れいむの恩返し


 *ちょっと下ネタです。




 幻想郷の、夏の朝。
 とある田んぼのあぜ道で、2匹のゆっくりがなにやら騒いでいた。
 片方は成体のゆっくりれいむ。
 もう片方は、同じく成体のゆっくりまりさ。
 れいむは髪を振り乱して悲鳴を上げ、まりさはオロオロしながられいむの周りを飛び跳ねていた。

「ゆーっ!! いたいよぉ!! ゆっくりできないぃぃぃ!!」

 誰が仕掛けたのか、れいむはトラバサミにかかっていた。
 半円状の二対の金具は左右かられいむをギュッ…と圧迫し、返しの針は中身の餡子にまで達している。

「あんしんするのぜ! まりささまがゆっくりたすけるのぜ!」

 まりさはれいむを締めつけている金具を咥えると、「ゆん!」と唸って外そうとした。
 だが、ゆっくりの力では金具は微動だにしない。
 諦めの早いまりさは今度はれいむの髪を咥えて引っ張ると、れいむの体が少しだけ動いた。
 まりさは希望を持った。

「ゆゆ! れいむ、いまゆっくりさせてあげるのぜ! ゆんしょーっ!」
「ゆぎゃああああああああああああっ!!?」

 あまりの激痛にれいむが絶叫する。
 まりさが思いきり引っ張ったせいで、れいむを突き刺している針の傷が大きく広がったのである。

「やべでええ!! あんごもれぢゃううううううううう!!」

 れいむの悲鳴に、まりさはあわてて髪を離した。
 まりさはもうどうしたらいいか分からず、再びオロオロしながられいむの周りをピョンピョン飛び跳ねていた。
「おぅい、どうしたぁ?」
 そこへ、近くの畑で雑草取りをしていた男が様子を見に来た。
 その声に振り返ったまりさは、男の姿を見てギョッとした。

「ゆわあ!? にんげんだあっ!! ゆっくりできないいい!!」
「まってね! れいむをおいてかないでね!」
「たべるなられいむをたべるのぜ!! れいむはまりささまがあつめたごはんをたべてたのぜ!! だからおいしいぜ!!」
「ゆうっ!? まりさのうらぎりものおおおおお!!!!」
「ゆっゆっゆっ!! まりささまはれいむがたべられてるあいだにゆっくりにげるのぜ!! ゆっくりしていってね!!」
「ゆっくりしていってね!! ……ちがうよお!! ゆっぐりがえっでぎでえええ!! ばでぃざああああああ!!!!」
「ゆへっ☆」

 れいむの悲痛な叫びをよそに、ニヤリと笑みを浮かべたまりさは、とんがり帽子を上下させながら一目散に逃げていった。

「ゆあっ…!」

 まりさの突然の心変わりに放心状態となったれいむは、目から餡子汁を流したまま、呆然とその後ろ姿を見送るしかなかった。

「ゆっ…ぐっ…ゆぅぅぅぅ……ゆぅぅぅぅぅぅぅぅ……!!」

 れいむがさめざめと泣きはじめた。
 れいむの側に寄ってきた男は、もう大丈夫じゃないことはわかっていたが、一応大丈夫かと声をかけた。

「れいむはもう…どうなってもいいよ……ゆぐっ…ひっく……おにいさんは…れいむをたべにきたんでしょ? ひっく……!
 まりさがいったとおり…れいむはおいしいよ……だから…く…くひゅっ…ふゆぅぅ……ゆっくりしないで…さっさとたべてね!」

 「一生一緒にゆっくりしようね!」と将来を誓い合ったまりさに、こんな形で裏切られたれいむ。
 もはや生きることに絶望したれいむは、みずから男に食べられることを望んだ。
 せめて最期は美味しい饅頭として食べられて、この憂き世に生まれ落ちた儚いゆん生に終止符を打とうとしているのである。
 なかなか殊勝なゆっくりだ。
 ……というのは買いかぶりで、ただ自暴自棄になっているだけである。
 勘違いしてはいけない。
 所詮は饅頭だ。

