「ゆ~っくりしてね~♪」
赤ん坊が宿る蔦をはやしたれいむが揺り籠の様に体を優しく揺すりながら子守歌を歌っている
重さでしなった枝の先の眠る子どもに頬ずりをすると、時折笑みのような表情を浮かべか細く「ゅ」と言う声が漏らす
6匹分の赤ん坊の重さで思うように動けないが、その重さがこれからの幸せの重さと思うと心地よい
「げんきなこにそだってね...」
愛しいゆっくりとの決して楽ではない生活の中でようやく得られた幸せの証。
生まれながらにして家族が居ない自分に初めてできる血肉を分けた唯一の家族
そろそろ餌を取りに行った伴侶が帰ってくる頃なので夕餉の準備を食糧庫へ向かった時であった
ズズズズズズ!
突如地面が低く唸りながら激しく揺れる。
「ゆゆゆゆゆゆ!」
バランスを崩し危うく壁に激突し掛かるが、手近な家具に齧りついて最悪の事態は防ぐは事は出来た
できれば危険物のない安全な寝床に移動したいが踏んばるだけでも精いっぱいだった
「れいひゅは…れいひゅは、あかひゃんをぜぇったいみゃもってみせるよ!」
揺れは一向に収まる気配を見せず住まいの老木が悲鳴の様な音を上げて軋む
我が子が物にぶつからないように身体を出来る限り伸ばして下半身と口に全神経と力をこめる
「んびゅー!」
必死に家具にかじり付く口からは液状の餡子が血のように漏れる
揺れに耐えきれず崩れた家具が容赦なくれいむの身体を打ち付けるが痛みを上回る母性がれいむに普段ではあり得ない程の力と
勇気を与え不動の姿勢を保たせる
一際大きい揺れが収まると徐々に弱くなる
ほっと一安心するとれいむはすぐ蔦を見る。
実っている子供達には怪我ひとつない…れいむはアチコチを打って擦り傷でだらけだが子供を守れたなら安い物だ
ギリリリリリッ バキッ!
ほっと一安心したれいむの頭上から不気味な音が聞こえたと思うと轟音を立てて、巨大な木片がささくれた切っ先を向けながら落下する
しかし地震に耐えて満身創痍の上に身重のれいむには動くとすらできない。
地面に伏せてギュッと目を瞑る
ああ…せっかく我が子を守れたのに死ぬんだ…
ドシャ!
「……ゆ?」
うっすら目を開けると自分の目と鼻の先に巨大な木片が突き刺さっている
偶然にも木片が落ちる際に何かに当たって落下地点がそれたのだ
大きく息を付くと入れて身体を起こす
だがその時違和感に気づいた
いつもなら顔をすら上げるのが一苦労な動作が『息を吸って吐くように様に』出来る
頭上を見上げると蔦が中ほどから千切れて無くなっていた
千切れた蔓の片割れは地面の突き刺さった根元の部分を木片に挟まれいた
子供には直撃しなったものの蔦が切断された衝撃で子供が十分な余裕を持たず強制的にヘタから切り離されてしまった
その為産声も上げる事なく殆どが死んでしまった
「あ゛か゛ち゛ゃ゛ん゛!て゛い゛む゛のあ゛か゛ち゛ゃん!!」
血相を変えて子供達のの元に駆け寄るれいむは必死に我が子に呼びかける
揺すったり舐めたりして覚醒を促すがその眼は固く閉じられたままだった
必死に何度も同じ行動を繰り返すと一匹から弱弱しい吐息が帰って来た
「ゅぅ…ゅぅ…」
「あ…ああ!あ゛ち゛ひ゛ち゛ゃ゛ん゛い゛き゛て゛た゛ん゛た゛ね゛!!」
今にも消えそうな命を死神の手に渡すまいと何度も呼びかける
「ゅぅ?」
目をパッチリ開けて目の前で涙を流しながら誕生を祝福する母親の顔を不思議そうな顔をして眺める
「おかーしゃん…?」
「そうだよ!おちびちゃんのおかーさんだよ!」
生まれて初めての母との会話を出来る喜びに赤ん坊はゆっくりと笑顔を返すと口をもごもご動かす
「ゆっきゅり…ちて…ね」
生まれて初めての挨拶をすると笑顔のまま眠る様に逝った
「ゆ゛っく゛り゛し゛て゛る゛よ゛!た゛か゛ら゛お゛き゛て゛い゛っ゛し゛よ゛に゛ゆ゛っく゛り゛し゛よ゛う゛よ゛!!」
その日れいむは吼える様に泣き続けた。
子供を奪った何かを恨むように、そして守れなかった自分を責める様に
.......
.....
