翌日、親れいむは家族の中で一番早くおきた。黒い布は取り払われている。
周りには家族がいつものように寝転がっている、ように見えた。
「ゆ!ゆ!ゆああああああああああああああ!!!」
ゆっくり家族が寝転がっている中心には茶色い染みと子まりさの亡がら。親れいむの予想は当たってしまった。
親れいむ以外のゆっくり家族全員はその悲鳴に目が覚め始めた。
「ゆ、なにおかーしゃ・・・・あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」
「まりしゃがあああああああ!!!」「れいむのいもうとがああああああああ!!!!」
「だれなの!だれが食べたの!まりさの赤ちゃん誰が食べたのおお!!!」
子供達の叫びがまりさの一言でぴたりと止まり、そこから犯人探しが始まった。
「れいむじゃないよ!れいむがおねーちゃんを食べれるわけが無いよ!」
「ま、まりさは自分の妹を食べるなんて酷いことをしないよぉ!」
「れいむも!」「まりさも!」「ま、まりさだって!」「れいむもたべない!」
「おとーさん達じゃない!?おとーさん達なら体も大きいからまりさ達を食べることなんて・・・」
「やべでえええええええええええ!!!!」
親れいむが叫んだ。辺りがシンと静まり返る。
「みんなであんなにゆっくりしようって言ってたのにぃ!!なんでみんなそんなこと言うのぉ!!
だれが犯人かなんて知りたくない!れいむの子供はみんな大事なれいむの子供だよ!!!」
「ゆうぅ・・ゆううぅ・・・!おがーしゃあん!!!」
「まりしゃがわるかったよぉぉぉ!!!」「ごめんねー!!ごめんねー!!!」
「いいんだよおおおお!!みんなゆっくりしようねええええええ!!!」
その日、男は食べ物を持ってこなかったがビデオも持ってこなかった。
みんなお腹は減っていた、だがゆっくり家族は久しぶりにみんなでゆっくりしたのだ。
夜、いつも通り黒い布が箱を覆っていく。
「おかーしゃん、いつになったらご飯食べれるんだろうね・・・」
「ゆっ!明日またおにーさんにお願いしてみるよ!今日はもうゆっくり寝ようね!」
子供を励ましたものの親れいむは内心不安だった。昨日同様、あのビデオを見せられるのではないだろうか。
例えそうだとしてもいつまでもこのままではいられない。子供達の為にも食べ物を得なければいけないのだ。
親れいむの決心はこの前のモノよりも強く硬いモノとなっていた。


翌朝
親れいむは嗅ぎ慣れた甘い匂いで目を覚ました。
横にいたはずの子れいむは目の前でゴミになって散乱していた。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」
「!!!おかーしゃんだいじょう・・ひいいいいいいいいいいいい!!!!」
「おねえええええええええぢゃあああああああああああああん!!!」
「おおおおおねえぢゃんがしんだおねえぢゃんがしんだおねえちゃんがああああああああ」
「おかーさんどういうこどぉ!!なんでおねーだんがじんでるのぉ!!!」
その理由は親れいむの方が知りたい。昨夜自分が小さな希望を与えてたはずの子供はどこに消えたのか。
どこにどこにどこにどこにどこにどこ・・・

