AV-98 イングラム

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AV-98 イングラム - (2020/07/22 (水) 23:49:23) の編集履歴(バックアップ)


登録日:2010/02/15 Mon 16:01:02
更新日:2024/04/22 Mon 23:19:25
所要時間:約 13 分で読めます




AV-98 イングラムとは機動警察パトレイバーに登場する警察用レイバーであり、作品の主役メカである。
シリーズ展開の都合上、設定やデザインに微妙な変更が見られるが基本部分は共通している。


【諸元】

形式番号 AV-98
メーカー 篠原重工
販売開始 1998.04
全高 8.02m
全幅 4.37m
本体重量 6.00t
全備重量 6.62t
最大起重 2.40t
装甲材質
繊維強化金属
炭素繊維強化プラスチック
標準装備 37mmリボルバーカノン、スタンスティック、シールド、ウインチ
追加装備 90mmライアットガン


【機体概要】

日々進歩するレイバーとそれによるレイバー犯罪に対し、警視庁が採用した篠原重工製の新型パトロールレイバー、通称「パトレイバー」の一種。
作中では主に「イングラム」、「98式」などと呼ばれている。

最初から警察での使用を想定して開発された機体で、外見は『見る者にあたえる心理的影響』を考慮してデザインされており、無骨で野暮ったい一般の土木作業用レイバーとは一線を画すスラリとした人型で、いかにも「正義の味方」に見えるようなフォルムとなっている。
また人々の心理的不安を考えて、装甲は白と黒のモノクロ色、両肩には赤いパトランプなど、警察所属の機体だと一目で分かるデザインにされている。
頭部や腰部のデザインはガンダムシリーズのジェガンに似ている。

一応特殊車両の扱いのため、ウインカーやナンバープレートが付いている。
漫画版では野明が作業中に転倒事故を起こした際に、後藤隊長に現実の車両事故と同じく事故証明を取らされている。


コクピットは胴体にあるが、密閉式を採用したことによって人間的なシルエットを得ている。
しかしその結果として居住性は最悪。歩くだけでも中はものすごく揺れる。
漫画版ではシュミレーターですら慣れていないと搭乗後吐いてしまうほど。(後藤隊長曰く。『天国に行く気分で地獄行き』)
メインカメラがある頭部を破損した場合などには座席をせり上げ首の部分からパイロットが直接顔を出して有視界戦闘を行うことも可能だが、当然危険度が高い。

篠原重工が得意とするオートバランサーシステムの最新型を搭載しており、軽快と安定性を併せもった歩行能力を与えられている。
パワー系統はリニア化によって従来機に比べより強力になった。レイバーとしては初めて懸垂が出来る。
リニアの恩恵でマニピュレーターは人間に近い形状と動作を実現しており、豊富なオプションの使用が可能となっている上、コクピットに設けられたモーショントレーサーを使うことであやとりなどの複雑な作業も可能。
更に装甲には炭素繊維プラスチックを多用したため軽量で、それによって高い運動性を持つ。
どれをとっても非常に高性能な機体であり、本機の配備以前に運用されていたアスカやパイソンなどのパトレイバーを殆どの面で上回るスペックを誇る。
流石に軍用機や一部の警備用機相手では装甲・火力・パワーで負けることもあるが、マニピュレーターの器用さなど細かな技術面では同時期の機体で勝てるものはいないほどである。

また、ソフト面でもパイロットの操縦を学習させることで動作を洗練されたムダの無いものへと変化させていくという学習能力が設けられている。
これにより乗れば乗るほどパイロットの操縦に合わせた動きが可能になるが、同時にパイロットの癖なども覚え込んでしまうためパイロットの交代がしにくい弊害がある。
この操縦データは各機体のディスケットに保存されており、このディスクが機体の起動キーの役割も持っている。
なお、イングラム同士ならディスクのデータを入れ替えれることで同じ動きが可能になるが、その場合同じ得手不得手を持つ機体が二機出来上がるだけなのであまり意味が無い。


基本的に現場まではレイバー用の輸送車(レイバーキャリア)で移動し、現場では指揮車の指示を受け行動する。
輸送車にはバッテリーも積まれており、積載時に充電を行うこともできる。


漫画版では「警察用に開発された史上初の純パトレイバー」であるが、TVシリーズではパイソンが存在するため「初の純パトレイバー」の地位はそちらに譲っている。
篠原重工としては次世代レイバー開発の試作機としての側面を持って開発されており、このイングラムの運用データからAVR-0やピースメーカーといった「AVシリーズ」が作り出されることとなる。
ちなみに同じく篠原重工から陸上自衛隊に納品されたARL-99ヘルダイバーはイングラムと同時期に開発が進められていた機体であり、こちらにもイングラムの開発データが使用されている。



