冬を越えるにつれて、この土地に訪れるゆっくりは多くなった。
人除けの結界はそれなりに機能しているはず、と思うのだがそれでも結構な数が訪れた。
リグルは最初どうしようかと頭を悩ませたが
それにつれて強くなっていく蟲達の姿を見て現状を維持することに決めた。
その間も一応理由をゆっくり達に聞くことは続けていた。
その内に、ゆっくり達がここ、伝説のゆっくりぷれいすを目指さねばならないある一つの理由を見つけた。
人……じゃなくてゆっくり口の増加による食糧不足だ。
一種の好奇心によってここを目指すものもいくらか居たが
時がたつにつれて食べ物に困ったからという理由が増えていった。
そのために、ゆっくり達はわざわざこの伝説のゆっくりぷれいすと勘違いしている永夜緩居を目指しているのだ。
ここまでわかるとリグルにも誰かがこの蟲達の住処、もうゆっくり達に倣って永夜緩居と呼んでしまおう。
永夜緩居を利用してどんな絵を描いているのかが察しがついた。
恐らく増えすぎたゆっくり口を、根引き等のネガティブな理由ではなく
永夜緩居という幻想、口実を利用して希望を持たせ、不満を生まないよう体よく処理しているのだ。
増えた分のゆっくりは永夜緩居をまるでゴミ捨て場のように利用すればいくらでも処分できる。
この永夜緩居を利用している奴は人口統制
いやゆっくり口統制等を行わなくて済む分住民の不満も生まれずにきっとうまくやっていることだろう。

うまいこと考えたものだとリグルは呆れた。
ここまで周りに真相がバレずにやってきたということは相当にうまくやっているのだろう。
リグルは、口に手を当てて腹の奥から響かせるような笑い声を上げた。

そういうことなら来るもの拒まず、容赦はしない。
そっちがこちらを利用するつもりなら、それをこちらも利用してやろう。
そろそろ規模を広めようかと考えていたが
当分はこのままこの土地、永夜緩居の中でゆっくり達を待ち構えようと思った。


訪れるゆっくり達は永夜緩居に訪れるまで幸せな夢を見させてやろう。
幸せな夢の報酬は、その命。
人の夢と書いて、儚い。
だが儚いのは何も人の夢だけではない。
夢も命も儚く散らせて、蟲達の糧となれ。
さあおいでゆっくり達
喰らって喰らって喰らい尽くして
最後にはこの計画の絵を描いたそいつ、永夜緩居の産みの親ごと蟲達で喰ってやろう。

それからリグルはゆっくり達に一々来訪の理由を尋ねることをやめた。
また蟲達とゆっくりを倒すことに専念した。
ゆっくりを調達する必要も無く勝手も分かってきて黙々と作業に没頭できたので大分リグルの負担は減った。

訪れるゆっくりの数に合わせて、蟲達の消耗もそれなりに大きくなる。
そこで少しでも繁殖力を高める手段は無いかとリグルは頭を悩ませた。
蟲を操る程度の能力で色々試している内にゆっくりに卵を植えつけてみたところ、結構な種類の蟲達の子どもが元気に卵から孵った。
ゆっくりの中の適度な暖かさと餡子の栄養価の高さが良い感じに化学反応を起してスパークしたのがよかったらしい。
これからはどんどん利用しようと、訪れたゆっくり達の何匹かを小さな洞穴の中に放り込んで卵を孵すために利用した。

どこかの誰かと利害の一致したリグルは、心置きなく蟲達と過ごした。
このまま行けば蟲達がゆっくりに打ち勝つ日はいつになるだろうか。
リグルはそれを楽しみにしながら時に蟲達を助け時に蟲達に試練を与えた。

蟲達はやはり恐るべきスピードで変貌を遂げていった。
そんな蟲達の姿を見て嬉しく思うと同時にふと、リグルは思う。
まるで蟲達をそれまでその蟲足らしめていた何かのタガが外れてしまったようだ。
それが蟲達の執念によるものであることは間違い無い。
だが、本当にそれだけなのだろうか。
ゆっくりを襲いゆっくりを喰らいゆっくりに児を産みつける蟲達。
それは通常の進化の過程ではあり得なかったであろう蟲達の姿。
余りにもそれまでとは違う生態。
ゆっくりを倒そうと歩んできた数十年間の末に手に入れたこの生き方。
確かにそれはリグル自身と蟲達が望んで手に入れたはずのものだ。
だが何か、何かがこうなることを望んで蟲達から何かを奪っていったのではないか。
事が順調に進んでいるからこそ、リグルはふとそんなことを疑問に思った。

