※この作品は以下のものを含みます
  • 脇役な虐待お兄さん
  • 比較的普通の良いゆっくり
  • 比較的普通の悪いゆっくり
  • あんまり目立たないドスまりさ
  • なんかもうタイトルとは関係のない内容
それでも良い方のみ、以下にお進みください










                    汝は餡狼なりや?(解決編)





 そして翌朝。
 当然のように、被害者はいない。
 無事を喜び合うゆっくり達の前に、僕はれいむを抱えて進み出てきた。
「皆! よく聞いてね! ゆっくり殺しの犯人を捕まえたよ!」
「「「「「ゆゆゆっ!!!???」」」」」
 僕はれいむを高く掲げ、皆に知らしめた。
「このれいむが一連の連続殺ゆっくり事件の犯人だよ! れいむもそれを認めた!」
「そっ……そうだよ! れいむがみんなをころしたんだよ!」
 れいむはそう言い切った。だが隠し切れない怯えが震えとなって、僕の手に心地よい振動を与えてくれる。
「うそよっ! れいむはそんなことするこじゃないわっ!」
 ある一匹のありすや、他の仲間達が言うが、一方、
「ゆっ! どぉじでみんなをごろじだのぉぉぉぉ!!!???」
 早速信じ込んで憎悪をれいむに向けるものもいる。
「ほうとうだよ! れいむがみんなをころしたんだよ!
 どいつもこいつものろまでよわくてやくにたたないくずゆっくりだったよ!
 あんなれんちゅう、しんだほうがみのためだったんだよ!」
 それにしてもこのれいむノリノリである。
 いや、実際は一気に吐き出すことで心に負担をかけないようにしているんだろうとは思うけどね。
「れいむなんかもうなかまじゃないよ! ゆっくりしね!」
「なかまたちのかたきをうつよ! おにーさん、そのくずれいむをわたしてね!」
 ここで事前の打ち合わせどおり、ドスの教え子達が『れいむを殺せ』と囃し立てる。
 心にもない言葉を口にすることに、顔の端々が引きつっているが、他のゆっくりは気づく様子もない。
 ここで、被害者の家族に目を向けてみることにしよう。
 家族の疑いを晴らすために殺ゆっくりを犯したありす一家やゆかりんなどは、状況が理解できずに困惑しているようだった。
 当然だ。数多く起きた事件のうち、少なくとも一件は、自分達が犯した事件なのだから。
『全ての事件の犯人は自分だ』というれいむの証言は、そのゆっくり達にとっては理解できない内容であるはずだ。
 笑えるのは、自分の都合のために家族を殺した連中だ。
 唇の片端を吊り上げた笑みで、誰よりも苛烈にれいむに『ゆっくりしね!』と叫んでいる。
 連中にとっては、理由は分からないながられいむに罪を着せることができるのだから、嬉しいことこの上ないだろう。
 その他大勢のゆっくりは、俺の言ったことを真に受け、口々にれいむを罵っていた。
 あとはこのままドスが皆をまとめて『加工場送りの刑』を言い渡し、僕が連れて行けば、事態は全て丸く収まるはずだ。
 だがこう前置きしている以上、そんなことにはならないのだった。
「ゆっ、ゆっ、ゆわぁぁあぁぁぁぁぁあぁーーーーーーー!!!!」
 突然、僕が掲げたれいむが大声で泣き始めた。
「ちがうの゛お゛ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉお!!!!
 れいぶはほんどうははんにんじゃないの゛お゛ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」
 皆から向けられる殺意に、れいむはとうとう耐えられなくなったのだ。
「ゆっ! いまさらいいのがれしようったってそうはいかないよ!」
「れいむはゆっくりはやくじぶんのつみをみとめてね!」
 当然、群れのゆっくり達は聞く耳を持たない。だが、
「「「「「まっでぇぇぇぇぇぇ!!!! れいぶのいうごどはほんどうなのぉぉぉぉぉぉ!!!!」」」」」
 昨日の会議に集まり、事情を知っているゆっくり達が飛び出し、僕とれいむを守るように取り囲んだ。
「むぎゅぅぅぅぅ!!! れいぶは、むれのだめに、づみをがぶろうどじでるだげなのぉぉぉぉ!!!」
「れいぶはなにもわるぐないんだぜ!!! じねなんでいうな゛あ゛ああああああああ!!!」
 涙ながらに、れいむの無実を訴えかける。
 この状況に、群れ全体からも追求の声がやんだ。
 いきなり犯人として引っ立てられたものが、すぐさま犯人じゃないと否定されたのだから、餡子脳ではついていくのも難しいだろう。
 予想通り──いや、予定通りの展開だった。
 僕は仕方なさそうに溜息をつく仕草をして、ドスに言う。
