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生徒会SS3 ---- #contents ---- *無題 ゆとりのひろゆき。 彼の死によって、学園の治安はゆとり化以前の水準に―――否。 それよりも悪化しようとしていた。 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ モヒカンザコ。 その名の通り、モヒカンヘアーを特徴とし、棘や鋲のついたアーマーを纏い、 棍棒やボウガン、果ては火炎放射器まで持ち出して、暴虐と略奪の限りを尽くす生命体を指す。 かつて、希望崎学園祭において大量発生し、その後ほとんどが駆逐されたものの――― モヒカンザコは、決して滅ぶことはなかった。 ある者はダンジョンに逃れ、そこでドラゴンやクマと共に暴れ回り。 ある者は学園の片隅で、か弱い女子(と一部の男子)を弄び。 ある者は昼休みの度に、食堂にバイクで殴り込み学食を根刮ぎ食い回る。 それが希望崎の当たり前の風景になるまで、そう時間はかからなかった。 学園側も、生徒会・番長グループ共に独自にモヒカンザコの掃討、及び説得・勧誘など 手段を色々講じてはいるが、根絶には決して至らないのが現状である。 そんな暴力性も、ゆとりには勝てず。 特徴的なファッションの棘は丸みを帯び、凶器はピコピコハンマーや水鉄砲に変わり、 昼休みになれば、中庭に集まって手作りのお弁当でランチタイムを楽しむ……という光景が 学園の至る所で見られるようになっていた。 しかし、ゆとりという鎖は―――なくなってしまった。 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 希望崎学園、園芸部所有農園『タカマガハラ』――― 園芸部が所有する農園の一つである。 余談ではあるが、園芸部は学園内各地に農園を設けている。 農園の敷地面積を合計すると、なぜか学園敷地面積よりも広くなるとまで言われるほど 広大な農園が、学園中そこらに多数存在するのだ。(その内の一つが、巨大温室『世界樹』である) 種を明かせば、園芸部員に『面積を操る能力』を持つ者がいるのだが――― その人物は今回の話には特に関係がないので、いずれ日を改めて語ることになるだろう。 ともあれ。 『タカマガハラ』は農園である以上、農作物が育っている。 これまた部員の能力のなせる技か、寒風吹きすさぶ中でも 多くの野菜が艶やかに、鮮やかに熟れているのだ。 つまり――― 「「「ヒャッハーーーーーー!! 食い物だぜぇ~~~~~!!!」」」 モヒカンザコが、狙わないわけがないのである。 食物があれば奪い、飲み水があれば奪い、異性がいれば奪う。 それが彼らの行動理念であり、本能なのだから。 しかし、彼らはこの後思い知ることになる。 自分達がどうしようもなく、モヒカンザコであるということを。 「ひいふうみい…… 7匹ですか」 不意に、作物の陰から人影が現れる。 右手に土のついたスコップを握った、作業着姿の男である。 特徴的な麦藁帽と、目元を覆うライダーゴーグル――― そんな格好をした人物は、園芸部広しといえど一人しかいない。 園芸部『ファーマー』、菜園場 果樹丸である。 「あ~~~~?なんだテメエは~~~~?」 「ヒャッハーー!コイツ確かサイエンジョーとか言う奴だぜぇー!」 「ヒャッハーー!まるでカカシだな、構うこたねぇやっちまえ!」 モヒカンザコのリーダーらしき、赤モヒカンが叫んだのを皮切りに。 一斉に他のモヒカンザコが、菜園場目掛けて棍棒を投擲―――しようとしたその刹那。 ざくり、という異音が響いた。 「カカシですか……よく言われます、背高ノッポで麦藁帽ずっと被ってますからね。  ですが、私はカカシと違って―――動くんですよ」 そう言いながら、菜園場は右手をひらひらと振ってみせる。 そこに握られていたはずのスコップは、何故かそこにはなく――― 「あ?あ、ばああ~~~~~!?」 赤モヒカンの額に、突き刺さっていた。 顔面を真っ二つに割られた赤モヒカンは、奇声を発しながら―――地面へとぶっ倒れた。 「「「ひ、ひゃあああああ~~~~!?り、リーダー!?」」」 予想していなかった異様な光景に、棍棒を取り落とすモヒカンザコ一同。 だが、彼らの恐怖は……終わらなかった。 赤モヒカンの割れた脳天から、這い出るように……細長いモノが伸び始めていた。 最初は一本だったソレが、二本三本と伸び―――互いに絡み合って、人の背丈ほどに育っていく。 それに反比例するように、根元の赤モヒカンの亡骸が痩せ細り、干涸らび―――そして、崩れる。 「そんなに作物が欲しいなら差し上げますよ。  生物を養分に育つ、品種改良したてのソイツを、ね」 赤モヒカンの肉体が崩壊し終わると同時に。 蠢いていた蔦の中から、巨大な蕾が顔を出し―――禍々しい花を開いた。 「な、なんだこりゃ―――」 「ひゃ、はははは……」 驚愕の余り、失神するモヒカンザコA。 恐慌の余り、失禁するモヒカンザコB。 この瞬間、彼らの運命も決まってしまった。 動きが止まった隙を見逃さず、菜園場が攻撃に移る。 尤も、彼に言わせればこれは攻撃ではなく―――害獣駆除であり、種蒔きである。 肉に、骨に、脳に―――何か硬い物が食い込む音が再び響く。 注意深く聞けば、それが一回でないことが解っただろうが……それを認識できたのは、菜園場自身だけだろう。 一同が気付いたときには、終わってしまっていた。 モヒカンザコAとBの額に、何かの種がめり込んでいたのだ。 二人の双眸が虚ろになり、口からだらしなくよだれを垂らしたかと思うと――― Aの眼窩と、Bの口腔からそれぞれ蔦が這い出ていく。 二人の身体を覆うように、締め上げるように無数の蔦が絡み――― 妖花は合計三輪となった。 「ひ、ひいいい……なんだよ、なんなんだよこの能力……」 ぺたり、と尻餅をつくモヒカンザコC。 その瞳は最早、虎に食われる草食獣の如く怯えきっていた。 「これは心外な。能力なんて使わなくても、貴様ら害獣程度は駆除できますよ?  これはあくまで“品種改良”の賜物なのですから」 にこりと微笑みながら、種を撃ち込む。 合計、四輪。 「あは、あはははははははは」 恐怖に脳を焼かれ、土を掘り返し始めたモヒカンザコD。 「ああ、困りますね。土を掘り返されたら、サツマイモの生育に悪影響が出ます」 モヒカンザコDの頭を踏みつけ、地面にキスをさせるように踏みにじる。 そのまま動かなくなった身体から、蔦が顔を出す。 合計、五輪。 「ひいい、い、いやだあああああああ!!!」 涙と鼻水を垂らしながら、必死に逃げるモヒカンザコE。 「たすけて、たすけ、たす、あ、あひゃあばばあ ぷ 」 走る身体が段々と捻れ、弾けるように花が咲く。 合計、六輪。 「……さて、後はあなただけですね」 穏やかな微笑みを崩さぬまま、最後に残されたモヒカンザコへと近付いていく菜園場。 最後のモヒカンザコが、その様子に思わず後ずさりしながらも―――笑顔を向ける。 モヒカンザコ特有の、強者に媚びるときの表情だ。 尤も、恐怖のあまりその顔はくしゃくしゃになってしまっていたが。 「す、すみません旦那ぁ! 昨日からなんも食ってなくて、で、出来心だったんでさあ!  今度からもうしませんから、どうかそれだけはカンベンしてくだせえ~~~!」 ぶるぶると震えながら、祈るように腕を組み命乞いをするモヒカンザコ。 あまりにも哀れなその様子に、菜園場も思わず呆れたように溜息をつく。 「……本当に、もうしないと誓えますか?」 「え、ええ!もちろんです、ヒャッハアア……」 「そうですか。 ……じゃあ、もう帰ってくださいね」 へ? と、思わず拍子抜けした声を漏らすモヒカンザコに背を向け、 争いで荒らされた作物や地面を整え始める菜園場。 「あ…… ありがとうごぜえやす!ありがとうごぜえやす!!」 命を救われたことに、心の底からの感謝を覚えたのか。 思わず土下座して、泣いて謝るモヒカンザコ。 本能に従うならば、菜園場が背中を向けた瞬間に襲い掛かるべきにも関わらず――― 本気で、悔い改めて詫びたのだった。 「礼は構いませんから……それ以上そこで土下座されたら土が固められてぺしゃんこになっちゃいます」 「あ、そ、そうですね……すみません、サイエンジョーの旦那ァ!  