穣子1



8スレ目 >>780


「秋穣子様。僭越ながら我が声をお聞きください」

「豊穣は届けたし、収穫際も終わったでしょ? 他に何かあるの?」

「里の者が秋穣子様を好いているのは御存じだと思います」

「まあ、豊作を嫌う人はあまりいないわね」

「それは物事の一面にすぎませぬ。秋穣子様だからこそ、好かれている事を忘れないで頂きたいのです」

「うーん、豊穣を除いた私ってよくわからないわ」

「ご自分のことは案外見えないものです。秋穣子様は女性としても魅力的でございます。
神を愛してしまう馬鹿者がここにいるのですから。…また来年お会いしましょう」

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9スレ目 >>303


「ヴぁー、かったるいー、仕事めんどいー」
「そこ行くシケた顔した貴方!何かお悩みの様子ね?」
「どちら様ですか」
「私は秋 穣子、人は私を豊穣の神と呼ぶわ」
「はぁ。それで自分に何の用事ですか」
「貴方の枯れた心を穣らせに」
(枯れたら穣る物も何も無いような……)
「さ、私の能力で一つだけ何かを豊に穣らせてあげるわ。何が良い?」
「ぁー、んー、穣らせるったって別に恋とk「おっけー、任せなさい」話最後まで聞けや」
「それじゃあ不束者ですがよろしくお願いします」
「しかもお前とかよ!?」

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12スレ目>>158


朝起きると枕元に芋があった。里芋である。
何だこれはと手にとって見たが、やはり里芋であった。
とりあえず眼鏡をかけ辺りを見回してやると、襖の近くに何かある。
半纏を羽織って見に行くとまた芋である。今度はジャガイモだ。
小首をかしげながら居間に行き、囲炉裏に薪をくべ火を起こす。
ふと火から目を逸らすと、下座に長芋が置いてあるのが見えた。
ああ奴さんの仕業か、と得心しながら家の中を見て回る。

彼女は存外すぐに見つかった。
竈で煮炊きなどをしている。
そんなものは囲炉裏でやってしまえばいいのにと言うと、彼女は鉤が邪魔で蒸し器を使えないと言った。
成る程、良く良く見遣れば鍋の上に蓋ではなく木製の蒸し器などが載っている。
大方この中で粉吹芋でも作っているのだろう。
その下には何が入っているのかと聞けば、南瓜の煮付けを作っていると言う。
そも何故そんな物をここで作っているのかと聞けば、
男の一人暮らし、碌な物を食べてはいないだろうからと言われた。
全くその通りな物で頭が上がらない。
しかしこうしてみればまるで嫁に貰ったようだと言うと、顔を紅葉よりも赤くして俯いてしまった。


朝食を済ませ。茶などを飲んで一服していると、先程のやりとりがふと思い浮かんだので、
本当に嫁に来る気はないか、と聞いてみると、また顔を赤くして俯いた後、
自分は曲がりなりにも神だから人里に嫁ぐことはできないと言われた。
ただ婿に来てくれるなら……、と言うと急いで帽子を被り穣子は何処かに走っていってしまった。

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12スレ目>>247


朝起きて雨戸を開けると柿の集団首吊があった。
今度は干し柿かと幾らかのあきれを覚えつつ居間に通じる襖を開けると、
いかにも一仕事終えましたという風に茶などを啜る穣子とその姉がいた。

あれは何かと尋ねれば、干し果物を作ると言う。
ひいては出来上がるまでの間、家の敷地を幾らか貸して貰えないかと言う事だった。
貸す事には取り立てて問題は無いが、何を作るのかと聞いたところ、
まず手始めに毎年作る干し柿を作り、以下葡萄や杏、林檎、蜜柑、芋なども乾燥させると言う。
何もここでやる必要も無いだろうと言えば、山の中は日が当たらず風通しが悪く、
また鳥なども多いため干すには不適当と言うことであった。
しかし里の中も人が多いもので、もしかすれば悪童共に干した端から食い尽くされることも有り得ると言えば、
子供らに幾らか分ける程度の分量は十二分に有るし、それに有効な対策を考えてあるとも言う。
そういうことならと、出来た物の幾らかを貰うのと引き換えに、庭先と縁側・納戸の軒下、物干し竿の一つを貸した。
いかなる付き合いでも取り立てるべきはきちんと取り立てなければならない。


昼過ぎに仕事を一旦切り上げ家に帰ってみると、庭やら軒下やらに見事な果物の簾が出来あがっていた。
外から庭に回るのは骨が折れそうなので内に入り、縁側に回ると案の定茶を啜る秋姉妹がいた。
いつの間にこんなに拵えたんだと聞けば、なに自分が了承するのを見越して先に自宅で吊るしておき、
承諾を取ったら家に戻ってそれを持って来ただけだと言う。
これでは外が見えないから、誰が来ても判らないだろうと言ったら、足音で誰が来たかはなんとなく判るらしい。
子供らが入ってきたなら大抵は複数の足音がするし、大人は一つの足音が玄関に向かうそうな。
これでは子供が悪戯し放題だろうとも言ったが、一番外には芋しか吊るしていないし、
家の手伝いで干した子もいるだろうから早々取る様なことはしないだろうと言われた。
いや、今更秋の果物を干すのは珍しいから、好奇心で取る奴は取るんじゃないかと思ったが言わないで置いた。
秋が終わったと言って暗くなられても困る。