「ま、言っても詮無きことか」
頭に浮かんだそんな疑問を振り払って、今日も永夜緩居の中を見て周る。
力は充分蓄えた、打って出るのはもうすぐだ。





永夜緩居に近い、森の中にあるゆっくりの群の
その中で最も大きな巣穴の最も奥。
そこに、この永夜緩居の絵を描いた『誰か』
ゆっくりゆかりんこと自称やっくもん・ゆっくり・ゆかりん13世は渋い顔をしながら座っていた。
永夜緩居、過剰に数の増えた自分の群を反感を抱かせずに間引くために流した噂話。
謎のゆっくり消失事件をはるか昔にあったゆっくりの群がゆっくりプレイスを見つけたといって消失した事件と結びつけて
伝説のゆっくりぷれいす『永夜緩居』を目指したのだとしてしまう大胆な発想。
消失事件による群の不安をなくなり
事件そのものも永夜緩居を目指しだした時からまるで生贄を得た祟り神のようにぱたりと止んだ。
それは少し前までは見事に機能していた。
おかげで群の数は適正に保たれ、血の気の多いゆっくりが永夜緩居を目指すので大分治安もよくなった。
永夜緩居はゆかりんの思い通りに美しく機能していたのだ
だというのに、今年はおかしかった。
再び消失事件が起こり始めたのだ。
それも以前消失事件が起きた時よりも遥かに広い範囲でだ。
それに事件の様相も異なる。
以前は本当に忽然とゆっくりの姿が消失していた。
だが今回は、痕跡は残っているのだ。
千切れたリボンや、餡子や、皮。
その痕跡からわかることは一つ。
恐らくそこでそんな物しか残らないほど余すことなく貪り食われたのだ。
余りの事件の様相の違いに初めは全く別の事件だと思っていた。
だがその事件が起こった地点に印を付けていくと
以前の事件と全く同じ場所を中心にその消失事件は起こっていた。
そう、ゆかりんが永夜緩居と名づけて多くのゆっくり達を送り込み
そして誰一人として返さなかったあの場所を中心としているのだ。

全く無関係とはとてもゆかりんには思えなかった。
あの場所で、何かがあったのだ。
それは間違いない。
ゆかりんにとって重要なのはそこから先。
この変化の後も、まだ永夜緩居は利用できるのか。
それとも永夜緩居はゆかりんにとって完全に敵になったのか。

冬を越えた経験は十を超えるゆっくりとしては恐るべき長寿であるゆかりんは
その顔に出来た皺を増やして苦虫を噛み潰したような苦悶の表情で悩み続けていた。
永夜緩居はその間も、ゆっくりを喰らいその領域を伸ばしていった。



「おさゆかりん!となりのむれにいったまりさがかえってこないの!」
「おさゆかりん!むかいのれいむたちのむれにだれもいなくなったよ!」
「おさゆかりん!かりにでていったれいむのだーりんがかえってこないの!」

「おさゆかりん!」
「おさゆかりん!」
「おさゆかりん!」
「おさゆかりん!」
「おさゆかりん!」
「おさゆかりん!」
「おさゆかりん!」
「おさゆかりん!」


数週間後、次々と押し寄せて陳情してくるゆっくり達を前にしてゆかりんは嘆息して重い腰を上げた。
結局ゆかりんは永夜緩居は敵、自分たちの害になる存在に変わったと判断した。
「時間をとってゆっくり相談したいあいてが居るわ、みんなはゆっくり待っていてちょうだい」
そう言って陳情に来たゆっくり達を帰らせると、ゆかりんは側近に使者を出すように申し付けた。
様々な功績を遺し、最後に恐ろしい化物達の襲撃を退けてその一生を終えたという伝説のおされいむの後継者の末裔達へと。
後継者の一族の内の一匹であるゆかりんの収集ならば、各地で長をしている彼等も時間を割くだろう。
ゆかりんも彼等にその知恵で助言を与えたことも多々ある。
後継者同士の結束は固い。
「あの餡子脳どもの力を借りることになるなんてね……癪だわ」
と、いってもゆかりんは腹の中では余り彼等のことを好いてはいない。
というか自分以外のゆっくりを見下しているゆかりんにとっては彼等とて例外ではない、ただそれだけだ。
「まあ思う存分利用してやるだけね、あんな頭に乗った餡子脳共」
いや、やはりゆかりんは彼等のことを特に嫌っているかもしれない。
彼等のリーダーとしての自信溢れる立ち振る舞いは他のゆっくりを見下すゆかりんには傲岸不遜に映ったからだ。
実際にはゆかりんが後継者達の中で最も傲岸不遜なのだが
ゆかりん自身は自分の態度を実力相応であり当然だと考えていた。