それじゃ、俺はこのへんで……」 慌てて立ち上がり、農園を後にしようと踵を返した―――その時だった。 菜園場の手が、帰ろうとしたモヒカンザコの頭を鷲掴みにしたのである。 「あ、れ? サイエンジョーの旦那、頭掴まれたら帰りたくても、帰れな……」 「気が変わりました。反省の意思が感じられません。  しょせん害獣は害獣、ということですね。いけませんいけません、退治を面倒くさがっているようじゃあ  ファーマー失格ですねえ……私の方こそ反省せねばなりませんね、これは」 「え、は、話が、ちが……サイエンジョーの旦那、はなして……」 モヒカンザコが、菜園場の名を三度呼んだその瞬間。 菜園場が空いているもう片方を貫手にし、モヒカンザコの心臓目掛け―――突く。 その手には、当然―――種が一粒、握られていた。 「げはあ!? ひ、ひどい、ひ、ひ、ひでぶっ!?」 貫かれた空洞を埋めるように、種が芽吹き―――モヒカンザコの血を啜り、肉を貪り、骨を蝕んでいく。 そして、七輪目の邪悪な花が、咲いた。 「命乞いするなら、人の名前くらい覚えなさい。    ……私の名前は『さえんば かじゅまる』なんですよ」 数秒前まで、モヒカンザコだったその花に向かって呟く。 その表情は、笑顔でも憤怒でも悲哀でもなく―――この上ない、無表情だった。 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 「……ふう、駄目ですねやはり。種が良くても苗床がこれじゃあねえ」 数分後。 菜園場は、妖花の成れの果て―――果実を見て、盛大に溜息をついた。 果実には、種の糧となったモヒカンザコ達の恐怖にひきつる顔がくっきりと浮かんでいた。 「今度蒔くときは、もう少し美しい苗床を選ばないといけませんねえ……」 七つの実をもぎ取り、近くの肥溜めに投げつける。 綺麗な放物線を描き、全部の実が肥溜めへと沈んでいった。 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 後に、このモヒカンザコの掃討劇が生徒会の目に留まり――― 菜園場は、ハルマゲドン生徒会陣営にスカウトされることとなる。 その間も、彼は各地の園芸部農園を守り奔走することとなるのだが―――それはまた、別の話である。 *『御厨槍太SS』  御厨一族。  数ある魔人一族の中でも、その一族全てが操身術、あるいは操心術――便宜上『操身術』と呼称しているが――すなわち他者を操る能力を持つ魔人のみによって構成された一族である。  人間を操る、それは得てして大きな需要を持つ。その需要に応えて彼らは動き、人を操る。それ故に『身繰屋』の異名で遥か昔からさまざまな場面で活動してきた。  もちろんこの種の能力を持つ魔人は一族以外にも多い。場合によってはそれを専売特許としている御厨一族の下手な魔人よりも強力な魔人もいるくらいである。  しかしながら操ると一言で言ってもさまざまな手法がある。種々様々な能力を持つ一族の操身術を駆使して依頼主のさまざまな要望に応えることができるという強みから、彼らは社会で一定の地位を保っていた。  一族が操身術士ばかりなのは人は得てして周囲の人間に影響を受けるものであるということだろう。操身術に覚醒するための一族独自のノウハウに加え、操身術士ばかりの環境で育った彼ら身繰屋の卵たちも、そのほとんどは他者を操る能力を手に入れるのだ。加えて、一族の外からも優れた操身術士を引き入れることでまた操身術士の数を増やし、更にその勢力を強めていた。操身術士でないのはまだ魔人として覚醒していない人間くらいのものである。  しかし、それでも得てして例外というものはある。希望崎に通う彼、御厨槍太もそうだった。御厨に生まれながら、彼は操身術を身に付けることができなかったのである。  前述のとおり外部からも操身術士を一族に引き入れているように、御厨は血に拘らない。それは逆に言うと、一族に生まれたものであっても操身術を得ることが出来なければ容赦なく一族から追放されるということでもある。  そして御厨槍太が御厨一族から除名されるのも時間の問題とされていた。     ※ ※ ※    少年は目の前にあるそれを見て足を止めた。 「ん、なんだこれ?」  そこにあったのは立札である。ここは希望崎学園の一角。そこに通う少年は何度も通った場所である。しかしこの場所にこれまでそんなものはなかったはずだ。  その立札には『こっち ⇒』と矢印が大きく書かれている。  首を捻りながら矢印の指し示す方を見るが、ただ細い道があるだけだ。 「なんか分からないけど、折角だし行ってみるか」  どうせ特にすることはない。物は試しとばかりにその立札の指示に従ってみることにした。    そして少年は抜け道のような細い道を進み――その先に掘られていた落とし穴に落下した。   ※ ※ ※   「ふっふっふ、見たか、この俺の操心術を!」  そう不敵に笑うのは御厨一族のはぐれ者、御厨槍太であった。その手には先程少年を落とし穴に導いた立札がある。  少年が落とし穴に落ちたのを確認すると、証拠隠滅とばかりに引き抜いてさっさと退散したのだ。  そんな槍太を、傍らの友人は頭痛を堪えるようにしながら見ている。彼も先程の一部始終を見ていたのだ。 「というか単に立札の指示に従っただけで、操心術は全然関係ないだろ」  その言葉にも槍太は動じない。 「これだから素人は。俺は立札の文言を介して相手を操ったんだ。まあ傍からそう見えるというのも極めて自然に操ったからだな」  そう言って悦に浸る槍太だったが、彼に操心術に関する魔人能力が無いことを知っている友人からすれば呆れて苦笑しか出ない。 「この能力で今度のハルマゲドンで成果を出し、それで一族に凱旋する! ……そうすれば一族追放だなんだの言わせない」  だが槍太のその言葉によってその笑いも消える。先程のは明らかに操心術とは関係なかったが、操心術士となるべく育てられた彼にとっては、決して譲れないのだろう。  まあその実験台として無関係にもかかわらず落とし穴に落とされた少年は可愛そうとしか言いようがないが。 「でもハルマゲドン中じゃ、相手も罠かと思って立札に従うとは思えないけど……」  ぽつりと懸念を呟くが、槍太は聞いていない。 「俺の操心術と、陸上部で鍛えた槍投げの技で、番長グループの奴らをみんな操ってやるぜ」  そう言って手にした立札を槍投げの要領で投擲する。  宙を舞った立札は、長い滞空の後大地に突き刺さる。突き刺さった場所は、先程立札を突き刺した場所と寸分違わなかった。  この投擲こそ御厨槍太の本当の魔人能力である。その能力によって彼はどんな場所であろうと正確な投擲を可能としている。もっとも本人は自分の能力を操心術と言って憚らないが。 「あっ、今投げたやつ! お前らが俺を落とし穴に落としたのか!」  と、立札の側で泥だらけの少年がこちらを睨みつけている。どうやら今のを思いっきり見られてしまったようだ。  二人は慌てて退散した。      ――ちなみに立札によるなんちゃって操心術よりも、その能力で素直に投げ槍で直接攻撃した方が圧倒的に強いのは秘密である。 *~~社応援SS 神心~~ さて、そろそろハルマゲドンも開戦ですね。 計画通り「ゆとり粒子」も100%集めることが出来ましたし、 後は流れに身を任せて、一さんやもう一人のお嬢さんを戦禍から護れば万事終了ですね。 「ゆとり粒子」の効果で能力を万全には使えませんが、まあそれなりに立ち回りましょう。 「そういえば社の持ってるその袋、武器って言ってたけど、何で石炭が入っているの?  その体って全部普通の炭、というか木炭だよね?」 こちらは熱して投擲するためですよ。木炭よりも硬いですからね。 「ふーん……ふふ……石炭袋かぁ……コールサック……南十字星のすぐ脇だね」 ああ、星座でしたか。そういえばそんな名前の星があるんでしたね。 ご主人様は初めてお会いした頃からずっと星空を眺めるのがお好きでしたね。 「星座というか暗黒星雲……うん、星空って綺麗だし素敵だよね」 そうやって空を眺めるご主人様の方が私には魅力的ですがね。 「わぁ!は、恥ずかしいよ」 恥ずかしいと言われましてもそれが私の偽りない心ですので。 ……ああ、そのような表情をされても可愛らしいとしか思えませんよ。 からかってなどいませんから。 さあ、ご主人様。それではそろそろお屋敷に帰る時間ですよ。 