ゆっくり達を庇護するゆっくりまりさが居る。
最近、そんな噂が広まっている。
何でも、普通のゆっくりよりも遥かに大きな体を持ち、力も強く、知恵があり、優しい性格をしているという。
普通のゆっくりの様に人間の家や畑を荒らす事も無く、人間の子供と遊んだりもするという。
私自身は見た事が無いが、友人の子供が昨日会って来たと言う。
頭の上に乗せてもらっただとか、他のゆっくりを『高い高い』していたとか、俄かには信じ難い話だ。
だが、例え信じられなくてもそのゆっくりの守護者が存在するというのは恐らく事実なのだろう。
というのも、ここ最近畑や人家を荒らすゆっくりが急増しているのだ。
私の家も荒らされた。
捕まえて仲間等が居ないか拷問した所、ふてぶてしく笑って、
「おじさんなんかどすまりさがやっつけるよ!!ゆっくりあのよでこうかいしてね!!!」
等と口々に叫んでいた。そいつらは全て処分したが。
ドスまりさなるゆっくりが居る事は確からしい。
そして、その被害報告が無い事から、これが人間に害を成すという事が無いというのも本当だろう。
だが、私は思う。
確かにドスまりさ自体は人間にとって無害だろう。いや、子供達にとってはむしろ有益ですらあるようだ。
だが、他の普通のゆっくりに対して非常に悪い影響を与えている。
自分達には強力な守護者が居るのだから、何をやっても許される。
そういう認識がゆっくりの間に広まっているのだ。
ドスまりさがどういうつもりなのかは知らない。ひょっとしたらこんな事は知らないのかもしれない。
だが、事情がどうあれドスまりさというゆっくりにとっての力の象徴が邪魔なのは確かだ。
そう考えたのは私だけではないようで、首長に相談した所、同様の意見が多く出ているという。
急遽ドスまりさ対策委員会が発足し、その対処について話し合いが行われた。
三日三晩に及ぶ討論の末、出た結論は『ドスまりさの討伐』だった。
まあ、いくら実害が無いといっても所詮はゆっくり。害獣だ。
増してそれらの旗頭的存在であればこの結論に至るのは当然とも言える。三日も掛かったのは宴会してたからだし。
ちなみに、話し合いで解決しようと言う者も居たが、そう言ったのはゆっくリンピースのメンバーばかりだった。

