ぬるいじめです
「ふんふんふふーん♪」
「…」
「よし、出来た!!!」
今俺の目の前には四角い弁当箱。
ご飯に醤油をつけた海苔を乗せ、おかずには卵焼きウインナー、ブロッコリー等々。
これは自分で食べるために用意した訳じゃない。
休日もせかせか働きに行く妹のために拵えたんだ。
「えっと、ハンカチハンカチ…」
「ゆ? いいにおいがするよ!!!」
「たべものさんのにおいなんだぜ!!!」
弁当箱を包むハンカチを探していると、弁当の周りをうろうろする饅頭二匹。
我が家で飼育しているゆっくり。れいむとまりさ。
「よくわからないけど、おいしそうなんだぜ!」
「おにいさん、これなぁに?」
「これはお弁当だ。あ、今起きたのか、おはよう」
「…ん~、おはよう…」
目を閉じたまま返事をする我が妹。
「おべんとうってなに?」
「たべていいのかだぜ?」
「お弁当ってのは持ち運びするごはんの事だ。食べちゃダメだぞ。妹のために作ったんだから。」
「れいむもおべんとうほしいよ!」
「まりさも、まりさもほしいんだぜ!」
「アホか。何でいつも家にいるお前らのために作らにゃいかんのだ」
二匹を軽くいなしながら弁当箱を包む。
「…これでよし」
「ん~、あ、兄ちゃん弁当作ってくれたの? ありがとお。」
弁当包みをバッグに入れ、のろのろと玄関に向かう妹。
「おねえさん、れいむたちもおべんとうさんたべたいよ!」
「まりさも、まりさもたべたいんだぜ!」
俺に言っても仕方ないと悟ったのか、妹におねだりする二匹。
「ん~、兄ちゃん、れいむとまりさにもつくってあげてくれない?」
「えっ、何で?」
「えへへ…、兄ちゃんたのむよ~」
「あ、ひっつくな、こらやめろ! …はぁ、しょうがない。今回だけだぞ」
我が妹は特に意味もなく頼み事をするときにじゃれついてくる癖がある。
別にたいした頼み事でもないので毎回頼み事を聞いている。
今回も、俺の負け。二匹に弁当をつくってやらなきゃならない。
「兄ちゃん、ありがとね~、いってきまーす。」
時間に余裕を持って行動しているため、のんびりと駅に向かう我が妹。
何でもかんでも言うこと聞いてやって、すこし甘やかしすぎかな。
「おにいさん! れいむおなかすいたよ! はやくおべんとうさんつくってね!!!」
「まりさも! まりさもおなかすいたんだぜ!!!」
ぴょんぴょんと足下を跳ねる二匹。
こいつらも結構甘やかしてるからなぁ…。
そのうち全員まとめて説教してやろうかしら。
まぁ、いいや。適当に作って食わせておしまい。
[キラキラ]
………………
[キラキラ]
……………
[キラキラ]
…………
[キラキラ]
………
[キラキラ]
……
[キラキラ]
…
よほど待ち遠しいのか、キラキラした目でじっと俺を見つめる二匹。
「そんなに見られるとやりづらいんだが…」
「ゆ!? ごめんね! ゆっくりあっちにいくね!」
「おべんとうさんができたらよんでほしいんだぜ!」
ぴょんぴょんと部屋の方に向かう二匹。
[キラキラ]
…………
壁から半身だけ出してこちらを伺うれいむ。
まりさはれいむに乗って同じように半身だけ出してこちらを伺っている。
…何だこの状況?
なんか、こう、見られてるときちんとやらなきゃって思ってしまう。
[キラキラ]
………
「ふぃ~、まず一個…」
[キラキラ]
………
「これでよし、と。」
ついつい気合いを入れて作ってしまった。
「できたの!? おべんとうできたの!?」
「おなかすいたんだぜ! おなかすいたんだぜ!」
一段落すると二匹とも、出来上がったことを察知したのか、こちらに向かってぴょんぴょん跳ねてきた。
カシャ! カシャ!