一月後、幻想郷にある主要なゆっくり達の群の長が集まるゆっくりにとっての一大サミットともいえる会合は開かれた。

「むきゅう、げんきそうでなによりだわゆかりん」
そう言ってぱちゅりー、いやおさぱちゅりーはゆかりんに向かってお辞儀をした。
「ええ、わざわざ来てもらってありがとう、ゆっくりしていってね」
ゆかりんはおさぱちゅりーを見上げながら応えた。
おさぱちゅりーの体長は人間よりも遥かに高かった。
横幅は人間などでは比較対照にするのも馬鹿馬鹿しいほどほどでかい。
高さ2メートル強、横幅3メートル強といったところだろうか。

「大男、総身に知恵が回りかね」という諺があるがおさぱちゅりーはその逆。
その体躯に相応の量の知識を持っていた。

そのため『げんそうきょうのうごくおばあちゃんのちえぶくろ』の異名を持ち
各地のゆっくりからその知識を頼りにされ、自らも群の長としてその知識をフルに活用しているゆっくりだ。

伝説のおされいむからその素養を一つ受け継いだとされる後継者達。
おさぱちゅりーはその内の知識を受け継いだとされていた。

だがゆかりんはおさぱちゅりーのことを、知識に溺れそれを使いこなす知恵の無い愚か者だと思っていた。

「あいさつもいいがはやくほんだいをはなしてほしいちーんぽ」
「まりさたちがなんでよばれたのかはきになるんだぜ
ゆかりんがまりさたちをよぶなんてよっぽどのことなんだぜ」
おさようむとおさまりさが次々に口を開いた。
この二匹もおさぱちゅいりーと同等の体躯を持つ巨大なゆっくりだった。
おさようむはそこらに生えている木を三枚に卸して
鋭く研ぎでもしたらそうなりそうな巨大な木刀を紐にくくり左頬に挿していた。
とはいうものの木刀、というよりは木片といった様相ではあるが。
目つきはゆっくりしているとは言い難い程鋭く立ち振る舞いに隙が無い。
おさようむが伝説のおされいむから受け継いだとされるのは武力。
群こそ持っていないが、おさようむに師事したゆっくり達が居るという。

だがゆかりんはおさようむのことを、力ばかりを追い求めて群も持つことも出来ないグズだと思っていた。

おさまりさは、口元には自信を、瞳には好奇心を湛えた表情でゆかりんを見ていた。
その嫌味が無く、だが力強い表情と立ち振る舞いには誰しもどこか惹かれる物がある。
おさまりさがゆかりんに早くことの次第を聞こうとしているのは、すぐにでも力になってあげたいから。
何かの危機が迫っているなら自分が戦闘に立って戦おうと思っていた。

おさまりさが伝説のゆっくりれいむから受け継いだと言われるものはリーダーシップ、カリスマ性。
その人望で群のみんなから慕われ、仲間を率いて何度も群の危機を救っている。

だがゆかりんはおさまりさのことを
計画性が無く何度も危ない目にあってその度に
周りに手伝わせて尻拭いをして、それでふんぞり返っているどうしようもない馬鹿だと思っていた。

「永夜緩居、って噂は知ってるかしら」
ゆかりんは神妙な面持ちで告げた。

「都会派なら当然そのくらいしってるわ
まさかいっしょに伝説のゆっくりぷれいすを探しにいきましょうなんていうんじゃないでしょうね?
わざわざ群のおさをやってるありすたちを呼んでおいてそんな理由だったらただじゃおかないわよ」
永夜緩居と聞いて呆れた顔でそういったのはおさありす。
おさありすはツンとしてそっぽを向いた。

おさありすが伝説のゆっくりれいむから受け継いだといわれるものは文化。
おさありすの群では蔦や葉や木の皮を使った様々な工芸品が作られ
驚くべきことにその工芸品で人間の里とちょっとした外交のようなものまで行っている。
おさありすの群の巣はどこも綺麗に飾られて誰も彼も楽しく過ごしていた。

だがゆかりんはおさありすのことを、外見ばかりを気にして中身の無いマヌケだと思っていた。

「そんなふうにいっちゃだめだよありす!
でんせつのゆっくりぷれいすをみんなでめざすなんてとってもゆっくりしててすてきだよゆかりん」
そう言って険悪になりかけた場を取り直したのはおされいむ。
別に伝説では無いおされいむだ。

