FG42

「FG42」の編集履歴(バックアップ)一覧に戻る

FG42 - (2021/01/26 (火) 19:27:47) の編集履歴(バックアップ)


登録日:2015/05/31 Sun 16:36:00
更新日:2023/03/05 Sun 16:06:01
所要時間:約 ? 分で読めます




FG42とは、第二次世界大戦においてナチス・ドイツが運用した自動小銃である。
FGとはFallschirmjägerGewehr(ファルシルムイェーガー・ゲヴェーア)の略称であり、型番を訳すと「42年式降下猟兵小銃」となる。
ファルシルムイェーガーで降下猟兵を意味するわけだが、ホントドイツ語は厨二魂をくすぐるぜフゥーハハハァー。


カタログスペック

口径:7.92mm
銃身長:508mm(I)/525mm(II)
使用弾薬:7.92x57mmマウザー弾
装弾数:10発/20発(箱型弾倉)
作動方式:ロングストロークピストン/ロータリーボルト
全長:937mm(I)/1060mm(II)
重量:4500g(I)/4900g(II)
発射速度:900発/分(I)/600発/分(II)
銃口初速:761m/秒
有効射程:550m


開発経緯

ドイツ第三帝国は世界で初めて空挺作戦を行った国である(初めて空挺部隊を大規模編成したのはソ連)。
ちなみに、「輸送機から降下する」という機材の関係からか、なぜかドイツ国防軍では空挺部隊は空軍管轄だった(普通は陸軍管轄)。
空挺降下の主なメリットは、空を経由することで迂回路を見出すことなく、効果的に奇襲と挟撃が行える、という点だ。
敵前線の後方にいきなり現れて撹乱されたところに、ドイツご自慢の精強な陸軍が突っ込んでくるのだからたまったもんではない。
実際、初戦において空挺降下による奇襲と挟撃は多くの戦果を挙げたのだが、そのデメリットもまたドイツは知悉していた。

まず第一に、降下猟兵(ドイツにおける空挺兵のこと)は降下時に極めて軽装であることを強いられる
なにせ拳銃1挺に手榴弾が少しと降下猟兵用特殊空挺ナイフ(ファルメッサー)*1だけである。スパイじゃねーんだぞ。
当時の歩兵用銃器は短機関銃を除き軒並みかさばるため、同時投下されるコンテナに積み込んでいた。
パラシュートの構造上膝から着地する*2ため、根本的に重武装降下ができないというのも理由だった。
連合軍の空挺兵がケース入りのカービンや短機関銃を携行していたのとはエラい違いである。

次にそのコンテナの問題である。まあ色々理由はあるのだが、コンテナが兵士の降下地点から離れたところに落下することがあり、
そのせいで拳銃で戦うハメになった、ということもままあった。特に被害が大きかったのはクレタ島の戦いだ(詳細はGoogle先生に相談だ)。
実は大日本帝国でも似たようなことをやらかしている。
だいたい、敵の火線飛び交う中でコンテナ探せってのが無茶なのだ。
多少降下ポイントから離れてる程度ならまだいいが、交戦領域のど真ん中に落ちてたりしたらどうしろと。

そういう戦訓が出る前から降下猟兵用に様々なライフルが試作されてはいたのだが、既存ライフル(Kar98k)改修型の場合、
強度不足が解消できなかったり(折畳式)小型化に小銃弾の大反動が相まって使い勝手が死んだり(短縮型)で使い物にならなかった。
そんなわけで降下猟兵用のなるたけ軽くて大火力な自動火器を求めるようになったモルヒネデブ、もといゲーリング元帥大閣下は、
次期降下猟兵用主力火器要求仕様書をまとめた。

それを要約すると、
  • 既存のフル規格小銃弾を使用し、
  • 現行のライフルと同等かそれ以下の重量に抑え、
  • 銃剣を用いた白兵戦に投入可能な強度を有し、
  • フルオートによる制圧射撃が可能で、
  • 全長は1m未満のカービン相当とし、
  • 簡易的に狙撃が可能なレベルの命中精度を確保し、
  • ライフルグレネードでの中距離榴弾攻撃を行えること
となり、要は「ライフルと短機関銃と軽機関銃の機能をまとめた統合汎用火器作れよ」ということ。

