読後感の悪さは保障する



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ゆっくりを悪く書いているよ





何時の頃からだろうか。
森に住む人の頭に似た形体をした不思議な生き物、「ゆっくり」を人の里で見るようになったのは。
その姿を人間達に晒す回数は日に日に増していき、それに比例するかのようにトラブルが生じていた。
「ここはまりさのゆっくりぷれいすだよ!ゆっくりしていってね!」
「このクソ饅頭め!新築の家に土足で踏み込んだ上に乗っ取りやがるとは、許せん!」
このまりさは人の家に乗り込んで、愚かにもゆっくりぷれいすだとのたまってしまった。
「勝手に人の家に上がりこめないように足を焼くと良い、と聞いたことがある」
家の主は座布団から動かないまりさをすばやく拾い上げるとかまどまで持っていき、空の釜の中に放り込む。
「ここはまりさのゆっくりぷれいすじゃないよ!ゆっくりおうちにかえしてね!」
家主はまりさの妄言に一切耳を貸さず、手早くかまどに火をつける。
「くらくてゆっくりできないよ…ゆゆっ!あついよ!?あんよがあついよ!?」
薪を入れずに藁や胡麻の殻などすばやく燃える物で短時間炙るようだ。
「あづいいいいい!?いだいよ!いだいよおお!」
釜の中で焼き饅頭になられたら後の処理が面倒なのだろう、火が消える前にまりさを取り出すために蓋を開けると香ばしいにおいが家主の鼻を突く。
「ん、いい匂いだ…でもなぁ…」
家主は一瞬食欲を刺激されるが、床に落ちた饅頭を食べるような気がしてその気にはならなかったようだ。
「痛い目見たくなかったら、とっとと手前の家に帰るんだな!」
そう吐き捨てて、家主はまりさを草むらへと放り投げる。
しかしお家に帰ろうにも、焼かれたあんよでは移動するのもままならない。
「どうしてぇ?…まりさはおうちでゆっくりしていただけなのに…」



里の市では様々なものが並べて売りに出されている。
流の行商人などが地に広げた風呂敷やざるの上に様々な売り物を並べ、客を引くため威勢良く声を出している。
しかし売り物に引き寄せられるのは客だけではなかったようだ。
「ゆゆ!おいしそうなごはんさんだよ!れいむはゆっくりたべるよ!むーしゃむーしゃ!」
「あ!ちくしょう!」
山菜を売りに出していた露店にゆっくりれいむが近づくと、露天商が目を離した隙に不届きにも売り物をその口に納めてしまっていた。
それに気付いた露天商が、あわててれいむを掴み上げるが時既に遅し。
売り物の山菜は、売り物にならない野良ゆっくりの餡子へと変わり果ててしまった。
「しあわせ~♪…ゆゆっ!ゆくりできないからはなしてね!」
「俺の売り物に手をつけやがって!生かしてかえさねえぞ!」
「なにいってるの?れいむがみつけたごはんだから、れいむがたべてもいいんだよ!」
自らの足で捜し求めた山菜を、見つけたものだとほざくれいむに露天商は怒り心頭だ。
「俺が見つけて集めたんだぞ!それを掠め取って開き直るとはいい度胸じゃねえか!」
「ゆゆっ!?ひとりじめするのはわるいこだよ!ゆっくりはんせいしてね!!」
ゆっくりと露天商が押し問答を繰り広げている時、それに割り込むように声を掛けるものが居た。
「災難だねぇ、俺も気付いてやれればよかったんだが」
せっかくの売り物を台無しにされて、少し泣きそうな顔をしている露天商に通りかかった男が慰めの言葉を掛ける。
「い、いやぁ、目を離した俺も悪いんですよぉ」
声を掛けた男に愛想笑いをすると、その顔を手にしたれいむ向けてキッと睨み付ける。
「でも一番悪いのはこの盗人でさぁ!」
そう言うと、れいむを掴んだ両手に力がこもる。
「やめてね!ゆっくりしてね!」
体を押しつぶされることに強い不快感を示すれいむだが、この露天商の怒りはそれをはるかに上回っている。
「最近色々悪さをしているからね、何をしても咎められないさ」
男は露天商をなだめすかすと少し哀れに思ってなのか、一掴みの山菜を買い付けた。