『劇場版2』の2002年にはレイバーの開発競争が激しくなったことから、イングラムは特車二課の主力機を全機引退。
八王子工場でデータ採取のテスト機として運用されていた。


そして時は流れて2013年
レイバー産業の衰退により、都内のレイバー犯罪発生率は大幅に低下。と言うか殆ど無い。
第一小隊は解体され、レイバー運用継続という名目の下、第二小隊は辛うじて存在していた。
その第二小隊に配備されたのは、もはや型落ちの旧式と化していたイングラムであった。
低予算の中で整備班が現地改修を繰り返した結果、メーカーサポートすら打ち切られる始末。
ロクな部品が無いので、動けばどこかしら壊れ、稼働時間も恐ろしく短い。
役目は精々、警視庁のお飾り程度であった。(シバシゲオ曰く、神社の狛犬)


◇装備

  • 37mmリボルバーカノン
右足脹脛に収納された巨大な拳銃。通称「三十七粍機動速射野砲」。
特殊なカバードホローポイント弾を発射する。総弾数6発。
初期設定では20mmだったが、なんやかんやあって変更された。
取り出す際には脹脛のカバーが開き右手首が伸びてグリップを掴む。
予備の弾を搭載する際は左脹脛に収納。ただし給弾は搭乗者が自分で行う必要がある。

軍用や一部の特殊機以外の普通の作業用レイバー相手なら1、2発程度で充分行動不能に出来る威力を誇る。
太田が使いたがる武器の十八番であり、撃つと大抵ロクなことにならない(死人は出ない)。
イングラムを使わず生身で撃ったこともある。

以下、実写版ネタバレ注意
これ以外にも、☢のマークの弾頭も開発されている。
…もはや警察の装備じゃない。

  • シールド
左手に付けられた篭手みたいなシールド。表面に白黒模様と警視庁の文字入り。

  • スタンスティック(電磁警棒)
左手のシールドに収納された警棒。使用の際には伸びて電撃を放つ。
敵機の装甲の隙間を突くことで電装部品を破壊し行動不能にするのが主なコンセプト。
勿論単純な打撃武器としても使用可能。

  • ウインチ
股間に装備されたウインチ。ワイヤー部分は特殊鋼製で高い耐久性としなやかさを両立しており、機体の保持や武器にも使える優れもの。
スパロボに出た時はこのワイヤーがとんでもない事になった。主に、戦艦どころかコーウェン君&スティンガー君すら縛り上げる長さと強度的な意味で。

  • 90mmライアットガン
イングラムの持つ最大威力の火砲。
形状はポンプアクションのショットガンで、発射すると無数の弾をばらまく。
非常に危険なので装弾したライアットガンでちゃんばらをしてはいけない。暴発するから。
ぎゃぁぁぁっ! 暴発した!! 暴発したぁぁ〜!!!

  • リアクティブアーマー
劇場版2で登場した装備。空挺レイバー用のものを流用している。
機体構造上隠せない頭部、マニュピレーター、膝下以外のほぼ全身をカバーする。
爆発反応装甲ではなく防弾服のようなもので、装備時には衣服を着ているように見える。
軍用機の機関砲の直撃を数発受けても大きな損傷を負わないなど耐弾性はそれなりに優れている模様。


【機体ナンバリング】

特車二課第二小隊に支給されたイングラムは漫画版、初期OVA、劇場版第一作では一号機と二号機だけだったが、テレビ版以降は三号機や四号機も登場した。
基本的には同型だが諸事情からそれぞれ仕様が異なっている。


◇イングラム一号機

泉 野明が搭乗する機体。
野明によってかつての愛犬の名前である「アルフォンス」の愛称が付けられる。
…が、漫画版ではその設定はなく単にイングラムと呼んでいた。
得意技は一本背負いとウィンチによる小技。
旧OVAの一話でいきなり丹下左膳になっちゃった。
野明の技量と愛情、そして信頼により、格上相手であろうとも善戦できる可能性を秘めている…のだが配属されて暫くはその愛情が強すぎて傷つけられるのさえ嫌がり取っ組み合いが出来なかった。
しかしそのおかげもあって初期の姿に近い姿を保っている。

千葉さんの妄想で飛行ユニットを搭載したことがある。
漫画1話で『飛べないんですかぁ?』あったけど


◇イングラム二号機

太田功が搭乗する機体。
当初は一号機と同じデザインだったが太田の乱暴な操縦のよって敵からの攻撃と自損事故によって頻繁に損傷。
そのせいで作品序盤ですぐに純正品の製造が追い付かなくなってしまい、仕方なくメーカーから供給してもらった試作品を使って補修している。
そのため頭と肩の形状が一号機と異なる。
得意技はリボルバーカノン。
撃つと大抵「エライこと」になる。公共物を良く破壊する破壊神。(警察なのに)
しかし、強敵の前では前座でやられる噛ませ犬なところがある
もちろん弱いわけではなく最初の劇場版終盤で無双シリーズ並の一騎当千をしたことがある(その後やられたが)。
まあ、大抵相手が悪すぎる。
頭が飛ぶのは様式美。 


