怨恨/Rancor(MtG)

登録日:2011/07/19(火) 10:45:28
更新日:2022/01/14 Fri 23:58:51
所要時間:約 5 分で読めます




憎しみは、憎むべき者が死んだ後まで残る。



《怨恨/Rancor》はTCG「Magic the Gathering」のウルザズレガシーに収録された緑のエンチャント。レアリティはコモン


当時、個別エンチャント(現在でいう「オーラ」)強化計画なるものが進行していた。

個別エンチャントはいわゆるエンチャント(クリーチャー)と呼ばれるもので、《セラの抱擁/Serra's Embrace》や平和なべ*1……もとい、《平和な心/Pacifism》のように、クリーチャーの強弱に強く干渉するものが多い。

だが、これらは「エンチャントされたクリーチャーが戦場を離れてしまうと、同時に墓地に置かれてしまう」デメリットがあるため、アドバンテージを失いやすい代物でもあった。クリーチャー除去がそのままエンチャントまで除去してしまうのだ。
また「クリーチャーにつける」という性質上、クリーチャーと一緒に存在しないとそもそも使用することすら出来ないという地味に大きな問題もあった。
個別エンチャントばかり手札に来てしまい展開することが出来なかったり、つけようと思っていたクリーチャーが先に除去されてしまったなどで、手札で腐ってしまうこともある。当然これらのが起こり得る以上、逆にクリーチャーはきたけど肝心のエンチャントが来ねぇ!というパターンも普通に起こる。
かといって装備品みたいに「先起き」することも出来ないのでマナやテンポの問題もある。

つまり単体では上手く機能せず、そのくせ簡単に除去される&された時のリスクが大きすぎてリターンが釣り合ってなかったのだ。

そのためよほどの能力が無い限り、個別エンチャントはデッキビルダーたちからは見向きもされないものとなっていた。

そこで打ち出されたのが個別エンチャント強化計画である。
このままでは個別エンチャントが空気になってしまう。そう危惧したカードのデザイナーたちは、個別エンチャントの性能を引き上げ、トーナメントでも十分に活躍できるようにデザインすることを試みる。
コスト・パフォーマンスを良くしてみたり、インスタントタイミングで唱えられるようにしてみたり*2
いろいろと試してみたのだが、それでもどうもうまく行かず、ほとんどのカードは構築レベルに達しなかった。




前置きが長くなったが、そうやって産み出された一枚がこれから紹介する怨恨である。
テキストはこちら。









怨恨/Rancor
(緑)
エンチャント:オーラ(Aura)
エンチャント(クリーチャー)
エンチャントされているクリーチャーは、+2/+0の修整を受けるとともにトランプルを持つ。
怨恨が戦場から墓地に置かれたとき、怨恨をオーナーの手札に戻す。





デザイナー「やりすぎちゃった。てへ☆」


ふざけんな、この野郎。
当時のあらゆるプレイヤーがそのカードを見た時に度肝を抜かれた。

これはエターナルエンチャントと呼ばれる個別エンチャント強化計画の一環であり、「永久に使える個別エンチャント」をテーマにデザインしたらしいが、明らかにやりすぎである。



たった緑マナひとつで+2/+0の修正を受ける上に、トランプルまで付いてくる。いくらタフネスが上がらないからと言ってもこれはひどい。同コストの黒のエンチャント《邪悪なる力/Unholy Strength》も強力な個別エンチャントだったが、タフネスが上がるそちらに比べてトランプルが付く分、突破力では圧倒的にこっちのほうが高い。


更にこのカードには以下のテキストがある。

怨恨が戦場から墓地に置かれたとき、怨恨をオーナーの手札に戻す。



つまり。
エンチャントされたクリーチャーが戦場を離れようが、怨恨が《解呪/Disenchant》によって破壊されようが、墓地に置かれた怨恨は手札に帰ってくるのだ。

前述の個別エンチャントのデメリットの内、クリーチャー側が除去された時のディスアドバンテージ面の問題を解決している。これするぐらいならもういっそ装備品にしちまえよ…
さらにエンチャントそのものにも一定の除去耐性が付くという脅威のおまけつきである。

その上でマナ・コストやトランプルなどの強化を考えると、壊れたカードだと言える。


ただし一応弱点として、唱えた際に対象にとったクリーチャーが除去されると、対象不適正になり怨恨は直接墓地に行くため、「戦場から墓地に置かれたとき」を満たさずに、墓地から帰ってこない。
さすがに手札水増しの代表格たる《ゴブリンの太守スクイー》のようにはいかない。


