ペット用ゆっくり向けに”成長抑制剤”という薬品がある。
飼いゆっくりは栄養状態が良いため、野生種と比べて体が大きい。
それでは可愛くないと感じる飼い主が多く、好みのサイズまで成長したら
この成長抑制剤を投与することでそれ以上は大きくならないのだ。

成体サイズになる前に投与すれば去勢をする必要もなくなり
ゆっくりを傷つけたくない愛護派を中心に喜ばれた。
最近では飴玉状に加工して砂糖と果実のフレーバーをふんだんに使い
ゆっくりに気づかれることなく食べさせるだけで成長を止める事ができるという商品も発売し
誰でも購入することが出来るようになっていた。

今回は、その成長抑制飴をペット目的以外での使用を試みることにする。




「ゆっくりしていってね!」

森の中、いかにもゆっくりが住んでそうな洞穴を見つけると、さっそく声をかけた。

「ゆっくりしていってね!」
「「「「「ゆっくちしていっちぇね!」」」」」

洞穴は枝や葉っぱで入り口を偽装してあったが、本能的に「ゆっくりしていってね!」に反応してしまうため
まったくの無駄。
さっそく、入り口を塞いでいる枝を取り除くと中には成体れいむ1匹と
赤れいむが3匹、赤まりさが2匹いた。
つがいの成体まりさは餌でも探しに出ているのだろう。

「ゆっ、ここはれいむたちのおうちだよ!かってにはいってこないでね!」

れいむは、入り口に立ち塞がりプクーっと顔を膨らませてこちらを威嚇している。
その脇からピョコっと赤れいむと赤まりさがこちらを覗いていた。

「おにいさんはゆっくりできる人だよ、その証拠にあま~い飴玉を君たちにあげるよ!」

包み紙をとってあげて、コロコロとしたビー玉の様な成長抑制飴を差し出す。

「ゆゆっ!あめさんゆっくちたべちゃいよ!」
「まりしゃにもちょーだいね!」
「おにいさんはとってもゆっくちしてるよ!」
「あまあま~♪」

「おにーさん、ゆっくりしてるね!おちびちゃんたちがかわいいからおかしをくれるんだね!
とくべつに、かわいいかわいいれいむのあかちゃんをみていってもいいよ!ゆっへん!」

赤ゆ1匹につき1個食べさせる。
飴だから「ぺーろぺーろ」と舐めるのかと思いきや、飲み込むようにがっついて野生種の下品さを思い知らされた。
「「「「「ちあわちぇ~♪」」」」」
これで、この可愛い赤ちゃんとやらは永遠に可愛い赤ちゃんのままです(笑)
親ゆっくりは一生餌をとってくる仕事を頑張ってね!

ん?よく見ると、1匹の赤まりさだけ奥のほうへ引っ込んだまま飴を舐めに来ない。
お~い、赤まりさ!飴をやるからこっちこいよ!と呼んでみた。

「ゆっ、そのおちびちゃんはいいんだよ!かわいくないあかちゃんなんだから!」

飴をその赤まりさの方へ転がしてやると、自分に飴を与えようとしているのだと気づいて
明るいところまで出てきた。

「まりしゃにもあめしゃんくれりゅの?」
その赤まりさは帽子の先が欠けていて、まるで折れたトンガリコーンの様になっていた。
ゆっくりにとって飾りは命よりも大切なものだ。
きっと、これが原因で親からも姉妹からも苛められているのだろう。

「おまえはいいんだよ!あめなんてもったいないでしょ!
おまえがせけんさまにみられるとめいわくだから、そこからでてこないでね!」
親れいむが赤まりさを突き飛ばす。
「ゆぅ・・・」

「ゆっくちできにゃいおねーしゃんにあまあまはもっちゃいないよ!」
「これはれーみゅがもらうね!」
そして、赤まりさの分の成長抑制飴は姉妹に横取りされてしまった。

これじゃ、あの赤まりさだけ普通に成長してしまうなぁ
無理やり食べさせるのも面倒だし、まあいいかと巣を後にする。
来月あたり様子を見に来よう。



しばらく、ゆっくり探索に森を徘徊していると、ひどい雑音のれいむの子育て歌が聞こえてきた。

「ゆっゆっゆっ~♪れいむのあかちゃんゆっくりしたいいこにそだってねー♪」

「ゆっくりしていってね!」

れいむの頭には1本の茎が生えており、その茎には4個の実がついていた。
れいむ種2匹、ありす種2匹と飾りまでハッキリ見分けられるほど成長しているので
もうそろそろ生まれてくるころだろう。
「ゆぅ」「ゆゆぅ」「くぴー」「みゅー」
などと寝息を立てている。

「ゆっ?おにいさんはにんげんさん?」

「やあ、お兄さんはゆっくりできる人間だよ。
今日は子育てを頑張ってるれいむのごほうびにあま~い飴をあげにきたのさ。」

実ゆっくりは茎から親の栄養を吸って成長するため口から餌を食べることはできない。
それなら親ゆっくりに成長抑制飴を飲ませれば、この実ゆっくりはどうなるのだろうか?
前例がないだけに分量がわからず多めに10個ほど与えた。

