♂れいむを探して
作者:白兎

※虐待シーンはほとんどありません。
※独自設定。
※ぺにぺにの描写があります。




「ゆっくりしていってね!ゆっくりしていってね!」

ある晴れた日曜日。人気のない山道を登る、一人の男がいた。
男は、あの喋る饅頭独特のフレーズを真似ながら、ゆったりと歩を進めている。

「ゆっくりしていってね!ゆっくりしていってね!」

この男、別に頭がおかしくなってしまったわけではない。
彼は、ゆっくりブリーダー。ゆっくりの飼育と販売を業とする者だ。
この掛け声も、ブリーダーたちが野生のゆっくりを探すときに使う常套手段である。

「ゆっくりしていってね!ゆっくりしていってね!」

男が探している獲物、それは、♂れいむ。
ゆっくりに雌雄なんかあるわけないだろ、と思われた方、ごもっとも。
しかし、♂れいむというのは、ブリーダーの間で、ぺにぺにのあるれいむを意味する。
いわば業界用語だ。

ぺにぺにのあるれいむ。
ご覧になったことのある方は、意外と少ないのではなかろうか。
確かに、ゆっくりには雌雄がない。
なぜなら、どんな個体であれ、子を産むことができるからだ。
しかし、それは植物型にんっしんに限ったときの話である。
動物型にんっしんをするためには、母体にまむまむがなければならないし、
相手のつがいにはぺにぺにがなければならない。
したがって、動物型にんっしんに関して言えば、ゆっくりには雌雄があると言える。

しかも、ぺにぺにとまむまむの保有率には、種族毎に偏りがあることも知られている。
例えば、ありす種なら、およそ1:1の割合で、♂ありすと♀ありすが生まれる。
れいぱーになるのは♂ありすだけで、♀ありすにその心配はない。
ところが、まりさ種の場合、♂まりさと♀まりさの比率が、約9:1と偏る。
つまり、10匹のまりさがいたら、期待値的には1匹の♀まりさしかいないのである。
実際、ゆっくりショップに行って、観察していただくとよい。
店員から変態と思われないように注意しなければならないが。

話を本題に移そう。
いったい、♂れいむが生まれる確率は、何分の一なのか。
驚くなかれ、自然界において、♂れいむが生まれる確率は、実に1000分の1。
平均的な10個の群れを探して、1匹いるかいないかである。
そのため、♂れいむには、珍種として高値が付けられているのだ。

ここまで話せば、賢明な読者諸君には、もう男の目的がお分かりであろう。
男は、この金の卵を探しに、休日を利用して、はるばる山へと分け入った次第である。

「ゆっくりしていってね!ゆっくりしていってね!」

男は、どんどん山道を登っていく。
少しばかり恥ずかしいが、ここはブリーダー魂の見せ所だ。
30分ほど無為に過ごし、だんだんと喉が痛くなってきたところで、
ようやく茂みの中から返事が聞こえた。

「「ゆっくりしていってね!」」

男が振り向くと、まりさとちぇんが1匹ずつ、茂みの中からさっと飛び出した。
これが虐待お兄さんだったら、一生後悔するはめになったであろう。

「おにいさんはにんげんさんだねー。わかるよー。」

ちぇんは、2本のしっぽを器用に振り、男の足下に擦り寄ってくる。
どうやら、この山に住むゆっくりは、人間をあまり怖がらないようだ。
それに、男の目から見ても、なかなか可愛い個体に思われた。

「まりさはまりさなのぜ。このおやまは、まりさたちのゆっくりぷれいすなのぜ。」

こちらのまりさも、ちょっと生意気そうだが、ゲスではないように見える。
2匹とも、家に持って帰れば、いい飼いゆっくりになってくれるかもしれない。

と、いつもの癖で値踏みをしているうちに、男は、本来の目的を思い出した。
とりあえず友だちになろうと、持って来たミールワームを差し出す。
虐待お兄さんなら、手間を省くためにチョコレートでも渡すところだが、
人間界にしか存在しないような極端に甘い食べ物は、生態系の破壊に繋がってしまう。

「ゆゆ!いもむしさんだね!まりさたちにくれるの?」
「ああ、ちょっと穫り過ぎたから、お裾分けしてあげるよ。」
「おにいさんはいいひとなんだねー。わかるよー。」

以前、別の山に登ったときは、怪しまれて一口も食べてくれなかった。
どうやら、この山のゆっくりは、本当にゆっくりしているようだ。
警戒心を解く手間が省けた男は、早速、用件を切り出すことにした。

