ラグラン・グループ

登録日:2012/09/10(月) 23:13:23
更新日:2024/01/24 Wed 01:17:41
所要時間:約 3 分で読めます





ラグラン・グループとは、大河SF小説『銀河英雄伝説』作中に登場する架空のグループである。
とは言っても登場するのは本編ではなく、途中に挟まれる前史のページにおいてであり、何と本編の900年前の存在である。
作中の登場人物からするとただの歴史上の人物。


ラグラン・グループとは宇宙各地の惑星に移民した人類を地球統一政府の強権的な支配から解放したシリウス政府の中心となった4人のこと。当時は地球統一政府による植民星からの資源や食糧の収奪に等しい経済支配やそれに伴う格差問題が深刻化し、対立も先鋭化の極みに達した結果、地球軍が反地球急先鋒のシリウス政府に先制攻撃を仕掛ける形で武力衝突が発生。その際に発生した地球軍の民間人無差別殺戮事件「ラグラン・シティー事件(ブラッディ・ナイト)」が発端となった。


4人は全員がラグラン・シティー事件(ブラッディ・ナイト)での地球軍による殺戮行為の被害者であり、このことから4人は地球政府打倒の中心となる。


結成までの経緯

シリウス戦役時に発生したラグラン・シティー事件でのこと。


25歳の放送記者のカール・パルムグレンは事件当時、地球軍の検問にあって所持品検査に拒否したためレーザー銃で乱打され重傷を負った。液体ロケット燃料をかけて焼かれる死体の山の中で意識を取り戻し、その煙にまぎれて逃亡した。

金属ラジウム鉱山の会計係で労働組合の書記を務めていた23歳のウィンスロー・ケネス・タウンゼントは、アパートの窓から軍隊のパレードを見物していたところを酔った地球軍兵士に銃撃され、彼の側にいた母親を殺された。訴えを無視されたうえにかえって母親殺しの罪を着せられたため、鉱山に逃げ込んで姿を消した。

医科大学の付属施設で薬草学を学んでいた20歳のジョリオ・フランクールは、恋人を暴行した地球軍兵士を殴り倒した(原作では分厚い薬草図鑑で地球軍兵士の頭蓋骨を砕いた)ために逃亡者たることを余儀なくされる。(脱出後に恋人は自殺)。

政治にも革命にも関心を持たず音楽学校で作曲を勉強していた19歳のチャオ・ユイルンは、地球軍の無差別射撃で親代わりに育ててくれた兄夫婦を殺され3歳の甥を抱いて脱出した。
この4人は西暦2691年2月に中立地帯であったプロキシマ系第5惑星プロセルピナで一同に会した。


後世では4人の役割分担は正に適材適所の模範と称されている。

パルムグレンは高潔な理念と卓越した言論によって反地球統一戦線の象徴的な指導者となり、反地球陣営市民の育成と啓蒙に力を尽くした。

タウンゼントは行政処理能力で経済基盤を整え、野心的な経済改革により低開発惑星の生産性を飛躍的に向上させることに成功した。

フランクールは反地球戦線の実戦部隊である黒旗軍(ブラック・フラッグ・フォース)を整備、総司令官として烏合の衆でしかなかった革命派を精強な軍隊に再編成。当時の地球軍の3提督を第一次ヴェガ星域会戦で打ち破るなど優れた指揮官でもあった。

チャオは情報・謀略・破壊工作を担当し、下級悪魔も鼻白む程の悪辣な謀略を繰り返した。ラグラン・グループが反地球戦線で主導権を握るためにシリウス旧首脳部を地球のスパイとして追放したのを手始めに、当時地球艦隊を指揮していた3提督が第一次ヴェガ星域会戦にて敗退した際の不和に付け込んで、彼らを共倒れさせるなど辛辣な策略に手腕を発揮した。

結果、彼らの活躍により西暦2703年には地球は食料・資源・エネルギーの供給源を失い、完全な孤立状態となる。第二ヴェガ星域会戦では6万隻(OVAでは2万隻)の地球軍がわずか8千隻(OVAでは6千隻)の黒旗軍に敗れる醜態を示し、地球軍側の指揮官達の人材も既に払底していた。