これからここは戦場になるのですから。後は私にまかせてください。 「うん……。社の心配はないけれど……一ちゃんのこと、よろしくね」 はい。出来る限り善処致します。 ――― さてさて、お嬢様にもお帰りいただいて、これで戦闘に集中できるというもの。 ……いえ、駄目ですね。どうにもここのところお嬢様の事で気が乱れています。 母屋は200年、土蔵も200年、囲う塀は1000年を軽く超え、 土地にいたっては遥か太古から意思を持って生きてきたというのに…… 母屋に能力を与えた、人ならざる者との恋に生きたお嬢さん…… 土蔵に能力を与えた、魔人を喰らう食人鬼…… 塀に能力を与えた、孤独と栄華の中に生きた貴族…… 土地の上を歩いた、数限りない人々…… 百の生を迎え入れ、万の死を見送り……その全てを己の心と成し。 最早何に心揺すられることもなく、静かに流れる時のなかを過ごすかと思っていたのに。 お嬢様はそのような私の心をたった数年で激しく揺さぶってくださいました。 奇跡を起こす能力者……夢追中お嬢様。 正しく、八千代の時を生きた私に刺激的な日常を与えるという奇跡を齎してくださいました。 私と言葉を交わすという奇跡も平然と起こしてくださいました。 お嬢様は私にとってこれまでにない、かけがえのない、存在です。 だからこそ…… 星空の好きなお嬢様……出会った頃から変わらないと思っていましたが…… 気付けば、背も伸びられて、人ならば当たり前ですが、成長なされて…… その事実に気付いてしまっては……この気持ちを……抑え難い…… いつまでも子供のように見守りたい心と いつまでも面倒をみたい心と 誰よりも良いところを見せたい心と 誰よりも私を見て欲しいという心と その望みを叶えたいと思う心と その願いを助けたいと思う心と 何よりも傍にいたいと欲する心と 何ものもお嬢様に近づけたくないと欲する心と 私の心は千々に乱され、治まりません。 人であるお嬢様。 人は後80年も生きられるかどうかという存在。 ましてお嬢様はその10分の1も生きられるかどうか。 …… この「ゆとり粒子」を作り出した魔人はなんとも心優しい人物だったようですね。 死後もその思念をこの学園に残し、争いを抑えようと……死してなお……。 …… この抗争に決着がついたら、古い神社を探しましょう。 誰からも忘れられ、住まう神も居ない、住まう神を求める神社を。 私の中に、屋敷の中に、私の神を祭るための社を建てましょう。 お嬢様を神と成して、私と共に……永く……永く……ひとつとなって。 お嬢様はそれを望まれるでしょうか。 申し訳ありません。夢追中お嬢様。 人ならざる身の私は、やはり人の身には負えぬ望みを抱いてしまうもの。 申し訳ありません。夢追中お嬢様。 それでも私は希って止まないのです。 これが私の偽らざる…… 八つに裂けた、百と萬の秘心。 *『キルミー・エンペラー』  ゆとり粒子によりゆとりの真っ只中にあった希望崎学園。  本来なら危険極まりこの学園だが、ゆとりのお陰で希望崎学園は数ある魔人学園の中でも安全なところとなっていた。  だからというべきか。この時期は、安全を求めて多くの魔人が危険な魔人学園からここに転入してきた時期でもあった。  ロシアからやってきた殺し屋、ソーニャもそうして転入してきた生徒の1人であった。  血生臭い職業の殺し屋である彼女だが、ゆとり粒子の影響を受け、今やゆるふわ系4コマに出てくるようなゆるい日常生活を送っていた。 「ねーねー、ソーニャちゃん。みてみてー!」 「なんだよ、やすな」  ウザイ友人に声をかけられて何事かと振り向いてみれば、机の上に4本のアキカンが置かれていた。 「ゴミか」 「ゴミじゃないよ! ちゃんとよく見て!」 「やだよ」 「物をよく見ることすら嫌がるなんて、ソーニャちゃんはちょっとゆとりすぎ!!」 「見ることが嫌じゃなくて、お前の遊びに付き合わされるのがやなんだよ」  とはいえ、なんだかんだで付き合いのいいソーニャちゃんは改めてアキカンへと視線を移す。 「アキカンだな。……あ、これ顔が描いてあんのか」 「こっちがクイーンで、こっちがプリンセス、こっちがジェネラルで、最後にこれがえんぺらー!」 「そこはキングじゃないんだな……」 「かっこいいじゃん、えんぺらー!」 「……あぁ、そうだな。それじゃ」  背を向けて帰ろうとするソーニャちゃんの肩をがっしりとつかむやすな。当然のごとく投げ飛ばされるのだが。 「なんだよもー」 「ソーニャちゃんにはやってほしいことがあるの!」 「やだ」 「なんで聞く前に断るのさ!」 「私がやすなを手伝う理由が無いだろ」 「えぇぇぇー!」  そんなこんなでゆるふわ系4コマでは3本分ぐらいのやり取りを経て、やすなはソーニャの協力を取り付ける。 「で、何をすればいいんだ」 「ソーニャちゃんにはアキカンの手足をつけてほしいの!」 「手足?」 「うん、この割り箸を手足としてぶっさして!!」 「テープでくっつけるのじゃダメなのか……」 「あ」 「気付いてなかったのか!?」 「いいじゃない、過ぎちゃったことは。はい、これ割り箸ね」 「しょうがないなー」  やすなから受け取った割り箸を次々とアキカンにぶっさすソーニャ。  アルミ缶だろうがスチール缶だろうが、殺し屋である彼女である手にかかればいとも容易く割り箸で貫くことができるのだ。  クイーン、プリンセス、ジェネラルまで刺し終わってからソーニャはあることに気付く。 「ん? おい、エンペラーの分が足りないぞ」 「あれ? ちゃんと用意した筈なんだけど……」  慌てて机の周辺を探すやすなだが、どこにも割り箸は落ちていない。 「うふふー、お困りのようですねー」  と、そこににょっきりと生えるようにニンジャのあぎりが現れる。唐突な出現だがいつものことだ。 「あ! あぎりさん。私の割り箸知りませんか?」 「割り箸ですかー。うーん、ちょっと分かりかねますねー」 「なんか嫌な予感がするな……」  ここでゆるふわ系4コマでは2本分ぐらいのやり取りを経て、割り箸はあぎりが使っていたことが判明する。 「あらあら~、ではここは私が替わりの箸を用意するのが筋というものですねー」  あぎりはちょうど割り箸と同じ長さ・太さの棒をごそごそと懐から取り出す。 「おいちょっと待て。なんかそれ変なオーラ纏ってないか?」 「すごーい、虹色に光ってる……!」 「うふふ、これこそニンジャ界に伝わる伝説の『レイン棒』なのですよ」 「アイエエエエエ、ニンジャ恐るべし!」 「嘘くせー」 「さて、これを……ずぶりっと」  レイン棒をアキカンにぶっさすあぎり。直後、エンペラーが虹色に輝き――! 「お、おいこのパターンは……!?」  お約束のように爆発した。  アフロ状態になるやすなとソーニャ。あぎりだけは何故か無傷である。 「あれー? アキカンがなくなったー!?」 「さっきの爆発で吹っ飛んだんじゃないか? それか消し飛んだか」 「うわーん、私のアキカン王国建設計画がー!」 「……吹き飛んでよかったのかもしれないな」  ゆるふわ的に終わり。  と、終わったのはやすなとソーニャの何てことのない日常の話。  しかし、彼らの物語はまだ終わっていなかった。 「メ、メカ~……こ、ここは……?」  吹き飛ばされたアキカンのうちの1体――The Emperorが目を覚ます。  彼はレイン棒から与えられた超常的な力により、魔人として覚醒したのだ。  ここはどこなのか、自分は一体何の缶なのか。それすらも分からない。だが、分かっていることが一つだけあって。  自分はエンペラー……王であることを。  そうだ、クイーンやプリンセス、頼れるジェネラルが居たはず。一体どこにいってしまったのか。辺りに彼らの姿は見えない。 「臣下のいない王……これじゃ裸の王様メカ……」  短い手足を器用に動かして体育座りをするエンペラー。普通のアキカンじゃできないような動作ができる辺りさすがは王というべきか。  こうして1人たそがれる彼に、救いの手が差し伸べられる。 『――仲間が欲しいか?』 「な、なんだメカ!?」  どこからか少女の声が聞こえる。しかし声はすれども姿は見えじ。  エンペラーが困惑する中、声は変わらず響き続ける。 『――近々、彼女が死にハルマゲドンが起きる。その時にお前がDPを集めていれば、DPの数だけ臣下を作ることができるだろう』 「ハルマゲドン……!? そんなことを知ってるお前は何者メカ!」 