「実はね、ぺにぺにのあるれいむを探してるんだけど、知らないかな。」
「「……。」」

男の質問に、2匹は、眉をひそめてお互いを見つめ合う。
やはりそう上手くはいかないか。
男が諦めて別れの挨拶を告げようとしたそのとき、2匹は、同時に口を開いた。

「しってるのぜ。ぺにぺにのあるれいむ。」
「ちぇんもしってるよー。」

男は、仰天した。
まさか、これほど早く見つかるとは。
望外の展開である。
ところが、内心ガッツポーズを決めかけた男に向かい、2匹は、さらに言葉を継いだ。

「でもぺにぺにのあるれいむはへんなのぜ。あわないほうがいいのぜ。」
「ぺにぺにのあるれいむはきもいよー。わかれよー。」

なるほど、これも本で読んだ通りだ。
♂れいむは相当な低確率で生まれるため、ゆっくりの間でも、
奇形と認識されてしまうことがあるらしい。
この群れでは、おそらく、奇形れいむとして蔑ろにされているのだろう。
滅多にないチャンスだ。
男は、勝手にそう解釈した。

「お兄さんは、そういうれいむが好きなんだよ。」
「ゆゆ、さてはおにいさんHENTAIなのぜ?」

まりさが、にやにやしながら男の顔を見上げた。
どうやら、HENTAIお兄さんと勘違いされてしまったらしい。
だが、この2匹にどう思われようと、山を下りてしまえば、関係のない話である。
男は、適当に相槌を打ち、そのれいむの巣に案内してもらうことになった。
帰り道を探すため、木に目印を付けておくのを忘れない。
こうして、男は、逸る胸を抑えつつ、ゆっくりと山道を後にした。



なんとか人の通れそうな茂みの間を歩き続けて30分後。
男は、ようやく、♂れいむがいるという巣穴に案内された。
それは、少し切り立った崖にある横穴で、入り口の大きさは犬小屋くらいある。
1匹で暮らすには、ちょっと贅沢過ぎるように思われた。

「あそこにぺにぺにのあるれいむがいるよー。でもほんとにきもいよー。」
「まりさたちはここでおわかれなのぜ。あのれいむとはゆっくりできないのぜ。」

そう言い残すと、まりさとちぇんは、何かから逃げるように、そそくさと背を向けた。

「オッケーオッケー。ありがとね。」

この方が、男としても都合がいい。
男は、2匹が森の中へ去って行くのを見送ると、早速、巣穴を覗き込んだ。
暗くてよく分からないので、とりあえずいつもの手を使ってみる。

「ゆっくりしていってね!」
「ゆっくりしていってね!」

返事の反響具合からして、なかなか奥行きがあるようだ。
もしかすると、苛められるのが怖くて、奥に引っ込んでるのだろうか。
男がそんなことを考えていると、意外なことに、れいむの方から姿を現してくれた。

「ゆっくりしていってね!」

そう言って誇らしげに突き出された下顎には、勃起したぺにぺにがそそり立っている。
ちょっとすりすりして確認するつもりだったが、その手間は省けたようだ。
しかし、なぜ勃起しているのだろうか。
まさか、すっきりの最中にお邪魔したというわけでもあるまい。

「ゆふふ!おにいさんもれいむのぺにぺにみたいんだね!ゆっくりみていってね!」
「はぃい?」

男は、思わず素っ頓狂な声を上げてしまう。
何を言ってるんだこのれいむは。
だが、そんな男の疑問を他所に、れいむはぐいっと下顎を突き出してみせた。

「おにいさん!れいむのぺにぺにすてきでしょ!」
「え、あ、はい、まあ……。」

若干混乱しているせいか、男は、しどろもどろになってしまう。
まさか、この歳になって、れいむ種ごときに戸惑うとは。
ブリーダーの名折れである。

「れいむのぺにぺにはわいるどでたふねすなんだよ!れいぱーもびっくりなんだよ!」
「……。」
「しかもまだいちどもつかったことのないしんぴんさんなんだよ!すごいでしょ!」
「……。」

きんもー☆
男は、心の中で突っ込みを入れた。
そして、あの2匹の言ったことを、今さらながらに思い出す。
このれいむ、ぺにぺにがあるからきもいのではない。
露出狂だからきもいのである。
これでは、街中で全裸にコートの変態お兄さんと変わらないではないか。