「ここまできたらしょうがない。ドス、皆に本当のことを言おう。いいね」
「ゆっ……そうだね」
 僕は、昨日ドス達に話した内容をかいつまんで説明した。
 群れの中には最初から共通した犯人はおらず、それぞれの容疑者の家族が、それぞれの事情で家族を殺したこと。
 その連鎖を食い止めるため、れいむが自ら犯人役として志願したこと。
 ここまで言えば、群れのゆっくり達も状況を理解してくれたようだった。
 これからが僕にとって一番楽しい時間となるわけだが、その前に──
「!!! みんな! その子たちをにがさないでね!」
 ドスが叫び、はっと気づいたゆっくり達がいっせいに動き出した。
 家族を殺したゆっくり達の一部が、こそこそと逃げ出そうとしていたのだ。
 殺したのは大抵が子ゆっくりか普通のゆっくりだったので、あまり労せずして捕えられた。
「は、はなずんだぇええええええ!!!」
 父まりさは暴れたが、しかし三匹から押さえつけられてはどうしようもない。
 すぐさま、本当の殺ゆっくり犯達は、群れの中心にまで押し出された。
 ちなみにありす一家他は最初から逃げ出そうともしていなかった。
「さてさて! これで一連の事件の、本当の犯人達が明らかになったわけだが……」
「まりさはやってないんだぜ!」と父まりさの声が届くが無視無視。お前ほんとウザい。
 ゆっくり達をゆっくり見回すと、やはり、対処に困っているようだった。
 このような事態は、完全に予想外だったのだろう。連中風にいえば、『ゆっくりできないゆっくり』があまりに多い。
 経験したことのない事態に、ゆっくり達はどう行動していいのか分からないでいるのだ。
 かといって、罪を犯したゆっくりをそのままにすることはできない。
 自失し、判断を見失った集団──これほど御し易いものもない。
 ショウ・タイムだ。
「全員殺すか!?」
「「「「「ゆ゛っ!!!???」」」」」
 唐突な強い言葉に、群れ全体が硬直する。
 僕はその硬直が解けないうちに、れいむを下ろし、代わりにゆかりんを抱き上げた。
「だがこのゆかりんは、愛するちぇんを殺ゆっくり犯にしないため、らんしゃまの合意のもとにらんしゃまを殺した。
 伴侶を自らの手にかけるその苦しみ、一体どれほどのものだろうか」
「ゆ、ゆぐっ……」
 悲しみがぶりかえしてきたのか、ゆかりんははらはらと涙を流し始めた。ネギ臭い。納豆にネギは付き物だけどそれはどうなんだ。
 僕はゆかりんをそっと地面に下ろし、再度問いかけた。
「それとも、全員赦すか?」
「「「「「ゆゆぅ……!!!!!」」」」」
 そして今度は、動けない赤れいむを殺したれいむ姉妹をわしづかみにして持ち上げる。
「だがこのれいむ達は、自分達が差別から逃れるために、一番下の妹を殺した。
 常日頃から疎んでいた動けない赤ちゃんれいむを片付ける、いい口実として!
 確かに赤ちゃんは不幸な子だったかもしれない。だがそれでも、母親のれいむはそれを育てようとしていた!
 それが気に入らないという理由で実の妹を殺したこいつらを、果たして赦していいのか!?」
「だっであんなあがぢゃんいだんじゃゆっぐりでぎないよぉぉぉぉ!!!」
「れいむだぢはわるぐないよっ!! ゆっぐりはなじでえええええ!!!」
 この期に及んで自らの正当性を主張し始めるれいむ姉妹に、ゆっくり達は冷たい視線を向ける。
 だが、このゆっくり達の扱いをどうすればいいのか、という案件は、まだ解決されないままだ。
 それについてはドスも側近ぱちゅりーも考えあぐねているようである。
「皆、決めることができないようだね。
 それじゃあ、話は簡単だ。──その子達の、連れて行かれた家族に聞いてみよう」
 僕は昨日から持ってきていたリヤカーを傾け、その中に入れていたものを出した。
「「「「「ゆゆゆゆゆゆ!!!???」」」」」
 そこにいたのは、容疑者として連れて行かれた全てのゆっくりだった。
「どうしてその子たちがそこにいるのぉ!?」
「どうしても何も、僕が昨日のうちから連れてきてたわけだが」
 そう、既に僕は、容疑者ゆっくり達にある程度の事情を説明し、ここに連れてきていた。
 昨日のうちに『明日犯人が分かるから今のうちに連れて行くよ』と言ってリヤカーに乗せ、運んでいたのだ。
 できるだけ静かにするよう言っておいてから。
 このリヤカーにも、さっきの話の内容は聞こえていたはずだ。
 つまり──容疑者だったゆっくり全員が、自らの家族が犯した罪について知っている。
「さぁ皆、家族のもとへお帰り」
 僕の優しげな一言が契機となって、ゆっくり達はそれぞれの家族に向かって駆けていった。
 その後の様子を、人家族ずつ追ってみよう。

