ゆー血鬼
※俺設定全開
※外の世界のちょっと昔の農村、みたいな

1、始まり

「ゆぎゃあああああ!」
暁にはまだ早い時間、夜空にゆっくりの悲鳴が響く。
「あまあま~☆」
悲鳴の出所は崖の中腹にある横穴。ゆっくりれみりゃの巣の中だ。
れみりゃは、はしたなくも“おやしょく”を召し上がっていた。
この間の狩りが大猟だったので、気まぐれに一匹のゆっくりれいむを“ぷりざーぶ”
しておいたのだ。れいむの足、底部をかじって巣の奥に放置しただけだが、
恐怖と苦痛によって餡の味は随分と良くなっていた。
それでもおぜうさまの気まぐれには敵わない。
「れでーのおやしょくはひかえめ~。おまえはもうぽーいだどぅ♪」
巣から放り出されたれいむは崖下へと落ちていった。それを見ていたのは、金色の満月だけ。
餡の大部分を失って痙攣するれいむを、月のスポットライトが照らしていた。

もうすぐ夜が明ける。れみりゃにとっては眠りに就く時だ。
「うう…まんまぁ…」
ひとり横たわり、身を丸める。眼尻にはうっすらと涙が浮かんでいた。
このれみりゃはたったひとりで暮している。
近くには他のれみりゃも、ふらんも、さくやもいない。
家族と過ごした遥か昔を思い出せるのは、眠りの中でだけ。
目覚めればあっと言う間に消えてしまう。
ゆっくりを襲う時、れみりゃが味わう高揚。そこには姉妹と遊んだ思い出、
仲間が欲しいという渇きが隠れているのだ。あのれいむをしばらく生かしておいたのも、
巣に置いてあげれば遊んでくれるのではないか…そんな思いがあったのかもしれない。
だから今夜も、れみりゃは狩りに行く。
「おはようだど~☆ きょうもたくさんあそぶど~」
巣から飛び立つと、すぐ下に丸い影が見えた。ゆっくりだ。こんな時間、こんな場所にいることは
普段ないのだが、れみりゃは全く気にしない。まっすぐそのゆっくりへ向かうと、両手で抱えあげた。
「うー! とったどー!」
今夜は絶好調! と思ったれみりゃだったが、奇妙なことにそのゆっくりは抵抗もせず、
泣き叫びもしなかった。
「うー?」
くるっと回して顔を見てみる。
「ゆー! ゆー!」
ふてぶてしい笑顔。れみりゃに捕まっても怖がる様子すらない。それどころか楽しそうだ。
「おまえ…なんだどぅ~?」
こんなゆっくりを見たことはなかった。
ゆっくりれいむにそっくりだが、目が赤い。肌が青白い。そして、口元からのぞく小さな小さな牙。
「れいむはれいむだよ!」
それは、れみりゃが半分食べて捨てたれいむだった。
れみりゃに餡を吸われながらも生きていたことと、満月の光によって、
れいむはゆっくりの吸血鬼―――ゆー血鬼になったのであった。
「れいむはおぜうさまとゆっくりしたいよ!」
おぜうさま! そう呼ばれ、れみりゃの体が熱くなる。
それはれみりゃを絶対的に肯定する言葉であり、れみりゃの中に眠っている吸血鬼としての本能を
呼び起こす鍵でもあった。

崖の下の開けた所で、れみりゃとれいむは遊んでいた。
「ぽ~いぽ~い☆ たかいたか~い☆」
「おそらをとんでるみたーい!」
れみりゃがれいむを、バレーボールのように投げ上げる。ぼよよん。ぼよよん。
ゆっくりにしては規則的な動きが、ふと横にぶれた。
「ぎゅっ!」
張り出していた木の枝で、れいむの頬がざっくりと切れてしまった。
れみりゃが慌ててれいむを受け止める。
「れいむ~!」
れいむの傷口から、赤味がかった餡…ワイン餡がこぼれ出た。
「うあー! じんじゃだべー! れいぶじんじゃだべー!」
「ゆ…もっとゆっくりした…ゆゆっ!?」
れいむの頬の皮がジュワジュワと音を立てて泡立ち、みるみるうちに傷口を覆っていく。
れみりゃがれいむの頬を恐る恐る拭うと、もちもちとした皮にはもう痕さえ残っていなかった。
「じゃーん!? ゆっくりなおっちゃったー!?」
これにはれみりゃもびっくりである。れいむもびっくりしている。