「れいむおそとでもみんなにぺにぺにみせてあげるんだよ!」
「……で、反応は?」

男は、何とか平静を取戻そうと努力する。

「みんなしゃいだからはずかしがってにげちゃうんだよ!でもれいむがんばってるよ!」

いや、それは変態が来たから逃げてるんだろう。常識的に考えて。
そもそも何を頑張ってるんだ。
自分が気持ちいいからやってるだけじゃないのか。
男の脳内で、突っ込みの嵐が渦を巻く。

一体全体、どうすれば、これほどまでにおかしなれいむが生まれるのだろうか。
♂れいむにこのような性癖があるなど、本には載っていなかった。
だんだんと冷静になってきた男は、このれいむに興味を持ち始めた。
自分の中で、好奇心がむくむくと頭をもたげるのを感じる。
あくまでも、好奇心だけである。

「ねえ、れいむ、どうしてそんなにぺにぺにを見せたがるんだい?」

男が予想していた答えは、そうすると気持ちいいから、だった。
ところが、れいむは、全く別の言葉を返してくる。

「ゆゆ!それはね!れいむがぺにぺにをみせるとみんなよろこぶからだよ!」

どういうことだろうか。
群れのゆっくりが気味悪がっていることは、先程のまりさとちぇんで証明済みである。
男は、とりあえず質問を続けることにした。

「みんなって誰のこと?」
「むれのみんなだよ!れいむはちっちゃいころからぺにぺにをみせてあげてるんだよ!
まりさおとうさんがいったんだよ!れいむはとってもめずらしいこだって!」

男は、ようやく事情を察した。
このれいむ、見栄っ張りな親の犠牲者に違いない。
おそらく、まりさつむりの場合と同じように、珍しい子どもが生まれたので、
親が他のゆっくりたちに見せて回ったのだろう。

「まりさにすごいあかちゃんがうまれたんだよ!ほらぺにぺにだしてごらん!」
「ゆっくち!こりぇがれいみゅのぴぇにぴぇにしゃんだよ!」
「すごいね!このれいむぺにぺにがあるよ!」
「ぺにぺにがあるれいむなんてすっごくめずらしいね!」
「れいむのくせにぺにぺにがあるなんてとかいはだわ!」

まあ、こんな感じの会話があったことは、だいたい想像がつく。
そして、このれいむは、親に言われるがまま、群れの前でぺにぺにを披露し続け、
その度に賞賛を受けたため、今や立派な露出狂となってしまったわけである。
赤ゆにならば許された行為も、成ゆがやっては群れ八分にされて当然だ。
もっとも、当のれいむ自身には、嫌われているという自覚が全くないのだから、
群れとしては、もはやお手上げ状態であろう。
あの2匹のように、なるべく巣に近付かないようにする他ない。

一方、そんなれいむを前にして、男は酷く落胆していた。
露出狂のゆっくりなど、いくら珍しいとは言え、誰も引き取ってはくれないかもしれない。
成ゆになっているので、躾け直すのも相当難しいはずだ。

しかし、登山用品の購入などで、男の懐は、既に大幅な赤字となっている。
何も無いよりはマシだろうと思い、男は、露出狂れいむを連れて帰ることにした。

「ねえ、もっといろんな人にぺにぺにを見せてみないかい?」

自分でも引いてしまいそうな発言だが、ここは我慢するしかない。

「ゆゆ!?どうするの!?」

れいむは、体を乗り出し、男の誘いに食いついてきた。
これなら、抵抗されずにお持ち帰りできそうである。
わざわざ用意したラムネは、全く必要なかったようだ。

「お兄さんが、れいむを街へ連れて行ってあげるよ。そこには、人間がたくさんいるからね。」
「すごいね!れいむぺにぺにみせほうだいだよ!」

いったいどれだけ嬉しいのやら。
れいむは、ぺにぺにをおっきさせたまま、辺りぴょんぴょん飛び跳ねた。
男は、半ば呆れ返りつつ、持参した捕獲ケースにれいむを案内する。

「ゆゆっ!せまくてゆっくりできないよ!でもれいむがんばるよ!」
「ああ、頑張ってくれ。」

男は、透明なケースをぶら下げ、目印を頼りに、元来た道を戻って行った。



「さてと、どうしたもんかね。」

ここは、男の家。
あの後、男は、れいむを無事に家までお持ち帰りすることに成功した。
途中の電車で、れいむがぺにぺにを勃たせながら大声を出してしまい、
新手の変質者と間違われそうになったが、それは手間賃と考えることにする。