しかし姉妹二人で食べるには随分大量に干すものだと言ったら、何でも山の上へ新しく来た神社に半分程納めるのだそうな。
更に半分、全体の四半分を自分たちが食べ、残りを自分に寄越すつもりだったらしい。
端から貰えるのならば別の条件にしておけばと嘯くと、なら別のことにしようかと秋姉の静葉さんに伸し掛かられた。
肩に顎など乗せられどうしようかと逡巡していると、前から穣子が腰に手を回し力を込めて抱きついてきた。
臍を曲げた妹を見て、静葉さんはくすくす笑いながら体を離しまた縁側に座りなおす。
手の上だなと思いながら穣子の後ろ頭に手を当てると、抱きつく力が幾らか弱まった。


昼が過ぎて仕事に戻り、夕近くになって家に帰ると家に灯りが点っている。
不思議に思いながら戸を開けると、炉辺でまた茶を啜る秋姉妹がいた。
山に戻らなくてもいいのかと聞けば、明日も来るのだから構わないだろうと言い、
それとも戻っていて欲しいのかと茶を差し出されながら言われてしまった。
そんなことは無いと出されたぬる茶を飲みながら言うと、ならいいじゃないと言われ焼き栗を渡された。

日も暮れて空き腹の鳴く頃になると白飯と焼鮭、里芋と烏賊の煮付け、掻き揚げが出た。
酒など呑みながら芋を突付いていると、ふっと静葉さんに置いた杯を取られ一息に飲み干されてしまった。
苦笑しつつ文句を言うと、柿の潰した物を入れた焼酎を穣子が持ってき、静葉さんの頬を引っ張ってから炉辺に座った。
幾らかして夜風に当たってくると言って静葉さんが出て行き、居間には二人が残された。

迷惑だったかと不意に穣子が漏らす。いきなり押しかけ勝手に物を吊るして、と。
そんなことは無いと言ったが、浮かぬ顔は晴れない。
ぐちぐちと箸で柿をまた潰しながら一人で呑むのは味気無いと言うと、それなら良かったとようやく顔が晴れた。

今日は泊まるから明日は弁当を作ろうか、と柿酒をおよそ呑み終わる頃合に言われた。
普段弁当など作らず専ら店食いで済ませているのに、いきなり豪勢な弁当では怪しからん。
また人里によく出ているのが公になるのは不味かったんじゃないのか、と聞くと、
来るだけなら問題は無いし、どの道顔を出さなければ誰が作ったかなど判りっこないだろうと言われた。
冬にあれだけ干せば、なにかしらの有力者か収穫関連の神が居ることは想像出来るだろう、と言おうと思ったがやはりやめた。
外は暗いのに家の中まで暗くなられては困る。

折角の申し出だが丁重に断ることにした。
そんなに私の居ることが知られたく無いのか、と半泣きになられたので頭を撫でて説明する。
何の事は無い、今日だって昼ぐらいには家に戻って昼を食べて戻るくらいの時間はあったのだ、
ならこれから昼は家で一緒に食べればいいだろうというだけだ。


また酒など呑みながら穣子を愛でていると、静葉さんのことを思い出した。
随分前に夜風に当たると言って出て行ったきり未だに戻ってこない。
酒に強い神様なのだから高々一杯で酔っ払ってへたり込んでいるということは無いだろうが、
ここらの地形には不慣れなのだから迷っている可能性は大いにある。
いくら吊るし物が有るとはいえ、夜中似た様な屋根の並ぶ場所でこの家を探るのは難しいだろう。

探しに行こうと穣子と玄関口に行くと、小姑は帰る、新婚気分を存分に味わえとの書置きがあった。
それを見て狼狽するやら顔を赤くするやらで忙しい穣子を眺めつつ、外を見回す。
納戸なり吊り下げた果物の間なりに隠れて驚かす心算かと思ったが、そういうことも無く、どうやら本当に家に帰ったらしい。

どうにも本当に家に帰ったようだと穣子に言うと、仕様の無い姉さんですね、と声を上擦らせて返事をしてくる。
泊まるつもりだったのだからそんなに緊張することも無かろうにと考え、二人と一人とでは違うかと考えを改める。


晩酌を終え、適当に風呂を沸かし入る。
穣子を先に入れようとしたが、自分は風呂が長いからと固辞されてしまう。
冗談で一緒に入るかと言うと顔を赤くさせて風呂に押し込まれた。