売り物が減ったことで広げる風呂敷に余裕が出来たので、その内の一枚を用いてゆっくりれいむを包み込んだ。
「ゆっくりできないよ!?やめてね!?」
動く風呂敷包みを背に隠し、残りの山菜を売り捌く為に、より一層大きな声で客引きを続けた。
そのおかげか売りに出したものは完売したようだ。
しかしこの露天商は浮かない顔をしている。
その原因はまとめた荷物とは別のもぞもぞと蠢く風呂敷包み。
「こいつさえ居なけりゃ万々歳だったんだけどなぁ…」
恨めしそうに風呂敷を見つめると、乱暴に掴み上げてそのまま家へ足を向けた。

自宅の一室で風呂敷に包まれたままのれいむを前に腕組みをしている露天商。
「やっぱりどうにも腹の虫がおさまらねえ!」
そういうと風呂敷を掴み上げて包みを解く。
「なんでこんなことするの?もうやだ!おうちかえる!」
長時間の拘束はれいむにとっては拷問に等しいものだったのだが、それだけではこの露天商も収まりがつかないのだろう。
「こうすればむーしゃむーしゃって出来ねえだろ?食いもんの恨みを思い知れ!」
手にした匕首の柄の部分を泣き喚くれいむの口元へ何度も何度も打ちつけた。
「いだっ!ゆええええ!なんでこんなことするの!?」
露天商はれいむの歯を狙ってその手を振り下ろす。
最初は歯を食いしばっていたれいむだったが、歯が折れ砕けるつれて激痛が走り、口元に力を込めることが出来なくなる。
「いだいよ!ゆっぐりでぎないよぉ!」
そして口が開かれると悲痛な叫びを吐き出すようになった。
しかしれいむを痛めつける手は止む事はない。
砕かれた歯はれいむの口中に突き刺さり、口を動かすだけでも激痛が走るようになると、とうとう何も言葉を発しなくなってしまう。
「殺しはしねえが二度と俺に姿を見せるんじゃねえぞ、この泥棒ゆっくりが!」
歯という歯を全て砕き終わるとれいむはようやく開放された。
「どぼちてぇ…れいむはどろぼうさんじゃないのに…」


人の世界で混乱を招くゆっくりは、二度とゆっくり出来ない体にされた。
しかし森のゆっくり達はそんな事などお構い無しに、次から次へと人里に降りて行く。


近いうちに業を煮やした人間達が、ゆっくりを根絶やしにせんと、行動を起こすのもそう長くはないだろう。











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人間を悪く書いているよ










まりさのお家は斜面に生えた木の根もとに掘った横穴だった。
「まりさのおうちはとってもゆっくりできるよ!ゆっくりしていってね!」
ある日人間がその木を切り倒し、建築用の資材としてしまう。
人間が切り倒している間、まりさは外に出ていて気が付かなかったが、もしその現場に出くわしていたらその行為に抗議をし、人間につぶされていただろう。
だからといって運が良かったとは言えないのだが。
「こんなおうちじゃゆっくりできないよ…」
森の中でも一際大きい木の根元に家を作れたのはまりさにとっても誇りだったからだ。
いずれはこのお家にふさわしいパートナーを見つけ出し、ずっとゆっくりすることを夢見ていたのだから。
まりさは変わり果てたお家に悲しんだが、大事な寝所である穴の中が無事だったので以前と変わらずそこをお家にする事にした。
「ふしぎなにおいがするよ…でもゆっくりできるにおいだよ…」
まりさは暫くの間、切り株から香る木の匂いを嗅ぎながら眠る生活をする事になる。