子供達の口元が茶色い。まりさの口元も茶色い。そして自分の口元は     甘い。
「そそそそそそそそそそそんなああああああああああああああああああああああああ」
「ゆっ?なんかお口の周りが甘いよ?」「ほんとだ!あまいあまい!」
「お~いし~い!」「なんだろうこれ、わからないけどおいしいよ!」
「だめえええええええ!!!それなめちゃだめええええええええええええ!!!!」
自分達が無意識の内に子供を食べてしまったのか?いいや信じたくない。だがそれ以外に考えられない。
だが子供達に伝えるにはあまりにも酷だ、教えられるわけが無い。できるはずが無い。
「れいむうううううううう!!!まりさと子供達がその子を食べちゃったんだよきっとおおおおおお!!!」
今まで黙っていたまりさが叫んだ。なぜ、何故今ここでそれを言ったのか。
「・・なに?なにそれ?」
「え・・・どういうこと?どういうこどおおおおおおおおお!!!?」
「れいむたちがおねえぢゃんだべちゃっだのおおおおおお!!!?」
「この甘いのって・・・おげ!!?おげえええええええええええええ」
「いやあああああああああああ!!!!おねええええだあああああああああああああああああ」
あの日、同族食いビデオを見た日を思い出させる狂気がそこに広がっていた。
それはあの日同様押さえられない混沌、加えて今回は親れいむもその混沌に飲み込まれているのだ。
止められる物は誰もいなかった。
その日ゆっくり家族は誰一人ゆっくりしなかった。皆一様に互いから遠ざかり、叫び続け、ただ叫び続けて夜を迎えた。
黒い布が覆われ始める。
「ゆぅうう!!やめでえええ!まっくらにしないでえ!!!」
「おにーさんお願い!ゆっぐりさせでええええ!!」
「いやあああああくらいのいやああああああああ!!!!」
一点の光も無い完璧な暗闇。ゆっくり家族の誰もが眠るまで体を震わせていた。

それから一週間、夜が明けると家族の一員が一匹減るという状況が続いた。
その度に家族全員の口には餡子がこびりついていた。
そのため一日一日心がヤスリで削られる様に精神を疲労させられたが、体の調子は徐々に良くなっていった。
家族を食べるという行為は信じたくなかったが皮肉なことにその体調の回復が何よりの証拠だった。
残るゆっくりは四匹、ゆっくり両親と子ゆっくり二匹。
もう既に自分達が家族を食べているということを認めているのか、誰が誰を恐れるということは無かった。
部屋の中心でぼうっと天井を見上げてゆっくりする一家。
「おかーしゃあん」
「ゆっ?なぁに?」
「なんでれいむはこんなところにいるの?なんでお外でかけっこできないの?なんで虫さんをたべれないの?
お友達のありすはどこ?ぱちゅりーは?みょんは?ちぇんは?お空をとんでるこわいこわいれみりゃはどこ?」
「ゆぅぅ・・・・・・」
「なんでゆっくりご飯食べれないの?なんでゆっくりおねんねできないの?なんでゆっくりお姉ちゃん達と遊べないの?」
「ゆぅ・・ゆぅう・・・・」
「なんで?なんで?なんで?なんで?な・・なんでぇぇぇ・・・!」
「うぐっ・・・!うぐぅっ・・・・・!!」
なんでだろうか。それは親れいむも知りたい。なぜゆっくりできずにここで家族を食べているのか。
だが分からなかった。男が自分達を捕まえ何もせずにいることを。
まりさはあの日からほとんど喋っていない。もう精神がすり切れてしまったのか。
いや、きっとまだ大丈夫なはずだ。そうだ、今日こそは家族の一匹も死なせはしない。
久しぶりの決意、今度こそ砕いてたまるものか。
「まりさ」
「ゆぅ?なぁにれいむ?」
「今日の夜二人で見張りをしようよ。れいむ達と子供達がお互いを食べない様に。」
その言葉の一言一言はゆっくりとは思えない程の意思が込められている。
「もう、家族でお腹いっぱいにはなりたくないよ!」
「ゆぅ、わかったよ!まりさといっしょに家族を救おうねぇ!」
久しぶりの夫婦の会話。親れいむはその言いようの無い懐かしさの様なものに涙が出そうになった。

