○○の冬(MTG)

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○○の冬(MTG) - (2022/10/20 (木) 17:45:54) の編集履歴(バックアップ)


登録日:2012/06/10 Sun 19:05:00
更新日:2024/01/12 Fri 17:47:27
所要時間:約 28 分で読めます





夏は、勇者が駆け抜けた。
冬は、淘汰しかなかった。

――当時を知るプレインズウォーカー




○○の冬とは、Magic: the Gathering(マジック:ザ・ギャザリング 以降MtG)における寒い時代の通称。


概要

黒いネクロの夏は白き救世主が駆け抜けた事で美談となったが(項目参照)、そう上手くはいかないのが世の常。
基本的に環境が1つのデッキで染まってしまう時と言うのは、その他のデッキが全て太刀打ち出来ない環境にあるということであり、それは「対策デッキすら機能しない」ということでもある。

台風には目があったが、吹雪にそんなものは無い。
何の感傷もなく吹きすさび、弱き者を蹂躙していくのだ。

そんな状況を作り出したデッキと環境の事を、MtGでは「ネクロの夏」に対して季節に例えられる。
最も有名なのは「Momaの冬」。それを踏まえて項目名はあえて「冬」とした(○○の○、では判断が出来ない為)。



以下はそんな荒廃を作り出した戦犯達である。





一覧


俺のターン!
まだ俺のターン!
さらに俺のターン!


ワハハハハ!
ずっと俺のターン!!
終わったら呼んでね>


■Momaの冬(ウルザブロック)

  • 青単(青タッチ赤)Moma
一世代を越える年月を経てなお、例えMtGや他のカードゲームでそれ以上に異常なデッキが成立してなお史上最悪のデッキと呼ばれ恐れられるMoma。
そのまさに全盛期の事である。○○の冬という呼び方もこのMomaの冬が最初。
それ以前に「ネクロの夏」という呼び方があったが、定着したのはこれ以降と思われる。
デッキの詳細は項目参照。

マジックをしない程に付け入る隙を与えない瞬殺コンボと、《時のらせん》や《意外な授かり物》といった相手へ作業を強いる面倒さは多くのプレイヤーを絶望に追い込んだ。
ただでさえソリティア見てなくちゃいけないのにドローやシャッフルに付き合わされるなんて……。かといって自爆する可能性も僅かにあるから投了するのも……。

「現在のMtGには3つのステップがある。コイントス、マリガンチェック、先手第一ターンだ。

「Moma用のサイドボードは鞄一杯の漫画ガラスの仮面。」

「プロツアーで平地6000枚デッキを持ち込み、対策の甘いMomaに対して勝って、4-2の結果を残す *1。」

などなど数々の名言(迷言?)を残し、TCG史に大きな教訓を残した。……ハズなんだが。

なお《精神力》が禁止になる前に、《記憶の壺》with《修繕》が登場してMoma以上の悪夢を生み出しかけたが、爆速で《記憶の壺》が禁止になり事なきを得た*2




俺の胃袋は宇宙だ。
宇宙に神秘はつきものなのさ。

■サイカの夏(オデッセイブロック)

  • 青黒激動サイカ
一見すれば上昇効率が悪すぎるディスアドパンプアップ能力しか持たないカスクリーチャー、しかしその実態はそのディスアドパンプアップ能力だけで並み居る猛者共を圧倒できてしまう異常な上昇効率を持つ超脳筋のトップクリーチャー《サイカトグ》。
そしてフィニッシュ手段に場のリセット兼、サイカトグにエサを用意する《激動》を据えたパーミッションデッキが激動サイカである。
デッキの動きはサイカトグへ。要約すれば「対抗手段を奪ってワンパンマンで殴れば相手は死ぬ」。

頭の悪すぎる戦法ながら至って合理的な戦法だったため「右も左も サイカ! サイカ! サイカ!」と比喩される程にサイカが蔓延し、対抗馬リス対立も苦しむ展開になった。

日本選手権02では参加者の三分の一がサイカトグ。「やっちゃったプレイ」を集めてみたら全部サイカトグ絡みだった、なんてことも。

でもサイカレスで勝利した、という例も。
なかなか世の中分からないものである。

メタゲームの変遷によって後期では《激動》が抜けがちだったのは内緒。
とはいえサイカトグ自体は稀に見る異常なインフレパンプアップだけを武器に、その後もエクステンデッドやレガシーでも結果を残した。




俺は 涙を流さない
ロボットだから マシーンだから

ダダッダー!!

■親和の冬(ミラディンブロック)

「同型カードより1、2マナ軽く出せたらお得だな~」といった意図でデザインされたであろうミラディン・ブロックのアーティファクト郡を、実際には0マナだの1マナだのの異常なコストパフォーマンスでこれでもかと場に叩き付け爆速で勝利に駆け上がるビートダウンデッキ、親和。
こちらもデッキの詳細は個別項目へ。

実の所グランプリ等の大型大会では冬という程の猛威は振るっていなかったのだがそれが却って災いしウィザーズが危険性を認知して対処するのが遅れた。
そして基盤となるカードが全て構築済みデッキに入っていた安価デッキだった事なども相まってMtGプレイヤーの大半を占めるカジュアル層は親和一色
当然そんなプレイヤー層が最も多く参加する機会であるショップ大会などでも親和一色
Momaの冬とは別のベクトルで地獄のような環境と化していた。