翌年には地球圏に到達した彼らは全面攻撃を主張するフランクールと、既に地球上が飢餓寸前に陥っている事から地球政府に降伏を促す事を主張したチャオ・ユイルンの間で意見対立こそ起きたが、折衷案の採用により地球は2ヶ月の持久戦の末に総攻撃を受ける。

ラグラン・シティー事件が規模を100倍にして再現された」と後世に評される程の凄惨な大量殺戮が地球全域で3日間も続けられ、地球は壊滅。地球統一政府も事実上消滅した。わずかに生き残った6万人余りの政府・軍部の高官達が戦争犯罪人として大量処刑される事件が虐殺の締めくくりとなった。


かくして、反地球勢力は地球政府を打倒したのだが、その後の体制が彼らの元治められたかというとそんな事はなかった。
むしろラグラン・グループはあっけなく崩壊してしまうのである。


シリウス戦役終息後の2706年、革命と開放の象徴であったパルムグレンが風邪気味の体調をおして、対地球戦勝記念館の式典に参加したが悪化し、悪性の肺炎を誘発した結果、42歳の若さであっという間に病死した。この時パルムグレンは「あと5年でいい、死神に待ってもらえたら」と信頼できる医師に漏らしおり、ラグラン・グループ内の結束の薄さを懸念していたと思われる。もしかしたら、彼の足に絡まっていたのは死神ではなく何十億という地球市民の怨霊だったのかもしれない。


パルムグレンの死後、3ヶ月と経たずして首相となったタウンゼントと国防相のフランクールの間に致命的な亀裂が生じた。当初は地球の旧体制を経済的に支えた巨大財閥群『ビッグ・シスターズ』の処遇に関しての事で、戦場では広い視野と柔軟性を示していたフランクールが政治の世界ではやたら原則に拘り解体を主張、しかし経済担当のタウンゼントはビッグ・シスターズの経済力喪失を容認せず新体制の経済に組み込むことを主張。両名の意見の相違はやがて感情的対立となり次第に修復不可能なものへと変わっていった。
フランクールは合法的に政権を獲得するつもりだったが、経済界に根を張っているタウンゼントの勢力を動かしがたいと判断し、クーデターによる政権奪取を計画。しかし、彼に解雇されたことで恨んでいた元将校がその情報が直前にタウンゼント側に密告し、クーデターを実行する朝に公安によって射殺される。その時フランクールはクーデターの命令を出すために電話機に手を伸ばした直後だったとされており、正に秒単位の差で失敗して殺された。

彼の死により実戦部隊の黒旗軍(BFF)はタウンゼントの手足となるべく苛烈な改編を被り、フランクールを支えたBFF十提督はこの改編で何と7名が殺害されており、生き残りは僅か2名となる(1名は既に病没)。

チャオは副首相などの様々な公職の内示を受けていたが、地球政府が崩壊すると自分の役目は終わったと言わんばかりに、ラグラン市に帰って音楽学校を開いた。彼はそこで子供たちに歌を教え、お菓子を与え、長閑に暮らす現状に満足しており、むしろ彼に言わせれば「政治と革命という熱病から解放されて、元に戻った」という事であったという。しかし、彼の謀略面の能力はタウンゼントにとってはもはや自分の地位を脅かす脅威でしかなかった。
その後ラグラン市のチャオの元に逮捕状を持った捜査官8名が向かい、チャオに手渡された逮捕状には「ラグラン・グループが革命派で主導権を得る際に、チャオの謀略で粛清された革命家の死の責任」が問われていた。チャオは甥のフォンには「私にとって謀略とは芸術だったが、タウンゼントにとってはビジネスだった。私が彼に敗れたのは当然だ。誰を恨みようもない」と述べた。
フォンは叔父に脱出を勧めたが、彼はそれを断って先日購入したオルガンの支払書にサインを行い、それを甥に手渡した。その僅か20分後にチャオは睡眠薬で死亡しているのが発見される。
…が、音楽学校の生徒が「校長先生の部屋から出てきたこわい顔の男が気持ち悪そうに濡れたハンカチを広げている」光景を目撃しているなどの状況から、チャオは自殺したのではなく謀殺されたとみて間違いないだろう。