おされいむが伝説のおされいむから受け継いだと言われるのは優しさ、母性。
群の仲間からは母の様に慕われている。

だがゆかりんはおされいむのことを、奇麗事しか言えない無能だと思っていた。


「ありがとうれいむ、でも別にそういうわけじゃないのよ」
ゆかりんは彼等への感情は表情に一切出さずに続けた。
「噂では確かに永夜緩居には伝説のゆっくりぷれいすがあるとされているけど……
実はそれは違うんじゃないかって……」
何かを憂うような顔でそうゆかりんは続ける。
ゆかりんの本心を知っているものなら
よく抜け抜けとそんなこと言えたものだと呆れることだろう。

「どういうことなんだぜ?」
まりさがすかさず尋ねた。
「最近森でおこっているゆっくり消失事件なんだけど……
その事件が起こった場所を点で記していくと丸が出来るのよ
つまり消失事件には中心となる場所があるらしいってこと」
「それがなんだっていうの?」
「むきゅ、まさか……」
話が確信に迫らないことに苛立つありすと気付いたらしくはっとした表情を浮かべるぱちゅりー。
「その丸の中心に永夜緩居があるわ」

そしてゆかりんは餡子脳の上に木偶の坊と常々思っていたおさ達に
永夜緩居に攻め込ませるための嘘と真実を混ぜこぜにした作り話を話し始めた。







「せんけんたいはまだかえってこないんだぜ?」
「ゆゆぅ……おひさまがさんかいゆっくりしたらもどってくるやくそくだったのに……」
「むきゅう、まだだんげんするにははやいけどぜつぼー的とかんがえたほうがよさそうだわ」
森の近くの開けた平原で暗い顔で向かい合う巨大なゆっくりが三匹。
おさまりさとおされいむとおさぱちゅりーの三匹はゆかりんの話を聞いてすぐに群に戻ると
当面のことを側近に任せて手勢を連れて魔法の森付近に集合していた。
「ごめんなさい、みんなの大切な仲間が……」
中心に居たゆかりんは顔を伏せて申し訳なさそうに呻いた。
「むきゅ、たしかにかなしいけどゆかりんのせいじゃないわ」
「みんなかくごはしていたことなんだぜ」
慰めるようにおさまりさとおさぱちゅりーは言った。
「ゆ……それにまだみんなしんぢゃったとはかぎらないよ!
きっとどこかでゆっくりしているだけだよ!」
おされいむは少しでも場を明るくしようと何とか精一杯の笑顔を作って見せた。

おされいむの後継者達は貴重な時間を割いて快くこれからもゆかりんに協力すると心から誓ってくれた。
もっとも、一度手を出した事案から尻尾を巻いて逃げるのは体裁に関わるという事情も大きいのだろうが。

「みんな……」
ゆかりんはぬるったるい場の空気に鳥肌を立ちそうなのを悟らせないように苦心しながら目を潤ませてみせた。
ああ、なんて愚かなんだろう。
まるで赤子の手を捻るよう。
そう、こいつらは赤ん坊同然だ。
いくら長ゆっくりとは言っても所詮ゆかりんの半分も生きてないような若者ばかり。
自分が実質的に支配し導いてやらないことにはどうにもならないのだ。
きっと今回の異変も自分の頭脳で全て解決する。
ゆかりんは胸中でそんなことを呟いた。



永夜緩居の蟲達の住まう範囲は以前とは比べ物にならないほどに広まっていた。
リグルは、永夜緩居の秘密を探ろうとやってきたゆっくり達を打ちのめし
その餡子で出来た腹腸を喰らう蟲達の姿を切り株に腰掛けながら見ながら、満足して頷いた。
もう次の冬を越えるのを待つ必要は無い。
「行こっか、みんな」
リグルが呼びかけると蟲達はリグルの後について蠢いていった。



