2つのラプソディー ~serendipity~

~不二周助の場合~

誰もいないさびれた劇場で、思いのほか時間を費やした。

というのも、猫の『かたまり』が入っていたころから、ディパックが『容量無限大、無制限』だと気づいてしまったのがきっかけだ。
漫画みたいだと思ったけど、深く考えないことにした。
このディパックは、どんなに大きいものでも好きなだけ詰め込めるらしい。
そして、不二に支給された道具は、どれも使い勝手が悪かった。
それぞれ、使いようはある支給品だったけれど、身を守るのには向かないものだった。
ならせめてと、役に立ちそうなものがあれば、かたっぱしから現地調達して詰め込んでいくことにしたのだった。
とはいえ、劇場なのだから武器の類は期待できない。せいぜいで消火器レベル。
その他、舞台裏で見つけた描き割りなどの大道具を、とにかくあるだけ詰め込んだ。
誰かに襲われたら、ディパックのチャックを開けた状態で、投げつける。
上手くいけば、こぼれ出た大道具で敵を押しつぶせる。上手くいかなくても、目くらましぐらいにはなるだろう。
いくらディパックが軽いとはいえ、詰め込む作業はちょっとした重労働になった。

そういうわけで、今現在は劇場前のベンチに座って、休憩の時間を取っている。
膝の上にはかたまり。
右隣には、広げた地図。
左隣に置いたのは、もう一つの支給品である手提げぶくろ。
手提げ袋の中には、ふんわかしたシュークリームがたくさん入っていた。

もふ、と一個目をほおばる。
甘い。
そして、生クリームの中に溶けこんでいる『塩味』が、絶妙のアクセントになっている。
労働の後に食べる甘いお菓子は、美味しい。

「君も食べる?」

1個を差し出すと、かたまりは鼻先でシュークリームの匂いをふんふんと嗅いだ。
と思いきや、「フシャッ……!」と叫ぶや、激しい勢いで顔をそむけた。
かたまりは首をもたげ、まじまじと不二の顔を見上げる。

なー……?

猫言語の分からない不二だったが、まるで、『こんなものを食べられるなんてお前は正気なのか……?』と聞いているように見えた。
…………美味しいのに。

「いらないのか……じゃあ、ちょっと考えさせて。今後どうするかを決めるから」
なー。

会場の地図に目を落とす。

最終目標は脱出。
とはいえ、問題として『脱出の当てがまるでない』以上、当面は仲間探し優先で動くことになる。
そばにいるだけで何かと頼もしいチームメイトだし、何より脱出をする時には全員が揃っていないといけないのだから。
更に言うと、そこに『3人の誰かが殺されてしまう前に』という条件が加わる。
簡単には死にそうにないタフな面子だけれど、『死にそうにない』と『死なない』はイコールではない。
鍛えられたテニスプレイヤーだろうと、銃で撃たれたりすれば簡単に死ぬ。
あるいは、今この瞬間に、3人の誰かがもう――

……2個めのシュークリームをほおばった。
やっぱり美味しい。

――現実に起こってほしくない、仮定ではあった。
それが気がかりではあったものの、しかし急いて動くこともないと感じていた。
もちろん、『のんびりしている間にも、仲間が襲われているかもしれないんだぞ』と、
今の不二はそんなお叱りを受けても仕方がないのだろう。
ベンチに座って、のん気に支給された菓子を食べているのだから。
でも、むやみに歩きまわればいいというものでもないはずだ。
仮にたった今、越前手塚菊丸の誰かが襲われているとしても、
そこが『駈けつければ間に合う場所』だとは限らないのだし。
『あの時急いでいれば間に合ったのに』と後悔するのも御免だけれど、
『急げば間に合うかもしれないのに』という焦燥に囚われ、視野が狭くなるのはそれ以上にまずいだろう。
地図にあるエリアは全部で64。こんなに広い会場の端と端に飛ばされたら、合流するどころか距離を縮めるのも困難だろう。
間に合わないものは間に合わないのだろうから、命の責任は3人各自で持ってもらうしかない。

自問する。
こんな考え方をする不二は、冷淡だろうか。諦めが早いのだろうか。
自答する。
少し前の不二なら、そうだったかもしれない。

「いくら僕でも、命がかかってる時に『本気が出せない』ほど異常ではないだろうし」
なー?