当時の技術レベルを考えると無茶とかそういうレベルですらない、モルヒネデブの正気を疑うダイナミック無茶ぶりである。
実際、陸軍に小火器を納入していたメーカーからは「お前何言ってんの、正気?」とそっぽを向かれたわけだが、
航空/対空機関砲を手がけていたラインメタルとクリークホフが手を上げ、1942年にラインメタルのプロトが採用された。
この辺、どうやら陸空軍間の確執的ななんかがあったせいだという説も。

ちなみに、ラインメタルが既存の機関銃生産で手一杯だったため、生産はクリークホフに委託されている。


性能や外観など

プロトタイプでは強度を優先してマンガン鋼を採用していたが、量産型ではスウェーデン鋼を多用している。
マンガン鋼は戦車にも大量に使われる重要素材のため、銃に回す余裕がなかった、というのもあるだろう。
ただ、このせいで量産性がダダ下がり*3しており、その辺良かったのか悪かったのか……

銃身からストックまでが一直線上にあるデザインは、昨今の歩兵銃では当たり前だが当時は珍しかった。
当時の歩兵銃は大半が曲銃床で、直銃床は機関銃くらいだったのだ。
銃剣は専用品が用意されており、普段は銃身下部の筒状の鞘に収納されているが、
引き抜いてひっくり返し、元の位置に突っ込めば使えるようになっていた。
ただし他の銃剣と違い、プラスドライバーのようなスパイク型だったため、缶切りや枝払いには使えなかった。

機関部は珍しい作動機構を備えており、ボルトの位置がセミオート時はクローズド、フルオート時はオープンとなる。
フルオート時の排熱効率と、セミオート時の精度を両立させようとしたもののようだ。
榴弾発射に対応した航空機関砲に類似した設計で、利点としてはコックオフ*4に強い。
この辺はラインメタルならではと言えるか?

拳銃でもあるまいに、機関部がグリップ直上にあるという点も珍しい設計と言えるだろう。
普通、機関部はグリップよりもやや前方にある。マガジンハウジングなりベルトリンクの接続部がその辺に位置するから当然だが。
本銃の機関部レイアウトは精度を確保しつつ銃身長確保と全長短縮を狙ったもので、ブルパップに近い設計思想と言えなくもない。
銃身長確保とは言ってもKar98kに比べて9cmも短いため、マズルフラッシュはかなり大きい。
具体的には「射手の夜目が利かなくなり、デカい発射炎めがけて全力で反撃される」レベル。
フラッシュサプレッサー着いててこれだよ……

銃の上下にマガジンハウジングを用意できなかったので、装填様式はレフトサイドローディング。
機関部左側にマガジンハウジングを設け、そこから給弾する。
用意された箱型弾倉は10発ないし20発だが、10発の方は全くと言っていいほど使われなかったらしい。
まあ、フルオート対応で10発というのは、いくら何でも少なすぎるしね。
機関部右の排莢口にはクリップ用のガイドがあり、ここにクリップを当てて指で弾だけを押し込むことで、
1発1発弾倉に手で押し込むよりも迅速確実に充填が行えた。何より弾倉外さずに弾込めできるというのがいい。

伏射などでのフルオート制圧射撃を考慮して、バイポッドが標準装備されている。
しかし初期型のは展開後の固定機構がなく、フルオートで撃ってると勝手に畳まれて難儀する者が続出したとか。
同時に精度がそれなり以上に高かったので、光学スコープを装着すればマークスマン・ライフルとしても使えた。
ただ肝心のスコープがクセモノで、対物レンズが小さく集光能力が低いわ、レティクルが無駄にデカいわで、
400mも離れるとまともに対人狙撃ができないというからお察しである。
カール・ツァイスを擁し光学機器に強いドイツらしからぬポカだが、実際何があったんだろう?