 だが、わずかながらも同情を引かれた男は、れいむの側にひざまずいてトラバサミを外してやった。
「ほら、もう大丈夫だ。誰がこんなもん仕掛けたんだろな。人間でも危ないよな」
 男はれいむを抱き上げると、元来た道を帰っていった。
 てっきり噛みつかれ、食いちぎられ、永遠にゆっくりさせられてしまうことを覚悟していたれいむは、呆然と男の顔を見上げた。
「ウチにおいで。治療してやるよ」



 家につくと、男は薬草を磨りつぶしてれいむの傷口に塗った。
 小麦粉はあったが、男は使わなかった。
 彼は今までほとんどゆっくりと関わったことがないために、水溶き小麦粉やオレンジジュースを使うという知識を持っていなかった。
 それでも献身的な介護のおかげか、ゆっくりの不思議な回復力のおかげか、日が暮れる頃には、れいむはの傷は癒えていった。

「おにいさんありがとう…おにいさんはすごくゆっくりしてるね…」
「いろいろあったけど、これからも強く生きていきなよ?」
「ゆ…れいむはゆっくりいきてくよ…」
「じゃ、気をつけてな」
「ゆっくりしていってね…」

 れいむは弱々しくほほえむと、体を引きずって出ていった。
 夕日に照らされて去っていくその後ろ姿は、とても饅頭とは思えないほど哀愁に満ちていた。


          *          *          *


 翌朝…。
 昨日と同様、畑の草むしりに出かけていた男は、昼ご飯を食べるために家に帰ってきた。
 すると、

「ゆっくりしていってね!」

 戸口の陰から、きのうのゆっくりれいむがポヨンと姿を現した。
 もう二度と会うこともないと思っていたれいむの再訪に、男はわけを尋ねた。

「れいむはおにいさんにおんがえしがしたいよ! ゆっくりおんがえしさせてね!」

 …おかしなことを言う饅頭もいたものだ。
 手足もないこんな小さな体でなにが出来るのだろう…? と呆れながら見ていると、

「ごはんをもってきたよ! ゆっくりたべてね!」

 れいむは背後から黒い液体の入った古びた茶碗を出してきた。
 確かめてみると、液体はちょうどお汁粉のような、水っぽい餡子だった。

「この餡子、どうしたんだ?」
「れいむが”かり”でとってきたんだよ!」
「茶碗は?」
「”かり”のとちゅうでみつけたんだよ! ゆふっ! れいむだってちゃんとごはんをあつめられるんだよ!」

 その言葉から、つがいに見捨てられた苦しみをどうにか乗り越えられたんだな…と感じ取った男。
 ……ホントは一晩寝たせいで記憶がほとんど消し飛んでいるだけなのだが、れいむの心の強さに感動し、ちょっと涙まで催してしまった男は、
その好意を快く受けることにした。
「そっかそっか、ありがとう。ちょうど腹が減ってたんだよ」
 お礼を言われてゆんゆん気分のれいむは、餡子をすすっている男の周りをポインポインと飛び跳ねていた。

「ごちそうさん。うまかったよ」
「ゆゆ! おそまつさまだよ! おにいさんゆっくりできた?」
「ああ、ゆっくりできたよ」
「もっとあんこさんたべたい?」
「そうだな、たまには甘いものもいいな」
「おにいさん、れいむのはなしをゆっくりきいてね!」

 いつもの自信満々の顔にポッと赤みが差し、れいむは元気よく切り出してきた。

「れいむ、これからまいにちあんこさんをもってくるよ! だかられいむをおうちでかってね!」
「ウチで飼えって……おまえ本当はご飯が欲しいんじゃないのか?」
「ゆゆっ!? ちがうよ! おにいさんにおんがえしをしたいだけだよ!」

 それから何度も「おにいさんをゆっくりさせたい!」と繰りかえすれいむ。
 畑を荒らす害獣とか、家に侵入しておうち宣言するとんでもない奴だと言われているが、このれいむを見るかぎりまるで信じられなかった。
 ゆっくりにもいろいろいるのだろう…と男は思った。

「わかった。おまえの気のすむようにしなよ」
「ほんとぉ!? ゆっくりー!!」
「じゃあウチに入るか」
「ゆ~♪♪」

 家に入り、居間の座布団の上に置いてやると、れいむはたいそう喜んだ。
 そんなれいむがモジモジしはじめた。

「おにいさん…モジモジ…もうひとつおねがいだよ」
「なんだ?」
「あさは、このおへやをみないでほしいんだよ…」
「なぜ?」
「ゆぅぅ……おにいさんにみられたられいむ……はずかしくてゆっくりできなくなっちゃうよ……」