『私は……霜月とr――ハッ!? なんだお前達は――』  少女の声にノイズが混じったかと思うと、それを皮切りに聞こえなくなってしまった。 「い、一体なんだったメカ……?」  何が何だか分からない。  だが、貴重な情報を得る事ができた。 「ハルマゲドン……」  あの少女の言葉通り、DPを得ることで臣下を作る事ができるかどうかはわからない。  しかし、ハルマゲドンのような魔人が集まる機会であれば、自分以外のアキカンに出会えるかもしれない……! 「こうしてはいられないメカ!!」  ――The Emperor、参戦!!  結果としてアキカンはおらず、悲しみを背負って体育座りをすることになるのだが。  ゆるふわ的に終わり。 *『一人と一人』  川端一人が山乃端一人のナイトとなるきっかけは些細なことであった。  ある日のことである。  2人が一緒に道を歩いていると、唐突に道が陥没した。  転落しそうになった山乃端の腕を川端はなんとか掴み引き上げる。  直後、2人のいるところ目掛けて暴走トラックが走ってきた。これも咄嗟の判断で川端が抱きかかえながらジャンプすることで回避。  しかし、トドメとばかりにどこからか石が落ちてきた。落石である。 「あ、これはやばい」  死を覚悟し、山乃端を強く抱きしめる川端。  ……だが2人は死ぬことはなかった。  そう、川端が魔人として覚醒したからだ。  この異様な事故・事件を通じて川端はあることを悟る。  ――山乃端一人は殺されようとしている。  誰に、というわけではない。世界に殺されようとしているのだ。  しかも、もし彼女が殺されたら破滅的な事件が連鎖的に起こるような形で、だ。  先の事故に関しても、道の陥没はとある魔人の能力が時間差で発揮されたものらしく、それをきっかけにハルマゲドンが起きるだろう。  トラックの運転手はとある政治家に深く関わってる人物であり、それをきっかけに日本を揺るがす事件になっただろう。  石を落としたのはある魔人が覚醒ついでに起こしたものであり、もし落石で死者が出れば味をしめて更に多くの落石を起こしたことだろう。  ……山乃端一人は世界に破滅を呼び寄せるスイッチなのだ。  そして――スイッチというのは押されなくてはいけない。そうでなくてはスイッチの意味が無いからである。  その事に気付いたのは、川端だけでなく。  幼き少女も、気付いてしまった。 「……そっか。私、殺されなきゃいけないんだ」  世界が殺そうとしているのなら、仕方ないよね。  絶望が少女を襲うより先に、諦観が彼女の身を苛んでいた。  少女の意志がどうあろうと、世界に反逆することはできない――。 「――ふざけんなよ!」  そのような理不尽、許しておけるものか。  そして少年は立ち上がった。  少女を世界の全てから守ってみせるナイトになると……!  少年の意志・努力は実を結び、山乃端一人は殺される事なく高校生となった。  希望崎学園はゆとりに満ち、ゆとりの世界は破滅を望むことなくスイッチを押そうとはしない。  あぁ、だからか。  ナイトは油断してしまった。  彼もまた……ゆとってしまったのだ。  スイッチが――押される。
生徒会SS3 ---- #contents ---- *無題 ゆとりのひろゆき。 彼の死によって、学園の治安はゆとり化以前の水準に―――否。 それよりも悪化しようとしていた。 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ モヒカンザコ。 その名の通り、モヒカンヘアーを特徴とし、棘や鋲のついたアーマーを纏い、 棍棒やボウガン、果ては火炎放射器まで持ち出して、暴虐と略奪の限りを尽くす生命体を指す。 かつて、希望崎学園祭において大量発生し、その後ほとんどが駆逐されたものの――― モヒカンザコは、決して滅ぶことはなかった。 ある者はダンジョンに逃れ、そこでドラゴンやクマと共に暴れ回り。 ある者は学園の片隅で、か弱い女子(と一部の男子)を弄び。 ある者は昼休みの度に、食堂にバイクで殴り込み学食を根刮ぎ食い回る。 それが希望崎の当たり前の風景になるまで、そう時間はかからなかった。 学園側も、生徒会・番長グループ共に独自にモヒカンザコの掃討、及び説得・勧誘など 手段を色々講じてはいるが、根絶には決して至らないのが現状である。 そんな暴力性も、ゆとりには勝てず。 特徴的なファッションの棘は丸みを帯び、凶器はピコピコハンマーや水鉄砲に変わり、 昼休みになれば、中庭に集まって手作りのお弁当でランチタイムを楽しむ……という光景が 学園の至る所で見られるようになっていた。 しかし、ゆとりという鎖は―――なくなってしまった。 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 希望崎学園、園芸部所有農園『タカマガハラ』――― 園芸部が所有する農園の一つである。 余談ではあるが、園芸部は学園内各地に農園を設けている。 農園の敷地面積を合計すると、なぜか学園敷地面積よりも広くなるとまで言われるほど 広大な農園が、学園中そこらに多数存在するのだ。(その内の一つが、巨大温室『世界樹』である) 種を明かせば、園芸部員に『面積を操る能力』を持つ者がいるのだが――― その人物は今回の話には特に関係がないので、いずれ日を改めて語ることになるだろう。 ともあれ。 『タカマガハラ』は農園である以上、農作物が育っている。 これまた部員の能力のなせる技か、寒風吹きすさぶ中でも 多くの野菜が艶やかに、鮮やかに熟れているのだ。 つまり――― 「「「ヒャッハーーーーーー!! 食い物だぜぇ~~~~~!!!」」」 モヒカンザコが、狙わないわけがないのである。 食物があれば奪い、飲み水があれば奪い、異性がいれば奪う。 それが彼らの行動理念であり、本能なのだから。 しかし、彼らはこの後思い知ることになる。 自分達がどうしようもなく、モヒカンザコであるということを。 「ひいふうみい…… 7匹ですか」 不意に、作物の陰から人影が現れる。 右手に土のついたスコップを握った、作業着姿の男である。 特徴的な麦藁帽と、目元を覆うライダーゴーグル――― そんな格好をした人物は、園芸部広しといえど一人しかいない。 園芸部『ファーマー』、菜園場 果樹丸である。 「あ~~~~?なんだテメエは~~~~?」 「ヒャッハーー!コイツ確かサイエンジョーとか言う奴だぜぇー!」 「ヒャッハーー!まるでカカシだな、構うこたねぇやっちまえ!」 モヒカンザコのリーダーらしき、赤モヒカンが叫んだのを皮切りに。 一斉に他のモヒカンザコが、菜園場目掛けて棍棒を投擲―――しようとしたその刹那。 ざくり、という異音が響いた。 「カカシですか……よく言われます、背高ノッポで麦藁帽ずっと被ってますからね。  ですが、私はカカシと違って―――動くんですよ」 そう言いながら、菜園場は右手をひらひらと振ってみせる。 そこに握られていたはずのスコップは、何故かそこにはなく――― 「あ?あ、ばああ~~~~~!?」 赤モヒカンの額に、突き刺さっていた。 顔面を真っ二つに割られた赤モヒカンは、奇声を発しながら―――地面へとぶっ倒れた。 「「「ひ、ひゃあああああ~~~~!?り、リーダー!?」」」 予想していなかった異様な光景に、棍棒を取り落とすモヒカンザコ一同。 だが、彼らの恐怖は……終わらなかった。 赤モヒカンの割れた脳天から、這い出るように……細長いモノが伸び始めていた。 最初は一本だったソレが、二本三本と伸び―――互いに絡み合って、人の背丈ほどに育っていく。 それに反比例するように、根元の赤モヒカンの亡骸が痩せ細り、干涸らび―――そして、崩れる。 「そんなに作物が欲しいなら差し上げますよ。  生物を養分に育つ、品種改良したてのソイツを、ね」 赤モヒカンの肉体が崩壊し終わると同時に。 蠢いていた蔦の中から、巨大な蕾が顔を出し―――禍々しい花を開いた。 「な、なんだこりゃ―――」 「ひゃ、はははは……」 驚愕の余り、失神するモヒカンザコA。 恐慌の余り、失禁するモヒカンザコB。 この瞬間、彼らの運命も決まってしまった。 動きが止まった隙を見逃さず、菜園場が攻撃に移る。 尤も、彼に言わせればこれは攻撃ではなく―――害獣駆除であり、種蒔きである。 肉に、骨に、脳に―――何か硬い物が食い込む音が再び響く。 