一方のゆかりんの集落では入念な下調べを行い、永夜緩居への対策を練る作業が連日続いた。
調査には主に長まりさや長みょんの手勢が
対策会議は長ぱちゅりーと長ありすを中心としたメンバーで行われていた。
未だにその全貌はつかめないがそれでもこれまでのことからわかったことはある。
まず永夜緩居に潜むゆっくりへの悪意とも言うべき何かは確実に勢力を広げ被害を広め続けているということ。
そしてまりさやみょんの手勢の被害から、永夜緩居の凶悪さは今もより危険になり続けているということ。
その速度は森のゆっくりの存亡に関わるレベルに達しつつあるということだった。
今すぐにも対策をとらなくてはならないことは明らかだった。
長ゆっくり達は顔をつき合わせて毎日のように協議に挑んだ。
まず最初に出た案は森からの撤退。
協議を重ねていく内にそれはほぼ不可能だという結論が下された。
幻想郷内のゆっくりは既に飽和状態であり、他の場所に移っても食料も住処も不足してしまい成り立たない。
撤退は許される状況ではなかった。
次に長達は永夜緩居との外交政策を考える作業に入った。
もっとも望ましいのは人間の里と同様に友好関係を結びお互いに不可侵条約を結ぶこと。
そのために最も人間の里と良い関係を結んでいるありすの手勢にまりさ達の手勢を護衛につけて親善大使として送り込んだが
そのゆっくり達は完全に消息を絶ってしまっていた。
「親善大使を手にかけるなんて許されないわ!」
「き、きっとなにかじこがあったんだよ!」
このことにありすは深く悲しみそして憤っており、すぐに好戦派に鞍替えした。
好戦派は他にみょんが急先鋒でれいむは尚も友好的政策を続けるべきだと主張。
こういうときはぱちゅりーはデータばかりで余りどちらにかたむくことは無かった。
まりさは本能的に危険を感じたのか、珍しく静観を主張しありすと衝突。
ゆかりんは中立を維持しながらどうすべきかを考えた。
そしてどうすべきか結論を出して、立ち回り始めた。
「やっぱり私は争いは避けるべきだと思うわ……」
「何よこの日和見主義者!」
「ゆ!そんなこといっちゃだめだよありす!」
「でも戦うにしてもゆかりんの仲間だけじゃ……」
「むきゅ、たしかにゆかりんの群は永夜緩居の被害を一番受けているからもうボロボロよ
とても戦う力なんて無いわ」
「なら私たちの手を借りれば良いじゃない、ありすだって都会派としてこのまま引き下がるつもりはないわ」
「そんな……手を貸してもらえばきっとみんなに迷惑かけてしまうわ……」
「ゆ、えんりょしなくてもいいんだぜ!これはげんそーきょーのゆっくりぜんたいのもんだいなんだぜ!
だからそんなみずくさいこといわなくてもいいんだぜ!」
「あらごとならみょんたちにまかせるちーんぽ!
ゆかりんやぱちゅりーはうしろをかためてしえんしてくれればいいちーんぽ!」

「みんな……!」

ちょろいなぁ、ゆかりんは涙を隠すように俯いてこっそりとほくそえんだ。
自分は安全なところから物資だけ出してこいつらに解決させよう、そうゆかりんは結論を出した。
案の定、ゆかりんがちょっと弱みを見せたフリをするとお人よしのまりさはすぐに好戦派に傾いた。
もうこれで友好派はれいむのみ、元々こいつはそれほど発言力は強くないから問題ない。


物資も群のゆっくりが減ったおかげで結構貯蓄に余裕があるのだ。
それを切り崩せば万事解決。
なんてうまいやり方だろうとゆかりんは思った。

勝算はあった。
永夜緩居の中心はわかっているのだ。
そこさえ潰せば、この異変も恐らく終わる。

偵察隊は確かに手も足も出なかったが、大部隊を組んで行けばどうということも無い。
被害は出るだろうが、それは他の群のゆっくり達だ。
今なら現状の幻想郷のゆっくりに出来る最大規模の部隊を送り込むことが出来る。
まあゆかりんにとっては自分の群のゆっくりだろうと構いはしないのだが……。




永夜緩居へのおおよその位置をゆかりんとぱちゅりーの計算で割り出したまりさ、ありすの群長二匹とその群の戦闘要員達。
さらにみょんとその弟子筋のゆっくり達にぱちゅりーやゆかりん、れいむの群からも十数匹程度ずつという大部隊だ。
みょんは成人男性と同じくらいの大きさの木の切れ端を左頬にくくりつけている。
戦いとなればこの木の切れ端をべろに器用に巻きつけて自由自在に振り回す腹積もりだ。
まりさは口の中にいくつかのキノコを、仕込んでいた。
コレを口中の分泌物と化学反応を起こしてスパークさせることにより強力な光線を放つことが出来る。
里の人間でさえこの威力には恐れをなして逃げ出すような強力な武器だ。
それはみょんのものも同じことである。
「ゆ?、ゆかりん達の出した計算が正しければこの方向であってるはずなんだけど……まだ何も音沙汰が無いのが不気味ね」
「てーさつたいがしょーそくをたったいちからかんがえるともうとっくにこうげきをうけていてもおかしくないんだぜ」
「きっとなにかあるちーんぽ」
「このまま進んで大丈夫?……一度作戦を練り直したほうがいいんじゃないかしら?」
「まりさたちがまけるはずないんだぜ?といってもみんなつかれてるみたいだし、それもいいかもしれないんだぜ」
「いそがばちーんぽ」
まりさの言うとおり、ゆっくり大部隊の大半は永夜緩居への道のりで大分疲労しているし行軍スピードも落ちているようだった。
既に負傷してしまったものまで出ている始末だ。
このまま強行して有事の際に役に立たなかったでは困るのだ。
「それじゃ……みんなーきゅうけーなんだぜー!」