二匹に食わせる前にデジカメ撮影。
出来がいいから後でブログにでも載せるのだ。
「ゆ? おにいさんなにやってるんだぜ?」
「え、カメラに収めてるの」
「かめら? なにそれゆっくりできるの?」
「出来がいいからな。写真に保存しとくのさ」
「「?」」
二匹には理解できなかったようだな。
ま、いいや。
とりあえず、俺の自信作に腰を抜かしてもらおうか。
「とりあえず。ほれ、お前らの弁当」
「ゆー! れいむがいるよ!!!」
「すごいんだぜ! まりさがいるんだぜ!!!」
おー、二匹とも食い入るようにじっと見つめてら。
俺が二匹に用意したのはいわゆる「キャラ弁」
れいむにはれいむを摸したものを、まりさにはまりさを摸したもの。
どちらも吹き出しで「ゆっくりしていってね!!!」を入れているのもポイントだ。
「おにいさん! すごいよ! おべんとうさんのなかにれいむがいるよ!!!」
「ゆーん! すごくゆっくりしてるんだぜ!!!」
俺の予想以上に気に入ってくれたみたいだ。よかったよかった。
「それは重畳。冷める前に食いな」
「「はーい!!!」」
「………」
「「………パァァァ」」
「………」
「「………パァァァ」」
さっきから顔を煌めかせて見入ってはいるが、いっこうに食べようとしない。
ってか、腹減ってるんじゃなかったのかこいつら?
「お、おい、お前ら…」
「ゆ? ゆ、ゆ! すっかりゆっくりしちゃってたよ!」
「たべるのがもったいないんだぜ!」
そこまで気に入ってももらえるのはうれしいが…。食わないつもりかこいつら?
「れいむのおべんとうさん、ゆっくりあじみさせてほしいんだぜ!!!」がぷっ!
「ゆー! まりさなにするの!」
「むーしゃ、むーしゃ、めちゃうまー!」
ありゃ、まりさがれいむの分の弁当にかじりついちゃったよ。
「ゆわーーー!!!」
「なんだなんだ?」
「れいむのれいむがー!!!」
何事かと思い見てみる。
何のことはない、れいむ弁当のれいむの頬の部分に穴が開いてそこから鳥そぼろが見えているだけだ。
「れいむ! あんこさんがでてるよー!」
…なるほど、鳥そぼろを餡子と勘違いしただけのようだ。
「ひどいよまりさ! れいむのれいむがー!!!」
「ゆー、ごめんねれいむ…」
れいむがぽいんぽいんと跳ねる。まるで癇癪を起こした子供だな。
「あ」
がつん!
れいむ弁当がれいむにはじき飛ばされた。
幸い弁当はひっくり返ってなかったが…
「ゆぎゃー!」
れいむが叫ぶ。
そこには中身がぐちゃぐちゃになり、スプラッタ状態のれいむ弁当が。
……まるで死体だな。れいむの死体弁当。
「ゆわーん! ゆわーん!」
「悪い子にはぁ………おしおきィ!」
どむっ!
「ゆぶっ!」
まぁ、どんな理由があるにせよ、食事中に暴れ回って弁当を台無しにした罪は重い。
俺はれいむにチョップをお見舞いしてやった。
「ご飯の時は騒ぐなって言ってるだろ!!!」
「ごめんなさいー!」
と、まぁれいむをしかっている最中にまりさが自分用のまりさ弁当を食べ始める。
「ゆ! すごいんだぜ! まりさのほっぺさんたべたらあんこさんが出てきたんだぜ!!!」
まりさ弁当のまりさは中身が海苔の佃煮だ。こしあんらしいのでそれを再現したのだ。
まりさはれいむと違い、夢中になって弁当にがっつく。
れいむはめそめそしながら弁当をもそもそ食べる。
れいむ種は物に対する執着心が強くて、まりさ種はそんなに強くないと見た。
「ごちそうさまなんだぜ!!!」
「ごちそうさまだよ…」
まりさは幸せいっぱいの表情、れいむはいかにも不幸せな感じ。
「れいむ、ごはんたべたからいっしょにあそぶんだぜ!!!」
「ゆ、わかったよ!!!」
遊ぶ。といっ瞬間にれいむはまたニコニコ笑顔に戻った。単純なやつ。
さて、俺は料理の後片付けとかしないとな。
ふぅ、とりあえず終わった。
「……!…!」
ん、なんか騒がしいな。
俺はれいむたちが居る部屋のドアを少しだけ開けて中の様子を見てみた。
「ごるああぁぁ!!! てめぇなにアタイのメシよこどりしとるんじゃ、このぼげええぇぇぇ!!!」
「ゆー! ごめんなざい! ごめんなざいいいぃぃぃ!!!」
「てめぇのせいであにさんになぐられたじゃねぇか、このスカタンがああぁぁぁ!!!」
「ずいまぜんんん!!! できごころだっだんでずううぅぅ!!!」
普段の温厚なれいむからは想像だにできない迫力でまりさに体当たりするれいむ。
なんだ! あいつ、やれば出来る子だったのじゃあないか。
その後、昼飯時になると、二匹はさっきの喧嘩が嘘であったかのようにいつも通り仲良く食卓に並んだ。
ただ、まりさだけひどく怯えていたように見えたが…気のせいだろう。
おわた
ドスまりさとゆうかを書いた奴
最終更新:2022年05月03日 20:39