ゆっくりゆゆこ。
それはれみりゃ以上に数が少ない希少種で、なおかつモデルと同じく食欲旺盛。
しかしその食欲はハンパではなく、ゆっくりれいむ50匹など30分あれば喰らい尽くすだろう。
それどころかれみりゃを捕食していた等の報告もある。
そのために小さいうちに民家に侵入しては住人に発見され叩き潰されることがしばしばある。
成長すれば人を喰らうという縁起でもない話もある。
今のところ『ゆっくりに食われた』という報告はないので安心しておこう。
さて、このゆっくりゆゆこ、成体になると短い手足が生える。
このゆっくりゆゆこ以外で手足や胴体が生えるゆっくりはれみりゃとフランぐらい。
通称、『ゆービィ』と呼ばれる。由来は言うまでもあるまい。
実はこのゆービィ、希少種のためにあまり生態がはっきりしていない。
さて、今日はそんなゆービィを観察することにする。

ゆービィはいつもの小さな洞窟の塒で目を覚ます。
「ゆゆ~」
ゆービィは群れを作らない。作ったとしてもきっと食べてしまうだろう。
ゆービィは塒の周りを見渡すが、ただ岩壁が広がっているばかり。
そりゃあゆービィに食料を保存するといった習性はないからだ。
ゆービィはもたもたとした足取りで洞窟の外に出る。
月が煌々と周りを照らしている。
ゆービィは周りを見渡してみる。
するとゆっくりれみりゃが目の前でゆっくりれいむたちを襲っているのが目に入った。
「うー♪うー♪あまあまー♪」
「ゆ゛ぅ…ゆゆゅ…」
「ゆっくりやめてね!!!ゆっくりやめてね!!!」
れいむはやめるように言うが、そんなことをれみりゃが聞くはずもなく、次々とれいむを平らげていく。
そんなれいむ達を見てゆービィはある行動に出た!
れいむを救済?いいえ、吸い込みです。
ゆービィは大きな口を開けて大きく息を吸い込んだ。
その吸引力はすさまじく、大門…じゃなくてダイソンと同じくらいとも言われる。
「ゆゆゆ?」
生き残っていたれいむがゆービィの方向へと吸い込まれていき、
「ゆっ!!!」
すっぽりと口の中へれいむをしまった。
痛みはないだろう。噛まれてもないのだから。
しかし問題は獲物を横取りされたれみりゃである。
「ゆゆ~」
「ぶー!ぶー!」
ゆービィに近付いていくれみりゃ。
しかしそれはあまり賢い行動とは言えない。
このれみりゃ、世間知らずなのかゆービィがれみりゃ種より強いことを知らないようだ。
「うあー!」
雄叫びをあげて突進するれみりゃ。
普通のゆっくりだったらそのまま噛まれて弄られて「はいそれま~で~よ~」なのだが、そうもいかない。
ゆービィは素早く身をかわし、そのままれみりゃに圧し掛かった。
重さに耐えられず、べちゃ、と地面にへばり付くれみりゃ。
その時に顔を(というか顔しかないけど)強打したらしく、痛さで泣き喚くれみりゃ。
「う゛あ゛ー!!う゛ぁ゛あ゛あ゛ぁ゛あ゛あ゛!!」
頬には滝のように涙が流れている。
ゆービィは地面へと着地し、さっきのようにれみりゃを吸い込む。
「う゛ー!!」
吸い込まれまいと必死なれみりゃだったが、さっきのダメージが大きかったようで、
力ともなくゆービィの口の中へと飲み込まれていった。
「ゆゆ~!」
しばらくしているとゆービィの背中かられみりゃにあった羽が生えてきた。
どういう仕組みなのかは不明だが、どうやら捕食したゆっくりの特性を自分に活かす能力があるらしい。つまりコピー。
ちなみにれいむはスカだそうだ。
ゆービィは羽を広げてまだ月明かりが明るい夜空を舞った。