「ゆーたすかったよー」
「もうへとへとだよ!おなかすいた!」
「つかれたよーわかるよー」
ゆっくり部隊のゆっくり達はほっとした顔を見せて口々に長達へのお礼を言った。
何かあったらすぐに伝えることとその場から動かないようにすることを付け加えると
まりさ達長ゆっくり三匹は早速今後の計画の練り直しを始めた。

「ゆぅ?ん、勇み足は避けたいし一度ここでキャンプをしたほうがいいかしら?」
「そんなことしてたらすぐにたべものがなくなるんだぜ
せめてきょうぢゅうにこのばいはすすまなくちゃもたないんだぜ」

「調度良かった、休憩する前にちょっと相手してくれない?」
「ゆゆっ!?」
その少女の登場にゆっくり達は目を奪われた。
ここは滅多に人の訪れない森の奥。
その少女の存在はそれだけで異質だった。

「ゆ、こんなところに居るなんて、おねえさん何者?里の人じゃないの?」
まず里と一番かかわりの深いありすがその少女に話しかけた。
「うん、最近はこの近くに仲間と一緒に住んでるの」
この辺りに民家など無いはずなのにとありすは首を傾げた。
「それで、いったいぜんたいなんのようなんだぜ?」
ずい、と一歩出てまりさが尋ねた。
こういう時、まりさは率先して話の核心を突きたがる。

「ケリをつけようと思ったの、こんなところに来たんだからあなた達も乗り気みたいだしね」
「…………?」
まりさを始めとしたゆっくり達は意味がわからず一斉に困惑の表情を浮かべた。
「ま、まさか……!」
ありすだけがピンと着たのか、顔色を変える。
「どうかしたのかだぜありす?」
「あなたまさか!永夜緩居の!」
「ご明察、その通りよ」
リグル・ナイトバグはありすの言葉に微笑み、頷いた。
「こ、こいつがみんなをなのぜ!?」
「……ちーんぽ」
まりさが驚きりグルの顔を見据え、みょんは静かに腰の木片に舌をかけた。
他のゆっくり達は顔を見合わせてざわざわと騒ぎ始める。

「あなた、ひょっとしてニンゲンじゃあ……」
混乱する周りを置いてありすはさらに一歩踏み込んで聞いた。
「その通りよ、本当に頭が回るのね
私は蛍の妖怪で、この辺りの蟲達のリーダーをやらせてもらってるの」
「虫さん……なのねあなた
それがなんでこんな……私たちに何か恨みでもあるの!?」
まりさ達は固唾を飲んで様子を伺っている。
「恨みは無いとは言わないけど、それ以上に私たちは切羽詰ってる
このままゆっくりに喰われ続ければ絶滅しかねないところまで私たちは来てるのよ」
リグルの言葉を聞いてありすはコクリと頷いてまりさ達を一瞥してここは私に任せろと伝える。
それを認めてまりさ達も無言で頷いた。
「それは本当にごめんなさい。
でも私たちも食べなければ生きていけないのはわかってほしいの」
「もちろん、それくらい私だって理解してるわよ」
交渉の余地有り、そう判断してありすは続けた。
「なら、共存する道を探しましょう
私たちも虫さんをなるべく食べないようにしたり、別の食料を探したり、そうすればきっと……」
「ヤだ」
初めてリグルは語気を荒めて強い否定の意志を示した。
「な……?!」
予想外のリグルの態度にありすは目を白黒させた。
「絶対に嫌、これはもう私の蟲達の、私の仲間達のプライドの問題よ
あの子達はもうあなた達に負けるのが嫌でこれまでずっと力を磨いてきた
私はずっとそれを見てきた、そしてあなた達に負けない力をあの子達が身に着けたと思ってる
そんなあの子達にもう大丈夫だから引き下がれ、なんて絶対に言えない」
細かい事情は分からないが、並々ならぬ苦労があったのだろうとリグルの意志を理解して渋々とありすは言った。
「戦いは避けられないの?ありすはあなたと戦いたくなんて無いわ」
「私は戦わない」
リグルの意外な言葉にまりさ達はびっくりして隣の者と顔をあわせあった。
ありすだけは何か感づいたようで、憎々しげな表情でリグルを睨んでいた。
「私たちを相手にするくらいならあなたが出るまでも無いってこと?」
「直接妖怪の私が手を出すのはフェアじゃないと思ってるし
それにこの蟲達はあなた達と真正面からやり合っても負けない力をつけているもの」
自信に満ちた顔でリグルはそう述べた。