己を皮肉るように呟くと、3個めのシュークリームを口にする。

こんな風に冷めた考え方ができるのも、過去の名残りかもしれない。
諦めが早かった。そもそも、諦めることを苦痛だとさえ思っていなかった頃の。

己の限界を勝手に決め付けて、気持ちを入れ込むことを避けていたのが、それまでの不二だった。
間に合わないものには間に合わない。
どんなに機敏に動けても、追いつけない打球は絶対にあり、追いつけなくても仕方がない。
ましてや、勝てそうにない試合を無理して勝ちにいき、そのせいで選手生命を危うくする必要なんてどこにもない。
怪我をしたら悪化する前に棄権すればいいのだし、そこで棄権したところで、誰からも責められる言われはない。
どうしてそこまで、勝ちにいきたいのかが分からない。
己の力量の無さを悲観して、諦めに慣れていたのではない。
むしろその逆。なまじ他人より器用で、さほど労せずに壁を越えてこられたから、そういう風になったのかもしれない。
負けて悔しいから次は勝つとか、そういう躓くべき場所で、躓くことができなかったから。
面白いことは好きだ。けれど、それだけ。
対戦相手が強ければもっと相手の能力を引き出したいと思うし、追い詰められるスリルを感じればわくわくする。
まるでゲーム感覚だった。そんな上から目線に、本物の情熱なんて宿るはずがない。
ゲームの対戦プレイに負けたところで、死ぬほど悔しいと思ったりしないように。
自分には、何もなかった。
もちろん、試合観戦中は仲間を応援したし、色々な選手と対戦するのはそれなりに楽しかった。
けれど、皆のように、絶対に全国制覇したいとか、もっと高みを目指したいとか、そんな向上心があったわけじゃなかった。
心の底から執着を覚える対象も、本気で打ちこみたい情熱も、守りたい誇りも、叶えたい願いも、手に入れたい喜びも、何も無かった。
データを読ませず、弱点や隙を晒せないのも、見抜かれることを恐れていた裏返しかもしれない。
あの雨の中の練習試合で指摘されたように、『本当の自分』と呼べるものなど、どこにもなかったのだ。

変化が起こったのは、きっと少しずつだった。
関東大会緒戦のシングルス1。
絶対に逃げない部長を見て、その強さの理由を知った。
初めて勝ちたいと思った、赤い目の男との試合。
自分にも、チームを大事に思う気持ちがあると分かった。
敗北の味を知った、白石との試合。
初めてだった。心の底から、悔しいと思うことができた。
青学テニス部で過ごした時間は、ちゃんと不二を変えてくれた。
越えられない壁には全力で悔しがり、這いつくばってでも勝ちを諦めず、涙を流せる世界の、なんて面白いことか。
ゲーム感覚で物事を楽しむだけだった自分が、叶えたい『願い』を持つことができるようになった。
願いは叶えることができたけれど、だからこそ、チームメイトの死という形で、その思い出を台無しにしたくない。

だから、こんな命の危機でも、平静でいられるのだろうと思う。
『命』を失うより、やっと手に入れた『自分』を失う方が怖いから。
青学テニス部に入るまでがそうだったように、『本当の自分』がなくても、きっとそれなりに幸せに生きていける。
けれど、それを『なくても生きていけるから失ってもいい』と考えるような自分は嫌だ。
どうして死にたくないのかを考えたら、『あの充実した時間を終わらせたくない』というのが一番に出てくるのだから。

それだけの冷静さを何に向けるかと言えば、まずは方針固めの時間。
焦らず、慌てず、腰を据えて。
でも、最後の最後まで諦めない。
『乗らない』と決めたからには、這いつくばってでも、痛い思いをしてでも、危険を冒してでも、最後まで貫く。

最後のシュークリームに手をのばし、空いた左手でかたまりをゴロゴロ撫でる。

間に合わないものは間に合わない。その上で、効率よく合流する方法を考えないといけない。
不二1人で、広い会場のどこかをうろついている3人の学生を探しだすなど、はっきり言って無理がある。
なら、どうするか。捜索の人手を増やすしかない。
つまり、他の参加者との接触を優先。もちろん、ゲームに乗っていない人で。

