石原吉郎(詩文)

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石原吉郎(詩文) - (2016/08/10 (水) 00:50:46) の1つ前との変更点

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      狙撃者 暗い鏡のまえで 青銅の銃身を しきりになめまわしていた おお わかい狙撃者の かがやいた その飢餓 それから―― 夜を蹴おとした 昼を蹴おとした 火が投げられた 旗が踏まれた 招きもせぬ勇気が ドアにもたれてはなだれてきた 旧い鏡のおくの 赤い光の輪のなかで 銃座は僕に そのときから 据えらえたままなのだ 銃口は 永遠にめざめている そして引き金はもう どこをさがしても みあたらない       オズワルドの葬儀 死んだというその事実から 不用意に重量を 取り除くな 独裁者の栄光とその死にも われらはそのように 立会ったのだ 旗に掩われた独裁者の生涯は 独裁者の死と いささかもかかわらぬ 遠雷と蜜蜂のおとずれへ向けて ひとつの柩をかたむけるとき 死んだという事実のほか どのような挿話も想起するな 犯罪と不幸の記憶から われらがしっかりと 立ち去るために ただその男を正確に埋葬し 死んだという事実だけを いっぽんの樹のように 育てるのだ

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