「ゆっくりしていってね!!!」
 うだるような暑さの中、縁側でボーっとしていた俺の近くでそんな声が聞こえてきた。
「ん?」
 暑さでまいっている体を無理矢理動かして、声の下方向を向くと、そこにはゆっくり一家の姿が有った。
「なんだ。ゆっくりか。どうしたんだ?」
「ゆっくりしてたらここについたんだよ!!!」
「おにーさん!! ここはいまからまりさたちがあそぶから、おじさんはじゃましないでね!!!」
「はいはい」
 生憎熱くてそんな気は起きない。
 しかも俺に虐待の趣味はない。
「ゆっくり~~~♪ していってね~~~♪」
「ゆ~~♪ っくり~~~していってね~~~~♪」
「「「ゆ~~!! おか~しゃんたちすぎょ~~い!!!!」」」
 こんな暑い中、良くそんなにはしゃいでられるなぁ。
「ゆゆ!! おに~さん!! それはなぁに?」
 一匹の赤ちゃん魔理沙が、俺の足元までやってくると興味津々なご様子で尋ねてきた。
「これは、桶に水を張ってるんだよ。こうすると涼しいんだよ」
 それでも熱くなっていた。
 ……ぬるいな……。
「ゆゆ!! おにーーさん!! これもれいむたちがあそぶよ!! だからどいてね!!」
「そうだよ!! あかちゃんたちがあついあついしてるからすずしくさせるんだよ!!!」
 ……、いや涼しくって言ってもなぁ。
「お前等が水の中に入ったら解けちまうだろ?」
「はぁ? おにーさんばかなの? れいむたちがとけるわけないよ?」
「ぷぷぷ!! おにーさんはばかなんだね!! だからこんなところでぼーっとしてるんだね!!!」
 何言ってんだ?
 もしかして今まで川や湖に言った事がないのか?
「お前等は知らないのかもしれないけどゆっくりはかわやm……」
「うるさいよ!! れいむとまりさがだいじょうぶっていってるんだよ!!」
「そうだよ!! このみずはぬるいから、さっさとあたらしみずをくんできてね!!!」
「「「ばかにゃおにーしゃん!! はやくちてね!!!」」」
 ……。
 どうなっても知らないぞ。

 ――

「ほら、汲んできてやったぞ!」
「ゆ!! おそいよ!! やっぱりおにーさんはがかなんだね!!!」
「そうだね!! もっとてきぱきとうごいてね!!!」
 ぶつくさ文句を言いながら、桶の周りに赤ちゃんを集める母親達。
「ゆっくりはいってね」
「ゆっくりはいりゅよ!!!」
 ザッブゥ~~ン
 景気の良い音を出して、岡ちゃんゆっくり達が中へ飛び込んでいく。
「ゆ~~~♪ つめたくてきもちい~よ♪」
「しあわせ~~~~♪」
 何とも気持ち良さそうな表情を見せてくる赤ちゃん達。
「ゆゆ!! よかったね!! おにーさん!! どこにとけてるあかちゃんがいるの?」
「やっぱりばかだね!! まりさたちのほうがあたまがいいみたいだね!!!」
 得意げな顔を俺に向けてくる母親。
 仕方がないから、このまま様子を見届けてやろう。
「ゆ!! こうするともっときもちい~よ!! ぴゅ~~~♪」
「ゆっゆ!! ちゅべた~い!!」
「おか~しゃん!! こっちにもやっちぇね!!!」
「ぴゅ~~♪」
「ゆっゆ♪」
 水を口に含んで、赤ちゃん達にかけ始めたのはお母さん魔理沙だった。
「ゆっゆ!! おに~さんはばかだね~~♪」
 そして、そんな事を言いながらずっと俺を見続けているのはお母さん霊夢。
 まさしく、下等なモノを見下すような表情で俺の事を見ている。

