「×××がいるとゆっくりできなくなる」

そして半年が経った。
半年、かかった/半年でこうなった/たったの半年でこうなってしまった。

長老と呼ばれる固体、子をなし育てる固体、巣で育まれる幼子
その何処にも、あの黒い三角帽子は見当たらない。
耳障りな汚らしい口調も、無意味な自尊心を振りまく不遜な態度も
今では成体以上の固体が語り継ぐだけ、子ゆっくり以下の固体はその存在を直接は知らない。

生まれる子供
ゆっくりとして最低限の情報を持って生まれてくるだけの固体が
『〝ソレ"がいるとゆっくりできない』という情報を刷り込まれて生まれて来る様になるまで。

其処から先は…否

【底から先】は彼らの創作だ、彼ら独自の行動だ。
あの愚鈍で理不尽な饅頭の中に詰まっている餡子の何処から
この光景が、生まれたのだろうか

思索に耽る僕の足元に一個のれいむ種が近づいてきた

「ゆっくりしていってね!」

「あぁ、ゆっくりするといい」

このかみ合わないやり取りに、何の違和も齟齬も感じない無能な饅頭(比喩表現でなく事実)は
およそ三日おきにココに訪れる役割を、群から与えられている固体なので
週に一度くらいの頻度で遭遇する、どうやら何度か言葉を交わすうちに僕の顔を覚えたらしく
僕を見つけると嬉しそうに纏わりつき、声をかけてくる。

「れいむは今日もお仕事かい、大変だね」

「ゆぅ…、むれのみんながゆっくりするためだもん…しかたないよ!」

そう言いながらも、汚い物を避けるように
視線も身体も決して其処に近づこうとせず
また一つ落ちてきたソレを
しまりの無い単純な顔を精一杯歪ませて、
ある種の理解しがたい芸術品のような醜い表情で見ている。

ふむ、群の中でも誰もが嫌がる仕事だろう
義務的な感情で引き受けているのだとしたら大した物だ
何せココには彼らにとって最も忌むべき存在が


【まりさ】が廃棄されているのだから。



一年前、ゆっくり種の行動に関する資料を読んでいて
唐突にあることを思いついた。
そのとき読んでいた物だけではなく
手に入る限りの資料を読み漁り
その思い付きが多くの場合に当てはまる事を確信し
近隣の村、その近くにあるゆっくり種の群生地でそれを試した。

僕の思いつきは『言いだしっぺ』の排除である。
ゆっくり種がある程度以上の群を作ると
高確率で食料が枯渇する。

ゆっくり種は食料の生産能力を持たない。
彼らの場合ある意味で同種の存在を作り出す性交が
『食料の生産』にあたると言えなくも無いが
信じがたい事に倫理観に近い概念
そして彼らが持っている、人間には理解できない者を含む本能のレベルで
同族を捕食、殺害(?)する事は禁忌に当たるらしく
一部の固体を除いて、殆んど行われない。

であるので、彼らが主な食料としている
花やその種子、蝶や芋虫の様な被捕食種が枯渇する冬季にその例が顕著だ。

そういう場合、ゆっくり種は人里を襲う。
このゆっくり災害、通称『ゆ害』は決して侮れない。
年間数人の怪我人、或いは死者が出ることもある
食料への被害も無視できない程甚大であり
小さな村なら餓死者が出る事もある

その原因の大きな割合を占めるのがまりさ種だ。
70%を超えるゲス率、ドス種化の危険もさることながら
思い込みで行動どころか生態までも変化するゆっくり種にあって
その性格からくる扇動は群全体の行動を簡単に左右する…
要は、『言いだしっぺ』である。

ならば、その『言いだしっぺ』がいなければどうなるのか?

知人に話したが、一笑に付された

「お前、ゆっくりがどれだけ有ると思ってるんだ?」

群を丸ごと焼き払っても、少し眼を離せばまた増えている。
そんな非常識な存在の中から一種だけを排除するのは現実的でない。
無理か、と諦めかけた時、別に人間が手を下すことは無いことに思い至った。

森に分け入り、ゆっくりを見つけると手当たり次第に

「まりさがいるとゆっくりできなくなる」

と教えて回った
最初のころは、ゆっくりの反応は決して芳しくなかった。

「そんなわけないよっ、まりさはゆっくりしてるよ!!」

「ありえないわ、ありすのまりさはとかいはのゆっくりよ!」

「それはないよー、ドスはゆっくりのなかのゆっくりだよー」

と言った感じである。
一月経った頃、変化が起こり出した。

群れから少しはなれたところで、瀕死のゆっくりまりさを見つけたのだ
細かく痙攣しながら、今にも力尽きそうなまりさ
興味を持って声をかけてみたが、結局そのまま活動を停止した。