注意深く聞けば、それが一回でないことが解っただろうが……それを認識できたのは、菜園場自身だけだろう。 一同が気付いたときには、終わってしまっていた。 モヒカンザコAとBの額に、何かの種がめり込んでいたのだ。 二人の双眸が虚ろになり、口からだらしなくよだれを垂らしたかと思うと――― Aの眼窩と、Bの口腔からそれぞれ蔦が這い出ていく。 二人の身体を覆うように、締め上げるように無数の蔦が絡み――― 妖花は合計三輪となった。 「ひ、ひいいい……なんだよ、なんなんだよこの能力……」 ぺたり、と尻餅をつくモヒカンザコC。 その瞳は最早、虎に食われる草食獣の如く怯えきっていた。 「これは心外な。能力なんて使わなくても、貴様ら害獣程度は駆除できますよ?  これはあくまで“品種改良”の賜物なのですから」 にこりと微笑みながら、種を撃ち込む。 合計、四輪。 「あは、あはははははははは」 恐怖に脳を焼かれ、土を掘り返し始めたモヒカンザコD。 「ああ、困りますね。土を掘り返されたら、サツマイモの生育に悪影響が出ます」 モヒカンザコDの頭を踏みつけ、地面にキスをさせるように踏みにじる。 そのまま動かなくなった身体から、蔦が顔を出す。 合計、五輪。 「ひいい、い、いやだあああああああ!!!」 涙と鼻水を垂らしながら、必死に逃げるモヒカンザコE。 「たすけて、たすけ、たす、あ、あひゃあばばあ ぷ 」 走る身体が段々と捻れ、弾けるように花が咲く。 合計、六輪。 「……さて、後はあなただけですね」 穏やかな微笑みを崩さぬまま、最後に残されたモヒカンザコへと近付いていく菜園場。 最後のモヒカンザコが、その様子に思わず後ずさりしながらも―――笑顔を向ける。 モヒカンザコ特有の、強者に媚びるときの表情だ。 尤も、恐怖のあまりその顔はくしゃくしゃになってしまっていたが。 「す、すみません旦那ぁ! 昨日からなんも食ってなくて、で、出来心だったんでさあ!  今度からもうしませんから、どうかそれだけはカンベンしてくだせえ~~~!」 ぶるぶると震えながら、祈るように腕を組み命乞いをするモヒカンザコ。 あまりにも哀れなその様子に、菜園場も思わず呆れたように溜息をつく。 「……本当に、もうしないと誓えますか?」 「え、ええ!もちろんです、ヒャッハアア……」 「そうですか。 ……じゃあ、もう帰ってくださいね」 へ? と、思わず拍子抜けした声を漏らすモヒカンザコに背を向け、 争いで荒らされた作物や地面を整え始める菜園場。 「あ…… ありがとうごぜえやす!ありがとうごぜえやす!!」 命を救われたことに、心の底からの感謝を覚えたのか。 思わず土下座して、泣いて謝るモヒカンザコ。 本能に従うならば、菜園場が背中を向けた瞬間に襲い掛かるべきにも関わらず――― 本気で、悔い改めて詫びたのだった。 「礼は構いませんから……それ以上そこで土下座されたら土が固められてぺしゃんこになっちゃいます」 「あ、そ、そうですね……すみません、サイエンジョーの旦那ァ!  それじゃ、俺はこのへんで……」 慌てて立ち上がり、農園を後にしようと踵を返した―――その時だった。 菜園場の手が、帰ろうとしたモヒカンザコの頭を鷲掴みにしたのである。 「あ、れ? サイエンジョーの旦那、頭掴まれたら帰りたくても、帰れな……」 「気が変わりました。反省の意思が感じられません。  しょせん害獣は害獣、ということですね。いけませんいけません、退治を面倒くさがっているようじゃあ  ファーマー失格ですねえ……私の方こそ反省せねばなりませんね、これは」 「え、は、話が、ちが……サイエンジョーの旦那、はなして……」 モヒカンザコが、菜園場の名を三度呼んだその瞬間。 菜園場が空いているもう片方を貫手にし、モヒカンザコの心臓目掛け―――突く。 その手には、当然―――種が一粒、握られていた。 「げはあ!? ひ、ひどい、ひ、ひ、ひでぶっ!?」 貫かれた空洞を埋めるように、種が芽吹き―――モヒカンザコの血を啜り、肉を貪り、骨を蝕んでいく。 そして、七輪目の邪悪な花が、咲いた。 「命乞いするなら、人の名前くらい覚えなさい。    ……私の名前は『さえんば かじゅまる』なんですよ」 数秒前まで、モヒカンザコだったその花に向かって呟く。 その表情は、笑顔でも憤怒でも悲哀でもなく―――この上ない、無表情だった。 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 「……ふう、駄目ですねやはり。種が良くても苗床がこれじゃあねえ」 数分後。 菜園場は、妖花の成れの果て―――果実を見て、盛大に溜息をついた。 果実には、種の糧となったモヒカンザコ達の恐怖にひきつる顔がくっきりと浮かんでいた。 「今度蒔くときは、もう少し美しい苗床を選ばないといけませんねえ……」 七つの実をもぎ取り、近くの肥溜めに投げつける。 綺麗な放物線を描き、全部の実が肥溜めへと沈んでいった。 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 後に、このモヒカンザコの掃討劇が生徒会の目に留まり――― 菜園場は、ハルマゲドン生徒会陣営にスカウトされることとなる。 その間も、彼は各地の園芸部農園を守り奔走することとなるのだが―――それはまた、別の話である。 *『御厨槍太SS』  御厨一族。  数ある魔人一族の中でも、その一族全てが操身術、あるいは操心術――便宜上『操身術』と呼称しているが――すなわち他者を操る能力を持つ魔人のみによって構成された一族である。  人間を操る、それは得てして大きな需要を持つ。その需要に応えて彼らは動き、人を操る。それ故に『身繰屋』の異名で遥か昔からさまざまな場面で活動してきた。  もちろんこの種の能力を持つ魔人は一族以外にも多い。場合によってはそれを専売特許としている御厨一族の下手な魔人よりも強力な魔人もいるくらいである。  しかしながら操ると一言で言ってもさまざまな手法がある。種々様々な能力を持つ一族の操身術を駆使して依頼主のさまざまな要望に応えることができるという強みから、彼らは社会で一定の地位を保っていた。  一族が操身術士ばかりなのは人は得てして周囲の人間に影響を受けるものであるということだろう。操身術に覚醒するための一族独自のノウハウに加え、操身術士ばかりの環境で育った彼ら身繰屋の卵たちも、そのほとんどは他者を操る能力を手に入れるのだ。加えて、一族の外からも優れた操身術士を引き入れることでまた操身術士の数を増やし、更にその勢力を強めていた。操身術士でないのはまだ魔人として覚醒していない人間くらいのものである。  しかし、それでも得てして例外というものはある。希望崎に通う彼、御厨槍太もそうだった。御厨に生まれながら、彼は操身術を身に付けることができなかったのである。  前述のとおり外部からも操身術士を一族に引き入れているように、御厨は血に拘らない。それは逆に言うと、一族に生まれたものであっても操身術を得ることが出来なければ容赦なく一族から追放されるということでもある。  そして御厨槍太が御厨一族から除名されるのも時間の問題とされていた。     ※ ※ ※    少年は目の前にあるそれを見て足を止めた。 「ん、なんだこれ?」  そこにあったのは立札である。ここは希望崎学園の一角。そこに通う少年は何度も通った場所である。しかしこの場所にこれまでそんなものはなかったはずだ。  その立札には『こっち ⇒』と矢印が大きく書かれている。  首を捻りながら矢印の指し示す方を見るが、ただ細い道があるだけだ。 「なんか分からないけど、折角だし行ってみるか」  どうせ特にすることはない。物は試しとばかりにその立札の指示に従ってみることにした。    そして少年は抜け道のような細い道を進み――その先に掘られていた落とし穴に落下した。   ※ ※ ※   「ふっふっふ、見たか、この俺の操心術を!」  そう不敵に笑うのは御厨一族のはぐれ者、御厨槍太であった。その手には先程少年を落とし穴に導いた立札がある。  少年が落とし穴に落ちたのを確認すると、証拠隠滅とばかりに引き抜いてさっさと退散したのだ。  そんな槍太を、傍らの友人は頭痛を堪えるようにしながら見ている。彼も先程の一部始終を見ていたのだ。 「というか単に立札の指示に従っただけで、操心術は全然関係ないだろ」  その言葉にも槍太は動じない。 