「とりあえず売値を決めないとな……。」

3:3:3:1の法則というのをご存知だろうか。
これは、もともと飲食店業界の俗語で、メニューの値段が、
材料費3割、施設費3割、人件費3割、店の利益1割で決まるという法則である。
例えば、1000円のハンバーグランチを食べたら、
300円は農家や運送業者に、300円は電気会社や店のテナントに、
300円は店員さんのお給料に消え、100円だけお店に残る。
まあ、法則というよりは、経営上の暗黙のルールみたいなものだ。

実はこれ、ゆっくりペット業界にも当てはまるというのだから、面白いものである。
要するに、ゆっくりペットショップで1000円のゆっくりを買ったら、
300円は牧場や運送業者に、300円は餌代や光熱費、テナント代に、
300円は店員さんのお給料に消え、100円だけお店に残るのだ。

ここまで説明すればお分かりいただけたと思うが、
ゆっくりペットショップの経営と、ゆっくりブリーダーとの間にある違いのひとつは、
この人件費の行く先である。
つまり、ブリーダーは、自分に人件費を支払うので、4割が儲けになる。
もちろん、それは店員の仕事を自分でやっているからであり、
不当な収入を得ているわけではないので、ご理解いただきたい。

しかし、この計算方法も、野生のゆっくりを自前で調達したときは、
ちょっとばかり修正が必要になる。
というのは、牧場や加工場から仕入れていないゆっくりには、
仕入れ価格というものが存在しないからだ。
そこで用いられるのが〈ゆっくり市場価値早見表〉という、
全国ゆっくり飼育協会が毎週発行する価格表である。
これに目を通せば、どの品種がどれくらいの市場価格で取引されているかが分かり、
ブリーダーは、それに3割掛けをして、仕入れ値とすることができる。
つまり、市場価格から、平均仕入れ値を割り出すのである。
しかも、今では、協会のHPで簡単に調べられるのだ。
インターネット様々であった。

「おい、おまえ何歳だ?」

男は、依然としてケースの中に閉じ込められているれいむに尋ねた。

「れいむは1さいだよ!それよりはやくだしてね!ゆっくりできないよ!」
「ぴったり1歳か?」
「ゆゆ!そうだよ!だからはやくだしてね!れいむぺにぺにみせにいくよ!」
「♂れいむ1歳、♂れいむ1歳……。」

男は、箱の中で暴れるれいむを無視して、カーソルで表をなぞっていく。
そして、あるところでぴたりとマウスが止まった。
しばらくの間、身じろぎもせずモニターを凝視した後、
何かの間違いではないかと、もう一度ゼロの数を確認する。

「さ、30万!?」

世の中には、なんと物好きの多いことだろう。
ゆっくりの中でも特に廉価で取引されるれいむ種に、6桁の値が付くとは。
旅費などを差っ引いても、10万以上の儲けになるのではなかろうか。
男は、思わず顔がニヤけてしまった。
ところが、そんな彼を、現実に引き戻す声がする。

「おほお!ぺにぺにまたおっきしてきたよおお!れいむがんばるよおおお!」

そうだ。忘れていた。
男は、再びがっくりと肩を落とす。
問題は、この露出狂れいむに、市場通りの値段がつくかどうかである。
もちろん、つくはずがないのだが、とりあえず大手のゆっくりネットショップに繋ぎ、
オークション形式で様子を見ることにした。
最近のゆっくりショップは、格安の手数料で仲介業もやっているところが多い。
ダスキユという強力なライバルが出現してからというもの、
既存のショップは、新たな営業形態の模索を余儀なくされているのだ。
【30万即決】のオプションを付けた後、商品説明欄に、鬱々と文字を打った。

《生活に支障が出る程度の露出癖があります。》

そんな馬鹿正直に書かなくても、と思われるかもしれないが、
ゆっくりブリーダーは信用商売である。
一度でも詐欺認定されれば、もはや店を畳むしかない。
値が下がるのは、男も覚悟の上だった。



翌日、男のメールボックスには、十数通ものメールが届いていた。
この不景気な時代、ゆっくりに何十万も出そうという人がこれだけいるのだから、驚きである。
むろん、男にとっては悪いことではないので、早速メールに目を通し始めた。