「どぉじでおねえぢゃんをごろじだのぉぉぉぉ!!!」
「ごべんなざいいいいい!!!」
「おがーざんをはんにんにじだぐながっだのぉぉぉお!!!」
 ありすは、長女まりさを殺した姉妹達を攻め立てたが、しかし事情を知るとその追及も弱まっていった。
 長女まりさ自らが、母のために死を選んだという事情を、受け入れないわけにもいかなかった。
 それは長女まりさが死んだ意味すら否定することになるのだから。
 やがて家族は寄り添って、一緒に泣き始めた。
 この家族は今後も安泰だろう。

「よぐもあがぢゃんをごろじだなぁああああ!!!」
「だっでおがーざんがはんにんになっだら、まりざだぢゆっぐりでぎないよ!!!」
「ゆっぐりでぎないのはいやだっだんだぜぇえええええ!!!」
「うるざいっ! おばえらなんがもうまりざのごどもじゃないんだぜ!!! ゆっぐりいなぐなれええええ!!!」
「「どぉじでぞんなごどいうのぉぉぉぉぉぉぉ!!!???」」
 まりさ一家は惨憺たる有様だった。
 自分を罵った家族に対しても、親まりさは愛情を抱いていたらしい。
 だがその愛情も、これで完全に終了だ。この家族が仲直りすることは、今後一切ないだろう。

 ちぇんとゆかりんは、特に言葉を交わすこともなく、ただ抱き合っておいおいと泣き続けた。
 ただらんしゃまの死を悼むことしか、今の二匹にはできないのだ。

 我が子を殺した父まりさは、酷いものだった。
「じねぇえええええええええ!!!」
「ゆべっぶ!!!」
 発言の暇すら与えず、母れいむの渾身の体当たりが炸裂したのだ。
「よぐも! よぐもれいぶのごどもをごろじだなっ!!! まりざはおどーざんだっだのにぃぃぃぃ!!!」
「ぎぐっ!! だっで、ごどもがでぎでがら、れいぶはまりざにづめだがっだんだぜぇぇぇ!!!
 ぐやじがっだんだぜぇぇぇぇ!!!」
 子供に嫉妬するとかなんちゅう親だ。連れ子とかならまだしも、実の親子だろうに。
「うるざいっ!!! えさもじぶんでちっでごないようなまりざと、ずっぎりじようなんでおもえないよ!」
「ゆぅぅぅぅ!!?? まりざはぢゃんとえざどっでぎでだんだぜっ!?」
「しらないとでもおもったの!? さっきおむかいのありすからきいたよ!!
 いつもかりにいくふりして、ありすからごはんもらってたって!!
 おまえなんが、もうれいぶのおっどでもなんでもないよ!!! ざっざどじねぇええええええ!!!!」
「ゆぶぎぇええええええええええ!!!???」
 妻帯者で子持ちでありながらヒモがいたとか。どんだけ最悪やねん。
「あっ、ありずっ!! はやぐだずげるんだぜっ!! ありずはまりざをあいじでるんだぜええええ!!??」
 しかもそのヒモに向かって助けを求め始めた。父まりさ株が凄い勢いでストップ安である。
 そしてそんなに世間は甘くないわけで。
「だまれっ!!! わだじは、まりざがごどものごばんだりないっでいうがら、ごばんわげでだだげなのにっ!!!
 れいぶがづめだいっでいうがら、なぐざめであげだがっだだげなのにっ!!!
 ごのうぞづぎのぐずまりざああああああああああああああああああああああ!!!!!」
「ぼびゅぅぅぅぅぅ!!!!」
 とうとうヒモからも見捨てられ、父まりさの顔が凄い勢いで変形して飛んでいった。
 それを今度はれいむが弾き返す。
 父まりさはれいむとありすの間で、キャッチボールのように殴られ続けた。
 最後まで生きていればいいが。

