「むきゅ~~~♪」
街にほど近い洞穴の中で、一匹のゆっくりが熱心にチラシを読んでいた。
「むきゅ!! なかなかためになるおはなしだったわ!!」
綴じられていた広告を自慢の本棚の中へ仕舞い、入り口へと目を移す。
「むきゅ~~~♪ きょうもぱちゅりぃのとしょかんへいくわよ!!」
これは四肢のあるパチュリー。
そしてここは、ゆっくりぱちゅりぃの巣である。
巣からでたぱちゅりぃは元気よく街へ向かって行く。
「むきゅ♪ これはぜんしょきゅにいいのよ」
途中に捨てられていた野菜くずを拾い、何処から拾ったのか分からない知識を披露しながら口に運ぶ。
「むっきゅ♪」
小食とは言い難いぱちゅりぃだが、食べ終えたのは街へ着いた時で有った。
「むっきゅ~~~♪ ぱちゅりぃのごほん~~~♪」
街の中を懸命に駆けていくぱちゅりぃ。
十二・三度裾を踏んで転んでも気にしない。
「むっきゅ~~~♪」
全ては、いまぱちゅりィの目の前にあるモノの為だ。
そこに有るのは、この街にある図書館。
大きさは幻想郷屈指であり、時たま魔法使いが本を読んでいる姿を見かけることが出来る。
それほどの図書館である。
「むっきゅ~~~~~~♪」
当然、ぱちゅりぃの琴線に触れるには十分だった。
「むきゅきゅ♪ ここはぱちゅりぃのとしょかんよ!!」
重ね重ね言うが、体が有る分なのかぱちゅりぃの頭は幾分弱い。
何の躊躇いもなしにズンズンと図書館の中へ入っていって。
「むぎゅ!!」
見事ガラス戸にぶち当たる。
「むきゅ!! こんなものをかってにぱちゅりぃのとしょかんにおくなんて!!」
プンプンと、息を荒げて再び扉と対面する。
ぱちゅりぃにしてみれば大きな大きな扉。
当然、自分の力ではあけることは出来ない。
「むっきゅーー!!! だれかーーー!! だれかーーー!!!」
必死に周りの人に助けを求める、が一介のゆっくりに耳を傾ける人などいる筈も無く、時間だけが無常に過ぎ去っていく。
「むっきゅーー!! からだのよわいぱちゅりーーがたすけてっていってるのにーー!!!」
そんな必死の願いが通じたのか、一人の人間が自分の方へ近寄ってきた。
「むきゅ!」
そのまま、何も言わず扉を開ける。
「むっきゅーーー!! よくわかったわね!! あなたはとくべつにこのとしょかんへいれてあげるわ!!!」
滑り込むように中へ入ったぱちゅりぃが人間にお礼と許可を出すが、それを全く無視して図書館の中へと消えてしまった。
「むきゅ。まぁいいわ!! ぱちゅりぃもごほんをよまなくっちゃ♪」
テコテコと、静かな図書館に小動物が歩くような音が木霊する。
「むきゅ~~~……。むきゅ~~~~……」
音の張本人はぱちゅりぃである。
キョロキョロと、首を左右に動かして本棚を眺めている。
「むっきゅ!!」
その目に留まった一冊の本。
豪華な赤の革表紙が際立っているその本。
それを見つけたぱちゅりぃは大興奮だ。
「むっきゅーーー!! ぱちゅりぃはあのほんをよむの!!!」
普段は自分が言っている、図書館ではお静かに、を忘れ一言叫んだぱちゅりぃは、早速その本を読もうと手を伸ばす。
「むきゅきゅ……」
しかし、ぱちゅりぃの体ではどうしても取る事は出来ない。
「むっきゅーーー!!!」
それでも必死に手を伸ばし、あと少し、あと少しで届く所まできた。
「むきゅ……。!!! むべ!!!」
緊張の糸が切れたのか、息を吐いた瞬間に裾に足を取られて前のめりに転ぶ。
「むぎゅ!!!」
そのまま顔面を本棚に強打してしまう。
衝撃で大量の鶯餡を開き出すぱちゅりぃ。
この程度の餡なら体内で直ぐに補充されるが、痛いものは痛い。
「むっぎゅーー!! いだいーー!! だれがーーー!! ぱじゅりぃはあだまをうったのーー!!!」