穣子の風呂は言うだけあって、だいぶ長かった。このうちに布団を敷いておこうとしたが大きな問題がある。
あまり泊まり客など来ないので客間は長いこと掃除をしておらず汚く、他の部屋は仕事用具などで埋まっている。
ならば選択肢は二つ。自室に布団を二つ並べるか、一つを居間に持って行くか。
反応が面白そうなので前者に即決する。

寝巻きを着込んだ穣子が炉辺にやってきたので、水を飲みながら談笑し、並んで歯を磨く。
先に穣子を寝床に移して、囲炉裏の薪に灰をかけ消火し、明日の朝一に使う薪を四隅になんとなく突き立てて置く。
遅れて寝床に向かうと、薄暗い行灯の光の中で穣子が布団の上に正座して待っていた。
赤くなって狼狽えているものだと思っていたので、この反応にはこちらが面食らってしまう。
さてどうしたものかと思案していると、穣子がやおら頭を下げてお願いしますと言ってくる。
思惑とは逆にこちらが狼狽しながら、恥をかかせてすまないが今の時分でそのようなことをする気は無いと説明する。
そのまま薄明かりでよく判別出来ないが、おそらく当惑したような表情をしているだろう穣子の腕を引っ張り、
相対した体勢で抱きしめ、布団の中に入る。
今はこれでと言うと幾らか安らいだ表情で穣子が目を閉じる。
それを見て穣子の唇に唇を重ね自分も目を閉じた。

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12スレ目>>520 うpろだ842


朝起きると横に金木犀の鉢があった。
危うく倒しそうになりながら眼鏡をかければ、似たような鉢植えがもう幾らかある。
またかと思いながら居間に続く襖を開けるが誰もいない。
これだけ置いて帰ったのかと考えながら雨戸を開けると、
そこには植え替えなどに精を出す秋姉妹がいた。

何をしているのかと問えば、秋の草木等植えていると言う。
何故そんな物を植えているのかと聞けば、この家には草花が少ないと答える。
園芸の趣味など無いので確かに菊も秋桜も、或は寒牡丹も植えてはいないが、
それでも枝垂れ梅や桃は植わっているし、実は付けないが甘蕉なども埋まっている。
然して少なくないのではないかと返すと秋の草木は少ないと言われる。
言われれば少ないが、花の手入れは七面倒臭いので植える気は無いし、
花のなる木を植えるより柿やら金柑やらの実のなる木を選んだだけである。
なんとも色気の無い話だが、色気で腹の膨れるでも無し、男の一人暮らしなぞこの程度の物だろう。

しかしそんなことではいけないと穣子は言う。
曰く、草木花実を見てただ食欲のみでは趣に欠ける。それは良くない、と。
なれば曼珠沙華などは見て飽きないので好きだ、と言ったら穣子も喜んでいた。
だが真実最も好きなのは夏の盛りに咲く時計草だなどとは、口が裂けても言えなかった。


後で全く今更なことだが、勝手に造園などしてしまって良かったのかと言ってきた。
特に何を植えるでもなし、遊ばせているのだから目隠し位どうという事も無い。
それにどうせお前の家にもなるんだと言うと、穣子は静葉さんの掘った穴に顔を隠して入ってしまった。

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12スレ目>>668 うpろだ868


昼頃起きると、枕元に穣子が豆など備えて座っていた。
何をしているのかと問うと、今日は節分なので鬼遣らいの準備をして待っていたと言う。
昼にやる様なものでもなかろうと言うと、それ以外にも幾らか用意している物があるという。
取り敢えず居間に移動すると、そこには豆料理が用意されていた。
しかし正直自分は豆と言う物は苦手である。
豆乳も醤油も用意されているが特にこれらが苦手で、以前外で何度か飲んで皆駄目だったことがある。
その旨を告げると、穣子はそれらを引き込めていった。

お八つに稲荷寿司が出たと思ったら、中身はおからだった。
怒っているんだろうか。


夕は湯豆腐と麦酒のようなものだった。
酔った勢いで豆など盛大に投げていると、斜向いの家からも威勢の良い声と共に何かの割れる音がする。
どうやら投げた豆で硝子戸やら塀やらが割れたらしい。
日頃からあそこの婆さんが鬼なんじゃなかろうかと思っているが、真相は闇の中だ。

そのまま風呂に入るがどうも湯が白い。
何故かと思って聞いてみると、どうも豆乳を入れたらしい。
ちょうど湯も白いのだから一緒に入らないかと誘ってみるが、素気無く断られる。
しょうがないので宵の口より降り始めた雪を眺めつつ、
一人ゆっくり長風呂を楽しもうとするも、豆の臭いが段々強くなってきて嫌になりすぐ退散した。

温もれず不満が残るので、差し当たり穣子に膝枕をさせて晴らすことにしようと考えたが、
今日に限っては横に寄ると逃げていってしまう。
やはり怒らせたか。


あまりよい日ではなかったと考えながら、仕方なく床に就く。
程なくして襖戸の開く音がし、穣子が入ってくる。
しかし隣の布団に入る気配は無く、枕元に静かにたたずんでいる。
その手には鈍く輝く凍り豆腐が握られていた。