「あまあま~♪こんなにおいしいんだから、きっとれいむのあかちゃんたちもすごくゆっくりできるよ!」

これで、成長抑制の成分が実ゆっくりに伝わるのかと実ゆっくりを観察してみると
「あみゃあみゃ~♪」「ゆっくち・・・ゆぅゆぅ♪」「ゆぅ~ん♪」「ゆっくち~♪」
目は開かないが笑顔で喜んでいるように見える。
これで永遠に実ゆっくりのままなのかね?
一生、実のままゆっくりしていってね!
つがいのありすが帰ってくる前に退散した。


また、しばらくゆっくり探索をしていると、今度は大きめの洞窟を発見した。
ゆっくりどもが生息しているところを見ると猛獣などの野生動物がこの森に住んでいることはない。
代わりに、こういう雨風しのげそうな場所にはたいがいゆっくりがいるのだ。

洞窟内部は人間でも余裕があるくらい広々としている。
その中心に50センチサイズはある、大きなゆっくりまりさとれいむがいた。

「ゆっ、おにいさんどうしたの?ここはまりさたちのおうちだよ」
「れいむたちはもうすぐあかちゃんうまれるんだからじゃましちゃだめだよっ!」

まりさの下あご部分が大きく膨らんでいるので胎生妊娠していることがすぐにわかった。
このつがいは、れいむが父役として餌を集め、まりさが妊娠し子供を産むという珍しい組み合わせだ。
まりさの下には葉っぱが幾重にも敷き詰められていて座布団のようにして座して
巣の奥にはリンゴや柿、桃に葡萄といった果実が山のように蓄えられていた。
こいつらが集めたんだろうか?

「ふ~ん、あかちゃんうまれるんだ
ところで一つ聞くけど、れいむたちは人間の畑からお野菜を取ったりするゆっくりかい?」

「ゆゆっ、れいむたちはそんなことはしないよ!それはわるいことだよ!
ごはんは、じぶんたちであつめるよ!」

野良には珍しく、善良なゆっくりのようだ。
これは、ごほうびをあげないといけないな。

「そうかそうか、それでは飴さんをあげよう!
まりさは妊娠してるみたいだし、特にたくさん食べさせてあげなさい。
きっとお腹の中の子ゆっくりも喜ぶさ!」

赤ゆっくりの成長を止めれば、そのまま一生赤ゆっくり
実ゆっくりの成長を止めれば、茎から一生落ちてこない
それじゃあ胎生妊娠で産まれる子ゆっくりは、いったいどうなるんだろう?
そんな素朴な疑問の答えを求めるべく成長抑制飴を与えた。

「まりさよかったね!ゆっくりできるにんげんさんがあめさんをたくさんくれたよ!」
「あまくておいしいね!でもぜんぶたべたらもったいないから、あかちゃんのぶんもとっておこうね!」

なるほど、産まれてきた赤ちゃんのために飴をとっておこうというのか
自分の事よりも子供を大切にする・・・お兄さん感動した!
これだけ良ゆっくりだと、ますます行く末が楽しみですな。

「子供の分もちゃんと用意してあるんだよ。
袋の中の飴さんを全部あげるから、それは君たちで食べなさい!」

袋をひっくり返してバサバサっとありったけの飴を吐き出す。
中途半端に与えると、今度は冬越え用にとっておくとか言い出しかねないので本当に全部くれてやった。

「おにーさんありがとう!このおんはいっしょうわすれないよ!」
「まりさのあかちゃんがうまれたら、おにいさんもみにきてね!きっととってもかわいいこがうまれるよ!」

洞窟を出るまで、れいむが見送ってくれた。
お礼にと、葡萄を1房差し出したが「いいよいいよ」と断る。
尚もれいむが勧めるので、何度も断るのは失礼かなと思って結局受け取った。


帰り道、葡萄を1粒1粒食べて皮を捨てていくと
後からどこかの赤ゆっくりがピョンピョンッとついてきていた。

「あみゃあみゃさんがおちてくるよ!」

無視して、そのまま食べ歩いていると
いつの間にか後をつけてくる赤ゆっくりが増えている。

「れいみゅにもあみゃあみゃさんちょーだいね!」
「まりしゃもまりしゃも!」

葡萄を全部食べ終えると捨てる皮もなくなって後をつけてきていた赤ゆどもが騒がしい。

「れいみゅのぶんのあまあまさんがないよ!ぷんぷん!」
「まりしゃもまだもらってないよ!」
「あまあまをくれにゃいにんげんさんはとかいはじゃないわ!」

そんなに食べたければ家に持ち帰ってコンポストにでも使うか。
たらふく”なにかの皮”を毎日食わせてやろう。
ヒョイっと摘み上げて次々とポケットの中にしまう。

「ゆぅ~おそらをとんでるみちゃい♪」
「ゆっ、まっきゅらでなにもみえないよ!」
「ここはどこにゃの!こんにゃのとかいはじゃないわ!みゃみゃー!」


後編

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最終更新:2022年05月19日 11:52