こいつのせいでプレイヤーが多く離れ、神河・ラヴニカブロックの売り上げが伸びず、後に神河・ラヴニカ産のカードが高騰している要因になっている、とまで言われたそうな。

禁止カードも発表されるが、親和を後押しするパーツも同時に追加され結果的に衰えず。
事態の深刻さから最後にはキーカードどころか、その代わりとして使えるかも怪しい2軍カードも巻き込み、膨大な数の禁止カードを出してしまった。

ちなみにこの環境を生み出したのはウルザブロックのデザイナー。……すなわちマナ面でやらかしたMomaの生みの親達。
おい、学習しろよ。





「逃げる奴はキスキンだ!」
「逃げない奴はよく訓練されたキスキンだ!」

ホント、戦場は地獄だぜ!
フゥーハハハァー!!

■フェアリーの冬(ローウィン=シャドウムーアブロック)

  • 青黒フェアリー
毎ターン1/1で飛行を持ったクリーチャーが場に出てくるエンチャントという強力な効果に反して何故か2マナの《苦花》、それを軸にフェアリークリーチャーで構成されたクロック・パーミッション(クロパ)デッキ。
従来のクロパとは一線を画しており、妨害やカウンター内蔵のクリーチャーを使用し、相手の妨害に専念するだけで自動的に信頼性に長けたクロックが増えていくという、
クロパとして色々間違ったデッキである。

それでもクリーチャーを展開しながらパーミッションするフェアリーは本来、コントロールに強くビートダウンに弱い。
ところがアラーラブロックでは当時コントロールの主役だったヒバリブリンクは衰退し、一方のフェアリーは軽量除去を更に獲得、ビートダウン耐性を得てトップメタに君臨してしまう。
特に2ターン目に《苦花》を置かれるとどうしようもなくなってしまうデッキもあり、「今の環境は2ターンキルがある」などと言われる羽目に。
「苦花に対抗するために苦花を投入する」なんていうどこぞの学校みたいなことまで起こった。

前述の冬達を反省してか、苦花を禁止するとフェアリーそのものが死にかねないためか、プロ達に対策デッキがこぞって研究されていったためか……。
禁止カードは出ず、ウィザーズはフェアリー対策に強力なクリーチャーや対策カードをリリースするなどして対応した。

が。

これがいけなかった。


アラーラの断片は強力なカードが多いセットだったのだが、上述のようにビートダウン耐性を手に入れたフェアリーを乗り越える為に残りのアラーラブロックでさらに強力なカードをリリースし続けた結果、カードパワーの大インフレが発生。
つまりフェアリー以外も大概ヤバイ酷いレベルでバランスが取れているしかも楽しくねぇ

ざっと挙げるだけでも、野生のナカティルロウクスの戦修道士貴族の教主聖遺の騎士流刑への道クァーサルの群れ魔道士血編み髪のエルフ飛行機械の鋳造所など……といったレガシー(ほぼ全カード使用可能環境)第一線で活躍しているカードを多数生み出して、ようやくフェアリーを抑えこんだ。

入り乱れて暴れてるだけでは?

このカードパワーのインフレは後々まで影響を与えることになる。
エルフや残酷コン、当時ほぼそのままレガシーに持ち込んで優勝したキスキンなど、最終的にメタゲームの多様性は保たれた結果フェアリー自体はスタン落ちまで天寿を全うするのだが、一度始まったインフレはなかなか収まらず

ローウィンブロック(フェアリー誕生、青黒系のデッキが隆盛)

アラーラの断片ブロック(断片の一つであるジャンドのカードを中心にした赤黒緑系のデッキが隆盛。カードパワーとしてはここら辺が最盛期)

ゼンディカーブロック(フェアリーがスタン落ち。当時割りとお通夜だった青のテコ入れのために第二エキスパンションのワールドウェイクで《精神を刻む者、ジェイス》が登場。青白系のデッキが盛り返す。これでも全体のカードパワーは落ちてる。)

ミラディンの傷跡ブロック(ジャンドの基本パーツがスタン落ち。PW対策カードもこぞってスタン落ち。さらによりによって《精神を刻む者、ジェイス》と相性のいいカード、石鍛冶の神秘家を中心にしたCaw-Bladeが大流行)

とインフレを続けた結果、下の惨状に繋がることになる。





「や……奴に一体何があったんだ!」


「チャンドラ……」
「ひぃ!?」


俺 の 名 を 言 っ て み ろ

■ジェイスの夏(ゼンディカーブロック)

Caw-Bladeの夏とも。カウブレに関しては項目参照。

最大の特徴は、「精神を刻む者、ジェイス」、通称「神(シン)」が世紀末を巻き起こしたという一点。

彼の詳細は個別項目に譲るが、要約すると
  • デッキトップ操作兼ソフトロック
  • 手札増強
  • クリーチャーのバウンス
  • 『相手は死ぬ』を地で行く奥義
という、青の理想を体現した能力を一つのカードに全て内蔵した恐るべきカード。
4マナ忠誠度3という如何にも撃たれ弱そうな見た目とは裏腹に1つ目の能力で忠誠度が2も増える等の異常なコストパフォーマンスの忠誠度コストと、自分自身を守ることができる能力のシナジーにより凄まじいコントロール力を持つ。
登場した直後はプレインズウォーカーへの有力対抗カードである《血編み髪のエルフ》や《忘却の輪》らに抑え込まれていたのだが、これらがスタン落ちしてしまったことにより抑止力が消滅。
これにより1度盤面への着地を許したが最後、まともに除去することもままならずゲームを好き放題に荒らされた末に死刑宣告を下されるパターンが頻発し多くのプレイヤーの精神が刻まれた