それからのひと月、れみりゃと“ゆー血鬼れいむ”―――鬼れいむは楽しく過ごした。
駆け回って、踊って、空を飛んで、月の光をたっぷり浴びて。
でも決して、鬼れいむは他のゆっくりを食べようとはしなかった。れみりゃが狩りをする時は
巣穴でじっと待っていた。“おみやげ”のゆっくりには背を向けて、その顔を見せなかった。
“おみやげ”たちはそんな鬼れいむへの呪詛を吐きながら、れみりゃに食われていった。
そのゆっくりたちの悲鳴よりも、鬼れいむの押し殺した嗚咽の方が、れみりゃにははっきりと
聞こえていた。
れみりゃにはわかっていた。鬼れいむも、ひとりきりなのだ。れみりゃは決して物覚えがいいとは
言えない頭に、れいむが鬼れいむになった夜のことを刻みこんでいた。
忘れないように忘れないようにと、毎晩思い出して。

夜ごとに月が膨らんでいき、ついにまん丸になった。
「れいむ…れいむのおうちにいきたいど…いいど…?」
鬼れいむは無言でうなずいた。これからする事がいい事か悪い事かなんて、れみりゃにはわからない。
ただ、もう二度と寂しい思いはしたくなかった。

鬼れいむを抱え、空を飛ぶ。鬼れいむを捕まえたのは川べりだったので、
巣がどこにあるかれみりゃは知らなかった。鬼れいむが時折進路を指示する他に、会話はなかった。
「この下がれいむのおうちだよ。れみりゃはかくれててね」
鬼れいむをそっとおろし、れみりゃは木の上に身をひそめた。
「…」
鬼れいむにとってはひと月ぶりの故郷。辺りには誰もいない。みんな巣の中で眠っているのだろう。
故郷の森が、月の光と夜の眼ではっきりと見える。でもその景色がよそよそしく感じられて、
鬼れいむの餡がきゅっと痛んだ。
鬼れいむは何度か深呼吸すると、全身を震わせる大声で叫んだ。
「 ゆ っ く り し て い っ て ね ー ! 」
「「「ゆゆゆっ!?」」」
森のあちこちから戸惑いの声がする。こんな夜中に一体何だろう、と。
「れいむだよ! れいむがかえってきたよ! ゆっくりしすぎてごめんね!」
ちらりちらりと、鬼れいむの姿をうかがうゆっくりの影。
その中から、とんがり帽子が一匹、歩み出た。
「れいむ…? 本当にれいむなの…?」
鬼れいむ…いや、かつてのれいむと一番仲が良かったまりさだ。
「ゆっくりぷれいすをさがしてたら、おそくなっちゃった」
その言葉に、まりさの目から涙があふれ出した。鬼れいむに飛びつく。
「れいぶのばがあああ! ばがああああ! れいぶのいないゆっぐりぶれいずなんで
 ゆっぐりぶれいずじゃないよおおおお!」
ぼむっ、ぼむっと体をぶつける。鬼れいむはそれを優しく受け止め、目を閉じた。
小さな涙が、鬼れいむの頬を伝っていった。
「ごめんね、まりさ。でも、ゆっくりぷれいすをみつけたよ」
涙でぐしゃぐしゃに乱れたまりさの顔に、鬼れいむはそっと口づけをした。
「いっしょにきてくれる?」
「うん…いぐよ…もう、おいでがないで」
見つめ合い、互いの将来を約束する。
にわか一陣の風が吹き―――満月の光が、鬼れいむの赤目と牙を光らせた。

 ※ ※ ※
2、幸福

とてもゆっくりしたゆっくりの群れがいた。その群れはとても変っていた。
『夜が怖くない。怪我がすぐ治る。すっきりし過ぎても死なない。
 自分たちはなんてゆっくりしてるんだろう!』
確かにゆっくりしているだろう。だがそれはもはやゆっくりではなく、ゆー血鬼の群れだった。

