受容者たち
―――グッモーニン・ヘヴン!ジョーンズニュースの時間がやってきました!
―――早速ですが悲しいお知らせです。昨夜、聖ジョーンズ記念タワーが何者かによって破壊され―――
―――「全滅!だぞ!何をやっていた!」「はい」「一機の所属不明機に?居眠りでもしていたのか貴様の部隊は!」「はい」
―――万凱山の麓から中継でお送りします。世界遺産オー・キニ寺院の倒壊現場です!目撃者の証言によればアームヘッド・・・
―――船を襲われたというカッパ漁師の方にお話を伺ってみましょう。「あんりゃあ、どでけえ、天狗だったな」
―――はい、これがその現場で撮影された・・・あっ(しばらくお待ちください)絶対正義セイギマン再放送!
―――当研究所は一切関与しておりません。犯行アームヘッドはセイントメシアでは御座いません。
黒い悪魔じみた無人アームヘッド・イヴィレンデシアは、誰の目にもつかないであろう高度の上空を飛行していた。
”なぁ~~、われわれぇ~、こんなんでいいのかよぉ~?”
”何を言う 我々は世界を呪ったあの日、いずれ世を終焉に導かんと誓ったであろう”
”でもよぉ~~、この世界、ど~もワレワレの世界たぁちげぇみてえだぜ~?
だいたい分からねーことが多すぎんだろうがよぉ~、なんであんな、得体の知れない生物が、
ワレワレにへんな体を作って復活させたりすんだよぉ、この世界が終わっちまったらなんも分からんままだぜ?
そーゆーの、気になったりしねぇのかよぉ~”
”黙れ!我々が何故封印されたか忘れたのか?
貴様の余計な好奇心が起こしたことだろうが!!”
”・・・アタイもそう思う。折角復活して壊しまわるだけってのもね・・・飽きるわ”
”お前さんは前々から真面目すぎるんじゃ、その義務感はさすが、元トーアじゃよ”
”止めろ、捨てた過去だ。我々は何としても、世界を終わらせるのだ”
”ククク・・・”
”グルルルル・・・”
”・・・・・・・・・・・”
イヴィレンデシアの独り言は、自問自答、コアに宿る7つの意思の間で行われる会話だ。
そして終世主は、宛てのない破壊の旅を再開すべく、足元の雲海に向け加速した。
”・・・・・・なぁ~~、こいつぅ?今までのやつらとちげくね~か?”
深い霧の中にイヴィレンデシアは居た。
そして何かと戦っている。
あらゆる方向から、巨大なペンチのついた腕が襲いくるのだ。
いきさつは単純だ。
荒野に目立つ巨大建造物を見かけたので、破壊するために襲い掛かったところ、
突然周囲が霧に覆われ、謎めいた機械が数機、待っていたかのように包囲攻撃を始めたのだ。
背後から迫るペンチアームを鎌で一閃するイヴィレンデシア。
隙をつき別のアームが伸びるが、全身のホーンの刃で斬り飛ばす。
この世界の敵など・・・かつてに比べ手ぬるいものだ。イヴィレンデシアは猛進し、霧中に隠れる機械に鎌を突き刺す。
しかしその時だ。撃破した機体は爆発と同時に一斉に何かをばら撒いた。
微細な針はイヴィレンデシアの全身に鋭く突き刺さる。
”何だ・・・・・・?”
徐々に重くなる身体。残骸に刺さった鎌さえも抜くことが出来なくなった。
その間に無数のペンチアームが、イヴィレンデシアの各関節を挟み込む。
終世主は脱するためにもがくが、挟まれたペンチからも注射針が伸び、やがて完全に麻痺した。
イヴィレンデシアの意識が戻ると、そこにはアームヘッドとして初めて目覚めた場所に似た景色があった。
しかしあの格納庫よりは何段階か狭いし暗い。
「目覚めたかエンデシア君」
正面の暗がりからは、黒い白衣を着た謎めいた人間が現れた。
イヴィレンデシアの身体はやはり、壁から生えたペンチに関節を挟まれ固定されていた。
「近頃世間を騒がせているのは君たちだろう?」
”何故我々の言葉を知っている?”
