エロパロ > 名無し > 日向×ユイ > 2

「…ん?」
目を覚ます。
「あれ?ここは…どこだ?」
おかしい。確か俺は…
「交通事故で、死んで…あの世界に…」
行ったはず。確かに。夢じゃない。記憶もある。
なのに…なんで、なんで、
「病院にいるんだ…?」
保健室じゃない。れっきとした病院だ。
それを証拠に、目の前には医者が…医者?
「目を覚ましたようです。信じられない…」
目を?覚ました?それは…
「生き返った…のか?まさか、そんな…」
何故?あの世界には死んだ奴しかいけないはず。
待て。落ち着け。昨日の行動を振り返ってみよう。
昨日は…そうだ。ユイに…あれ?
思い出せない。音無とユイが野球やってて、やり残したことがあるとか言ってて…
「駄目だ。思い出せねぇ。」
一番肝心な部分だけすっぽりと抜けている。
「…眠い。もう一眠りするか。」
もしかしたら、これが夢なのかもしれない。
目が覚めたら、またあの世界に…なんてこともあるかもしれない。


…結論として、目を覚ましても変わらなかった。
むしろ次起きたときには親が来ていて、俺の復活に泣いて喜んでくれて、
いっそう元の世界に戻ったことを痛感させられた。
もうあいつらと会えないのか…そう思うと、自分が生き返った喜びよりも虚しさのほうが強かった。
「なぁ…俺ってどのくらい眠ってたんだ?」
傍に居る母親に聞く。
「1週間くらいね。本当に死ぬかと思ったんだから…!」
「それはもうわかったって。こうして生きてるんだし、頭以外に悪いところはないらしいし、いいじゃねえかよ。」
「そんなこと言ったって…」
「ま、あと3週間で退院できて今までと変わらない生活送れるんだろ?それならもういいさ。」
「あんたねぇ…」
それはそうと、先輩から貰ったあの薬、どうしたんだっけな。
使った…はずなんだけど、使ってたら医者は気づくよなぁ…
一応ズボンのポケットやバッグも漁ってみたが、それと思しき物はなかった。
家族にも何かなかったか聞いてみても、薬の話は出てこなかった。


3週間後、俺は後遺症も何もなく退院でき、復学した。
野球部でも、流石に元の関係には戻れなかったが、復帰は出来た。
今回のエラーがあってから、俺はいっそう練習に打ち込んだ。
もうあんなことは二度としない。
どんなに辛くても、諦めたくても、集中を欠かない。
そう思って、毎日最初に練習を始め、最後まで練習を続けた。
次第に、俺は信頼を少しではあるが取り戻していった。
だが、いつか行った、あの世界の記憶は段々と失われていった。

それから時が流れ、3年の5月、ある練習試合が決まった。
相手はあまり有名な学校ではないが、油断は出来ない。
俺たちは気を引き締め、試合場へ向かった。


試合場、といっても、小さな学校、小さな校庭。
ただの練習試合。別段何も思うことはなく、試合は始まった。


相手は、強かった。
何故無名なのかわからないほどの強さ。
何よりもチームワークが凄い。
お互い一歩も引かない試合展開で、3-4で最終回に突入した。
相手のエラーで、ランナーが出る。
打順は4番。俺の番だった。
1アウト2ストライク。
俺が打たなきゃ負ける。
次の球は、カーブと予想。
相手が投げる。読み通りだ。
軌道に合わせ打ったボールは、フェンスを越えどこまでも飛んでいった。

「…やばくね?」

誰かが言った。その後、パリーンと、不吉な音が聞こえた気がした。



「本っっっっっ当に、すいません!」
兎に角平謝り。これ以外の手などありはしない。
幸いにも、向こうのお母さんはいい人で、
「そんなに謝らなくてもいいのよ。」と言ってくれた。
「でもねぇ…ちょっと、来た位置が、悪かったというか…」
「え?」
「まあまあ、とりあえずあがって下さい。」
「はぁ…」

二階に上がると、割れた窓が見えた。
ここに入ったのか…なんて思いながら、視線を下にずらす。
そこには…
「大丈夫?ユイ。」
見覚えのあるような、奴が居た。


「本っっっっっ当に、すいませんでした!」
再び平謝り。
「だからもういいってば。ちょっとびっくりしただけだし。」
「でもよ、もうちょっとずれてたら危なかったろ?」
「それはそうだけど…」
なんとか許してもらえたようだ。
名前はユイと言うらしい。
話してみるとなかなか面白い奴で、すぐに打ち解けられた。
幼い頃に事故に遭って、それ以降身体が動かないらしい。