「そうなると人が集まりそうな場所ってことになるけど……この近くだと『デパート』か『警察署』かな」

デパートは食糧なんかを欲しがる人が訪れそうだし、警察署は警察署で、武器を欲しがる人が訪れそうだ。

「武器を欲しがる人……だからと言って『乗ってる』とは限らないけど……少なくとも越前たちが来ることはなさそうだね」

施設の魅力としてはどちらも捨てがたいけれど、『仲間の捜索』という目的を考慮すれば、目的地候補は絞られる。
テニスプレイヤーに拳銃の類は必要ない。
ラケット状の棒と、そこそこ頑丈なボールさえあれば、そちらの方がよほど頼りになる。
そうなると、スポーツショップがあるかもしれない、デパートの方が可能性濃厚か……。

「なー!」

かたまりが、それまでより大きな声で鳴いた。
むくりと起き上がり、じっと大通りの向こうを凝視。
三角形の耳が、ぐるぐるとパラボラアンテナのように動いている。

ひょいっと、膝から飛び降りた。
お前はどうする、と言いたげに、ちらっと振り向く。
その奇妙な動きに、もしや、と閃いた。
説明書に書かれていたことだ。
かたまりは、『魔法コード』というものを感じ取ることができる。
それが何なのかは説明がなかったけれど、『魔法』というからには、それを使う人間がいるのだろう。

「近くに誰かいるんだね?」
なー。

ちょっとだけ考える。
危険人物の可能性はあるか、どうか。
最後の1人を目指し殺す側に回る人物。間違いなくいるだろうと、不二は考えている。
一介の中学生とはいえ、テニス部の全国大会ともなれば、色々なプレイヤーと戦うことになる。
試合中に相手を傷つけることを躊躇わない、赤い目の危険な選手。
選手どころか顧問の教師にまで危害を加える、『殺し屋』を筆頭にしたチーム。
他人の悪意や敵意が想像できないほど、不二の経験は少なくなかった。

それでも、この場は接触を選ぶのが最善手だと思う。
先ほど、『協力者を探す』という方針を決めたばかりだ。
それなのに、最初の接触を避けてしまうのは、“流れ”としてよくない。
しっかりと覚悟を固め、動き出そうとしていた流れが、断ち切られてしまう。
一度の躊躇で、今後の動きに迷いが出てしまう。
テニスプレイヤーとしての“駆け引き”の考え方で、不二はそう判断する。

「よし、案内してくれるかな」
なー。

だから、かたまりの後を追った。



【天野遠子お手製のシュークリーム@〝文学少女〟シリーズ  全滅】


~七原秋也の場合~


支給品の確認をするだけの行為に、思いのほか時間を費やした。
なぜなら、その支給品は、普通の武器ではなかったから。

「なあ……これ、別に体に悪い影響とかないんだよな?」
「俺に聞かれても保証しかねる。さっきも言ったが、俺に『魔法』方面の知識はない」

こわごわと、背後で見学するアイズ・ラザフォードに確認を取る。
その冷たい表情に浮かぶのは、不可解そうな、頭の痛そうな顔。
それもそうだ。
『知り合いがある日突然、魔法の力を手に入れました』なんてことになったら、頭が痛いに決まってる。
ましてや、それを『殺し合いの参加者が使う武器』として支給されたなら。

……その困惑を見て、少し安心してしまう秋也は、やはりこの少年を信じたいのだろうと思う。
こんな状況だけれど、それでも人を信じていたい。
だから、『こいつも人間らしいところがあるんだ』と安心したいのだろう

結局、秋也はアイズ・ラザフォードと別れることを選ばなかった。

正直なところラザフォードへの不審は、まだぬぐい切れていない。

けれど、それでも1人で行動するよりはよほどマシだと思えてしまったのだ。
別に、怖いわけではない……と、思う。
いや、恐怖を抱いているのは本当だ。
人間の首が吹き飛ぶのを見せられたのだから。
けれど『恐いからおいていかないで』なんて理由で、信用できるか分からない人間について行くほど、人間として残念でもない。
けれど、『お前とは相いれないから別行動しよう』という展開になったとして、
じゃあそこから先は1人でどうしようと考えると、
悲しいことに何も予定が立たなかった。
殺し合いを止めなきゃいけないのは当然として、その為には人数が必要で、
それなのに最初の1人とあっさり別れてしまうのは愚行にしか思えず。
つまるところ、『アイズ・ラザフォードと別れたとして、
秋也1人でどうしようという当てもないから』という消極的理由が多くを占めていたのだ。