ここまでで述べられてないから薄々感づいてるアニヲタ諸氏も多いだろうが、強度上の問題を解決できなかったため、
ライフルグレネード対応だけは達成できなかった。
いや、こうも過酷な要求の大半を実現したというだけでも、ラインメタルの技術力は相当凄いのだが。


実戦運用

記録に残っている中で初の実戦運用は、オットー・スコルツェニー麾下のコマンド部隊が参加した、
ムッソリーニ救出作戦であるとされている。
44年頃からは降下作戦自体あまり行われなくなっていたが、降下猟兵の中核自体はその練度の高さから、
歩兵としても有用だったため、火消し的遊撃戦力として扱われる過程で本銃も実戦をくぐり抜けていったと思われる。

しかし、もとより複雑な構造で部品点数が多く、高価なスウェーデン鋼を多用していた上に、
既存の生産ラインに無理やりねじ込んだモデルの量産点数が伸びようはずもなく、
最終生産予測点数はだいたい7,000挺前後と言われている。
……どうあがいても降下猟兵にすら充当できてません、本当にありがとうございました。


露呈した欠点と改良

ある意味当然と言えばそれまでだが、サイドローディング式なので左右の重量偏差が酷い。
また、だいぶ頑張っているとはいえやはり銃身はそこまで長くなく、機関銃としては威力・有効射程ともに低い。
それに上述の欠点も相まって、材質のグレードを落として量産性を上げつつ、悪影響を出さない改良型が作られた。
そのバリエーションは以下を参照。

FG42/I(Iは戦後に付けられた便宜上のコード)

初期型。異様に斜めった急角度の金属製グリップと、同じく金属製ストックが特徴。
また、バイポッドが銃身の中間辺りに接続され、銃身方向へ折り畳む仕組みになっている。
上記性能は概ねこの初期型に沿ったもの。生産点数は2,000挺前後とされる。

FG42/II

後期改良型。スウェーデン鋼を使わず強度を確保するため、各部が多少大型化して200gほど重くなった。
プラスチックに材質が変更されて寒冷地でも使いやすくなった、普通のピストルグリップを持つ。
また、ストックも木製に変更され、形状も多少変更が加えられた。
フラッシュサプレッサーも改良されて蛇腹のような形状になり、バイポッドはその直後へ移された。
ロック機構もちゃんとあるので、フルオートで伏射しても安心。

フロントサイトカバーやマガジンハウジングの蓋が設けられたり、細かい部分も改良されている。
しかし、排莢口にディフレクターが設置されたことで、弾倉への弾込めが手動でしかできなくなった。
5,000挺前後が生産されたとみられる。


余談

  • その1.アメさんご乱心?
鹵獲された本銃(多分/II)は米軍にテストされ、意外なほどの高評価を受けたという。
「欠点結構あるし、ライフルとしてはともかく軽機関銃としちゃ中途半端なのに、買いかぶりすぎじゃね?」
という意見ももっともではあるが、超過酷な要求をほとんどクリアしているという点では、確かに好評なのもわかる。

が、M60作るのに機構を模倣するのはいいが、ほとんど同じトラブル頻発ってのはどうなのよ……

  • その2.落下傘deファイヤー!
空挺降下の際に携行したまま行けるように小型軽量化したのだ、という主張は結構いろんな所で見る。
降下中に制圧射をするための急角度グリップなのだ、とも。
ウィキペディアにもそう書いてあるので、それが正しいんじゃないかと思ってる人も案外多いのではなかろうか。

だがしかし、理論上も実際にもんなこたぁ不可能なのだ。
概要でも触れたが、ドイツ軍のパラシュートは腰に固定するのだ。必然、降下ポジションは前のめりとなる。
降下時に前のめりなんだから、必然的に着地も前のめりである。

さて問題です、そんな体勢で長物持って降下したらどうなるでしょう?……考えるまでもなく、顔面ぶつけて鼻血ブーである。
だいたい当時のパラシュートは落下速度減衰効率も低く、1.5~2mくらいから飛び降りる程度の衝撃が来る。
前のめりの体勢で膝から着地して、手がふさがってたらヘタすりゃ頭打って死にますがな。

ということで、降下時に携行も降下中制圧射も不可能です。
どーしてもやりたかったら最後の大隊みたく吸血鬼になってからどうぞ。


登場作品

アニヲタ的にはCall of Dutyシリーズ(第二次大戦が題材のものに限る)みたいなFPSか、
HELLSINGあたりに手を出しとけばいいんじゃないかと存ずる。








追記・修正は落下傘降下中に制圧射撃しながらお願いします。

この項目が面白かったなら……\ポチッと/