図書館では聞く事の出来ないような大音量で泣き叫ぶ。
直ぐに、ぱちゅりぃの声を聞きつけ人間がやってきた。
「むきゅ!! すぐにてあてをして、それからあのほんと、こうちゃを……んげ!!」
「あああぁ、何をしてるんですかぁ? ゆっくりがこんな所で?」
対する司書は喚いているぱちゅりぃを蹴り飛ばすと、何処から出したのか分からない雑巾で棚を拭いていく。
「本は……よかった、汚れていない。館長に起こられずに済む~。……まったく、またゆっくりか……」
「むぎゅ!! いだいわ!! ここはぱちゅりぃのとしょかんなのよ!! こんなことするなんて!!」
ダメージが回復したのか、起き上がったぱちゅりぃが駆け寄ってくる。
「むきゅ?」
その首根っこを掴み、図書館の入り口までやってきた司書は、外に向かって勢いよく投げ飛ばした。
「むぎゅ!! むきゅきゅ……!!」
振り返ったそこには、既に司書の姿は無くゆっくりを入れないようにとの看板が見える位置に移動されていた。
「むぎゅーーー!! ぱちゅりぃのとしょかんなのーー!! もっでがないじぇーーー!!」
入り口にへばり付き、大声で訴えるぱちゅりぃ。
その目の先には沢山の人間が本を読んでいるのが見えている。
「むぎゅーーー!!!!」
そのまま、大粒に涙を流しながらまじまじと見続けるぱちゅりぃに、今度は中から人間が近寄ってきた。
「!! はやぐあげでーーー!! むぎゅ!!」
人間は、へばり付いたままだったぱちゅりぃもろとも扉を開け放ち、何事も無かったかのように町並みに消えて言った。
「ほら! じゃま!」
「むぎゅふゅ!!」
続けざまにまた蹴られる。
「むぎゅーーー!! おーーじがえりゅーーー!!!」
流石にここには居られないと思ったのだろう、目に大粒の涙を浮かべ自分の家へと逃げるように帰っていくぱちゅりぃ。
「むぎゅうーー!! おうじにかえっで、げんそーしょーせつのつづきをよもう!!」
そうなれば先ほどのことは記憶の片隅へ、向かっていたときの元気を取り戻し、にこにこと我が家へ。
「むぎゅ!!」
しかし、そこには先客が居た。
「むっきゅ~~~♪ ここはなかなかのすね」
「よかったねぱちゅりー!!」
「そうだね!! ここはたいらだから、いままでみたいにくろうしなくてすむもんね!」
中に居たのは、ゆっくり霊夢と魔理沙、そして四肢の無いパチュリーの三匹だった。
「むっきゅ!! ここはぱちゅりぃのおうちよ!!」
威勢良く言うが、入ってきたときからこの三匹は気付いていた。
「むきゅ!! そんなのしってるわ。ここわぱちゅりーたちのおうちにするの!!」
ゆっくり十八番の自分の家宣言。
「ここはぱちゅぃのおうちだっていってるでしょーー!!!」
当然、居心地の良いこの場所を他のゆっくりに渡すつもりは無く、宣言を行ったぱちゅりーへと向かっていく。
「ぱちゅりーにらんぼうしないでね!!」
「ぱちゅりーはからだがよわいんだよ!!」
しかし、周りに居た二匹がそれを拒んだ。
「むぎゅ!!」
馬鹿さではぱちゅりぃより強いれみりゃ種ならばなんという事は無い一撃のはずだったが、生憎とぱちゅりぃの体は強くない。
鈍い声をあげてその間に蹲ってしまった。
「ゆ!! はやくこのいえからでていってね!!」
「そうだよ!! ゆっくりしていないでね!!」
蹲ったままのぱちゅりぃに容赦なく罵声を浴びせていく霊夢と魔理沙。
「むきゅ!! なにこれ!!」
その罵声は、パチュリーの一声で終焉を迎えた。
「ゆ? どうしたの?」
「ゆゆ?」
「むっきゅ!! これをみてよ!!」
三匹が興味心身に見ているもの、それは自分の大切な図書だった。