これが例えば『首に爆弾付きの首輪がまかれています』という状況なら、まだ行動方針も持てただろう。
もちろん秋也に爆弾を解体する技術などはないけれど、『爆弾を解体できれば助かる』という目標は設定できたのだから。
案外、三村信史や桐山和雄なら、ハッキングから起爆装置を破壊するような真似ができてしまうかもしれない。
けれど、ことは『呪いの刻印』だ。
どういう手順を踏めば助かるのか、さっぱり見えない。

そして、『魔法』という意味では、秋也がまさに『試し撃ち』せんとしている支給品も、また良く分からない代物だった。

例えば、それが『魔法のステッキ』なら、まだよかったのだ。
信じられない空想の産物だけれど、ただの学生の想像力の範疇にあるアイテムなのだから。
けれど、秋也が掲げた腕の先にあるアイテムは、なんと『魔法の携帯電話』だった。
魔法の名前を『剣のコード』というらしい。

説明書を2人で何度も読み返した限りでは、『携帯電話のアプリを動かすことで、素人でも魔法を実行することができる仕組み』らしかった。
攻撃用の強力な魔法コードだとか書かれていた。
どこにでもあるような携帯電話から、『強力な攻撃用の何か』が出てくるともなれば、身構えずにはいられない。

すぅ、と軽く深呼吸。
呼吸を整える必要などないけれど、これは気持ちの問題だ。
いつまでも逡巡していられない。
携帯電話のボタンを押すだけだ。人思いにやってしまおう。
説明書にはご丁寧に、『初心者用の精神集中をする為の呪文』まで書かれている。
どうもありがとう、俺みたいな初心者に気を使っていただいて。

携帯電話の先端を人がいない方に向けて、アプリのスイッチを押した。
説明書に習って、『呪文』とやらも唱えておく。

「剣と化せ、我がコード……ってうわっ!!」

色も形もなかった。音も、光も、熱もなかった。
ただ、体の中を、ビリビリと駆けぬける何かがあった。
そして、携帯電話をのばした腕の先から、空気が渦巻くように震動した。

一瞬で、その効果は眼に表れた。
携帯電話をのばした先にあったテーブルや椅子が、爆砕。
プラスチックの破片がばらばらばらと落ちて散らかった。
疲労感のような『しびれ』が、少し体に残った。

「…………」
「…………」

小さな携帯電話から生まれた、レーザー砲のような破壊の痕跡に、しばらく2人とも感想を持てなかった。
ごくり、と秋也ののどを鳴らす音だけがバーの店内に響く。

――これが、魔法?

同じ威力の『剣』が人間を貫けばどうなるか。
映像でイメージすれば、特撮アニメの怪人が倒されるシーンみたいになるに違いない。
ただし、飛び散る内蔵も、穴があいた人体の断面も規制されない、リアルな無修正映像で。

「なぁ……この携帯、使わない方が、いいんじゃないかな?」

人殺しの武器を支給された。
その理解が、秋也の認識にゆっくりと染みわたってゆく。
七原秋也は、人間の命を奪える手段を持っている。
それも、己には度が過ぎた強さの、ボタンひとつで人体に風穴をあける兵器を持っている。
使わないほうがいい。
ほとんど反射で、その言葉が口からこぼれていた。

「『殺さない覚悟』があるのなら、そうすべきだろうな」

ラザフォードは起伏にとぼしい声で言った。
難解な数式でも見たような険しい顔つきをしているものの、秋也と違って怯えや躊躇はない。
魔法という仕組み自体への戸惑いはあっても、殺人の道具を支給された恐れや嫌悪はなかった。

「殺さない覚悟……?」
「『殺す覚悟』が必要な時があるように、殺さない覚悟もまた必要だ。
『最悪は怒らない。この手で起こさせない』。それもまた覚悟だ……と、昔の仲間が言っていた」
「殺さない覚悟か……なんだかラザフォードさん、傭兵みたいだな。こういうことに慣れてる風に見える」
「ある意味、それに近いことはやっていた」

それ以上、ラザフォードは黙して語ろうとしなかった。
踏み込んで尋ねにくい空気が、ラザフォードの周りで密度を増す。

きっと、聞かない方がいいことなのだろう。
ラザフォードが言いたくないだけでなく、きっと秋也が聞きたくないような答えが帰って来るという、予感があった。
アイズ・ラザフォードはきっと外国の人間で、銃を当たり前に扱えるような環境で育っていて、もしかしたら、実際に撃ったことがあるのかもしれない。
そして、殺し合いを開いたあの『キヨタカ』の知り合いで、うかつに情報を漏らせば『数十人の首がとびかねない』ような場所で仕事をしていたのだ。