驚き、急いで起き上がるが遅く、既に掛け声一気穣子の腕から豆腐は放られていた。
ひとしきり豆腐を投げつけられた後、何故こんなことをしたのかと問うてみると、
豆を食わないのは鬼だからだろうと思った、
以前外では鬼のような所業をしていたと言うのだから鬼が巣食っているに違いない、
今は反省しているとのたまった。
つまり折角育てて絞った豆乳が飲まれず不満だったからか、と言うとそっぽを向いてそうだと答える。
苦手なのだから仕方ないだろうと言うと、それでも飲んで欲しかったと泣く。

泣いた女を鎮める法など元来機微に疎い自分には判り様が無いので、
ひとまず抱き付き抱き締め頭など撫でてやると落ち着いたらしい。
そこで謝り、次は取り敢えず飲んでみることにすると確約すると、
先刻は自分も大人気無かった。そこまで苦手なら無理しないでも良いという返事が来た。
そこで好いた女の絞った物なら檸檬でも甘夏のような物だと言うと、穣子は布団の中に潜ってしまう。
なので自分も布団に潜り、掻い繰り抱き寄せてやると、丸くなって顔を隠してしまった。

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12スレ目>>973 うpろだ928


朝起きると家中に甘い匂いが漂っている。
すわ何事かと飛び起き、火元に走ると穣子がなにやら黒い物を煮込んでいる。
これは何だと言うと、まあ飲んでみろとばかりにお椀を差し出してきた。
一啜りしてみると、少し粘り気がありほのかに甘い。
朝食に一つどうかと勧められたが、しかし丁重に断る。
流石に朝っぱらから汁粉は食えんぞなもし。


昼を喰いに家に帰るとお萩が用意されていた。
こんな時期に何故とは思うが、好物なので残さず平らげておく。
付け合せの白菜漬を齧りながら茶を飲んでいると、餡団子がでてきた。
昼飯と全く被っている気もするが、気にしないことにする。

お八つに食えと渡された包みを開けると、お萩が入っていた。
ここは長命寺とかにしておいて欲しかったが、余っていたのか。
しかしもう一日の砂糖摂取量は確実に超えているだろうな。


夜、仕事を終え帰ると、明かりが灯っている。
冬場に家が明るいと言うのも、部屋が暖かいというのもなかなか嬉しい。

夕にも、やはりお萩が出てきた。
予想通りなのでもはやどうでもいいが、味噌汁の代わりに汁粉が出るのはいただけない。
何故こんなに甘味、しかも小豆物ばかりを推してくるのかと訊くと、逆に今日は何日かと問うてきた。
十四日と答えると同時に得心がいった。
成程、向こうでは自分と然して関係無い行事だったから気付かなかったが、これがあったか。
しかしそれにしては贈る物がいささか異なると言うと、
何分外の物だし、こちらではあまり売っておらず栽培も難しかったと酷く恐縮している。
それを非常に愛おしく思い、穣子の腕をつかんで引きよせ、頭などを撫で付けてやると、
気持ちよさそうに目を細めている。
その様を猫のように思い、撫でる手を顎の下、また更に下へと持っていくと、突然穣子が体を曲げて拒んできた。
見ると手が衣服の下にもぐりこみそうになっている。
あれこれは、と思い手を外し、代わりに体を持ち上げ股の間に座らせる。
そのまま頬やら背やらを撫でていると、またたびを嗅いだ猫のように気持ちよさそうに目蓋を閉じていた。
こちらが撫でるのを止めると、迫る様に頬擦りなどしてくる。
それを見てなおさら猫のようだと思い、また頭や腹などを撫でてやると身を捩って悦んでいた。

ひとしきり可愛がった後で穣子に猫の様だったと言うと、自分も猫のような時があるという。
さて確かに向こうにいるときは姉に、まるで猫だとよく言われていたと言うと、
なら出来る子供も猫かもしれないと穣子が言い、自分の言ったことに赤面したのか、
こちらの膝の中に顔を埋めてしまった。

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13スレ目>>543 うpろだ1006


休日に昼まで寝ていたら穣子に敷布団を引き抜かれた。
いきなり何をするのかと文句を言えば、こんないい日にいつまでも寝ているなと言う。
成る程確かに外はいい天気で、何処かに出かけるには絶好の日和である。
しかし数週働き詰めで疲れているのも事実。
ここは穣子に我慢してもらい、一日体を休めてやろうとしたら、枕も掛け布団も取り上げられた。
問答無用とは正にこの事である。

