漂流教室

登録日:2014/08/14 Thu 21:26:37
更新日:2024/01/19 Fri 21:56:03
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おかあさん……

ぼくの一生のうちで、二度と忘れることのできない
あの信じられない一瞬を思う時、
どうしても、それまでのちょっとしたできごとの数々が
強い意味をもって浮かびあがってくるのです。

漂流教室とは、楳図かずおのホラー漫画作品。

1972年~1974年に週刊少年サンデーで連載された。

小学生たちが荒廃した未来にタイムスリップし、そこで生き抜いていくというストーリー。
『十五少年漂流記』に代表される、子供だけの孤島漂着ものといえるが、
凄惨な仲間割れの描写は、ウィリアム・ゴールディングの小説『蠅の王』を思わせる。

後述のストーリーの通り、衝撃的な描写が多い。

映画化(日本製作版と日米合作版の2作品)、フジテレビ系列でテレビドラマ化もされているが、
舞台設定を大幅に変更したり(たいてい原作の「小学校」を「高校」に変えている)、ヤバイ描写を極力カットするなどしているため、
原作に忠実な形での映像化は実現していない(もっとも、それは描写的に不可能である可能性が高いが)。

ちなみに日本製作版の映画は、原作ファン・原作未読の映画視聴者双方から大不評であり、
作者の楳図先生も出来を良く思っておらず、見たのは試写会一回きりであるとのこと。
(監督は青春ドラマの大御所大林宣彦なのだが、大林本人も自著ではっきりと失敗作扱いしている)

〇あらすじ
大和小学校の6年生・高松翔がいつもの通り学校に登校し、皆と一緒に授業を受けていると、突然大地震が発生した。
揺れが収まり、外の様子を見てみると、学校の敷地外が全て岩と砂漠だらけの荒廃した世界になってしまっていた…。

教師は「核ミサイルで世界中が崩壊し、放射能に汚染されたのでは?」といった推測によって怯え、
給食業者の関谷は給食室及び全員分の給食を一時占拠するなど混乱に陥る。
次の日の朝、その日起きるはずの無い皆既日食が発生。
その狂った現象を見て校長は発狂し、他にも現実を認められない教師の中に自殺者が出る始末。
そして翔の担任は殺人狂に変貌し、教師や生徒を次々と手に掛けていった。

そんな中、翔は大和小学校の教師・児童の慰霊碑が砂の中に埋もれているのを発見。
今いるのが未来の世界だという確信を持つ。

その後も様々な問題が翔たちに襲いかかる。果たして翔たちの運命やいかに…

〇解説
「どうやって生活していくか」に始まる内部対立は勿論、
現実を認められず狂乱した大人の暴走、ある一児童の妄想発現による昆虫型の怪物の発生、
ペストの発生、未来世界で闊歩する未来人類や未知の生物による襲撃、そして食糧問題・人肉食に至るまで、ありとあらゆる問題が起こるなど、
パニック映画的な様相を呈している。

しかも物語の最初から最後までを計算すると約三週間でしかなく、非常に濃密な日々である。

ちなみに某ファンサイト(現在は閉鎖)の推計によると、未来に漂流した862人(+2人〈ユウちゃん・馬内〉)のうち、
最後まで生き残ったのは367人、死亡者は525人、現代帰還が2人。
書籍「楳図かずお『漂流教室』異次元への旅」では、最終巻のある描写から、最後まで生き残った生徒は95人(ユウちゃん含)とカウントしている。


〇登場人物
【未来世界】
  • 高松翔
主人公。6年3組児童。悪戯好きで元気な少年。
学校の成績はあまり良くないが、恐らく勉強に興味を持たないだけで、知識・判断力はかなり優れている。
漂流直後から現状をいちはやく理解し、リーダーシップを発揮して皆をまとめあげ、後に「大和小学校国総理大臣」となる。

  • 大友
6年3組のクラス委員長の男子。下の名前は不明(小説版では「正雄」)。
成績優秀で、結構イケメン。「大和小学校国厚生大臣」となり、翔に次いでNo.2的なポジションとなる。
冷静かつ合理的に行動するが、時々感情論に走り、助かる見込みの薄い者を容赦なく見捨てたり、邪魔者を排除したりする。
後に、それらの考え方の相違や感情的な対立から翔と訣別し、別グループを結成する。
実は咲子に好意を寄せており、それも翔と訣別する一因となった。また最後まで母親に想われていた翔とは違い、彼はいともあっさりと母親から見捨てられてしまった。

  • 川田咲子
6年3組の女子。翔の幼馴染のポニーテール少女。通称「咲っぺ」。男勝りな性格。
翔に好意を抱いており、常に翔についてまわる。
翔が不在の時や病気の際は代わりに皆を指揮した。