夜の森に響く享楽の声―――
「むきゅうん、むきゅっ、むきゅうぅぅ!」
「んほぉぉぉぉぉ! んほぉぉぉぉぉ! んほぉぉぉぉぉ! んほぉぉぉぉぉ! んほぉぉぉぉぉ!
 んほぉぉぉぉぉ! んほぉぉぉぉぉ! んほぉぉぉぉぉ! んほぉぉぉぉぉ! んほぉぉぉぉぉ!
 んほぉぉぉぉぉ! んほぉぉぉぉぉ! んほぉぉぉぉぉ! んほぉぉぉぉぉ! んほぉぉぉぉぉ!
 んほぉぉぉぉぉ! んほぉぉぉぉぉ! んほぉぉぉぉぉ! んほぉぉぉぉぉ! んほぉぉぉぉぉ!
 んんんんんんんほおおおぉぉぉぉぉ―――――っ!」
なんと鬼ぱちゅりーが積極的にすっきりしている。しかも鬼ありすを相手に。
鬼ぱちゅりーの貴重な喘ぎ声は実になまめかしいが、鬼ありすの雄叫びで台無しである。
どうやらすっきりしてもにんっしんっしない体質が、彼女らの性欲を完全に開放させているようだ。

「さあ、おめしあがりになって!」
「きょうもありがど~☆ たーべちゃーうど~☆」
こちらでは、なんとゆー血鬼どもが自らをれみりゃに捧げている。れみりゃは手近な鬼ありすを
抱えると、その下膨れに牙を立て、中身を吸い出す。
「ゆはあああああああん…」
しぼみながら、なんともピンクな声を上げる鬼ありす。青白い肌がほのかに火照っている。
「ありすあまあま~♪ おいしかったど~☆」
れみりゃの手から離れると、鬼ありすの顔に生じていた皺が、しゅるしゅるっと内部に
引き込まれるようにして無くなった。
「とかいはとしてさいこうのえいよです! またおめしあがりくださいませ!」
鬼ありすは一回り小さくなったが、活動にはまったく支障が無いようだ。
れみりゃの周囲には、吸われる順番待ちの列ができていた。鬼めーりんが仕切っている。
喋れぬのは変わらぬようだが、彼女をいじめる者はいない。
本家本元よりきびきび働いているように見えるのは、気のせいか。

そこに勢いよく、二匹のゆー血鬼がやってきた。
「れみりゃ、にんげんのはたけがあるんだぜ!」
「まりさとれいむがみつけたんだよ!」
あの“さいしょのれいむ”とまりさだった。
二人が強奪してきた野菜を見て、ゆー血鬼たちは歓声を上げた。
何故か胸をちくりと刺されるような感触を覚えたれみりゃだったが、すぐに忘れてしまった。
二人の報告から数分後、全会一致で人間の里を襲うことが決まった。なにしろこちらはゆー血鬼。
人間なんかちょろいちょろいと思っているのだ。
「よーし、いくさだど~! ぜん☆ぐん☆とつげき~♪」

 ※ ※ ※
3、戦い

森からほど近い人里。ここでは“夜やってくるゆっくり”の話題でもちきりだった。
ゆっくりが畑を荒らすのは昼間と相場に決まっている。だから夜間は見張りもいない。
だが夜中のうちに、野菜を盗んでいくモノがいた。罠や棘の柵があっても平気で乗り越えている。
現場に残っているのは、赤黒い物体。初めは血肉かと驚いたが、よく調べると、
それは紛れもなく餡だった。
餡ならば、ゆっくり。確実な証拠である。実はれみりゃに報告されるまでに、
こっそり野菜を盗んでいたゆー血鬼どもがいたわけだ。さらにそのうちの一匹が、昨夜捕獲されていた。

薄暗い土蔵の中。
「ゆっゆっゆっ! まりささまになにをしてもむだなん…ぎゅべっ!」
縛り付けられたゆっくりまりさの、頭半分が吹っ飛ぶ。
夜番の一人が畑で捕まえたゆっくり―――の形をした何かだ。
ジュワジュワジュワ…醜悪な音とともに、破壊された部分が完全に再生する。
ゆっくりは多少動植物の常識を無視した性質を持っているが、これは尋常ではない。
「だからむだ…ごびょっ!」
縛った上に何本もの杭で板に打ちつけられ、なんとか固定されている。
だがそれも、目を放すと再生した餡と生地によって抜けそうになる。
逃がさないように破壊し続けているのである。
「もうやべで…ぶぎゅるっ!」

“吸血鬼”と名乗るこいつは、いったい何なのだろうか?
年を経たゆっくりが特殊な能力を持つ。そういった話は聞いたことがある。
しかし今回のゆっくりはそれとは違う、禍々しささえ感じさせる何かだ。まさか本当に吸血鬼か?
吸血鬼だとしたらいったいどうすればいいのだろう―――何ができるというのだろう―――
朝から寄り合いが開かれたが、話が進まぬまま日が落ち、また夜になった。

