オオカバマダラ

登録日:2009/05/27(水) 16:36:20
更新日:2024/01/21 Sun 16:38:37
所要時間:約 5 分で読めます





オオカバマダラはチョウ目(鱗翅目)・タテハチョウ科・マダラチョウ亜科に属するの一種である。
学名はDanaus plexippus(仮名転写:ダナウス・プレクシップス)。
漢字表記は大樺斑。

成虫の前翅長は5cm程度。
鮮やかな橙色の翅は白い斑点の入った黒に縁取られ、黒い筋(翅脈)が入っている。

↓こちらがその姿



ご覧の通り、ごくごく普通な感じのキレイな蝶である。


生息地は北米から中南米。
日本では、季節風や台風に乗って小笠原諸島や南西諸島などに「迷蝶」としてたどり着くことがたまーーにあるといった程度で、定着はしていない(余談だが一応、南西諸島には近縁種のカバマダラ、スジグロカバマダラが生息している)。
まあつまりは、国内で日常的にみかけるものではない。


以上をまとめると、

見た目:キレイだけど正直普通…

大きさ:5cmって普通だよな…

生息地:とりあえず身近にゃいねえよ


という、項目を立てたものの、ぶっちゃけこれといった特徴も身近さもない、超マイナーな虫……




と思いきや、国内でも意外に知名度がある。
虫好きならば、きっと「ああこいつね」と思うことだろう。


知名度の所以となるのは、その生態。
その辺のチョウにはない、変わった生態を持っているため、時折テレビ番組で変わった生き物として取り上げられることもある。



その生態というのが『渡り』である。

彼らには、いわゆる渡り鳥と同じく、季節により棲みかを変えるという習性がある。
その範囲は、主な生息地である北米大陸から南米大陸にかけての南北3500kmにも及ぶという広大なもの。
この長い距離を北から南へ、南から北へと、渡り鳥のように渡りをして生きているのである。
俺達の移動範囲など井戸の中同然である。
また、南下は1世代で行われるが、北上は3世代から4世代かけて行われるという。


ハンパねぇ。





……と、ここまでで

(あ、そんなことっすか)

と思った君は甘い……甘いぞ!
イギリスのクリスマスプディングのように甘甘だ!



ツバメやハクチョウなどの渡り鳥ですら群れを成すのだから、まして彼らより小さく非力な蝶が、
危険な渡りをするにあたり群れないわけがないのだ。



さてその数は一体どれほどか?
1000?
1万?
それとも100万?





驚くなかれ、
その数なんと、1億から1億数千万と言われている。

一回の渡りで、軽く日本の総人口を超える数のオオカバマダラが生まれ、旅をし、死ぬのである。
黒鉄病が蔓延したってここまでの蝶は出てくることはあるまい。
これはもうちょっとしたゲルマン人大移動といえよう。いやそれ以上である。



で、その1億数千万のオオカバマダラが、世代交代をしながら季節ごとに渡りを繰り返すのだが、
越冬するのはなぜか決まってメキシコ・ミチョアカン州の森林地帯限定である。


「へー越冬なんかするんだ」
とか言ってる暇はないぞ、とにかくそれが








なのだ。





まずもう多い。

とにかくひたすら多い。

どのくらい多いかと言ったら、その羽ばたく音が聞こえるくらいである。


この日本に、目の前をよぎるアゲハチョウの羽音を聞いた者がいるだろうか? いや、いまい。
5cm程度の蝶ごとき一匹が羽ばたいたところで、ヒトが認識できるほどの音など起きるわけがない。
当たり前である。

しかしそこは1億数千万のオオカバマダラ。
その数で一斉に羽ばたくと、


パタパタ…×100,000,000
「あれ、川なんてあったっけ?」


こうなる。

マジでこうなる。

さすがに波涛のような激しさはないものの、『サラサラサラ……』と小川のせせらぎのような音が、そこかしこから聞こえてくるのである。
さながら蝶版スイミーと言ったところか。

単に『蝶がたくさんいる』としか知らずにそこへ行き、それに気づくと、
人は未知の体験に鳥肌が立つほど感激するという。





さて長旅の疲れも激しいオオカバマダラinミチョアカン。
越冬するのだから休まねばならない。
ちょっと枝振りのいい木を見つけてその枝にランディング!


……しかしそこは1億数千万匹。
一ヶ所に集結してしまうと、それはそれは熾烈なイス取り合戦が始まるのだ。


オオカバマダラA「はいごめんよ、ちょっと詰めておくんな」

B「うるせー!おめーの席ねェーから!」

A「そんなつれねえこと言いなさんな、ほれ、そこのそれ、隙間入れてくんな」

C「イテッ!てめ足踏んでんじゃねーぞゴルァ!!」

A「あぁすまねぇな旦那、どうにも狭くっていけねえや」

D「……あ、あの……そこ、手、当たってます……///」


そんなこんなで、多い時には一枝百万匹
やけにモサモサと垂れた枝があるなと思ったら、それが全部、留まってるオオカバマダラだったりする。

下手すると枝が折れることもあるというからこりゃもう笑うしかない。
あっはっは! あーはっはっはっ!




とまあこれだけの圧倒的スケール。
金儲けにならないわけはなく、観察しに行くだけの旅行ツアーがいくつも存在する。
さらには特殊な生態系の貴重な例でもあるため、メキシコやアメリカで州の蝶に指定されたり、果てはその森林地帯が世界遺産にも登録されたりしている。
恐るべし。



つらつら述べてきたが、まあ論より証拠。
気になる人は群れてる様子をGoogle先生等で画像検索してみると良いかもしれない。



……言うまでもなく自己責任デスヨ?



ちなみに上の方でキレイと書いたが、実は鱗粉や体内には、鳥にとって有毒な物質が含まれている毒蝶だったりする。
というか、マダラチョウの仲間は全て毒蝶である。
幼虫時代にトウワタという毒草を食べることで、その成分を体内に蓄積するのだとか。


普通に一匹見る分にはキレイなんだがなぁ。




そう、群れてさえいなければ、ね……。




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最終更新:2024年01月21日 16:38
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