  • 西あゆみ
5年生の女子。物静かな美少女で、脊髄を痛めたため足が悪く松葉杖を常用している。
そのために皆からのけ者にされており、日頃から空想に浸っていた。
そのためか、彼女を通じて、現代にいる翔の母・恵美子と交信をする超能力が身についており、
それがたびたび翔たちを救う事となった。

  • 小野田勇一
3歳児。通称「ユウちゃん」。
学校が未来に飛ぶ前日に翔と出会って遊び、
翌日も遊ぶ約束をしたため小学校に来て遊んでおり、そのため漂流に巻き込まれた。
ただし、その事実が確認されなかったためか、
慰霊碑には名前が記されておらず、学校消滅とは無関係の「行方不明」扱いになった模様。
年相応にわがままでよく泣く面が見られたが、未来で生活するうちにだんだんと成長していく。

  • 池垣
6年3組の男子。下の名前は不明(小説版では「純二」)。
勇敢な性格で、「大和小学校国防衛大臣」に任命される。物語前半で怪虫に果敢に戦いを挑むが、無残なを遂げた。

  • 我猛
5年生の男子。下の名前は不明(小説版では「一平」)。
10円ハゲに鼻水を垂らしている姿からはとても想像できないが、IQ230の天才児。
「大和小学校国文部大臣」として翔に協力。

  • 大月
6年生の男子。
「大和小学校国」で大臣の一人となる(担当は不明)。
関谷に未来のキノコを無理矢理食わされ、性格が変貌し、容貌も未来人類と化してしまう。

  • 柴田
6年生の男子。
「大和小学校国建設大臣」となる。もっぱら翔と大友の仲裁役であった。
未来人類に殺害された。

  • 石田
6年生の男子。
「大和小学校国食料大臣」となる。
非常に影が薄く、台詞も極めて少ない。名前が判明したのも死ぬ直前。
翔を狙って大友が倒した鉄製の看板の下敷きになり死亡。

  • 関谷久作
パン屋兼学校給食の納入業者。38歳。給食を卸しに来たところ、漂流に巻き込まれた。
漂流前は優しい人物だったというが、漂流後は残忍な性格に一変*1し、
「給食代はまだ貰ってない」と言って全員分の給食と共に給食室を占拠したり、
生徒を暴力で支配して「関谷さま」と呼ばせたり、未来生物に対しては生徒を特攻隊に仕立て上げたり、
といったように自らの欲望のみで動く危険な存在と化し、最後まで翔たちの足を引っ張り続ける。
なお、「学校が未来に飛んだ」ということは信じようとせず、外の世界は「荒廃した現代」と思っており、
「そのうちアメリカ軍が助けに来てくれる」という幻想を抱いている。

  • 若原
6年3組担任教師。最初はリーダーシップを発揮し、生徒をまとめあげる良い教師だった。
しかし皆既日食の件から狂い始めて殺人狂と化し、教師や生徒を次々と殺害していくようになってしまった。
最終的には翔を襲うが、返り討ちにあって高層ホテル跡の窓の跡から転落して行方不明(恐らく死亡)。


〇怪物
  • 怪虫
突如として出現した巨大な虫。
ゲジゲジがそのまま巨大化したような姿をしていて、更に一対のハサミを持っている。
物理攻撃も劇薬による攻撃もまるで通用せず、大勢の子供達を虐殺した。
その正体は仲田の恐怖のイメージが実体化したもの。
仲田のイメージがある限り消すことはできない。
攻撃が通用しなかったのもそのためで、無意識のうちに怪虫を実体化させている仲田は大量の食べ物を必要としている。
目の前で仲田が殺されそうになったために消滅した(実際はふりだけ)。

  • 怪虫の幼虫
怪虫の卵から誕生した幼虫で、おびただしい数が孵化した。
エネルギー源が仲田の精神から人間に変わっており、生徒に襲いかかってあっという間に食い尽くしてしまう。
とは言え仲田の想像の産物であることに違いはなく、仲田が自害したことで残らず消滅した。

  • 未来人類
未来世界の支配者的存在。
四足歩行をし、クモとトカゲを合わせたような形態をしている。背中に目が一つあり、指は三本で鉤爪が生えている。
テレパシー能力があり、思ったことは言わなくても他の個体に伝わり、死亡した際には他の者が必要な部分だけ記憶を受け継ぐ。
口から糸を吐いて捕らえるなど怪物じみているが、その知能は非常に高い。
実は人類が癌の治療薬により突然変異して生まれたものが独自の進化を遂げたもの。

