『偽りの愛情』








近所のペットショップで赤ちゃんれいむを購入してから一ヶ月。
最初はあんなに小さかったれいむも今では成体と呼ばれるほどに大きくなっていた。
せっかくだから思い出作りでもしようと考え、お祝いにとケーキを買って俺は家路についた。

「ただいまー」
「ゆゆっ!!」

リビングからマイペットれいむの声が聞こえる。
扉の開く音と俺のただいまに反応するとすぐさま玄関まで飛び跳ねてくる。
ぽよんぽよんとバレーボール程度の大きさのれいむが笑顔で俺を出迎えてくれた。

「ゆっくりしていってね!!!」
「ああ、ただいま」
「ゆーっ!」

本当に嬉しそうだ。
日中は部屋に独りぼっちだから寂しかったのだろう。
俺は靴を脱ぎリビングへと向かうとれいむも一歩遅れてついてくる。

「ゆっくり! おにーさん! ゆっくり!!」

れいむは何とか俺に歩幅を合わせようとしていた。
喋らずに跳ねればもう少しスピードが出るだろうに。

全くしょうがないな。
俺はすり足でれいむのスピードに合わせゆっくりと進んでやった。
リビングまでたったの数メートル。
だが…

「ゆゆ! ゆっくりできるよ!」

それでも一緒に歩けて嬉しそうだった。
俺を何度も見上げては笑顔でゆっくりゆっくりと鳴いていた。





「さ、お腹空いただろう?
 一緒にご飯食べような」
「ゆーん!」

俺はコンビニの弁当。
れいむには美味しそうなショートケーキだ。
食べやすいように適当な大きさにカットして餌皿に盛ってやる。

「ゆゆ~! おいしそう!!」
「ああ、ゆっくり食べてな」
「ゆっくりたべるよ!!」

れいむは眉をシャキーンとさせ、わざわざ食べると宣言してからケーキにパクつき始める。
柔らかいケーキを一口含み、すぐには噛まずに蕩ける食感を舌の上で味わう。
背筋をピンと伸ばしてプルプルと幸せそうに震え、そのままケーキの食感を楽しんでいた。
しばらくしてようやく口をもごもご動かして飲み込んだ。

「ゆー! しあわせー!!」
「美味しかったか?」
「おいしいよ! おにーさんありがとう!!
 すっごくゆっくりできるよ!!!」
「そりゃ良かった」

れいむのホクホク笑顔を見て満足した俺も食事を始める。
ちなみに俺の食事はボリューム海苔弁当だ。
不味くはないのだが目の前で美味しそうにケーキを食べられると何かこう…見劣りする。
俺も俺用のケーキ買っておけばよかった。

俺がそうしてケーキを恨めしく見つめていると
れいむはどうしたんだろうと「?」を浮かべて首をかしげていた。





食事を終えた俺はシャワーで汗を流した。
俺がパジャマに着替えてリビングへ戻るとれいむがボールやお気に入りの棒を脇に置いて待っていた。

「ゆっくりあそんでね!!」
「ほれ」

俺はボールを部屋の向こう側へ投げる。

「ゆっくりまってね!!」

れいむはボールを取りに行く。
その隙に俺は冷蔵庫から缶ビールを取りだす。
風呂上りの一杯は格別ですよねー。
プシッと小気味よい音を立てて飲み口から泡が飛び出る。おっとっと…
ふー、旨い。

「ゆっくりもってきたよ!!」
「おー、よしよし。
 もっかい取ってこーい」

れいむが転がしてきたボールをもう一回放る。

「ゆゆ! まってね! ゆっくりしていってー」

再びれいむはボールを追いかけて跳ねていく。
しかし楽しそうだ。
この遊びが楽しいのかは疑問であるが、構ってやるとそれだけでれいむは喜んだ。


座椅子に腰を降ろしてビールをもう一口飲んだところでれいむが戻ってきた。

「ゆっ! とってきたよ!!」
「よしよし、いい子だ」

なでりなでりと頭を撫でてやる。
するとれいむは揉み上げをパタパタ振って喜んだ。

「ゆー! れいむいいこ!!」
「今度はこれで遊ぼうな」

今度は棒を渡す。
片方の端に白いヒラヒラが付いた巫女さん棒だ。

「ゆ!」

れいむはこの巫女さん棒が大好きだった。
目の前に持っていくと背筋をピーンと伸ばして強く反応した。

ペットショップの店員によるとれいむ種はこの棒を、まりさ種は箒を好むらしい。
ちなみにありす種は十字に縛った本。ぱちゅりー種は本が好きとか。
未だにゆっくりの好みはよく分からない。

「ゆゆゆっ、ゆゆー! ゆゆーん!!」

だが夢中になって棒を咥えて振り回すのを見るとやっぱりこの棒が好きなのだろう。
街でもまりさが箒を使って掃除したり、
理解できないだろうに本を読むぱちゅりーの姿を見ることがある。