アームヘッドは冷たい声で返した。
「通じるのか練習した甲斐があったよ」
謎の男は無感情で言葉を区切らぬ早口で喋る。
「まあテレパシーが使えるならそれで良いがね」
”他の連中とは少し違うようだな。何だ貴様は?”
「私はセツザ・グウィンガム。しかし人間だ」
”何故我々の邪魔をする?”「君たちは何故破壊行為を行う?」
質問は同時だ。
”世界を終焉に導く。永い間この時を待っていた”
「私が君たちを連れてきたのは邪魔をする為じゃないむしろ助けたいと思った」
”助ける?救いなど・・・・・・”
「君たちはこの世界について何も知らない、故にただ破壊するだけというのは無意味には思えないか」
”フン、意味など・・・・・・”
”ああ~、気になるっすねえ~~、この世界の事”
イヴィレンデシアの第二人格がしゃしゃり出た。
「では簡単に言わせてもらおうこの惑星の名はヘヴン恐らく聞き覚えは無いだろう。
今現在の知的生命体状況は私たち人間が世界各地で社会を構成し生活しているというのが特筆すべき点だ」
”・・・・・・我々の世界では、貴様らと同じ役割を持つだろう民がいた。だがそれらは我々の奴隷にすぎぬ存在。
しかし見る限りこの世界には支配種族がいないように思える。何故奴隷が台頭する?貴様らは何に仕え営む存在なのだ?”
「・・・支配種族・・・・・・なるほど君たちは噂に聞くマクータ族の眷属か何かか?」
イヴィレンデシアはその質問に警戒した。
この得体の知れぬ人間は、何かを聞き出す為に捕えたに違いない。
しかしそれを知ったところでどうするのか?終世主には見当もつかない。
「・・・・・・すまないな説明に戻ろう人間たちが君たちの力をアームヘッドという形で借りるようになったのは最近の事だ。
まだ推測の段階ではあるが君たちは私たちから見て太古の時代の存在だ有識者はバイオニクルと呼ぶがね。
つまり恐らく現在は君たちにとっての遥か未来だアームヘッドによってようやく悠久の魂に仮初の肉体を与えることが出来た」
”我々を蘇らせてどうする?”
「一般的には戦争に用いる武器として扱う人間に比べ君たちは余りに強力だからしかし君たちのように意思が完全に残っている者は稀だ。
つまり力無き人間こそが支配種族でアームヘッドを兵として従えているのが大半の現状に近いと言えるな」
”なんかなっとくいかねえな”
「話が逸れたがつまりはアームヘッドとして生きるより人間として生きる方が易しい世界であるということだ」
”何が言いたい?”
”助けるっつーのはなんだったんだ?”
イヴィレンデシアの二つの声。
「世界を終わらせる前にこのヘブンを人間社会を覗いてみるのも一興ではないかという提案だ。
無論その為の手段も講じてある。・・・私が早急に世界を破壊されては困るからというのも否定できんがね」
セツザ・グウィンガムの心中は平静そのものだが、冷たい声を聴いて身体は本能的に冷や汗をかいていた。
”何を勝手な事を 貴様何を企んで・・・”
”ああ~、面白そうっすねえ~、奴隷体験!すげえ興味あるっすよぉ~”
”アタイもそう思う。時間は幾らだってあるんだし”
”そうじゃ。多少寄り道したところで世界は逃げんよ”
”ヒヒヒ・・・”
”・・・グルルルルニャン”
”・・・・・・・・・”
”貴様ら・・・・・・!!”
”おっと~、1対6の多数決でもう決まりだぜ~?
・・・・・・で、どうやってワレワレを人間にするわけだ?”