しばらくゆービィは空を舞っていたが地上に瀕死のゆっくりを見つけた。
もう生きているのか死んでいるのか分からない。瀕死だから当然と言えば当然だが。
ゆービィはそれに向かって一直線に舞い降りた。
「ゆ~♪」
ゆービィはそれに齧り付く。
このあとはまた夜空を飛ぶ予定だった。
だがしかし、現実はそんなに甘くない。
「ゆゆっ!?」
ゆービィを下から出た鉄の籠が閉じ込めた。
「ゆ~ゆ~」
ゆービィは鉄網を叩くが所詮はゆっくり、意味が無かった。
こんな狭いところでは羽も邪魔なだけだ。
ゆービィは羽を千切って鉄網の隙間に投げた。
痛いには痛いが仕方ないのだ。
外に投げられた羽はみるみる成長し、なんとゆっくりれみりゃに変貌したではないか!
これぞゆービィに秘められた能力、ヘルパーそのものである。
このヘルパー、ある程度の自我は持つが基本的にはゆービィのしもべ、手下…もとい仲間。
ヘルパーはゆービィを助ける事になら命を惜しむ事は無く、命を散らしていく。
そのため、用が済んだら大抵はゆービィに食われていくのが悲しい。
「ゆゆゆゆゆ~」
「うー!うー!」
れみりゃは鉄網に体をぶつけ始める。
ガンと鉄音はするが、破壊までには至らない。
一方ゆービィは傍観しているだけ。
ゆービィはヘルパーを作るとヘルパーに物事を任せっぱなしにする特徴があった。つまりは物臭なんだろう。
そんなことも気にせずれみりゃは体当たりを続ける。
帽子が傷ついてもそんなことは気にせず体当たりをする。だってヘルパーだから。
それを10分くらい続けていると、向こうから足音が聞こえてきた。
「あらあら…ずいぶんと仲間思いのゆっくりだこと」
そこに現れたのは八意永琳。通称マッドドクターとか言われているのは気のせい。
彼女はこうして罠をはってゆっくり達(今回は捕食種)を集めていたのだ。
永琳は籠に体当たりしていたれみりゃを手で掴む。
「ふぅ…今日はこれで2匹目…なんだかいまいちね」
「うー!うぅぅ…」
動きが取れなくて羽をバタつかせて暴れるれみりゃ。
しかし饅頭ごときが人間に敵うはずがなかった。
ゆービィはと言うと、呑気に籠の中で眠っていた。
「さて…籠の中身は…おおぅ、これはゆっくりゆゆこの成体ね…珍しい種が手に入ったわ
今日は希少種が手に入った事だし、まぁいいでしょう」
永琳は、鉄の籠を持って永遠亭へと足を急がせた。

ゆービィは気付くと四角い天井が見える部屋にいた。
沢山の鉄製の机が並べられ、その上に書類が大量に並べられ、さらにその横には怪しげな薬が音を立てている。
ラベルを見ると、『ドーピングヤゴコロスープ』、『マジョカルスープ』等が書かれている。
そんなことはともかく、ゆービィとしてはこのせまっくるしい籠から脱出したかった。
ヘルパーはどこへ行ったのかゆービィの周りにはいなかった。
しかし周りからはなにやら甘ったるい臭いが立ち込めている。
よくよく耳を澄ますと小さく「ゅ-ゅ-」とか細い声が聞こえてくる。
ゆービィは周囲に自分の餌が大量にいることを知った。
しかしゆービィがいるのは籠の中。これではゆっくりを食べる事が出来ない。
ゆービィはとりあえず吸い込みをしてみる。
積み上げられている書類が宙を舞い、フラスコの中の液体がジュワと音を立てた。
すると、何かゆービィ口の中に入ってきた。
それはガンパウダー。火薬だった。
ゆービィが今手に持っているのは爆弾。
世界一かっこいい一頭身がいたら、『あれぞボムゆービィ!』とか言うに違いない。
ゆービィは何をしていいのか分からず、とりあえず手に持っているものを投げた。
その瞬間、研究室はボムの炎につつまれた。