しかしれいむ。
熱心に俺の方に向かって棒を振っているのは御祓いの真似事か?
どう見てもれいむの一人遊びだがれいむ的には俺と一緒に遊んでいることになっているらしい。
その証拠にこの遊び(?)が終わると、

「ゆっ、おにーさんといっぱいあそんだよ!!」

ほらね。





「ゆぅ…ゆぅ…」

しばらくするとれいむは眠たそうにしていた。
もう21時。いつもならもう寝る時間だ。

「そろそろ寝るのか?」
「ゆ、おねむするよ。あしたもゆっくりしようね」
「明日…ね」

でもれいむに明日は無い。
この一ヶ月でれいむは俺によく懐いた。
いや、最初から人懐っこい奴だったがその時と比べても今は完全に俺のことを信頼してくれている。
だからこれ以上優しくする必要が無い。

俺には趣味がある。
人に言えるような趣味ではなく、その名をゆっくり虐待という。
この人の顔した饅頭に暴力を振るい、苦しませ、絶望させる。そんな趣味だ。

俺はこういう人懐っこいゆっくりを裏切るのが大好きだった。
だからこそ赤ちゃんの頃からこのれいむを育てた。



「れいむ。寝る前にちょっと俺と遊ぼうか」
「ゆっ? あそんでくれるの!!」

俺の言葉に眠たそうだったれいむの表情が一転して花咲いた。
俺を信じ切った無邪気な笑顔。
期待に輝くその瞳が次に見たのは俺の拳だった。

「んぶっ!? ぶ、ゆべっ、べっ」

俺の拳はれいむの顔にめり込み、次の瞬間にはれいむの体は殴られた勢いで転がっていった。
何度も後転してかられいむはベッドの柱にぶつかって止まった。
れいむはうつ伏せに倒れてビクンビクンと痙攣する。

「ゆ、ゆぅ、ゆぐ、ぐ、ゆうっぅぅ」

苦しそうにうめき声をあげてのたうち回る。
恐らくれいむは産まれて初めての痛みを味わっているはずだ。

それは当り前のことさ。
赤ちゃんの頃からずっとぬるま湯のような環境で育ててきたんだもんな。
痛みなんて味わったことはきっと無い。
さらに言えば不安や不幸を感じることすら無かったかも知れない。
そんな幸せなれいむが味わう初めての痛み。
そして始めて感じる恐怖。

「ゆ、ゆぐ、ゆっぐり。
 おにーさん、ゆっぐいじでぇぇ」

ようやく顔を上げたれいむは怯えきった泣き顔で俺を見上げていた。
俺はそんなれいむに手を伸ばす。
れいむはカタカタと震えるばかりで決して逃げようとはしなかった。
一か月もかけて育てた成果だ。
ちょっと暴力を振るったぐらいじゃ俺への信頼は消えはしない。
もしかしたらナデナデしてくれるかもだなんて思っているのだろう。

だったらその信頼にほんの少し、応えてあげよう。
俺は手の平をれいむの頭にポンと乗せる。

「ゆ」

れいむの震えが少し治まった。
強張った体も緩んだようだ。

「ゆっくり、しでいってね…!!」
「ああ」

サービス期間終了。
れいむに乗っけた手の五指に力を込めてアイアンクローの要領でれいむを乱暴に持ち上げる。

「いだい! いたいよ!
 いたいぃぃぃ!!!」

悲痛な声で痛みを訴えてくる。
涙を流し、床にポタポタと涙が滴り落ちていた。
きっと逃げようともがいているのだろう。
下半身を左右に揺らしている。しかし体の構造上その動きも僅かなものだった。

「やめてやめてよぉ!
 いたいのやだぁぁ!!! ゆっくりしていってよー!!」
「あはは。
 可愛いなぁ、れいむは」

そう言いながられいむを持つ手を振り上げる。
いつもなら「おそらをとんでるみたい」と喜ぶ高さだが今は違う。
頭を締め付けられて怖くって、さっきの殴られた跡もまだ痛い。
れいむが楽しむ余裕なんてまるでない。

「やだよぉ、はなじでぇぇ!!」
「れいむの大好きな高い高いだぞ。
 楽しめよ、ほれほれ」

一方で俺は楽しくて仕方が無かった。
酒も入ったこともあってテンションが上がりまぐりだ。

「そぉい!」
「ゆぶ!?」

そしてれいむを床に叩きつける。
びたんっ、といい音を立ててれいむは床にへばりつく。
今度はさっき殴った時に比べて痙攣は小刻みで弱々しい。
一見死にかけにも見えるがその点は心配ない。
ゆっくりは意外とタフな生命力を持っているし、俺のれいむは栄養状態も良好だ。
それに死なない程度の力の加減を経験的に知っているから。