「そのセリフ……後悔させてあげるわ、まりさ!みょん!」
ありすは振り向いて長二匹に声をかけた。
「まいりちーんっぽっぽ!」
みょんが木片を抜き放った。
「わかってるんだぜ!ゆっくりはむしさんなんかにまけないってことをおねえさんにおしえてやるんだぜ!」
それに応えて力強くまりさがゆっくり達に号令する。
「ゆー!」
ゆっくり達の士気は充分、コンディションも悪くない。
まりさは確かな自信を持って再び言った。
「まりさたちゆっくりは、むしさんなんかにまけないなのぜ!」
「その言葉、後悔させてあげる!みんな!」
リグルが腕を振り上げる。
一瞬まりさ達は森が蠢いたかと錯覚した。
草の間土の下、木の葉のスキマに空の上。
それら全てを埋め尽くさんばかりの蟲達がまりさ達を睨んでいた。
複眼の瞳からは感情は読み取れないが、何を考えてるのかは大体予想がつく。
「もう私は手を出さないから思う存分やっちゃって!」

蟲達が一斉にまりさ達に襲い掛かった。



「ゆ゛ぎゃあああああ!」
「じんけーをくずすんじゃないぜ!」
まりさは最前線で指令を飛ばしていた。
蜻蛉達がけたたましい羽音と共に一斉にゆっくり達の頭上に降り立って噛み付いていく。
「みんな!じぶんのことよりみんなについたむしさんをはらうことをかんがえるんだぜ!」
ゆっくりの体系的に自分の頭の上というのはどうこうし辛い。
だが他のゆっくりの頭の上ならいくらでも触れることが出来る。
「ゆゆっ!だいじょうぶちぇん?!」
「たすかったよー」
一匹のれいむがちぇんの頭上に乗っかって、振り払うついでに2匹ほどの蜻蛉を潰した。
他のゆっくり達もそんな風に次々と頭上からの襲撃者を撃退していく。
それでも殆どのゆっくりが頭から餡子を流し何匹かはもう動けなくなった。
しかしそれより大変だったのは一丸となったゆっくり達の外辺にあたるゆっくり達である。
「ゆ゛びぃゃあああああ!」
「ばり゛ざどお゛べべがあああああ!!」
前方側面から次々と蟷螂が鎌を振り上げ切りかかり
甲虫にクワガタ虫がその間からやわらかい饅頭皮に角を突きたてにまっすぐに突っ込んでくる。
「ぜったいにほっぺのスキマをあけちゃいけないんだぜ!まえからなららくしょうなんだぜ!」
長まりさは絶対に虫相手に後ろや横を見せないようにゆっくり同士くっつくように指示を飛ばす。
たとえ鎌を振り上げられても喰らいついて丸ごと飲み込んでしまえばどうということは無い。
相手の勢いに負けないよう、密集陣形を崩さずじりじりと前進する。
「も゛う゛や゛だああ゛あ゛あ゛!!」
一匹のゆっくりまりさが堪えきれずに密集陣形から飛び出してしまう。
「よ゛ゅぶゅっぜる゛!?」
突出したそのまりさは一斉に蟷螂達に取り囲まれてその鎌でズタズタに皮を切り裂かれて餡子を流してぐちゃぐちゃになった。
「み、みんなじんけーをはやくととのえ……!」
慌てて長まりさが指示を飛ばすが一歩遅かった。
空いてしまった陣形の隙間から土と草の間に隠れていた百足や蠍達が一斉に滑り込み陣形の内側のゆっくり達に牙を突きたてた。
「ゆ゛ぷる゛り゛ゃ!?」
「ゆ゛ひ゛いい゛い゛!!」
陣の内側のゆっくり達が逃げ出そうと暴れ始めて陣形全体が崩れかかる。

「みんなはやくおしくらまんじゅーするんだぜ!」
混乱する中、まりさの指示だけにはきっちりと従いゆっくり達は一斉に体を押し付けあった。
間に挟まれて百足と蠍達はぐちゅりぐちゅりと殻の間から内臓と体液をぶちまけて潰れていった。