気づけば、1時間が経っていた。
「やっべ。もう戻らないと。」
「そうなの?」
「ああ。これ以上遅くなると監督にどやされる。」
「そうなんだ…」
そう呟いたユイの声は、なんだか寂しそうに聞こえて、
「また、来るからよ。」
思わず、そう呟いていた。
「え?」
「だから、また来るって。お前、寝たきりなんだろ。今まで話す奴とかいなかったんだろ。だから、俺が話し相手になってやるよ。電話番号教えるから、もしまた話したくなったら呼んでくれ。」
「本当…?」
「本当だよ。」
「わかった…じゃあ、またね。」
「おう。またな。」
そう言って、家を出た。
ま、どちらにしろ監督には怒られるだろうけどな。


それから、俺はユイの家によく行くようになった。
他愛のない話しかしなかったが、楽しかった。
ある日、ユイの母親に尋ねてみた。
「俺、あいつの介護、手伝ってもいいですか?」
「え…」
「俺、あいつの力になってやりたいんです。ずっと家で寝たきりで、したいこととか、全部出来なくて。でも、それを、せめて、埋めてやりたいんです。その為に、あいつの介護を、してやりたいんです…」
「勿論いいわよ。寧ろこっちからお願いしたいくらいだったの。そっちさえよければ…って思ってね。ユイにも提案してみたら、あの子、喜んでたわ。」
「本当ですか!」
「でも、条件が一つだけあるの。聞いてくれる?」
「いいですよ。何でも言ってください。」
「絶対に、ユイを悲しませないで。要は、野球を続けて。あの子、貴方が野球してる話をしてるときが、一番楽しそうなのよ。」
「わかりました。お安い御用です。」
「じゃあ、ユイに言ってあげて。」
「嫌がられたり、しませんか?」
「絶対に喜ぶわ。誓います。」
「そういってもらえると気分が落ち着きます。」
そういい残して、ユイの所に向かった。


「え?明日から日向さんが介護手伝ってくれるの?」
「ああ。嫌か?」
「全然!寧ろ大歓迎だよ!」
「何やりゃいいか初めはわからなくて苦労するかもしれないぜ?」
「それでもだよ。あ、でも…お母さんには、迷惑かけないで欲しいな。」
「任せろ。約束する。」
「よかった。」

次の日から、きつい毎日が始まった。
学校→部活→介護
正直疲れるなんてレベルじゃない。
第一に、理不尽に課される宿題が終わらない。
第二に、部の練習量は変わらない。
第三に、介護は思っていた3倍きつかった。
休日はまだしも、平日をこの暮らしは過労死する。
よってユイの家で寝ちまうことも多かった。
だが、肉体の疲労とは正反対に毎日は充実していた。
正直に言おう。俺はユイのことが好きだった。
あいつがいるから、俺は挫けそうな日々を耐えられた。
あいつがいるから、俺は野球を続けられた。
あいつには俺が必要なのかもしれないが、俺にとってもあいつは必要な存在だ。

「なあ。」
車椅子を押しながらユイに聞く。
「なに?」
「今度、試合見に来いよ。」
「見に行ってもいいの?」
「当たり前だろ。俺が招待してるんだから。」
「でも、私体動かないよ?」
「関係ねぇだろ。俺が特等席を用意してやるから安心しろ。」
「本当に…いいの…?」
「ああ。次の試合決まったら教えるから、待ってろ。」
「うん!」
その日はよく晴れた、初夏の日だった。
俺は嬉しくて叫びそうだったが、今は我慢だ。
それは試合がおわってからするべきだろう。


誰だ。あいつは。
何で追ってくる。
誰だ。
見覚えがあるような…いや、あるわけがない。
あんな女は知らない。
知らない…はずだ。
逃げよう。それがいいと身体が言っている。
幸い向こうは車椅子だ。――車椅子?

――――おかしい。
こんなはずはない。
今は夜だ。道は見えにくい。
おまけにわざわざわかりにくい道を選んでいる。
加えて車椅子だ。動きは遅い。
だってのに、なんで、
「なんで、追ってくるんだよ…!?」
全く振り切れる気がしない。
逃げても逃げても、「ヤツ」は追ってくる。
「くそっ…」
仕方がない。こうなったら…

――――行き止まりだ。
覚悟を決めよう。
俺は物陰に隠れ、「ヤツ」の来訪を待った。

「日向さん?落ち着いてください。怪しい者ではないです…キャッ!?」
俺は「ヤツ」に襲い掛かった。

「コト」が終わり、俺は横たわっている少女をそのままにし、その場から逃げた。
大通りに出ると、ライトで照らされる。
嫌な予感がし、後ろを振り向くと、突っ込んでくるトラックが見えた。
「…へっ。だよなぁ。こんな俺には、相応の結末だよ。」
そう呟き、避けられたかもしれない「それ」を、俺は避けなかった。