早速ドスまりさ討伐隊が結成されることになった。
子供達の証言をまとめるとドスまりさは体高およそ5メートルはあるという。
その上運動能力はとてつもなく高く、外敵への対処もただ体当たりをしたりといった単純な物でもないらしい。
知恵があり体力もある巨大なゆっくり。非常に厄介だ。
猟師連中にも協力してもらい、体力自慢の数人でドスまりさ狩りを敢行する事になった。
私もメンバーに含まれていた。
正直私の体力は普通程度なので相当嫌だったが、『話の都合があるから』との事なので仕方が無い。
さて、そのドスまりさの居場所だが、これも子供達に聞いて巣の場所は分かっていた。
軽く緊張しつつ探す事15分、簡単に発見する事に成功した。
というか、時折大きな声と共にゆっくりが空高く放り投げられているのだ。わざわざ場所を聞くまでもなかった。
全員でドスまりさを包囲する様に近付き、声をかける。
「やあ、君がドスまりさかい?」
「ゆゆ?おじさんたちだあれ?ゆっくりできるひと?」
知恵があるといっても口調は普通のゆっくりと変わらないんだな。声は低いが。
「ああ、勿論さ。大きくて頭が良くて素敵なゆっくりが居ると聞いてね、こうして来たんだよ」
「ゆっ!それってどすまりさのことだよ!!」
「かっこいいー!」
「ふとくてながくてながもちでれんしゃしきだなんてあこがれちゃうなー」
「てってれるよ!ゆっくりおだてないでね!!」
周囲のノーマルに褒め称えられ、顔を赤くするドスまりさ。
ドスまりさの顔はその大きさのせいで極度に下膨れになっており、赤面してニタニタ笑ながら悶える様は気色悪さ千倍だ。
「ところでそんな頭が良くて大きいドスまりさに質問があるんだけれど」
「ゆっなあに?なんでもきいてみてね!!」
「……最近、人間の畑や家を荒らすゆっくりが物凄く増えてるんだけど、心当たりは無い?」
途端、それまで上機嫌だったノーマル達の顔が凍り付く。分かりやすい反応だ。
対してドスまりさはきょとんとしている。やはり知らなかったか。
「なななな、なんのこと!?」
「にに、にんげんのおうちやはたけなんてあらすわけないじゃん!!ばかなの!?」
「ちちちーんぽ!」
「ゆっ?みんなどうしたの?……ひょっとしてほんとうににんげんのおうちをあらしてるの!?」
ドスまりさがノーマル達に詰め寄る。なるほど、ある程度は分別がつくようだな。
「いったでしょ!!にんげんのおうちやはたけにかってにはいったらだめだって!!どうしてそんなことするの!!」
「しししししっしーらないっ!あっ!ちょうちょさんまって~!!」
「ゆゆゆ、ゆっくりしてくるよ!!」
「ちーんぽ!!」
ふん、守護者と言われるだけあって、ある程度はゆっくり達を指導もしていたのか。
いやはや、人間に教えられた訳でもないのに分別があり、他のゆっくり達を指導までしていたとは。
惜しいな。だが、手遅れだ。
「ちょうちょさゆびゅべぼっ!!?」
「がぼっ!!!」
「ぎゅぴっ!!!」
「ペニス!!!」
「あじゃぱー!!」
蜘蛛の子を散らすように逃げ出したノーマル達が次々に踏み潰される。
わざわざ逃がしてやる訳が無い。それに、この隙が欲しかった……!
ドスゆっくりはあまりに突然の出来事に対応できず、ぼうっとしていた。チャンスだ。
「総員抜刀!攻撃開始!!」
猟師達が一斉に銃を撃ち、私達一般人は槍やら日本刀やらの武器を構える。
「ゆ゛ぎゅぶぶぶ!!い゛だい゛!い゛だい゛!!や゛め゛でよ゛お゛お゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛!!!」
「何て頑丈な奴だ!まるで堪えてないみたいだ!!」
「怯むな!撃て撃てぇ!」
「あ゛や゛ばり゛ばずぅ!!み゛ん゛な゛に゛はぎぢんどいいぎがぜばずがら゛!!やべでぐだざい゛い゛ぃ!!」
命乞いまでゆっくりにしてはマトモだ。益々惜しいな。けど、こいつは立派な害獣だ。
それに、こうなった以上生かしておいては危険だ。
話しても無駄だと分かったのか、突如体を大きく膨らませて、こちらに飛び掛ってきた。
「危ない!避け……ろ……おぉ?」
高い。物凄く高いジャンプだ。軽く二十メートル以上は飛んでいる。
何て恐ろしい身体能力だ……これは何が何でも仕留めないといかんな。
そしてゆっくりと避ける。当たり前だ。あんなに高く跳んでは避けられない方がどうかしている。
「ゆぐぐぐぐ!もういっかい!!」
何と言うか、呆れて物も言えない。えーと、どうして銃まで持ち出したんだっけ?
その後も何度かドスまりさの大ジャンプ攻撃が続いたが、一向に当たらない。自殺志願者だけだよこんなの食らうの。
やがてジャンプ攻撃が無駄と悟ったのか、洞穴に逃げ込んだ。
「あ、しまったついぼーっとしてた!追え!追えー!!」
ぼーっとするなよ、とツッコミつつ追いかける。洞穴に入ると、何やら得意げなドスまりさが待ち構えていた。
「ゆっふっふ!ここならまりさのほうがゆうりだよ!ちのりっていうんだよ!!」
血糊?……地の利か。一体何を、と思った次の瞬間。突然ドスまりさが壁に向かって跳躍した。
「これは……?」
「ゆっふっふっふ!こうすればこうげきもよけにくいでしょう!!ゆっくりやられていってね!!!」
ドスドスと音が響く。本人は華麗に壁や天井を蹴って翻弄しているつもりなのだろうが、
いかんせん体が大きすぎる。はっきり言って物凄く狭い空間でスーパーボールが跳ねているようにしか見えない。
第一、壁にぐにゃあっとへばりついて弾性力を溜める間、ずっと攻撃対象を見つめているのだ。
ここでも体の大きさがネックになっている。力を溜める時間が妙に長い。ゆうに一秒はある。
余程鈍い相手でもない限り、簡単に先読みして避けられるだろう。
そもそもこいつ殆ど水平にしか跳んでないから、伏せれば普通に避けられる。駄目だ話にならん。
やがてこの攻撃でも駄目と悟ったのか、ぜいぜいと息を弾ませて別の攻撃を繰り出そうとしてくる。
ちょっと面白くなってきた。
「ゆゆゆ……おじさんたちなかなかやるね!!でもこれならよけられないよ!!ゆっぷっぷ!!」
口から何か噴き出した。毒かと思い、咄嗟に口元を覆うが、遅かった。吸い込んでしまった。
しばらくすると、何だか世界がぐにゃぐにゃと歪み始めた。何だこれ、そうだったコミケだコミケ!
ははは!今年のコミケは島中全部回っちゃうぞう!!ひゃっはー!同人誌だァー!!
おおお?あそこにいるのは……大御所様だー!うほほーい!!サインくれうひゃひゃひゃひゃ!!
……………………………………
……………………
…………
……