勝負は熾烈を極めた。
お互い次々と仲間が原型さえとどめずに死んでいく。
そんな中でも、まりさの指示もあって確実に蟲達の数を減らしゆっくり達は優勢を譲らずに戦いを進めていった。


「いけるんだぜみんな!!もうすこしなんだぜ!」
まりさがゆっくり達にこれで何度目かわからない声援を送る。
「さすがまりさね!」
「ちーんぽ!」
勝てる、見つめあうとそう力強く頷きあった。

「おねえさん!こうさんするならいまのうちだぜ!」
奢りなどではなく、少しでも被害を減らしたいという意志からそうまりさは叫んだ。
だが眉一つ動かさずにリグルは返答する。
「もう私の意志なんか関係ないのよ、この勝負
それに私の意志で止められたとしても勝てる勝負を投げ出したりするわけないでしょ」
「……ゆ?」

「ま、まりさ!みんなが!」

「ゆゆ!?」
まりさは慌てて振り返った。
前線より後ろの、まだ充分力を残しているはずのゆっくり達が皆息も絶え絶え
蒼白な顔で苦しんでいた。
「な、いったいなにが……!?」
そういえば、他のゆっくり程ではないがまりさ達も体がダルかった。
てっきり戦闘による疲れから来るものだと思っていたが何か様子がおかしい。
「!う、うえだちーんぽ!!」
長みょんの言葉に釣られてまりさ達は一斉に空を見上げた。

最初に気付いたのは太陽が隠れている、ということだった。
もちろん隠しているのはただの雲、最初はそう思った。
だが違った。
「ちょ、ちょうちょ……さん!?」
おびただしい数の蝶に蛾が太陽を覆い隠していた。

「くるしいよーわからないよー……」
「おなかいたいいいいいいいいいい!!」
「さむいよ……ゆっくりできないよ……」

「まさか……毒!?」
ありすがはっと気付いて声をあげた。
蜻蛉達を撃退してから殆ど空から仕掛けてくる敵が居らず
ゆっくり達の注意はすっかり地上の周囲へと向けられてしまっていた。
その間にあの蝶や蛾の群はゆっくりと毒のリンプンを頭上へと降り注ぎ続けていたのだ。
「流石に体が大きいと利きが遅いみたい」
肘をついてニヤニヤと笑いながらリグルが言った。
「ゆっ……ありす!、みょん!」
もう他のゆっくり達には殆ど期待出来まいと認めてまりさは叫んだ。
「わかったわ!」
「ちちちちーんぽ!」
長達三匹は三角形に密集陣形を組んだ。
そしてまりさは口の中のキノコを噛んで体液と混ぜる。
バチリ、と電撃が走ったかのような音を立てて口の中に熱いものが広がる。
「ゆきょおおおおおおおおおおおお!!」
そしてまりさの口から放たれた光線は太陽を隠していた蝶と蛾達の群へと放たれた。
焼けた鉄板に水を垂らしたような音を立てて、蝶と蛾達は光の中へと消えた。
何匹かは逃したが、もうさっきのような真似は出来まい。
まとまっていたのが運の尽きだ。
再び辺りに眩しい陽光が差し込む。
「まりさたちにまかせてみんなはいちどさがるんだぜ!」
「密集陣形を崩しちゃだめよ!」
「ちーんぽ!」
そういわれて長を除くゆっくり達は一目散に後退していく。
「まりさたちをほかのゆっくりとおなじゆっくりだとおもっちゃだめだぜ!」
「もうあなた達だってそう余力は無いでしょう?いいかげん諦めなさい!」
「ちーんっぽ」
未だ諦めずに力強くリグルを睨みつけるまりさ達。
それを見てリグルは一瞬黙り込んで俯く。
「……?」
降参の兆しか、と思いまりさ達はリグルの次の言葉を待った。
リグルの肩が震える。
やがてソレは笑っているのだとまりさ達は気付いた。
「あなた達みたいなゆっくりと戦う時を、ずぅっと待ってたのよこの子達は!
この子のご先祖達があのれいむに負けた時からずっとずっと、ずぅ?っとね!」
そして力強く、眩しい笑顔を浮かべてリグルは言った。
「さあ、待ちに待った大勝負
ここが天下分け目!
私たち蟲の意地の見せどころよ!!」
そしてリグルの背にした森から、これまでまりさ達が倒したのと同じくらいの数の蟲達が一斉に姿を現した。

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最終更新:2022年05月18日 22:51