「なッ!?なにが起こったの!?」
永琳が慌てて研究室に飛び込んできた。
永琳が見たものは目にも当てられなかった。
薬は枯れ書類は裂け……捕まえていたあらゆるゆっくりが絶滅したかに見えた………。
「あ、あああああぁ…」
絶望のあまり項垂れる永琳。
だが…ゆービィは死滅していなかった!!
そーっとこの部屋から抜け出そうとするゆービィ。
しかし入り口近くで永琳に鷲掴みにされた
「ゆゆゆっ!!」
永琳の表情はよく見えない。だが腸が煮えくり返っているのはよく分かった。
「よくも!このクソ饅頭がッ!わたしの研究を台無しにしてくれたなァああっ――ッ!」
永琳はゆービィの頬を思い切り殴り飛ばした。
「ゆぐぅっ!?」
ゆービィはなすすべも無く壁に叩きつけられ床に落ちた。
衝撃のあまり体を痙攣させるゆービィ。
だがそんなことお構いなしに永琳は近付いてくる。
「よりによってこの部屋でッ!大切な研究成果を灰にしてくれたなァ――――ッ!!」
永琳は顔を血管を浮き出させヒクつかせている。
「蹴り殺してやるッ!このド畜生がァ――――ッ」
プッツンと何かが切れた音がした。
それと同時にゆービィは蹴りを入れられた。
「ゆぐぅえっ!!」
ゆービィが苦しそうな声を上げる。
「おまえを殺すのは一瞬だッ!それでは私の怒りがおさまらんッ!
キサマが悪いんだ!キサマがッ!わたしを怒らせたのはキサマだッ!キサマが悪いんだ!」
永琳はゆっくりには理解できない台詞を吐きながらゆービィに蹴りを入れ続ける。
ゆービィから餡子が漏れる。ゆービィは桜餅なのである。餡子は甘さ控えめらしい。
「ゆぐっ!ゆぐぅ!ゆがっ!ゆぶぅうっ!」
蹴られるたびに苦しそうな声を上げるゆービィ。
しかし永琳は蹴るのをやめない。まぁ当たり前か。
「思い知れッ!どうだッ!思い知れッ!どうだッ!どうだッ!」
助けてくれる輩もいない部屋で蹴られ続けるゆービィ。
もう大きさは半分以下にまで縮んでいた。
声ももうほとんど出ず、ただただ涙を流すだけだった。
「どうだ!どうだッ!どうだァァァァァ――ッ」
最後の蹴りは特別強烈だった。その蹴りはゆービィを貫き、文字にし難い断末魔をあげさせた。
「ゆ゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛う゛う゛う゛うぅぅぅっ!!!」
ボロボロになったゆービィは高く宙を舞い、これまで食べてきたものを走馬灯のように思い出し、床にべちゃとへばりついた。
もう動く気力など残っていない。吸い込む元気も無く、餡子もほとんど吹っ飛んでしまった。
ゆービィは動く事無く静かに息絶えた。

「はぁ…はぁ…はぁ…はぁ…勢いでやってしまったわ…ああ、もったいない…ゆっくりゆゆこ…」
永琳はめちゃくちゃになった研究室で損失を悔やんでいた。
あれを研究すれば、今までの分を取り戻せたかもしれないのに…
「師匠ー?何やってるんですかー?」
ふとウサギの耳をした女性が声をかける。鈴仙である。
「ああ、うどんげ…ちょっと見てよこの部屋…ゆっくりゆゆこを見つけたはいいけど
研究結果とかがめちゃくちゃにしてくれたから…つい、やってしまったわ」
これからの事を考えると項垂れる永琳。
しかし鈴仙は意外な返事を返した。
「めちゃくちゃ?どこがです?」
「え?」
永琳は研究室を見て目を丸くした。
何も変わっていなかったのである。山積みになっている書類もそのままだし、ゆっくり達は相変わらず泣いている。
まるで爆発など無かったかのように。
「あ、あれ?確かにめちゃめちゃに…おかしいわねぇ…」
永琳は首を傾げるほか無かった。

ある洞窟で一匹のゆっくりが生を受けた。
普通のゆっくりと違い、「ゆゆ~」としか喋れないゆっくりは、獲物を求め、空腹のままに外に跳ねていった。

FIN.

by GIOGIO

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

最終更新:2019年12月16日 17:02