「…はっ!?」
目が覚める。体は汗だく。
「今のは…絶対に夢じゃない。」
何故か確信した。そして、今見たものの内容を、完全に理解した。
あれは、記憶がない、エラーを起こしてから事故に遭うまでの、俺の一連の行動だ。
薬を使った後、俺は疑心暗鬼に襲われた。
そして恐らく俺のことを知っていたのであろうユイが、俺を心配して俺のところに来たのだろう。
よく考えればあそこは一本道だ。錯乱していて道がいくつにも見えたんだろう。
本当に走っていたのかも定かじゃない。
後ろではユイの母親が押していて、怯えて逃げていく俺を心配して追ってきてくれたんだろう。
それを俺は勘違いをし、本当に恐怖に襲われた。
そして行き止まりで隠れ、ユイに襲い掛かり、犯した。
これは事実だ。俺の起こした過去だ。
今更変えようはない。
「くそ…」
それなのに、いくら記憶がないとはいえ、そいつ自身の家に行った。
向こうは恐怖だっただろう。
急に襲われ、処女を奪われ、その張本人が家に来たんだ。
その恐怖は計り知れたものではない。
「なんてことをしてんだ…俺は…っ!」
壁に頭をぶつける。それこそ何度も。
ガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガン…
「あんた!なにやってんの!?」
途中で母親に止められなければ、俺は死ぬまで続けていただろう。

「あ!日向さん!」
それでも俺は、ユイの家に向かった。
謝らなくてはならない。
例え取り返しのつかないことだろうとも。
「あれ?どうかしたの?」
「本当に申し訳なかった。」
「え?な…なによいきなり。」
「俺…ここに来る前、お前に一回会ってるだろ。最悪の形で。」
「え…。」
ユイの顔が驚愕に変わる。
「前、確か話したよな。事故に遭う前後の記憶がないって。それを、思い出したんだよ。」
「嘘…なんで、よりによって、今なの?なんで、今思い出すの?」
「今日の朝、夢で見たんだ。」
「なんでよ…せっかく…なんで…」
「お前、怖かったろ?急に俺が来て。お前を犯し、処女を奪った俺が。」
「…」
「そんな俺が、毎日お前の家に通い、介護まで始めて。厚かましいにも程があるよな。ほんと。最低だ…最低。」
「そんなこと…」
「嘘だろ。」
「っ…!」
「怖くないはずがないだろ。もし俺が逆の立場だったら、怖い。出来れば二度と会いたくない。いつ俺がおかしくなって、お前に襲い掛かるかもわからない。それが怖くないはずがねえだろ!」
「そんなことないよ!本当だよ!確かに初めは怖かったけど、話してると楽しくて、暖かくなって。もっともっと話していたいなと思ったんだよ!また来てくれるって言ってくれて…凄く嬉しかった!
前から知ってた!日向さんのこと!偶然見た地方テレビの野球の試合で、野球をやってた日向さんを見て、かっこいいなと思った!近くに住んでいるのがわかって、嬉しかった!出来れば会ってみたいなって、そう思った!」
「え…」
「ずっと前から、日向さんは私を知らなかっただろうけど、私はずっと好きだった!野球してて、打ったり捕ったりしてる日向さんを見て、恋をしてた!
身体が動かないから、会えないけど。でも、会ったこともないあなたに、私はずっと惚れてたんだよ!前に何があったって、例え偶然でも、日向さんが家に来てくれた時、恐怖なんかより嬉しさのほうが全然上だった!
ずっとあこがれてた、あの人に会えて、すっごく嬉しかった!話してくれて、介護までしてくれて!一緒に出かけて…
日向さんはどうかわからないけど、私にとっては、夢のような生活だった!ずっとずっと、続けていたいと思ってたのに…別に、もう気にしてないのに…なんで、なんで今思い出すの!?
それを思い出したら、あなたは私に遠慮をして、話さなくなっちゃうかもしれない。現に、それを思い出してまで家に来たのは、もう来ないからって、そう言うつもりだったんでしょ!?
私にとっては、それは、一番嫌な言葉なんだよ!あなたにだけは、絶対に言ってほしくなかった言葉なんだよ…!」
「ユイ…」
「あれだって、別に嫌じゃなかった!無理矢理だったし、そっちは覚えてなかったし、痛かったし、全然幸せなんかじゃなかったけど、それを思い出して恐怖に駆られるとか、そんなことは全然なかった!
日向さんのことが嫌いになるとか、そんなこと全然なかった!本当なんだよ…!」
「でもよ…だって俺、お前を汚しただろ?そんなの、俺自身が一番…」
「このまま日向さんが来なくなったら、その方が私は嫌だよ。来たくなくなったのなら、止めないよ。仕方ないもん。日向さんの人生は日向さん自身がきめるべきだよ。」
「…んなわけ、ねえ。
俺だって、お前のことが好きなんだ!好きで好きで、たまらないんだよ!
出来ることなら、このままこの生活を続けたい!
辛いけど、苦しいけど、お前の笑顔を見れば続けられる!
だから、お前の笑顔を壊すようなことだけは絶対にしたくなかった…!だから…!」
「だったら、このまま続けよう?私…本当に、本当にもう気にしてないんだよ。」
「本当に…いいのか…?」
「うん!」
「そうか…なら、明日からもここへ通い続ける。それが最もお前のためになるんだろ?」
「うん…ありがと。」
「バカ。礼を言うのはこっちのほうだよ。」
本当にそうだ。助けられてばっかしだな俺。
その日は、ユイの家に泊まった。


