• 現代にゆっくりがいる設定です
  • 罪のないゆっくり親子が記録のために死にます


『ギネゆ・ワールド・レコーズ2010―世界最速のゆっくり殺し―』

 私はギネゆ・ワールド・レコーズのコアなファンだ。
 『ギネゆ・ワールド・レコーズ』とは毎日午前1時から30分間放送され、ゆっくりに関
する世界記録を競う番組だ。見事、世界記録に認定された人やゆっくりが栄誉を得る。
 深夜番組特有のノリで、生放送にもかかわらず過激な虐待やパフォーマンスを繰り広げ
るのが最大の見所だ。
 いつか『ギネゆ』に出て、何か世界記録を持ちたい――
 そう思って私は『ゆっくりを殺すことに喜びを覚えるまりさ』を育て上げた。これで
『ゆっくり親子を皆殺しにする最速記録』を更新するためだ。
 そんな努力と想いが通じたのか、来週の出演枠に当選した。

「さあ、今日もギネゆ・ワールド・レコーズの時間がやってまいりました。司会は私、度
会司(わたらいつかさ)が担当いたします。どうぞよろしくおねがいしまーす!」
 あいさつもその程度で済ませて、今日の挑戦内容がステージ奥のモニターに映し出され
る。
「本日の挑戦は『ありす親子を皆殺しにする最速記録』です! これに挑戦するは、手沢
東(てざわあずま)氏のまりさです!」
 私はまりさを抱えて、控え室からステージに上がる。観客が私とまりさを見て、拍手を
してくれた。モニターには私とまりさのアップが映っている。
「手沢氏のまりさは、目の前で愛する家族をレイパーありすに蹂躙されて殺されて以来、
ありす種に対して強い憎しみを抱いて、ゆっくりできません! その憎しみを今日、ここ
で発散してくれるでしょう」
 そう司会者は悲劇のヒーローの様に語ってくれているが、本当は野良レイパーを連れて
きて、家族を犯し殺させたのだ。保護と助けられないようにまりさを透明な箱に入れてい
た。
 全てはありすを殺したくなるほど憎むような、執念深いまりさを作り上げるための作戦
だった。私には捨て駒に過ぎなかったが、まりさは本物の家族だと錯覚していたようで、
この作戦は成功した。発情したありすでも1秒で殺せるほど、容赦ない攻撃方法を身につ
けている。
 過去の努力の日々を思い出し、私は1人感慨にふけっていた。しかし番組は滞りなく進
行し、司会がルールの説明をしていた。
「ありす親子は規定どおり成体ありす1匹、子ありす2匹、赤ありす5匹の合計8匹を用意し
ます」
 ステージ中央に成体ありす、子ありす2匹、赤ありす5匹を入れた水槽が運ばれてきた。
「競技の公平性を保持するため、目標がゆっくりしているところを攻撃します。スタート
は最初の1匹に攻撃した瞬間からです」
 モニターにはゆっくりフードを食べたり、柔らかそうな綿にくるまれて眠っていたり、
ゆっくり用の滑り台で遊んでいる、まことにゆっくりした饅頭の映像が差し込まれた。
「現在の世界記録はアメリカ合衆国海兵隊所属のきめぇ丸一等兵の5.9秒です」
 映像が切り替わり、迷彩服を着て顔にペイントをしたきめぇ丸が、ありすを手際よく叩
き潰す映像がモニターにスロー再生された。
 シェイキングで赤ありす3匹をショック死、2匹を恐慌させた。
 逃げ遅れた子ありすを掴んで、もう1匹の顔に投げつける。逃げたありすは衝撃で体の
右半分が削ぎ飛び、投げられたありすは地面に摩り下ろされた。
 成体ありすを掴んで膝蹴り、地面に叩きつけ、髪飾りごと高下駄で踏み抜いた。
 残った2匹の赤ありすを追いかけて、握りつぶした。
 その間6.9秒。
 終わってスタジオの端から降りたところで、アメリカ海兵隊と思われる数人の仲間にも
みくちゃにされて歓喜を爆発させていた。
 最後のありすを殺すのに少々手間をかけていたようで、本気を出せばもっと早くできそ
うだ。私の育成理論と組み合わせれば、世界記録を1秒は更新できるだろう。このきめぇ
丸が欲しくなった。

