森口悠子

登録日:2014/06/08 (日) 00:01:09
更新日:2024/01/02 Tue 21:56:50
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牛乳を飲み終わった人から、紙パックを自分の番号のケースに戻して席に着くように。




森口悠子は、湊かなえの小説『告白』の登場人物の一人。


地方の郊外にある市立S中学校に務める理科教師であり、当時は1年B組の担任を務めていた。
生徒を呼び捨てにせず一歩距離を置くというスタンスを取り、俗に言う「熱血教師」からは程遠い様子。
学年テストの順位を公表することから一部の保護者からは反感を持たれていたようだ。
また、生徒からメールで呼び出しを受ける際は女子の場合にのみ駆けつけるという方針だったため、一部の男子からよく思われなかったらしい。

なお、教師になったのは奨学金返済免除が目当てで、当初はまだ「熱血」教師を目指していた頃もあったらしい。

四歳になる娘、愛美を女手一つで育てたシングルマザーであり、保育所に通わせながらも教師と母親の両立を続けた。
そんな中、彼女を迎えに行き面倒を見ていたシルバー人材派遣センターの竹中の入院により、自分で愛美を迎えに行くことになる。
その際職員会議の長引く水曜日にだけ学校の保健室に愛美を預けていた。

だが2月13日の水曜日、校内に預けていたはずの愛美が姿を消し、水の張られたプールで水死体となって発見された。
警察は誤ってプールに転落した事故死と判断し、森口自身も大きなショックを受けたようで、
翌月の3月、終業式の日をもって教師を辞職すると発表。

S中学校を去った後の行方はつかめていない。


























ではなぜ辞職するのか?
愛美は事故で死んだのではなく、このクラスの生徒に殺されたからです。




辞職する終業式、乳製品促進運動の一環として生徒達に牛乳を飲ませた後、森口はB組の生徒達に向けてある告白をした。

教師になった理由、話題の熱血教師桜宮正義、生徒との信頼関係の欠如、大切な娘愛美とその死…。

それに加えて彼女は前述の決定的な言葉を告げた。

一気にその言葉で生徒達の関心を引く森口。
それから彼女は自身で調べ上げた愛美の死の真相をつらつらと述べる。
そこでは犯人の名前を「A」、「B」と伏せていたが、犯人達のプロフィールを分かりやすく言ってるのでバレバレであった。

そしてその犯人―――首謀者で感電装置を作り上げた「A」こと渡辺修哉、共犯として気絶した愛美をプールに投げ入れ水死させた「B」こと下村直樹―――
に、静かな憎悪と殺意を漏らし、最後にあることを告げる。

その告白の中で、彼女は暗に、愛美の父親が熱血教師桜宮正義本人であり、彼がエイズのウイルス、HIVのキャリアと発覚し結婚を取り止めたことを言っていた。

たとえ彼らが警察に捕まったとしても、少年法により罪は軽く、作文さえ書けば表向きの反省だけで社会復帰できるし、
過去の罪を輝かしい経歴でなかったことにしてしまうだろう。
ならば自分で、犯した罪の重さ、命の大切さをわからせてあげなければ。


「私は二人の牛乳に今朝採取したての血液を混入しました。」
「二人がいい子になるように、そんな願いをこめて世直しやんちゃ先生、桜宮正義先生の爪の垢ならぬ血液をこっそりいただいてきました。」


そんな衝撃的な一言だけを告げ、かつての恋人の最期を看取るまで穏やかに過ごしていきたいと言い、
彼らを突放すようにして彼女は去っていった。




「これで、終わります。」






それからというもの、持ち上がりで進学したB組内の状況は凄惨たるものだった。
HRの後、クラス内には「B組内の告白を外に漏らしたヤツは少年Cとみなす」という脅迫メールが行きかって空気は最悪なものに。
新しく赴任した担任のウェルテルこと寺田良輝は無駄に気合の入った熱血教師で、空回った情熱でクラスの雰囲気を引っ掻き回し、
その結果、復讐後も引き続き学校に通い続けた渡辺に対する「制裁」と称したいじめが続発。
事態に気付いたウェルテルが的外れな演説で煽ったせいで、唯一いじめに参加していなかった委員長の北原美月にまで飛び火が加わってしまった。

一方で制裁を恐れた実行犯の下村は家に引き籠って自らは不潔症の上に周りに対しては潔癖症という荒んだ生活を送り、
そこへ良かれと思ったウェルテルが毎週ノートを届けに家庭訪問を繰り返し、
そのせいでかえって下村を追い詰め過保護な母親も心身ともに衰弱していってしまう。
ついには「目が覚めたところを故意に投げ捨てた」という下村の告白を受け母親が無理心中を決め込み、結果息子に殺し返されてしまうという
最悪な結果を招く。

そして、HIVであることを逆手にとっていじめに湧く生徒達を黙らせた渡辺は、同じ孤独を共有する美月と急速に接近していくが、
ある口論が発端で逆上した彼が美月を惨殺という悲惨なものとなった。