さらに当時はコントローラーもカード名も問わず同一人物が1人しか戦場に存在できない「プレインズウォーカーの唯一性ルール」が存在したため、「相手に使われるくらいなら先に自分がジェイスを使ってしまえばいい」という考えが浸透。
環境でジェイスと最大の親和性があったのが石鍛冶を有するCaw-Bladeであったが、
当然のようにその他のデッキでも色さえ合えばジェイスが差し込まれ……いやむしろ色が合わなくても無理矢理ジェイスが差し込まれ……挙句に神ジェイスより1マナ軽く先置きできる旧ジェイスが神ジェイス対策ためだけにのみ差し込まれ……
といった何だかジェイスがゲシュタルト崩壊しそうな事態に、ジェイスを入れない理由がある例外的なデッキを除いて、スタンダートにおいて半必須カードとなる。
後にレジェンド・ルールの改定とプレインズウォーカーの唯一性ルールの廃止が行われたが、このジェイスまみれの惨状が多分に関わっていたことは間違いない。

ジェイス・石鍛冶禁止が発表される直前のトーナメントでは、ベスト8入賞者全員の合計で32枚の神ジェイスが使われた。

MtGの基本土地でないカードは基本的に1デッキへ黎明期やリミテッド、統率者戦などを除いて最大で4枚まで投入できる。
……あとは分かるな?

無論、こんな状態なので神話レアである「神はMtGで使える一万円札」と言われるまで暴騰。
プレインズウォーカーのサイフポイントにも多大なダメージを与えることに。

ちなみにミラディン包囲戦の時点でカウブレは環境最強デッキだったのだが、その次のエキスパンションである新たなるファイレクシアが出る前に「ジェイスの話」というコラム*3で、
  • 「前に出したカードじゃ足りなかったけど、二の矢三の矢がプレインズウォーカーを狙っているのだ。」
  • 「新たなるファイレクシア発売後も神ジェイスは一定の地位を保持するだろうが、結果どうなるかは誰にも判っていないのだ。」
などとドヤ顔で強力な対策カードの存在を示唆していた。
で、来たのが《呪詛の寄生虫》。詳しくは書かないが悲しいくらい弱かった。
その一方で《戦争と平和の剣》だの《殴打頭蓋》だのよりによって石鍛冶と相性のいい装備カードは来るわ、
除去の薄くなりがちなところに実質1マナインスタントの《四肢切断》が来るわジェイスを封じ込めるどころか逆に大強化する羽目に。
その後の顛末は上記のとおりである。




その日ゼンディカー人は思い出した。
奴らに支配されていた恐怖を・・・
鳥かごの中に囚われていた屈辱を・・・


■エルドラージの冬(モダン、~ゲートウォッチの誓い)

  • エルドラージアグロ(無色・青赤・青白・赤緑・昇華者型他)
別名「荒廃の冬」とも。
今回の舞台はスタンダードではなくモダン*4

旧ゼンディカーブロックで登場していたウギンの目やエルドラージの寺院といったエルドラージ限定で2マナを出せるor軽減する土地と、ゲートウォッチの誓いで登場した2~5マナの軽~中量エルドラージが化学反応、
元ネタのクトゥルフ神話に恥じぬ恐怖を引き起こした。恥じてくれ

元々10マナ以上の大型エルドラージを出すために作られた複数マナを出す土地と軽量エルドラージは非常に相性がよく、
1ターン目にいきなり2マナのクリーチャーを複数展開することも可能。
さらにそこから次のターン辺りに駄目押しに「場に出たらハンデスをかます《難題の予見者》」や、「速攻・トランプルを備えた上で優秀な耐性をも備えた《現実を砕くもの》」等の中型エルドラージが出てきてそのまま押し切られる。

最初こそ活躍を疑問視されていたが、プロツアー「ゲートウォッチの誓い」では無色・青赤・昇華者型がモダンラウンドで大暴れ。
TOP8のうち6つがエルドラージ、決勝戦はエルドラージのミラー対決、優勝はもちろんエルドラージという事態になった。
残る2つは親和デッキでありTOP8全てが無色カードをキーとするデッキ。それを受けて五人去るときなどと言われることに。

その後プロプレイヤーたちが研究を重ねた結果、メタられまくって衰退、……することなくそのまま活躍を続ける
3ヶ所同時開催されたモダンのグランプリでは2ヶ所で優勝、1ヶ所で準優勝。TOP8にそれぞれ3つ、5つ、6つ入賞と計24のうち過半数の14を占めた。
挙句の果てに「どの色にするか、エルドラージデッキの中でメタゲームが回っているから健全」などと言われる始末。

その後禁止改訂でウギンの目を禁止指定されて弱体化。
今は全盛期ほどの強さはなくなっているが、もともとのスペックが高いため環境次第で浮上したりしている。
特に「エルドラージ・トロン」と呼ばれるものはトップメタに絡む事が多い。バーンに非常に強いのでバーンが嫌いな人におすすめ。




おまえを殺す決定には変わりはない・・・

少し長く生きのびてることを感謝しろ!