  • 未来オニヒトデ
人間大まで巨大化したヒトデ。その体には汚染物質が蓄積されていて焼くだけで有害な煙を発する。

これ以外にも目が複数あるアメーバのような怪物が登場しており、校庭で盛大に争い、食い合っていた。

  • 巨大怪物
口を開いた直径が数メートルはある怪物。
だがこれは怪物の口の部分に過ぎず、長い管が続いている先の本体がどのようになっているか想像もできない。
校庭で争っていた未来人類や怪物達を匂い物質でおびき寄せ、まとめて飲み込んでしまった。

【現代】
  • 高松恵美子
翔の母。漂流日の朝に翔とささいなことで喧嘩し、
「もう二度と帰ってきてほしくない」などと放言したが、学校消滅後は翔のことを一心に心配。
(西の能力により)翔の声が聞こえたことから、翔の生存および未来世界にいることを理解し、
翔を助けようと、(半ば暴走気味に)様々な行動(※明らかな犯罪行為を含む)に走る。

  • 翔の父
名前不明(小説版では「高松俊男」)。
良識のある人物で、常軌を逸した行動をとる妻をたびたび抑えていた。
しかし内心は妻同様に翔のことを心配しており、途中から妻の(危ない)行動にも密かに手を貸すようになる。

  • 山田信一
6年3組児童。
翔の友達で、漂流の日も一緒に登校していたが、
途中で給食費を忘れたことに気付き、家まで取りに戻ったため現代に留まることができた。
その後は、恵美子の(常軌を逸したように思える)発言を信じ、協力者となる。

  • 馬内守也
漂流当日、小学校に侵入して教師の給料を盗んだ窃盗犯。
逃げようとして塀を乗り越えていた辺りで「地震」が発生し、共犯の男は死亡し、自身は右腕と右顔面のみが未来へ飛ぶ。
何故か右側が欠けた顔面がテレビで放送されている。現実ならばグロさの点から言って放送事故ものなのだが…。
拳銃を所持していて校内で落としたようで、物語冒頭の関谷の事件でそれが使用され、より事件が凄惨になった。

  • 東山久司
小説版オリジナルキャラクター。
権威ある研究家で大和小学校の消失事件を独自に調査していた所で恵美子に出会い、何かと助太刀する。
彼の存在は終盤の超展開の大半をフォローすることとなる。






以下、ネタバレに注意。








  • 高松翔
「僕たちは何かの手により未来にまかれた種なんだ!」と宣言し、未来で生きていく事を決意する。

  • 大友
実は学校が未来に飛んだのはこいつの行動が一因。
自我を殺して優等生であることを義務とされていたが、そのストレスが頂点に達した結果、
「学校が無くなってしまえばいい」と思い、ダイナマイトを職員室に仕掛けた。
その爆発が、学校をタイムスリップさせる契機となった。
最終的には全てを自白し、翔とも和解。更に咲子にも告白した。

……ただ、少なくとも作中で2人を(自らの意思で)殺害しており、その2人のことを思うと……。


  • 小野田勇一
生き残った児童の尽力により、ただ一人現代へ帰還。翔の日記を恵美子に渡した。
「きっとこんな(荒れ果てた)世界にならないようにする!」という強い思いを抱いており、
精神年齢は3歳よりもはるか上まで成長した。

  • 関谷久作
生徒を暴力で支配した末に、ほとんどの食糧を持って一人で逃亡。
終盤になって学校に帰ってくるが、未だに未来世界だということを理解していなかった。
ただ、信じていない割にユウちゃんの現代帰還を邪魔しようとした。
しかし、馬内の右手により目を潰され、ナイフで応戦するも、
次は首を絞められた上に地面に頭を打ちつけられ、動かなくなった(死亡したかどうかは不明確)。

  • 高松恵美子
彼女の尽力が、アメリカの科学者の耳に届き、
未来世界を目標とした食料やその他物資満載の無人ロケットを打ち上げることにつながり、それが未来の翔たちを救うこととなる。

  • 馬内守也
腕と顔面は元の世界に戻ろうとユウちゃんのランドセルに隠れており、邪魔をしようとした関谷に攻撃。
ナイフで刺されながらも関谷を倒し、その後無事に現実の世界の馬内に腕・顔面ともにくっついた。



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最終更新:2024年01月19日 21:56

*1 「今まで給食のおっさんと散々バカにしやがって(勿論生徒達は愛称として呼んでいたのであってバカにする意図はなかった)」と喚いていたところからすると、恐らくこちらが本性だと思われる。また学校に古米を売りつけようとするなど、勤務態度自体もそこまで褒められたものではなかった様子。