「……だよなあ。」

案の定、全てのメールが、露出癖の部分に関する質問で埋まっていた。

《説明に露出癖とありますが、どの程度のものでしょうか?》
《たまにぺにぺにを勃たせるくらいなら、即決で買い取らせていただきます。》
《露出というのは、何かの芸のことですか?》

うーむ、と男は唸った。
棚に収納したケースをちらりと見る。
そこには、朝一番のぺにぺに体操をしているれいむの姿があった。

「ぺーにぺーにのーびのーび♪しーろあーんどーぴゅどーぴゅ♪」

何でも、うんうん体操をもとに、自分で考案したらしい。
残念ながら、買い手が予想しているよりも、事態は深刻なのだ。
仕方なく、男は、事情を説明するためのテンプレートを書き、
全てのメールにそれを貼付けて返信した。
後は、運任せである。



その日の午後は、育成中の♀まりさを連れて、近くのゆっくり広場で時間を過ごした。
♀まりさは、まりさ種の割には大人しく、ころころ遊びなどで十分満足してくれる。
ブリーダーにとっても、手間の掛からない商品だ。

「ゆっくりこーろこーろ♪」

大切な帽子を脱ぎ、芝生の上でころころと転がり回るまりさの姿は、
男に一時の安らぎを与えてくれる。

「楽しいかい。」
「ゆゆ♪とってもたのしいよ♪こーろこーろ♪」
「そうかそうか、まりさはいい子だな。」

そして、日も暮れかけた頃、自宅に戻ってまりさを飼育ボックスへ戻し、
シャワーを浴びて簡単な夕食をとった後、男は、ようやくパソコンを立ち上げた。

「これも駄目か……。」

結局、17通のうち、14通は二度と返ってこず、
残りの3通には、丁寧にお断りのメッセージが添えられていた。
要するに、全滅である。

「ゆゆ!おにいさん!いつになったらぺにぺにぱーてぃーしてくれるの!」

ケースの中で、れいむがぷくーと頬を膨らませた。
いつの間にか、ぺにぺにのお披露目パーティーが開かれることになっているらしい。
そんな約束をした覚えはないのだが。

「それにきれいなありすをしょうかいしてね!れいむがばーじんもらってあげるよ!」

何がバージンだ。お前は自分で童貞宣言した身だろうが。覚えてるんだぞ。
男は、だんだんと苛つき始めた。
いっそのこと、ストレス解消に、そのぺにぺにを噛み切ってやろうか。
男が椅子から立ち上がろうとした、そのとき。

ピロン

メールの受信音。
男は、煮え立つ感情を抑えて、モニターに向き直った。
すると、そこには、商品番号の書かれたメールが一通、ショップから届いていた。
どういうことだろうか。
男は、訳も分からぬまま、メールをクリックした。


 xxx様
 この度は、弊社のゆっくりインターネットオークションサービスをご利用いただき、
 誠にありがとうございます。現在、あなた様がご出品なされている商品、
 ♂れいむ1歳(商品番号xxxxxx)が、即決価格で落札されましたので、ご連絡差し上げま す。
 相手方のお客様番号はxxxx-xxxx-xxxx、連絡先はxxxxxx@yukkuri.comです。
 ご不明な点がある場合は、弊社のカスタマーサービスへご連絡下さい。


「……え?」

男は、ぽかーんと口を開け、しばらく画面を見つめていた。
即決価格で落札。つまり、30万で売れたということ。
それを理解した途端、男は、先程の怒りも忘れて、椅子から飛び上がった。

「やほーい!こりゃ凄い儲けだぞ!」

パソコンの前で小躍りする男を見て、れいむも不気味な笑みを浮かべた。
心無しか、口元から涎が垂れている。

「ゆゆっ!ついにれいむのぺにぺにあいどるでびゅーがきまったんだね!
れいむなんだかむらむらしてきちゃったよ!おっきしちゃううう!」

大勢の人間に囲まれた自分を想像し、れいむは、再び股間の逸物をいきり勃たせるのであった。



あの後、何度かメールでやり取りをした結果、
今度の日曜日に、近所の公園でれいむを引き渡すことが決まった。
念のため、買主にも、例の露出テンプレートを送っておいたが、
何の問題もないという返事だった。

「どんな奴なんだろうな……。こんなれいむを買いたいなんて……。」

Tシャツにジーンズという普段着で家を出た男は、約束の10分前に到着し、
目印となる噴水の側で、足を休めていた。
あのときは、儲けのことで頭が一杯になってしまっていたが、
露出狂れいむを即決で買う客など、ろくでもない人間に決まっている。
大方、♂ゆっくりのケツの穴を使いたいHENTAI兄貴だろうと、
男は目星をつけていた。