■カンパニーの冬(スタンダード、タルキール龍紀伝+マジック・オリジン+戦乱のゼンディカーブロック+イニストラードを覆う影ブロック期)

  • バントカンパニー
セレズニアポカリプスとも。これはMtGの大手総合ショップにしてプロチーム、Channel Fireballが自身のコラムで名付けたのが始まり。

類い稀なるパワーカードを数多く生み出したタルキール覇王譚ブロック。
ローテーションシステムの変更によりこのブロックのうち前2つのセットのみがローテ落ちを迎え、パワーカードがごっそり抜け落ちた状態で新スタンダードがスタートする。
そこにやってきたのはホラーテーマなのになぜか虐げられる側の人間がやたらと強い次元イニストラードへの回帰セット「イニストラードを覆う影」であった。
前回の繰り返しを恐れるプレイヤーの予想は悪いことに当たってしまい、環境初期から緑白トークンデッキと、タルキールブロックの生き残りである「最大3マナ以下のクリーチャーを2体まで」踏み倒す《集合した中隊》を使ったバント*5カンパニーデッキが圧倒。
ホラーを体現したカードが多く含まれている黒と赤がそっちのけになっており「現環境に黒と赤は存在しない」「二人去るとき」などと言われる羽目に。
青も全体的なカードパワーの低さから数枚のカードのためだけに使われる色となっており、実質的な環境の中心は白緑に染まっていった。グランプリTop8入賞の6割が緑白トークンかバントカンパニーであったとも言われる。

そしてみんなの「なんとかしてくれ…」の声とともに参入したイニ影ブロック第2セット「異界月」。
しかしそこでプレイヤーの目に飛び込んできたのは《呪文捕らえ》や《無私の霊魂》、《異端聖戦士、サリア》などと言ったバントカラーの強力カード達。
バントカンパニーの為に印刷しましたと言わんばかりの充実したラインナップであった。
これによりバントカンパニーは大幅に強化され、まずこれら新カードによって相性の悪くなった緑白トークンを一蹴*6。世界選手権では同じく異界月で大幅強化された黒緑昂揚*7と一騎討ちになるもこれを退け優勝。
環境最末期にはバントカンパニーの占有率は70パーセントを超えたとも言う。
デッキタイプが少ないスタンダードでは支配率が大きくなりやすいが、それでも7割というのは明らかに異常である

このような事態になった一因として「対策カードの大幅な弱体化」がある。
青黒赤の得意とするカウンター・ハンデス・火力といったカードが、呪文よりクリーチャーを重視する開発方針により大幅な制限を受けていたのだ。「やりたいことをやれない」不満が多かったためとも言われる。
一方でクリーチャーの性能はうなぎのぼり。特に低マナ域~中マナ域のクリーチャーに優秀なカードが増えていき、そういったカードはクリーチャーの色である緑や白に多い。
流行の恩恵を多分に受けたデッキのデッキパワーは、「アグロはミッドレンジに弱く、ミッドレンジはコントロールに弱く、コントロールはアグロに弱い」という従来のメタゲームの原則を崩壊させるに十分だった。
加えて、「セットのテーマになるカードを活躍させるため、それらを咎める実用的な対策カードは極力近隣のセットに同居させない」という当時の方針も追い風となった。*8

結果、「ミッドレンジ系(この場合はバントカンパニー)が最強」「それに対抗するカードはほぼ存在しない」「唯一対抗(できてるかもしれない)デッキも厳しい*9。」というメタゲームが完成。
一種類のデッキが環境を占有してしまうのも当然であった。

しかし、それでもウィザーズは禁止カードの制定を選ばず、集合した中隊はスタンダードの天寿を全うする。過去のアカデミーや〆や神ジェイスに比べればカードパワーそのものは低かったからである。
絶対評価で禁止にしないことに決めたウィザーズ。スタンダードで禁止を出したくないという意識もあっただろう。
更に大規模なお披露目であるプロツアーではあまり目立たなかったというのも大きい*10


が、
「あのカンパニーすら禁止にならなかったしもうウィザーズやDCIは禁止をスタンダードで出さないだろう」とプレイヤーたちが思っていた2017年1月20日。衝撃の発表がなされた。

スタンダードに新たに3枚の禁止カード追加

あのカンパニーまみれの地獄の中ですら出なかった禁止カードが、地獄の過ぎ去った今出されたのである*11
動揺するプレイヤー。その後のコラムの中では「集合する中隊は禁止にすべきだった。禁止にするタイミングがなかった*12からしなかったけど。
でもこれからはアカデミーや神ジェイスみたいな高いハードルではなくする。」と語っており、実際に2017年にはスタンダードの禁止カードを連発バントカンパニーで禁止を出さなかった反動であることは明らかであった。
こうして数多の怨嗟の声を受けながらスタンダードを完走したカンパニーデッキは、スタンダードを去ってなおMtGの歴史に癒えることのない傷を残していったのであった……。





この世(モダン)に生まれたことが 消えない罪というなら
禁止されることが そう 背負いし罰だろう

■ホガークの夏(モダン、~基本セット2020)

