笑いして見せる。
するとそれに釣られ、周囲で見物していた他の人間達もわっはっは、と笑い始めた。
屈託のない笑顔に囲まれ、一気に場の空気が「楽」の感情に支配される。
それはゆっくりにとって、とても居心地のよい空気感だ。れいむの「哀」の感情は次第に影を薄めていく。
しかし人間の嘱託を受けているれいむとは違い、赤ちゃんゆっくり達は一方的に殺される側。
あっさり空気に取り込まれることもなく、ただ増大していく自分達への悪意に震えを増すばかりだ。

「ゆゆ・・・・ゆへへへ・・・」
「ゆゆっ!?おねーちゃん!わらっちゃだめだよぉぉぉぉぉ!!」
「いもうちょがしんじゃったんだよ!!どぼじてわらっちゃうのおぉぉぉぉ!!」
「やめちぇね!じぇったいわらわにゃいでね!!じぇったいだよ!!」

引きつった笑顔を浮かべる姉を恐怖の眼差しで見つめる妹達。
ここで笑ってしまったら、姉はいよいよ自分達とは決定的に違う、異形の怪物に変貌してしまうように感じたのだ。
しかしもはや意識が朦朧としているれいむにとって、そんな妹達の姿は滑稽にすら映った。
自分は貴方達を虐待から救うために笑おうとしているのだ。そんなに止めたがることはないのに。全くお間抜けさん。
笑ったら、ゆっくり出来るのにね。

「ゆへ・・・・ゆははははははは!!」
「お、おねーぢゃああああああ!!」
「おねーちゃんのばきゃあああああ!!どぼじでわらっちゃうのぉぉぉぉぉ!!」
「ゆふははは!!ゆっひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!ゆへほほほほほほはははは!!」

何かが決壊したように、れいむの口から激流のような笑いが溢れ出してくる。
そしてれいむは、絶対にいけないことだと感じつつも、身体の奥がほんわり暖かくなってくるの快感を抑え切れなかった。
ああ、これは「ゆっくり」だ。恐怖の夜は終わり、ようやくゆっくり出来る時間がやって来た。

笑っていると、楽しくなって来る。
これは人間にも言えることで、形から入るという事は心理上大きな効果を生む。
ましてや思い込みの激しいゆっくりである。ただ笑ってみるだけで、心はゆっくりに満たされ、それが更なる笑いを生む。
更に、虐待を受けたゆっくりの餡子が甘みを増すのは、「ゆっくりしたい」という想いが全身に充満するからである。
既にその願望で餡子を満たしていたれいむが、「笑い」というきっかけを自らに与えたことで、
溢れんばかりのゆっくり願望に精神を支配されるのは道理に適ったことだ。
しかし、まだ僅かに残ったれいむの理性が叫んでいた。妹を殺したのにゆっくりしては、絶対にいけない。
今は悲しまなくては、苦しまなくてはならないんだ。どんな事になっても、その心だけは失ってはいけないんだ。
そんなれいむに、ローブの男は「免罪符」を与える。

「ハハハハ、良い笑顔じゃないかれいむ! ほら、楽しい時はどうする? 一緒にお歌でも歌おうか?
 妹殺しは楽しいな〜♪ 刺して潰してむーしゃむしゃ〜♪ かわいい泣き声聞かせてね〜♪」

手拍子を付けながら、調子っぱずれの歌を唄い始める男。
ハイになりすぎておかしくなったのかと、これには周囲の人間達も一瞬ぽかんとしてしまう。
しかしこの歌にいち早く反応し、ショックを露にしたのは、生き残っている赤ちゃん達だった。

「ゆああああああああ!!おにーしゃんにゃんで!!にゃんでえぇぇぇぇぇぇ!!」
「しょれはおかーしゃんのおうたにゃのおぉぉぉぉぉ!!ゆっくちできにゃいおうたにしにゃいでよおぉぉぉぉ!!」
「にゃんでしっちぇるの!!おかーじゃんのおうたが!!おがーじゃんんんんんんんん!!!」

