擬宝珠檸檬はこの世の終わりのような顔をしていた。
 つい先ほど、迫り来る『鬼』を確認した。それは良い。いや良くはないのだがまだ良い。問題はその後だ。
 突如現れたタンクローリーが突っ込んできて、『鬼』がそれに襲いかかって、何か良くわからないことになったあと別の『鬼』が来た。ただでさえ絶望的な状況だったのに『鬼』より強そうな謎の人物が出てきたりともう檸檬にはどうすることもできない展開である。正直失神しそうだった。でも耐えた。だがしかし当の『鬼』がついにこの灯台に踏み入ってきたとなればポックリ気絶する運びとなった。

(!『子』か!)

 一方その『鬼』こと、『親』の花酒蕨は、外見に似合わぬ身体能力で豊穣礼佑を抱えて灯台の中に入ると階段を駆け上がりドアを押し開けたところで自分を見て気を失った檸檬を発見した。
 彼女がわざわざ灯台に入ったのには檸檬を助けるため、というわけではもちろん無い。というか彼女は別に灯台に誰かいると知って入ったわけではない。それは単純にDIOの迎撃のためである。
 車を持ち超スピードで動く人外相手に、開けた場所を走って逃げられるわけがない。となると逃げ場は一択、灯台である。狭い場所であれば足の早い動物がその脚力を活かせぬようにあの超スピードをいくらかは封じられる可能性がある。そうすればどうにか太刀打ちはできる……かもしれない。それに保護(拉致ともいう)した『子』が何かイイ感じのアイテムとか持ってる……かもしれない、というか持ってないと詰む。正直なところ他人の持ち物ガチャに賭けざるをえないところまで追い詰められているのだ。
 まず何も無いだろうとは思うがそれでも一縷の望みをかけて豊穣の身体を弄る。何か指に触れた、引き当てた、引き出す、出てきたのは、スマホ。

(ハズレか。)

 一応見てみるとチャットアプリのようなものが見えた。役に立つかはいまいちピンとこない。となると時間がもったいないので次だ。
 再び弄る何か指に触れた、今度はデカい、たぶんノート、出てきたのは、やっぱりノート、内容は。

『5 がつ 15 にち てんき くもり じかん あさ
 でっどえんどー。』
(不吉!)

 見なきゃよかった。なんだこの糞日記。
 余計な時間を食っている間に階段を駆け上がってくる足音が聞こえた。おそらくはさっきDIOになにかされたいかにも殺人鬼然とした方の『鬼』であろう。DIOとひとまず戦わなくていいことで安堵半分、いつ何をしてくるかわからないことで恐怖半分、といったところだ。とにかくもう時間がない。こうなったらあっちの倒れてる女児の方だと豊穣にそうしたように身体を検める。三度何か指に触れた、今度は、これはたぶんお守りだろうなと確信しながら引き抜く、そしてやっぱりお守りで蕨は腹をくくった。三連続で役に立つものは手に入らなかった。期待はしていなかったが、やはり辛い。しかしこうなった以上なんとか殺人鬼をぶちのめすことをまずは考えなくてはならない。なぜなら既に彼奴は階段を登りきり自分の背後に迫っているのだから。
 奥歯に力を入れ向き直る。怪人と目があった。倒れる子供たちを背にする形で蕨はジェイソンと対峙する。絵面は無力な子供を守る少年漫画のヒロイン、といった風にも見える。実際はぶっちゃけあっち狙ってくれないかな、とか思ってたりもするがそんな彼女の考えは全く無視してジェイソンはマチェットを振り下ろした。もちろん蕨は躱すが、ジェイソンももちろん追撃する。狭い室内で一対一が始まった。

(あの二人は眼中に無いか、空気読むな。)

 役的にも人道的にも『鬼』が『子』に手出ししないように囮になるというのは良いのだが、それで死にそうになる本人はたまったものではない。だがこうなってしまった以上やるしかないのが兵の辛いところ。床を蹴り壁を蹴り家具を蹴り、なんとか凌ぐがそれだけでは埒があかないため刀を振るう。だが手応えはあれど効いている感じがしない。フェイントも交えて揺さぶるが相手がダメージに頓着しないこともあり捗捗しい成果は得られない。徒労感と疲労感がかさむばかりだ。

(狙うは額の――)

 ならば狙いを変える。さきほどDIOに何かされたのか、額の一部に謎の物体がある。もしやこれが弱点ではと当たりをつけすわ切りかかる。膂力は凄いが剣技ならば一日の長が蕨にある、雑に振られたマチェットを見切ると容赦なく頭に振り下ろした。
 予想は的中した。今まで切っても叩いても効いていなかったのが途端に頭を抑えて悶え苦しみだした。頭の形もいびつに変形していく。そして数秒が経ち、頭が爆発した。