  • 黒緑青(黒緑青タッチ白)ホガークヴァイン
2019年にモダンにおいて起きた惨劇。
モダン環境のカードプールを直接拡充するというコンセプトで発売された「モダンホライゾン」。ホガーク始め、《アーカムの天測儀》やら《レンと六番》やら、モダンのインフレを加速させたどころかモダンの境界を超えて他環境に多大な影響を与えたのは密に密に
エターナル環境でしか使えなかったいぶし銀のカードや旧ストーリーのキャラのリメイクカード、そして様々な新カードが収録された。

問題を引き起こしたのは《蘇る死滅都市、ホガーク》。7マナ8/8トランプルで墓地からキャスト可能という破格のスペックを持つが、その見返りの縛りとして「唱えるためにマナを支払えない」という代物。
その代替手段として召集*13と探査*14という片方は禁止カードを輩出した2つのキーワード能力を持っていた。
黒緑の混成マナを2つ持つため、黒か緑のクリーチャーを必ず2体戦場に出す必要がある。また、伝説なので1体しか戦場に存在できない縛りもある。

結論から言うと、この縛りはほとんど縛りとして意味をなさなかった
戦場に出た時に墓地を肥やせる軽量クリーチャーである《縫い師への供給者》や《サテュロスの道探し》などが存在し、これらのクリーチャーを展開すれば2ターン目に容易にホガークを展開できる。伝説である点も1体戦場にいれば十分相手を倒しきれるため、2枚目が墓地に落ちたところで探査コストに当てればよいだけであった。もちろん1体目が《流刑への道》で旅立ってしまった時の予備にしても良い。

結果的に【ドレッジ】に押されていた【ブリッジヴァイン】のデッキ名が【ホガークヴァイン】となるほどに隆盛。
墓地対策が厳しいはずの環境であるにもかかわらず大暴れし、MOでの勝率が60%を記録。《虚空の力線》という最上級の墓地対策*15がメインから投入されることすらあるという異常な環境となってしまった。
そうでなくともメインから《外科的摘出》は当たり前。サイド後は《安らかなる眠り》(いわゆる「R.I.P」)やらと合わせて墓地対策6枚以上という過剰なメタを敷かれていた。
キーカードである《黄泉からの橋》が禁止カードとなるも勢いはとどまることはなく*16、この時期は【ホガーク】を使うか、それに唯一対抗できた【青白コントロール】を使うかという末期環境。その青白コンも大幅有利というわけでもなく、結局はホガークが使われていた。

自身の高い勝率とメインから極端なメタカードが投入される不健全な状態を引き起こした主要因として、多くのデッキで用いられていた墓地肥やしであった《信仰なき物あさり》とともに投獄された。R.I.P。

また《黄泉からの橋》の禁止施行日に「基本セット2020」が発売されたのだが、その中には値段が高騰しており再録が待望されていた《虚空の力線》が収録されていた。
本来高額カードの再録というのは歓迎されるものなのだが「虚空の力線が行き渡るわけだし、モダンプレイヤーはこれで対策しろと言うことか?」「対策すれば大丈夫ってことでホガーク本体の禁止はないのでは?」などと、あらぬ疑惑を生んでいた。

モダンのために生み出されたカードは、当のモダンから拒絶されるという哀れな結末を迎えた。
今はエターナルに活躍の場を移している。黄泉からの橋と再びタッグを組んだレガシー版【ホガークヴァイン】や、ヴィンテージにおいては《Bazaar of Baghdad》という凶悪どころではない相方を得たホガークデッキがメタゲームの一角に君臨している。





食物の秋

鹿の秋

オーコの秋

■オーコの秋(スタンダード、ラヴニカのギルド~エルドレインの王権)

  • 食物デッキ(緑青・緑青黒・緑青白・サクリファイス型他)
ファンシーなおとぎ話(MtG的な意味で)とアーサー王伝説(をMtGチックにしたもの)をテーマにしたエキスパンション「エルドレインの王権」。
使うとライフ3点回復するアーティファクトトークンである「食物」とシナジーを持つカードが多数収録されたカードセットだったが…… 全然ファンシーじゃない惨状をもたらすことになる。

代表たる《王冠泥棒、オーコ》の解説は個別項目に任せるとして、このエルドレインの王権、やたら強いカードが緑関連に集中しており*17、その結果緑はサーチからカウンター封じ、クリーチャー除去まで何でもできる色になっていた。
発売直後こそ《死者の原野》をメインにしたランプデッキに不利であったため使用率は高いものの2番手に甘んじていたが、間をおかずして死者の原野が禁止されたことを追い風として緑系デッキが大流行。
むかしむかし→金のガチョウ→オーコ→狼→WARニッサ(5ニッサ)→ハイドロイド混成体と矢継ぎ早に強カードを叩きつけ、盤面が食物と鹿だらけになる光景が日常茶飯事となった。

環境に突入して間もなく開催されたプロツアーの後継であるミシックチャンピオンシップ6(MC6)ではオーコの採用率がなんと驚異の69%
環境初期からこれほど使われる多色カードが現れるのは前代未聞その鹿だらけの惨状から「開催地は奈良県」とネタにされてしまう。
公式カバレージでは、31%のオーコ非採用デッキが「オーコを使いたくなかった者たちのデッキ」とまで言われてしまった。