「まだ寝るなよ?
 遊びはこれからなんだからな」

俺はれいむの右揉み上げを握って再度れいむを持ち上げる。
れいむは俺と目が合うと絶叫した。

「やめで! はなじで!!
 れいむゆっぐりじだい!!
 もうやだ!! いたいのやだ! やだやだやだぁぁー!!」
「うっさい」

顔面を殴る。
さながらボクシングのジムにある丸っこいサンドバッグだ。
最もれいむは非常に柔らかくて軽いので殴った感触は無きに等しいが。

「あああああっ!
 やめでっ! やめでぇぇ!! ゆっくりさせてよぉぉ!!!」

尚も泣き叫ぶれいむを何度も何度も連続で殴る。
額を殴り、顔面に拳をめり込ませ、顎に裏拳をかませる。
皮が少し厚い底部は殴ったときの感触が気持ちいいので念入りに殴る。
さらにはお仕置きでもないのにお尻ペンペンする。

「楽しいなぁ!
 いやぁ、楽しい!」

絶対に外では見せないハイテンションで俺はれいむを殴り続けた。



れいむは殴る度に大きな悲鳴をあげ、滝のような涙を流した。
しかしそれも5分も暴力を振るい続けると反応がほとんど無くなってしまっていた。

「ゆ"」「ゆゅ"」「ぅ"」

体中腫れて元の可愛らしさが損なわれたれいむはもはや濁ったうめき声を上げるだけ。
そろそろいいかな。
かなりすっきり出来たことだし俺はれいむを床に落とす。
床に落ちたれいむは体を震わせ、何とか俺から逃げようと床を這う。
と言ってもボロボロの体では這うこともままならずほとんど動けてはいなかったが。

「……すげで」
「ん?」

れいむが何か呟いた。
注意しなければ聞こえないほどの小声で。

「だすげで。
 おにーざぁん…だすけてえぇぇ」

何とれいむはお兄さんに助けを求めていた。
そのお兄さんとは俺以外に考えられない。
何せれいむの知っている人間は俺とペットショップのおばさんだけなんだから。

「ゆっぐりできないよぉ。
 こわいにんげんさんが、れいむを、いじめるよぉ。
 だすげでよぉ…おにーざぁん…」

れいむは未だに俺が暴力を振るったと信じられないらしい。
だから知らない人間さんに虐められたと思い込もうとしているのだろう。

「れいむ。
 おい、れいむ」
「ゆ、おに、ぃさん?」
「助けに来たぞ」
「ゅ、ゆー…」

れいむはこちらに振り向いた。
デコボコの顔で表情は分かりずらいが間違いなく笑っていた。
助かったと言わんばかりの安心しきったような笑顔。
本当に俺の事が好きなんだな。
必死に俺に暴力を振るわれたという事実を頭の中で捻じ曲げてまで俺を信じ、助けを求めるれいむ。

本当…おめでたい奴だ。

「なんてな。
 お前を殴ったのは俺。
 なのにわざわざ助けるわけないだろ?」
「あ、あぁぁぁ」

れいむは絶望に身を震わせた。
枯れたと思われた涙が再び溢れて来る。

「ゆ"ぅ"ー! ゆ"ぅー!!」

俺を見上げて大声で泣くれいむ。
今のれいむに出来る最後の抵抗といったところか。
はたまた再び裏切られたことへの失望の涙か。

「ゆ"ぅ"ー! ゆ"ぅぅぶっ!?!」

俺はそんなれいむを最後に思いきり蹴飛ばした。
蹴飛ばされたれいむは一直線に壁へと激突し、白い壁に茶色い花を咲かせた。
ズルズルと床にずり落ちたれいむはピクリとも動かない。
近付いてみるとわずかに口を動かしていた。
最後の言葉か。

「ゆ、いたく、なくなってきたよ。
 でもからだうごかない、よ」

「れいむどうなったの?
 ね、おにいさん、どこ。やさしいおにーさん、どこ」

「どこなの。れいむと、ゆっくり、しよ…」

そこでれいむは本当にピクリとも動かなくなった。
一ヶ月も時間をかけて育てた俺のれいむは10分もしないうちに動かない潰れた饅頭と化した。
だが、この10分は本当に充実した時間だった。楽しかった。

これまでのゆっくり虐めは買ってすぐ、拾ってすぐに虐めていた。
だから最後の方は母親に助けを求めるか俺を呪う言葉を遺して死んでいった。
でもこのれいむは違った。
最後まで俺とゆっくりしようとしていた。
これが一ヶ月我慢した見返り。
小さな違いではあるが事を終えた後の気持ち良さは今までとまるで違った。

これは癖になるな。
次もまた同じように愛情を込めて育てよう。
そして高く積み上げた所で全て崩して俺の欲を満たす。
そのための偽りの愛情。片道の信頼関係。

次はまりさでも飼おうかな。
今度は一匹じゃなくて数匹、せっかくだから親子でも飼おうか。
その親子が同じ状況でどんな反応を見せるのか。
今から非常に楽しみである。














by 赤福


最近ゆ虐に関して道を見失いがち。何と言うか天啓が来ない。
私も卒業時期が来たのかも知れません。
と言いつつ忘れられた頃に突然また書きそうですが。

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最終更新:2022年05月21日 21:53