「むぎゅーー!! ぱじゅりーのごほんかえじでーー!!」
「「「!!!」」」
必死の叫びに、三匹は笑う事も無く押し黙る。
「がえじでーーー!! がえじでーー!!」
弱った体を無理矢理立たせ、フラフラになりながら三匹へ、その奥に有る自分の本へと駆け寄っていく。
「これがほんですって?」
「ゆゆゆ」
「ゆっゆ……」
「「「あっははははははははは!!!」」」
「!!」
三匹の笑い声に、歩を止めるぱちゅりぃ。
なぜ三匹が笑っているのか、このぱちゅりーには分からなかった。
「いい? これはにんげんがしょうひんをさがすのにつかうこーこくっていうのよ!!」
「れいむたちでもしってるよ!!」
「まりさたちにたべものをくれるにんげんがおしえてくれたんだもん!!」
ぱちゅりぃには分からなかった、自分の本の何がおかしいのかが。
「むっきゅーー!! ごれはぱちゅりーのふぁんたじーーしょーせつなのーー!!」
「ふぁんたじーしょーせつだって」
「おお、ばかばか!!」
「むきゅ!! あなたってもじがよめないんじゃないの!!」
三匹から浴びせられた罵声。
「むっきゅ!! さんたくろすをいつまでしんじでいたかなんてことは……」
自棄になり、大声で一文を読み上げた直後、最大級の笑い声が巣の内部から響き渡った。
「むきゅ!! それはらーめんごしょくさんきゅっぱってかいてあるんだよ!!」
「このぱちゅりーはおおばかものだね!!」
「ばかなぱちゅりーはさっさとでていってね!!」
「むぎゅ!!!」
二匹渾身のタックルが決まり外に弾き飛ばされる。
「むきゅ!! これもあげるわ♪」
主人の後を追うように、今まで貯めてきた本も勢いよく飛び出してくる。
そのまま、細かく千切られたチラシは高く高く舞い上がる。
「むっぎゅーー!! ぱじゅりーーのごほんがーーー!! ああああーーーーー!!!」
 「「「おお!! ぶざまぶざま」」」
転びながら、必死に追いかけていくぱちゅりぃの姿を見送った三匹は、明日の相談を始めた。
内容は、また人間の家に行く事。
三匹に食べ物をくれる、都合の良い人間の家にだ。
熟れ頃まで育て、そろそろ収穫しようとしている阿求の家に、である。


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「むぎゅーーー!!!」
本を見失ったぱちゅりぃは、草むらの中で大の字になってばてていた。
足がガクガクとしており、どれだけ必死になって走ったのかが伺える。
「あれ? ゆっくり?」
それを見つけた何者かが、訝しげな声をあげた。
「やっぱりゆっくりね! 大丈夫? どうしたのかしら?」
「むきゅーーー!!」
ぱちゅりーはこのヒトに全て話した、家の事、本の事、文字が読めないこと。
次第に嗚咽で聞き取りにくくなってはいたが、全てを話した。
「そうだったの」
そして、ヒトは全てを聞いた。
「だったら、私が教えてあげるわ」
「むきゅ! ほんと!!」
「ええ、それに家に住まわせてあげる。どうせ貴方家が無いんでしょう?」
「むぎゅーー!! ありがどーーございまずーー!! ありがとーーございまずーーー!!」
今まで酷い目に合っていたぱちゅりぃにとって、これほど嬉しい事は無かった。
文字を覚えて沢山本を読もう。
この日最後となる、暖かい涙を目に浮かべながら、女性の後をテクテクとぱちゅりぃは付いていく。
そして、黒く長い髪の女性に引きつられ、ぱちゅりぃは、二度と抜け出せない竹林へと足を踏み入れた。


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最終更新:2022年05月19日 15:11