「これだから素人は。俺は立札の文言を介して相手を操ったんだ。まあ傍からそう見えるというのも極めて自然に操ったからだな」  そう言って悦に浸る槍太だったが、彼に操心術に関する魔人能力が無いことを知っている友人からすれば呆れて苦笑しか出ない。 「この能力で今度のハルマゲドンで成果を出し、それで一族に凱旋する! ……そうすれば一族追放だなんだの言わせない」  だが槍太のその言葉によってその笑いも消える。先程のは明らかに操心術とは関係なかったが、操心術士となるべく育てられた彼にとっては、決して譲れないのだろう。  まあその実験台として無関係にもかかわらず落とし穴に落とされた少年は可愛そうとしか言いようがないが。 「でもハルマゲドン中じゃ、相手も罠かと思って立札に従うとは思えないけど……」  ぽつりと懸念を呟くが、槍太は聞いていない。 「俺の操心術と、陸上部で鍛えた槍投げの技で、番長グループの奴らをみんな操ってやるぜ」  そう言って手にした立札を槍投げの要領で投擲する。  宙を舞った立札は、長い滞空の後大地に突き刺さる。突き刺さった場所は、先程立札を突き刺した場所と寸分違わなかった。  この投擲こそ御厨槍太の本当の魔人能力である。その能力によって彼はどんな場所であろうと正確な投擲を可能としている。もっとも本人は自分の能力を操心術と言って憚らないが。 「あっ、今投げたやつ! お前らが俺を落とし穴に落としたのか!」  と、立札の側で泥だらけの少年がこちらを睨みつけている。どうやら今のを思いっきり見られてしまったようだ。  二人は慌てて退散した。      ――ちなみに立札によるなんちゃって操心術よりも、その能力で素直に投げ槍で直接攻撃した方が圧倒的に強いのは秘密である。 *~~社応援SS 神心~~ さて、そろそろハルマゲドンも開戦ですね。 計画通り「ゆとり粒子」も100%集めることが出来ましたし、 後は流れに身を任せて、一さんやもう一人のお嬢さんを戦禍から護れば万事終了ですね。 「ゆとり粒子」の効果で能力を万全には使えませんが、まあそれなりに立ち回りましょう。 「そういえば社の持ってるその袋、武器って言ってたけど、何で石炭が入っているの?  その体って全部普通の炭、というか木炭だよね?」 こちらは熱して投擲するためですよ。木炭よりも硬いですからね。 「ふーん……ふふ……石炭袋かぁ……コールサック……南十字星のすぐ脇だね」 ああ、星座でしたか。そういえばそんな名前の星があるんでしたね。 ご主人様は初めてお会いした頃からずっと星空を眺めるのがお好きでしたね。 「星座というか暗黒星雲……うん、星空って綺麗だし素敵だよね」 そうやって空を眺めるご主人様の方が私には魅力的ですがね。 「わぁ!は、恥ずかしいよ」 恥ずかしいと言われましてもそれが私の偽りない心ですので。 ……ああ、そのような表情をされても可愛らしいとしか思えませんよ。 からかってなどいませんから。 さあ、ご主人様。それではそろそろお屋敷に帰る時間ですよ。 これからここは戦場になるのですから。後は私にまかせてください。 「うん……。社の心配はないけれど……一ちゃんのこと、よろしくね」 はい。出来る限り善処致します。 ――― さてさて、お嬢様にもお帰りいただいて、これで戦闘に集中できるというもの。 ……いえ、駄目ですね。どうにもここのところお嬢様の事で気が乱れています。 母屋は200年、土蔵も200年、囲う塀は1000年を軽く超え、 土地にいたっては遥か太古から意思を持って生きてきたというのに…… 母屋に能力を与えた、人ならざる者との恋に生きたお嬢さん…… 土蔵に能力を与えた、魔人を喰らう食人鬼…… 塀に能力を与えた、孤独と栄華の中に生きた貴族…… 土地の上を歩いた、数限りない人々…… 百の生を迎え入れ、万の死を見送り……その全てを己の心と成し。 最早何に心揺すられることもなく、静かに流れる時のなかを過ごすかと思っていたのに。 お嬢様はそのような私の心をたった数年で激しく揺さぶってくださいました。 奇跡を起こす能力者……夢追中お嬢様。 正しく、八千代の時を生きた私に刺激的な日常を与えるという奇跡を齎してくださいました。 私と言葉を交わすという奇跡も平然と起こしてくださいました。 お嬢様は私にとってこれまでにない、かけがえのない、存在です。 だからこそ…… 星空の好きなお嬢様……出会った頃から変わらないと思っていましたが…… 気付けば、背も伸びられて、人ならば当たり前ですが、成長なされて…… その事実に気付いてしまっては……この気持ちを……抑え難い…… いつまでも子供のように見守りたい心と いつまでも面倒をみたい心と 誰よりも良いところを見せたい心と 誰よりも私を見て欲しいという心と その望みを叶えたいと思う心と その願いを助けたいと思う心と 何よりも傍にいたいと欲する心と 何ものもお嬢様に近づけたくないと欲する心と 私の心は千々に乱され、治まりません。 人であるお嬢様。 人は後80年も生きられるかどうかという存在。 ましてお嬢様はその10分の1も生きられるかどうか。 …… この「ゆとり粒子」を作り出した魔人はなんとも心優しい人物だったようですね。 死後もその思念をこの学園に残し、争いを抑えようと……死してなお……。 …… この抗争に決着がついたら、古い神社を探しましょう。 誰からも忘れられ、住まう神も居ない、住まう神を求める神社を。 私の中に、屋敷の中に、私の神を祭るための社を建てましょう。 お嬢様を神と成して、私と共に……永く……永く……ひとつとなって。 お嬢様はそれを望まれるでしょうか。 申し訳ありません。夢追中お嬢様。 人ならざる身の私は、やはり人の身には負えぬ望みを抱いてしまうもの。 申し訳ありません。夢追中お嬢様。 それでも私は希って止まないのです。 これが私の偽らざる…… 八つに裂けた、百と萬の秘心。 *『キルミー・エンペラー』  ゆとり粒子によりゆとりの真っ只中にあった希望崎学園。  本来なら危険極まりこの学園だが、ゆとりのお陰で希望崎学園は数ある魔人学園の中でも安全なところとなっていた。  だからというべきか。この時期は、安全を求めて多くの魔人が危険な魔人学園からここに転入してきた時期でもあった。  ロシアからやってきた殺し屋、ソーニャもそうして転入してきた生徒の1人であった。  血生臭い職業の殺し屋である彼女だが、ゆとり粒子の影響を受け、今やゆるふわ系4コマに出てくるようなゆるい日常生活を送っていた。 「ねーねー、ソーニャちゃん。みてみてー!」 「なんだよ、やすな」  ウザイ友人に声をかけられて何事かと振り向いてみれば、机の上に4本のアキカンが置かれていた。 「ゴミか」 「ゴミじゃないよ! ちゃんとよく見て!」 「やだよ」 「物をよく見ることすら嫌がるなんて、ソーニャちゃんはちょっとゆとりすぎ!!」 「見ることが嫌じゃなくて、お前の遊びに付き合わされるのがやなんだよ」  とはいえ、なんだかんだで付き合いのいいソーニャちゃんは改めてアキカンへと視線を移す。 「アキカンだな。……あ、これ顔が描いてあんのか」 「こっちがクイーンで、こっちがプリンセス、こっちがジェネラルで、最後にこれがえんぺらー!」 「そこはキングじゃないんだな……」 「かっこいいじゃん、えんぺらー!」 「……あぁ、そうだな。それじゃ」  背を向けて帰ろうとするソーニャちゃんの肩をがっしりとつかむやすな。当然のごとく投げ飛ばされるのだが。 「なんだよもー」 「ソーニャちゃんにはやってほしいことがあるの!」 「やだ」 「なんで聞く前に断るのさ!」 「私がやすなを手伝う理由が無いだろ」 「えぇぇぇー!」  そんなこんなでゆるふわ系4コマでは3本分ぐらいのやり取りを経て、やすなはソーニャの協力を取り付ける。 「で、何をすればいいんだ」 「ソーニャちゃんにはアキカンの手足をつけてほしいの!」 「手足?」 「うん、この割り箸を手足としてぶっさして!!」 「テープでくっつけるのじゃダメなのか……」 「あ」 「気付いてなかったのか!?」 「いいじゃない、過ぎちゃったことは。はい、これ割り箸ね」 「しょうがないなー」  やすなから受け取った割り箸を次々とアキカンにぶっさすソーニャ。  アルミ缶だろうがスチール缶だろうが、殺し屋である彼女である手にかかればいとも容易く割り箸で貫くことができるのだ。  