 リボンよりも赤くなったれいむは、恥じらって後ろを向いてしまった。
「わかった、約束するよ」
 寝顔を見られたくないのか脱皮でもするのか……まあゆっくりにもプライバシーがあるのだろう。
 男はその程度に考え、れいむの乞いを受け入れた。
 こうして、男とれいむの共同生活が始まった。
 一人暮らしの男はれいむをよき話し相手とし、れいむも居心地がよかったのか、いつもちゃぶ台の上の座布団に乗ってゆっくりしていた。
 そして最初の約束どおり、れいむは毎朝男に餡子をもってきた。

 あるとき、男は不審に思った。
 たしか、餡子は狩りで取ってきていると聞いたはずだ。
 だが、家に来て以来、れいむは座布団の上で一日中ゆっくりしている。
 にもかかわらず、毎日餡子を持ってくるのである。
 いったいどこから調達してくるのだろう…?
 男は無性に気になって、ある日、思いきって尋ねてみた。
 すると、れいむは明らかに動揺しながら、ゆっくりにしては早口で答えた。

「ゆ゙!? れ、れいむはおにっ…おにーさんがおしごとしてるときに”かり”にいっでべッ…ゆぎゃー!! れいむのぺろぺろがあああああ!!!」

 ……最後に舌を噛んだことも含め、れいむの態度はどうも怪しい。
 舌を突き出してピョンピョン飛び跳ねているれいむを、男は疑惑のまなざしで見つめていた。


          *          *          *


 翌朝…。
 男は真相を確かめるべく、居間のふすまの前に立っていた。
 れいむに見てはいけないと言われたが、いったいこのふすまの奥でなにがおこなわれているのか…?
 それが餡子の秘密を解くカギだと思われた。

 いつもは離れの台所で朝食を作っているこの時間。
 こうしてふすま一枚を隔てた場所に立っていると、中から奇妙な声が聞こえてくる。
 男はふすまに手をかけると、ほんのちょっとずらして中を垣間見た。
 すると、

「…………ゆっぐううぅ…………グフッ……んぎいいいい……っ……」

 男の目に飛び込んできたのは、ちゃぶ台に乗って苦悶の表情を貼りつかせているれいむだった。
 れいむは体を小刻みに震わせ、歯茎もあらわに限界まで剥き出した歯をギリギリと食いしばって、うめき声を上げていた。
「なんだこれは…」
 異様な光景に生唾を飲む男。
「いったい何をしてるんだ…」
 男はれいむが心配になったが、そのただならぬ状況に気圧されてしまい、中に踏みこむこともできなかった。

「んかっ…はあああああッ!! …カヒッ…カヒィ! ………ヌガ…クッ……っぎひぃぃぃぃ!!」

 外見からは想像できないような野太いうめき声が、徐々に大きくなってゆく。
 それに比例して、れいむの顔はこの世のものとは思えないほど醜悪なものへと変形していった。
 体の半分近くも開け放たれた大口…。
 剥き出しの歯茎…。
 今にも飛び出して襲って来んばかりの眼球…。
「なんて醜い顔なんだ……俺は、こんな異形のナマモノと暮らしていたのか……!?」
 男はガクガクと震えた。
 そうして男に見られているとも知らず、れいむは真っ赤に充血した両目をギョロンギョロン動かしながら、全身から餡子汗を噴き散らしていた。
 やがて、ネバつく体液でテラテラと光った体が、少しずつのけ反ってゆく。

「フーーッ……フーーッ……ん!! ん゙い゙い゙い゙い゙い゙い゙い゙い゙い゙い゙ッ!!!!」

 いったん力を抜いて深呼吸を繰りかえした後、ふたたび渾身の力で息張るれいむ。
 その一連の行為に、徐々に異変が生じはじめる。
 れいむの下膨れのあごの下に小さな黒い点が現れ、ミチミチと音を立てそうな勢いで少しずつ開いていった。
「ケツか!?」
 いや。
 男は知らなかったが、それはれいむのまむまむだった。