それでも性能はエンチャントの区切りを通り越える程に当時のカードとしてはぶっちぎっているのは間違いなく、
最終的に「最強のエンチャント候補」と評された怨恨は、すぐさまトーナメントでも活躍することになる。
その中でも有名なのはやはり【ストンピィ】だろう。

《飛びかかるジャガー/Pouncing Jaguar》や《アルビノ・トロール/Albino Troll》のような緑の軽量ながら優秀なサイズを持ったクリーチャーによるビートダウンで、使い回しのきく怨恨がそれらのクリーチャーを大きくサポートし、トーナメントでも勝利に導いた。
手当たり次第に貼り付けて討ち死に上等で殴り込んでくるのはもはや怨恨でもなんでもなくただの恐怖。


また、その何度でも使える特性を活かして、コンボデッキも多数作られた。
エンチャントレス】などはその中でも特に有名だろう。

その中でもエンチャントを喰う事ができる《オーラトグ/Auratog》とエンチャントが戦場に出るたびにカードが引ける上に被覆を持った《アルゴスの女魔術師/Argothian Enchantress》を利用した【オーランカー】が有名。《怨恨》を出しては《オーラトグ》に食わせ……を繰り返し、アルゴスの女魔術師によって莫大なドローアドバンテージを得る、なかなかに強力なデッキであちこちでプレイヤーを泣かせた逸品である。
ついでにマナの量だけ《オーラトグ》がパンプアップするので、トランプルダメージで本体へ数十点の打点を叩き出せる。というか女魔術師がいなくてもこの2枚だけでコンボなので、スキを見せると一瞬でライフが消し飛ぶ。



現在。
個別エンチャントより使い勝手が良いカードが多くなった今でも、その高性能っぷりから今なお愛用されている。そのためか、コモンでありながら発売当初から一枚500円前後の高価格が付いた。店によってはレアカードを陳列する棚に一緒に並べていたほどだった。流石に下記のM13の再収録後値段が下がったが、それでも(元)コモンとしては破格の150~200円クラス。ウルザズ・レガシーのFoilなら余裕で4桁に突入する。

もし触れる機会があれば、その強力なカードパワーを一度試していただきたい。


なーんて思ってたら基本セット2013にてまさかの再録。
基本セット2010における稲妻のような、過去の強力なカードを再録していく方針でも固まったのだろうか?
同時にアンコモンに格上げされた。
これによりモダンでも使用可能になり、【白緑/バント呪禁オーラ】をTier1.5~2まで引き上げる原動力に。
地味に喜んだのはMagic OnlineのPauper民、MO上ではウルザブロックがサポートされてないため、ガラクvsリリアナのような特殊セットから入手するしかなかった。
これが期間限定販売*3だったため、下手なレアより高かったのである。
M13導入でかなりの枚数が出回って値段が落ち着いたのである。

またこの再録の際に、ある噂に一つの決着がついた。
その噂とは、
「《怨恨/Rancor》のマナ・コストはテキストミスだったのではないか?」
というものだ。確かに使い回しが効く割に軽いがために強すぎる。
まぁこの手の噂は昔から数多く流れており、亜種や下位互換を作るのにけして消極的ではないWotCのことなので
もしテキストミスだったとするなら(1)(緑)や(2)(緑)の下位互換でも作って適正なマナ・コストのカードを刷ってただろう。

…が、公式によるとガチでテキストミスだったらしい。
正確に言うと、開発はギリギリまで(緑)と(1)(緑)で悩んで(1)(緑)を選択したらしいのだが、
カードの原版ができた段階(作りなおすのはめちゃめちゃコストと時間がかかる)では(緑)になってしまっていたという。

「・・・ま、いっか☆」

良くはないだろ。
こんな風に自分のミスを認識していながらいけしゃあしゃあと再録するのがWotCである。覚えておいて良いだろう。ここ、試験に出るよ。

まぁ実際問題クリーチャー含め全体のカードの良質化が加速している現在、
このカード一枚が環境をいっぺんに塗り替えるという気配もない。
稲妻再録時と同様、今やカードパワー的に適正であると判断しただけかもしれない。

なぜか初出時にコモンだったのでPauperでも使える。
【ストンピィ】や【ボーグルズ】などに投入されている。適当な2/2クリーチャーにこれが付くだけでも辛い。
回避能力持ちや除去耐性持ちに付けられたら悶絶モノである。
今日も誰かが除去できないトランプルで死んでいる。



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最終更新:2022年01月14日 23:58

*1 旧フォントだと「な心」の字が「なべ」に見えた事からのスラング。基本セット2015でフォントが変わった事で、分からなくなる日も近い…。

*2 いわゆるインスタントメント

*3 オンラインでも紙とほぼ同じ期間しか販売されないため。