「賢明な判断だしかしその前に一つ私の要求に答えてもらいたいそれが私の目的の答えとさせてもらおう。
知りたい事があるのだ君たちなら解ると思ってね、何君たちの正体を詮索するような質問ではないはずだ」
”フン、事によっては応じてやろう”
イヴィレンデシアが答えるとセツザは片手を上げた。
すると案山子を思わせる覆面をした女が二人、大型の台車を押しながら現れた。
台車の一つには檻が乗っており、そこには奇怪な卵のような球体が入っていた。
もう一つの台車で運ばれるのは水槽で、中では何かが暴れまわっている。
「これらはこの世界の遺跡に保管されていたものだ。何なのか知っていたらご教授願いたい」
”・・・・・・まあ良かろう。暴れている方は我々の世界にもいた、
吸血イカの幼体だ。海中に住処を置く者は主に武器として用いていた”
”もう一方はシャドウ・リーチじゃな。敵の光を吸い闇の者に堕落させる武器じゃ。そいつらはクラータいわばワシらの・・・”
”そこまでだ。この人間は遠回しに我々の事も探ろうとしている。
必要以上は教えるな・・・・・・後は自力で調べるがいい。命の保証は出来んがな”
「情報提供に感謝するこれらが君たちの時代の物だと分かっただけでも充分だ。
さてそれでは私が与える番だ・・・・・・」
セツザが言うと、二人の案山子女は台車と共に闇に消え、しばらくして揃って歩いてきた。
二人の間には人間・・・・・・のような者がおり、背中を押されながら進んできた。
その謎の人物は、中性的な身体特徴に、上下黒ジャージで、更には肌が灰色という全く謎めいた存在であった。
「・・・・・・これは私が以前制作に挑んだアームヘッドもとい人間型ファントムだいや決して失敗作ではない」
セツザが言う。
”アームヘッド?確かに微弱だが感じる。だがこの意思無き人形で、我々にどうしろというのだ?”
「これに使用したアームコアは最低レベルであり確かに意思はない。
それ故に君たちの強力な思念によってコアを縛り同期させれば手足のように操ることも可能だろう」
”ほぉ~、身代わりで操り人形ってなわけかあ?”
「見た目に難はあるが人間型の分身がいれば人間社会を覗きやすいだろうコクピットに乗せれば戦闘でも強さが倍化する。
それでは試しに動かしてみたまえ」
”・・・フン・・・・・・”
”どうするの?”
”どうすんじゃ?”
”おれに任せろ!!!!”
「・・・・・・遠藤です」
”やったぜ”
”おおお!?”
”え?どうやったのよ!”
”・・・・・・フン・・・”
「上手くいったようだなこれを使ってこの世界を楽しんでみるといい」
セツザが言うとイヴィレンデシアの全身の拘束が解かれた。
着地したイヴィレンデシアは背を向けコクピットハッチを開放する。
黒ジャージの人間型ファントムは、終世主の導くままにそのコクピットへと歩いていく。
操り人形を積んだ無人アームヘッドはハッチを閉じセツザを見下ろした。
「さてそれでは出口に案内・・・・・・」
セツザが言いかけ背を向けようとしたその時、イヴィレンデシアの眼が怪しく光った。
”ごきょーりょくにかんしゃするぜニンゲン!!じゃ~な~!!”
悪魔は壁に掛けてあった鎌を手に取って振り回す、血の刃で天井を破壊した!
「くっ!?」
「セツザ様!!」
左右の扉からペンチアームの謎マシンが飛び出し、セツザを瓦礫から防御する。
「遠藤です」
イヴィレンデシアは格納庫を破壊しながら空へと浮かび上がる。
「・・・このヘヴンを存分に満喫したまえエンデシア君!・・・」
セツザはそれを睨み上げながら言った。
やがて終世主は上空から世界を見渡すと、セツザには目もくれず何処かへと飛び去った。
「遠藤です」
END
最終更新:2013年12月11日 21:36