「なお、銃器の使用に物言いがついたため、参考記録となりましたが、狩猟業を営む佐川
政一氏のゆっくりれーせんが3.1秒で達成しています」
 さらに映像が切り替わった。食事を摂り、密集しているありす親子に向けて散弾を発砲
するれーせんの映像が映った。20ゲージ散弾実包が、眠っていた赤ありす5匹の口から上
をまとめて吹き飛ばし、貫通した散弾が後ろにいた子ありすの体に穴を穿つ。
 親ありすに縋ろうとして背を向けた子ありすをゆっくり追いかけ、背中に銃口を突き刺
してガスだけ撃った。子ありすの中身が親ありすの顔に飛び散った。
 最後に残った親ありすは必死の形相で死んだ子ありすの体を舐めている。弾を装填して
真正面から散弾を放った。
 返り血ならぬ返りカスタードを浴びて、ゲラゲラと笑っていた。飼い主の男がスタジオ
に駆け上がって抱き、2人……いや1人と1匹で喜び合っていた。
 確かに、これでは物言いがついても仕方がない。
 これが許されるのならば、核爆弾の使用だってOKになってしまうじゃあないか。
 なにより飼い主が気に入らない。危険思想を振りまき、愛でお兄さんを何人も薬漬けに
していそうな不快な顔つきだ。アドルフ・ヒトラーを思い起こさせる。

 そんなことを思っていたら、急にマイクを向けられた。
「今回挑戦するまりさは胴無しということで、かなり不利な戦いを――」
「あなたたち! 胴無しが胴付に劣る……そう思ってはいませんか?」
 私は司会者のマイクを奪って、カメラに向けて指差した。突然の暴挙に司会者は呆然と
していたが、不思議と私を止めに来なかった。後で分かったことだが、私のアドリブにデ
ィレクターからゴーサインが出たからだ。
「ならば、私は逆に問いたい。アフリカのサバンナに住む獅子が牙を剥いて跳びかかって
きたと仮定しよう、あなたは避けられるだろうか? スペインの猛牛が角を突き出して襲
い掛かってきたと仮定しよう、あなたは押さえつけられるだろうか? きっと出来ないで
しょう」
 少し、間を置いた。
 観客たちは静かに私の話を聞いている。
「単純にその者の『力』が強ければ、手足を使った些末な相手の『技』などいとも簡単に
叩き潰し、踏み潰す……『剛能く柔を断つ』のです!」
 観客が総立ちになって私に拍手を送る。カメラマンや音響の人も手を叩いていた。
 悪い気分ではない、これぞエンターテイメントだと思った。

「さあ、まりさの挑戦が始まります。憎しみや怒りが、軍人の技を上回るのでしょう
か!? 準備を始めてください」
 司会者の合図でありす親子の前にゆっくりフード、綿、ゆっくり用トランポリンが置か
れた。
 奇しくも、このまりさの家族が好きだったものや、愛用していたものだ。ゆっくりフー
ドを皆で食べ、寝るときは暖かい綿にくるまり、子どもたちはゆっくり用トランポリンで
遊んでいた。
 まず親ありすと赤ありす2匹が一緒にご飯を食べている。
「むーしゃ、むーしゃ、しあわせー♪」
「むーちゃ、むーちゃ、ちあわちぇ~♪」
 赤ありすたちは下品な食べ方で、ぽろぽろとカスを落としていた。
「あらあら、おちびちゃんたちゆっくりたべてね」
 親ありすは目を細めて、落としたカスを拾って口移しで食べさせた。
「うん、ゆっきゅりたべりゅよ!」
 まりさもつがいのれいむと一緒に、食事の作法を教えていた。最初のうちは口から食べ
かすをこぼすこともあったが、それが可愛いとまりさとれいむは言っていた。そのうちに
キレイに食べられるようになったのを自慢することもあった。『まりさの子どもたちはと
ってもゆっくりご飯を食べるんだぜ』と。その赤ゆっくりの『ゆっくりご飯を食べる口』
にはありすの精子餡が詰め込まれた。必死に吐き出そうとする恐ろしい形相のまま、次々
と口を詰まらせて死んでいった。