MC6の全デッキ採用枚数では基本地形(≒何枚でも投入可能)である沼と平地と山を合わせた数が特殊地形(≒最大4枚/デッキ)の《繁殖池》の枚数に及ばないという異常事態。
その環境の歪みぶりから、オーコを除去できる上に双方のオーコが作った鹿潰しもできる《害悪な掌握》を対緑白カードにも関わらずメインデッキから3~4積みするのが当たり前に行われており、むしろ主に自らこのカードを使う目的で黒を足した緑青黒の食物デッキ、つまりミラー対策をしたオーコ入りの食物デッキがトップメタにつく
挙句の果てに「相手がメインから色対策カードを入れてくるのならばこちらも入れざるを得ない」とばかりに、害悪な掌握と同じサイクルの対青黒カードである《夏の帳》までもがメイン投入され、メインから色対策カードを投げ合う空中戦が展開される。
オーコを使いたくなかった者たち非食物デッキ期待の星であった出来事デッキも準々決勝で力尽き、トーナメントでは緑青黒と純正緑青の食物デッキ同士によるお腹いっぱいな戦いが繰り広げられたのであった。

この有り様でもその後メタゲームは一応回っていた。……のだが、他の有力候補もほとんど食物デッキの派生形*18であり、4つのグランプリではTOP8のデッキ合計32個のうち全優勝デッキを含む24個がオーコ採用型の食物デッキ。
この惨状からスタンダードでの開催を直前で取りやめる大型大会や、ウィザーズスポンサードであるにも関わらず独自にオーコを禁止にする大会まで現れる事態に。
食物デッキのあまりの強さ*19から、環境を支配するトップレアにも関わらず「いくらなんでも禁止にされるだろう」と踏んでオーコのシングル価格が下がるという珍事まで起きている。

その後、エルドレインの王権の発売からわずか49日後に発効の禁止改訂で、案の定オーコとそれに加えて高い安定性を実現させた《むかしむかし》、さらに青と黒の戦略を全否定していた《夏の帳》という緑絡みのカードだけが3枚も同時に禁止された。これはあの《記憶の壺》に匹敵するほどの速さ*20であり、内1枚の《むかしむかし》は事実上、緑抑制のためだけに指定される*21有様である。
こうしてオーコの秋はまさしく秋のごとき短期間で終焉を迎えたのであった。

なおスタンダード禁止までの間に、オーコはスタンダード以下のパイオニア・モダン・レガシー、果てはヴィンテージでも通用することが判明し、神ジェイスを超える歴代最強プレインズウォーカーに名乗りを上げる。
シングル市場では「禁止発表で値段が下がるだろうから、そしたら買おう」と思っていた数多のプレイヤーが同じタイミングで買いに走った結果、禁止直前を底値に値上がり続けるというMtGでは稀に見る驚異の値動きを見せていた。
その後もオーコのオーバーパワーぶりは他のフォーマットでも留まることを知らず、スタンダードから1カ月弱遅れでパイオニアでも禁止指定され、さらにカードプールが肥大化していたモダンでも2020年最初のグランプリでTOP8のうち7人が使用*22するなど大暴れしたために投獄される。
強力カードが跳梁跋扈するレガシーでは1年4ヶ月の間許されていたが、相変わらずのパワーカードぶりで様々なデッキに圧力をかけ続けた結果ついに禁止指定。
ブロールとヒストリックでも当然のごとく早期に禁止指定されていたため、今ではヴィンテージだけがオーコを使える公式構築フォーマットである。6冠達成おめでとう!




こんな簡単な条件で初期手札を1枚増やした挙句に性能も高いだなんて……
あなた方のしていることは到底許されることではありませんよ!

恥を知りなさい!


■相棒の春(レガシー・ヴィンテージを筆頭にほぼ全てのフォーマット、~イコリア:巨獣の棲処)

  • 相棒を投入可能なあらゆるデッキ
2020年の春に発売された、「怪獣」をテーマにした新エキスパンション「イコリア:巨獣の棲処」。
ゴジラやキングコングやシャークネードとのコラボカードの収録、不幸にも新型コロナウイルスの流行と重なってしまった「死のコロナビーム」騒動などが話題を呼んだセットであったが、MtGというゲーム的にもとんでもない事件が起こっていた。

問題を起こしたのは怪獣との共闘を再現した「相棒」という能力。
相棒は「カードに記載されたデッキ構築条件を満たしていれば、一度だけゲーム外*23からそのカードを唱えられる」というもので、公認特殊フォーマットの統率者戦を意識した能力である。
これは実質的に初期手札が1枚増えるうえに常にそのカードが唱えられる前提でデッキを構築できることを意味し、その恩恵は計り知れないものがあった。
長い歴史を誇るMtGでは過去に「必ず手札にある状態でゲームを開始できる」能力を持つカードがテストされていたことがあり、その時は「(効果を控えめにしても)強すぎる」「ゲーム展開の固定化を引き起こす*24」としてすぐさまボツになっている*25
そんな中でハンデスすら効かない固定のカードが1枚増えた状態でゲームを開始できる相棒の強力さは疑う余地がない。
当然そんな能力がなんのデメリットもなく使用できるはずもなく、能力の代償としてデッキ構築条件に厳しい制限が課せられる……はずだったのだが。