軋む体を押さえ立ち上がり、日の当たる縁側に移り横になる。
座布団を畳み枕にし、そのまま目を閉じようとすると炉辺まで引きずられる。
やれ飯を食え、食ったら何処ぞに出かけるぞと言うが、眠くてとても食う気になれない。
それでも寝惚け眼を擦りながら胃に流し込めば、強烈な苦味で目を覚ます。
何かと思えばお新香に紛れてふうきみそがいた。
傍らでは穣子が引っかかったとばかりに笑っている。
一つ怒鳴りつけでもしてやりたい気分だが、吐き気でそれもままならぬ。
熱い茶を一口飲み口中と胃を落ち着かせ、また白菜の漬物など抓まんで気を落ち着かせる。
時を見てふうきみそを穣子の白飯の上にあけ、自分は朝食を終える。
ただ特別嫌いでも無いという風なので、撒いたからといって何が起こるわけでもないのだが。


腹がこなれてきた頃に着替え、揃って川辺の方へ出る。
まだ春分前だというのに、既に背の低い草が生い茂り、川岸は緑に染まっている。
日差しも強く、実に春らしい日和だと言うと、小秋日和だと返される。
春も秋も似たような気候で小秋日和と呼んでもいいのだろう、しかし些かの抵抗がある。
適当に土手に転がり、春告精も飛んでいるのだから春だ、と上を指しながら言う。
それでも穣子は横に腰掛け強情に小秋日和だと言い張る。
秋の神様としては自分の舞台が来るは待ち遠しいのかもしれないが、
いつも待ち焦がれているというのは疲れるだろうし、それに少し癪に障る。
ならば家に帰って小さい秋でも作ろうかと言うと、穣子は一拍置いて赤くなり、
自分の肩に顔を埋めて動かなくなってしまった。

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うpろだ1104


その日仕事をしていると珍しく客が来た。秋穣子という神である。
普通の人間はこんなところに用は無い。まして神なら尚更だろう。
それで化学屋に何の用かと問えば、幾らか窒素肥料を分けて欲しいと言う。
それなら里に卸しているのだからそこから買い求めればいいのだが、欲しいのは石灰窒素だという。
さて硫安や苦土肥料も面倒だが、更に面倒な代物である。
炭化物から作る肥料なのだが、いかんせん製造装置は無いしそれを作る技術も無い。
あれば農薬と肥料を両立出来たと言っていたが、残念ながら諦めて貰おう。
そも自分の本業は火工品製造で肥料の知識は少ないのだ。
そうを言うと、なら肥料の知識を付けてしまえと言ってきた。
それならばこちらも手伝う準備があるとも言ってくる。
非常にありがたい、だが断る。まだ装置で手を加えないといけない部分もあるのに、他に手を割く余裕は無い。
しかし後で本を幾らか持って来ると言って戸から出て行ってしまった。
なかなかに強引な御仁である。

翌日仕事場に行くと、全体何処から仕入れた物か山積みの本を持って戸口の前で待ち構えている。
正直避けて通りたかったが、なにぶん見通しの良い所に建っている物で、裏口を使うにも丸見えで意味がない。
仕方がないので近づけば挨拶もそこそこに、昨日言っていた本を持ってきたから読んでみろと言う。
確かに持ってきた本に肥料や農薬についての記述はよく書かれている。
しかし大抵は趣味の園芸や園芸通信といった家庭菜園などに関する雑誌であった。
つまりは作物別の施肥の時期や割合、或いは農薬の濃度の指南であり、作り方については特に何も書いていない。
そのことを指摘しようとすると、そっぽを向いてしまう。どうやら載っていないとわかってのことだったらしい。
それについて別段どうのと言うつもりも無いが、その仕草が子供のようで非常に愛らしく悪戯をしたくなる。
里では随分大事な神様のようなので、実際にはそんなことは出来ないのだが。


さて、何故かあれ以降穣子さんが作業場によく来るようになった。
何かが出来るのを見るのは楽しいものだし、来たい気持ちはよく分かる。
しかし製造途中の代物を面白半分に摘み上げるのはよろしくない。
特にここで作っているのは、軍用爆薬などより威力は弱いが、それでも火薬類なので危険なのだ。
むしろ雷管をつけず火に放り込めば爆発する分、こちらのほうが性質が悪いともいえる。
その点注意したら素直に謝り、代わりに夕飯を作ってくれると言う。
いい加減里の飯屋も飽きつつあったのでこれは有り難いことである。

自宅に帰り、夕飯時に出てきたのは加薬ご飯や蒸し鶏だった。
それはいいのだが何故飯が黒いのかが解せない。
紫と言い張っているが、明らかに違う。
しかし食べてみると存外に美味い。豊穣の神の面目躍如といったところか。
これならちょくちょく作って欲しいというと、幾らか詰まった後、別に構わないという返答がきた。
益々有り難いことである。

それからというもの、月に数度の割合で穣子さんが何か作り置きの物を家に置いていくということが出てきた。
中身は煮物や煮付けなど、簡単な物ではあるがそれでも面倒で普段は滅多に作らないものである。
味付けも程よく、米を食うにはいい塩梅になっている。
ただ休日に届けられている時もあったが、玄関先に置いてあり、特に声を掛けて貰えなかったのは気になる点である。
そのような態度をとられると、果たして新作料理の実験台にでも使われているのではないかという気分になってしまう。