夜がきた。黒い布が箱に覆いかぶされる。
親れいむの作戦はこうだ。二匹の片方が警備をし、片方がその間に眠るという単純なものだ。
この作戦を成功させる為に四匹は隅に固まって寝ることになった。
暗闇の中では視認できないため動きを敏感に感じ取るしかないからだ、と親れいむの提案。
かくしてゆっくり家族の家族生命を賭けた夜番が始まった。
「ゆっ!じゃあまずれいむが先だよ!まりさはゆっくりねててね!」
「わぁかったよれいむ!ゆっくりねてるよぉ!」
「おかーしゃんがんばってね!」「まりしゃたちもがんばるからね!」
暗闇の中で励まし合う一家。相変わらず周りはその声しか聞こえない。
「ゆぅう!今日はだれもたべないよ!」
家族に体をくっつけてひたすら暗闇に耐える親れいむ。正直暗闇で意識を保ち続けるのはきつい。
「ゆうぅ・・・ゆうぅ・・・」「ゆぅぅん・・・」
子供達の寝息が聞こえてくる。これがあるからこそ正常でいられるのだ。この声が無かったら・・・親れいむに怖気が走った。

一体何時間経っただろうか。もう三日も起きている様な気分だ。
親れいむはもうそろそろまりさと代わってもいいのではないかと思いまりさを起こそうとした。
「まりさ、交代の時間だよぉ。まりさ~どこ~」
暗闇でまりさを手探りで探す親れいむ。そこであることに気づいた。
そういえば何故自分達はこの暗闇の中で子供達を食べることができたのだろうか。
相手の位置が分からない真っ暗闇で互いの位置を把握できるわけが無い。
つまり家族の一員を食べる方法は一つ、黒い布が払われてからだ。
となるとこの夜番は全くの見当違いだったことになる。
「ま、まりさ!おきて!はなしがあるの!」
すぐに代替案を考えなくては。このままでは疲弊したまま朝を迎えてしまうかもしれない。
そんな焦る親れいむに落ち着いた声がかけられた。
「れいむ・・・そこなんだね」
「ゆっ?まり・・あがぁ!?」
親れいむの後頭部への衝撃、この衝撃には覚えがある。この衝撃はあの日・・・あの時・・・

親れいむが目を覚ました時、辺りはもう黒い布が取り払われ明るくなっていた。
「まりさ!まりさはどこ!?れいむの子供は!?」
辺りを見回す親れいむの目に入ったまりさの後頭部。せわしなく動いているそれに親れいむは緊張した。
「ま、まりさ?なにをしてるの?」
まりさに近づく親れいむ。その足取りはとてもゆっくりしている。
「まりさ、ねえなにをしてるの?ねえ、まり・・まりさあああああああああああああああ」
予感は当たった。
まりさの口には子れいむと子まりさが目を白くして震えていた。
「お゛お゛お゛お゛お゛があ゛あ゛あ゛しゃしゃしゃしゃしゃしゃ」
「ゆゆゆゆゆゆっぐりでぎぎぎぎぎぎ」
子供をくわえているまりさの眼は既に親のものではない。
いつからこんな眼をしていたのだろうか。それは初めて自分の子供を食したあの日からなのだろう。
「まりざあああああああああ!!!なんでごどお゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛」
「ゆふふふぅ。おなかすいてたのぉ。おなかがぁ。」
「れいむ達に子供達を食べさせていたのもまりさだったんだねえええ!!!」
「そうだよぉ!死んじゃったら食べれなくなっちゃうからねぇ!」
「まりざあああああ!!こどもをおおおお!!!こどもだぢをかえぜえ゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛!!!!」
親れいむはその命や魂、全てをかけてまりさに突っ込んでいく。だがまりさはそれを物ともせずにかわす。
あの日から毎日最も食事を楽しんでいたのはまりさだ。そのおこぼれをもらっていた親れいむが体力的に勝てるわけが無かった。
「ゆべぇっ!!!」
思い切り壁にぶつかった親れいむはその衝撃で方向感覚を失った。
まりさが向かってくる。それは分かったがどこから来るのか分からない。勘に頼って右へとはねる親れいむ。
「ゆぎぃいい!!?」
まりさの体当たりは見事にクリーンヒットした。それもそうだ、親れいむはまりさの突進方向へと自ら向かっていったのだから。
そこからは初日と同じ、一方的なストピングが始まった。
だが今日の攻撃と初日の攻撃は全く質が違っている。一つは一対一のタイマンであること。
そしてもう一つは殺し合っている相手が愛し合っていた物同士だということだ。
10分もすると箱の中の声はまりさの息づかい一つとなっていた。
13匹いたゆっくりは今ここでたった一匹となったのだ。