◇イングラム三号機

アニメ版及びそれ以降の作品に登場。
第二小隊の人員不足のため予備機とされ、現場には出動せずデータの集積に使われていた。
その後、電子戦を得意とするレイバー「ファントム」との戦闘の際に電子戦用に改造。その際に頭部も専用のものになる。
他の機体との違いは額部分の巨大化、肩装甲。
また、劇場版2で頭部がECMポッド「メデューサ」を内蔵したものへと再び変更されたが、その理由はPSゲームで明かされている。
主な搭乗者は篠原、香貫花、南雲隊長、PSゲーム主人公。



【バリエーション】

◇AVS-98 イングラム・エコノミー


イングラムの廉価版、即ち量産モデル
1機のコストは、イングラム1機分のコストで複数体製造出来る程の低コスト。
コクピットも密閉式ではなく、モニターはあくまで補助機能。更に、乗り心地も改良される(遊馬曰く、下半身のバネがフニャフニャ)という、至れり尽くせりな機体。

しかし、所詮は安物。

国際レイバーショウ終了後に、遊馬が1号機の起動ディスケットを使用して試運転。
「護衛任務を放棄した」と激怒した太田は、実力行使で二号機に搭乗。遊馬の前に立ちはだかった。
この時隊長が止めなかったのは、エコノミーの性能テストの為。
「太田の二号機に負けるのでは話にならない」という理由から、逆に太田を挑発して勝負を挑んだ。
まさに取っ組み合いが始まろうとした瞬間、その間にコンテナを積んだトラックが乱入。
そのコンテナの中身は、何を隠そうグリフォンである。
コンテナから現れたグリフォンの不意打ちを受け、二号機はダウン。
遊馬は単機でグリフォンに挑んだ。(先述の通り、1号機のディスケットを使用しているので1号機は出撃不能)
しかし、バドの天才的な技量と、グリフォンの化物のような性能に勝てる筈も無く、成す術無くボコボコにされた。
この時内海は、「篠原はつまらん物を作ったな」と評していた。
その後、グリフォンが二号機からの銃撃を防ぐべく、あろう事か盾として使用。
そのまま放り投げられ、遊馬は負傷、二号機共々機能を停止した。

この1件により、エコノミーの配備は中止。技術者達も設計を煮詰め直す方針となった。



◇AVS-98Mk-Ⅱ イングラム・スタンダード


篠原重工製のAVシリーズの量産仕様。
TV版ではエコノミーの改良型、漫画版ではイングラムの改良発展型として位置づけられている。
イングラム同様完全な人型に近いシルエットを有しているが、コクピットハッチの開閉時には頭部が後方へ倒れるなど機構に微妙な変更が加えられている。

TV版ではエコノミーに不足していたパワーが強化されイングラムを上回るほどになっており、二課のパイロットの協力を得てデータを蓄積していた。
しかし模擬戦の結果イングラムとの性能差が期待されていたほどのものではなかったため警察での正式採用は見送られた。
その後AV-0 ピースメーカーが警察用に採用されたため、スタンダードはパワーをいくらか抑えた上で警備用として民間向けに販売された。


漫画版では「スタンダード」の愛称や形式番号の「Mk-Ⅱ」が無くなり、「AVS-98」のみで呼称。
量産機ながらほぼ全面においてイングラムと同等かそれ以上の性能を持ち、なおかつ操縦性も大幅に改善されたという中々の性能を持つ。デザインもTV版から若干変更された。
武装もイングラムと同じものを使用可能。
作中では第一小隊に配備されている。本当は新設の第三小隊に回される予定だったが、その肝心の第三小隊計画を太田が潰したため第一小隊に回った。
別の機体も訓練所にて回されており、新型ソフトウェアのテストも行っていた。野明が搭乗したこともあり、「扱いやすくていい機体」と好印象を抱いている。

石和巡査部長が搭乗した211号機は主人公・野明に迫るレベルの活躍を展開しており、初陣でグリフォンを終始圧倒するほどの実力を見せた
グリフォンの力をスポンサーたちに見せつけようとしていた内海や、イングラムに対する決着と意地をつけようとする森川が「AVSごとき倒して当然」と楽観していたのを完全に覆し、
スポンサーたちがかえって「グリフォンとはあの程度のものなのですか?」と問うたほど。内海もこの時ばかりは素で焦っている。目を見開くほどに。
最終的には敗北したが、それはグリフォンが海中に逃げ込んだため。最初から潜水を想定されているグリフォンに対して、イングラム・タイプは水に没すると機能が落ちるのである(これは先立つ「廃棄物13号事件」でも言及されている)。
終盤ではハヌマーン一台を撃破するが、同時に自らも機能停止。
212号機があっさりと破れ、太田機も大ダメージを与えるまでであった中、相討ちとはいえ唯一真っ向勝負でハヌマーンを撃破した。