「ちんぽーーーーーーーーーーーー!!! ちんぽちんぽちんぽちんぽ!!!」
「ち、ちん……ちんぽー。ちんぽちんぽ……!!!」
「ぢんっ!?」
「ちんぽー、ちんぽちんぽちんぽぉぉぉぉぉ!!!!」
「ちんぽぉぉぉ……」
「「「「ちんぽー!」」」」
「ぽ!?」
「「「「ちんぽー!」」」」
「ち、ちんん……! ちんぽぉぉ……!」
 今のは父みょんを問い詰めるみょんが、父みょんから事情を聞かされ、母みょんの忘れ形見の赤みょん達を見て涙するシーンなのだが正直聞くに堪えない。
 一体、今何回放送禁止ワード出たよ。

「ちがうんだぜっ! ぱちゅりーはれいむがやったんだぜ!」
「ちがうでしょぉぉぉ!? まりさがいっしょにころそうっていったんでしょぉぉぉ!?」
「なんでばらすんだぜぇぇぇ!?」
 性欲ありすのセフレ(笑)であるれいむとまりさは、醜い責任の押し付け合いをしていた。
 これには性欲ありすの怒りも有頂天である。
「もういいよ!! ふたりともとかいはのありすのこいびととしてはふてきかくだわ!!
 もうわたし、ふたりとはいっしょうすっきりー!しないから!! さっさとありすのまえからきえてね!!」
「「なんでぞんなごどいうのぉぉぉぉぉ!!??」」
 おお、醜い醜い。

 理性的なありすは、他のゆっくりから恋人の死を聞き、ただ涙を流した。
 悲しみを分け合える相手も、怒りをぶつける相手もおらず、この中では一番哀れかもしれない。

 動けない赤れいむを殺した姉妹への処罰は、既に完了していた。
 全ての姉妹が死なない程度に餡子を吐き出しており、母れいむは荒い息をついていた。
「おちびちゃんをころしたおまえたちとは、もうゆっくりできないよ!!!
 そこでゆっくりはんせいしてね!!!」
「ゆ……いだぃ、よぉ……」
「おがぁざぁぁぁん、どぼじでぇ……」
「うるさいよ!!! もうれいむはおまえらのおかーさんなんかじゃないよ!!! ころされないだけありがたいとおもってね!!」
 どうやら子れいむ達は、完全に母親から愛想を尽かされたようだ。
 常日頃から末っ子への虐めに頭を抱えていたところに、今回の事件は決定的なトドメを差してしまったんだろう。

 そこかしこで、悲しみの涙が流れ、怒りの声が飛ぶ。
 ああ──これが見たかった。僕は熱い吐息を吐き出さずにはいられない。
 この家族達の光景を見るために、あえて容疑者ゆっくり達に何もしなかったのだ。
 何よりも、別に僕が直接手を出したわけでもないのに、ゆっくりと崩壊に向かっていく群れの姿が心を掻き立てた。
 時間を巻き戻すことが赦されるなら、今度は今朝の茶番を仕込んだりせず、ただ群れが滅んでいく姿を眺めていたい。
 しかも笑えることに、この群れは僕に対して全幅の信頼を寄せているのだ。
 悲劇の原因を作り、事件を止めることのなかった僕にである。
「むきゅ、おにーさん、ないてるの……?」
「いいや、違うよ、ぱちゅりー。なんでもないよ」
 顔を押さえている僕を見て、心配そうにぱちゅりーが声をかけてきた。
「泣いてなんかいないよ」
 ただ、笑いを堪えているだけさ。