頃合いを見計らって男が入ってくる。
家族崩壊の元凶である人間だがまりさにとってはもうどうでもよかった。
今はただここから出てゆっくりしたい、それだけがまりさの望みだった。
「おにーさんおねがい!ここから出してゆっくりさせて!」
男はたんたんと箱の中を片付けていく。茶色い染みを拭き、ゆっくりの残骸集める。
男は箱の中をゆっくり家族が来る前の状態に戻そうとしているようだった。
「おにーさんお願い!まりさおそとにでたいの!」
まりさは必死に男に願い出たが未だに男はその声を聞こうともしてない。
彼は一体この箱の中に何を入れたと思っているのだろうか。
「おにーさん!むししないでぇ!!きいてよぉ!!!」
集めたゴミと一緒に男は無言で箱を出て行く。当然まりさは箱の中だ。
「おにーさんだしてぇ!!ここからだしてよぉ!!お家かえるぅ!!!!」
まりさを無視したまま男は何かを手に取った。それははっきりと見覚えのある物、黒い大きな布だ。
「まっておにーさん!くらいのはいやあ!!!ひとりでくらいのはいやあ!!だしでええええええ!!!!」

まりさは暗闇の中で男を憎んでいた。
自分の家族を食べさせられたからではない、自分をこんな暗闇の中に閉じ込めてゆっくりさせてくれないことに怒りを感じていた。
むしろ同族の味を教えてくれたことには感謝すらしていた。自分の子供があんなにおいしい物だったとは。
ここから出ることになったら森に行き腹いっぱいゆっくりを食ってやろう。
れいむだけではない、ありす、ぱちゅりー、れみりゃはどんな味なのだろうか。考えるだけでもよだれがでそうだ。
箱に閉じ込められている間、まりさは同族の味への想像だけで腹を満たしていた。

閉じ込められて一週間が経つ時、突如箱の中から声がした。
「ゆぅううぅぅぅう!!!」
「うぎゅ!うべべべべべべべ」
「ゆぅううう!!おもいよおおおお!!!」
どこかで聞いたことがある様な声。その声とほぼ同時に箱にかかっていた黒い布が取り払われる。
まりさの目の前にはゆっくり家族がずらっと並んでいた。
「ゆ・・・ぐぎいい・・・」
まりさは喜んでいた。久しぶりの食事が同族とはなんと豪勢な。
「ぎぎ・・・ゆっくりくわせろおおおおおお!!!」
勢いよく子供にかぶりつこうとするまりさの目の前にその家族の両親が立ちふさがった。
「子供達は食べさせないよ!」
「そんなまりさとはゆっくりできないよ!!」
まりさに渾身の体当たりをかます親まりさ。
一週間食事をとっていないまりさはその最初の一撃で地面にへたってしまった。
そこにすかさずストピングの嵐をかけるゆっくり家族。
「れいむ達を食べようとするからこんな目に遭うんだよ!ゆっくり理解してね!」
食欲はあれど体力は無い。まりさは力なくただその攻撃を受けるだけだった

ゆっくり家族の攻撃が終わると外で様子を見ていた男がぼろぼろのまりさを連れ出した。
彼はまりさを抱え込んで初めて口を開き囁いた。

「あれがお前が捨てた家族の姿だ。」

まりさの脳裏を子供達とのれいむとの思い出が駆け巡りその光景が目の前の家族に重なった。
まりさは涙を流した。流すしかなかった。
思い出よりも食事をとったまりさにとっては、目の前の家族が自分達と同じ末路を辿らないことを泣きながら祈るしかなかったのだ。

だが男が考えていることはゆっくり家族の末路などでは無かった。
今回の家族は一体何本のビデオテープを見ることになるのか、ただそれだけを考えて今日も男はテープをセットする。





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最終更新:2022年05月03日 09:51