クイーン、プリンセス、ジェネラルまで刺し終わってからソーニャはあることに気付く。 「ん? おい、エンペラーの分が足りないぞ」 「あれ? ちゃんと用意した筈なんだけど……」  慌てて机の周辺を探すやすなだが、どこにも割り箸は落ちていない。 「うふふー、お困りのようですねー」  と、そこににょっきりと生えるようにニンジャのあぎりが現れる。唐突な出現だがいつものことだ。 「あ! あぎりさん。私の割り箸知りませんか?」 「割り箸ですかー。うーん、ちょっと分かりかねますねー」 「なんか嫌な予感がするな……」  ここでゆるふわ系4コマでは2本分ぐらいのやり取りを経て、割り箸はあぎりが使っていたことが判明する。 「あらあら~、ではここは私が替わりの箸を用意するのが筋というものですねー」  あぎりはちょうど割り箸と同じ長さ・太さの棒をごそごそと懐から取り出す。 「おいちょっと待て。なんかそれ変なオーラ纏ってないか?」 「すごーい、虹色に光ってる……!」 「うふふ、これこそニンジャ界に伝わる伝説の『レイン棒』なのですよ」 「アイエエエエエ、ニンジャ恐るべし!」 「嘘くせー」 「さて、これを……ずぶりっと」  レイン棒をアキカンにぶっさすあぎり。直後、エンペラーが虹色に輝き――! 「お、おいこのパターンは……!?」  お約束のように爆発した。  アフロ状態になるやすなとソーニャ。あぎりだけは何故か無傷である。 「あれー? アキカンがなくなったー!?」 「さっきの爆発で吹っ飛んだんじゃないか? それか消し飛んだか」 「うわーん、私のアキカン王国建設計画がー!」 「……吹き飛んでよかったのかもしれないな」  ゆるふわ的に終わり。  と、終わったのはやすなとソーニャの何てことのない日常の話。  しかし、彼らの物語はまだ終わっていなかった。 「メ、メカ~……こ、ここは……?」  吹き飛ばされたアキカンのうちの1体――The Emperorが目を覚ます。  彼はレイン棒から与えられた超常的な力により、魔人として覚醒したのだ。  ここはどこなのか、自分は一体何の缶なのか。それすらも分からない。だが、分かっていることが一つだけあって。  自分はエンペラー……王であることを。  そうだ、クイーンやプリンセス、頼れるジェネラルが居たはず。一体どこにいってしまったのか。辺りに彼らの姿は見えない。 「臣下のいない王……これじゃ裸の王様メカ……」  短い手足を器用に動かして体育座りをするエンペラー。普通のアキカンじゃできないような動作ができる辺りさすがは王というべきか。  こうして1人たそがれる彼に、救いの手が差し伸べられる。 『――仲間が欲しいか?』 「な、なんだメカ!?」  どこからか少女の声が聞こえる。しかし声はすれども姿は見えじ。  エンペラーが困惑する中、声は変わらず響き続ける。 『――近々、彼女が死にハルマゲドンが起きる。その時にお前がDPを集めていれば、DPの数だけ臣下を作ることができるだろう』 「ハルマゲドン……!? そんなことを知ってるお前は何者メカ!」 『私は……霜月とr――ハッ!? なんだお前達は――』  少女の声にノイズが混じったかと思うと、それを皮切りに聞こえなくなってしまった。 「い、一体なんだったメカ……?」  何が何だか分からない。  だが、貴重な情報を得る事ができた。 「ハルマゲドン……」  あの少女の言葉通り、DPを得ることで臣下を作る事ができるかどうかはわからない。  しかし、ハルマゲドンのような魔人が集まる機会であれば、自分以外のアキカンに出会えるかもしれない……! 「こうしてはいられないメカ!!」  ――The Emperor、参戦!!  結果としてアキカンはおらず、悲しみを背負って体育座りをすることになるのだが。  ゆるふわ的に終わり。 *『一人と一人』  川端一人が山乃端一人のナイトとなるきっかけは些細なことであった。  ある日のことである。  2人が一緒に道を歩いていると、唐突に道が陥没した。  転落しそうになった山乃端の腕を川端はなんとか掴み引き上げる。  直後、2人のいるところ目掛けて暴走トラックが走ってきた。これも咄嗟の判断で川端が抱きかかえながらジャンプすることで回避。  しかし、トドメとばかりにどこからか石が落ちてきた。落石である。 「あ、これはやばい」  死を覚悟し、山乃端を強く抱きしめる川端。  ……だが2人は死ぬことはなかった。  そう、川端が魔人として覚醒したからだ。  この異様な事故・事件を通じて川端はあることを悟る。  ――山乃端一人は殺されようとしている。  誰に、というわけではない。世界に殺されようとしているのだ。  しかも、もし彼女が殺されたら破滅的な事件が連鎖的に起こるような形で、だ。  先の事故に関しても、道の陥没はとある魔人の能力が時間差で発揮されたものらしく、それをきっかけにハルマゲドンが起きるだろう。  トラックの運転手はとある政治家に深く関わってる人物であり、それをきっかけに日本を揺るがす事件になっただろう。  石を落としたのはある魔人が覚醒ついでに起こしたものであり、もし落石で死者が出れば味をしめて更に多くの落石を起こしたことだろう。  ……山乃端一人は世界に破滅を呼び寄せるスイッチなのだ。  そして――スイッチというのは押されなくてはいけない。そうでなくてはスイッチの意味が無いからである。  その事に気付いたのは、川端だけでなく。  幼き少女も、気付いてしまった。 「……そっか。私、殺されなきゃいけないんだ」  世界が殺そうとしているのなら、仕方ないよね。  絶望が少女を襲うより先に、諦観が彼女の身を苛んでいた。  少女の意志がどうあろうと、世界に反逆することはできない――。 「――ふざけんなよ!」  そのような理不尽、許しておけるものか。  そして少年は立ち上がった。  少女を世界の全てから守ってみせるナイトになると……!  少年の意志・努力は実を結び、山乃端一人は殺される事なく高校生となった。  希望崎学園はゆとりに満ち、ゆとりの世界は破滅を望むことなくスイッチを押そうとはしない。  あぁ、だからか。  ナイトは油断してしまった。  彼もまた……ゆとってしまったのだ。  スイッチが――押される。 *~~応援延長戦 陣営の壁を越えてリレー応援『約束』~~ ハルマゲドン開戦を目前に控え、静まり返った希望崎学園校舎内。 殺伐とした緊張感が立ち込めるそんな場所を、並んで歩くふたつの人影。 大量の缶を抱えた眼鏡少女と和服の袖を揺らす黒髪少女。 希望崎学園番長、逆砧れたいたぷた。 希望崎学園部外者、夢追中。 この物語は、周囲の張り詰めた空気など気にも留めずに緩い雰囲気を撒き散らす二人の、 ゆとりGKダンゲロス・ハルマゲドン開戦前に行われた最後のやり取りを記したものである。 ――忘れ得ぬ感触―― 「私も半分、缶をお持ちしますよ」 「いえ、一人で持てますから。これでも体は丈夫なんですよ」 逆砧は夢追とそんな他愛もない会話をしながら、廊下を歩いていた。 逆砧は番長としてグループメンバーの飲み物を買いに自販機へとやってきて、 そこに居合わせた夢追が私も一緒に番長グループの所へ行きますと言いだし、 その結果、こうして二人並んで歩いているという状況が生まれたわけである。 「突撃インタビューの件がうやむやになっていましたし、今度こそはやっちゃいましょう!  ……それでも有力情報が得られなければ……えーと……私も覚悟を決めて……ゴニョゴニョ」 「あ、そういえばそうでしたね。私のこと、気にかけてくれてありがとうございます」 夢追の言葉に、逆砧は軽く微笑み、お礼を返す。――と同時に、 夢追との間にインタビューの話が出た際の騒動を思い出し、逆砧も不意に頬を染めた。 そもそも初対面で教育上よろしくない部位を撫でてしまったというのに、その上、 あの時は自分の能力が原因で酷い揉み合いになってしまったのであった。かなり揉み合った。 「その、あのときはあんなことをしてしまって……ごめんなさい」 逆砧の指は女の子を見ると何かの衝動を吐き出すかのように蠢くという癖(?)がある。 逆砧の能力によってモヒカンや触手の属性を付与された夢追に押し倒されたあの時、 押さえきれぬ内なる衝動によって数秒の間に行ってしまった数々の行為を脳裏に浮かべ、 赤面しつつも謝罪を述べた逆砧に対し、 「いえそんな謝られなくてもいいですよ!