程無くして、自分が穣子さんと出来ているのではないかという噂が立っていることを、仲買の人から聞かされる。
なんでも奴さんが作業場やら自宅にいるのを目撃したのが多くいるらしい。
こういう噂が出ると彼方も此方も面倒になるかもしれないので、しらばくれる事にした。
わざわざ神様が買付けに来ることは無いし、そも女が来る所でも無いだろうと言ったら、それもそうだと言って同意された。
彼がここをどのように思っているか良く分かるという物だ。全く値段を上げてしまおうか。

仲買が帰った後、内室に隠れていた穣子さんに怒られる。
何故怒るのか合点がいかないので訊いてみればまた怒られる。
さて何に怒っているのだろうか、無理矢理内室に押し込んだことか、来たことがないと嘘をついたことなのか。
はたまた女の来る所ではないと、しかし来ているのに言ったことか。
それを訊こうにもすっかり臍を曲げてしまって、とても訊ける風ではない。
仕様が無いので、ひとまず頭を冷まさせるという意味合いでも放っておくことにした。

はて小一時間作業をしていたらどうしたことだろう、ますます機嫌が悪くなっている。
話しかけても向こうを向いたまま返してこない。
なにやら小声で呟いているようだが、いかんせん小声で聞き取るのは難しい。
仕方無しに顔を近付け何を喋っているのかを判別しようとしたが、いきなり横に顔が現れたのに驚いたのだろう、
穣子さんは素っ頓狂な声を上げて前に倒れこんでしまった。
彼女は床に手をつきながらいきなり何をするんだと憤っているが、こんな所で無視を決め込んでいた方が悪い。
立ち上がるのに手を貸しながら、何故怒っているのかを再度問うてみる。
口ごもりながらも返してきた答えは、まるで自分がいてはいけないようだったから、という物だった。
内室に押し込まれ、来たことなど全く無いと否定されたのだから、さてそうも思うだろうか。
だが実際いるべきではないのだからしょうがないだろう。
一応薬品を扱う場所なのだから、白衣に保護眼鏡とは言わないが、ひらひらと動きにくく引っかかりそうな服装は止めて頂きたい。
そのような旨を伝えると、幾らか愕然としたような表情をして、やがて裏口から外に出て行った。


それ以来、といってもまだ数日しか経っていないのだが、穣子さんを見かけることは無かった。
しかし、それでも近日中に料理を持って家に来るだろうという確信があった。
それは単純に玄関先に出しておいた鍋が回収されていたからなのだが。
よっていい機会なので予てより企てていた、捕縛計画を進行させることにする。
これは玄関先に蚊帳を吊り下げ、誰かが来たら落下するような罠とする、至って簡単な物である。
自宅に来る人間は少ないので誤爆の可能性も低い。したらしたで運が悪かった、というだけのことである。
この程度のことで目くじら立てる者もそういないはずだ。
問題は自宅にいる間しか作動させられない点だが、まあ数日休みにしてしまえばいい。
最近過労気味だったのだし、休暇を一気に消費してしまってもいいだろう。


結論から言うと、罠は不発に終わった。
目標だった穣子さんが庭から入ってきたため、意味が無かったのだ。
彼女は鍋一つを両手に吊り下げてやってきたが、それより驚いたのが服装である。
いままで紅や緋色を基にした、飾りの多い服だったのに、今は飾り気のない白い服である。
どういった心境の変化で服を変えたのかと聞いてみたら、これが一向に答えない。
まあ庭先で立たせたままというのも甚だ都合の悪いことなので、ひとまず家の中に入れることにした。

しかし中に入れたとしても落ち着かない物である。
仄暗い室内で男女が膝突き合わせ、唯の無言で座り込んでいるのだ。
今までなら自分の仕事場で、且つ作業をしていたので余り気にしなかったが、全く今更ながら二人ぎりであると思い知らされる。
だが外に出るわけにも行かず、どうにもならぬ。のっぴきならない状況とは正にこのことではなかろうか。
やる事無しなのでよくよく見遣れば、単に白い服とだけ思っていたが、細々と意匠など鏤められている。
ならば成る程、これも着飾っているといって全く相違あるまい。
しかし尚分からないのは、何故そのような服をここに来るために着てきたのかということである。
或いはこの後また用事でもあるのかも知れないが、それならそれでこんなところでゆっくりしている暇もあるまい。
さて如何な用件かと尋ねたところ、まず煮物を作ったので届けに来たといわれた。
蓋を開けてみると、鍋一杯に詰まった筍の煮物であった。さてこれは早急に食べなば駄目になってしまう。
して、まずということは、他にも用件があるのかと聞いてみると、此方は口ごもってしまった。
詰まるところまたも膠着状態に陥ったわけである。
いつまでも固まっていても埒が明かないので、とりあえず茶を入れ茶菓子を出す。
こうしてみると幾分落ち着いたもので、菓子を摘まみながら世間話などを興じる程度にはなった。

