幻影の夏 虚言の零

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最近妙に喉が渇く。食事はちゃんととっている。健康管理を怠っているわけじゃない。 
それでも…此処最近、異常に喉の渇きを感じるようになった。おまけに体もだるく感じる… 

「おや、どうかしたかねミスヴァリエール。なにやら調子が良くないように見えるが?」 
後ろから聞こえるやや芝居じみた調子の声。振り返ればしばらく前に召還し、自分の使い魔となった男が佇んでいた。 
肩口で切り揃えられたサラリとした金髪、黒で統一されたマントと貴族服、 
端正な顔の瞳は、閉じられたまま自分を見つめていた。 
「具合が悪いのならば私がすぐに薬を買って来てあげよう、 
主に何かあっては使い魔の恥。ヒロインが消えてしまう舞台などなんとつまらない物か」 
「…別にいい…寝てれば治るわよ。あと、その喋り方いい加減直してちょうだい」 
私はこの男があんまり好きじゃない。召還が成功した時は正直嬉しかった。 
この男が話す知識は私や他の生徒だけでなく先生まで目を丸くするものだった。 
貴族としての誇りを持ち、女性に対してはギーシュの様なナルシストではなく極めて礼儀を重んじ紳士として対応する。 
…だが、私はこの男がどこか好かない。常に舞台劇のような例えを用いる言葉や役者じみた喋り方もそうだが、 
なにか、一緒にいると言い様の無い不安が胸に渦巻く。 
そして最近のこの喉の渇きなどのよくわからない異常がそれに更なる拍車をかけている… 
「何かあればすぐに私に言いなさい、ミスヴァリエール。私の出来ることならいくらでも力を貸そう…キキキ!」 
「………あとその笑い方もやめなさい」 


「私には『娘』がいてね、中々に優秀だったのだが、素直ではなくてね…随分と嫌われてしまった」 
数日たったある夜、雑用を終えてくつろいでる『彼』が唐突にその話を口にしだした。 
「…貴方、娘なんていたんだ」 
「おや失敬な。私にだって身内はいるさ。いや実に彼女は優秀だった… 
純粋に才ならばいずれは私をも越える逸材になれただろう。 
………私の望む“理想”も…受け継いでくれると思ったが……」 
かぶりを振って見るからに落ち込んでいるという素振りをする。 
こんな時まで妙に動作が芝居がかっている…ただ、最後のほうの言葉… 
『私の望む“理想”』…この言葉だけ他とは違う…なにか黒々とした感情が見えた気がした 
…気のせい…なのか…? 
「いやはや、『親』と言うのは難しいものだ。コレばかりは知識があっても計算が出来ても上手くいかない… 
しかし…ミスヴェリアール…君のような才ある者が娘だったらきっと今度は上手く行く気がするよ」 
「お世辞のつもり?それとも皮肉?」 
「とんでもない。君の中の才はしっかりと私には見えている。この私が君の才能を称えよう」 
「…もういい、寝るわよ。明日の朝もちゃんと起こしてよね」 
「もちろんだとも。それではおやすみ…ミスヴェリアール…」 
明かりを消しベッドに身を預ける。 

………相変わらず…喉は渇いていたけれど… 


それからまた数日経ち……喉の渇きに、若干変化が起こった。 
昼間や一人でいる時はまだ治まっている。だが、夜…それも他の人間が近づいた時に一気にその『乾き』が襲って来た。 
流石にコレはあまりに異常だ。あまり頼りたくは無かったが…私は『彼』を探す。 
だが、何処を探しても『彼』の姿が見えない。彼がいそうな場所は全て探した。 
それでもその姿は何処にもない。探すたびに、その場にいる人を見るたびに、ドクンと心臓が大きく脈打つ… 
吐き気がする…頭が痛い…体が重い…… 
……喉が、熱い…… 
「何処……行ったのよ…」 
遂に中庭で地面に蹲ってしまう。熱い、熱い…もう喉だけじゃない、全身が熱い。 
「ズェピ…ア…」 
初めて私は『彼』の名前を呼んだ。それでも、彼は私の前に現れない。その時…… 
「あら、ルイズじゃない。こんなトコで何してるのよ?」 
後ろから声が聞こえた。少しだけ顔を向けると赤い髪が見えた。 
「いつも傍にいるあの男性がいないわね。あ!もしかして逃げられちゃったとか」 
声だけで分かる。キュルケだった。 

ドクンッ―――― 

その瞬間、ひときわ心臓が大きく脈打つと同時に、吐き気が…喉の渇きが襲った… 
「……ルイズ…?」 
流石に私の様子がおかしいと感じたキュルケがゆっくりと私に歩み寄る。 
……来ないで……それ以上近づいてきたら…… 


我慢が出来ない 





学園の屋根の上、二つの月が照らす中、一つの影が静かに佇む。 
影の視線の先には二人の少女…苦しそうにその場に蹲るルイズに、様子の異変を感じたキュルケが歩み寄る。 
その瞬間……蹲っていたルイズが突然歩み寄るキュルケに飛び掛った。 
地面に押し倒され動揺するキュルケが見たのは…自分異常に瞳を赤く染めたルイズの、理性を感じさせない鬼気迫った顔… 
「キ、キキ、キ……!」 
少女たちを眺める影から僅かに笑い声が上げる。 
それと同時に、ルイズの顔が、押し倒されたキュルケの肩に一気に近づく。 
かぐわしい肌に、柔らかな肉に、ルイズの歯が…牙が、突き立てられた… 
『喰らいつく』……それが最もその様に当てはまった。その瞬間…いままでずっと閉じていた彼の『眼』が開いた。 


真紅――― 

キュルケの目より、今のルイズの目より、遥かに紅く、遥かに禍々しい…完全なる赤。 
当然だった。その眼には眼球が無い。ただ赤い、赤い…血の色だけがそこに広がっていた。 

「キ、キキキキ、キキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキッ!!!」 

彼は笑う。笑う、笑う、笑う。狂ったように、否、完全に狂いながら笑う。 
限界まで見開かれた真紅の両目から、頬の端まで裂けた口から、その赤が零れ落ちる。 
だらだら、だらだらと、黒い貴族服を流れ落ちる赤が、紅く染める。 
それでも彼は構わずに笑う……彼は計算をしていた。この世界に来てすぐに。 
彼が狂うほどに行っていた計算を。計算の各所をこの世界に当てはめて何度も計算を繰り返す。 
そして、出された答えは――――同じだった。形こそ異なれど、やはり出た答えは同じだった。 
それでも彼は、前の世界ほど絶望することは無かった。この世界には自分のいた世界とはまるで違う。 
彼が追い求めていた『魔法』がこの世界には溢れている。自分の望む理想が、此処でなら叶えられるかもしれない… 

…それでも、『駒』は必要だった。 


彼は笑う。必要なものがこの瞬間に手に入ったことに。 
彼が前にいた世界、そこでの『娘』では見れなかった光景を、いま見ることが出来たことに。 
赤と青の月の下、一人の紅い男が笑う。 
吹きぬけた風が彼のマントをはためかせ、悪魔の黒翼の如くそれは舞う。 
彼は…ズェピア・エルトナム・オベローンは頭上の双月に向け両手を広げ、そして、言った… 

「さあ…虚言の夜を始めよう…」


『MELTY BLOOD』より『ワラキアの夜』こと『ズェピア・エルトナム・オベローン』召喚

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