朝。
「…おい。ユイ?」
起きない。昨日の夜で疲れたのか?
「おい…起きろよ。ユイ。」
体をゆする。起きない。
何かがおかしい。いくらなんでも、流石に起きるだろフツー。
そう思ってじっくりみてみると、ユイの体は真っ青だった。


「ユイは…どうなんですか?」
「大丈夫です。一時的な感情の高ぶりによる貧血みたいなものでしょう。一応少しの間入院していただきますが、心配は要りません。」
「よかった…」
恐らく、昨日の言い争いのせいだろう。
それか、夜のことか…アレは、関係ないと思いたい。うん。


「こんにちは。ここで研修をしている音無です。退院までの間、私がユイさんの担当医をさせていただきます。」
「あ、ハイ。よろしくお願いします。」
どう見ても俺と同じか1つ上くらいの奴が担当だった。変な気起こさないだろうな?
「その点は心配要りませんよ。大丈夫です。」
「だといいですけどねぇ。」
「僕には別に恋人が居ますので。人の恋人には手を出しませんよ。」
こいつとは、どうやら仲良くなれそうだ。


4日後、ユイは無事退院し、普段どおりの生活に戻った。
あれ以降、音無は休みの日を見つけて家に来るようになり、(銀髪の女が一緒に居て少し安心した)介護を手伝ってくれるようになった。

そして、2年が過ぎた。
高校を卒業した俺は、大学には行かず、プロ野球選手となり、金を貯めている。
何に使うかって?決まっているだろう。
夏の甲子園の後、俺は優勝トロフィーを持って恋人たちのところへ向かった。
「すごかったよ!日向さん。」
「だろ。みたか!?最後の俺のホームラン。あれが決勝点だぜ!」
「うん!凄くかっこよかった。」
「俺も見てたぜ日向。凄かったじゃないか。やる時はやるんだな。オマエ。」
「一言余計だ音無。だが、ありがとよ。」
「私も見てた。すごいんだね。日向さん。」
「惚れたりしたら駄目だよ奏ちゃん!日向さんは私の彼氏なんだから!」
「そうだぞ奏。オマエは俺の彼女なんだからな。」
「お前らな…」
笑いながら歩く。勿論、ユイの車椅子を押してあげながら。
「こりゃドラフト3位以内は堅いだろうな。」
「これで全く選ばれなかったら泣くぜ?俺。」
「全くだ。そのときオマエは、泣いていい。」
「結弦。帰り道こっちだよ。」
「本当だ。じゃあな。日向。ユイ。」
「ああ。またな。」
「またねー!」
音無たちと別れ、帰路に着く。
「…」
「…」
無言が続く。
言う言葉は既に決まっている。
優勝出来ようが出来まいが、言うと決めていた言葉だ。
覚悟を決める。
「なあ。ユイ。」
「何?」
「結婚しよう。」
「え…?」
「だから、結婚しよう。プロになれば、金も貯まる。一生お前を守ってやれる。
金を貯めて、結婚資金に当てる。だから、…結婚しよう。」
「本当に…いいの?」
「こっちから誘ってんだ。いいも悪いもあるか。」
「それもそうだね…えへへ。」
ユイの顔は真っ赤だ。きっと俺もだろうが。
その時、前に、同じようなことがあったのを思い出した。
野球場で、音無と、ユイがいて。
ユイは体が動いて。野球をしてて。
やり残したことがないか聞かれてて。
ユイは、確か、
「結婚。」
と、そういっていた気がする。
音無には既に別に好きな奴が居て。
だから、その願いはかなえられなくて。
俺が出て行って、こう言ったんだよな。
「俺が結婚してやんよ!」
それは、起こり得ない奇跡によって、実現した。
これからも、俺はユイを守り続ける。
この笑顔が、変わることがないように。
いつまでも。いつまでも…

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最終更新:2010年06月10日 02:54