そう、それはこのゆっくり姉妹の親れいむが、子供達をゆっくりさせる為によく歌ってくれていたお歌だった。
勿論、歌詞はとてもゆっくりできないものに改変されてはいる。それが余計に赤ちゃん達を傷つけたのだが。
何故男は、この家族の間で歌われている歌のメロディを知っていたのだろうか。
簡単なことで、ゆっくりの単純な餡子脳で思いつけるメロディと言うのは、パターンに一定の限界がある。
一つの群れに限って言えば、構成員であるゆっくりの多くが親類関係となる為、受け継いでいる餡子の質も近くなり、
そこから考え出されるメロディの傾向も輪をかけて限定的になって来る。それはほとんど、その地方の民謡のようなものだ。
男は、この地方でゆっくり達が歌うメロディの、その数少ないパターンを網羅していた。
その内の一つを適当に歌ったところ、たまたまこの家族が歌っている歌に該当した、というだけのことである。
赤ちゃん達のリアクションを見て、男はニヤリとした。いくつか歌のパターンを試すつもりだったが、一発目で当たってくれるとは。

さて、妹達は男の歌を聞きたくない、聞きたくないと喚き続けた。姉れいむはどうだろうか。

「ゆっくり死んでね苦しんで♪ ぷにぷに頭を踏んづけりゃ、あまあま餡子が飛び出すよ♪」
「・・・・ゆっくりしんでねくるしんで〜♪ あまあまあんこがとびだすよ〜♪」
「ゆあっ!?おねーぢゃああああああんん!!にゃんでいっしょにうたっちゃうのおぉぉぉぉぉ!!」
「しょんなのうだっちゃだめだよ!!ぞれはおかーしゃんのおうたじゃないよぉぉぉぉぉ!!」

れいむにとって、親れいむと一緒におうたを歌っている時間は、最も幸せなひとときだった。
今は亡きお母さんとの美しい思い出を、ずかずかと土足で踏みにじってきた男。
偽りのゆっくりによって既に朽ち果てていたれいむの心は、その侵略をあっさりと受け入れたのだった。
おかあさんのおうたが、れいむを後押ししてくれている。もう迷う必要なんて無いよね。


「いぢゃいよ、やめぢぇね・・・ゆぶっ、おねーぢゃ・・・」
「ゆっくりおめめをつきさすよ〜♪ ぷちぷちゆっくりたのしいよ〜♪ ゆふふふふふ!!」

まりさの剣を使い、れいむは妹達を次々に蜂の巣にしていった。
顔面にいくつも穴を開けられ、目も口も失い泣くことも出来なくなった赤ちゃんもいたが、まだヒクヒクと生きている。
針状のものででゆっくりを死に至らしめるのは、それだけ難しいのだ。最後の一撃を受けるまで、もうしばらく苦しむことになるだろう。
れいむの周囲には人間達の溢れる笑顔と、森中に轟く楽しげなお歌の大合唱。
夜明けを迎えて白みはじめた空には、歌に驚いて飛び立つ鳥達の影が舞った。
何か悲しいことがあった気がするが、もう忘れた。今はすごくゆっくりできる、楽しいお祭りの時間だ。
止まらない笑いは麻薬のようにれいむをゆっくりさせ続け、快感に餡子を痺れさせていた。
笑う門にはゆっくり来る。
笑顔になるとゆっくり出来る、ゆっくり出来るとますます笑顔になれる。
そうしてこのお祭りは続いていく。お歌を唄いながら、れいむはそんな風に考えていた。

「それじゃあれいむ、約束通り君のことは殺さないであげるよ。
 君はまさに、悪魔の恐ろしさを体現する存在だ。嘘偽り無く、ね。君にはシンボルとして生き残る価値がある」
「ゆゆっ?おにーさんたちかえっちゃうの?ゆふふふ!」
「もう用は済んだからね。みんなで家に帰ってゆっくりさせてもらうとするよ」
「ゆひひひひ!またゆっくりしていってね!れいむはまだまだ、ゆふ、ゆっくりするよ!ゆふふふ!」
「ああ、ゆっくりしていってね!」

朗らかな笑みを交わし、ローブの男は集団を率いて森を後にしていった。
餡子飛沫にまみれた集落では、狂ったように笑い続けるれいむだけが、朽ち果てたゆっくりの肉体を突き刺して回っていた。

その後れいむは民間軍事企業にスカウトされ、精神異常者のみで構成される特殊部隊に所属し、
パワードスーツを身にまとって全世界の戦場で虐殺を……行うわけもなく、
そのまま笑い続けて森の中で朽ち果てていきました。





  • あとがき
さくっと書けるかと思ったんだけどなあ、SSって難しいね。
らいじんぐゆっくり、くらいんぐゆっくり、すくりーみんぐゆっくり等の続編はありません。

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最終更新:2022年05月21日 22:44