 一頻り家族との再会、或いは糾弾が終わったところで、僕は皆に呼びかけた。
「さぁ。容疑者として連れて行かれた皆に、家族として聞きたい。
 皆は、家族を赦すかな? もし赦さないんであれば、僕の前に差し出してね」
 行動は二通りに別れた。
 守るように家族を後ろに隠す、母ありす、ちぇん、みょん。理性ありすは伴侶がいないためただ悲嘆にくれている。
 容赦ない動きで家族やセフレ(笑)を突き出す、親まりさ、母れいむ二匹、性欲アリス。
 突き出された連中は、どれもこれも既に一定の暴行を受けているようだった。
 父まりさに至ってはたまに痙攣する程度である。明日までもつかな。
 僕は大きく息を吸い、大袈裟な演技をして言った。
「裁決は下った! 家族のために罪を犯したゆっくり達は、その家族によって罪を赦された。
 自分のために罪を犯したゆっくり達は、その罪を糾弾された。
 前者については、事情を汲んで、それを赦してあげたいと思う。
 後者については、あとで何らかの処罰を与えたい。──そういうことでどうかな、ドス」
 ドスはしばらく目を閉じて考え込む仕草を見せていたが、やがて告げた。
「みんな、お兄さんのいうとおりにするよ!
 ありすいっかや、ゆかりん、みょんのおとうさんについては、まりさはつみをとわないよ!
 この子たちをいじめようとするゆっくりがいたら、まりさはそれをゆるさない! まりさがこの子たちを守るよ!
 つみをゆるされなかったまりさたちとれいむたちについては、明日にでもしょぶんをきめるよ!
 みんな、それでいいね!?」
「「「「「ゆっくりりかいしたよ!!!!!」」」」」
 どうやら、群れの意見はまとまったようである。
 僕は罪を赦されなかったゆっくり達を一匹残らずリヤカーに詰め込んだ。
「さ、ドスは皆と一緒に久しぶりにゆっくりしてね。
 とはいっても、捜査のせいで餌とか少なくなってるだろうから、それを今日は集めないといけないだろうけど。
 こっちの悪いゆっくりは、とりあえずドスの家の奥に入れておけばいいかな? ご飯は、あまり美味しくないものでいいなら、僕が与えておくよ」
「お兄さんありがとう! ゆっくりおねがいするよ!」
「いやいや」
 というわけで僕はリヤカーごとドスの巣に突っ込むと、一旦家に帰ってクズ野菜を持ってきて、リヤカーにブチ込んでおいた。
 抗議の声もあったが、
「なに、今死にたいの?」
 と、虫食いの林檎を目の前で林檎ジュースにしてやったら、大人しくなった。
 ドスは皆と仲良くやっているようだ。暗い雰囲気に包まれていた群れにも、ようやく笑顔が戻ったのである。
 まさに、めでたしめでたし、だ。



 ──なんて、そんな終わり方を僕が許すはずがない。
 メインディッシュの後には、当然、デザートが欲しくなるだろう?
 深夜、日付が変わった頃。僕はこっそりと群れを訪れていた。向かうのはドスの巣だ。
「ゆぅ……ゆぅ……んがが」
 ドスは、昨晩徹夜した疲れから、完全に寝入っていた。ご丁寧に鼻提灯まで膨らましている。
 僕はドスの横をすり抜け、その奥にあるリヤカーに辿り着く。
 中には、捕まったゆっくり達が眠っていた。暢気な連中だ。
 それを起こさないように、残らず加工場謹製の捕獲袋に詰め込んでいく。
 全部捕まえたことを確認すると、もう一つ持ってきていた袋の中身を、リヤカーの中にぶちまけた。
 そしていそいそと家に帰っていった。