男が時計に目をやると、まだ5分ほどある。
手持ち無沙汰だが、この場を離れるわけにもいかないので、
しばらくの間、ぼんやりと景色を眺めていると、一台の高級車が公園の前に停まった。
普通車2台分はありそうな車体。そう、リムジンである。

何事かと思って見ていると、おもむろに運転手が降り、後部座席のドアを開けた。
中には、車椅子に乗った老人が、ちょこんと腰掛けている。
運転手は、慎重に、だが慣れた手つきで、その車椅子を降ろし始めた。

リムジンを障害者用に改造するほどの金持ちが、こんな公園に何の用だろう。
先程まで暇にしていたれいむも、興味津々の様子だ。

「あのすぃーはすっごくおっきいね!あいどるにぴったりだよ!」
「……。」

運転手は、車椅子の取っ手を掴むと、公園の敷地に向けて、それを押し始めた。

まさか、そんなわけが。
だが、車椅子は、どんどん男の方に近付いてくる。
そして、ちょうど男の目の前で、運転手は歩を止めた。

「それが商品かね。」

老人は、挨拶もせず、男の持っているケースを覗き込んだ。
男は、慌てて居住まいを正す。

「す、すみません、こんなラフな格好で……。」
「それが商品かね。」

老人は、男の方など見向きもせず、ケースの中のれいむを見つめている。

「ゆふん!れいむのぺにぺにをみたいなんていきなじじいだね!」
「おい、馬鹿!」

男の心臓が跳ね上がる。
ここで粗相があっては大変だ。
万が一、その筋の方々だったらどうするのだ。

「宜しい。説明通りだ。」

老人は、男の不安を他所に、満足げな表情を浮かべた。
それは、理想のペットを見つけた飼い主の眼差しではない。
何か別の……。

「入金は確認してくれたかね。」

老人は、初めて男の顔を直視した。
背筋に、冷や汗が走る。

「は、はい。ありがとうございました。」

男の返事が終わらぬうちに、老人はケースへと腕を伸ばした。
どうやら、こちらへ寄越せということらしい。
男は、直立不動の体勢で、それを差し出す。

老人は、受け取ったケースを膝の上に乗せ、運転手に顎で合図した。
運転手は、車椅子を2、3歩後ろに引くと、向きを変え、その場を後にする。
周囲の人間が訝しげにそのやり取りを眺めていたが、男には、どうでもよいことだった。
男は只、あのれいむも今日の出来事も、早く忘れてしまいたかったのだから。



「さあ、着いたよ。」
「ゆふぅ!すごくゆっくりしたおうちだね!」

れいむは、目の前に広がる大広間に、目を輝かせた。
きっと、ここがぺにぺにぱーてぃーの会場なのだろう。
老人の膝の上で、ぴょんとひと跳ねし、もみあげをぴこぴこさせる。

「ゆふふ!もうおっきしてきちゃったよ!」

れいむは、むくむくと起き上がる自慢のムスコを、もみあげで撫でさすった。
そんなれいむの狂態を満足げに眺めながら、老人は、車椅子をさらに奥へと進めて行く。

家の中は、それこそ迷子になりそうなくらい複雑で、れいむは、
右を向いたり左を向いたり、きょろきょろするばかりだった。
もちろん、ぺにぺにはおっきさせたままなのだが。

車輪が5分ほど休み無く回転したところで、老人は速度を落とす。
慣性の法則で前のめりになりながら、れいむは、辺りの雰囲気が変わったことに気付いた。
薄暗い、なんだかゆっくりできない空気が漂っている。

その原因は、すぐに分かった。
廊下の左右に並べられた、陳列ケースの中にいる、奇妙なゆっくりたち。
彼らは皆、老人とれいむには目もくれず、ぶつぶつと何かを呟いている。
老人がさらに車輪を一回転させると、ぼんやりとした薄闇の中に、
1匹のまりさが浮かび上がった。

「あんよ……まりさのしゅんそくあんよ……。」

まりさは、虚ろな瞳で宙を見つめ、あんよあんよと繰り返す。
その目からは、砂糖水の涙が、まるっこい下腹部まで滴っていたが、
見れば、その足は真っ黒で、炭みたいにカチカチだった。