 綿に興味を示したのは赤ありすが1匹と子ありすが1匹だ。綿を床に敷くだけの作業をも
たもたと時間をかけて続けている。
 ようやく綿を敷き終えた最も小さい赤ありすを見て、子ありすが褒める。
「ありしゅはひとりでおふとんをしけりゅよ!」
「ありすえらいね!」
 1人で布団が敷けるようになるのは、ゆっくりできる証拠であるという。赤ゆっくりが1
人で布団を敷けるようになった日の夜、涙を流し、大声を上げて『お兄さん、お兄さん、
赤ちゃんが1人でお布団を敷けるようになったよ!』と寝室まで伝えに来た。家族を殺さ
れた日の夜、6匹分の綿を1匹で使って眠るまりさの胸中はいかがなものだったろうか?
 赤ありすと子ありすの2匹は「ゆっくりおやすみなさい」と言って、綿に包まって眠り
についた。おそらく、起きるまでもなく死が訪れるだろう。ゆっくりおやすみ、永遠に。

 最後のアイテムであるゆっくり用トランポリンには子ありすが1匹と赤ありすが2匹いた。
 トランポリンは私が気まぐれで買ってやった最初で最後の遊具だ。ありすにレイプさせ
た日も、子どもがポンポン飛び跳ねていた。ありすは飛び跳ねて遊んでいる子まりさを突
き飛ばし、押さえつけてムリヤリすっきりしたのだ。
 そのことを思い出させるから、と言ってまりさは数日後に、トランポリンをメチャメチ
ャに壊した。
「おねえちゃんがのせてあげるから、ゆっくりあそんでね」
「うん! ゆっきゅりあしょぶよ!」
「ぽーんぽーん」
 子ありすが赤ありすたちを持ち上げて、トランポリンで跳ねさせる。プチトマト程度の
赤ありすの身長の2倍くらいの高さにジャンプする、2匹にしてみれば空を飛んでいる気分
だろう。
「おしょらをとんでりゅみちゃい~」

 そんな幸せなありす親子を見て、まりさが偽りの家族と過ごした在りし日の思い出をフ
ラッシュバックさせたようだ。楽しかった思い出は同時に、それを踏みにじったありす種
への無差別な怒りと憎しみに変化する――そうなるように私はまりさに教育を施した。
「さあ行け、お前の家族を奪ったありす種を存分に殺して来い」
 適当にまりさを煽るようなことを言って、背中を軽く叩いてやった。
「ありずのぐぜにゆっぐりするなああああああああああ!」
 そう叫びながら、ありす親子に向かっていく。
「いなかもののまりさねぇ……」
 そんなことを言いながら、本来子どもを守るべき親ありすがゆっくりフードを貪ってい
る。このせいで眠っている子どもが死ぬのにだ。
 勢いをつけて飛び上がる。
「あのまりしゃ、おしょらをとんでりゅみちゃい」
 姉たちとトランポリンで遊んでいる赤ありすがそんなのんきな言葉をかけた。
 放物線を描き、綿にくるまって眠っている子ありすと赤ありすを踏み潰す。
「ゆべ!」
「ゆぎゃああ!」
 さらに2,3回踏みつけて止めを刺した。
 寝込みを襲われた2匹になす術は無く、カスタードのペーストになった。布団代わりの
綿からはカスタードが四方に飛び散っている。2.1秒。
「ありずのあがぢゃあああああああん!」
 ようやくことの重大さに気づいた親ありすが絶叫した。

「れいぱーのこどもにゆっくりするしかくはないんだぜ!」
 トランポリンで遊んでいる2匹の赤ありすに向かって走り出した。トランポリンでジャ
ンプしている間は身動きが取れないことをまりさに教えた、上手く狙えよ。
「あがぢゃんあそんでちゃだめえええええ!」
 親ありすが恐ろしい表情でトランポリンの方へ向かっていく。しかし、ゆっくりフード
を食べ過ぎたため、体重が増加して動きが遅く、声も若干野太くなっている。そんな母親
の言うことを赤ありすたちが聞くはずがない。
「ゆっきゅりできにゃいおきゃーしゃんのいうこちょなんてきかにゃいよ!」
「たべすぎるなんておかあさんはいなかものね!」
 容赦ない言葉で罵倒する。意識が母親に向いたこのチャンスをまりさは逃さなかった。
 赤ありすの上にジャンプし、トランポリンごと踏み潰した。反動を使って近くで赤あり
すを見守っていた子ありすの頭上に舞い上がる。
 子ありすは逃げようとしたがスタートが失敗し、体の半分を潰された。致死量のカス
タードを撒き散らして死んだ。
「もっと……ゆっく……したか……たよ」
 それは子どもたちを放って、ご飯を食べていた母親への呪詛のように聞こえた。
「よぐもありずのどがいばなあがぢゃんをおおおお!」
「こどもをたすけようともしないで、こどものしんぱいをするんじゃないぜ!」
 そう叫んで最後の仕上げとばかりに、親ありすに立ち向かっていった。3.6秒
 カッコ良いことを言ったつもりだろうが、実際は透明な箱の中で野良ありすに家族が蹂
躙されるのを見ていただけだ。透明な箱を破る努力もしなかったくせに。そう私は心の中
で毒づいた。