対して古賀巡査が乗った212号機はあまりいいところがない。作中で二回登場して二回とも敗北している。
一応どちらも奇襲を受けたものだったが、石和部長が活躍しまくっているのにこっちは黒星続きなので……

余談だが、漫画版では本機は三機分製造されている。しかし劇中活躍したのは二機のみ。
一台はおそらく予備機もしくはパーツ取りとして置いておかれたようだが、AVSが来る前に配備されていた96式改は常に三機チームで投入されていた。
どうやらAVS配備に合わせて、第一小隊はシフトの変更があった模様。



【デザインについて】

すべて出渕裕によるデザインが基本となっている。そのため出渕穴と呼ばれる意匠がある。
デザイナーが同じなため「機動戦士ガンダム」シリーズに登場するジェガンとよく似ている。
OVAで太田がサイドアーマーにグレネードランチャーの追加を目論んでいたが実現していたらますますジェガンそっくりになっていたことだろう。

ガンダムサイドもこの辺をネタにしており、SDシリーズではジェガンベースという建前で岡っ引き風の「慈絵丸」、「自衛丸」などが登場している。
特に自衛丸はSD体型のイングラムにしか見えないうえに合言葉は「知恵と勇気」。極め付けに頭の形が違う1号機と2号機がいたりする。

また、かつて連載していたコラム「ゆうきまさみのはてしない物語」にパトレイバー完全の顛末が載っており、初期デザインのイングラムも少しだけ出ている。



【プラモデル】

放映当時、バンダイから1/60スケールの2in1のコンパチでプラモデル化された。

ちなみに、現在パトレイバーの1/60プラモデルはAから始まっているが、@は劇場版イングラムである。
劇場版イングラムは金型を改修されてAのTV版イングラムになっている。

後に指揮車,抜き手,野明&遊馬フィギュア,三号機用パーツが追加されたアルフォンススペシャル
更にリアクティブアーマー,二号機(劇場版),三号機(メデューサ)を追加した、イングラムスペシャルが発売された。

…余談であるが、付属のゴム製関節カバーパーツには、(イングラムに限らずレイバーキット共通だが)ある致命的な欠陥があった
それはズバリ、パーツを侵食するのである
不要になったプラモの部品に、消しカスを付けて数日放置してみよう。すると、何という事でしょう。消しカスがパーツを溶かしているではありませんか
これと全く同じ原理で、パーツを侵食するのである。
これにより、手間暇掛けて作った作品が悲惨な事になったモデラーもいるのでは?
更に言うと、無駄に弾力があるので関節が曲がりにくい。
せっかくなので、関節カバーを自作してみてはいかがだろうか。
使用する素材はあなた次第。


そして、2001年に1/35スケールでMG化された。
劇場版1/TV版からは1〜3号機が、
劇場版2からは1号機と2、3号機(コンバーチブル)が、
劇場版3からはライトユニット付き2号機が発売された。

ちなみにライトユニットは別売もされている。

2007年には、劇場版1/TV版の1〜3号機が作れる3ih1仕様のライトユニット付き、成形色を艶ありに変更したMGイングラムスペシャルが発売された。
…買った奴いるのか?


2014年には1/48スケールで実写版のデザインで発売された。
最新技術を用いただけはあり、可動範囲,再現度は非常に高い。特に、コクピットハッチは開閉可能、尚且つ内部の機器類まで再現する徹底ぶり。
特徴的な凄まじいディテールはスミ入れ必須。それだけで完成度はグッと高まるのでオススメ。
レイバーには必須の関節カバーパーツは、ゴムではなくビニール製。自分でシワを付けるので、金型成形よりも自然なシワに仕上がるのが売り。
付属品は、シールド,電磁警棒,泉野 明フィギュア,リボルバーカノン。
ライアットガン? そもそも実写版の世界に存在しているのか…?

余談であるが、パッケ絵について何か思う事は無いか?
何? 実写版特有の質感を表現している?
よーく見て欲しい。

1号機のポーズ、その背後に立つ2号機、1号機の左手の開き方…






お分かりいただけただろうか?






そう、先述の1/60のパッケ絵と構図が同じなのである
1号機の足の開き方や、2号機の装備は異なるが、オマージュである事に変わりはない。





野明「追記・修正ってどうやるの?」
遊馬「知恵と勇気で何とかしろ」

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