タウンゼントは自己の正義を実現させる独裁権力を手中にした。しかし2707年、対地球戦勝記念祭に参加するために会場に向かう途中、会場に爆弾が仕掛けられているとの情報を受け、官邸に引き返す途中に地上車に打ち込まれたロケット砲で消し飛ばされてしまった(OVA版では車に乗り込む前に民衆に対して手を振っている際に、中性子爆弾を撃ち込まれ、周囲の市民諸共吹き飛ばされる)。
その犯人は一説にはチャオの甥であるフォンであるとも言われたが、事件後の後述の大混乱もあり、公安局の調査も徹底されなかったため、暗殺の真相はついに発覚しなかった。
いずれにせよ、この爆弾テロによりラグラン・グループ最後の1人も物理的に消し飛んでしまったわけである。

タウンゼントの死によりラグラン・グループは名実共に消滅し、彼の剛腕に支えられていた新秩序もそのまま霧散した。タウンゼントが育てた官僚達の「タウンゼント個人への忠誠心」は何の求心力にもならなかった。政府機構が混乱している最中、彼の権力により押さえつけられていた黒旗軍は委縮していた感情を暴発させて、激発した。統制を失い、いくつもの勢力に分裂し、一気に植民諸惑星は終わらない内戦へと突入してしまった。
抗争の時代が幕を上げる。


ラグラン・グループ全員の死後、1世紀近い混乱の時代を迎える。本格的な脱地球を果たした人類の再統一には西暦2801年の銀河連邦により改めて達成されることになる。

また、ラグラン・グループ瓦解による一連の混乱により人々の視線は完全に地球から離れる事になった。当時の地球は生存資源が乏しく、地球残留市民達が生き残りを賭けた内戦に突入していたが、既に富も資源も武力を失った地球に興味を持たず、そのまま他の星々は放置してしまう。しかし、地球統一政府の残党勢力は密かに再結集し、いつか再び地球を人類の中心へ回帰される事を目論んで「地球教団」を設立。地球教により地球は再び統一され、密かに帝国と同盟の争乱に付け込んでフェザーンの設立や信徒の拡大など両勢力に一定の影響力を持ち続けながら、本編に繋がっていく。


結果

結果的に彼らは地球統一政府の圧政より宇宙を解放する事には成功したが、新秩序に導くことはできなかった。彼らは元々パルムグレンの人望と反地球という感情により纏まっていたに過ぎなかった為、地球政府の滅亡とパルムグレンの死を持って一気に仲違いし、破滅へと向かった。

パルムグレンの月日が後5年あれば宇宙暦は90年早くなったと言われており、死を惜しむ声が多い。その反面で、後世のルドルフの40億虐殺が自由惑星同盟などでは非難されているのに対して、本編中では彼らの地球虐殺はあまり批判の対象になっていないようである。
ただし、作中で『蛮行』として非難されているラグラン事件「血染め夜」と比較して「ラグラン事件の惨劇が百倍の規模で再現された」と評されており、少なくとも地球虐殺は歴史上の痛ましい事件と見られている。
事実、地球人口1000万は最盛期の0.1%未満と発言されており、虐殺直後の生き残りが10億だった事から少なくとも90億近い犠牲者が出ていると想定されるため、地球圧政からの解放者と見られているラグラン・グループも、この件は流石に全面的な肯定で見られている訳では無いと思われる。
恐らくは彼ら自身が被害者であった事や地球からの解放を喜んだ人々が多かった事や既にシリウス政府や銀河連邦などのその後に影響力を持った組織も消滅しており、ゴールデンバウム王朝が存続しているルドルフとは違い、作中の時間軸で政治的な影響を与える要素が無かったことも原因であろう。

また、地球教団など後世に悪影響を持つ組織の誕生のきっかけにもなってしまっており、時代の破壊者までにしかなれなかった集団といえるかもしれない。

追記・修正お願いします。

この項目が面白かったなら……\ポチッと/

+ タグ編集
  • タグ:
  • わりと自業自得
  • 旧時代を壊すことよりも新時代を築くことの方が遥かに難しい
  • 地球教の初仕事
  • ラグラン・グループ
  • 虐殺者
  • カール・パルムグレン
  • ウィンスロー・ケネス・タウンゼント
  • ジョリオ・フランクール
  • チャオ・ユイルン
  • 復讐者
  • 革命家
  • 架空の組織
  • 因果応報
  • 四人組
  • 銀英伝
  • 銀河英雄伝説
  • 革命

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

最終更新:2024年01月24日 01:17