討伐隊は全員倒れている。あー段々意識がはっきりしてきた。
何だか全員で妙な事を口走りながら踊り狂ってたような。
「くそっ……まさか幻覚作用のある毒キノコとは」
「ん?……ああそうか。さっき奴が吹いたのは毒キノコだったのか……ってそうだ!ドスまりさは!?」
まさかあんな攻撃を繰り出してくるとは。油断していた!くそ、この隙に逃げられたら……って。
「ぶひょひょひょひょ!!らぁめだよぉれいみゅうぅ~もうすぐままがかえってくるんだからぁ」
「「「「「…………………………」」」」」
呆れた事に、毒キノコを噴射した本人が一番ラリっていた。
そりゃそうだ。手足が無いんだから、咀嚼しないとああはできない。
皆で微妙な顔を浮かべてドスまりさを眺め続ける。やがて正気に戻るドスまりさ。もう帰って良いかな?
「ゆゆ!どくきのここうげきでもたおせないなんて……こうなったらおくのてをつかうしかないね!!!」
まだあるのか。もう面倒臭いから帰りたい。
「こんどのこんどはおじさんたちでもあうとだよ!!とくべつなきのこでぴかっとしてやいてあげる!!!」
「ピカっとして……焼く?」
「おい、ひょっとして霧雨魔理沙のアレの事じゃ……」
「な!じょ、冗談だろ!」
「あんな攻撃やられたらひとたまりも……!!」
「ゆっくりすぱーく!!ゆっくりしんでいってねぇーん!!!」
ドスまりさが口を大きく開くと、強い光が口から漏れ出た。ヤバイ!!あの光だ!!
「うわあああああぁぁぁぁぁ………………って、あれ?」
「何だ?」
「何とも無いぞ」
「あ、あぁ?」
「ゆゆ!!どうなってるの!?どおしていきてるのおおおおおおおおおおおおおお!!!?」
どうやらただ光っただけらしい。
考えてみれば、例の光線はキノコの他にも特殊な道具を使っているという。それが無ければ単に派手なだけなのだろう。
「…………で、もう品切れか?」
「みたいだな」
「それじゃそろそろ殺すか」
「何かもう馬鹿みたいだな」
「ま、所詮ゆっくりって事だろ?」
「違いない」
「ままままままって!!ゆっくりしようよ!!まりさはいいゆっくりだよ!!きっとおじさんたちともなかよく……」
「お前の実態が何であれ、有害なのは変わりない。じゃあな」
「も゛っどゆ゛っぐりじだがっだよ゛お゛お゛お゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぎゅぶっ!!!!!!!」

ドスまりさを討伐して一週間、ゆっくりによる被害は以前よりも格段に少なくなっていた。
それどころか、あの森に住むゆっくり自体がどこかへ移動したらしい。
まあ、あんなに大きなゆっくりがやられたとあっては、流石のゆっくりも危機感を覚えるんだろう。
悩みの種が少し減って、皆ゆっくりとした日々を過ごしていた。

MISSION COMPLETE!!



作:ミコスリ=ハン

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最終更新:2022年04月16日 23:39