次見回りに行ったときも

そのまた次も

森のあちこちで、怪我をしたり死んでいたりするまりさ種を見ることになった。
どうやらソレは群に所属していない、余所から来た個体や番をもたない個体だけのようだった。

それから一週間して、その現場を目撃する事ができた。

「さっさとつぶしてね!ソレはゆっくりできないゆっくりだよ!!」

「ゅぅ、でもこのまりさはなにもわるいことは…」

「おまえ!そのなまえをくちにするなといっただろう!!」

「れいむやめてね!わかったよ!つぶすから!つぶすからいたいことしないでね!!」

瀕死のまりさ種を囲んで、二匹のゆっくりが言い争っていた。
見たところ、まりさ種は殺処分に乗り気では無いらしい。

「ゃ、ゃべで、ごろざ ないで…」

「ごめんね、ゆっくりしたいんだぜ しかたないんだぜ」

何度も踏みつけて平らになるまで押しつぶすまりさ種

「ほんとうにぐすだね!れいむはむれにもどってごはんにするから、おまえはもりじゅうをみまわってね!」

「まり、わたしもごはんがたべたいんだぜ…」

「ゆ゛!?」

「な、なんでもないんだぜ!!」

「ゆっくりしないでね!はやくしてね!!」

がなりたてて巣の方へ帰っていくれいむ種、その背中を何かいいたそうに見つめるまりさ種
興味はあったが、その日は何もせず静観することにした。


次の日、同じ場所に行くとまりさが死んでいた。
確証は無いがあの時のまりさ種だろう、他方向から押しつぶされたような無残な姿で息絶えている。
このまりさは群に所属している固体だ、いったいどうなっているのか
群に尋ねた僕は長ぱちゅりから『ふるくからつたわるゆっくりのでんせつ』とやらを聞くことが出来た。

「まりさがいるとゆっくりできなくなる」

「ドスでもあかちゃんでもかんけいない」

「うまれるまえの〝つた"にはえているだけでも」

「おなかのなかでゆっくりしているだけでも」

「それどころか」

「そのなまえをくちにするだけで」

「『しよりもおそろしい』めにあわされる」

そして、僕の目の前にはまりさ種が廃棄される沼がある。
この沼は俗に言う底なし沼と言うヤツで
動けば動くほど沈んでいく。

うーぱっくとよばれるゆっくりによって沼の真上に運ばれたまりさ種は
そこで落とされ、沼の上でもがき苦しみ
溶けるか沼の底に沈むかして死んでいくと言うわけだ。
そして、しずんでいくまりさ種が万が一にも逃げないように、こうして見張りが付いている。
断末魔とばかりに世界の全てをのろって喚き散らすまりさ種を
声の限りに罵倒し、いしまでぶつけるれいむ種
僕の精神衛生上その様子の描写は割愛するが、まぁ正常な精神の持ち主が見たがるような光景ではない。

今も沼のあちこちで、帽子をかぶった饅頭があちこちに浮かんでいる。
半ばまで沈んだ固体が必死に空気を求めて暴れ周り
引きずり込まれるように沈んでいく。
そうしていったい何個のまりさ種が沈んでいったのか、僕にはわからない。

「今日はもう帰るよ、途中で群に寄らせてもらうね」

「ゆ、ゆっくりわかったよ!またあおうね!!」

『別れを告げて』彼らの巣を目指し、歩き出す僕
背中ではれいむ種の喚き声が聞こえる、かなり耳障りだが
〝もう聞くことも無いだろう"




「むきゅ、おにいさんまたきてくれたのね!」

「「「「「「「ゆっくりしていってね!!」」」」」」」

「あぁ、ゆっくりするといい」

長と、群に住まうゆっくりたちが騒がしく僕に寄ってくる
適当に野菜屑をばら撒いてやれば、彼らの信頼を勝ち取る事など容易いのだ。

「ねぇ、長老ぱちゅりこんな言い伝えを知っているかい?」

「むきゅ?」

「れいむがいるとね…」



                • 今度はまりさの下地がある、何日でこの森かられいむが消えるだろうか?


END.



特定の種類のゆっくりをはいじょしてみました。

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最終更新:2022年05月21日 23:02