いざ公開された相棒のデッキ構築条件は「マナ総量*26が奇数のカードと土地のみでデッキを組む」「メインデッキの枚数を最小より20枚多くする」といったその気になれば簡単に満たせてしまうものが多く、環境によっては制限の体を成していないものすらあった。
では相棒を持つクリーチャー自体の強さはというと、ほとんどが相棒能力を除いてもコスト相応かそれ以上のスペックを有しており、中には自身がコンボデッキのコンボパーツになるものもいる。
これによりMtGのゲーム性そのものが一変。特にカードプールが広く条件を満たしやすいヴィンテージやレガシーでは顕著になり、相棒入りでデッキを組むことが前提な状況となる。

最も問題視されたのは「デッキ内のパーマネントカード*27を全て2マナ以下にする」という条件を持つ《夢の巣のルールス》。
こいつは3/2絆魂の本体に「自分のターンの間、自分の墓地からマナ総量が2以下のパーマネント呪文を1つ唱えてもよい」というリアニメイト能力を持つ伝説のクリーチャーである。
一見するとキツそうな制限だが、MtGにおいては2マナ以下の優良なパーマネントカードは山ほどあり、カードプールが広くなる下環境に近くなればなるほどそういったカードは増えてくる。というかそういうカードばかりが環境には溢れており、実際パワー9は全てこの条件をクリアしている。
しかも3マナ以上は断固拒否というわけでもなくソーサリーやインスタント、マナ総量が2マナ以下+Xなパーマネントカード*28なら何を入れてもOKという抜け穴まである。
そこに申し分のない本体性能と(白/黒)混成マナ2点+不特定マナ1点の3マナという唱えやすさ、そして1回/ターンとはいえ数々のぶっ壊れカードを簡単にリニアメイトできてしまう、という下に行くほど強力にな(りすぎ)る能力が付いてくることで、ルールスはアグロからコントロールまでありとあらゆるデッキの相棒となった。
デッキコンセプトを多少歪めてでもルールスを相棒にするための構築が横行し、3マナ以上のパーマネントはルールスを相棒にできないというだけでその価値を大きく落としてしまった。
特にヴィンテージ環境は大荒れし、MOで幾度か開催されたヴィンテージチャレンジではTOP32のルールス採用率が毎回75~81%に達し、TOP8全てがルールスデッキだったことが何度もあった
こんな状態なので上記のオーコすら「3マナのパーマネントだからオーコ入れられないけど、ルールスの方が強いからいいや」と言われたのだから恐ろしい。

こんな歪んだ環境が看過されるはずもなく、2020年5月18日の禁止改定においてルールスと《黎明起こし、ザーダ》の2名の相棒がレガシーで禁止、ルールスに至ってはヴィンテージで禁止*29というまさかの事態になる。
最速でイコリアが発売されたデジタル基準で数えて32日後、北米等で実物のカードが発売されてからは僅か3日後の出来事である*30
「ヴィンテージでの採用率はBlack Lotus等より低いのでは?」といった意見もあったが、どんなにカードパワーが高かろうと手札に来なければ使えないことで曲がりなりにもバランスが保たれているフォーマットでその前提を破壊してしまったこと、
一部のデッキを除いて3マナ以上のパーマネントは論ずるに値しない風潮を作り出してしまったことは、極限まで広いカードプールを最大の醍醐味とするヴィンテージにおいて、あまりにもダメージが大きすぎた。
相棒は1枚だけあれば十分なので制限カードにしても意味がないという事情もあるが、ルールスがパワー9を超えた瞬間であった。

レガシーとヴィンテージにおけるルールスのカードパワーの高さばかりがクローズアップされがちだが、ついでのようにレガシーで相棒仲間のザーダが禁止されていたり、他のフォーマットでもヨーリオンやオボシュなどの相棒が蹂躙して大会TOP8のデッキ全てに相棒が入っているのが日常茶飯事になっていたことから分かる通り、相棒という能力自体に問題がある」と多くのプレイヤーから指摘されていた。
相棒は他のTCGでよくあるエクストラデッキに近い性質を持っており*31(実態はMtGの弟分として同じくウィザーズが手掛ける、デュエル・マスターズ実験実装されていた禁断零龍がより近いが)、結果論ではあるがそんなゲーム性を一変させうるシステムをたった1つのカードセットの、それも10種類のクリーチャーしか持たない能力として導入すること自体に無理があったのだ。
当然ながら開発側も相棒の危険性を早い段階で認知しており、あまりに問題が大きければ相棒のルール自体を変更するのも辞さないという異例の声明が出されていた。
そして懸念は早くも現実となり、先述の禁止改訂からわずか2週間後の2020年6月1日に相棒の能力自体にルール改訂がなされる。
ゲーム外から直接唱えるのではなくソーサリー・タイミングで3マナ支払うことでゲーム外から手札に加えるように変更され、必要なマナの総数が一気に増えただけでなく、一度手札を経由することでタイミングによってはハンデス等で妨害される可能性が新たに生まれたことで大幅に弱体化された。

ルール変更後の相棒は追加3マナという重さがのしかかって流石に数を大幅に減らしており、デッキ構築に再び多様性が戻ってきている。
ただし存在感は失っておらず、ヨーリオンやオボシュなどを相棒に据えたデッキが各環境に残存している。
「追加マナが種類問わず固定値ではカード事の影響差が歪にならないか?」と不安視する意見もあったものの、結果として相棒システムのバランス調整としてうまくいったようだ。