「いっぱいごはんとれたね!」
「はやくかえって赤ちゃんとすりすりしようね!」
れいむとまりさのつがいが食糧で頬をリスのようにいっぱいに膨らませながら家路についている
家では生まれたばかりの可愛い赤ちゃん達がお腹すかせてゆーゆー言いながら待っているだろう
帰った後赤ちゃんと過ごす時の事を考えるとつい頬が緩んでしまう
ゆっくりにあらざる弾丸のような速度で我が家に飛び込む
「「ゆっくりただいま!」」
だがれいむとまりさの視界には彼女たちの期待した光景はなく
ひっくり返されたテーブルに、赤ちゃんの為にまりさが小枝で一生懸命こしらえた小さな椅子がバラバラになって散乱していた
そして帰りを待ちわびている筈の愛しの我が子の姿はそこには無かった
ほぼ同刻…某所にて
岩に囲まれ冷たくひんやりとした空気が辺りを包み、天井の隙間から漏れている光が辛うじてうす暗い空間をぼんやりと照らす
そこに4匹の赤れいむが暖かな光に包まれて寄り添うように眠っている
一匹が目を覚ますと他の姉妹も目を覚ます
「ゆ?ゆゆ?」
「まっきゅらだよ!」
「おかーしゃんは?」
状況がわからずお互いの覚えてる限りの事を話し合う
お家で皆とゆっくりしていた所、突然目の前が真っ暗になって気付いたらここに居た
ズズズズズ....
何処かからか岩が動く音がした方と思うと、壁の一部から光が差し込み外への出入り口が姿を現した
するとそこから大きなシルエットが現れ、こちら近づいてきた
「おちびちゃんゆっくりしていた?」
赤れいむ達の前に普通のゆっくりよりはは大きいサイズのゆっくりれいむ(以後大れいむ)がニコニコしながら見下ろしていた
「ゆゆ?おばしゃんだれ?」
「きょきょはどこ?」
赤れいむ達は口々に目の前に居るれいむに聞く
「ここはおちびちゃんたちのおうちだよ!れいむおかあさんがいるからゆっくりしていってね!」
おうち?おかあさん?赤れいむには目の前の霊夢が言ってる事が理解できなかった
「ここはれいむのおうちじゃないよ!」
「おうちゅかえりゅ!」
だが赤れいむ達の言葉などどこ吹く風と言うよう大れいむ笑顔を崩さず聞いていた
「おちびちゃんたちは、まだ新しいお家になれてないんだね!しばらくゆっくりすればなれるよ!」
そう言うと大れいむは赤れいむ達をリボン咥える
「はなちてー!」
大れいむがしばらく巣穴の奥へ行くと天井の上にぽっかりと穴が空いた下に地面が窪んでちょうどボウル状になっている
穴の底には枯草が敷いてあり、まるで巨大な生き物の寝どこの様になっている
そこへ大れいむは咥えていた赤れいむ達を穴に投げ入れた
「ゆー!おちょらとんでるみたいー♪」
幸いにも枯草がクッションとなり怪我もなく着地できた
「さぁここがおちびちゃんたちのおへやだよ!ゆっくりやすんでね」
そう言うと大れいむは元の道を引き返して行ってしまった
赤れいむ達が呆然と大れいむの居た方を眺めていると近くの枯草がガサガサと音立てた
「あにゃたちもちゅれてこられたのね」
枯草の中からから声がすると中から一匹赤パチュリーが姿をあらわした
「おねーちゃんだりぇ?」
「わたちはパチュリーよ!あなたたちしんいりね!みんなでてきなしゃい」
子パチュリーの呼びかけに更に多くの子ゆっくり達が顔を出す。
れいむにまりさ、みょんやちぇん、みすちーやすわこの子供までもがいた
「ゆゆゆ!おともだちがいっぱい!」
「みんなでゆっくりできりゅよ!」
初めて見るゆっくり達を見て興奮する赤れいむ達だが他のゆっくり達の表情は暗い、パチュリー至っては呆れた顔をしている
「あにゃたたちにょんきね!いまのじょうきょうをわかってるの!」
「れいみゅはにょんきじゃないよ!ゆっきゅりできるこだよ!」
「おかーしゃんがとってもゆっきゅりできるっていってたもん!」
「もぅ…らちがあかにゃいわ!いいこと、あにゃたちはとってもてゃいへんなめにあってりゅんだから!」
「ゆゆゆ?」
子パチュリーの言うにはここに居るゆっくり達はあの大れいむに親元からか連れされらて来たのだ
しかも、大れいむは子れいむ達を自分の子と言い張りこの狭い穴から一歩も出さないで閉じ込めているのだ
「おかーしゃん…」
「おとーちゃん…」
「ゆえええぇぇ....」
ようやく状況が飲み込めた赤れいむ達は親元から離されたことに気づき涙ぐむ
それにつられて他の子ゆっくり達も嗚咽を漏らす
「もうなきゅのやめなさい!ないたってどうにもにゃらないわよ!」
「でやってぇ…でやってぇ…ママー!」
「こわいよ…らんしゃまーー!」
「もうあたちだって…あたちだっておうちきゃえりたいよぉー!」
強がっていたパチュリーも釣られて泣き始める
赤ゆっくり達がな泣き叫びだすと洞窟内に響くほどの騒音の大合唱が始まった
しばらく泣き続けると疲れてそのまま藁の中で自分の親や家の事を思って眠りの中に落ちていった
「おかーしゃん...」
すまぬ詰まってしもうた
最終更新:2022年06月03日 22:22