この時、美月は薬品検査で二人の牛乳に血液反応が出なかったことから、あの告白は嘘で彼女には復讐する気持ちなどなかったのでは?
という結論に至っている。

だとすれば、よもや自分の告白が原因でこんな悲惨な結果になろうとは、夢にも思わなかったのだろう。

そして二学期の始業式―――

















修ちゃん、ママよ。―――とでも想像していましたか?
残念ながら、ママではありません。森口です。









大勢の人間を巻き添えにして死ぬために体育館に爆弾を仕掛けた渡辺の元にかかってきた電話は森口からであった。
そこで彼女は全ての種明かしをする。

すべて彼女が仕組んでいたことだったと。

クラスの中で告白をしたのは倫理感に乏しく最も殺人犯に対し残酷な仕打ち(=いじめ)を与えるだろう13歳の子供達の中に二人を放り込み苦しめるため。
牛乳に血が入っていなかったのは夫・桜宮がすり替え、彼らの更生を説いたため。
(映画版では、森口が牛乳に血を入れようとしてるところを桜宮が阻止している)
ウェルテルは桜宮の元教え子で、その縁で頻繁に彼にアドバイスしていたのも森口。
いじめが助長するように仕向け、引きこもりの下村を追い詰めるように仕向けていたのも彼女の入り知恵であった。

つまり、彼女は表向きには舞台を降りていながらも裏で復讐劇のすべてを操り、夫の教え子も、自分の生徒でさえも手駒にして
憎い元教え子を追い詰めていったのである。
その復讐心は強固たるものであった。

また、最初の告白でも犯罪を犯す未成年を徹底的に馬鹿にする発言をしており某児童殺傷事件を「普通の名前に調子に乗った当て字をしている」とかなり下に見たような
発言をやらかしており母親会いたさに有名になって犯罪を犯したという渡辺にも「馬鹿ですか?」と痛烈な批判をぶちまけている。
このように、甘えた子供に対しては執拗なまでに毒舌。下村にも「やればできるのではなくやることができない」と残酷な正論をぶつけている。

彼女のスタンスとしては娘>>>>>(越えられない壁)>>>>>>生徒であり、また愛する娘よりも彼女を殺した生徒の更生を優先した桜宮を憎んでいるあたり、
ここまでくるともはや盲目と言えるかもしれない。
その考えは言葉の端々にも見えており、他人を巻き込むことを批判しておきながら自分は復讐のために大勢の人間を手駒にし、利用し、時には巻き込んでいることからも
エゴイストとしての側面も見せている。
このことは、「美月がいじめに巻き込まれたせいで渡辺くんに殺されることになったのは心苦しいが、殺したのはあなた(=渡辺)なので、私のせいではない」
という台詞からも明らか。

実際、精神的に追い詰められた直樹が母親を殺害した事件で、父親は半分うつ病になってしまい、
妊娠していた長女も弟の起こした事件のショックが原因で流産しかかっている。
さらに母親を殺害した直樹も精神崩壊を起こし、自分が何者かが分からなくなってしまった。
…正直、彼女の復讐に巻き込まれた下村家の次女は、訴えてもいいと思う。


そして、渡辺には最後にこう付け加えている。
彼が会いたくてたまらなかった人物に一度会いに行き、そこ=大学の電子工学科棟第三研究室へ爆弾を設定し直してきたと。



「ねえ、渡辺くん。これが本当の復讐であり、あなたの更生の第一歩だとは思いませんか?」


…彼女の復讐は完遂したのである。



舐めきった少年犯罪者を一切甘やかさず彼らの矛盾を論破し、断罪するという劇中のスタンスから、支持されることも少なくない
彼女であるが、やはり客観的に見たら知略に富み他人を利用する修羅であり、吐き気を催す邪悪であることには変わりはないかもしれない。


【実写映画版】
実写では、後年にディズニー映画「アナと雪の女王」でエルザ役を担当する松たか子が演じていた。
終始淡々とした口調で内面が掴みにくい森口を忠実に演じていたが、
映画オリジナルのシーンで突如笑い出したり号泣し、慟哭した後「馬鹿馬鹿しい…」と涙を引いて何事もなく歩き出すという、
原作とは違い感情を露にするシーンも存在する。
なお、牛乳に血を入れるのは寸前で桜宮に止められており、子供がHIVに対し浅い知識しか持ち合わせていないことを逆手にとって
「血を入れた」とブラフを言い、信じ込ませたという筋書きに変更。
また、それなりに生徒から慕われていた原作とは違い、映画ではクラス内はバカ騒ぎし放題、無断外出によるいじめ行為など、学級崩壊の様をなしており、
教師としてもいいものではなかったようだ。
最後のセリフで渡辺の口癖を模したような言葉を呟いており、物議を醸している。




追記・修正は復讐の是非を考えてお願いします。


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最終更新:2024年01月02日 21:56