 ……初め、れいむは男に恩返しをするため、自分に何ができるか考えてみた。
 だが、餡子脳のれいむに名案は浮かんでこなかった。
 そう、餡子脳…。
 饅頭である自分が持っているものなど、最初から中身の餡子しかなかった。
 それに気づいたれいむは、さっそく男に餡子を提供するため、体を切って中身の餡子を出そうとした。
 が、木の枝にちょっと自分の皮をかすらせてみた瞬間、れいむのお豆腐よりもヤワな心は簡単に折れてしまった。
 うんうんという手段もあるが、これまで一度もうんうんしたことのないれいむには、残念ながらあにゃるは無かった。
 そこでひらめいたのがお産にも似たこの行為だが、もちろんれいむはにんっしんっ! などしていない。
 しゅっさんっ! でもないのに、自力でまむまむを開いて餡子をひねり出すという、想像だにできない荒業。
 ともすれば一瞬で失神しそうな痛みを必死にこらえながら、れいむは最後の仕事にとりかかった。

「ゆふーっ…ゆふーっ…れいむのあんこさん……フーッ……ゆっくりでてきてねぇぇぇ…!!」

 そう言って、あらかじめちゃぶ台の下に置いておいた茶碗に目を向ける。

「このおちゃわんさんは…おにいさんがまいにちつかってるんだよ…きっとゆっくりできるんだよ…」

 そう…その茶碗は、れいむが前に持ってきた拾い物ではなく、男が3度の飯に使っている愛用品だった。
 れいむは、男が毎日これを使うのは、とてもゆっくりできるからだろうと考えていた。
 だからこれに餡子を満たせば、もっとゆっくりしてもらえると思ったのだ。
 いっぽう、れいむの行動を完全に勘違いしている男は、自分の茶碗を見て愕然としていた。
「なんのつもりだ……よせ……そこに○んこをするんじゃない」
 れいむの体勢と茶碗の位置を見れば、次になにが来るかは自明だ。
 男はブルブルと顔を振った。
「頼む……それは……俺の家に代々伝わる由緒ある品なんだ……」
 だが、ふすまを隔てた向こうのれいむには聞こえない。
 れいむは「ゆはぁゆはぁ」と荒い息をつきながらゆっくりと狙いをつけ、薄茶色の餡子汁がしたたるまむまむを全開にした。

「やめろ……やめでぐれ……や゙べる゙ん゙だあ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙ッ!!!!」
「ゆ゙ごお゙お゙お゙お゙お゙お゙お゙お゙お゙お゙お゙お゙お゙お゙お゙お゙お゙お゙お゙お゙お゙お゙お゙ッ!!!!!!」

 断末魔のような声が上がり、れいむのまむまむから水っぽい餡子がほと走る!
 ちゃぶ台の上から滝の勢いで注がれたその餡子汁は、男の茶碗に突撃して一瞬で中を満たし、飛沫はあたりを黒く汚した。
 体の中身を噴出させる苦しみに、れいむは気も狂わんばかりに悶絶した。

「「ゔわ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙ッッ!!!!????!!??」」

 男とれいむの絶叫がかぶった。



「はっ…はぁっ……ゆはあぁ…っ」
「あ…あぁぁぁぁ……」

 事が終わった後、れいむは目をつむって余韻にひたっていた。
 男は、ガックリと膝をついて脱力していた。
「なんということだ…俺に見られたくないことって、密室での朝うんだったのか…。はっ!? じ、じゃあ、俺が今まで食っていたものは…!」
 真実を知らない男は、間違った結論を下して全身をワナワナと震わせた。
 しばらく後、れいむは自分のまむまむが元どおり閉じたのを感じると、ちゃぶ台の上から倒れるようにボテッと落ちてきた。
 そして衰弱した体を叱咤して、餡子で汚れた畳を舐めて掃除すると、

「ゆっ! きょうはこのおちゃわんさんとあんこさんで、おにいさんをいっぱいゆっくりさせるよ!」

 と、宣言してから茶碗を咥え、なみなみと溜まった餡子をこぼさないよう慎重に這っていった。
 ふすまの前まで来ると、れいむはいったん茶碗を置いてふすまの端を咥え、「ゆん!」と力を出して開けた。