「おきゃーしゃんたしゅけて!」
 2匹の赤ありすが親ありすの後ろに隠れた。親ありすは仁王立ちのように構えている。
だが、所詮は饅頭だ。噛み付きには耐えられまい。まりさが親ありすを食い破った後、赤
ありすを噛み殺す光景が目に浮かんだ。
 まりさが助走をつけて親ありすに向かっていく。
「あがぢゃんだけはごろざぜないよ!」
「さきにおやからころしてやるんだぜ!」
 まりさが親ありすの顔に体当たりをした。
 私は目を疑った。体当たりは自分の体重より軽いゆっくりしか有効なダメージを与えら
れない。ウエイトの同じ相手か、自分より重い相手には髪飾りの真下にある中枢餡を狙っ
て破壊するのがもっとも効果的なのに!
「れいぱーはゆっくりしね! かんたんにはころしてやらないぜ! これはれいむのぶん
だ! これはあかちゃんのぶんだ――」
 最初の体当たりで歯が折れた。砂糖細工の前歯が口から零れ落ち、折れた歯で切り刻ま
れたであろう口内からカスタードが漏れる。
「みゃみゃー!」
 背後の赤ありすが母親を心配するように叫ぶ。
「あがぢゃん……じんばいじなぐでいいがらね……」
「しんぱいすることないんだぜ、まりさがすぐにあかちゃんも、ありすのところにおくっ
てやるんだぜ!」
 2回目の体当たりでは口にめり込み、臼歯までを叩き折る。舌に噛み付き、半分ほど引
きちぎった。
 3回目で右目に向かって体当たりした。飴で出来た目玉を親ありすの体内奥まで押し込
む。この一撃でありすがようやく揺らいだ。
 4回目の体当たりで親ありすは両目、口からカスタードを噴出し、どうと倒れた。
「終了!」
 同時に世界記録の5.9秒が経過し、終了の合図が鳴った。横からかけてきたスタッフが
まりさを掴んで、残っている赤ありす2匹から引き離す。
「おっと、これは残念! 成体ありすに時間をかけすぎたのが災いして、時間内に殺しき
れませんでした!」
 スタッフの腕の中で私の物だったまりさが喚いて暴れている。
「じゃまずるなあああああ! れいばーあでぃずはみんなごろざないどいげないのにいい
いいい!」
 醜い饅獣は透明な箱に入れられて、スタジオの端のほうに置かれた。

「みゃみゃ!」
「ありしゅがなめちぇあげりゅよ! だきゃらしにゃにゃいで、みゃみゃ!」
 赤ありすが死にゆく母に近寄った。傷口を小さな舌で舐め続ける。
「あがぢゃんが……だずがっでよがったよ……、あがちゃんは……ありずの……たからも
――」
 私は親ありすの目の前で赤ありすを踏み潰した。飛び散ったカスタードが親ありすの顔
にかかる。足を上げると、床にへばりつく2つのデスマスクがあった。
 なぜ、このような暴挙に出たかというと、たかがクソ饅頭の親子の分際で勝利の祝杯を
挙げているようで、無性に腹が立ったからだ。
「あがあがえがぢゃんがががざおりぐざおりぐ……」
 せっかく守りきった赤子を潰され、親ありすは精神を崩壊させたようだ。目はうつろで、意味不明なことを口走っている。
「ちくしょう……ちくしょおおおおおお!」
 私は記録達成して帰ってくるまりさに与えるはずだった高級チョコレートの箱を観客席
に投げ捨てた。2列目の席に座る女性がキャッチし、ありがたそうにバッグへしまってい
た。