「どうしてこのまりさはないてるの?」

れいむは、同情する素振りもなく、汚い物でも見るかのように、老人に尋ねた。

「このまりさはね、昔は狩りの名人だったんだよ。
でも、大事なあんよが焼けてしまい、もう狩りができないんだ。」

老人は、そう説明すると、ひとつ先のケースに移動する。

「ぱちゅのだいとしょかんへようこそ……ごほんがいっぱいよ……。」

ケースの隅に積み上げられた灰の山。
その灰の山に半身を埋めたぱちゅりーが、薄汚れた体をくねらせている。

「ゆふぅ。きたないぱちゅりーだね。こんなぱちゅりーとはゆっくりできないよ。」

れいむは、口元を歪め、わざとらしい溜め息を吐いた。

「このぱちゅりーはね、それはそれは立派な図書館を持ってたんだよ。
でも、火事で全部燃えてしまい、その灰と一緒に暮らしているのさ。」

老人は、さらに車椅子を進める。

「でいぶおうだうだうよ……ゆ”ゆ”ゆ”……。」

ケースの中から、耳を塞ぎたくなるような、音程の合わないだみ声が響いてくる。

「ゆゆ。このれいむはおうたがへたくそだね。こいつともゆっくりできないよ。」

れいむは、憐れみを感じさせない口調で、目の前の音痴なれいむを蔑んだ。

「このれいむはね、森の歌姫で、みんなのアイドルだったんだよ。
でも、喉が潰れてしまい、もう昔のようには歌えないんだ。」

そうやって、老人は、ひとつひとつのケースを、れいむに見せていった。

両目を失ったみょん。
禿げ上がったありす。
腐ったちぇんのしっぽを抱きしめるらん。
羽の千切れたれみりゃ。

ゆっくりできないゆっくりたちを後にして、老人とれいむは、
ようやく、頑丈そうな木製の扉の前に辿り着いた。
老人が壁にあるスイッチを押すと、それはひとりでに奥へと開き始める。

「ゆゆん!すごくきれいだよ!」

れいむの視界に現れたのは、素晴らしい調度品に囲まれた、
ゆっくりでも豪勢と分かる応接間だった。
老人は、扉を開け放したまま、車椅子を、
中央に備え付けられたガラス製のテーブルに横付けする。

「れいむ、気に入ったかい。」
「ゆん!きにいったよ!ここをれいむのゆっくりプレイスにするよ!」
「それは良かった。ところで……。」

老人は、膝の上かられいむを持ち上げ、股間の逸物を眺めた。
さすがのれいむも、こんなにまじまじと見られては、ちょっとだけ恥ずかしくなってしまう。

「じじいはれいむのぺにぺにのかちがわかるんだね。かんっしんだよ。」

れいむは、もみあげをまるで腕のように脇腹にあて、ゆっふんと鼻息を荒くした。

「れいむ、このぺにぺには、そんなに大事なのかい。」
「もちろんだよ。あいどるれいむのしんぼるだよ。」
「そうか……。」

老人は、れいむをテーブルの上に置いた。
下が透き通っているせいで、何だかお空を飛んでるみたいだ。

「私にも、大事なものがあった……。」

老人は、そう言うと、動かない足を右腕でさすった。

「私は、昔、マラソン選手でね……。そりゃあ誰よりも速く走れたもんだ……。
小学生の頃から、練習練習の毎日で、遊ぶ暇もなかったくらいだよ……。
母はね、ワシを世界的な選手にすると張り切っておったが……。」

れいむは、老人の昔話に興味がないのか、詰まらなさそうな顔をしている。
ゆっくりは、大抵、人の話を聞くのが苦手なのだ。

「あれは、高校生のときだった……。母の車がトラックに突っ込んでね……。
棄権になってはいかんと思ったんだろう……。スピードの出し過ぎで……。
母は、そのまま死んでしまったよ……。」

老人がそこまで話したところで、ようやくれいむが体を動かした。
左のもみあげを2度上下させ、したり顔で口を開く。

「ゆっくりりかいしたよ。それでじじいはすぃーがないとあるけないんだね。」

老人は、くすりと笑った。
それは、苦笑とも自嘲とも取れる、奇妙な笑いだった。

「かわいそうなじじいだね。れいむのぺにぺにをみてげんきだすといいよ。」
「……可哀想?」

老人の顔から、表情が消えた。

「可哀想じゃないさ。」
「あるけないじじいはかわいそうだよ。ゆっくりりかいしてね。」

れいむは、老人の言葉を理解する気がなかった。
いや、初めから、理解することを放棄していたのかもしれない。
父まりさにおだてられ、自分の価値を誤解した、あの日から。