その一方で最大の問題児であるルールスに関しては、ルール変更からしばらくは数を減らしていたものの単純に単体性能がぶっ壊れていたためか再び採用率が上昇。
弱体化したにも関わらず結果として2022年にモダンとパイオニアで禁止されるまでに至ってしまった。
一応ヴィンテージでのルールスは「新ルールでもう一度機会が与えられるべき」として禁止を解除されているためスタン落ち後の全公式フォーマット出禁こそ免れているが、弱体化する前にお縄にかかったレガシーでは(ザーダ共々)現在も釈放される気配がない。

さらには2022年10月10日、モダンで《空を放浪するもの、ヨーリオン》が禁止。
相棒条件は「デッキの最小枚数+20」ということで発表当初は議論を呼んだカードだが、「デッキが20枚増えるなら全部パワーカードにすればいいじゃない」「サーチしたいカードが手札に来なくなった!」等々グッドスタッフの中~低速デッキで採用される。
なかでもモダンではスタンダード最速禁止記録保持者の《創造の座、オムナス》と手を組み「マネーパイル*32」というモダンの高額化を象徴するようなデッキを成立させた。
強さ自体は「数あるTier1~2あたりの一角」だったのだが、「デッキ枚数が多いとシャッフルが難しい」「サーチやフェッチを多用するモダンで多いと進行を妨げる」「マイナーデッキならいいが強いデッキだと使用者が増えて楽しさを損ねる」ということで禁止となった。
しかし80枚デッキのメリットや構築が理論化されたこともあり、今後も一定数メタゲーム上に存在するだろうとの声もある。
MtGの長い歴史のなかで、大きな転換点となった一枚と言って間違いない。




モダンホライゾン2の発売から3か月…
パウパーはリス親和フェアリーの3つに分かれ、混沌を極めていた…。

■リス・親和の夏(パウパー、~フォーゴトン・レルム探訪)

  • リスストーム、親和
2021年夏に発売されたモダンホライゾン2は前作のやらかしっぷりから発売前から警戒されていたのだが、案の定環境を激変させることになった。
モダンやレガシーも《ウルザの物語》《敏捷なこそ泥、ラガバン》などが跳梁跋扈する魔境と化したが、先に壊れたのはパウパーであった。

かつてパウパーでも《巣穴からの総出》《ぶどう弾》といったコモンのストーム呪文が存在していたが、パウパーにはストームに対抗できるカードがほとんど存在せず、対策の取りようがなかったことから禁止となっていた。
しかしモダンホライゾン2では新規のコモンのストーム呪文が複数登場。《精神の願望》の調整版である《電位式リレー》で大量の手札を確保し、次のターンに調整版《巣穴からの総出》である《騒鳴の嵐》とそのターンに戦場に出たクリーチャーに速攻と+1/+1カウンターを付与する《授業初日》を組み合わせて圧倒的物量で圧殺する【リスストーム】が成立してしまった。
一方、モダンホライゾン2では環境から一線を退いていた親和を再興するべく新規の親和持ちクリーチャーやコモンのアーティファクトタップインデュアルランドが登場。パウパーでは親和が現役だったため元から強かったのがますます強化されることになった。

かくして、パウパーからはリスストーム・親和・青黒フェアリー*33以外のデッキが駆逐されることになってしまった。こうした環境下で行われた大会では参加者ほぼ全員が基本土地60枚デッキで参加し事実上のボイコットがなされた。さすがにこれは問題視されたのか、大会の直後の2021年9月に《騒鳴の嵐》と《滞留者の相棒》*34は禁止された。

だが、これでもなお親和の勢いは止まらず最初期の型であるグレ親和を再現する形で再興。翌年1月に今度は《エイトグ》が禁止されるがすぐに別のサクリ台が用意されて相変わらず同じ動きができ、しかも2月に出た神河:輝ける世界がアーティファクトテーマだったこともあり多数の新規パーツを獲得した。この恩恵はストームデッキも受けており、禁止を免れた《電位式リレー》を軸にした赤黒ストームとして復活。
こうして3月には《大霊堂の信奉者》《電位式リレー》も禁止となり、冬まで続いた延長戦は幕を閉じた。

結局、親和とストーム、それと3番手につけていたトロンから半年間で7枚もの禁止カード*35を出すことになった。しかし枚数こそ多いものの、1月に発足した「パウパー・フォーマット委員会」が「なぜこのカードを禁止にしたのか」「他にはどのカードが禁止候補だったのか」「どのようなデッキや環境が望ましいと考えているのか」を他のフォーマットの禁止改定告知とは比較にならない程丁寧に説明している為、むしろ好意的に受け取られている。


まとめ

以上を見れば判るが、コンボや特定カードを手札に促させられる青混じりや、青でこそないが強力な手札増強&サーチカードを内蔵したデッキが非常に多い。
次点で無色のアーティファクト絡み。
近年は「クリーチャー強化、呪文弱体化」のスタンスの追い風を受けて緑がそこに追い縋ってきている。
というか、禁止にまで至ったのは結構な確率で無色のアーティファクトを多用するデッキである。色付きのオーコもファクトを生み出すし。
無色のカードのバランス調整の難しさがよくわかるだろう。



追記・修正は○○氏ね!と心で叫んでからお願いします。

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