 ステージの片づけが終わり、恒例の審査院長たちの総評が始まった。
「大抵、恨みを抱くゆっくりは、少しでもいたぶってから殺そうとするのですが、今回も
その例に漏れませんでした。どれだけ鍛えてもこの精神構造は直りません。あなたの鍛え
方が悪いのではなく、ゆっくりが悪いのです」
 観客や審査員からの失笑が耳に突き刺さる。委員長のフォローも逆に痛い。
「なお、記録更新に失敗したゆっくりはその場で殺処分です」
 司会者がそう言った。
 飼い主に向かって突きつけられる死刑宣告。これが『世界一かわいいゆっくり』に挑戦
した愛でお兄さんなら目の前が真っ白になるだろうが、私は処分の手間が省けたと内心嬉
しかった。
「えぇお願いします。復讐に囚われていつまでも進歩のない”このゲス”には心の底から
ウンザリしていたんですよ。1000円くらいのつがいに、すっきりしたらすぐに生まれるガ
キどもにどうして感情移入できるのか分かりませんよ。ゲハハハハハ……」
 私はまりさの帽子を奪って、ビリビリと破り捨てた。
「ばでぃざのおぼうじがあああああ!」
「お前はこれから死ぬんだから、帽子のことよりてめぇの心配をしな!」
「ばでぃざはがんばっだんだよ!」
「結果が出なきゃ意味がねぇんだよ!」
 涙や涎を撒き散らしてよってくるまりさを、つま先で蹴り飛ばす。足の半分ほどが左目
の穴に食い込んだから、グチャっと潰れてもう見えないだろう。
「ばでぃざのひだりべがみえないよおおおおお……」
 まりさが涙と涎、汗に加えて左目から餡子を流す。さらに私が蹴り飛ばした先にはフラ
ンが待ち構えていて、まりさを掴んだ。
「処刑は番組専属のふらんが行います。その様子をご覧いただきながら、そろそろお別れ
の時間となります」
 レポーターは一礼した。観客が拍手でそれに応える。
 同時にエンディングソングとしてパッヘルベルの『カノン』が流れた。
「復讐に囚われて成長できないまりさはゆっくり死ね! ゆっくり死ね! もう復讐をで
きないようにしてやる!」
 ふらんがまりさを掴んで、何度も床に叩きつけた。床と強烈なキスをするたびに「ゆぎ
ゃ」だの「ゆびい」だのうめき声を上げる。
 7度めの叩き付けで、髪が頭皮ごと体から離れて、私の方に転がってきた。それを見て
司会者のマイクが私に向けられる。
「さぁ、死にゆくまりさに一言お願いします」
「おに……ざぁん……だずげ……」
 全力で動いた記録挑戦での体力消耗、私の蹴りで左目が潰れ、歯はとうに折れて、体が
1.5倍ほどに膨れ上がり黒ずんでいる。そんな状態なのに飼い主の私に擦り寄ってくる。
かくにもゆっくりはダイ・ハードな生き物だったのだろうか?
「ガーッ、ペイッ! 雑魚にかける言葉はねぇ」
 私はまりさの口にニコチン交じりの色の濃い痰を吐きつけて、そう言った。
「これは手厳しい!」
 司会者が高らかに叫んだ。
「もう飽きた! ゆっくりしてないでさっさと死ね!」
 ふらんが司会者の体によじ登って、彼の頭の上に立った。まりさ目がけて、司会者最上
段から飛び降りた。まりさが避けようとしたが、数センチしか動けず、ふらんの腹に押し
つぶされた。ふらんの腹を中心に餡子が飛び散り、きれいな放射状の絵を描いていた。

 帰路、まりさの入っていたカゴをタクシーの床に置いた。負けて帰るわけだが、不思議
と悔しさはなかった。今回の挑戦で、世界の広さを少しだが知ったからだ。
 世界最速のきめぇ丸や、負け犬のまりさにフライング・ボディプレスを食らわせたふら
んの高みに、胴無しのゆっくりを至らせたくなった。

 明日、さっそく新しいヤツを買って鍛えようと思う。

 END

 こんばんは。朝に読まれた方はおはようございます。昼に読まれた方はこんにちは。初
めての方は初めまして。
 2作目はゆっくりに関する世界記録を狙う男と飼いゆっくりの話です。
 今回の作品では、虐待スレにてゆっくりが現代社会にいたら、それに関連した世界記録
があるだろうな。的なレスを見て書き上げました。

 また次の作品でもお会いできると嬉しいです。
 どうか、健やかにお過ごしください。

 砂木糖介

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最終更新:2022年05月19日 12:19