「子供のころから友だちも作らず、朝練に出て、放課後もグラウンドを走り、
監督から過大な期待をかけられ、そして他の部員たちの嫉妬を受ける。
家に帰れば、母はいつも尋ねてきたよ。今度の大会は勝てそうなのかい、とね。」

老人は、ゆっくりとれいむを抱き上げた。
そして、大きく口を開けると、れいむの股間に、顔を近付けていく。

「ゆぅん。じじいはだいたんだね。ちょっとだけだよ。」

れいむは、頬を赤らめ、もみあげで顔を隠した。
老人が口の端に浮かべた笑みは、れいむの視神経に届かない。

「さあ、その桎梏から君を解放してあげよう。」

ぶちっ

激痛。
それは、聞いていた快楽とは正反対の、苦痛に満ちた愛撫。
れいむは、もみあげを目から離し、恐る恐る股間を見た。
そこには、男に引き千切られ、餡子をまき散らすぺにぺにの残骸があった。

「どぼぢでえええ!!!でいぶのべにべにがあああ!!!」

痛みからか、それとも、ぺにぺにを失った絶望からか、れいむは大声で泣いた。
それは、ゆん生の全てを誤った楽観で過ごしていたれいむが流す、最初の涙だった。

「これで君は普通のれいむだ。もう何も悩むことはない。」
「べにべにいいぃ!!!でいぶのずでぎなべにべにががえじでえええ!!!」
「ぺにぺにがどうしたと言うんだい。れいむはれいむだろう。」
「でいぶはべにべにないどあいどるになれないのおおお!!!べにべにがえじでえええ!!!」
「……やれやれ、どうやら、君も失格のようだ。」

老人は、もみあげを振り回し、狂ったように体を捻るれいむをテーブルの上に置くと、
ぐったりと力のない腕で、車椅子をバックさせた。

「残念だよ。さようなら。」

老人は、れいむの絶叫を背に受けながら、部屋を出て行った。
扉が閉まる瞬間、れいむは、振り向いた老人の寂しそうな眼差しを見たが、
それは、れいむの餡に、何の記憶も残さぬまま、網膜の幻影と化し、そして、消えた。



「おじいさんはおかねもちなんだねー。わかるよー。」

ちぇんは、おじいさんの膝の上で、歓喜の声を上げた。
町で出会ったおじいさん。
孤児になったちぇんを、大きなすぃーに乗せてくれたおじいさん。
ちぇんは、この優しいおじいさんと、すぐに友だちになった。

おじいさんは、ちぇんを乗せたまま、黙って車椅子を押して行く。

「なんだかくらいよー。」

廊下が薄暗くなると、ちぇんは、不安そうに身を縮めた。
ちぇんは、暗闇が嫌いだ。
大好きなお父さんとお母さんが、真っ暗な路地裏で、嬲り殺されたから。
それに、周りにいる奇妙なゆっくりたちも、何だかゆっくりできない。

ふと、ちぇんは、ケースの中にいる1匹のれいむに目を留めた。

「ぺにぺに……れいむのすてきなぺにぺに……。」

れいむは、股間にもみあげを突き立てて、口の端から涎を垂らしていた。
もみあげの片方がないところを見ると、股間に突き刺さっているのが、それなのだろう。
その光景は、他のゆっくりたちに比べても、一際異様に映った。

「このれいむはきもいよー。きちがいだよー。」

ちぇんは、れいむから目を背けるように、おじいさんの顔を見上げた。

「このれいむはね、昔は凄く立派なぺにぺにを持ってたんだよ。
でも、そのぺにぺには失われて、今はただのれいむなんだ。」

老人の言葉を確かめるためか、それともただの好奇心からか、
ちぇんは、もう一度、れいむの方へ視線を戻す。
しばらくの間、お化けでも見るような目付きで、れいむを眺めていたちぇんは、
その理解不能な光景を理解しようとし、そして諦めた。

「へんたいなんだねー……。わかるよー……。きもいよー……。」

ちぇんは思った。
約束のあまあまさんを貰ったら、おじいさんに、素敵な芸を見せてあげようと。
ちぇんは、2本のしっぽでダンスをするのが、とっても上手なのだから。



終わり



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ふわふわと壊れゆく家族

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最終更新:2022年04月15日 23:19