なんだか凄く気持ちよかったですし!」 夢追がとんでもない発言を返してきた。 「えっ!?き、気持ち!?」 思わず抱えた缶を周囲にぶちまけそうになる逆砧。 なんとか堪えたものの、思わぬ返答に茹だる脳内は抑えようもない。 どうしよう、私はひとりのいたいけな少女の道を踏み誤らせてしまったのだろうか。 足を止め、夢追の顔をまじまじと見つめ返し、 悶々とあらぬ妄想で脳内にお花畑を形成する逆砧に対し、 爆弾発言を放ってなお笑顔を向ける夢追は言った。 「こう、モヒカン的思考っていうんですか?頭の中がからっぽになったような、  自分が色々なものに変身したような、スカッと爽快で凄く心が沸き立つような感じでした!  凄かったです!凄い体験ができました!逆砧さんの能力!リバティー・ヒルでしたっけ!」 ――能力の話かよ! 逆砧は盛大にずっこけた。手に持つ缶も盛大にぶちまけた。 ――忘れ得ぬ夢―― 「大丈夫ですか!?」 そう、差し伸べられた手を見て―― 尻餅をついた逆砧はその手を握ろうと自分の手を伸ばし―― 手と手が触れ合うその直前に、不意に逆砧は硬直したように動きを止めた。 「?」 少しだけ不思議そうな表情を浮かべ、それでも差し出した手をそのままにする夢追。 そんな夢追を見返しながら、なぜ自分は動きを止めたのか分からず、逆砧は首を捻る。 何か自分は大切なことを忘れているような、いや記憶喪失なのだから当然なのだが、 何か手を握るという行為に特別な思い入れがあったような―― 逆砧の頭に、形の見えぬ、捉え所のない思いがちらついては消えていく。 「ひっぱりますよー」 そんな逆砧の中空で固まった手を、暢気な声と共に夢追がすっと握った。 はっと我に返った逆砧は、自分の体が引き起こされたこと、 そして自分の手が夢追の手に握られ、互いの体温を相手に伝え合っていることを実感し―― 「えっ!?逆砧さん!?だ、大丈夫ですか!?何処か傷めました!?」 ほろり、涙が零れていた。 「え……あ、これは、違うんです……痛いとかじゃなくて……  ど、どうしよう……す、すみません……すみません……」 慌てて眼鏡をずらし、涙を拭おうとする逆砧であったが、 溢れる涙と正体の知れない情動は収まらない。 突然目の前の相手に泣き出された夢追は大いに慌てふためき、 なんとかしようと必死に頭を働かせ、人を泣き止ませる手段を記憶の中から探り、 「し、失礼しますっ!」 がばっと逆砧の体を抱き締めた。 「ゆ、夢追さん!?」 「そ、そのですね、私も涙が止まらないことって、何度もあって、それで、  そんなときに師匠……あ、私の面倒を見てくれている人が、ぎゅっと抱き締めてくれて、  それで、私は泣き止むことができて……  あ、あの、私じゃちょっと包み込むみたいにとか、できませんし、  あ、いや、それよりも私じゃ力不足かもしれませんけれど、  えーと……そう!逆砧さんがご自身に能力で妹属性を付与すれば恥ずかしくないですよ!」 恥ずかしいのか緊張しているのか、はたまた突然の事態に混乱しているのか、 真っ赤になりながら早口でまくしたてる夢追の声を聞きながら、 早鐘のように鳴っている夢追の鼓動を自分の胸に感じながら―― 気付けば、逆砧の涙は止まっていた。 「夢追さん……ありがとうございます」 「い、いえ!どういたしまして!」 夢追の背中に手を回し、お礼を述べる逆砧。それに応える夢追。 抱き合ったまま、二人は言葉を交わす。 「思い出せませんが……何だか一つ、夢追さんのお陰で夢が叶った気がするんです」 「えっと……それは、どうも?」 思い出すことは出来ずとも、忘れることの出来ない夢が自分にはあった。 それが思わず形になって、溢れて溶けた。きっとこれはそんなことなんだ。 逆砧は夢追の肩の上で残った涙を拭い去った。 しばし、無言で抱き合う形となった二人であるが、おもむろに逆砧が口を開く。 「あの……もう、大丈夫ですので」 「本当に大丈夫ですか?」 「はい……と言いますか、あの、そろそろ手が我慢の限界で……」 「ひゃあああ!?」 ――忘れ得ぬ約束―― 廊下に散らばった缶を二人で手分けして集める逆砧と夢追。 半分持ちますよ、と夢追が言い、それじゃあお願いします、と逆砧が笑顔で応える。 「さあ、それじゃあ今度こそ突撃インタビューですね!」 持ちやすいようにと缶を積み重ねながら、そう意気込む夢追を見て、 同じく缶を積み重ねていた逆砧は、ふとその手を止めて、表情に影を落とした。 「夢追さん……やっぱり、私、インタビューは……」 逆砧の様子に気付いた夢追はいぶかしげな表情を浮かべ、どうかしたのかと逆砧に訊ねた。 「私……番長グループのみなさんからとても良くしてもらってますし、  蛇淵さんや一さんともお友達になれましたし……、  自分の正体は……確かに気になるんですけれど、やっぱり怖いんです。  手の癖もそうですし、お前は危険だっていう言葉も……  それに、さっきみたいに、自分が覚えてもいないことで自分の心が動くのを実感すると、  ……自分にも本当に過去があったんだって実感すると……怖いんです」 怯えるような表情で、かすかに震えながらそう心情を吐露する逆砧を見て、 夢追は何も言えず、ただ黙ってその言葉に耳を傾けていた。 が―― 「あっ!」 突如、黙っていた夢追が声をあげ、 「ど、どうかしました?」 逆砧もそれに驚いて反応した。 夢追は慌てて立ち上がると、逆砧にいきなりすみませんと一言詫びを入れた。 「社が今、探していた女の子を見つけたそうです!  ただ、見た目が見た目なので逃げられてしまっているそうで、私がちょっとそこへ……  ああ、あっちの社は今転送能力が使えないんだっけ……ちょっと行ってきます!」 ついに探し人を見つけたと聞き、うだうだしている場合ではないと気持ちを切り替え、 逆砧も立ち上がる。一度人探しの手伝いを頼まれた身であるからには目的を果たさなければ。 「校舎内なら私のほうが詳しいですから、どんな場所か言ってもらえれば案内します!」 逆砧の提案に、ありがとうございますと笑顔で返し、探し人の居る場所の様子を伝える夢追。 そこならこっちが近道です、急ぎましょうと駆け出す逆砧。 しかし、 「あ、すみません!この格好だと……走り辛くて……」 和装の夢追がやや出遅れる。 そんな夢追を見て、逆砧は少しの逡巡をした後――その手を握り、一緒に走り出した。 「わあ……あ、ありがとうございます!」 もう涙は出ない。 代わりに、ふわり、笑顔が零れた。 ハルマゲドン開戦を目前に控え、静まり返った希望崎学園校舎内。 殺伐とした緊張感が立ち込めるそんな場所を、並んで走るふたつの人影。 素朴な風貌の眼鏡少女と和服の裾をはためかす黒髪少女。 ふたつの影は、お互いの手でひとつに結ばれ、颯爽と駆けて行く。 その遠ざかり行く人影から声が聞こえる。 「私は、逆砧さんの正体がなんであろうと、きっとお友達になれると思います!  逆砧さんなら、過去がどんなものであろうと、間違いなく、優しい人ですよ!  だから、約束します!私は逆砧さんが過去を思い出しても、必ず友達になります!  ……そうだ!逆砧さんにひとつ、伝えることがあるんです!  逆砧さんの名前のことで……もしかしたら、これで呪いが解けるかも……!  あの……ちょっと口に出すのが恥ずかしいんですけれど……たぶん…………」 言葉を交わす二人は廊下の角を曲がり、見えなくなる。 最後に見えた二人の横顔は、眩しいほどの笑顔であった。 ―――――― ……その後、二人の間に何が起こったのか、いかなるやり取りが為されたのか。 逆砧の呪いは解かれたのか。抗争中の希望崎学園に迷い込んだ少女は助け出されたのか。 残念ながら、それらを語る資料は残されていない。 直後に開戦したであろうハルマゲドンの戦火によって紛失したのか、 何か記録することも憚られるような事態が起きてしまったのか、 あるいは頼んだ飲み物がやってこない事に業を煮やした何者かが資料を破棄したのか。 希望崎の混沌も一層の苛烈さを増し、隔月毎に起こるハルマゲドンや、 学外でも二大勢力の衝突による長期戦争の幕開けを予感させる紛争など、 混乱の極みにある情勢の今となっては、二人のその後を追うこともままならない。 ゆえに、我々は、願う。ただ、願う。どうか――皆の愛につつまれてあれと。

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