そうする間に随分外も暗くなり、室内ももはや仄暗いといったものではなく、全くの暗闇になっている。
洋灯に火を入れながら、時間のほうはいいのかと尋ねてみる。
しかし何故かきょとんとした顔をしてこちらのほうを見ている。
なので粧し込んでいるのだから何処かに行くのではなかったのか、と再度尋ねてみた。
返事は、そんなことはない、今日の予定はここに来るだけだということだ。
ならばどうして普段着ないような服を着込んでいるのかと訊いてみる。
数瞬逡巡して口を開いた結果には、白い服が好きだと言っていたからと答えられた。
それを聞いて此方も固まってしまう。はてな自分は白服が好きだったかしらん。
しかしそんなことは無く、またそのようなことを言った覚えというものも無い。
これはもしかすると幾らか前の日のことを取り上げているのかもしれない。
あれは作業室内の着物をどうこういったもので、普段の着物についてではないのだが。、
さては誤解を解いたほうがいいのやも知れぬが、ではこの言の意味はなんなのかと思えば言い出せない。
いやさそこまで鈍感ということは無しに、おおよそ解りはするが果たしてそれが合っているのかという疑念はある。
なにより紅を塗りたくったような顔色になっているのを見れば、幾らか苛めてやりたいと思うのも人情というものか。
だが苛むといっても特にどんな行動の取れるわけでもない。
精々が固まり続けてちらちらと上目遣いに此方を見上げてくる彼女の様子を見て楽しむ位のものだ。

どれだけの時間が経ったろうか、不意に彼女は顔を上げ座ったままこちらに摺り寄って来た。
全く鼻と鼻の触合わんばかりの距離にまで顔を近付けて、こちらを見てくる。
余りに近すぎまた暗すぎて、近眼の眼鏡越しでは上手く合焦することが出来ない。
此方が焦点をあわせようと少し身を引くと、向こうも体の横に手を付いて身を乗り出してくる。
それに驚くようにして更に身を引き、やがて勢い余って後ろに倒れ彼女が前に手をつく。
これは自分が彼女におよそ押し倒されるような格好になる。
少しして自分が今何をしているのかを理解したのか、穣子さんが身を引く。
遅れて自分も体を引き起こし、座りなおす。

さてなこれは返事はどうなのか、という催促なのであろうか、或いは此方から言い出せ、という合図なのであろうか。
判断という物は出来ないが、なんにせよ何かを言わねばなるまい。
しかし気の利いた言葉というのは意識すれば出てくるものではなく、時間は無為に過ぎていく。
外では春風が吹き、障子戸ががたがたと騒いでいる。
何処かから風が入ったのか突然に灯りの火が大きく揺れ、そして消える。
炉辺でなかった事も災いしたか、月明かりも無く部屋は真っ暗になり、物の輪郭も碌に見えない。
恐らくは穣子さんが火を探しているのだろう、近くで何かを探る音がする。
しかし向こうのほうに火は置いてなく、燃料やら薬を入れた箱の置いてあるだけである。
そう燃料があるのだ。それほど危険な物ではないが、それでもこぼせば殊に面倒な代物である。
音のする大体の方向とかすかな気配から、彼女のおよその位置の当たりをつける。
辺りに何があったかに注意しながら膝立ちで少し進み手を伸ばすと、指先に何かが触れた。
それを掴み此方に引き寄せ、胸元に抱き寄せる。
腕から腹にかけては柔らかな感触が伝わり、息を吸い込むとほのかに甘い香りがする。
どうやら引き寄せたこれは家具や亡霊などではなく、確かに彼女らしい。
恐らくはまた顔を真っ赤に染め上げていることだろう、手足をばたつかせ抱き留めている腕から逃げようとするのが微かに見える。
しかし本当に逃げようとしている風ではなく、実際引き寄せている力は既に弱めているのに一向に解ける気配が無い。
やがてもがくのもやめ、此方に体をもたれ掛けてくる。

それから更に、もうどれだけ経ったのか見当もつかないが、時間が経った。
それでも自分は彼女を胸元に抱き留め続けている。
彼女もまた逃げるような素振りは見せず、時たま体を揺すったり此方の頬に手をやってきたりした。
もうこれでいいのではないかと思うが、しかしこれではいけないのだろう。
顔を彼女に頬擦り出来るほど近付け、好きだと囁き腕を放す。
彼女は数瞬固まり、ぐるりと顔を此方に向け見つめてくる。
それに応えるように手を頭に持っていき、髪を掻き分けてやる。
手を離したとき恐らく顔を上気させた彼女に正面から抱きつかれ、押し倒され、それでも今度は彼女が飛び退くことは無かった。