それと比較して、秋也はどれほど平和な生活をしていたことか。
おかしな政治体制を敷いている国に対する不満なら、山ほどあった。
それでも、毎日の衣食住には困らなかった。
殺す覚悟も、殺さない覚悟も必要なかった。
衣食住どころか、ギターを弾いたり、友人と釣りにでかけたり、やりたいことに没頭できるだけの時間も豊かさもあった。
スポーツでも音楽でも結果を出せるだけの技量に恵まれて、練習する時間もあって、
何かにつけて頼りになる友人には不自由せず、
失恋したけど、好きな女の人もいたりなんかして、
最近の好事は、親友の慶時に好きな女の子ができて、それを応援していることで、

心のどこかが、絶えず窮屈だと感じていた。
ろくでもない国に生まれたと、そう思っていた。
けれど、そんなおかしな国にいみじくも守られていた子ども時代の、どれほど満たされていたことか。
『プログラム』などという酷い催しもあったけれど、きっと秋也たちが当事者になることなんてない。
微々たる確率でしか引っかからない悪夢なのだから。

つまるところ、七原秋也の半生は、充分に幸せだったのだ。

「あんた……人を殺したこと、あるのか?」
「殺しに『慣れる』程度には、殺した。……やはり信用できないか?」
「いや……とにかく、今回、『乗るつもりがない』ならいい」

むしろ、ラザフォードの方こそ、秋也と同行するメリットがないのだ。
そのことに気づいてしまい、張りつめていた気持ちが緩む。
そして、どっと沈む。
ラザフォードはおそらく、『キヨタカ』とやらの因縁から殺し合いに反抗するのだろうし、
彼からすれば秋也は、『どうしてか巻き込まれている部外者』にしか見えないだろう。
秋也は本来、せいぜい『情報を引き出す相手』ぐらいの価値しかなかったのだろう。

……どうやら、沈黙が多いと人間はネガティブになるらしい。

あの城岩中学の中では、秋也はいわゆる『できる方』の側だった。
球技大会とか色んなイベントで、いつも何となく活躍を期待されて、気が付いたらクラスの中心の方に立っている、そんな立場。
けれど、ラザフォードのような人間からすれば、銃の取り扱いひとつにもオタオタするど素人に違いない。
そういう『できる人間』のそばに何となくくっついて、『できる人間』が打開しようとあれこれ考えるのを見守る。
それが自分の立ち位置なのかと思うと、半生で培われた無意識レベルの自信が、小さくなって消えてしまいそうだった。
探すべき仲間は、いる。
けれど、一人をのぞいてさほど親しくないクラスメート。
信用こそできるけれど、彼らが秋也の助けを求めるかというと、甚だ怪しい。そもそも、助けなど必要ないかもしれない。
相馬光子はともかく、三村も桐山も、秋也よりずっと上手くやれるだけの知識も能力も持ち合わせている。
この殺し合いの会場に、七原秋也の助けを必要としている人間など、いないのだ。
あるいは、最初に出会ったのがアイズ・ラザフォードではなく、例えば足を怪我している少女だったりしたら、違っていたのかもしれない。
守るべき人間がいれば、とにかくその人を『守ろう』とすることで、行動方針が明確になったのかもしれない。
けれど、そんな都合のよい『守られる少女』もいない。

できることがない。
それまでの人生で七原秋也を構成していたアイデンティティーが、殺し合いでは何の価値も持たない。

まるで、『本当の自分』が、なくなってしまったみたいだ。

恐ろしい本音が頭をよぎり、秋也は頬を叩いてその思考を振り払った。

いけない、こんなマイナス思考をするのはよくない。
生れつき楽天的なのが、七原秋也の取り柄だったはずなのに。
こんなことで、悲観してはダメだ。
生きて帰らないと、いけないんだから。
できることが少ないからといって、生きて帰ることを諦めていいはずがない。
帰るべき場所では、大切な人たちが待っている。

育て親の安西先生がいる。
親友の国信慶時がいる。
初恋の和美さんがいる。
修学旅行には参加し損ねたけど、文化祭も体育祭も待っている。
生きて再び、あの3年B組の日常に帰るんだ。