 ――

「ゆ~~~♪ ゆ~~~♪」
「ゆっゆ~~~~♪」
 それから十分ほど経っただろうか?
 相変わらず赤ちゃん達は元気に桶の中ではしゃぎ回っている。
「ぴゅ~~~♪」
 そして、水をかけ続けるお母さん魔理沙と。
「ゆっゆ~~~♪ あかちゃんはれいむたちみたいにりこ~だね~~~♪」
 俺から視線を外したが、未だに勝ち誇ったような表情をしているお母さん霊夢。
 いずれも楽しそうな表情の親子がそこに居た。
「……!! ゆ? ゆゆ!!!」
 最初に表情を変えたのは赤ちゃん達だった。
「おか~~しゃん!! なにかへんじゃよ!!」
「からじゃがへんだよ!!!」
「ゆ? きっとおみずがあったまってきたんだね!! さっさとばかなおにーさんにかえさせるから、いっかいあがってね!!!」
 俺に、と言う事は聞き流すとして、やはりこの危機に気付いていないお母さん魔理沙は、赤ちゃん達に上がってこいと命じた。
「ゆ!! あぎゃりゅよ!! ……ゆ~~~、ゆ゛!!!」
「? あああああ!!!!! あがじゃんがーーー!! どーーーじでーーー!!!」
 水から上がり、桶の縁に体を乗せた瞬間、柔らかくなった体が破れ、どろどろと餡子が流れ出していく。
「ゆーー!! おがーーしゃーーん!!!!」
 見れば、あっちでもこっちでも赤ちゃんは餡子を流しながら絶命していく。
 残っているのは、その様子に驚いて桶の中に戻った数匹だけだ。
「ゆーーー!! どうじでーーー!! れいむのあがじゃんたじがーーー!!!」
「なんでーー!! さっきまでゆっくりしてたのにーーー!!!!」
 先ほどの表情とは打って変わって、顔を真っ赤にして泣き叫んでいる母親達。
 その目線の先には残った赤ちゃん。
「そのままうごかないでね!! ゆっくりそこにいてね!!!」
「うごいたらだめだよ!! いまおかーさんたちがゆくりかんがえるからね!!!」
「ゆーー!! わぎゃっだーーー!!!」
「ここでゆっぎゅりじでるーー!!!」
 桶に赤ちゃんを入れたまま、うんうん言いながら考え続けている。
 でも、そろそろ時間切れだろう。
「ゆーーー!! おがーーしゃーーん!!」
「れーみゅのからじゃがとげでるーー!!!」
「どどどどどどうじでーーーーー!!!!!!」
「あああああ!!! まっででね!! いまだすげるよ!!!!!」
 桶の中で解けていく赤ちゃん達を救うために、お母さん魔理沙が桶の中へ飛び込んだ。
「ゆっくりこのなかにはいってね!!」
 大きな口を開け、中に赤ちゃんを入れる。
「ゆ!! いまそとにでるから……ね?」
 ああ、どうやら口の中で解けちゃったらしい。
 今頃、口の中には餡子の味が広がっているんだろーな。
「……? まりざーーー!! ど^じだのーー?」
「ゆゆゆ!! あがじゃんが!! まりざのぐちのなかでとげじゃっだーーー!!!」
「ゆゆゆ!!!! どーじでーーー!!!!!」
「わがらないーーーーー!!!!!」
「水の中に入ったからに決まってるだろ」
 この様子じゃ、何時まで立っても頭を抱え込んでいそうなので、代わりに説明してやる。
 納得するかどうかは別として。
「ゆゆ!! おにーざんはがかだよ!! れーむたちがとげるわけないもん!!!」
「ぞーだよ!! きっどおにーさんがおみずになにがいれたんだよーー!!!」
「ゆゆ!! そんなごとするおにーざんはゆっぐりしねーーーー!!!!」
「まりさたちのあがじゃんに、ひどいことをしたあにーざんはゆっぐりしねーーー!!!」
 やっぱり、こいつ等に説明しても無駄だったか。
「それなら、お前等が川に入ってみたらどうだ? それで解けなかったら、おれがした事にしても良いぞ?」
 この方法は使いたくなかったが、仕方あるまい。
「ゆ!! ばかなおにーざんだね!! ぞんなこどしなぐでもきまっでるのに!!」
「そうだね!! でも、せっがくだがらまりっさだちがつぎあってあげるよ!!!」
 未だ泣き喚く二匹の後を追って近所の川へ、見つけた瞬間に二匹は勢い良く飛び込んでいった。
「ゆ~~~♪ れいむたちはとけてないよ!!」
「そうだよ!! やっぱりおにーさんはうそつきのおおばかものだね!!!」
 入った途端にいち早く勝利の表情を浮かべて、再び俺を罵倒し始める。
 でも、桶と違い流れの速いこの川では、その時間もあまり残っていなかった。
「? ゆゆ!! れーむのからだがとけてるよ!!」
「!! まりしゃのからだも!! なんで?どーじでーーー!!!!」
「だから初めに言ったじゃないか。解けるぞって」
「「!!!!」」
 ここまで来て、漸く二匹は新しい知識を身につけたらしい。
 しかし、それを活用する機会はもう無い。
「ゆーーー!! おにーーさんたずけでーーー!!!」
「にんげんはおよげるんでしょ? まりさたちをはやくたすけてーー!!!」
 既に半分解け始めている体を酷使し、大声で俺に助けを求めてきた。
「おにーさんはばかだから、およぎかたなんてしりませーーーん!!!」
「!! ぞんなごどないよーーー!! おにーさんはれいむたちがとけることをしっでだよーーー!!!」
「あたまがいいおにーさん!! まりさたちをたすけでーーー!!!!」
 もう無理だ。
 あの状態ですくい上げても、自重で餡子が溶け出すだろう。
「あああーーー!! れいむのながみがでてるーーー!!!!」
「まりざのながみもーーーー!!!!!」
 断末魔を聞くのは忍びないので、俺は静かにその場を後にした。
「「ゆっぐりしたけっかがこれだよーーーー!!!!!」」

 家に帰った俺は、好物の鍋焼きうどんをゆっくりパチュリーと一緒に啜った。
「むきゅ!! ばかはしななきゃなおらないのよ!!!」


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最終更新:2022年05月03日 18:03