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>>うpろだ1158


朝目覚めると横に顔があった。穣子の顔である。
慌てて起きようと右手を横につけば、柔らかい感触がある。
そちらを見てみるとなにやら黄色が見える。どうもこれは静葉さんらしい。
つまり、一緒の布団で穣子が、横にもう一組の布団を敷いて静葉さんが寝ていると言うことだ。
はて何故このようになっているのか、と思い揺り起こそうとするが、随分気持ちよさそうに寝込んでいるので、些か気が引ける。
ではどうしよう、巻いて二柱とも押入れにでもしまってみようか、と穣子の顔を見ながら考えているとじきに穣子が目を覚ました。
その時ちょうど左右どちらの頬が柔いかを試していたので、寝起きで驚き恥ずかしがるという大分珍しい表情を見ることが出来た。


さて静葉さんも起こし、何故此処にいるのか問うと、この間の干し果物が出来上がったので届けに来たという。
土間を見ると干し柿やらなにやらが堆く積まれている。
だが聞きたいのはそれではなく、何故横で眠っていたのかだと言うと、早い時間に出てきたので眠かったと言われた。
そうだろう、それはよく分かる。しかし挟まれていた理由が分からない。姉妹一緒の布団でいいだろう。
しかしそれを言う前に静葉さんに、そんなことはどうでもいいじゃないと言われた。
成る程確かにどうでもいい。では気にしないようにしよう。
それより今の問題は朝食が足りないと言うことだ。面倒なので夕以外は専ら洋餅を食べるが手持ちは足りず、米も炊いていない。
また倉庫も満杯であり、最近よく来る神物がいるので客間に置くわけにも行かずで、干し果物をしまう場所も無い。
二進も三進も行かぬ状況だが取り敢えずは茶でも出しておこう。茶菓子は届けられた干し杏と炙った干し芋でいいだろう。

だが乾物も随分な量を持ってきたものだが、どの程度の分量をこちらに振り分けたのかと訊いてみた。
するとどうにも四割ほどを持ってきたらしい。
さて四割でこれなら全体でどれだけ干していたのだろうか、庭にあったときはこれだけの量ではなかったはずである。
やはり不適当と入っても自宅で干せるものは干していたのか、それとも別個にまた用地を確保していたか。考えても詮無い事か。
若干量が増えていやしないかと訊いたが、そんなことはない食べる者が増えたのだから妥当だろうと言われた。
横を見て、そういえば米は先月一斗買っていたのを思い出す。
これだけあれば二月三月は持ったのに一月少しで無くなるとは、確かに食べる者が増えている。
隣でその分食べる物が増えているじゃないかという声が上がる。自分の目を気にしてのことか。
しかし、言ってはいないが自分は芋はあまり好きではない。だのに芋ばかり持ってこられても困る。

さて、出した甘味の粗方を食い尽くしたところで朝食をどうするか訊いてみる。
穣子に何かあるのかと言われたが、特になにも無いと返す。
なら訊くなと怒られたが、それは礼儀として訊かないわけにもいくるまい。
相も変わらず朝食を食べていないのかなどと、穣子に小言を言われるが、右から左に受け流す。
別段食べていないわけではないのだ。ただ正午過ぎまでずれ込んでいるだけなのだ。
それを言ったら更に怒られた。しかし横を見ると静葉さんがくすくすと笑っている。
なんぞ可笑しいところでもあったかと思うが、別段思い返してもそのようなところは見当たらない。
穣子と顔を見合わせていると、お似合いの夫婦だと言われた。
全体怒られているのに何故そのような発想になるのか理解できないが、褒められているらしいので良しとする。
見るまでもないことだが、穣子はやはり顔を赤くしていた。夫婦と言う言葉に反応してのことだろう。
最近昼間は始終ここにいるのだから、夫婦扱いされたところで大したこともあるまいに。
むしろこちらはいい加減半端はやめて嫁に来て欲しいがなかなか首を縦に振ってはもらえない。
周りの住人も特に問題なく受け入れているのだから、神と人の結婚などどうでもいいだろうに。
そも妖怪が問題なく里にいる現状、神が住み着いたところで文句の出ようはずも無い。

取りとめもなくそんなことを考えていると静葉さんが帰ろうとしていた。
何故かと問うと、彼女は一言眠いと返し玄関から出て行った。実に尤もなことである。
穣子もひどく眠たげで、自分がいるから意地で起きているといった風である。
なのでちょっとした悪戯を決行する。
まずは仕事に出かける。穣子は朝食を食えと言って来るが腹が重くなるのは嫌なので無視する。
仕事場に着いたらいくらか機械と装置の稼動状況の点検をし、休業の立て札をして自宅に帰る。
冬場は川の水が少なく発電機が動かせないため、開店休業状態なので休んでも問題ない。
部屋の様子を盗み見ると、案の定穣子は幸せそうに布団に包まって眠っていた。
それを起こさないように、ゆっくり慎重に布団の中に入りこむ。
あとは本でも読みながら起きそうになるのを待ち、その時に腕枕をしておこう。
果たしてどのような表情をするか今から楽しみである。

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最終更新:2010年05月09日 21:46