「びっくりー!」

 その瞬間、れいむは飛びあがってコロコロと転がっていった。
 誰もいないと思っていたふすまの先に人間がいたことに驚いたのだ。
 だが、それがこの家の主人であることがわかると、れいむは安心して笑顔になった。

「ゆぅ…おにいさんだったんだね! れいむはすごくびっくりしたよ! れいむをおどかさないでね!」

 だが、男は無言のままだ。
 心なしか、両目のあたりに暗雲がただよっている。

「ゆっゆっ! お、おにいさん! れいむは”かり”にいってきたよ! きょうもあんこさんでゆっくりしていってね!」

 男のただならぬ雰囲気に少々怯えながらも、れいむはニコニコしながら例の茶碗をコトと置いた。
「れいむ。その餡子、どこから出したんだ?」
 男の言葉に、れいむはビクッと震えた。
 そして、すべて見られていたことを賢くも悟ったが、れいむはなんとか誤魔化そうと試みた。
「ゆっ…! こ、これはれいむが”かり”で…」
「ずっとおかしいと思ってたんだ。トラバサミの古傷をかかえたお前が野良を倒して餡子を奪えるわけがないし、小豆を煮るなんて芸当できるわけもない」
「ぷ、ぷるぷる~!」
 れいむはぷるぷるっと震えながら後ずさりした。
「おまえは…俺を騙していたんだな…?」
「お…おにいさん…もっとゆっくり…」

 ガシャアァァン!!

「ゆひぃぃっ!?」

 茶碗が踏み砕かれ、苦労して出したれいむの餡子が飛び散った。
 愛用品さえ躊躇なく破壊する男の怒り。
 震えあがったれいむは、ポヨヨンとひときわ高く飛んで、ジャンピング土下座をした。

「ごめんなざいぃぃぃ!! あんこさんだすところをみられるの、はずかしかったんですぅぅぅぅ!!」
「うるせぇ! 寄るな!」
 ドムッ!
「ゆぎゃーっ!?」

 蹴っ飛ばされたれいむはすぐに立ち上がると、男の足元にズザーッと滑りこんでスライディング土下座をした。

「もぉうそつかないですぅぅぅぅ!! おねがいでずがらゆるじでぐだざいぃぃぃぃ!!」
「なにが許せだ!! 罠から助けてもらったくせに、○んこなんか食わせやがってこの野郎!!」
 ボムッ!
「ゆぼええぇぇぇぇ……ぎゃふんっ!!」

 またもや蹴っ飛ばされ、壁に叩きつけられたれいむは、ヨロヨロと体を引きずって戻ってくると、ペタンとうつ伏せになって体を平べったくした。
 れいむの最終手段、土下寝だ…!

「ゆ…おにいざん…これはうんうんじゃないでず…あんごさんでず…」
「まだ言い逃れするのかこの野郎!! ケツから出したものは餡子じゃなくて○んこだろうが!」
「ちがいまず…でいぶはうんうんしたことないでず…これは…れいむのまむまむからだしたあんごさんでず…」
「まだそんな嘘を…!」

 男はれいむに失望した。

「俺は罠にかかった挙句、つがいに見捨てられたおまえを可哀想になって助けたんだ! なのに、おまえは恩を仇で返しやがった!」
「しんじてくだざい……うんうんさんはかたいんです……でも、あんこさんはおみずみたいなんです……」
「嘘つけ! ちくしょー! ちょっとでもお前の○んこを食ってうまいと感じた自分に全力で号泣だぁ!」
「でいぶは…おにいさんにゆっくりしてほしくて…」
「俺は…恩人に後ろ足(ないけど)で砂をかけるような饅頭を、絶対に許さない!」

 怒りの収まらない男は、握った右手を振りあげた。
 れいむはそれを見ても逃げようとせず、最後まであれは餡子だと訴えつづけた。

 グチャッ…!!