「やつらが! ゆっくりの大群が森からやってきます!」
伝令に、里全体がざわつく。みな、覚悟はしていた。この僻地、助けを求められる相手はいない。
だがなんとしてもこの里だけで被害を食い止める。そう、もし自らが“吸血鬼”になったならば…。

一組の男女が、最後になるかもしれない会話をしていた。
「実は俺、ゆっくりを虐待してたんだ。黙ってたけど…」
男の表情は苦渋に満ちていた。
「でも、あいつらが来たのはあなたのせいなんかじゃないわ!」
「そうかもしれない。けど俺はただ、新しいゆっくりを虐待してみたい。
 こんな時なのに…血が騒ぐんだ」
罪悪感を持ってなお、男は罪を重ねることを止められずにいた。
「…そう、止められないのね」
女は懐から銀のペンダントを取り出し、男の首に掛けた。
「私の母のものよ。一応銀製だし、十字架だから…」
吸血鬼に十字架、それは迷信かもしれない。だが、女は信じることにした。
「…ありがとう。こうか? こんなの着けるの初めてだな」
「全然似合わないわね。…必ず、返してよ」
「ああ。汚れても怒んないでくれよ」
櫓の鐘が乱打される。いよいよバケモノどもが里に近づいてきたのだ。
戦いに向かう青年の胸元で、銀の十字架が光っていた。

 ※ ※ ※

残された者の中でも、比較的動ける者は里の外れ、森との境界地で野営を張っている。
そうでない者は里の中心部、最も堅牢な建物に集まって隠れていた。
女子供も含め、全員が刃物を持っている。自害の為である。
息を潜め、朝が来るのを身じろぎもせず待っていた。
かなたから聞こえる声も、いつしか消えていた。

やがて、何人もの足音が森の方から響いてきた。野営地に据えられたかがり火が照らしだしたのは、
全身を暗赤色に覆われた青年たちの姿だった。血を思わせるその色が、見る者の心を絶望に染める。
「そんな…みんな…嘘でしょ…」
膝をついたのは、あの十字架の女。青年の帰りを待っていたのだ。それを止める者はいなかった。
「違う! 俺だよ俺! ほら、これ」
紅色の餡に覆われた青年が示したのは、首にかけた銀の十字架。“吸血鬼”ではない証。
戸惑う人々。青年たちは顔を見合わせると、餡だらけの顔をくしゃくしゃにして、大声で笑い始めた。
「えーっと…ゆっくりは吸血鬼になってもゆっくりだったわ」
そう言った青年に、女が抱きつく。

「ったく…こっちはこんなのだってのに。不公平だねぇ」
別の青年が、腕の中に抱えたものを里長に差し出した。
「びどりはやだ―――! れびりゃのどもだぢがえぜ―――!」
紐で縛られ、麻袋に入れられたれみりゃ。じたばたと暴れている。
「そいつが元凶か」
「ええ、おそらく」
「こんなものが…」
里長がため息をつく。他にも、数匹のゆー血鬼が生け捕りにされていた。
「びゃあああああ―――! がえぜ――――!」
顔を見合わせる村人たち。
声が枯れても、れみりゃは袋の中で泣き続けた。

 ※ ※ ※
4、終わり

れみりゃはひとりではなくなった。きれいな家に住んで、おいしいご飯をもらう。
満月の晩ごとに、人間が連れて来たゆっくりをゆー血鬼に変える。
その子たちとは次の満月までしか一緒にいられないけれど、それでもれみりゃは幸せだった。
れみりゃにとってもはやどのゆっくりも同じだったから。
でも、あの“さいしょのれいむ”の事を思い出す時だけ、なんだか不思議な気持ちになる。
あの穴ぐらに住んでいたころの気持ちに。

生け捕りにされたゆっくり…ゆー血鬼たちから自身の秘密を聞き出した里長は、
それを遠くの街の“加工所”に売り渡すことにした。
うまくワイン餡を生産できればかなりの収入になると思ったものの、
里の者には荷が重いと判断したのだ。
その時の報酬は農具や建物の修繕などに当てられ、相変わらずの長閑な生活が営まれている。

里の外れにひっそりとたたずむ小さな石碑。たまに、里の者が野の花を添えているのを見られるという。

作 大和田だごん
スレで出ていたHELLSINGネタより。

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最終更新:2022年05月19日 14:45