そしてまりさのお家が切り倒されてから一年間、切り株は風雨に晒され腐食していき、ついには雨をしのぐ天蓋が崩れ落ちてしまっていた。
まりさはお家を失った。
雨風をしのぐお家はゆっくりが生きていくのに必要なもの。
まりさはお家探しの為に森の中を駆け巡る。
若く細い木は資材としての価値が低かったので切り倒されなかったが、ゆっくりがお家にするにも適さない。
どっしりとした大木は、人間たちがこぞって切り倒してしまったので、どれもこれも株も寝も腐らせてしまい、お家の体を成していない。
「まりさのゆっくりぷれいすどこなの?」
まりさが望むお家は殆ど無くなってしまっていた。
だからといってお家探しを諦めるのは、まりさにとっては生きるのを諦める事に等しい。
あんよが擦り切れるほど捜し求めて彷徨ううちに、まりさは人の里まで下りてきてしまった。
「ゆゆぅ…なんだかゆっくりできるにおいがするよ…」
慣れぬ世界を恐る恐る探索しているうちに、ふと懐かしい匂いとめぐり合う。
そこは人が作った一軒の新築の家。
木材をふんだんに使用した家屋からは、新築の家特有の木々の香りを風に乗せていた。
「まりさのおうちだよ!まりさのおうちがこんなところにあったんだね!」
まりさがお家に関する記憶として一番深く残ったのは、お家が変わり果てた姿になると共に強く香りだした木の香りだった。
匂いに引き寄せられるように家の側まで飛んでいくと、ますます木の匂いが強くなり、此処こそがまりさのお家なのだという思いを強くしていく。
踏み台を経由して縁側に飛び乗ると、戸の隙間から居間へ潜り込み、座布団に鎮座してから大きく息を吸い込んだ。
まりさは胸いっぱいに懐かしい香りを溜め込んで、それを吐き出す代わりに大きな声で大事な言葉を発していた。
「ここはまりさのゆっくりぷれいすだよ!ゆっくりしていってね!」



森は様々な恵みをもたらしてくれる。
ゆっくりもその恵みを享受することで、ゆっくりとする事がかなうのだ。
このれいむもその恵みにあやかって、ゆっくりとした日々をすごしていた。
「むーしゃむーしゃ、しあわせー♪」
しかし人間もその恵みを欲しがらない訳が無い。
それどころかその恵みを糧にして、更なる恵みを得ようとし、その身に余る量を人の里に持ち込むようになる。
ゆっくりが当たり前のように得ていた森の恵みは殆ど人の手によって刈り取られてしまっていた。
「むーしゃむーしゃできないよ…」
木の実、山菜はその日を生きていくだけでなく、冬を越すのにも無くてはならないものなのだ。

れいむは生きて行く為に、餌を探して行ける所まで行く事にした。
そしてたどり着いたのは人間の世界。
はじめて見る物に戸惑いながらも食べられるものを探して彷徨っている。
「なんでどこにもごはんさんがないの…?」
ところがれいむは食べられるものを何一つ見つけることが出来ないでいた。
そもそもれいむが食べていたものは森の中だからこそ取る事の出来た物ばかり。
人の里まできてそれを求めるのが間違いなのだ。
しかしそんな事などゆっくりが知る由もなく、ただひたすら食べ物を求めて彷徨うしかないのである。
そしてれいむは里で時折開かれる市にまで来てしまっていた。
ここでは店舗を構える者は少なく、それぞれが用意した物を地の上に広げている。
そのおかげで街中では見ることの出来なかった商品が、れいむの視界にも映る事になる。
「ゆゆ~ん!ごはんさんがこんなところにあったよ!」
今まで散々探しても見つける事の出来なかったごはん、山菜を売りに出している露店を見つけたれいむ。
やっとごはんが食べられると喜びながら、森に居た時と同じように山菜にかぶりついた。
「ゆゆ!おいしそうなごはんさんだよ!れいむはゆっくりたべるよ!むーしゃむーしゃ!」





おわり

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最終更新:2022年05月21日 22:27