 男が右手を振りおろすと、れいむの体はあっけなく破裂して餡子を撒き散らした。
 やはりゆっくりは害獣なのか…と落胆しながら雑巾を取りに廊下へ出たとき、家の前の畑にゆっくりらしき影がいることに気づいた。
 男は裸足のまま外へ駆けだした。

「おい! そこの黒いの!」
「ゆ?」

 呼ばれて振り返ったのは、野菜を盗んで食べていた野良ゆっくりまりさだった。

「ゆぎゃー!! にんげんはゆっくりできないいいいい!!」

 そのセリフに聞き覚えのあった男は、すぐにまりさを捕まえて質した。

「おまえ、まさかあのときの…」
「ゆゆっ!? ……ゆわあぁ!! れいむをたべたにんげんだぁぁぁぁぁぁ!!」
「やっぱりそうか」

 男はすぐに地面に叩きつけて潰してしまおうと思ったが、ふと気になったことがあって、まりさに条件を突きつけた。

「おいお前、助けてほしかったらうんうんしてみろ!」
「ゆゆっ!? まりささまのうんうんがみたいのぜ? おにいさんもとんだへんたいやろうなのぜ!」
「いいから早くしろ!」

 男がまりさを地面に下ろすと、まりさは下膨れた下あごをのけ反らせて「まりささまのうんうんゆっくりみていってね!」と唸りはじめた。
 ほどなくして、まりさのあにゃるから形をたもった餡子…うんうんがひねり出された。
 男はそれを拾って、よく確かめてみた。
 水分を失った餡子。
 それが率直な感想だった。
「水っぽくない……これがお前らゆっくりのうんうんなのか?」
 男が指につまんだそれをまりさに近づけると、

「ゆぎゃっ!? くさいいいいいい!! ゆっぐりでぎないいいいいいいいい!!」

 人間にとってはただの餡子。
 だが、まりさがしかめっ面になって飛びのいたため、うんうんの途中だったあにゃるの周りが黒く汚れた。

「ゆぅぅぅ…まりささまのくーるなあにゃるさんがよごれちゃったぜ! ゆっくりきれいきれいするのぜ!」

 わざわざそう宣言して、おしりを振って地面に汚れを擦りつけるまりさ。
 男は最後の確認を取るため、まりさの背後で足を上げた。

 ブチャアァァッ!!

「ゆぶおええええええええっ!!??」

 次の瞬間、ミソクソに踏みつぶされたまりさの体から、うんうんとは似ても似つかない水っぽい餡子が撒き散らされた。

「そんな…まさか…」

 男は自分の過ちを認めざるをえなかった。
 れいむの言葉は、真実だったのだ。
 「ゆ゙っ…ゆ゙っ…」と痙攣し、もはや助からないだろうまりさを捨てて、男はふたたび家に戻った。
 家の中は静まりかえり、居間の座布団の上には、生前と同じようにれいむの体があった。
「れいむ…ごめん…ごめんな…! ごめん…ごめん………………」
 男は、もはや口を開くこともないれいむの皮を抱きしめると、涙を流して謝りつづけた。

 れいむにとって幸せだったことは、男がゆっくりをよく知らないことだった。
 もし知っていれば、れいむは畑の害獣として最初に潰されていただろう。
 そして不幸だったこともまた、男がゆっくりをよく知らないことだった。
 もし知っていれば、れいむがくれた餡子はうんうんではないと、気付いたかもしれない……。


          *          *          *


「よし、今日の国語の授業はこれで終わりだ」
 そう言って、寺子屋の美しい女性教師はパタン…と教科書を閉じた。
「みんなはゆっくりを大切にするんだぞ」
 子供たちは「は~い!」と異口同音に応えた。
「感想文は明日提出だから忘れないようにな。じゃあ、気をつけて帰れ」
 子供たちは先生にさよならを言って、ワイワイと教室を出ていった。

「あ、あそこにゆっくりがいるよ!」
「ホントだ! 仲よくできるかな!?」
「行ってみよう!」
 子供たちは一斉に駆けつけていった。

「ゆゆ!? れいむとゆっくりしたいの? それならあまあまをもってきてね! おもちゃでもいいよ!」

 …まもなくれいむの断末魔が上がり、先生が寺小屋から飛び出していった。




作/ユ~カリ


~あとがき~
こんな話が教科書にのってたら大変だよ…(笑)
読んでくれたみんなありがとう!
4月から忙しくなっちゃたけど
これからも時間を作って書いてこうと思います。
またね♪


~書いたもの~
竹取り男とゆっくり1~10(完結)
暇なお姉さんとゆっくり
せつゆんとぺにこぷたー
悲劇がとまらない!
あるゆっくり一家のひな祭り

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最終更新:2022年05月19日 14:24