 翌朝、群れは再び大混乱に陥っていた。
 当然だろう。リヤカーを覗いてみれば、そこにいたはずのゆっくり達が、原型も留めないほどぐちゃぐちゃにされて死んでいたんだから。
「お、お兄さん、これってどういうことなのぉぉぉ!?」
 折角ゆっくりできるようになった矢先に起きた事件に、ドスはかなり狼狽していた。側近ぱちゅりーに至っては寝込んでいるらしい。
「ふぅむ……」
 僕は考え込むふりをしながら、言う。
「これは、外から誰かが殺したってわけじゃないな」
「ゆっ!?」
「よく見るんだ、ドス。飛び散った餡子の量が、昨日捕まえたゆっくりの数に対して、少ないと思わないかい?」
「ゆっ、そういえば……」
「しかも、まりさの帽子やれいむのリボンが一つも残っていない。ゆっくり達は、飾りを見ればそれが誰のものか分かるんだよね?」
「そうだよ」
 分かりきっていたドスの返答に頷いてから、僕は告げた。
「これは多分、この中に捕えられていたゆっくりが、他のゆっくりを全部食い殺して逃げ出したんだ」
「!!!」
「しかも犯人特定を避けるため、飾りも全部奪って、ね……。
 隅のほうを見てごらん。餡子が一箇所に固まっているところがあるだろう。多分あれを踏み台にして逃げ出したんだ」
 ドスは焦りを孕んだ口調で言う。
「ゆゆっ! たっ、たいへんだよ! きょうぼうなゆっくりが、まだどこかに……」
「ああ。非常にまずい状況だな……」
 事態の深刻さを案じているような顔をしつつ、僕は心の中でゲラゲラ笑っていた。
 実は昨日、盗んだゆっくり達の代わりに入れておいたのは、別のゆっくりの屍体を念入りに潰したものだった。
 いたはずのゆっくりがいなくなって、後にぐちゃぐちゃの屍体が残っていれば、当然死んだものと思うだろう。
「事件はまだ終わっていないということだね。
 ドス、皆にこのことについて、注意して回ってくれ」
「ゆ、ゆっくりわかったよ!!!」
 ドスは慌てて群れのほうへと向かっていく。僕はその背中をニヤニヤしながら見送った。
 きっとドスの中では、とんでもなく凶暴な大量殺ゆっくり犯の姿が構築されつつあることだろう。
 無論そんなものはいない。あのゆっくり達は、残らず僕の家にいるのだから。
 哀れなことに、この群れはもうずっとゆっくりできないことだろう。
 いもしない犯人のために、毎夜毎夜を怯えて過ごすことになる。
 その中で、一体ゆっくり達はどのような行動を見せてくれるだろう。
 見えない恐怖に怯え、ゆっくりと精神を蝕まれていくのか……
 気に入らないゆっくりを殺して、いもしない犯人に罪をなすりつけるのか……
 いずれにしろ、この群れが迎える結末が、僕は楽しみだ。
「そうだ。落ち着いてきたら、あの捕まえたゆっくりの屍体でも投げ込んでみるかな」
 ふと思い付きを口にする。ゆっくり達はさらにゆっくりできなくなることだろう。
 そこにまた僕が出て行って、それっぽい言葉を並べ立てて、群れを混乱させるのもいい。
 何しろ僕は、事件解決の功労者として、この群れから絶大な信頼を得ている。虐待お兄さんである僕が、だ。
 家にいるゆっくり達も、この群れに残ったゆっくり達も、まだまだこれからも僕を楽しませてくれる。
「ふふっ、あはははは……!」
 楽しい楽しい未来を想像して、僕は今度こそ、笑いを止めることができなかった。









  • あとがき
 タイトルから思いついて書き始めたら、脱線してしまうのは運命なんでしょうか。

 元ネタは有名なテーブルゲーム『汝は人狼なりや?』です。ルール等については調べればすぐ出るのでここでは割愛します。
 この作品では、珍しく虐待お兄さんが脇役です。
 地の文が一人称ですし、状況の発端ともなっていますが、しかしほとんど直接手を下すことはありません。
 最初はそもそも虐待お兄さんもドスも存在しない話でしたが、オチのために必要だったのです。
 ドスのほうは、群れ崩壊のストッパー及び虐待お兄さんの話し相手という位置づけなので、殆ど話には関わりませんし。
 いや、それにしても最初はもうちょっとさっぱりした話だったような……自滅エンドとかその辺りの……
 リーダーぱちゅりーが『人狼』ルールを提案して、結局自分が容疑者として殺されるとか、そんなの。
 ……そっちの話のが良かったかしら。
 ちなみに今回の虐待お兄さんの設定は以下のような感じでした。

種族:人間
職業:農家
性格:ナチュラル外道サド八方美人
趣味:ゆっくりいじめ。ただし、直接死に追いやるような虐待はしません。
   しかし、ゆっくりがどうしようもない状況下で死んでいく様を見るのは大好きです。

 では、また。





  • 今までに書いたもの
 ゆっくり実験室
 ゆっくり実験室・十面鬼編
 ゆっくり焼き土下座(前・中・後)
 シムゆっくりちゅーとりある
 シムゆっくり仕様書
 ゆっくりしていってね!
 ゆっくりマウンテン
 復讐のゆっくりまりさ(前・中・後)
 ゆっくり禅譲

by 土下座衛門





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最終更新:2022年05月03日 15:40