「……なぜ?」

 まさか爆発するとは、これには蕨、キョトンである。だがとにかくなんだかよくわからないが一応倒せたらしい。彼女からすればDIOの前哨戦のため警戒を切ることなく気を配り襲撃に備える。今のところDIOが攻めてくる気配は無い。打ち倒した『鬼』もビクビクと痙攣を続けている。他には……あった、紙切れだ。一枚の紙切れが女児の近くに落ちている。拾って見てみた。

『生きている参加者一人を対象に選んで発動する。対象が『鬼』だった場合、お守りを対象にぶつけると対象は死亡する。使用後自壊する。 』

 こんな便利なものだったとは、と一瞬思ったが真に受けるのは馬鹿らしいので蕨はなんとも微妙な顔になった。心なしかリボンもしょげている。たぶんさきほど女児から頂いたお守りの説明書なのだろうが、鵜呑みにできるような内容ではない。これがあればDIOもなんとかできるかもしれないが……

(!)

 殺気を感じとっさに伏せる。腰の辺りを薙ぐようにマチェットが頭上を通り過ぎた。見なくてもわかる、誰が奇襲をしたかなど。

「本当に不死身か!」
「……!」

 頭もすっかり再生しマチェットを振りかぶるジェイソンがそこにいた。確かに頭が爆発したのを見たのに、少し目を話した隙に何事もなかったかのように再生している。催眠術か超再生か、ともかくとんでもなくヤバイ相手ということはわかった。ひょっとしたらDIOより危険かもしれない。突っ込んでくるところにカウンターを合わせながら、蕨の顔が歪んだ。何かおかしい、そう直感が告げ棒手裏剣を投擲したのとほぼ同時に、ジェイソンは走り抜け蕨の後ろで倒れる女児の頭にマチェットをぶち込んだ。
 パターンが変わった。それを理解しもはや100%の殺す気で投げた手裏剣を受けて何事もなかったかのように行動する怪物を前に、躊躇なく背後から太刀で金的を見舞う。かすかに鈍った隙に脇を抜け、新たな標的とされていた男児、豊穣を確保しに向かう。その彼女の試みは自分の頭と首に走った痛みで妨げられた。掴まれている!

(こんなものに頼ることになるとはな!)

 自分の身体が片手で持ち上げられる。体型でいえば小学生と変わりないのだ、軽々と担がれるともう片方の手のマチェットが首筋へと狙いをつけられる。刃が突きつけられ引き切られようとする正にその直前、蕨はお守りを喉元に殴り当てていた。

「……!」
「ほう――!」

 首筋に熱が走る。不充分な加速しか得られなかったマチェットは赤い線を蕨に残すだけに終わり、それを持つ手が、腕が、身体が瞬時に変化していった。
 ジェイソンの喉元から身体全体へと瞬時に白いものが走っていく。それは、塩。身体があっという間もなく塩へと変じていく。全くもってオカルトな光景。それを蕨は見ていた。自分の身体が支えを失い地面へと投げ出されるまでの、数分にも感じるような一秒ほどの間。人一人が無機物に変わっていくファンタジー。それを目の当たりにして忘我。
 花酒蕨はこうしてこの鬼ごっこを「理解」したのであった。



【I-10(灯台)/01時28分】

【花酒蕨@武装少女マキャヴェリズム】
[役]:親
[状態]疲労(小)、DIOへの畏怖
[装備]:太刀・棒手裏剣(どちらも損傷・小)
[道具]:防弾ベスト・閃光弾、はいぱーびじょんだいありー@未来日記、スマートフォン(子・豊穣礼佑)
[思考・行動]
基本方針:『親』か『子』と合流する。
1:DIOから逃げる。
※その他
ルールの把握度]
自分の役・各役の勝利条件・制限時間を把握、各役の人数、会場の地図を未把握。ルールの本質に気付きました。
豊穣はを持っています。

【豊穣礼佑@未来日記】
[役]:子
[状態]:気絶
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考・行動]
基本方針:このゲームに勝利してエリートであることを示す。
1:DIO、織田敏憲を利用しながら情報を集める。
2:ピエロ(ペニーワイズ)との接触を避けるため、西北西方面に逃走したい。
3:未来日記所有者は優先的に殺す。
※その他
ルールの把握度]
自分の役・各役の人数・各役の勝利条件・会場の地図・制限時間は全て未把握。
未来日記による予知で、ある程度の未来を把握しました。
DIOを『親』の役と思っています。









【擬宝珠 檸檬@こちら葛飾区亀有公園前派出所 脱落】
【ジェイソン・ボーヒーズ@13日の金曜日シリーズ 脱落】

【残り 67名(鬼11名 親23名 子33名)】
最終更新:2018年11月03日 10:10