どうにか秋也がプラスの方向に持ち直した時だった。
ラザフォードが立ち上がり、流れるような動きで銃口をバーの入り口に固定した。


「そこにいる奴、武器を置いてゆっくり入ってこい。ドアの向こうにいることは分かっている」

秋也は全く気がつかなかった。
やはりプロの人間には、微かな気配を察知するスキルでもあるのだろうか。

ギギギ…………

ドアの向こうにいた誰かは、警告に従ってゆっくりゆっくりとドアを開けた。


なー。


まず、姿を現したのは猫だった。
その誰かが、肩にのせていたのだ。

真っ黒い猫を肩にのせた、糸目の少年だった。
少し長めのさらさらした茶色い髪が、バーの照明に照らされる。
にこにこと笑顔を浮かべているのを見て、ある意味すごいと思った。
銃を向けられて笑いながら登場できるとは、危機感がないのか逆に肝が据わっているのか。

「カノン……?」

茫然とした声は、ラザフォードのものだった。
幽霊でも見たような、そんな顔だった。
怖がるところを想像できないと思っていた秋也は、驚く。

「あの……どうかしましたか?」

闖入者の少年がけげんそうに尋ねると、ハッと我に返る。
長く溜息を吐き、さっきまでの無感情な声を取り戻して、答えた。

「いや……猫好きの知り合いに、似ていた気がしただけだ」



【G-5/劇場前大通り 裏道の酒場/一日目 黎明】

【七原秋也@バトルロワイアル】
[状態]健康
[装備]城岩中学校の学ラン 、剣のコード(in携帯電話)@よくわかる現代魔法
[道具]基本支給品一式、不明支給品0~2
[思考]基本・殺し合いには乗らない
1・新たな侵入者と話す
2・ひとまずラザフォードと行動する
3・三村信史、桐山和雄、相馬光子とは合流したい(三村信史を最優先)

【アイズ・ラザフォード@スパイラル~推理の絆~】
[状態]健康
[装備]核金@武装錬金、S&W M59(残弾15)@現実
[道具]基本支給品一式
[思考]基本・鳴海清隆を打倒する為に鳴海歩をサポートする。
1・新たな侵入者から情報を引き出す
2・他の参加者と出来る限り多く接触し、鳴海清隆の目的を考察する。
3・知り合いとは合流したいが、ブレードチルドレンに関しては最悪『スイッチ』が入った場合も想定し、一応は警戒しておく。
4・カノン・ヒルベルトの蘇生に疑念。
※参戦時期は最終巻、火澄との決着後から、歩と清隆が対決する日までのどこかです。

【不二周助@テニスの王子様】
[状態]健康、青学レギュラージャージ
[装備]かたまり@よくわかる現代魔法
[道具]基本支給品一式、不明支給品0~1(確認済み)、消火器@現地調達、劇場の大道具の山@現地調達
[思考]基本:殺し合いには乗らない
1・目の前の2人に対処。上手くいけば協力関係を結ぶ。
2・手塚、英二、越前を探す。 (デパートに行ってみる…?)
※参戦時期は全国大会終了後です。


【天野遠子お手製のシュークリーム@〝文学少女〟シリーズ】
不二周助に支給。
ただし、砂糖と塩を間違えて調理したせいで、甘さと辛さの配合がすごいことになっている。
作中の描写によると、「舌先から脳天へ、稲妻のような刺激」「プリンに粗塩をめいっぱい振りかけて食べるような、そんなキワモノな味」「食べ物の味じゃない」「甘じょっぱいグロテスクな味」「胃の中のものが逆流しそうになる」など、すさまじい言われよう。

【剣のコード(in携帯電話)@よくわかる現代魔法】
七原秋也に支給。
一ノ瀬弓子の得意魔法にして、現代魔法シリーズで最もスタンダードな(というかほとんどこれしか使われてない)攻撃呪文。
弓子が使った際は、姉原美鎖を即死(ただしある手段で美鎖本人は後に生還)させたり、
道路のアスファルトを容易く撃ち砕ける程度の威力を発揮しているが、
今回は携帯電話を利用して一般人でも使える仕様にしている為、そこまで威力は大きくないかも。


P.S.参考までに、スパイラルの作者が描いた不二とカノン比較↓
(不二)ttp://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=25430488
(実物)ttp://twitpic.com/8gflsv

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最終更新:2012年03月01日 23:01
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